南方海域ひとりぼっち   作:Colonel.大佐

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ログ 267日目

[ミッションログ 267日目]

 

 通信装置がご臨終した。

 

 大変な事なので二回言う、ご臨終した。

 

 通信機は死んだ、逝っている、あの世へ旅立った、通信装置は役目を終え天に召された、一巻の終わり、これは“元”通信機だ!

 

 いやいやいや笑い事じゃないぞ、本気でこれはマズい事になった。恐らく今までで一番のピンチかもしれない。

 話を一から説明しよう。

 

 まず、前日に艤装修復の件で三樹原と音声通信で会話をしていた。時間は50分ほどだったか、とにかくその時点で通信装置は生きていた。艤装の指令系統に問題ありという話があったので、会話後に一通りコアの部分を手直しし、通信装置も僅かに手直ししたのを覚えている。

 最近、データの中継に時間がかかるのとノイズが増えてきたので、手元のジャンクパーツから程度のよい通信機用パーツ(これを修理した時に出たもの)を選んで、パパッと分解して補修して戻して終わり、その日は横になって眠った……のだが、翌日起きて監視任務の報告をしようと思ったら、通信機がうんともすんとも言わなくなっていた。もう一度分解して試したが結果は同じだ。

 ノイズを拾ったりする程度でも良かったのだが、前と同じくマイクも何も拾わず、そればかりか通信機は沈黙を貫き通した。

 

 つまり、死んだ。

 

 作戦の定時報告もできないし、仲間と会話する事も、アイオワが送ってくれる今日の1曲すら聴けなくなってしまったのだ。

 迂闊だった、としか言いようがない。素人考えで、技術屋のバックアップがあるからこれで大丈夫だろうと思っていた自分を恥じている。修復バケツの中身に沈めれば大丈夫だろうと思ったが、どんな化学反応が起こるかわからないし開発部から直接「高速修復材の原液ぶっかけは艤装が大変な事になるから止めろ」と釘を刺されている。

 さっきから頭を抱えて悩んでいる。余計な事をしなければ……と後悔の念ばかりに駆られていたが、こうなったらやる事は1つだけしか無いだろう。

 通信回復の方法を考えるのだ。

 

 とりあえず明日から本気を出すので密造酒を一杯ひっかけてから寝よう。

 今日からしばらくは定時報告任務がないぐらいが救いか。もう明日は昼までずっと寝て過ごそう。

 

 

[ミッションログ 269日目]

 

 通信方法を考えていたが、最良の方法が思い浮かんだ。

 偵察衛星だ。

 

 大淀は偵察衛星の画像でこの基地の被害状況を偵察中、私の生存に気がついたという。決定的な証拠として、私が司令棟の脇に投げ捨てた艤装を写真で目視したのが切欠だったという。となれば、私に万が一何かあった際は真っ先に偵察衛星を使うはずだ。2日経っているし、そろそろ連絡がつかない件で偵察衛星が使用されるはずだ。

 

 となると文字か何かを書けばいいだけの話だ。よくグラウンドに白線を引く石灰は……無いな。棒材を用意するのもいいが、色が暗すぎるとダメだし、偵察衛星で目視できる大きさなら結構な量の棒が必要だ。

 

 うーん……となると、文字ではなくモールス信号で行くか。

 モールス信号は「・」と「-」でどうにかなる。そのへんの石と角材を持ってきてモールス信号を書けばいい。あとは偵察衛星でわかるように巨大な矢印でも作っておけばいいだろう。一方通信となるが、すくなくともメッセージはこれで送れるというわけだ。深海棲艦の偵察機対策も考慮すべきが悩むが、現状はこれくらいしか手段がない。

 

 しかし結局は一方通信。横須賀や米軍から通信が出来ないとなると意味がない。

 また仲間の声が聞けなくなるのは困るし、作戦の進行状況も把握できない。何よりもアイオワから曲を送ってもらえないのも困る。こうなったらやるしかないだろう。

 

 通信機を他の基地へ取りに行く。

 

 ああ、もうろんバカげた作戦だろう。あまりにも危険で、そして無謀な作戦だ。しかし、前よりは勝機はある。まず艤装が航行可能程度まで修復できたこと、次に基地内にある車両用燃料を使ってあと出撃1回分は賄えることだ。敵に出会えば死ぬかもしれないというハードコアな航行を強いられるがそれでもやらねばなるまい。

 

 少しでも生還率を上げるために、いくつか方法を考えてみた。

 まず、候補としては夜明けと夕方という二つの時間帯――敵艦の動きが一番鈍る時間帯のみ移動し、その間に立ち寄れる無人島へ立ち寄り、深海棲艦をやりすごす、この方法を繰り返して目的地まで向かう。

 

 もっとも、最寄の島が無い場合は何らかの偽装を施す必要がある。一番手っ取り早いのはブルーシートでもかぶって偵察機や深海棲艦の目をやり過ごすという方法だ。それでダメなら作ってワあそぼよろしくDIY技術を活用し、イ級のかぶりものでも作ってやり過ごすほか無い。

 

 近隣の第18哨戒基地、第78哨戒基地が最終的な目的地だ。規模はこちらの基地よりも小さいが、燃料弾薬がストックされていれば御の字だろう。以前に大淀が送ってくれたデータでは、どちらも設備自体は多少は生き残っている事だ。ただし、人の反応はない。この2つの基地は艦娘と基地要員の脱出に成功したか、あるいは脱出する前に皆殺しにされたかのどちらかしかない。

 前者は100キロ、後者は123キロという距離があるが、とにかくやるしかないだろう。

 

 母さん 娘は今、人生で最も危険な旅に出るつもりでいます。

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