改変なので少々面白くない場面もあるかもしれません。
空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句の付けどころのない絶好のロケーション。
時にカップルのデートスポットとして好まれそうな神沢の廃港は、しかし。
――――この全身真っ白な学ランを着た生真面目そうな男によって独占されていた……!
「けど、違和感ねえよな、実際」
ヤバいくらいまでの一体感。
剣客の境地とは自然との合一だと聞いたが、あれは確かに達人の域かも知れぬ。
実際本人は剣の達人だし。しかも兄妹揃って。
その見事さに敬意を払って、自販機から缶コーヒーを手渡したりする。
「おーい。釣れてっかー?」
「ふむ、ぼちぼちという所だ。サバ五、イカ二、カワハギ三といった所だな」
「うおっ、何だそりゃ。節操ねえな。ここってそんなに釣れるモンなのかよ?」
「まあ、海だしな。種類が豊富なのは当然だろう。
……それにしては少々混ざりすぎな感じが否めんが、珍しいから良しとしよう」
実にいい加減である。
缶コーヒーをグイッといってバケツを覗く。
釣り上げた魚は愁厳の言よりバリエーション豊かだった。
「サバ、多いな」
「なぜかは知らんが入れ食いでな。ああ、そうだ。少し前まではタコが釣れたぞ」
お前の持ってる竿は魔法でも掛かってんのか。
この分なら、そのうち寿司屋のネタも制覇できるぞこいつ……って、あれ?
よく見ると、致命的に足りないものが一つあるような。
「愁厳、一日中ここで釣りしてんだろ? 竿がけは無えのかよ?」
竿がけとは文字通り竿をかける物で、長時間の釣りには欠かせないアイテムだ。
釣竿は意外と重いし、狙う獲物によっては僅かな揺れで逃げられてしまう。
何時間も竿で釣りをするなら、固定具(さおがけ)は必要不可欠だ。
「……ああ。あれば時に便利だろうが、今は不要だ。こうして竿と糸で海に様子を見るのが楽しいんだ。
いや、当たりが大きければもっと楽しいのだが」
話しながらも竿は一ミリもずれない。
げに恐ろしきは愁厳の両腕。
力のみならず、機械の如き精密さと持続時間である。
「言われてみりゃそうか。お前の腕は普通の人間よりも力が強えしな。でも、本当に大丈夫なのかよ?」
「まあ別に苦にはならんからな。ずっと竿がけを使っていては、当たりが来た時に感覚が鈍ってしまう。
そうなって獲物を逃がしては悔やんでも悔やみきれん」
ううむ、と唸る。
「…………」
生真面目もここまで来ると頑固である。
するとそこで決まりが悪そうに頬を掻き。
「まあ……忘れたのだが」
「って忘れたのかよっっ!!」
なんて事だ。道理で先程から竿を持ったままジッとして動かない訳だ。
「はあ。で、折角の休日だから釣りに来ていると。
……まあお前の趣味だからとやかく言わねえけどよ、釣りってそんなに楽しいモンなのか?」
「ふむ、まあ道楽を兼ねた鍛錬という側面もあるか。
これには少し譲れぬ部分もある。こと釣りに関しては、この神沢で俺ほど情熱を傾けている人間もいないだろう。
本職の人間ならまだしも、我が生徒会のメンバーや、最近まで外にいた住人には入ってこさせられない至高の世界といえる」
―――――――――あ。
今、なんか亀裂が走った。
港だけに嵐の予兆を感じてみる。
「いいのかよ、んな事言って。口は災いの元だぜ愁厳?」
「ん? 今言った事の報復があるという事か? そんなもの、お前が言い触らさなければ、どうという事はない。
まあ、広まった所で支障はないさ。挑戦したいというなら、二四時間三百六十五日、俺の腕は空いている」
自分から挑む気はないが、挑まれれば友には最大の誠意を、敵には最大の闘志を以って迎え撃つのが愁厳なのだ。
よしっ、と当たりを引く愁厳。
「サバか」
「サバだな」
釣り上げた魚はお気に召さなかったものの、釣竿から外してボックスに入れる。
「――――――――」
「――――――――」
会話が途切れる。
話のネタがない釣り場ほど居づらいものはない。
「邪魔して悪かったな。引き続きサバを釣り上げてくれ」
「ああ。差し入れ、有り難く受け取っておこう」
港を後にする。
人間、改めて話をしてみないと分からないものだ。
俺にとっては退屈極まりない港だったが、愁厳にとってはやはりお気に入りの空間らしい。
夏の日と見紛うような明るい港。
願わくば、心ない邪魔者たちによって、この平和が乱されなければいいのだが。
一応、この後に続く話も構想しています。準備が出来次第投稿しようかと。
その場合、一話で纏めて出したほうがいいのか、それとも分割して出したほうがいいのか。
ご意見等を待っております。