アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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小説一巻完結!お楽しみください!



第九話

side 影月

新刃戦(しんじんせん)》から一晩が経ち、日の光が西へと傾き始めた頃―――優月が目覚めた。

俺は医療棟に運ばれて治療された後、今日の午前中位には目を覚ましたのだが、優月は戦闘での体力の消耗が俺よりも激しかった為、目覚めるのに時間が掛かったようだ。

 

「う、うぅ……あれ……私……」

 

「お、目が覚めたか、優月」

 

「兄さん……?ここは……?」

 

「学園の医療棟だよ。体調はどうだ?」

 

「そうですね……まだ少し体がだるい気がしますが……大丈夫です」

 

そう言って優しく笑う優月を見て、一先ず大丈夫そうだなと俺も笑みを浮かべる。しかし優月はすぐに真面目な表情になって俺へと問い掛けてくる。

 

「……兄さん、ヴィルヘルムは?あの後一体どうなったんですか?」

 

「ああ、その事だが……まあ、一つずつ順番に報告しよう」

 

俺はそう答えた後、読んでいた本を閉じてあの後の顛末を優月に説明した。

優月が気を失った後にヴィルヘルムが傷一つ無く立ち上がって、また機会があればやってくるかもしれない事。

そのヴィルヘルムが去った後、三國先生や怪我を負っていた透流たちが来てくれた事。

そして《新刃戦》の負傷者の中で俺たち二人が一番重傷だった事などを話した。

 

「私たちが一番重傷だったんですね」

 

「ああ、でもよかったよ。俺たちみたいに骨が折れてたり、内臓が幾つかやられたような奴が他に居なくてさ」

 

「あはは……確かにそうですね。ところで兄さん、頭の方は大丈夫ですか?」

 

「ん?ああ、大丈夫だ。少しの間こうして包帯をしていれば問題ないらしいからな。体の方も幾分か動かせるようになってきたよ」

 

骨や内臓などを損傷したと言うのに、一晩である程度問題無く体を動かせるようになるとは思わなかった。正直、《超えし者(イクシード)》の回復力が常人の数倍とはいえ、治るのは結構な時間が掛かるとは思っていたのだが。

そしてその回復力は今寝ている優月にも備わっているだろうから、もう少ししたら優月もある程度自由に体を動かせるようになるだろう。

 

「……ヴィルヘルムはどこへ行ったのか分からないんですか?」

 

「ああ……」

 

そしてそんな大怪我を俺たちに負わせて、立ち去ったヴィルヘルムについてだが……《新刃戦》の救援などで周辺の捜索に人員が回されるまでの時間が掛かり過ぎてしまい、結局ヴィルヘルムは発見出来なかったと聞いた。

 

「……やっぱり倒しきれなかったんですね……」

 

「……仕方ないさ。俺はそれよりも優月のあの雷化の方が色々と気になったんだがなぁ?」

 

「う……じ、実は……」

 

説明を求める視線を優月に向けると、彼女は《新刃戦》前夜に見たという夢の話をしてきた。その夢の中で優月はある一人の女性に自らの渇望(ねがい)について相談して、自分の渇望(ねがい)をその女性に自覚させられたらしい。

そしてその時、優月はその女性自身の渇望(ねがい)を聞いて、自分もそれに同調したからあの能力を使えたんじゃないかと言った。

 

「戦友が道を見失わないように明るく照らす光になりたい……か」

 

「はい……あの人はそう言っていました」

 

「……ということは優月も?」

 

「いえ、私はちょっと違って……大切なこの学園の皆さんや兄さんの笑顔を守って、照らしていきたいんです」

 

「……そうか……優月らしいな」

 

そう言うと優月は一瞬顔を赤くして俺の方を見てくる。

 

「……そういう兄さんはどんな渇望(ねがい)なんですか?」

 

「俺か?俺は……俺は大切な友人や優月を守る為に、勝利をもたらしたい。例えどんな手段を使っても……俺が血濡れになったり、犠牲になったりしてもな?」

 

俺がそう言いながら右手で優月の頭を優しく撫でる。しかし優月は俺の渇望(ねがい)を聞いて、少し悲しそうな顔をして俺の顔を見てきた。

 

「……兄さん、血濡れになったり犠牲になったりしてもって……そういうのやめてくださいよ……」

 

そう言う優月の両頬には一筋の線を残して流れる透明な水滴が浮かんでいて―――その水滴はポタリと優月の両手を握っていた俺の左手に落ちた。

それと同時に優月は俺へと両手を伸ばしてきて、そのまま優しく抱き寄せてくれた。

 

「私は……兄さんにも笑顔で居てほしいし、そんな兄さんを照らしていきたいんですよ……?」

 

「……うん」

 

「だから……犠牲になるとか言わないでくださいよ……!もし兄さんが居なくなったら……私は……!」

 

そこで遂に感情が抑えきれなくなったのか、優月は静かに泣き始めた。

 

「兄さん……お願いですから……居なくならないで……」

 

「……分かったよ、優月」

 

そんな優月を見て、昔こんな感じで優月に泣き付かれたなと懐かしみながら、俺は優月が落ち着いて泣き止むまで抱き締め返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺と優月は医療棟のお医者様に寮での生活に支障は無いと太鼓判を押してもらって医療棟から出た後、そのまま寮の自室には戻らずに理事長室へと向かった。

その理由は昨日の出来事の詳細を詳しく知る為だ。

 

「―――まずは昨夜の《新刃戦》、お疲れ様でしたわ。聞けば貴方たちは昨夜の戦いでかなりの大怪我を負ったと聞きましたけれど……その様子を見る限り、どうやら大丈夫そうですわね」

 

理事長室に入り、来客用のソファへ俺たちが座ると理事長、九十九朔夜(つくもさくや)は妖艶な笑みを浮かべながらそう口を開いた。

俺はそんな彼女に向かって苦笑いを浮かべる。

 

「ええ、《超えし者(イクシード)》の卓越した回復力って奴で何とか動ける位には大丈夫ですよ」

 

「くはっ、随分と治るのが早いじゃねぇか《異常(アニュージュアル)》。テメーらより軽傷だったあの銀髪と《異能(イレギュラー)》はまだベッドの上だってのによぉ」

 

「……月見先生、元々そういう口調なんですか?」

 

「ああ、理事長や三國の前では大体この口調だぜ」

 

「ガラ悪いな……理事長、なんでこの人を教師として雇ったんです?」

 

「入学当日に三國から説明されたでしょう?璃兎は人格面に問題はあれど、技術や能力については申し分無いので手元に置いているのですわ」

 

「……なあ、《異常(アニュージュアル)》妹。アタシってそんなに人格に問題あるように見えんのか?」

 

「…………ええ、まあ……はい……」

 

目を逸らし、苦笑いを浮かべて肯定する優月とそれに少しながら傷付いているようにも見える月見先生を尻目に、俺は理事長からあの日の事について聞く。

それによって俺たちは月見先生の裏の顔を知ると同時に、今回の《新刃戦》で月見先生が透流たちを殺す気で襲い掛かった事を聞いた。そしてその理由も。

 

「現場の判断を月見先生に任せるって……それで本当に透流さんたちが死んだらどうするつもりだったんですか?」

 

「その時は所詮、彼らもその程度の実力しかなかっただけの事。私は過酷な環境で芽吹く種子(シード)こそ、美しき花を咲かせると考えていますの」

 

「美しき花、ですか……そしてそんな花がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至ると?」

 

「そういう事ですわ」

 

「でも、その果てに何があるかは分からないんだろう?」

 

「だからこそ、私は見たいのですわ」

 

俺たちはそんな話を数分程した後、俺はある事を理事長に聞いた。

 

「理事長、聖槍十三騎士団って何なんです?裏に通じているのなら分かるとヴィルヘルムは言っていたんですが……」

 

そう俺が問いかけると理事長は、少し眉を潜めて説明を始めた。

 

「―――彼らは第二次世界大戦(World War Ⅱ)にナチスドイツの裏の裏で作られた集団ですわ」

 

元々は当時の指導者たち―――ラインハルト・ハイドリヒやカール・ハウスホーファーを含んだ当時の上級将校たちの秘密クラブのようなものだったらしい。

しかしある時、一人の魔術師が介入した事により、そのオカルト遊びを模した組織は本物の魔人の集団へと変化する。

 

「黒円卓の団員全員は国連の裏ルートで顔などの情報が公開され、莫大な懸賞金が懸けられていますわ。その総和は主要先進国の軍事予算に匹敵―――いえ、それを超えるでしょう」

 

「……それってすなわち、たった十三人の戦力が主要先進国に匹敵するって事ですか?」

 

「そういう事になりますわね。少なくとも一人でも倒せば一生遊び暮らしてもお釣りが出る程の懸賞金が出ますから……」

 

そして第二次大戦から百八十年経った今でも団員は目撃されており、全く同じ容姿であることから年を取らないとか不老不死だとか言われているという。

現在騎士団の存在を知っているのは、一部の国の指導者と裏に深く通じている者だけで、紛争地帯や内乱などでその姿を見たと報告されると即座に戦略爆撃機を出撃させるという程の恐るべき存在であるらしい。

そして昨日現れたヴィルヘルムは騎士団の中でもかなり知名度が高く、紛争地帯などではその姿をよく見られるそうだ。

そんな恐ろしい存在が昨日学園に現れたので、理事長はかなり焦ったらしい。

 

「なるほど……確かにそんな相手が学園に現れたら誰でも焦りますね」

 

「ええ、私も驚きましたよ。貴方たちの救援に向かう前に一度ここへ報告の為に立ち寄ったのですが、その時の理事長は部屋の中を落ち着き無く行ったり来たりしていましたからね……長年、側についていますが理事長のあんな姿は今まで見たことがありませんでした」

 

「まじか〜……見たかったな〜、うろうろしている姿。《焔牙(ブレイズ)》破壊されてなかったら、アタシも見れてたかもしれねーな……」

 

「……とにかくこの事は他言無用でお願いいたしますわ。……正直、こんな話をしても信じる者は少ないでしょうが、あまり言いふらしていいような話でもありませんからね」

 

「分かりました。とりあえず他の奴に聞かれてもなんとか誤魔化しておきますよ」

 

「お手数ですが……頼みますわ」

 

その後、理事長室を後にした俺たちは寮の自室へと戻ってGWの予定を話し合ったり、聖槍十三騎士団について色々と話したりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、GWは体を大事にするということで寮で過ごすことにし、俺たちは寮の自室で毎日をゆっくりと過ごしていた。

そんなある日の夜―――

 

「―――ん……兄さん……兄さん……?」

 

聞き覚えのある声が俺の耳に届く。それを受けて俺の意識は薄っすらながら覚醒する。

 

「ん……優月?どうした?こんな時間に……」

 

顔を覗き込んでくる優月に問い掛けながら、枕元に置いてある時計をチラと見ると時刻は夜中の十二時位を指していた。

 

「起こしてすみません……実はついさっき隣の部屋から誰かの絶叫が聞こえて……扉が閉まる音がしたんです」

 

隣の部屋―――俺たちの部屋は二階の一番端だ。なので隣の部屋と言われれば一つしかない。そしてその部屋に寝ているのは―――

 

「透流とユリエの部屋か……」

 

「どうしたんでしょうか……?」

 

こういうのはあまり首を突っ込まない方がいいのだろうが、俺は隣の二人の事に関して色々と気になっている所があるので―――

 

「……ちょっと様子を見てくるか。優月は?」

 

「……兄さんも行くなら私も行きます。そもそも兄さんを起こして隣の部屋云々を言い出したのは私ですし……」

 

そう決めた俺は廊下に出ようと扉に手を掛けたが、バタンと隣の部屋からもう一度扉が閉まる音が聞こえた為、少しだけ扉を開けて隙間から廊下を見る。

 

「……あれは」

 

そこに居たのは銀色の髪の少女。あれだけ目立つ髪色だからあれが誰なのかは言うまでも無いだろう。少女は自室の扉を閉めるとラウンジの方へと向かっていった。

 

「……ユリエさん、こんな時間にどこに行くんでしょう?」

 

扉の隙間から俺と同じようにユリエを見ていた優月は静かに呟く。

その後、ユリエの姿が完全に闇に包まれて見えなくなったのを確認した俺たちも自室から出て、ラウンジへと向かう。

 

 

ラウンジに着くと、透流とユリエはバルコニー近くの場所で何やら言い合っているようだった。俺たちはラウンジの入り口近くにあるソファの陰に身を隠して、彼らの様子をこっそりと伺う。

 

「トールがうなされているときの言葉が、聞こえました……。音羽……どうして……答えろ……許さない……絶対に――――――お前を殺してやる、と」

 

「…………忘れてくれ」

 

「それが……トールの()()ですか……?」

 

「忘れてくれ……!」

 

ラウンジ内の空気を震わせる透流の叫び。が、ユリエはゆっくりと首を振り―――

 

「私も―――」

 

上に着ていたシャツをはだけさせ、月光の下へその白い肌を晒した。

 

「ユリ、エ……?」

 

(……あれは)

 

「私も、トールと同じです」

 

「俺と……同じ……?」

 

その瞬間一陣の風が吹き抜け、彼女の銀色の髪(シルバーブロンド)が舞う。

そんなユリエの背中には一条の傷痕があり、ユリエがある事を告白する。

 

 

 

「私もトールと同じ―――《復讐者(アベェンジャー)》です」

 

 

「な……!」

 

「《復讐者(アベェンジャー)》……ですか」

 

「っ!?誰だ!?」

 

ユリエの発言を聞いて悲しそうに呟いた優月の言葉が聞こえたのか、透流とユリエは揃って警戒をする。

もうバレたのなら仕方ないなと内心苦笑いを浮かべた俺は優月と一緒にソファの陰から出て、二人の前に姿を表す。

 

「……影月と優月……?」

 

「よぉ……その……なんだ」

 

「……お二人とも、いつからそこに……?」

 

「……透流さんとユリエさんが言い合いを始めた時位からですね」

 

「優月が隣の部屋から絶叫が聞こえたって言ってな……気になって見に行こうとしたら、丁度ユリエを廊下で見かけたから着いていったらここに……って感じだな」

 

俺の説明に透流は若干赤面している。どうやらその絶叫は透流のものだったようだ。

それよりも俺はある事に赤面しかけているのだが。

 

「……なあ、とりあえずユリエ」

 

「?はい……?」

 

「シャツ、ちゃんと着てくれないか?」

 

「―――っ!!ヤ、ヤー!」

 

俺たちが姿を現してからユリエはずっとシャツをはだけさせたままこちらを見ていた。それはつまり彼女の胸部がかなりきわどい所まで見えているという事実に他ならなくて―――それに気付いたユリエは咄嗟にシャツのボタンを掛けてくれた。

 

「す、すみません……」

 

「いや、気にしてないし見えてもないから大丈夫だ」

 

「兄さん……」

 

何か言いたそうに見てくる優月の半眼をスルーして、俺は咳払いを一つして話を戻す。

「それにしても……復讐か」

 

「……なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」

 

俺がそう呟くと透流は先ほどまでの雰囲気をガラッと変えてこちらを睨んできた。ユリエもこちらを睨んでいる。

 

「別に何も無いさ。そんな事をするのはその人の勝手だし、事情を知らない俺らが口を挟むようなもんでも無いしな。まあ、ちょっとした警告のようなものは言わせてもらうが」

 

「止めないんだな……。それより警告って?」

 

「なんでしょうか?」

 

二人は俺の対応に驚いたような顔をしたものの、話を聞く姿勢になった。

 

「……復讐を誓った奴がただただその相手を倒す為の力を求め、最終的に復讐を成し遂げた結果……そいつの心にはある感情が生まれる。それが分かるか?」

 

「復讐を成し遂げた結果、生まれる感情……?分からないな……」

 

「ナイ、私も分かりません」

 

「……そうした思いを持って復讐を成し遂げた奴はな、無気力になるんだよ。もうちょっと分かりやすく言い換えると、その後の生きる目的を失うって感じか」

 

「……生きる目的?」

 

「そうですね……。最初の時は復讐する相手を倒す、あるいは殺す為に修行をしたり勉強をしたりと色々努力するでしょう?つまり今の二人がそういう状況なのですが……」

 

「そうだなぁ……例えばだ、もし天下最強の剣士になりたいと言っている奴が居たとするだろ?そしてそいつが努力してあらゆる強敵を倒して天下最強の剣士になったとしよう。その後、そいつは何をすると思う?」

 

「……さらに腕を磨く……ですか?」

 

「そうだな。あるいは天下最強の剣士である自分を倒そうと挑んでくる奴と戦うとか、まあ色々あるだろ?」

 

何かの頂点を極めた奴はその目標を成し遂げた後も何かしらやる事が出てくる。ゲームで言うならラスボスを倒してエンディングを見た後に出現する隠し要素をやるとか、まだ獲得していないアイテムとか称号だとかを入手するなどまだまだ遊べる要素が出てくるだろう。しかし―――

 

「でも逆に個人的な感情で行う復讐って奴は、たとえ成し遂げてもその後には何も無いって事がほとんどだ。そりゃそうだよな?唯一の目的は復讐相手を倒す事なんだから、それが終われば他にやるべき事が一つも無くなる。相手を倒した以上は自分の牙をもっと鋭くする必要は無いし、自分に挑みかかってくる奴もほぼ居ないだろう。それ以上に虚しくなって何もする気が起きなくなるだろうしな」

 

「虚しく……?」

 

復讐とは激しい憎悪や悲憤と言った理性をねじ伏せる感情が纏わり付く。ではその復讐を成し遂げ、憎悪が晴れて理性が戻った瞬間、人は何を思うだろうか?

 

「大抵はやっと復讐を成し遂げたとか、あの人の仇を取れたとか思うでしょう。でもそれと同時にこうも思う筈です。()()()()()()()()()()()()()()()―――」

 

「……透流、ユリエがさっき言っていた音羽って子はお前の妹か?」

 

「……ああ」

 

「そうか、ユリエは?誰が殺された?」

 

「……パパです」

 

「分かった。ならよく考えてみろ。もし仇を取ってくれと頼まれたなら話は別だが、お前たちがその復讐相手を殺したとしてだ。……透流、それを見て妹さんは喜ぶと思うか?自分の兄が人殺しになってまで復讐を果たしてくれて嬉しい―――なんて言うと思うか?」

 

「っ……」

 

「ユリエだって同じ事だぞ?真っ当な人生を投げ捨ててまで復讐してくれてありがとうなんて……君の父親は言うと思ってるのか?」

 

「っ!……お、思いません……」

 

「そうだよな……それが家族なら尚更だ」

 

自分は何の為に復讐をしたのか?仇を取ってくれと殺された人から頼まれたから?それとも―――ただの自己満足の為に復讐したのか?

そんな事をずっと考えている内にその者の精神は少しずつ壊れていき、最終的には何もやる気が起きない廃人になるか、自分で自分が嫌になって自殺するというパターンになったりする。

 

「つまり復讐者に待っているものは……破滅です」

 

「破滅ですか……ですが、その後の目標をしっかり持っていれば―――」

 

「もちろん復讐を成し遂げた後に新しい目的を見つけて生きた者は居るし、初めから復讐した後の事も考えている者だって居る。だが、それでも平和に生きて死んだ者は一握りしか居ない」

 

「そもそも復讐っていうものはそう簡単に成し遂げられるものでもありませんからね。復讐しようと力をつけている最中にやられたり、あるいは復讐を果たした後にその復讐した相手の親しい者が復讐し返しに来た……なんて話もあります」

 

「「………………」」

 

俺たちの話を聞く透流とユリエは下を向き、黙ってしまった。おそらく今の自分の気持ちについて色々と向き合っているのだと思う。

 

「……とまあ、ちょっとした警告の割には散々リスクとか色々言ったが……何にせよ最終的に復讐するかしないかはお前たち次第だから俺たちは止めない。だが、本音を言うなら二人には復讐の道を歩んでほしくはない。それは君たちの亡くなった家族も同じような事を思っているだろう……」

 

「「…………」」

 

「でも、それでも復讐したいと言うなら……せめて憎悪には飲まれないようにするんだ。まあ、幸いな事に俺たちには《焔牙(ブレイズ)》っていう自分の心を武器にしたものがある。その形の真意を汲み取っていれば、そう簡単に破滅はしないだろう」

 

「真意……か」

 

「……私たちは警告しましたからね。二人とも、絶対に―――憎悪に飲まれて取り返しのつかない事をしないようにしてください。失ってから後悔するのが何よりも悲しいですからね。分かりましたか?」

 

「ヤー、分かりました」

 

「ああ、分かった」

 

優月の言葉に頷くユリエと透流はしっかりと決意したような表情を浮かべていた。これなら彼らが簡単に憎悪に堕ちる事は無いだろう。

 

「よし!ならもう今日は部屋に戻って早く寝ろ!俺もさっさと寝たいからな!」

 

「ははっ、分かってるよ。じゃあ俺たちも戻るか、ユリエ」

 

「ヤー」

 

そして俺たちはラウンジを出て自分の部屋へと戻る。そして透流とユリエの部屋の前で別れる際、二人は俺と優月に向き直った。

 

「じゃあ二人とも、俺のせいで起こしちゃってすまなかったな」

 

「気にするな。それとさっきまで喋ってた事は誰にも言わないから安心しとけよ?」

 

「ああ……。二人とも、本当にありがとな。じゃあまた明日……」

 

「ああ、おやすみ」

 

「ヤー、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい。二人ともゆっくり休んでくださいね」

 

そして二人は自分の部屋へと戻っていった。

 

「さてと……俺らも寝るかぁ……」

 

「そうですねぇ……ふわぁ……」

 

そして俺たちも自室へと戻り、再び寝始めるのだった。

 




次は二巻です。誤字脱字・感想等よろしくお願いします!
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