アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
追記:大きく加筆・修正させていただきました。
―――これは自らが望む至高の結末に至るまで幾度となく永劫繰り返した男が仕組んだ物語。
「ほう……なんとも愉快な―――」
そこは辺り一面暗闇で満ちていた。上下左右といった物や前も後ろといった概念など無く、人が本来感じるだろう温度や湿度などの概念も無い。それどころか空気や音、光といった生命が生きる為に必要な概念すら無い。そのような生命が死に絶えたとも言える世界で何処からともなく興味深そうな声が響き渡る。
「
その言葉と共に光が誕生する要素が無い世界に小さな光が静かに灯る。その光は
その声の主を一言で表すならば―――影だった。その姿は
そんな不鮮明な影法師は静かに言葉を紡ぐ―――
「これ程の強き願いを持つ存在が現れるとは、我が女神が治る平和な今世の中では極めて珍しい。―――彼らならば私が求める未知を―――そして真に私が望む至高の結末へと導いてくれるかもしれないな」
すると光球は徐々に大きくなっていき―――それに伴って光量も増して周りを先ほどよりも明るく照らしていく。その光は、その影法師の全容も照らし出した。
そこに居たのはボロボロのローブを纏った存在だった。その者の顔は見た所、男か女か分からない中性的な顔立ちをしているが声からして男だと分かる。
しかしその顔を改めてしっかり視認しようとしても、やはり靄がかかったようにぼやけてしまう。
だが、そんな不確かな存在の男が今は新しい玩具を買ってもらった子供のように嬉しそうな笑みを口元を浮かべていた。だがそんな笑みも長くは続かず、その男の表情は曇る。
「……ああ、しかし残念ながらこのままではいささか足りないな。……なんと悲しき事か、目の前に新たな未来へと導いてくれるやもしれん魂があるというのに、それでもまだ不十分とは……ならば―――」
その男の目に映っていた光景はある2人の幼い赤ん坊と、2人の両親と思われる男と女の姿だった。
両親と思われる2人の男女は自らの子である2人の赤ん坊を抱き、幸せそうに笑っている。
それを見ていた男は、ふと先ほどの光球よりも小さい光を2つ、指先から作り出してその抱かれている赤ん坊2人にその光を飛ばした。
放たれたその小さき光は、その存在がいた空間すり抜けていき、2人の赤ん坊の胸にスッと入っていった。
両親と思われる男女はそんな小さな光が自らの子供の内に入っていったなど知る由も無かった。
それ程までに小さく、だが何かを感じずにはいられない謎の光が赤ん坊たちの体に入っていくのを見て、その男はいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべる。
「さて……後は今まで通り、私は
その男はそう言ってその場から消え去ろうとしたが―――
「――――――」
ふと男の動きが止まる。
一体なぜか―――その理由は消える直前、その男の目に先ほどの赤ん坊がいる世界とは別の、様々な世界の光景が映ったからだ。
「…………ふむ」
その男は
普段ならばそのような宇宙を見たとしてもなんの感情も抱かず、全く気にも留めないような男だったのだが―――
「……ふふ、ふはははは……」
今回は少しだけ違った。その男は突然1人で静かに笑い出したかと思うと―――その男の体の周りに多くの魔法陣が浮かび始めた。
「ああ、私とした事がうっかり大事な事を忘れていたな。この世に生を受け、私に未知をもたらすだろうあの赤子2人にささやかな誕生祝いを贈ってあげなければ―――」
男は薄っすらと笑いながら、指揮棒を振るうように腕を振り上げた。
すると―――男の目に止まった複数の異なる宇宙が2人の赤ん坊のいる宇宙へと動き始め、後数センチというところで全ての宇宙は隣り合い、何かしらの繋がりを持った。
男がした事はなんら特別な事ではない。ただ目を付けた複数の宇宙の配列を並び替えて、比較的容易に宇宙同士の壁を超えられるように細工をしただけである。
言葉にすると実に驚く事をしたわけだが、この男からしたら並行宇宙の配列を自在に操る事など、赤子の手を捻るよりも簡単な事なのだ。
「私が用意したのは異なる宇宙に存在する人物、物、事象、概念―――そしてそれらの干渉を容易にした。そんな数多くの
すると複数の宇宙から様々な人物、物、事象、概念などが赤ん坊がいる宇宙へと流れ込み始め、新たな複合宇宙が完成する。
それを満足そうに確認した男は改めて指揮棒を振るうように腕を振り上げ、詠い始める。
「では一つ、皆様私の歌劇を御観覧あれ」
「その筋書きと役者は
「遍く全てが良い。至高となり得る」
「故に面白くなると思うよ」
「では、今宵の
男が詠い終わると同時に徐々に男がいた空間が暗闇に包まれていく。
「ふふ…ふふふ……ふははははははははははははははははは!!」
段々と暗くなってゆく空間に男の不気味な笑い声が響き渡る。その恐ろしくも不気味な笑い声は、これから始まる物語の様に長く続くのだった……。
その頃、別の空間では死者の城の主である男が玉座に座っていた。片肘を肘かけに置き、口元に優雅な微笑を浮かべていた。たったそれだけの動作で重力とは違う重圧がその場を支配する。
「カール―――我が友よ。これまた随分と大きな舞台を用意したものだな」
一言、男にとっては何気無い普通の言葉を発しただけで、辺りには先ほどより何倍も強い重圧がのしかかる。そんな事も気にせず、黄金の獣と呼ばれる男はさらに笑みを深くした。
「このような大きな舞台を用意したという事は―――さしずめあれかな?この舞台で私にも再び踊ってほしいと言っているのかね?」
虚空に問いかけた疑問に答える声は無い。しかしほんの一瞬だけ男の視線の先が不規則に揺らいだ。
常人ならば一切感じ取る事が出来ないであろうその揺らぎを感じ取った黄金の獣は今にも大声で笑い出しそうな程笑みを深めた。
「なるほど……此度の歌劇、私は傍観する気でいたが、卿がそういうのであれば私も踊らせてもらおう。―――さあ、我が友に選ばれた者たちよ。私やカールを失望させてくれるなよ」
すると黄金の獣の頭の中で友人の笑い声が木霊しだす。
それにつられたのか、黄金の獣もついに耐え切れずに笑い出した。
「ふふ…ふはは……はははははははははははははははははは!!」
広い玉座の間に笑い声が響き渡る。これから始まる物語を心から祝福するかの様に……。
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