ソードアート・オンライン外伝 ―One man's side― 作:北川みゅー
「そっち、湧いたぞ!」
『オーケー!タゲ取りは任せろ!』
『シングルシュート』
そう、スキルを宣言した俺の右手に持たれた、小型で刃の薄い投擲用ダガーが青い光を帯びる。そして腕を振るとダガーは20m先にポップしたばかりのフレンジーボアの背中へと突き刺さり、そのHPバーを1割程減らす。ダメージは大きくはないが、ファーストアタックを食らった青いイノシシはこちらを向き、敵対の目を向けている。
『ヘイト来たぞ!』
「了解!」
俺の10m程後方で、フレンジーボアのポップ待ちをしていたサヤナが曲刀を光らせながら駆け寄ってくる。曲刀の基本スキルである<リーパー>だ。突進から斬撃へと繋げるソードスキルであるが、さすがにイノシシとの距離があるために俺の近くまで駆け寄ってきたところで空振りしてしまった。しかし彼は攻撃技を移動技として使い、10mの距離を一瞬で詰めたのだ。非常に順応性の高い奴だ。
だが俺も負けてられない。
イノシシが一瞬の溜め動作の後、こちらに向かって突進攻撃をしかけてきた。イノシシの得意技ではあるが、実はこれしか攻撃手段が無いため非常に攻撃を捌きやすい。
俺は両手でしっかりと握ったカッパースピアを体の右側、腰の高さに構えて重心を落とした。そこにバカ正直に直進で突っ込んでくるイノシシが突き刺さる。刺さった衝撃によってわずかに反動ダメージを受けるが微々たるものだ。そしてそれに慌ててはならない。串刺しになって暴れるイノシシを、槍を使ってしっかり押さえつけていなければならないからだ。
そこに待ち構えていた曲刀剣士がとどめの攻撃を加え、イノシシをポリゴンの破片へと変えた。カウンターによる串刺しによってイノシシのHPは残り3割まで減っていたが、さらに貫通継続ダメージも入って曲刀使いが攻撃する時点ですでに虫の息であった。
獲得経験値と戦利品が表示され、こうしてまた1つの戦闘が終わった。ちなみに、最多ダメージボーナスとラストアタックボーナスをそれぞれが取っているため、戦利品の分配に文句は出ない。
「これで200匹くらい行ったかな?
結構慣れてきたなぁ。」
『どうする?終わりにするか?
休憩してまた狩るか、ネペントに行くってのもアリだ。
とりあえず腹減ったなぁ。』
ここまでで所持金は初期資金の2倍程、2000コル以上をそれぞれが稼いでいた。ただひたすらにフレンジーボアだけを狩ってそこまで貯める事ができた。これはひとえに効率重視の狩り方を編み出したからだろうが、時間もすでに午後2時を回っている。
多数の人がフレンジーボアというゲームのリソースを求めて第1層の圏外である草原フィールドに繰り出している中、ポップした瞬間に遠距離から自分に向かってこさせる――ヘイトを稼ぐ
――ために投剣を取得した。そしてサヤナが昨日使用していた両手槍を採用してのカウンター作戦であったが、当初は貫通継続ダメージだけが目的であり、そういう戦い方をしていた。槍を刺し、後は突進さえ回避していれば勝つ事が出来て非常に楽な作業であった。今はスキル外のカウンター技も使用しているが、戦闘が楽であれば精神的な余裕が生まれ、長時間の狩りでも苦は無かった。そうではない、楽でない戦闘――突進をギリギリで回避したり、タイミングを合わせて盾でガードする等――であれば、どんなにHPに余裕があっても戦闘の度に死への恐怖から精神をすり減らしてしまい、長時間の連戦は難しいだろう。
『ネペントは片手剣がもらえるクエストがあるとかで、混んでるだろうけどな。』
「あー。
さっき補給に戻った時に門の所で森に向かおうとしてた人達が言ってたね、それ。
よく聞いてたね~。貰えるのは直剣だっけ?曲刀だっけ?
曲刀だったらコウメにも手伝ってもらって行きたいけどね。」
『直剣だと思うな。確か彼らは直剣を持っていたはずだし。
剣が不要ならやめておこう。人気狩場はレベル上げには効率が悪い。』
『それよりさっき解禁された3つ目のスロットに何を入れるか考えたか?』
「ほんと、よく覚えてるね…。
3つ目のスキルなら、軽量盾装備を取ろうかと思ってるよ。
今はまだ将来的な方針は決めないで、アタッカーにもタンクにも、どっちの役にもなれる方がいいかと思ってね。」
俺が選択しない道のどちらかに進むようだな。どちらかは決めていない様だけど、今日のこの効率重視の狩りのおかげで、初日出発組にもレベル的にそう遅れはないはずだ。ただし、実際はどうかなんて、もちろん2人には知る由もない事であるが。
「コウメはスキルどうするのさ?」
今朝『とりあえず』と思っていた片手直剣も隠蔽スキルも、早くも削除して今は両手槍と投剣を使っている。そんな自分に今後の予定が立てられるはずもない…。
『…んー、索敵かな。
隠蔽にしようと思ってたけど、MOBに見つかってから隠れるより、見つからずに移動する方がより安全だと思うし、
逆にレベル上げ目的でMOBを探すのにも役に立ちそうだしな。
1つのスキルで2つ分の使い方が出来るなんて効率いいだろう?』
「なるほどね。
パーティメンバーとしても1人だけハイディングされるよりは嬉しいね。」
どうも<効率厨>に思われるんじゃないかと、自分の発言を少し気にしたが、サヤナはそこまで深読みはしていない様だった。もちろん俺だって他人のスキル構成に対して云々言うつもりは毛頭無い。ただ、持ち得るスキルの中で最適な使い方を考えるという意味で効率を求めているだけだ。と、サヤナに聞こえない心の声で呟いた。
『サヤナも俺にとっては、アタッカーとタンクの兼任が出来る前衛ってのはありがたいさ。
前衛って花形職だしな。
きっとどこのパーティでもギルドでも活躍できるんじゃないか?』
「ビビッて後衛職しかしない奴もいるだろうし、活躍の場はあるよね、うん。
あ、コウメが敵にビビッて後衛やってる訳じゃないって事はわかってるよ!
最初は剣使おうとしてたのに、俺も剣だから譲ってくれたんだろう。」
そう言ってサヤナの前衛という考えを後押しした。本当は『前衛は負担が大きいから無理するなよ』とでも声をかければ良かったんだろうか。前言撤回。俺は自分の効率しか考えていない<効率厨>かもしれない、腹黒い奴だ。
しかしサヤナは良い奴だ。昨日知り合ったばかりだが、すでに友人と言える。最初はピンク髪で巨乳のお姉さんだった事を思い出し、内心くすりとした。
「あ、そうだ。
グリフォーさんとナオト君の様子でも見に行ってみようよ。」
『そうしよう。
その前に、そこに2匹湧いたボアを最後に狩ろうぜ。』
初日の一時のパーティメンバーを2人同時に思い出したのは偶然だろうか。しかし結局イノシシ狩りが止まらず、もう1時間ほど草原に滞在する事になったのだが。
Koume Lv.5
両手用重槍 245
投剣 179
(空きスロット1)
Sayana Lv.6
片手用曲剣 332
軽金属装備 256
(空きスロット1)
なお、スキルスロットの数は以下の様なイメージで書いています。
ただし公式的なデータを発見すれば解釈を変えていきます。
Lv.5で3 Lv.12で4
Lv.23で5 Lv.35で6
Lv.48で7 Lv.60で8
Lv.71で9 Lv.80で10
Lv.88で11 Lv.95で12