アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
side 優月
「ふわぁ……眠いです……」
「そんな事言わなくても分かってるって……俺だって眠いんだから……」
「あ〜……昨日はごめんな?俺とユリエのせいで睡眠時間削ってしまって……」
「影月、優月大丈夫ですか?」
透流さんとユリエさんに警告をした日の翌朝―――私たち四人は横一列に並んで座り、朝食を食べていました。
ですが、大半の生徒はいつも同じ場所で食事を
なので私たち四人が揃って朝食を食べている事もごく当たり前の事であり―――この時間を共に過ごす相手が同じなのもごく当たり前の事になっていました。
「お、おはよう透流くんにユリエちゃん。影月くんと優月ちゃんもおはよう……」
並んで座る私たちに掛けられる聞き慣れた声。
その声の主―――みやびさん(本人から名前で呼んでほしいと言われたので名前で呼んでいます。ちなみに兄さんも名前で呼んでと言われたそうです)は私たちへ優しく笑い掛けながら挨拶をしてくれました。
「「「「おはよう((ございます))。みやび((さん))」」」」
同じ一年生であるみやびさんもまた、私たちと一緒にこの時間を過ごす相手となっていました。
みやびさんは透流さんとユリエさんに交互に視線を向けて僅かに逡巡した後、ユリエさんの前へと座りました。
「…………」
「……?兄さん、どうかしましたか?」
するとそんなみやびさんを見て、兄さんが薄っすらと笑みを浮かべているのに気付きました。
「ん?いや……なんだか賑やかになったなって思ってな」
「……ふふっ、そうですね」
確かにこの学園に来た時は色々と不安があったり、ついこの間の《新刃戦》で色々と大変な目にあったりしましたが、なんとか友人も多く出来ましたし、毎日を楽しく過ごす事が出来ていると思います。そんな毎日を兄さんは嬉しく思っているみたいです。無論私もですけどね♪
「そういえば……今日は一人なんだな。橘はどうしたんだ?」
そんな事を思っていると、透流さんがみやびさんにそんな事を言いました。そういえば今気付きましたが、みやびさんの《
「あ……
「みんなを?」
「うん。寝ぼすけの子もいるから、遅刻しないようにって……。朝はいつもこの時間になると、みんなの部屋を回って起こしてるんだよ」
「ははっ、橘らしいな」
私たちが親元から離れて暮らし始めてから早一ヶ月余り。寮監が居ても生活リズムが乱れやすい朝を、巴さんが律しているんでしょう。それも多分自発的に。
生真面目であり几帳面である巴さんらしいですね。
そんな事を思っていると、透流さんが溜息を吐いてぼそりと呟きました。
「……だったら野菜を減らして肉をもっと多くしておけばよかったな……」
「へ〜……だってよ?橘」
「……九重、私が居ないのをいいことに偏食しようとするな」
「た、橘!?」
透流さんの呟きを聞いた兄さんがそう言いながら後ろを向くと、そこには怒気の篭った声で透流さんを見下ろし睨んでいる巴さんが居ました。
「おはようございます、巴」
「やあ。おはよう、ユリエ。影月も優月もおはよう」
「「おはよう(ございます)」」
これまで静々と箸を動かしていたユリエさんが頭に結んである鈴の音をチリンと立てながら頭を下げると、巴さんは微笑みながら挨拶をし、そして私たちにも挨拶してきました。
そして私たちも挨拶を返すと、巴さんはほっとしている表情の透流さんを再び睨んで―――
「何をほっとした顔をしているんだ」
「い、いや、ははは……」
「全くキミという男は……」
体を恐縮させる透流さんに溜息を吐きつつ、巴さんは透流さんの正面へと腰を下ろしました。
「し、仕方ないだろ。俺くらいの年の男子だったら、肉を食いたいって思うのは当然―――」
「その肉と同じ位の量の野菜を食べているのなら私だって何も言うつもりは無い」
「うっ……」
「だいたいキミは肉ばかり食べ過ぎだぞ。前々から言っているように、もっと野菜を摂るべきだ。ユリエやみやび、影月や優月を見習ってな」
ユリエさんのトレイには和風サラダに玉子焼き、メインの焼き鮭にお茶碗半分位の白米と日本の朝食らしい組み合わせの食事が乗せられていて、みやびさんはポトフにBLTサンド、そして飲み物に牛乳といった組み合わせになってます。
そして兄さんのトレイには漬け物やお味噌汁、生卵に焼き鮭、そして白米に飲み物は緑茶といったまさに日本食の定番とも言える組み合わせが乗っていて、私はスクランブルエッグや洋風サラダ、コーンスープにバターを塗った食パンといった洋食の組み合わせです。
「……え、影月もこの気持ち分かるよな!?」
「……透流、野菜も食べるべきだぞ?」
「ぐっ……」
巴さんの説教の中で兄さんを味方に引き込もうとした透流さんでしたが、ばっさり切り捨てられました。
「そうだ、この八種の温野菜サラダを食べたまえ。キミならこれくらい食べきれるだろう?」
巴さんはドン、とサラダが乗っている皿を透流さんの目の前に置きました。
「うげ……じゃなくて、い、いや、それじゃ橘の朝メシが少なく……」
「安心したまえ、私の分はもう一度取ってくる。……む、せっかくだからこの小松菜のしそ昆布あえもどうだ?それとこちらのひじきの煮物も―――」
「―――ああ、そういえば透流」
「っ!?な、なんだ影月?」
「いや〜、実はさっきあるものを多く取ってきてしまってなぁ……ちょっとお裾分けしてやろうと思ってな?」
兄さんがニコニコと笑いながら透流さんの目の前へ置いたのは、セロリが大量に入ったサラダでした。
「はっ!!?ちょ、ま……え、影月!?」
「セロリ、嫌いなんだろ?好き嫌いは無くさないと……なぁ?」
兄さんのわざとらしい笑みを見て、透流さんは顔を真っ青にさせて頭を抱えてしまいました。
朝食後、私たちは雑談を終えて教室へ行くと、見慣れた小柄な男子が机に突っ伏して寝ていました。
「なんでトラが
「……退院してきたからに決まっているだろう、このバカモノ」
透流さんの呟きに
「随分早い退院だな。後十日位は安静だっただろ?」
「ふんっ、そこまで休んでなどいられるか」
GW中、私たちはある程度動けるようになった透流さんたちと一緒に病棟へトラさんのお見舞いに行ったのですが……無様な姿を見せられるかと言われて即座に追い返されてしまったのです。
その後で看護婦さんから怪我の状況と退院予定日を聞いたのですが、どうやらトラさんは無理矢理退院してきたようです。
「無理して怪我が長引いたらどうするんだよ。大人しく寝とけって」
「透流の言う通りだな。それによく言うだろ?寝る子は育つって……いや、なんでもない」
「影月貴様ぁ!僕の事をちっこいと言うのかぁ!」
そんなトラさんの怒鳴り声にみやびさんはびくりと驚き、怯えるように透流さんの後ろに隠れました。
「大丈夫だって。今のは影月に突っ込んだだけだから」
「う、うん……。…………あ!」
透流さんがそんなみやびさんに笑い掛けると、彼女は一瞬目を見開き―――即座に一歩後ろへ下がって謝りました。
「ははっ、別に噛み付いたりしないって。影月もな?」
「だから俺らは犬かっての……」
そんな二人の一言にみやびさんはくすりと笑いました。
「しかし本当に大丈夫なのか?
「その言い草からすると、お前も事情を知っているということか?」
トラさんの問いかけに巴さんが首を縦に振りました。
あの日、何が起こったのかはここにいる透流さん、ユリエさん、巴さん、みやびさん、トラさん、タツさん、そして兄さんと私は知っています。とはいえ私たちはただ説明を聞いただけなのですが。
あの後、巴さんとみやびさんは月見先生にやられたトラさんたちも含め怪我人全員に応急処置をしていたらしいです。まあ、その頃の私たちは病棟で治療を受けていたそうですが……。
「そうか、僕に応急処置を……橘、穂高、助かった。感謝する」
事情を理解したトラさんは二人に向かって頭を下げました。すると、透流さんと兄さんは何か信じられないものを見たような顔をしました。
「「…………」」
「……透流、その顔は何だ?」
「兄さんもどうしました?」
「「驚いてる」」
「どうして驚いてるのですか?」
チリンと鈴の音を立てて、ユリエさんが小首を傾げます。
「いや……だってトラが人に頭を下げてるから……」
「その程度で目を丸くするなっ!僕だって本当に感謝するときは頭くらい下げる!」
「だってトラだぜ!?なあ、影月!?」
「ああ!!」
「貴様らの中で一体僕はどんな扱いだっ!!」
「感謝する時もいつもの態度を崩さないとか思ってたぞ!?」
「俺も似たようなもんだな。つまりあれだ、「べ、別にこの程度の事で頭を下げて感謝なんかしないんだからね!?」って感じだな」
「ああ、つまりツンデレですね?」
「優月、男のツンデレってどう思う?」
「……いいと思いますよ?可愛いと思いますし!」
「か、かわっ……!?」
「……トール、トラ、影月。ケンカはよくありません」
「くすくす、ケンカじゃないから大丈夫だよ、ユリエちゃん」
兄さんたちの言い合いにみやびさんは小さく笑い、ユリエさんは首を傾げました。
―――それにしてもやっぱりこうやってふざけ合っている時が一番楽しいですね。だから私はこうやって楽しく笑っている皆さんの笑顔を―――
「―――そういえば、影月と優月も怪我をしたそうだな?聞く所によるとかなりの重傷を負ったそうだが……そんなに激しい闘いをしたのか?」
そんな事を思っていると、巴さんが突然私たちにそんな事を聞いてきました。
その言葉に透流さんたちや、私たちの会話を聞いていた他のクラスメイトの人たちは一斉に私たちへ視線を向けます。
「ん?まあ……激しかったな。あの
「そうですね……今思えば、死んでいてもおかしくなかった戦いでした……」
「死んでもおかしくない……?」
私の言葉に首を傾げる透流さんたちを見て、私たちは苦笑いを浮かべます。
「影月、優月、それは一体どういう―――っとチャイムだな。また後で聞かせてもらおう」
鳴り響く始業のチャイムに巴さんは私たちへの質問を切り上げて自分の席へと向かっていきました。それを見てみやびさんや透流さんたちも自分の席へと向かい始め、私たちもまた自分の席へと座ります。
そして―――
「おっはよーん♡GWは楽しかったー?まさかと思うけど遊びすぎて課題をやってこなかったイケナイ子はいないよねー?いるんだったらすぐに手をあげなさーい♡」
「―――っ!!」
チャイムが鳴り終わって教室へ入ってきた月見先生を見た瞬間、数人の息を飲む音が聞こえました。
それを受けてすぐに視線を向けると、透流さん、ユリエさん、巴さん、みやびさん、トラさん、タツさんが立ち上がっていて、それぞれが胸に手を当てて《力ある言葉》を口にしようとしましたが―――
「―――おいおい、どうしたんだよ?六人揃って胸に手を当ててさぁ?」
『なっ……!!?』
透流さんたちにとっては目にも止まらぬ速さで移動した兄さんは、一番近くにいた透流さんとユリエさんの手を掴んでニヤリと笑いました。
「もう授業が始まるぞ?それと許可無く勝手に《
「そうですよ。だから、ほら―――早く席に座ってください」
私と兄さんはそう言いながら、薄っすらと威圧するような殺気を向けます。
それを受けた皆さんはとても驚いた表情で私たちを見ましたが―――
「二人の言う通りです。六人とも座りなさい」
月見先生に続いて入ってきた三國先生にピシャリと言われ、皆さんは困惑しつつも席に座りました。
「さっ☆それじゃあ久しぶりのHRをはっじめるよー♪」
そう言いながら、月見先生はGW前と変わらない調子でHRを進めていきます。
その最中、私は横目で先ほど立ち上がった皆さんの顔を見てみましたが、その顔は明らかにこの状況に困惑しているといった表情を浮かべていました。さらに兄さんや私がなぜ自分たちを止めたのか分からないといった表情も浮かべていました。
「というわけで事前に説明していたとーり、成績の良かった《
呼ばれたのは透流さん&ユリエさん、巴さん&みやびさん、トラさん&タツさん、兄さんと私、そして他二組の《
曰く、三勝以上が特別賞与の目安らしいです。
その後、今後の授業の事や今月の下旬に二年生と行う交流試合、七月には臨海学校がある旨が伝えられてHRは終わりました。
チャイムを合図に月見先生が教室から出て行き、それに続く形で三國先生も出て行く―――かと思いきや、三國先生は何かを思い出したかのように振り向いて、私たちに言いました。
「そういえば影月くんに優月さん、《新刃戦》の時のお礼をまだ言っていませんでしたね。あれを退けてくれてありがとうございました。理事長もお礼を言っていましたよ。では」
三國先生は私たちへ頭を下げると教室を出ていきました。
そんな三國先生の言葉にクラスメイト全員が私たちへ視線を向けますが、そこで一般学科の先生が教室に入ってきた事で皆さんは視線を前へと戻し、授業を受け始めました。
そして休み時間に入ってすぐの事―――
「あれはどういう事だ、二人とも」
私たちは次の授業の準備をする暇も与えられずに、透流さんたちに廊下へと連れ出されました。
「ふむ、どういう事かと言われてもな。見ての通りとしか言えないが?」
「ふざけるなっ!僕たちはなぜあの女が再び現れたのか聞いているんだぞ!」
「なぜって……彼女が俺たちのクラスの担任だからに決まってるだろ?」
「なっ……!そ、そういう事では無くてだな―――」
「もう……それなら本人に直接聞けばいいんじゃないですか」
「本人?」
私はそう言っておもむろに廊下の窓を開けました。すると―――
「ああ、教えてやるぜ、《
先ほどから主題となっている人物の声が聞こえ、窓から月見先生が入ってきました。
「よぉ、窓を開けてくれてありがとよ。《
「いえいえ、そろそろ入ってくるかな〜とか思ったんで開けただけですよ」
私が月見先生と楽しく談笑する様子を見て、透流さんたちは困惑しながらも敵意を向けていましたが―――
「―――あのなぁ……お前ら、いい加減にしろよ」
「本当にそうだよなぁ……見ての通り、アタシはおめーらと
面倒そうに頭をかいた兄さんと月見先生は透流さんたちに向けて先ほどよりも少し強い殺気を向けました。
それを受けた透流さんたちは再び困惑し、元々荒事に慣れていないみやびさんは殺気を放つ兄さんを見て涙目になります。そんな様子を尻目に兄さんは続けます。
「……月見先生はこの通り、首になってない。見れば分かるだろ?この人は今も教師だ」
「……俄かには信じ難いけど、どうやら本当らしいな」
「だぁめだよ、九重くん☆先生にはきちんと敬語を使わないとねっ♡」
「……もう少しで殺されそうになった相手に無理を言うな」
「くはっ、死ななかったんだから堅苦しいこと言うなっての」
「だったらあんたも敬語を使えなんて堅苦しいことを言わないでくれ」
「っ!全くだ!いいセンスしてるよ、《
月見先生は透流さんの返しに目を丸くし、腹を抱え膝を叩きながら笑いました。
そしてその笑いが収まると、月見先生は愉しそうな笑みを浮かべながら腕を組んで壁に寄り掛かります。
「……ならば僕から質問だ。どこの誰がどんな理由で僕たちを襲わせたのか貴様の口から答えてもらおうか」
「くはっ、いいか覚えとけガキども。世の中には《
「それって……」
「まさか……そんなバカな。国家が出てくるような話だと言うのか……」
驚きを隠せない巴さんへ、月見先生は戯けるように言います。
「くはっ、覚えておきな。世界中ほとんどの国には暗部ってもんが存在する。そしてそれはこの昊陵も同じ―――つまりこの学園は日本という国にとっての暗部なのさ。でなけりゃ秘密裏とはいえ、ナノマシンで化け物制作っつー非人道的行為なんて出来るわけねーだろ」
「つまりそういう事だからお前たちを襲うように指示したのは誰だとか、どんな理由でだとかは教えられないそうだ。……まあ、俺たちはちょっと厄介な奴らに目を付けられたから、多分それなりに深く関わると思うけどな」
「厄介な奴ら?それはどういう―――」
「“Lestzte Bataillon”―――といえば、トラさん辺りなら分かるんじゃないですかね?」
「―――第三帝国だと……!?」
トラさんと巴さんが愕然とした表情を浮かべ、透流さんたちは訳が分からなさそうに首を傾げます。
「おい、ちょっと喋り過ぎだぞ?《
「すみません月見先生。―――ですが、彼らに話しておいて損は無いでしょう?彼らはいずれまた現れるでしょうから……」
「……確かにそうかもしれねーがとりあえず今はやめとけ。まだあちらさんが本当においでなすかどうかは分からねーんだからよ。ま、それでもいつ話すかはおめーらに任せるわ。……さてっと、そろそろ休み時間も終わっからまた後でな。授業に遅刻すんじゃねーぞ」
そして月見先生はひらひらと手を振りながら去っていきました。
「……さて、俺たちも教室に戻るか」
「そうですね。それじゃあ―――「待て!」」
月見先生を見送り、私たちも教室に戻ろうとした瞬間に巴さんが私たちを呼び止めました。その顔は困惑や疑念、そして不安などが浮かんでいました。
「キミたちは……全て知っているのか……!?厄介な奴らとは……?」
「……全て、と言うわけではないが、君たちよりは知っている。それと厄介な奴らについてだが、また今度教えてやるよ。まあ……理事長から聞いた話をそのまま伝えるようなものなんだけどな」
そう言って苦笑いを浮かべた兄さんは教室へと入って行き、私もそれに続きます。呆然とした表情の透流さんたちを残して―――
それから数日後のある夜―――
「―――き、優月……?」
「う……うぅん……?兄さん……?」
耳元で誰かが自分の名前が呼んでいる―――そんな感覚を感じた私は深い闇の中から意識を覚醒させました。
眠い目をこすって瞼を少し開いてみれば、そこにはベッドの囲いの上から顔を覗かせている兄さんが私を見つめていました。
私はそんな兄さんを尻目に枕元に置いてある時計を見て、少しだけ憂鬱な気分になります。
「まだ一時じゃないですか……そんな時間に起こさないでくださいよ……」
私は少しだけ怒りながら、兄さんとは反対側の方へと寝返りを打って掛け布団を被りました。
しかし―――
「……優月」
「!?」
兄さんは私の寝ている二段ベッドの上段へと登り、掛け布団を無理矢理めくって私を引き寄せました。
「えっ!?あ、あの……兄さん!?い、いきなり何を……あ、あぅ……」
いつもなら絶対にしないような事をされた私は一気に眠気など吹き飛んで、ドキドキしながら兄さんに問い掛けました。でも―――いつまで経っても兄さんから返事はありません。
「……兄さん?どうし―――」
私がそうして抱き寄せられてから一分程経ち、なんとか落ち着きを取り戻した私は兄さんの顔を見て―――言葉を失いました。
「兄さん……?なぜ……泣いているんですか?」
「…………」
兄さんは私の顔を見て、無言で涙を流していました。とても悲しそうな表情を浮かべながら―――
「……兄さん」
私がそう、優しく言うと、兄さんは無言で私を優しく抱き締めてくれました。
「あ……」
「……優月……しばらく……このままでいいか……?」
「……はい、いいですよ」
私が了承すると、兄さんはさらに優しく、壊れ物を扱うように抱き締めてくれました。
私もそんな兄さんを抱き締め返して、優しく問い掛けます。
「兄さん、突然どうしたんですか?」
「……いきなりごめん……でも、少し怖い夢を見てしまって……」
兄さんは私にぽつりぽつりと理由を話しながら、静かに泣き始めました。
「夢ですか……どんな夢だったんです?」
「……優月が……俺の目の前で……死んでしまって……!」
―――ああ……。それはつまり―――
「……守り切れなかったんですね。守りたいと言っていた私の事……」
「っ!ごめん……!優月……!」
これは……兄さんの悩みが夢に現れた結果なんでしょうね。兄さんは昔から自分が守ろうとしている人に守られてしまうという事について色々と悩んでいましたから……。
「謝らないでください。私はちゃんと兄さんに守られていますよ。ほら―――今だって、ちゃんと守ってくれてるじゃないですか」
「っ……優月……」
私がそう言うと、兄さんはまるで私自身の体温をしっかりと感じたいといった風に抱き締めてくれます。
……こうやって私を大事に思ってくれるからこそ、私は兄さんと離れたくないんですよね……兄さんはきっと私の事をブラコンだとか思っているかもしれませんが……正直な所、兄さんも私のブラコンに負けない位シスコンだと思います。まあ、要するに私たちはお互いにかけがえのない存在同士なんでしょう。
「―――私は兄さんに守られています。だから大丈夫ですよ?それに……私は兄さんを残して先に死んだりしません。さっき兄さんが見てたのは全部夢ですから……忘れてください。ね?」
「優月……ありがとうな……」
そういうと兄さんは安心したのか、涙を浮かべた笑顔でお礼を言った後、静かに目を閉じて眠ってしまいました。どうやら泣き疲れて眠ってしまったようですね。
「……私の方こそお礼を言いたいですよ。今、私がここに居られるのは兄さんのおかげなんですからね……おやすみなさい」
私は眠ってしまった兄さんにそう言った後、再び襲い掛かってきた眠気に身を任せて、意識を闇の中へと沈めていきました。兄さんの温もりを全身で感じながら、ゆっくりと―――
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