南方海域ひとりぼっち   作:Colonel.大佐

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撤退270日目 横須賀鎮守府

撤退270日目 横須賀基地

 

 横須賀基地の一角、本郷中佐の執務室は重苦しい空気が漂っていた。

 数日前から途絶した那智との連絡。定時連絡が無くなった事に加え、さらに通信の反応すらなくなった事で、那智に何かしらのトラブルが発生した可能性がありと見て、調査が進められていた。偵察機も飛ばせないという状況下で、唯一の頼みは偵察衛星による写真偵察のみ。その偵察結果待ちまで、本郷中佐は待機していた。

 すでに部屋には、明石と技術者の三樹原、そして長門と妙高が待機している。

 初めこそは他愛の無い会話が続いていたが、大淀が偵察衛星の写真を受け取りに行ってから1時間、部屋は沈黙だけが支配している。

 

 本郷中佐が、壁掛け時計の針をじっと眺めながら沈黙する中。扉のドアがノックされた。

「入れ」

 本郷中佐が答えると、扉が開いた。

「失礼します」

 大淀が入室した途端に、全員の顔色が変わった。

 いち早く結果を知りたい全員の顔を見て、大淀は開口一番に結論を口にした。

「判明しました、那智さんはまだ生存しています」

 

 どっ、と安堵の色が全員の顔に浮かんだ。

 しかし、長門と本郷中佐はすぐに険しい顔を浮かべた。無事と言っても、まだ那智に何があったか詳しく知る必要があった。

「大淀、詳細を頼む」

「はい」

 大淀は本郷中佐の机に、持ってきた書類の束から数枚の衛星写真を取り出して広げる。全員が本郷中佐の机の周りに集まり、その写真を見た。

 半壊した司令棟の近く、そこには規則的に並べられた大きな石と木の棒が写っていた。

「何でしょうか」

 妙高が思わず声に出す。

 これがどう那智の生存に関係するのか、と長門が思った矢先に本郷中佐は素早くこれが何を示すのか気がついた。

 

「モールス信号か」

 本郷中佐は息を呑んだ。

 衛星写真に写った棒と石を見ながら、その内容を解析していく。

「ツウシンキ コショウ コレヨリ タビニデル ナチ……これだけか?」

「はい」

 本郷中佐の言葉に、大淀は頷いた。

「恐らく彼女は、最寄の基地へ向かうつもりです。恐らくは通信機の確保かと思われます」

「危険すぎる。海図はあるか?」

 本郷中佐の言葉を予め見透かしていたのか、大淀は素早く手持ちの資料の中から周辺海域の海図を取り出し、机の上へと素早く広げた。全員が、その海図に視線を落とした。大淀は海図に指を置き、位置を説明する。

「一番の近場は第18哨戒基地、第78哨戒基地ですが……」

「那智の艤装でそこまで出撃可能なのか?三樹原君」

 本郷中佐の言葉に、三樹原が頷く。

「機関部分は生き残っているので可能です。武装は単装砲1門のみしかないですが」

「周辺海域の敵の出没状況は?それほど強力な敵はいなかった筈だが……」

 本郷中佐の険しい声色に、大淀は意を決したように呟く。

「彼女の報告では、近隣海域は散発的に輸送艦隊が通る以外は、特に敵の目撃例はありません。考えられる障害としては、哨戒中の敵機による空襲か敵の潜水艦の二つです。おそらく、彼女の今の艤装では敵と遭遇すれば一たまりもありません」

「敵に会わない事を祈るしか無いか。両基地に那智の擬装があれば話は別か」

 いえ、と大淀は切り返した。

「残念ながらどちらの基地も妙高型重巡の艤装は保管されていません。また、どちらの基地も先の攻勢以来、連絡が繋がらず基地要員、ならびに艦娘ともに全滅したと考えられます。衛星写真を見る限りでは基地施設の被害は軽微でしたが、詳細な損害までは……」

「わかった。結論は、那智から通信が来るまで待機するしかないんだな」

「はい」

 大淀は言い切った。

 

 本郷中佐はため息を吐きながら椅子に腰を下ろした。

「我々は那智に何もしてやれない……あいつに「家でじっとしていろ」とさえ言えないのか……」

 その言葉に、執務室にいた全員が悲痛な面持ちを浮かべた。

 

 

 

[ミッションログ 270日目]

 

 うひゃー

 久々の海は気持ちいい!

 いつ敵艦に襲われるか分からない恐怖心を除けば!!

 とにかく、今の所は順調な滑り出しだ。艤装の速力はまだまだだが、コントロールに関しては申し分ない。完全なガラクタになっていたあの時と比べて、随分とマシな状態になった。

 それでも時折、主機がヨボヨボの爺さんの咳みたいな音を出す時があって恐ろしい。最悪の場合は止まるんじゃないか、という不安があるが、まあ大丈夫だろう。

 

 さて、今回の遠征に関しての計画はこうだ。

 

 最寄の第18哨戒基地へと向かう計画だが、第二目標である第78哨戒基地への到着は中止にする。燃料について色々と調べてみたが、今の所、こちらでまかなえる燃料分ではどう考えても23キロという近距離にあるとは言え不安がある、特に両基地の燃料庫が全滅していたら尚更だ。第78基地へは目標である「通信装置の確保」が成功しなかった時のみ行く事にする。基地設備が良かったらそっちで過ごす方法もあるが……

 

 基地までの道のりは長いが、幸いな事に小さな島が4つあった。島と言ってもわずかな木々が残るだけの小さな物が3つ、そこそこの大きさの島が1つだ、そこで休んでから、朝と夕方という時間帯のみ移動する。これだけだ。少なくとも長旅になっているがまだまだ大丈夫だと信じたい。

 今は道中の名前も知らないような島にてこれから就寝に入るところだ。半分ほど土を掘って、そこに寝袋を敷いて、さらに上から椰子の木の葉をかぶせて偽装している状態だ。

 

 道中が安全な旅だった、とは正直言えない。

 かなり遠距離だったとは言え、明らかに戦艦クラスの敵艦を含む艦隊と何回か鉢合わせしそうになり、急いで針路変更した事が2回あった。編成は6隻、方向はトラック方面だ。

 正面からぶつかっていたら、今頃ここで暢気にログなんか書いてるヒマは無かっただろう。

 

 とにかくレーションを腹に入れたら寝るようにしよう。

 今は正直不安だが、唯一気を紛らわせてくれるのは長門が置いて行ったアニソンぐらいだろう。

 おやすみ!




超久々の更新となって申し訳ありません。生きてます。
ここ1ヶ月以上色々ありました、モチベーションが上がらなくなったりネタが上がらなくなったり、イベント始まったけどあまりの難易度の心が折れたり、戦艦少女にドはまりしたりと色々ありましたが、ぼちぼち更新再開したいと思います。また亀更新になりそうですが……

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