ソードアート・オンライン外伝 ―One man's side― 作:北川みゅー
円錐状の<アインクラッド>に於いて、第1層というのはその直径が最も大きく、つまり面積が最も広い層という事になる。そしてこの第1層にある<はじまりの町>も層全体の面積に比例して大きく、宿屋も何軒あるか検討もつかない。RPGなので宿屋と呼称してはいるが、実際はヨーロッパのホテルの様な構造をしているところも数多くあり、そのホテル状の建造物の場合だと、500を超える部屋を持つ大型ホテルもあった。
そんな中でも フレンド登録しておくと地図上にマーカー表示されるのは便利の一言に尽きる。
その様な宿屋のほとんどの部屋が、デスゲームという恐怖から逃れようとする人達によって借用されていた。一部、今度どうするかを一晩考えようと泊まった者もいたが、2日のチェックアウト時間を過ぎた今となっては、もうすでにみな行動を移した後であった。
『フレンドリストによると、グリフォーさんはこの宿にいるみたいだな。
ちょっとメッセージ送ってみる。』
「でもナオト君は一緒じゃないみたいだねぇ。
俺はナオト君の方に、今どこにいるのかと送ってみるよ。」
≪Koume:今、Sayanaと2人で宿の下に来てみたんですが、玄関前まで来てもらえますか?≫
≪Sayana:ナオト君、今どこにいるんだい?≫
≪Griffo:すぐに向かいますね≫
『グリフォーさん、来るってさ。』
「ナオトはまだ返事が無いなぁ。
戦闘中かな?」
程なくグリフォーが宿の玄関から姿を見せた。昨日最後に見た時と見た目は何も変化が無く大人しそうな真面目そうな少女であった。しかし彼女が発する雰囲気は少し変わっていた。デスゲーム宣言後に見せた恐怖した顔ではなくなっていた。
「元気そうだね。」
『俺らが最初に見たグリフォーさんに近い雰囲気だな。
何か良い事があったと見える。』
「ええ、お二人は昼12時頃、町にはいらっしゃいませんでしたか?」
「俺達はその頃、近くのフィールドで狩りをしてたけど…、
何かあったの?」
「まだはっきりとは決まっていないんですが、
この世界で生きていくためのギルドを作ろうという動きが起きたんです。
お二人は<MMOトゥデイ>というMMORPGの情報サイトを御存じですか?」
『もちろん。
昨日のログインする直前まで見ていたくらいだよ。』
「俺も知ってるよ。
SAOの事もベータの情報とか載ってたよね。」
「実はそのMMOトゥデイの管理人さんがSAOの世界にいて、
その人を中心にギルドを作ろうっていう話になってるんです。
大人数でパーティを組んで安全に狩りをして、
戦利品は戦闘に出ない人も含めてギルドメンバーみんなに均等に分配するっていう、
そういう趣旨のギルドらしいですよ。」
「なるほど!それは理想的だね!
そのギルドに入るの?」
自分は正直、“共産主義”は理想なのか?とツッコみたかったが。
「ええ、広場でそういう呼び掛けがあったんですが、もの凄く大勢の参加希望者がいるみたいで…。
だから設立前にギルド運営の仕組みを整えたいと、あと、運営業務出来そうな人を募集していて…。」
『それに手を挙げてみた、ってところかな?』
「はい!そうなんです。
私に出来るかどうか、いえ、採用されるかどうかはわからないけど…。」
「大丈夫だよ、グリフォーさんなら!」
ふむ。実に面白い。あのMMOトゥデイの管理人がSAOの世界にいてギルドを作る。そしてその目的は、安全性を求めるために大人数で狩りを行い、その戦利品はギルドで均等分配する、か。それは<宿屋組>は参加したがるだろうなぁ。仮に2000人が参加したら、運営側は10人じゃ足りないだろうな。ざっと中間管理職を含めたらざっと50人は必要だろう。
自慢じゃないが、俺は仕事でも数人の部下を持って教育したり、MMORPGでもギルドマスターを務めた事がある。地元でも青年会の役員の肩書きがあったり、たぶん役に立てるだろう。それらを生かせば大規模ギルドになっても、俺の居場所はあるんじゃないだろうか。ただし生徒会長の様な真面目な人間ではないかもしれないけどな。
そしてMMOトゥデイの管理人と繋がりを持てれば、きっと今後のSAO生活が多少楽になるだろう!という思惑がある事は否定しない。
武器防具をギルドの人から製作してもらっていた過去のMMORPGの経験から、この大規模ギルドの創世時期に居合わせられた事をラッキーだと思った。
『悪くない。
俺も一緒に連れていってくれないか?』
「え?ギルドの運営募集ですか?」
『うん、そう。
サヤナはたぶんゲームクリアを目指す、最先端の人達と合流する事になると思うんだ。
たぶん性格的に分析すれば、間違いないね。
だから俺は、俺にも居場所が欲しいんだ。
前にMMORPGでギルマスやった事もあるから、きっと力に慣れると思うんだ。』
「じゃあぜひ一緒に行きましょう!
明日のお昼1時に黒鉄宮集合ですよ。」
サヤナは特に何も言わなかった。おそらく、大人数で狩りをするより、安全に倒せる最少人数で狩りをした方が経験値効率がいい事をわかっている。そして効率を優先する俺もそれはわかっているはずなのに「なぜ?」と思ったに違いない。
俺の考えはこうだ。
まず、自分のレベルを上げる事を優先としない。自分が強くなって自分でクリアを目指す事を<効率がいい>と思わなかったからだ。このゲームをクリアするために、最も効率のいい方法は、<全員で攻略にあたる>という事だろう。もちろん、全員が剣を持って戦うという意味ではなく、生産職等のサポートも含めての全員体制という意味だ。
全員で、という点は無理だとしても、この、これから出来上がるだろう大規模ギルドが本格的に稼動を始めれば、結果的にSAOがクリアされる日が近づくだろうと考えた。
けしてMMOトゥデイの管理人という巨大なカリスマの下で甘い汁を吸おうと思ったわけでは、ない。思ったけど、それだけではないという意味で。
「ところでさ、ナオト君は?どこに行ったか知らない?
メッセージ送ってみたけど返事が無いんだよね。」
「それが、昨日の夜この宿屋に入ったのは間違いないんですが、
すいません、私にもわかりません…。」
「そうかー…。
ダンジョン内部だとメッセージが飛ばせないらしいけど、ちゃんと送信は出来たんだよね。
でもこの町にフレンドのマーカーが見当たらないという事は、主街区から離れたどこかにいるのか…?」
何のために?一番怯えていたナオトが?そこに何かあるのか?誰かが連れていったのか?自分の意思で行ったのか?
しかし、考えても答えが出ない事柄について、俺は考えるのをやめた。
「サヤナさんは、明日どうします?」
「俺は次の町を目指してみるよ。
町って言っても10数軒しか家が無いような村らしいけどね。
今ならあのリトルネペントも1人で倒せるだろうからさ。
一刻も早く最先端の人達に追いつきたいんだ。
このゲームは俺がクリアしてみせるよ!」
(ホルンカ、か。
本当は今日にもで向かいたかったんだろうけど、俺に付き合ってレベル上げをしてくれたんだな。
本当にいい奴だ。)
『明日か…。
寂しくなるけど、クリア、期待してるぜ!?』
<俺がクリアしてみせる>という点については真逆の考え方であったが、それでも決して喧嘩する事はなかった。直接クリアを目指すのと、誰かがクリアを目指すのを支援するのと、そのどちらが正解かは誰にも何とも言えないこの状況で、お互いの考え方を尊重できるというのは悪くない。今後もいい友人でありたいものだ。
時間は午後6時。フィールドで狩りをしていた人達も引き上げてくる時間だ。町外れのレストランも混んで来た。グリフォーは昨日と同じ宿へ、サヤナは明日の出発のためにポーション等を買いに行った。そして俺は取得したばかりである索敵スキルのトレーニングのため、<夜は危険>と噂の圏外に出てみる事にした。