南方海域ひとりぼっち   作:Colonel.大佐

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更新遅れてしまって申し訳ない…


ログ 255日目

[ミッションログ 255日目]

 現在のマリアナ諸島攻略作戦についての詳報が大淀から送られてきた。

 硫黄島基地を拠点として、連日連夜の基地航空隊の爆撃、さらに艦娘部隊による攻撃により深海棲艦の防御網に“穴”が空いたという。舞鶴、呉、佐世保、横須賀の精鋭戦力による攻撃である。この効果は絶大であり、深海棲艦の本体はマリアナ諸島の沖合いまで押し戻されているという。

 偵察衛星の報告によれば、サイパン島には現在、集積地棲姫や飛行場姫が計8体観測されているようで、深海棲艦も必死になって南方海域を死守しようとしているようだ。基地航空隊がバラバラと爆弾を落としているが効果は薄いと言う。

 

 米軍からの技術と装備提供で、今後はB-17、B-24と言った基地航空隊用の大型爆撃機が投入されるという事なので頑張れば爆撃で片もつくだろうとアイオワはコメントしている。

 長門と酒匂とプリンツが恐怖失禁しそうなアレは投入しないんだろうな。あってたまるかという話ではあるが。それと「ベトナムでは北爆しても勝てなかった」もアイオワには禁句だろうなあ……

 

 一方で反対側、オーストラリア方面の作戦は芳しくないようだ。

 EU連合艦隊と米軍の豪州派遣艦隊、その戦力と装備は概ね充実しているが、彼女たちは正直ノウハウに欠しい。現場慣れし、古参兵である日本海軍に比べて艦娘運用もようやく実用段階へと漕ぎ着けた彼女たちには荷が重過ぎるという意見もある。

 かろうじて、ティルピッツを筆頭とする打撃艦隊が効果を挙げ、エセックスを中心とする機動部隊がよくやっているそうだが、それでも連戦で大破艦が続出。海軍基地は連日のように艦娘の入渠で大忙しだそうだ。

 

 さて、横須賀鎮守府にいる私の仲間は相当の戦果を挙げているようだ。

 長門と陸奥は相変わらず駆逐艦バスターなのか、やたら駆逐艦のキルスコアを伸ばしている。お前ら本郷中佐から「もう二度と駆逐艦を狙うな」って言われただろう。そんなに駆逐艦が好きか。敵味方見境なしか。

 一方で榛名は堅実に敵を撃破していて、ついに改二型艤装の配備を認められたそうで、司令部から手回しをしてもらっているそうだ。これはお祝いモノだろう。

 改二型は給与がよくなる。榛名もこれから色々と困らないだろう。ちなみに私も改二だが金が全然たまらない。何でだ、酒と減俸がいかんのか。

 

 妙高姉さんは相変わらず人に華を持たせるのが趣味なのか、今回の作戦ではアシストに回る場面が多いそうだ。羽黒はもう止まらず、キリングマシーンとなっているようで今回で姫クラスを2体屠る大戦果を挙げている他、敵戦艦を血祭りに上げている。やばい、そのうち階級で越される。

 

 望月はもっとわけがわからない。自分の大破と片腕を引き換えに潜水棲姫を1隻撃破したという。爆雷なしで浅瀬に浮上してきたのを捕まえて殺したらしく。近々この件で曹長に昇格するとの事だ。貴様らハッスルしすぎだろう。

 

 作戦に参加できないのが辛過ぎる。今頃ちゃんとした艤装があれば、戦えたかもしれないが……

 

 

 

撤退257日目 横須賀鎮守府

 横須賀鎮守府の司令棟の廊下を、1人の女性が歩いていた。

 艦娘とも、女性士官とも違う黒いパンツスーツ姿のその女性は、胸から身分証明となるIDカードを下げている。そのIDカードが、彼女がこの基地に入る事を許されている部外者であること、そして艦娘開発部の技術者、三樹原だという事を示していた。

 司令棟の一室――今では三樹原にとって見慣れた場所――に入る。本来なら艦隊指揮官の秘書艦控え室となっている部屋だ。

 ノックをすると、どうぞという言葉が返ってきた。

 ドアノブを回し、三樹原は中へと入った。部屋の中は複数の椅子と機械、そして書類棚と言った物であふれ返っていた。

 部屋の真ん中に置かれた机の前に座っているのは、横須賀鎮守府所属の工作艦娘――明石だった。ただし、いつもの艦娘用制服ではなく、海軍士官用制服を着用している。

 彼女の前には、開発部謹製の通信装置――艦娘艤装内蔵通信装置のスタンドアロン版――が置かれており、装置にはスピーカーとマイクが繋げられている。

 

「ああ、ちょっと待って。今三樹原さんが来たみたいだから」

 明石はマイクを通じて、通信装置の向こうにいる人物へと語りかけた。通信装置のマイクスイッチを切ると、明石はようやく三樹原を見た。

「もう繋がってるわ」

「ああ、助かる」

 三樹原はそう言うと、那智用艤装のマニュアルや設計図がぎっしりと詰まった鞄を机の上へと置いた。近場にあったパイプ椅子を引っ張り出すと、三樹原はようやく腰を下ろした。

「何か飲み物持ってくる?」

「コーヒーを頼む、いつもので」

「ちょっと待ってて」

 明石が部屋から出て行く。その後ろ姿を目で追いながら、三樹原は「いつもの」で通じるぐらいの仲になったかなと感慨深い気持ちになった。

 鞄から資料を取り出すと、三樹原は一旦深呼吸してから、マイクのスイッチを押し込んだ。

「三樹原だ、どうだ?」

 手身近な挨拶。

『ああ、また会えてうれしいぞ』

 通信機のスピーカーからは、那智の声が聞こえた。

 

 かれこれ半年以上、彼女は頻繁に横須賀鎮守府に顔を出している。

 海軍から「南方海域で孤立している重巡救出で技術的なサポートをしてほしい」という言葉が切欠で、開発部からアドバイザーという形で出向き続け、通信経由装置のサポート、そして失敗に終わった運貨筒改造脱出カプセル案などを担当した。

 脱出作戦失敗による責任を感じて、一度は辞退を考えたものの、那智の上官である本郷中佐、彼女らの同僚艦娘、更には横須賀の司令官からの要望もあり、こうして週に1度は横須賀鎮守府に顔を出し、那智と会話して艤装修復のアドバイザー担当となっている。

 もっとも、那智に関わる話が半分、もう半分は開発部の技術者という肩書きを見込んだ最新装備に纏わる雑務だった。元海軍で元艦娘、それでいて今は技術屋という三樹原は今の横須賀では引く手数多の貴重な存在として扱われている。

 もっとも、三樹原自身は、この件について積極的な姿勢をとり続けている。

 

 この日の艤装修理に関する説明とサポートは続いた。30分ほどの通信を終えて、ようやく今日1日で教えられるだけの修理方法を伝えた。

 すでに那智の艤装は、完璧とまでは行かないが、艤装の機能をほぼ取り戻している状態であり、現在はより細かい調整の段階へと入っている。三樹原の直接的なアドバイスも、じきに終わる予定だ。

「……よし、今日はここまでだ。続きはまた来週な」

『ああ、すまない。恩に着る』

 通信機のスピーカーから流れる那智の声を聞きながらも、三樹原の心は晴れない。

 三樹原は、那智を気丈な女だと思っている。少なくとも、ここまで危機的な状況に晒されている艦娘は知る限り初めてであるし、常人ならとっくに発狂しているような状況でも、毎日を楽しんで生活している。救出作戦が一度は断念された際も、彼女は悪態こそ吐けどジョークを飛ばして綺麗に水へ流した。それでも、彼女の救出を一度は諦めさせた自らの不手際に対する自責の念を、三樹原は心の片隅へ未だに持ち続けていた。

「それじゃ通信は終わりに――」

『待ってくれ、仲間たちが攻略作戦で不在なんだ。話相手が欲しい、少しくらいお喋りに付き合え。大淀は堅物すぎて話にならんし、明石はずっと飯の話ばかりしてくる』

「軍用回線だぞ?あんまり私語に使うと怒られるぞ」

 三樹原は呆れ気味に呟く。

『構わない、書いた始末書の数なら横須賀一だぞ』

「イレギュラーな那智だなあ……」

 思わず笑みがこぼれる。

 艦娘になると、性格や記憶が変わるという症状がある。大なり小なり様々な幅があるが、少なくとも三樹原が見た限りではここまでおかしな重巡・那智は見た事が無かった。

『そういえば前から話そうと思っていた事が……いや……しかし……』

 いきなり那智の声が歯切れ悪くなる。気になった三樹原は、思わず不安になった。

「何だ、気兼ねなく言ってくれてもいいぞ」

『そうか。万が一気が悪くなる事だったら、すぐにでも止めてくれていい』

 那智は慎重な前置きをした上で、こほんと咳払いをしてから答えた。

 

『シアトルへの輸送作戦に参加してなかったか?』

 

 コーヒーのマグカップを掴もうとした三樹原の手が止まった。

 言葉が詰まり、何も出てこなくなる。

『高雄型摩耶の艤装、しゃべり方、それに苗字。違ってたらすまないと思うが……』

「あ、ああ……その通りだが、どうして?」

 事実を言い当てられ、三樹原は困惑していたが、那智は意を決したように呟いた。

『その、もうとっくに知ってるかもしれないが……あの時の那智だ』

 あの時の、

 その言葉に、思わず三樹原は言葉を失った。

 困惑とフラッシュバック。乱れそうになる呼吸を何とか直そうとして、通信機のスイッチに思わず手をかけそうになる。すんでの思いでその指を止めると、震える口調を抑えて呟いた。

「……すまなかったな」

 三樹原は力なく呟いた。

『いや、いいんだ。私も悪かった。あの時はまだ無鉄砲な新米だったからな』

 那智も少し、ためらい気味になりながらも話を続けた。

『姉の件については、私も謝っておこうと』

 那智の言葉に、三樹原は忘れることの無い鮮烈な記憶を思い出していた。

 

 シアトル輸送作戦。

 かつて、アメリカへの艦娘建造技術橋渡しのために行われた無謀な作戦。輸送船2隻をアメリカ、シアトル港へ送るため、北方海域を横断するという前人未到の作戦であり、多数の戦死者と輸送船1隻沈没という損害を出しながらも、艦隊はアメリカへ艦娘の建造技術を送り届けた。

 三樹原は、艦娘としてその作戦に参加していた。

 彼女の実姉もまた、艦娘としてその作戦へと参加していた。高雄型重巡、愛宕。姉妹そろって同じ重巡シリーズの艤装適合を持った事で、当時は艦隊のちょっとした有名人であった。

 しかし、最後の1隻となった輸送船を護衛中、北方棲姫の攻撃を受ける最中、右舷で戦っていた愛宕に敵戦艦の砲撃が直撃した。

 そして、愛宕は北方海域に消え、戦死した。

 

 三樹原は鮮明に覚えている。

 右舷を任されていた艦娘は、愛宕と、他ならない重巡・那智だった。

 攻撃を乗り切った“摩耶”は、戦闘の終了後にそこでようやく姉の戦死を知った。彼女は取り乱し、そして、愛宕と共に戦っていた那智に向けて、心無い言葉を吐き、罵声を浴びせたのを覚えている。なぜ助けなかった、と。

 那智はただ黙り、そのまま作戦終了後に元の部隊へと帰還した。三樹原は、その一件の後に艤装適合能力を喪失し、ついに退役した。

 後ろめたさを覚えて、あの時の那智を突き止めようとしたが、戦闘のどさくさや那智型艤装貸与者の数が膨大であった事から、結局は掴めずじまいだった。

 そんな失意の矢先に、三樹原の元へ姉の遺品である手帳と手紙がかつての戦友を通して送られてきた。その手紙には手負いだった愛宕を守れなかった事に対する謝罪と、愛宕の最後について、そして最後に託されたその手帳を同封していた。

 

「……ああ、わかってるよ。あれ、送ってくれたの、あんただろう」

『そうだ。遅くなってすまなかった。部隊を特定するまで時間がかかったし、何より私の名前を出しても、いい顔はしないだろうと思ってな。多分あの時に渡そうとしたら殺されると思ってしまってな。あの“舞鶴の対空番長”なら絶対殺すだろうと……』

「殺すは余計だ」

 三樹原は力なく笑った。

「――私も若くて無鉄砲で馬鹿だった。随分と酷い事を言って、すまなかったな」

『なに、今回の件では私も助けられている。これでお互いに貸し借りなしって事にしよう』

 那智の明るい声に、三樹原はようやく、気持ちを落ち着かせた。

 

「それにしても……本当に数奇なもんだな」

『まあ、そうとも言うな。那智型艤装の適合者は多いからな、そのうちのホント一握りと、ここで会うとは』

 それに、と那智は付け加える。

『各鎮守府の那智で唯一、もっとも南方にいて、それでいて史上最も孤独に暮らしている那智だからな』

「そんなヤツと因果な関係だってのも、おかしなもんだな。もう艦娘辞めて技術屋になったってのに、もう会うことは無いかと思ってたよ」

 三樹原は笑ってから、楽しげに、それでいて険しい顔を浮かべてから答えた。

 

「生きて帰ったら一杯やろうぜ。絶対死ぬなよ」

『ああ。店潰すくらい飲もう。お代は全部アイオワに払わせよう』

 それから、2人はひとしきりに笑った。

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