[ミッションログ 5日目]
今日は倉庫に残っていた物資の中からレーションを新しい住処へと持ってきた。レーションは幸いな事に艦娘用と、グループレーションがあった。
艦娘用レーションと聞くと、銃後の一般市民は「ボーキサイトや鋼材をそのまま食べてる」なんてバカみたいな妄想をする事があるが、全然そんな事は無い。艦娘になったとは言え元々は市井のごくごく普通の人間、普通のメシを食べるに決まってるだろう。いや、空腹のあまりボーキサイトに手をつけようとしたバカは1人見たが。
と言うわけで艦娘用レーションはごく一般的なレーションとして作られている。強いて言うなら、海上での移動中に食べれるように「未開封ならパッケージが水に浮くこと」「複雑な食べ方をしなくてすむこと」「行軍しながら食べれること」の条件を満たすように作られている。簡易ヒーターが付属しているし、使いきりの調味料やスプーンなどの食器やガム等が入ったアクセサリーパケットも付いているなど、米軍のレーションであるMREを参考にしている。
味に関しては評価が割れている。
熊野は頑としてこれを飯とは認めず、間宮に弁当を作ってくれるように嘆願しては却下されて不満たらたらで食べていた。空母艦娘からは不評で、赤城は「間宮さんの所で食べる出来たての方が大好きです!」と言って認めなかった。その割には誰かがレーションを残すと決まって「食べないなら私が貰いましょう」と言ってレーションを無心していた。
一方で年がら年中遠征をしていてレーションの世話になっている駆逐隊は文句を言わなかったし、潜水艦たちにレーションをどう思うと尋ねたら死んだ魚のような目で「むしろ間宮でご飯を食べてる時の方が珍しいでち」と呟いていた。
私は肯定的な評価をしたい。
栄養素は行き届いているし保存性も良い。メニューもバリエーションがあるし、便利だし今までの軍隊生活においてこいつに助けられた事は何度もあった。糧食の良し悪しが士気や兵士の体調に影響するのだから美味い飯か機能的な飯でなければいけない。その点では艦娘用レーションは世界的に見ても傑作と言えるだろう。
何よりもMREみたいな家畜の餌に比べれば味は最高に決まっている。あれを演習の時に分けてくれたアイオワには比叡の愛情たっぷり手料理をしこたまご馳走してあげたい。ベジタリアンメニューを押し付けやがって、許さんぞアイオワ、絶対にだ。
レーションは段ボールで10箱ある。中身は全て艦娘用レーションで、1箱につき1日分が30個。つまり30日分が10個なので、ざっと300日分ある。1日分を2日に分けて切り詰めれば600日分は持つ計算になる。ダイエットするには悪くないな!
次にグループレーション。これは1艦隊用が10日分だ。1艦隊は6人分なのでこちらはざっと60日。艦娘用レーションと合わせて食い延ばさないで1年分だ。
これは長期の偵察遠征や、基地設備の無い孤島に拠点を置く際に使用される、艦隊6隻で1日分というレーションだ。大きくてかさばるので、通常は曳航したりして運ぶか、分散して持ち運んで持っていく事がほとんどだ。
基本的に調理される事が前提で、食材や簡単な調理器具や食器がセットになっている。ボリュームもとても多い。艦娘レーションよりかは重宝されるが、磯風が調理担当になった日には最悪の食卓になること必至だろうな。グループレーションは特別な日にでも作るとしよう。
しかしレーションだけ食べてもいずれは枯渇する日がくるだろう。
となると自給自足する方法を考えねばなるまい。幸いにもここは南方で、海に面している。海は我々にとっての戦場でもあるが、それと同時に食料庫でもある。海産資源を捕る――つまり釣りや漁で魚を捕ればいいだけの話だ。釣具に関してはアテがある。
基地の娯楽のひとつに釣りがある。埠頭には毎回、決まってヒマをもてあました整備員や艦娘が釣りをしていた。食えるものでも食えないものでも、スポーツフィッシングとして、そして貴重な食事用やギンバイ用として釣りをしていたのだ。前は「よくもまあじっと座って釣り糸垂らせるな」と、私は内心バカにしていたが、今の状況では彼らに倣うしかない。釣り道具と言えば、曙が立派なやつを持っていたはずだ。幸いにも彼女の部屋はA棟にあったので、釣り道具もまだ残っているはずだ。
農作も考えねばなるまい。この土地で何が収穫できるか、そして何が食えるかはまだ分からないが、いざとなった草でも食べて生活するしかないだろう。牟田口だって草食べろと言ってたしな。そこまで追い詰められたくはないが。
それから、足りない栄養分を取ること。幸いにも倉庫の医療用物資から、必要なサプリメント類を見つけたので、それを利用しよう。不足するビタミン類などはここから摂取すればいい。それすら尽きたら、今度は自然から取れるナチュラルな栄養素を取ればいい。
調味料の備蓄は壊滅的だが、唯一塩だけはアテがある。周囲は海なので、海水を取ってきて塩田を作り、そこから塩を得ればいい。
とはいえ、ここで流暢に飯を食べてその日暮らしを続けるだけでは意味がない。この基地をいずれ脱出し、生きて祖国の土を踏む事が最優先目標である。こんな所でよぼよぼのお婆ちゃんになるのはごめんこうむるし、何よりも深海棲艦にやられて死ぬなんていう惨めな結末は絶対に回避したい。仲間たちが戦線を奪還し、この海域を取り戻す日が来れば最高だが、それはいつになるか分からない。
でも酒があれば考えてしまうよな。美味い密造酒でも作れるようになったらここで生活してもいいような気がする。深海棲艦さえいなければ。