空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句の付けどころのない絶好のロケーション。
物騒な治安の陰にこっそり平和を感じさせてくれそうな神沢の港は、しかし。
――――今まさに盆と正月が一緒に来たかのような賑わいを見せていた……!!
「って、さらに増えてやがるーーーー!?」
誰が、いや何が増えたのかは言うまでもなく。
大漁旗の如く堂々と竿を展開するその姿はまさしく……!
「すずー! 凄いぞ! どんどんリードしてるじゃないか! その調子でトーニャに目に物を見せてやってくれ!」
「すずさーん! こっちの糸引いてますよー! わっ、何だか当たりの予感がします!」
「……優勢(グッ)」
「何を始めるのかと思ったら釣りだったとは……。突然大学から連れ出すから何かと思ったが……講師への言い訳どうしようか……」
「まあ、そう急くこともあるまい、飯塚くん。分け前はやるというからな。ここは一つ、それで手打ちとしようじゃないか」
「ふっふっふ。騒がしいわよ皆。周りの負け犬達に迷惑でしょう。
それは兎も角、任せなさい双七くん、必ずあの狸娘をギャフンと言わせてみせるわ。さくら、そっちは貴方に任せるわ、怖がらずに引いてみなさい。美羽、今の所は私達が押してるわ、そのまま応援してて頂戴。薫、そんな渋面しないの。講師なら私が言魂でどうとでもしてやるわ。九鬼、話が早くて助かるわね。約束通り、釣った魚は山分けするから安心なさいね」
「……誰?」
えーと。
あえて言うなら、漁港の……女……王……?
「しっかし拍子抜けよねー。神沢随一と聞いてきたから、どれ程の物かと思ってきてみれば、まるで話にならないわ!
所詮は趣味の延長なだけの男と狸娘。九尾の狐たる私とは比べるまでもないわ!」
おっほっほ、と高らかに笑う女王。
ときおり、ウミネコからボックスの魚を守ったりする。
「ふっ、やはり人海戦術と物量作戦で来ましたか。しかも何やら荒事のスペシャリストな風。
……がっかりしましたね。釣りの邪道に頼るとは見下げ果てましたよ管狐……!」
妹の応援を背に受けてキキーモラを全力稼働させるロシアっ娘。
というか、お前が言うな。
「へえ、そういう貴方は人妖能力に頼りっぱなしじゃないの。まあ百歩譲って私の言霊は役立たないとしても、やはり釣りの腕は純粋に私に分があるようね。道具に頼ってばかりじゃ魚が見損なうわよ……!」
「くぅ、やはりキキーモラにも限界があるというの……!?」
「だ、大丈夫よ、お姉ちゃん! いくら向こうの腕が良くったって、こっちは能力を使ってるんだもの! お姉ちゃんにだって十分に勝ち目がある筈だわ!」
「サーシャ……うう、その言葉を聞けただけでお姉ちゃん感動……!!」
妹の言葉に感極まって涙を流すダメ姉。その最中にもキキーモラの操作には余念がなかったが。
「…………」
そして先程から一向に会話に入っていけない白学ランの男が一人。
「ふっ……勝負はまだまだこれからよ! 吠え面かかせてやりますから覚悟する事ですね!」
「よく言ったわ極寒娘! それはそうと、今さっきの管狐発言と双七くんを泣かせた事の報復は必ずしてやるから、そっちこそ覚悟しておきなさい!」
「いいぞー、すず! その調子で俺の代わりにトーニャを懲らしめてやってくれ!」
「あわわ! すすさんもトーニャ先輩も頑張って下さい!」
「……緊迫(ギュッ)」
「まあ、納得はせぬが、とりあえず勝敗だけは拝んでおく事にするか」
「確かに。……どうでも良いが、涼一。女に任せて横から口出すだけってのは、男としてどうかと思うぞ、俺は」
「す、すみません! ……って、それ、今は先生も同じじゃないですかー!」
もはや港にかつての平穏はない。
思いのほか興が乗ったと見える狐娘と、妹とふわふわな空間に浸りながらキキーモラの操作には一切の油断もない狸娘。
そして。
――――兄様。色々と言いたい事はありますが、真っ先に聞いておきます。大丈夫ですか?
「……頼む。俺の楽園を返してくれ……」
この世の終わりみたいな顔で下に俯く愁厳兄さん。
「……もう帰るか。ここは俺みたいな思いっきり場違いな人間がいていい場所じゃねえ」
港を後にする。
見上げた空の高さにちょっとだけ目が眩む。
嗚呼。
失われた(愁厳の)楽園よ、せめて思い出の中で永遠なれ――――
愁厳とランサーって釣り好きって点で似てね?的な感じで始めた愁厳ズヘブン、如何だったでしょうか?
久しぶりに気持ちよく書けた感じがします。うん、やっぱハッチャケるのって楽しい。
一言でも良いので、感想を宜しくお願いします。