サービス終了の知らせを知った気紛れか、なんとはなしに12年間ユグドラシルで使用していたアバターを見た。
それは♀キャラの人間アバターだ。黒髪を肩口で切り揃え、とても整った顔立ちの少女である。
纏う衣装は、黒の学生服を思わせる上着にプリッツスカート、上半身を覆う裏地が赤の外套に、軍帽を頭に乗せている。スカートの丈は非常に短いが、すらりとした足には太ももまで覆うようなハイソックスを身に着けているため、実は素肌の露出は殆ど無い。手にさえ白い手袋がはめられている。
このアバターの由来は、はてさてなんだったか。
ひっくり返すように記憶を辿れば、アバターを作る際に、参考資料をネットで漁っていたような覚えがある。名前も外装も、オリジナルで作るには自分のセンスに自信がなかったためだ。
確か侍みたいなビルドのキャラを作りたかったから、刀を持ったキャラクターの画像を探していたのだった。
その時に見つけ、気に入ったのがこの『あきつ丸』という存在だった。
元ネタはよく分からないが、見た目からして気に入ったし、あきつ丸という名前も侍みたいでイメージに合致していた。
もっとも大きな利点として、容姿に特徴的なものがないということもある。基本パターンの中で一番似通った外装を選択し、少し手直しするだけで『あきつ丸』に見えてくるというのは、クリエイトが苦手な自分にとって大きな救いだった。
もっとも今は侍ではなく、召喚師に転職しているのだが。
画面の中で彼女が手に持つ武器は、刀ではなく缶ジュースみたいな形の走馬灯。
召喚士をやろうと決めて、武器の素案がないかと一応元ネタを調べ直したところ、それっぽいネタがあると知り、奇妙な偶然に驚いたものである。
このキャラとも一ヶ月後にはお別れかと思うと、胸に突き刺さるものがある。
愛着もあるが、主にかけた時間や課金を思い出すと目を覆いたくなる。
キャラクターの横、名前と共に表示されている総プレイ時間には、1万時間を超える表示がある。
一つの事を極めるのに1万時間が必要と言われていることを鑑みるに、この時間をスキルアップにでも充てていれば今頃は現実で役立つ技能が熟練の域に達していただろう。
課金額もかなりの額に上るだろう。毎月5000円くらいは普通に課金していたし、どうしても欲しい物があった時は食費を削ってまで費用を捻出していたこともあった。流石に貯金や保険には手を出すことはなかったが、課金の分も貯金に回していたらと思うと総課金額を見るのが恐ろしかった。
己が人生の半分近くを費やしたゲームが終わると聞いて、胸中に押し寄せてくるのは虚しさだった。
「あー……どうせサービス終了だし、もうインするのやめるか」
と、その日は早めに就寝した。
しかし次の日、あきつ丸はユグドラシルの大地に降り立った。
なんだかんだいって、ユグドラシルは最高の暇つぶしだ。それはサービス終了が迫る今でも変わらなかった。
▼
「がっ、がぼがぼ……」
あきつ丸は膨大な量による水によって溺れる、という体験を始めてした。
自然は汚染され、人体に害のない水は貴重な今、シャワーを浴びる事すらかなりの贅沢なのだ。
溺れるどころか、これほどの量の水を見るのは、それなりに人間染みた暮らしを送れていたとはいえ富裕層でもないあきつ丸にとって初めてのことだった。
というか、意味が分からない。
サービス終了に立ち会おうと、夜遅くでありながらもユグドラシルにログインしていただけなのに。
なにがどうしてこんなことになっているのか。
僅かに残っていたフレンドたちとカウントダウンイベントに参加して、カウントがゼロになった時――気が付けばあきつ丸は空にいて、落ちていた。
どこまでも続く蒼穹の空に、まだらに漂う神秘的な形状ですらある雲。天高くに輝く太陽は、唯一あきつ丸も現実で目にしたことがあるものだったが、それさえもかつて見ていた太陽と比べて明らかに輝きが違っていた。
そして下には、海と呼ばれるものが広がっていた。遠くに岸は見えなかったので、海――でいいのだろう。透き通ったマリンブルーは風に揺れて波を立て、光を反射してキラキラと輝いていた。
突如として現れた、画像や動画でしか見たことのない幻想に目が奪われ、あきつ丸はそのまま海に落っこちた。
そして、今に至る。
(――おかしいだろ! いきなり転移したこともそうだけど、何がおかしいって五感があることがおかしい! めっちゃ冷たいし水の感触があるし水がおいしいんだが!?)
というかこれ湖かよ、とどうでもいいことに突っ込みを入れる。
普通は溺れていれば冗談を言う余裕なんてなくなっているだろうが、あきつ丸には余裕があった。
不思議と苦しくないのだ。最初は驚いて水を大量に飲んでしまったが、落ち着いて息を止めれば全く苦しくない。苦しいと思ったのは水が器官に入って咽ていただけだった。
まあ泳げないのでどんどん水底に沈んで行っているのだが、もはや焦る必要もない。
どうやら感覚がバグっているようだが、ここはゲーム内であるとあきつ丸は確信した。
もしくは夢だ。どちらにせよ、こんな現象が現実で起きているもののわけがない。
明日も仕事があるのだ、こんなバグに付きあっていられない。さっさとログアウトしよう。コンソールを開こうと手を動かすが、何の反応もない。何度か試すが変化なし。
音声認識でのログアウトや、GMコールも試してみるが音沙汰なし。
どうやら自力でこの状況をどうにかするのは不可能らしい。
(まじか……勘弁してくれよ)
あきつ丸は天を仰いだ。
さっさと解放されたり、逆に1日ぐらい閉じ込められて言い訳を完備して仕事を休めるのはいい。
更に長いこと拘束されれば、訴訟戦士になって賠償を得る必要があるが、まあなんとかなる。最悪なのは数時間で解放されて保障も雀の涙で、睡眠時間なしで会社にいかされることだ。想像しただけで踏んだり蹴ったりである。
(……仕方ない。運営がなんとかするまではこの状況を楽しむしかないな。じゃなきゃ損だ)
まずは湖から出ようとあきつ丸は考えた。
装備の効果で大半の状態異常に耐性を有しているとはいえ、完全耐性となっているものは少ない。優先順位があまり高くない溺死も耐性止まりで、さっさと息継ぎをしなければ本気で溺れかねなかった。
あきつ丸は手足をばたつかせ、水面に上がろうとした。しかし何故か体は反対方向へと進む。泳ぎ方を知らないとはいえ、水中行動耐性のおかげで、衣類を着て水に沈んでいるとは思えない程スムーズに動けるというのにこの体たらく。
誰も見ていないとはいえ、謎の気恥ずかしさを感じてムキになるが、気が付けば足が水底についていた。
ばたつかせていた両腕を、あきつ丸は何事もなかったかのように定位置に戻した。
なんとなく軍帽片手で抑え、水面に向かって跳躍。
水中とは思えない軽やかさで跳ねるものの、水面には今一歩届かず。手足で水をかいて届かせようとするが、逆に水底へと一直線に下がってしまう。
水面までは、30メートルほどといったところだろうか。
Lv100とはいえ、後衛魔法職並みの身体能力では厳しかったようだ。
しかしあきつ丸は召喚士だ。自力で無理なら状況にあったモンスターを召喚すればいい。
(水中といえば、あいつだな。……で、ユーザー・インターフェースも無しにどうやってスキルを使うんだ?)
そんな疑問はすぐに消えた。
なぜなら召喚スキルを使いたいと思った瞬間、その使用法やら冷却時間などが手に取るように理解できたからだ。
感じたことのない感覚には戸惑ったものの、こんな状況だから何があってもおかしくない、とあきつ丸は特に気にすることなくスキルを使った。
(『モンスター召喚:リヴァイアサン』)
瞬間、なんのエフェクトもなく、あきつ丸の至近に巨体が出現した。
至近からでは全貌を把握できない程の巨体は、海よりも深い青色の鱗に覆われている。ぱっと見は東洋の龍のような印象を受けるが、よく見ればかなり水棲生物に近い特徴をそこかしこに持っているというのが分かるだろう。いわば水中に適応した龍といったところだろうか。そんな怪物――リヴァイアサンが、人間の頭部ほどもある大きな赤い瞳を光らせて、あきつ丸を見やり、そして傅くように頭部を水底へと押し付けた。
「お呼びでしょうか、我が主」
海の中に響く、優しげな印象を感じさせる女性の声。
それが目の前のリヴァイアサンによるものだと、あきつ丸は気付くのが遅れた。
(しゃ、喋った……?! NPCが? ペットが?)
あきつ丸は頭を水底の擦りつけたままのリヴァイアサンをまじまじと見つめた。
このモーションも意味不明である。こんな機能は元からついていないし、あきつ丸がAIを自作できるわけもない。
あり得ない事の連続――あきつ丸は、そろそろ事態の異様さから目を逸らせなくなってきていた。
(まさか、これって――うぐっ!?)
突如として発生した息苦しさに、あきつ丸は口から盛大に気泡を漏らした。
長く水中に潜りすぎたことにより、耐性ではカバーが追い付かなくなったのだろう。
酸素が欲しい。新鮮な息を欲して口を空ければ、入ってくるのは水ばかり。苦しい……!
唐突に、あきつ丸は死をすぐ傍に感じることになった。
「あきつ丸様!?」
主従の繋がりから主の異変を察知したリヴァイアサンが、慌てたように――それでも可能な限り優しげな手つきで――触手のようなヒレであきつ丸を抱えると、全速力で水面へと駆け上がった。
爆雷が投下された。そう思させるほどの水しぶきが穏やかな水面に発生し、海の怪物が姿を見せる。
「ご無事ですか!? あきつ丸様!?」
「ごほっ、げほ、おえ!」
咳き込んで水を吐き出す主の姿にリヴァイアサンは可愛そうなぐらい慌てた様子だったが、しばらくして落ち着いたあきつ丸が無事を示すように片手を上げると静かになった。
「はぁ、はぁ……。助かったよ。危うく死ぬところだった」
「いえ、申し訳ありません。私の行動は遅すぎました。あきつ丸様を苦しませるどころか、死の危険にまで晒してしまうなんて……。ペット失格です。この失態はあきつ丸様を陸地までお送りした後、命を持って償わせて頂きます」
「は……?」
あきつ丸は顔を上げ、リヴァイアサンの顔を見た。
水棲生物の表情なんてまったく分からない。だがその言葉には悲壮な覚悟か籠っているように感じられた。
ゲームだったら死なれたところで相応の冷却時間を経て復活するので問題ないが、このよくわからん状況で死なれるのはまずい気がした。リヴァイアサンは主力というわけではなく、そもそも普段は滅多に使わないような数合わせみたいなモンスターだが、それでも最高レアリティのモンスターでありLV100まで育てたペットである。早々に失っていい存在では決してない。
「お、落ち着け。お前のミスじゃない」
「しかし……」
「いいから! それよりもここが何処だか分かるか?」
「……申し訳ありません。分かりません」
まあそうだろうな、とあきつ丸は思った。
プレイヤーが分からないことをペットが知っていたら怖い。
しかしこの受け答えの違和感の無さ。先程溺れかけた時にも思ったが、もしかしてこれはゲーム内じゃない……?
まさか、と首を振る。
ゲームが現実になるなんて、そんなフィクションみたいなことがあるわけない。
しかしこの状況はいったい。
思考がループしそうになり、ともかく現実かもしれないと想定して行動しようとあきつ丸は決めた。
「そういえば、さっき陸地に送るとか言ってたけど、どこに陸があるか分かるの?」
「は。あちらの方角に大きな壁があるように感じます。おそらくは大陸規模の陸地でしょう」
「すごいな、そんなことも分かるのか」
「『水中探信』のスキル効果でございます」
「スキル効果」ときたか。さっきも「ペット」と自分で言っていたし、こいつの自覚はどうなっているんだか。ゲーム時代の記憶があるのだろうか?
機械のような存在が自意識を持った時、思い浮かぶのは反逆だが、しかしその危険はなさそうだ。
自分とリヴァイアサンと間で感じる不可思議な繋がりは深く、それを通してリヴァイアサンの現在の状態や、感情などが読み取れる。色が濃すぎてどう形容していいのかわからないが、あきつ丸に関して並々ならぬ思い入れと、非常にいい印象を持っているのは間違いない。
これがペットの標準ならば、召喚士としての能力行使に支障はないだろう。
あきつ丸はリヴァイアサンの背で立ち上がると、青空を見上げて深呼吸した。
屋外だというのに大気汚染の欠片もない、新鮮な大気だ。
ここが現実だとしたら、それはそれでいいかもしれない。そう思った。
▼
あきつ丸の職業は
一口に
軍勢召喚型と、少数精鋭型だ。
軍勢型はその名の通り、軍勢と見紛うほどの大量のモンスターを召喚する。しかしその特性上、召喚できるモンスターは質より量なため、あまり強くない。それに加えて大量のモンスターが画面内にいると処理落ちの危険も高まる上に単純に邪魔くさいため、パーティーを組んでもらえず、実質ロマン職である。
少数精鋭型が召喚士の主流である。
同時に1~3体ほどのモンスターを召喚し、自分の代わりに戦わせるのだ。
召喚モンスターはNPCである都合上、どうしてもプレイヤーには敵わないが、強力なペットを複数育成所持した場合の召喚士の対応力は、驚嘆に値する。
少なくとも『ファイター』『メイジ』『タンク』『ヒーラー』『アーチャー』『スカウト』といった職業を収めた何でもできるマンのプレイヤーよりも、それらのロールに対応したペットを複数所持している召喚士のほうが、戦力としては非常に高い。
ペットを同時召喚可能な戦力はクラスレベル毎に決まっており、最大でもLv100までしか上がらない。
それ以上を召喚しようとしても強制的にその枠で収まるように弱体化されてしまうため、基本的には1体しか召喚しないのが普通である。
あきつ丸もその例に漏れず、『シンクロサモナー』という同時に1体しか召喚できないが、有用なスキルが揃っているクラスを取得していた。
ちなみにペットを入手する方法は、召喚士系のクラスを持っていると、倒したモンスターのレベルに応じたレアリティの『ペットの卵』が一定確率でドロップするようになる。孵化後は取引不可であり、そんなガチャで目当てのモンスターを引き当てるのだ。
最高レアリティの卵は、Lv101以上のモンスターからのドロップ――つまり最上位MAPでのボス級以上――であり、基礎ドロップ率は5%ほどとなる。最高位の召喚モンスターですら100種類以上あり、性格も含めたお目当てのペットを厳選するのは相当な時間と運が必要となる。
テイミングする方法もあるが、どちらも苦行であることは変わらない。
ペットにはレベルやスキル、装備品といった概念があり、いわば外に連れ出せる拠点NPCと考えても支障はない。要課金であるが、元のペットを元に外装も変更でき、(目当てのペットさえ手に入れば)その自由度の高さは素晴らしい。
素のステータスやスキルが強力で、アイテムを装備できない異形種モンスターは初心者向けで、上級者は装備品を着用できる人型ペットに聖遺物級以上で揃えるという。廃人は全てのペットを全身神器級で揃えるというが、流石にそれは都市伝説だろう。
長らくユグドラシルを続けているあきつ丸ですら、神器級は自身の装備も含めて5セットしか用意できていないのだから。
シンクロサモナーの所持可能な召喚モンスターの数は12体。
全身を神器級に身を包んだ主力は4体。武器だけ神器級で他は伝説級の準主力が5体。移動用が1体。数合わせが2体。
手持ちに入れている以上、当然のように限界まで強化してあるものの、アイテムを装備できないリヴァイアサンは、あきつ丸にとっては数合わせの1体に過ぎなかった。
風を切り裂いて大空を往く。
大陸が見えたあたりで移動用のペットである『ライトイヤー・ドレイク』に乗り換え、一際目立つ山脈を目印に空を進んでいた。
ライトイヤー・ドレイクは、プレイヤーが所持できる移動手段として最も速いモンスターである。もっともユグドラシルの移動手段は転移が大正義のため、入手がそれなりに難しいこともあって乗り回している人はあまり見なかった。
『光』をイメージしたような眩い黄金の体躯は洗練され、スマートな体型もあって非常に優雅な印象を受ける。
数十秒に1度という羽ばたきの頻度であるが、その飛行速度は尋常ではない。具体的に何キロとかは分からないが、水平線の先に辛うじて見えていた場所へ、数えるほどの時間で到着してしまえるのだから。ゲーム内の設定通りなら確か最高速度はマッハ11だったか。乗り心地はかなり良い。風は殆ど感じず、羽ばたきの際に少し揺れる程度で上下動は殆ど無い。
とりあえずの目的地と言われた山脈の上空に着いたためか、ライトイヤー・ドレイクはその場で旋回を始めた。そして翼の付け根あたりに座るあきつ丸を振り返るべく首を曲げる。
「この後はいかがなさいますか、あきつ丸様」
「んー、適当に飛んでみてくれ。人里を見つけるのが当面の目的だ」
「はっ、承知しました」
首だけで恭しく礼をすると、ライトイヤー・ドレイクは身を翻して山脈を離れるように飛行した。
数秒後、ライトイヤー・ドレイクは首だけで振り返った。
「都市らしきものを発見しました。いかがなさいましょう」
(早っ)
どうやらこの辺はどこかの文明圏だったらしい。それにしてもこの発見の速度には驚きを隠せない。
「そ、そうだな。とりあえず見てみたい。その都市らしきものはどこだ?」
「あちらです」
あきつ丸が見やすいようにか、都市があるらしい方向へ少し体を傾け、翼で指し示す。
その先を見やれば、確かに自然のものではなさそうな空間が見える。それが都市かどうかは分からない。視力では完璧に負けていた。
「とりあえず……そうだな、あのあたりで降ろしてくれ。後は自分の足で行ってみる」
都市だという所から、幾分か離れたところにある森を指差し、あきつ丸は言った。
その言葉を受けて、不思議そうにライトイヤー・ドレイクは首を傾げたが、何も言わずに指示に従った。
ふわっと体が浮くような浮遊感。苦手な感覚に身構えた時には、既にライトイヤー・ドレイクは大地に降り立っていた。
着陸した場所は深い森の中だ。だが周囲は着陸の衝撃か、ライトイヤー・ドレイクを中心にして木々がクレーター状になぎ倒されていた。
あまりに自然に行われた環境破壊に、あきつ丸は顔を顰めた。そしてあることに気が付き、その美貌を更に歪めた。
あきつ丸は一先ず地面に降り立った。労わるようにライトイヤー・ドレイクの足を優しく叩く。
「お疲れ様。もう一つ仕事を頼みたいんだけど、いいかな」
「もちろんです。あきつ丸様のご命令ならば、なんなりと」
「ありがとう。じゃあ一人でさっきまで居た高度まで飛んでみてくれ」
「はっ」
返事をするや否や、ライトイヤー・ドレイクは飛び立った。
足元にあきつ丸がいたことを考慮してか、飛び始めはかなり遅かったが、瞬く間に高度を上げてやがてほとんど見えなくなる。
金色に輝くライトイヤー・ドレイクはかなり目立つが、これだけ距離があると星のようにしか見えない。太陽の出ている昼間というのもあって、その姿は非常に見え辛かった。
「ふむ、この分なら黄金色の竜が目撃されたということはない……かな?」
あきつ丸は自信なさげに呟く。
不可視化すらしていないので、見ようと思えば見れるだろうからだ。それに今しがたの上り下りで目撃された可能性もある。
「まあいいか。その程度の情報じゃ、あいつと俺の関係を見破れはしないだろうし」
黄金の竜が目撃された直後に、よくわからん人間が街へ訪れた。それは関係性を疑われそうではあるが、100%ではない。
訪れた街であきつ丸がよほど目立たない限り、詮索すらされないだろう。そもそもライトイヤー・ドレイクを目撃した者がいない可能性もある。
案ずるより産みが安しとも言う。まずは都市とやらに訪れてみるべきだろう。
召喚解除でライトイヤー・ドレイクを帰還させ、違うペットを召喚する。
ここは戦闘能力よりも、セージ技能に優れたペットが必要な場面だろう。情報系魔法に特化させ、セージ技能も取得させているペットが手持ちにはいた。
――『モンスター召喚:ルキフグス』
「お呼びでしょうか、あきつ丸様」
一瞬前には何もいなかった目の前に、家臣のように跪く一人の銀髪の少女の姿。
いかにも魔法使いといった漆黒のローブを着た、ツインテールの悪魔だ。もっとも悪魔の特徴たる角や羽に尻尾は、外装を変更する際に最小化され、衣服や髪で隠されているため、傍目には人間の少女にしか見えないだろう。
もはや傅かれることには大した驚きもない
「ああ、ルキフグス。ちょっと仕事を頼みたい」