ソードアート・オンライン外伝 ―One man's side― 作:北川みゅー
夜の圏外が危険とされる理由は大きく分けて2つある。1つはMOBの接近が視認しにくい事。だがこれは索敵スキルや、その上位スキルである暗視スキルを取得する事で危険を減らす事が可能になる。そしてもう1つの理由は、夜限定でポップするMOBがいるという事だ。ベータ組の情報によれば、第1層の草原フィールドではオオカミタイプのMOBが出現する様になるらしい。直線の動きである突進しか能が無いイノシシ系統と比べて、間合いを取って一気に飛びかかってきたり、牙と爪の連続攻撃をしたり、2匹以上で連携等、この付近の昼間の適正レベルを踏まえればかなりの強敵と言える。ちなみにこの情報もMMOトゥデイで得た知識だ。
そこまでの情報を持っていながらあえて夜間の圏外に出た。それは索敵スキルのトレーニングという目的の他、そのオオカミを自分の目で見てみたいという知識欲も少なからずあった。ただし、昨日――つまり初日の夜にオオカミにやられてSAOから退場したプレイヤーがいた事については知らないまま、だ。
(夜は危険という噂が立って、狩りしてるプレイヤーは全然いないんだな。
索敵スキルはソロプレイヤーでもなければ2つ3つ目のスキルには選ばれないんだろうな。
でもまあ、例のオオカミも見当たらない様だが…。)
1時間程の散歩によって、索敵スキルは――一般的にそこまでは上がりやすいとされる――300に近い程まで成長していた。昼間に比べてポップ数の少ないフレンジーボアも狩りながらの散歩であるため、両手槍スキルも上がってきているが、投剣は消耗品を使用するために節約している。
(もうボアじゃスキル上がりにくいからなぁ。
オオカミを拝みたいもんだ。)
スキルが300あたりからは、ただその武器を使用したりソードスキルを発動するだけでは成長しなくなってくる。そうなってくるとそのスキルに見合った敵と戦う事が必須となってくるわけだ。その辺りは大体他のMMORPGと同様な仕組みになっているらしかった。
オオカミについての情報はあったが、そのどれもが「危険」「イノシシとは違う」という事であった。しかし、昼間のMOBはレベル1でも対応できるわけだから、夜になって適正レベルが10も20もあるとは思えない。おそらく敵1匹ならレベル5で十分戦えるだろうと、そういう計算をしていた。
オオカミを見ないまま、そろそろ帰ろうかという時に索敵スキルに反応があった。グリーンのマーカーだ。SAOでは一般のプレイヤーは緑のマーカーで、犯罪者はグレーで、殺人を犯した者はオレンジとなるらしい。
警戒は解かないままに接近してみたら、相手もこちらに気が付いて話しかけてきた。
「お兄さんもグレイウルフ狩りかい?」
『そのつもりだったんですがね、出ませんねぇ。』
「そうなんかい。
いや、もし2匹以上出るようなら一緒に狩らんかね、と思ったんだが。」
『ええと、あなたのレベルはいくつですか?』
後に相手のレベルやスキル構成は、親密な者を除いてあまり詮索しないという暗黙のルールが築かれていったが、この時点ではそんな事はなかった。
話しかけてきた相手はおそらく30台中盤、自分より年上だろうから敬語になった。
「レベルは6、ああ、俺の名前は<ジネン>だよ。
まあ、そんなにかしこまらずに。な。」
『俺はコウメ、同じくレベル6です。』
「ほう、レベル6かぁ。スロット3つ目で索敵を取った口かい?
まあさ、俺ゃーずっと夜勤をやっててねぇ、今も夜しか行動しないから知り合いもいないわけよ。
昨日も1人で夜に狩りしてたかんねぇ。あー、寂しいわ!」
『そうですか…。
すいませんが、俺は夜勤じゃなかったんで、そろそろ眠気もあるし宿に帰ろうかと。』
「まあ普通はそうだよねぇ。
また生きて会えたら酒でも飲もうさね!」
(やけに調子のいいおっさんだったな…)
(しかし、今レベル6で、どうやら今日は狩場にきたばかり。
昨日の夜だけでレベル6まで上げたというのが事実であれば、オオカミを狩ってそこまで上げた事になるな。
オオカミMOBの名前も知っていたし…。)
(実は“狩りやすく、おいしい”んじゃないのか?)
確かに、攻撃パターンが一定ではなく、複数匹が同時に襲ってくるとしたらそれはイノシシの比ではない程の危険があると言える。しかし、ゲーム慣れしている人間にとってみたら“フレンジーボアはスライム程度”らしい。ならばグレイウルフもそうは変わらない“ゴブリン”レベルの敵なのかもしれないと仮説を立ててみた。しかし、もしその予想すべてが外れていたら?の可能性を踏まえ、眠気のある今日のところは仮説の実証はせず、寝るため町へ戻る事にした。
翌朝7時半、サヤナが次の村<ホルンカ>に向かうとの事でグリフォーと共に見送りに行った。この時気が付いたのだが、ナオトの名前がフレンドリストから消えていた。
なお、もし死んでしまったとしてもフレンドリストからは消えず、ただネーム表示が薄いグレーとなるだけだ。もちろんメッセージの送信等は出来なくなるが。
「リストから名前を消すには、登録した両者のどちらかが登録解除するしかないよね?
みんなも?」
「私のリストからも削除されてますね…。
ナオト君、どうして…。」
俺も同意して頷いた。フレンドリストは特に人数制限は無いため、やろうと思えば1万人でも登録できる代物だ。消す理由があるとしたら…。
「うーん、俺らを嫌いになったのか、それとも忘れたいと思ったとか、かな。
それにしてもなんで?って思うけど。」
『おそらく、だが、後をつけられたくないという事は確かなんじゃないかな。
どうしてそう思ったかについては予想できないけど。』
「後をつけられたくないって、犯罪を犯すつもりなのか、それとも自殺するつもりなのか…。」
デスゲーム宣言後に第1層の外周から相当数のプレイヤーが飛び降りを図った事は3人とも知っている。そしてそれは今でも後を絶たない。リストから削除されてしまえばそのプレイヤーが生きているかどうかは黒鉄宮の<生命の碑>を見るしか手はない。幸いにもナオトの名前はローマ字そのものであるため、綴りについて間違う要素は無かった。
『俺達は後で黒鉄宮に行くから、一応見ておくよ。
俺は自殺の心配より、犯罪者になってないか・なろうとしてないかが心配だな。
ああ、自殺はしないだろうな、っていう意味だぞ?』
「まあ何かあったらいつでもメッセージを送ってくれよ。
戦闘中とかダンジョン内じゃ見れないけどね。」
『了解した。
まあ、また生きて会おう。直接話した方がいいだろう?』
「いつか最前線で共闘したいと願っているよ!」
「元気でね!たまには戻ってきてね!」
サヤナははじまりの町、北西門からホルンカに向けて旅立っていった。いや、ホルンカではなく迷宮区、そして上層に向けて。
2人になった俺達は朝食を取った後、イノシシ狩りに行く事にした。デスゲームを知ってさすがに一時は尻込んだものの、リトルネペントにも引けを取らない、あの“隊長”ことグリフォーのスキルそのものはまったく衰えていなかった。
「でぇぇりゃぁぁぁ!」
気合十分な声で両手剣を振り回してはいる。見た目は以前より1回りほど小さくなっているが、ステータス上の筋力と敏捷性は変わっていない。しかし、所詮は女子高校生の声である。少々アンバランスだ。
『うん、悪くない。』
「初日にレベル上げしてたからね、ボアなら安全マージン十分よ!」
…剣を握ると性格が変わるんだろうか。見ていてなかなか面白い。そういう意味で言った言葉であったが、剣のスキルや戦い方自体も悪くない。もうボアは卒業してもいい頃だろう。俺も、な。
11時近くまで狩りを続けたが、日が高くなるにつれて混雑してきたために、早々に立ち去って早い昼食をとる事にした。
Koume Lv.6
両手用重槍 305
投剣 185
索敵 289
Sayana Lv.6
片手用曲剣 332
軽金属装備 256
軽量盾装備 176
Griffo Lv.6
両手用剣 268
軽金属装備 181
武器防御 173