ソードアート・オンライン外伝 ―One man's side― 作:北川みゅー
7時に目覚ましをセットしてあったが、二度寝する事なく起きる事ができた。SAOのアラームの機能は素晴らしい!
集合場所までは5分で行けるため、俺はこの時間を使ってスキルと装備を見直す事にした。今までは朝のわずかな時間も睡眠に使いたいと考えていたため、朝食を食べるという習慣が無い俺にとって、他にする事は無いというのもある。
(とりあえず予定通り忍者を目指すかどうか、からかな。)
(隠蔽で気配を消し、投剣で先制して接近されても片手剣で戦える。
片手剣にするか、片手用短剣にするかどっちがいいかな。)
(格闘、軽業、疾走、聞き耳、索敵、暗視…、
レベルがいくつになればスキルスロットが足りるんだ?
武器防御スキルも欲しいしなぁ…。あー悩む…。)
(とりあえず片手剣と隠蔽を予定通り上げてみよう。
まあ、とりあえず、ね。)
初期装備のショートソードくらいしか装備を確認する物も無いので――昨日買ったばかりの服は着たまま寝ていたし、少々早いが集合場所である<はじまりの町>の北西方面出口へと向かった。
町には昨日の様な喧噪はもう無かった。俺は朝7時半前という時間のせいだろうとその時は思っていたが、半数近くの人は宿屋の部屋に閉じこもり、さらに残りの半数、つまり1/4程のプレイヤーはゲームクリアを目指してすでにこの町を発った事を知る由もない。
北西門に着いたがまだパーティメンバーであるサヤナの姿は見えない。1万に近い数のプレイヤーがいる中で、知り合いと呼べるのは昨日たまたま知り合った3人しかいない事は非常に心細かった。実は重度のゲーマーであるという事はほとんどの友人達も知らない事であるので、1人でゲーム店に並んで抽選会に参加した俺にとって、現実世界での知り合いでは、SAOを入手できたのは自分1人だった。入手できた事自体は、家電量販店に勤めている友人でさえも入手出来なかったというのだから相当な幸運だ。デスゲームと化した今となっては不運であると言わざるを得ないが。
それでも俺は、『知り合いがSAOにいなくてよかった。俺さえ死ななければまたみんなに会える。』と思う事で自分の心のバランスを取った。
(さて、また時間もあるし、また色々考えるかな…っと。)
(まずは戦闘系スキルを上げて、とりあえずのレベル上げと資金確保をするのはいい。
その後はどうするかだな…。)
(ゲームクリアを目指して強さを求めるのか、
クリアを目指す人のアシストをする生産者になるか…。
いや、生産は即決で無しだ。
今までもスキルを上げきれた試しが無いわ!無理無理!)
他の生産スキルのあるMMORPGの場合でも、鍛冶や裁縫といった生産スキルはあったが、俺はそのどれもでいわゆる<マスター>まで上げきった事はなかった。生産スキルを上げるという事は、地道な作業をひたすら繰り返すというスキル上げをしなければならない。いや、生産スキル上げ自体は<モノを生み出す>という工程が楽しいと思うかもしれない。しかし材料調達こそが生産スキル上げの中でもっとも地道で戦闘の発生も起こり得るという過酷なものであると認識していた。
俺は飽きっぽい、とまでは言わないが単純作業の繰り返しが苦手だ。だから高校を卒業してから営業職しかした事がなかった。しかしそのおかげか、比較的他人との付き合いは苦手ではなかった。以前のMMORPGでも、武器防具等の調達は<仲のいい知人を頼る>という事でまかなってきたというのが事実だ。
ちなみに前回やっていたMMORPG<UQ2>でのコウメは、忍者ではなく実質は商人として立ち振る舞っていた。
何でも揃うと評判の大型プレイヤーショップの店主に掛け合い、有名鍛冶職人からの仕入れや交渉を担当したり、多少は持っていた戦闘力を生かし、生産品の材料となるドロップ品を収集しに行ったりする役回りを演じていた。そうやって得たリベートを資金にし、レアアイテムを安く買って高くなったら売るという転売の繰り返しによって財を築いた。
今度はその資金を元にギルドを設立して店員を雇って事業を拡大…と、それはそれで壮大な物語が書けそうな、<強いモンスター狩り><生産職人>等とは違った独自のプレイをしていた。
(クリアを目指す人達に加わってレベル上げするのも危険だし、
宿屋に閉じこもっていても宿屋代が毎日引かれるし、
とりあえず、安全圏の敵を狩って、引きこもり組の奴らよりは優位に立っておくかな。)
人とは違う遊び方であったとしても、一応は元ゲーマーである。この世界初のVRMMORPGが発売されるまで2年程ブランクがあるが、第1層の圏内の宿屋に閉じこもって誰かがクリアするのをじっと待つという選択肢は無かった。むしろそういう人達を『デスゲームだからそれも仕方がない』と思っていながらも、頭の片隅では『ああはなりたくない』と思う所もあった。それが現れた言葉が<クリアを目指す人達>に対して、<引きこもり組の奴ら>という彼らへの呼び方だった。
もう少し、また色々と思案していた所、程なくしてサヤナが現れた。
「やあおはよう!お待たせしたね。」
『おはよう。いや、部屋にいても落ち着かなかっただけでね、気にしないでくれ。』
時刻はまだ8時の5分前だ。
「さっそく狩りに行こうか。
武器は片手剣で行く事にしたの?」
『ああ、まあとりあえず、ね。
いやしかし、言葉遣いにずいぶん慣れたみたいじゃないか(笑)』
「笑うなよ(笑)」
『ところで、サヤナは今後の事とか、結構固めているのか?』
「んー、スキルは両手槍をやめて曲刀を取る事にしようと、ね。
できれば見た目が日本刀みたいな武器が手に入ればいいなぁと思ってさ。
軽金属装備も取って攻防のバランスを取りたい。」
『それは将来的にもソロでやっていくって事か?』
「いやぁ、そこまでは考えていないよ。
昨日の茅場の宣言後、すぐにゲーム攻略に向かった人達に追いつけるレベルになったらそういう人達と合流してギルドに入れてもらおうかなと思ってる。」
『ギルド、か…』
早く・簡単に知り合いを増やすならギルドに入るのがいいという事は自分でも考えていた。しかしゲーム開始後まだ24時間も経っていない今、もし作られたギルドがあったとしても数が少ないだろう事は予想できた。
それに――今すぐは求められないだろうが――ギルドに入る、つまりパーティ単位での戦闘を行うという事は、各自が何らかの役割を持つ事になる。簡単に言えば<敵の攻撃を引き受ける防御特化型のタンク>、<タンクが耐えている間に敵を攻撃するアタッカー>、<パーティの回復を担うヒーラー>、<ギルドの物資を支える後方支援担当の生産者>という役回りがあるだろう。SAOでは魔法の概念が無いために既存のMMORPGと同じとなるかはわからないが、どちらにしてもある程度の将来設計をしてから加入すべきだと考えた。ギルドから役割を与えられるのではなく、今の内に自分の好きなようにスキル構成を決めたいと思って。
「最強のアタッカーになる」という同職の中での最強を目指したり、「タンク部隊の一員としてギルドを守る」という目立たぬ存在――とその時の俺は考えた――よりも、『なるべく他人と違う仕事をしてゲームクリアに貢献できたらいい』という、今後の行動の元となる考えが確立された。
主人公コウメの頭の中を重点的に書いています。
実はあの人も知り合い・この人も知り合いという環境ではなく、「俺、最強」という事を目指すでもない、性格的にも環境的にもあまり主人公らしからぬキャラクターです。