ソードアート・オンライン外伝 ―One man's side― 作:北川みゅー
右手に持った手鏡を覗き込んだら、そこには自分が映っていた。(うん?何か変わったかな?)と思うくらいに“自分”そのものであった。
もう一度目線を周りに移してみる。パーティメンバーは驚きの顔でこちらを見ている。
いや、視点が変わっている気がする。以前はみんなを見る時は見上げていたのが、今は平行かむしろ視線を下げている。つまり、3人に限らず多くのプレイヤーがアバターの設定の時に身長を高めにサバ読んでいたのかもしれない。
(…いや、そう言えば自分は逆に本来の身長より遥かに低く設定したよな。)
そう考え直してもう一度鏡を見る。やはり“自分”であった。黒髪ショートボブのかわいい少女ではなく、ナーヴギアの被る前の“自分”の顔だった。
言葉を無くしているところにこう言われた。
「コウメちゃん、男だったんだ。」
女性の声だからグリフォーだな。もう何が何だかよくわからなくなってきた。
確かに手鏡に映る自分の姿は黒髪短髪で――ナオトの元のアバターと違ってイケメンとは言えないだろうが――身長も170cm半ばはある、男である。ちなみにテニスも一応出来る(苦笑)。
「…そう、ですね…。」
声も元の男の声であり、言い訳も何も出来ないし、グリフォーやサヤナにツッコみを入れる程の余裕も無い。
4人が4人ともお互いの存在を確認する作業で頭はもう一杯だった。
金髪ロンゲの隊長 → 学級委員ぽい黒髪の女
黒髪短髪イケメン → ぽっちゃり系オタク男
ピンク髪の巨乳女 → サラリーマン風な男
黒髪ショート少女 → サラリーマン風な男
また茅場の話が始まった。が、今後どうするかなぁと考えながら、ぼんやりとだけ聞いていた。
「…以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の…
…検討を祈る。」
最後にそう言い残し、空飛ぶローブは赤いシステムメッセージに頭から吸い込まれていって、そして文字と共に消えた。と同時に町のBGMが流れてきて、急にゲームらしい雰囲気へと変化した。我々プレイヤーの混乱を余所に。あちこちで「ふざけるな!」「この後の約束をどうしてくれる!」「せめて連絡を取らせてくれ!」等といった怒号や悲鳴に近い絶叫が上がる。
とりあえずその喧噪から逃れるため、『外に出よう』と言って広場から4人で出る事にした。
広場から少し離れた通りで立ち止まり、一息ついた。
『さて、これからどうしようか。』
「あの…とりあえずパーティは解散しますか?」
以前と喋り方が違うが、これはグリフォーの提案だ。
だが喋り方で一番困ったのはこの男だろう。
「私は反対ね…だな。
パーティはこのままでもいいんじゃないかしら…か?」
他のVRMMORPGでも女キャラとしてやってきたんだろうか。すっかり女言葉で喋る癖が見に付いているらしい。しかし<Koume><Sayana>という名前で男として生きていくのは辛い人生になりそうだな…。
そう言う自分自身は初VRMMOであったし、大人しいキャラ設定にしたつもりもないがあまり積極的に喋る機会が無かっただけにまだ救われた。むしろ普通に喋る事が出来るようになって気が楽になったかもしれない。急に饒舌になる俺。
『たぶんプレイヤーは2極化するんじゃないかな。
クリアを目指してレベル上げをする人達と、
誰かがクリアするのを待って安全に暮らす人達と。
どっちが正解か、っていうかどっちを選んでもその人の人生でしょう。』
「ボ、ボクは死にたくないなぁ…。」
『じゃあパーティは一旦解散して、レベル上げを目指す人はまた新しいパーティを組むって事にしようよ。
フレンド登録してるから、いつでも連絡は取れるわけだしね。
俺はとりあえずこの小さい服を一刻も早くなんとかしたい…。』
「うん、俺も同意。
何より先に服屋に飛び込みたいね…。」
「それがいいと思います、ずっと気になってました(苦笑)
じゃあ、パーティは解散しますね。」
まだ日も落ち切っていない時間であるし、クリアを目指す人や強くなりたい人は我先にとMOB狩りに向かうだろう。自分がどうしたいかはまだ考えがまとまってはいないが、身長150cmの少女が着ていた服そのままなのを何とかするのが先決だった。
『オーケー。
俺とサヤナはまず服屋に行きましょう。
ピッチピチになってボタンが飛びそうになっているのは、ちょっとね…。』
「私は宿屋で今後の事をゆっくり考えてみようと思います。
宿屋までナオト君も一緒に行く?」
「あ、うん、そうしようかな…。」
「それがいいよ。とりあえず何か食べてさ。
じゃあグリフォーさん、ナオト君、また会おうよ。
これでお別れじゃないんだからな!」
2人と別れてから、女装2人組はマップを出して服屋を探した。だがあえて最寄ではなく、町の外れの服屋に行く事にした。おそらくざっと2000人はいるであろう、同じ様な女装プレイヤーでごった返しているだろう事を予想して。やはり俺はこういう事をすぐ計算したがるらしい。
歩きながらサヤナと今後の話をした。
「どうする?コウメさん…って、このサヤナって名前でクリアまで過ごすのかしら?
…あ、いかんいかん。過ごすのかなぁ。」
『名前は問題ですよねー…。<光の目>と書いてコウメとか名乗ろうかな(苦笑)。』
「じゃあ俺は<鞘は無し>って、どうでしょう?」
『曲刀使いだし、日本刀使いみたいでいいかもしれない!
…光の目って、一体どんなスキルを取ればいいんでしょうね…。』
「索敵とか、索敵スキルを鍛えていくと暗視とか追跡とか出るらしいですよ。
というか、急に2人とも敬語になりましたね。」
『たぶん年も近いだろうし、敬語は無しという事で。
きっと長い付き合いになるだろう、よろしくサヤナ。』
「こちらこそよろしく、コウメ。」
名前の問題は深刻だった。茅場のチュートリアル演説を聞いた後で、第1層の端から飛び降りるという自殺者が何人も出たが、その理由の多くは<現実世界でも死ぬなんて嘘に決まってる>という意見と、<こんな世界は嫌だ、楽になりたい>というものだったそうだ。
しかし少なからずいた。いかつい男性プレイヤーが、かわいらしい女性名で生きていくという生き恥を晒すのを嫌がって、空に身を委ねた者達が…。
それぞれ自分に合う服を購入し、とりあえず何か食べながら今後の事を相談しようという事にした。移動中はお互いに無言だったが、きっとサヤナも自分の考えを整理しているんだろうが、それを気にしている程、自分に余裕も無かった。
先程の話からしたら、おそらくサヤナはレベルを上げてクリアを目指す方向に進むんだろう。自分はどうしようか。サヤナと行動を共にしようか。たぶんいい仲間になれるだろう。
でもリスクを減らすためには少人数よりも、大規模パーティやギルドに所属した方がいいんだろうな。そういう所に所属していると、生産者の知り合いを人づてに増やせるというメリットもある事はわかってる。
歩いていてすぐに適当なレストランを見つけ、そこに入った。NPC店員の他、同じ目的なんだろう、食事をしながら今後の相談をしているらしきプレイヤーが2組で7人程いた。
好物でもあるパスタらしき物を注文し、さっそく話し始めた。口火を切ったのはサヤナの方からだった。
「俺は明日からクリアを目指してレベル上げを始めようと思う。
コウメもたぶん、はじまりの町に留まって大人しくしてるタイプじゃないと思うんだけど、一緒に行かないか?」
『そうか、やはり上を目指すか。そう言うだろうと思ったよ。
確かに俺は敵にビビッて町でじっとしているタイプではないかな。
でもまだ何をしようか、何が出来るかは考えがまとまってない。』
「そうか。まあ生死に関わる問題だし、今日リトルネペントで死にかけた経験もあるしな。
当たり前だけど、気が乗らないまま無理に行こうとは思ってないよ。
でもじゃあ、この周辺で少しレベルを上げるだけでも付き合ってくれないかい?」
『そうだな。考えがまとまるまでの間ならいいか。
スキルも練り直す必要があるし、0から育てるなら1人より2人の方がメリットが多い。』
「よし、パーティ成立だ!」
≪Sayanaからパーティへの勧誘を受けました。承諾しますか?≫とさっそくウインドウが開いたが、ほぼ同時に注文の品が届いたため、素早くYESを選択してパスタを食べ始めた。
その後は町を見て回ると言ったサヤナとは別れ、朝8時に北西門集合という事にして宿屋で眠りについた時には、時計はすでに22時を回っていた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
コウメのプレイヤーについて予想されていましたでしょうか?
この様な人も結構いたはずですよね。
続きはまた来週アップします。