アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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遅れました!続きをお楽しみください!

あ、それと……影月と優月の見た目と声ですが影月は藤井蓮を、優月は世良水希を思い浮かべてください。どちらも黒髪黒目です。優月の髪の長さは水希と同じ位です。



第十二話

side no

 

「はぁ……」

 

ここは黄昏の浜辺、黄金に輝く海と太陽の狭間にある時を止められ、閉じられた世界。その砂浜で一人ベアトリスは溜息を吐いた。

 

「まったく……副首領閣下のせいで藤井君に怒られちゃったし……」

 

あの後(第八話)、藤井蓮に仔細を尋ねられ仕方なく自分の知っていることを全て話したベアトリスは、藤井蓮にこっぴどく怒られた。

曰く、なぜあんな奴の頼みを聞いたのか。

あれに関わると後々面倒な事になる。

せめて相談くらいしてほしかったと―――

 

「ってか相談した所で反対するのはきっと変わらないでしょうに……。それにしても副首領閣下の事を許せないのは分かるけど、もう百二十年も経ってるからそろそろ許してあげてもいいと思うのになぁ……ハイドリヒ卿の事も」

 

藤井蓮はカール・クラフト・メルクリウスやラインハルト・ハイドリヒと仲が悪い。―――いや、仲が悪いというより蓮が一方的に嫌っているのだ。

ちなみに蓮が嫌っている相手のメルクリウスとラインハルトの方は蓮の事を嫌ってはいない。むしろ二人は蓮にある種の感謝や尊敬にも近い感情を抱いている。

まずメルクリウスだが、彼は蓮が自分が恋した至高の女神の恋人になってくれた事に対して、内心非常に感謝している。さらに百二十年前の怒りの日にてラインハルトと共に未知の結末を見せてくれたという思いでもまた感謝していた。

そしてラインハルトに至っては「私は全てを愛している」と万物全てが愛しいと公言している故に、嫌う筈が無い。さらにかつての怒りの日にてラインハルトが全力を出して戦っても壊れなかったのは、蓮かあるいはメルクリウスだけなのだ。尚更嫌う筈が無い。

なのでベアトリスは許してあげてほしいというより、お互いに歩み寄ればいいのに……みたいなニュアンスで言っている。

蓮は他二人の事を女神を守る黄昏の守護者としては認識しているが、こういう平和な時は極力関わりあっていない。

 

「はぁ……なんか居づらいなぁ……」

 

今現在、蓮は若干怒っているので他の者たちも少し居づらくなってしまっている。そしてその蓮を怒らせた原因は自分である為、ベアトリス本人が今一番この浜辺に居づらかった。

その時、ベアトリスは何かを思い出したかのように呟く。

 

「…………そういえば、あの世界を覗いていた時にちょっと面白そうな場所ありましたね……正直、ここに居ても気分が沈むだけですし、戒と螢を誘って遊びにでも行きますか!そうと決まれば―――戒ー!螢ー!遊びに行こー!」

 

そう言った彼女は二人の人物名を呼びながら、機嫌良く走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 優月

 

 

「兄さん!明日、日曜日なので一緒に出かけましょう!」

 

「……は?」

 

屋外格技場で《焔牙(ブレイズ)》を使った模擬戦を行ったその夜、夕食を食べて風呂などのやる事を済ませ、後は寝るだけという時に私がそんな事を言うと、兄さんはこいつ何言ってるんだ?という顔で私を見てきました。

 

「だから明日、休みなので一緒に出かけましょう!」

 

「……あー……うん。まあ、明日は特に用事も無かったから別にいいんだが……どこに行くのかとか、何をするのかとか決まってるのか?」

 

「はい!この近くにある大型ショッピングモールのあらもーどって所で服を買ったり、兄さんと一緒にデザート食べたりしようと思ってます!」

 

服は学園に入学する際に数着家から持ってきましたが、もう何着かほしいな……と思ってましたし、デザートは兄さんと一緒に食べたいな……と前から思ってました。

 

「そうか……ちなみに誰か他に誘ったりはしたか?」

 

「いいえ?私は兄さんと二人きりで行きたかったので誰も誘ってませんよ?」

 

「……さいですか」

 

そう言って、兄さんは苦笑いを浮かべました。

 

「……もしかして私と二人きりは嫌でしたか……?」

 

「いや、そんな事は思ってない。ただ昔、優月が俺と二人で出かけたい〜とか言ってたのを思い出して少し懐かしく思っただけだ」

 

「む……」

 

……確かに昔、兄さんによくそんな事を言っていた記憶はありますが……今掘り返さなくてもいいじゃないですか。

 

「そんな怒った表情(かお)するなよ優月。別に子供っぽいとか思ってないからさ。どっちかというと可愛らしいなと思ったよ」

 

「…………ならいいですけど……」

 

可愛らしい……なんか恥ずかしいですけど嬉しいですね。

 

「さて、なら今日はもう寝るか。明日少し早く起きて準備しないといけないしな」

 

「はい!」

 

こうして私たちは明日、あらもーどへ行く事にしました。

それにしても兄さんと一緒に出かけるのは久しぶりですね……兄さんと一緒に服とか選びましょうかね……。

 

「それじゃあ電気消すぞ」

 

兄さんはそう言いながら部屋の電気を消し、私は二段ベッドの上段に上がって横になりました。

それからしばらく私は明日が楽しみ過ぎて寝付けずにいましたが―――いつまでも起きている事は出来ず、私の意識は闇の中へゆっくりと落ちていきました。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 影月

 

翌朝、俺たちは朝早くに起きて準備をした後、事務局に外出届を出して学園を出た。

校門を出て小さな橋を渡ると、その先には昊陵(こうりょう)学園に通う生徒にとっては唯一となる外界への連絡路―――関係者専用のモノレールがある。懸垂型のモノレールは、学園前から東京と千葉を結ぶJR路線のとある駅付近まで五分足らずの距離で繋がっている。

車両へ乗り込むと、車内には一人か二人位しか乗ってなかった。まあ、利用可能なのが学園関係者のみだし、今は早朝なのでほぼ貸切のような状態になるのはある意味当然だろう。

 

「私たち以外居ないですね……」

 

「まあ、余程の事情じゃないと早朝に乗ったりはしないだろうからな」

 

俺たちはそんな事を話しながら、ボックス席に向かい合わせで座った。

 

「そういえば兄さん!私の服どうですか?」

 

すると優月がいきなりそんな事を言ってきた為、俺は優月の全身を改めて見た。

目立った汚れなど無い清楚な白いワンピースに動きやすそうなサンダルを履いている優月はまるでどこかの令嬢を思わせるような服装だ。本人の可愛らしい外見もあいまって、とても美しく清楚に見える。

そう思っているとモノレールが動き出して朝日が車内へと射し込む。そして朝日に照らされた優月を見て、俺は思わず息を飲んだ。

シミ一つ無い綺麗な足や腕、そしてとても綺麗に整った顔が明るく照らされた優月は少し眩しそうに目を細めたかと思えば―――苦笑いを浮かべた。

 

「どうしました?もしかして……似合ってませんか?」

 

優月は少し悲しそうな顔でそんな事を言う。

 

「い、いや!そんな事は無い!むしろ似合ってるよ。あまりにも似合い過ぎてて言葉を失ってたっていうか……思わず見惚れたっていうか……ああ、何言ってるんだ俺……ごめんな、変な事言って……」

 

「……ふふっ、別に変じゃありませんよ。似合ってるって言ってくれてとても嬉しいです」

 

優月は先ほどの悲しそうな顔から一変、にっこりと花が綻ぶような笑顔を見せた。

 

「兄さんもその服、かっこいいと思いますよ?」

 

すると今度は優月が俺の服装を褒めてきた。ちなみに俺の今の服装は白のTシャツに青いジャケットを着ていて、下は青いジーパンを履いている。

 

「そうか?いつも着ている服だぞ?」

 

「それを言うなら私だってそうなんですけどね……」

 

そんなたわいもない会話をしばらく交わしていると、間も無く駅に着くというアナウンスが聞こえた。

 

「さてと……それじゃあ行きましょうか」

 

優月はそんな事を言いながら、立ち上がってこちらに手を伸ばしてきた。

 

「あ、待て優月。ちゃんと止まってから立った方が―――」

 

それを見て危ないと思った俺は、優月の両肩に手を置いて座らせようとしたのだが―――その忠告とほぼ同時にモノレールがガタンと少し大きく揺れる。

 

「あっ……」

 

「おっと……!」

 

その揺れによってバランスを崩した優月は前のめりに俺の方へ抱きつく形で倒れてきた。

ふわりと髪が揺れ、彼女のいい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「だから言ったのに……大丈夫か?」

 

「あはは……ごめんなさい、兄さん」

 

俺は少し苦笑いして問うと、優月は俺の顔を見て恥ずかしそうにしながら謝ってきた。

 

「楽しみなのは分かるけど、目的地に行く前に怪我とかするなよ?」

 

「分かってますよ。ここなんかで怪我したら私も泣いちゃいますし。せっかく兄さんと出かけてたのに〜って」

 

そう言いながらにこにことする優月は俺から離れようとしない。

……もしかしたらどこか怪我でもしてしまったのか?と思って優月の顔を覗き込もうとすると―――

 

「兄さん、いい匂いがしますね」

 

そんな事を言ったかと思えば、優月は俺の首に手を回して抱きついてきた。そのおかげで優月のいい匂いがさらに漂ってくる。

 

「……優月、匂いを堪能するのはそれ位にしてそろそろ離れてくれ」

 

正直、今のこの状況はマズイ。もしこのモノレール内に居る誰かや駅で他の電車を待っている乗客が、今この状況を見たりしたら社会的に色々とマズイ。

それに俺は男だ。いくら長い間共に過ごしてきた妹とはいえ、こうした公共の場で異性に抱きつかれるというのは凄まじく恥ずかしい。

 

「い〜や〜で〜す♪今立ったりしたら、また倒れて今度は怪我しちゃうかもしれませんよ?―――それに……久しぶりに兄さんの匂いを堪能したいので、せめて着くまでこのままでいさせてください♪」

 

そう言ってにっこりと笑う優月に、俺は仕方ないなと溜息を吐きながら優月の頭を撫で、駅に着くまで彼女の好きにさせた。

―――本当なら優月のブラコンを直す為に断ったりするべきなのだろうが……優月の悲しむ顔なんか見たくないし、それでこの後ずっとテンションが低いまま買い物しても楽しくないし、そもそもこんな美少女からそんな事を言われたら、例えそれが妹であろうと断るのは男として難しいと思う。

……やっぱり俺って優月に色々と甘いみたいだな。前にクラスメイトからシスコンって言われたりしたが、やはり間違ってないのかもしれない。

 

 

 

 

 

駅を出て、JR線へと乗り換えてひと駅で降りる。そこから五分程歩くと目的地のあらもーどへ到着したのだが―――

 

「……多いな……」

 

「……開店して十分位でこんなに人がいるなんて……」

 

開店して約十分―――それだけの時間しか経ってないのに、すでに多くの人で溢れていた。

とりあえず、俺は近くに設置してあったガイドマップを手に取り開く。

 

「……優月、どの店だ?」

 

「はい?」

 

若干分厚いガイドマップは、フロア紹介だけで八ページ、店名は五百以上あり、俺は少し面食らった。索引に載っているのは店舗名と配置番号だけ。しかも西・南・北館と分かれている上に一、二階にまで広がっているので、本当にどこに行けばいいのか分からない。

どの店が何を売っているのか分からず、優月に見せたのだが―――

 

「西館の二階のここに服屋がありますね。そして南館の二階にもいくつか服屋あって……ゲームセンターもこことかこことかにありますし……そして、南館の一階はほとんど食べ物系ですね。まあ、ここは後で行くとして……色々行きたいですが、まずは西館の服屋に行きましょう!」

 

「お、おう……」

 

返ってきた返事は、少しマップを見ただけでほとんどの場所を把握したような返事。

それに俺はまたも面食らうのだった。

 

 

 

それから俺は優月に手を引かれて、目的の服屋へ辿り着いたのだが…。

 

「すごいな……」

 

正直、いくら日本最大のショッピングモールとはいえ、服の品揃えなんて他の大きいデパートよりちょっと多い位かと思っていたが……。

 

「……広過ぎだろ、これ……」

 

西館の約四分の一を占める服屋を完全に甘く見ていた。もはや品揃えなんてそこら辺のデパートも涙目になる程充実しているし、何よりとてつもなく広い。

 

「あ、女性服売り場はこっちですね」

 

そんな数秒で迷ってしまいそうな場所にも関わらず、普通に迷い無く足を進める優月に俺は内心感嘆していた。

やはりこういう場所での買い物などについては、男性より女性の方が優れている。さっきだってチラッとガイドマップを見ただけで欲しい物がどこに売ってるかすぐに探し出したし……。

 

「あ、この服可愛い……後で試着してみますか。―――おお……兄さん、こんな服どうですか?」

 

「……優月、お前こんな背中とか肩とか出た露出度高い服着てみるつもりなのか……」

 

「えっ!?い、いえ、着ませんよ!?ただ聞いてみただけです!」

 

「…………本当に?」

 

「…………本当です」

 

「なんだ、その微妙に空いた間は」

 

「ほ、本当に着ませんよ!―――兄さんがこれ着た私を見たいって言うなら考えますけど……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「な、なんでもありません!」

 

そんな感じで服を見繕っていると―――

 

「こちらも彼女さんに似合うと思いますよ。どうですか?彼氏さん?」

 

いつの間にか後ろの方で数着の服を手に持った女性店員が話しかけてきた。

それ自体は別に構わないのだが、俺は女性店員が言ったある言葉が気になった。

 

「彼氏さん?」

 

「ええ、すごく可愛い彼女さんと一緒ですね!」

 

どうやらこの人は俺と優月の関係を恋人同士だと勘違いしているらしい。まあ、確かに男女二人きりで仲良く服を見ていたなら大抵の人はそう認識してもおかしくない。

そんな事を考えながら、チラッと隣の優月を見ると何やら小声で「兄さんと……恋人……」などと満更でもなさそうに呟いていた。

 

「いえいえ、彼女じゃないですよ。妹です」

 

「え?妹さんなんですか?」

 

「……兄さん、そこは別に訂正しなくてもよかったんじゃないですか?」

 

とりあえず勘違いされたままというのも困るので訂正すると女性店員は驚いた顔で、そして優月はジト目で俺を見てきた。

 

「そりゃあ優月からしたら恋人って思われて嬉しいかもしれないけど、俺からしたら色々と問題あるんだよ」

 

例えば優月が試着室に行っている間に女性店員がニヨニヨとしながら話しかけてきたりとか。正直、そういう相手はそれなりに面倒くさい。何言っても無駄だろうし。

 

「……まあ、言いたい事は分かりますけど……もう少し夢を見させてくれてもいいんじゃないですか?」

 

「十分見てただろ……小声で嬉しそうに呟いていたの聞こえてたからな?」

 

「―――え、えっと、それじゃあ私は着替えてきますね!」

 

そう切り返すと優月は恥ずかしそうに顔を赤く染めて、何着かの服を持って逃げるように試着室へと入っていった。どうやらさっきのつぶやきは俺の耳に入ってないと思っていたらしい。

それに少し苦笑いを交えた溜息を吐くと、女性店員が恐る恐る話しかけてくる。

 

「……本当に妹さんなんですか?」

 

「ええ。……そんなに似てないですかね?」

 

「い、いえ、そんな事は無いと……思いますよ?」

 

女性店員が苦笑いしながらそう言うのを見て、俺はまた溜息をついて優月が着替え終わるまで待つ。

 

 

 

そして数分後―――試着室のカーテンが大きく開かれ、着替え終わった優月が姿を現す。

 

「どうでしょうか?」

 

「おお……」

「あら……」

 

それを見て、俺と店員は同時に感嘆の声を出した。

首筋を出し、緩く占めたネクタイが目を引く白いポロシャツと黒地に白い一本の線が入ったスカートを着ていた優月はいつもこんな服を着ていたのではないかと思う程似合っており、女性らしさがよく出ていた。

 

「似合ってるな、まるで前々からよく着ていたみたいに見える」

 

「ふふっ、実は私も似たような事を思ってたんですよ。なんかこれを着ると落ち着くな〜って」

 

そう言ってにこりと笑う優月だが……気になる事が一つだけ。

 

「……なあ、その服……インナー透けてる見えるが……」

 

「っ!じ、実は私も一回この服着てから気付いて……とりあえず一緒に持ってきた黒いインナー着たんですけど……」

 

少し恥ずかしそうに言う優月。しかしなぜだろう、その透けてるシャツの下にインナー着てるっていうのもなぜか見慣れてる気がする。

 

「まあ、いいんじゃないか?なんだかんだで似合ってるし」

 

「そ、そうですね!じゃあ一着目はインナーも含めてこれにします。それじゃあ次着ますね?」

 

そう言い、優月は再びカーテンを閉める。そして待つ事数分。

 

「はい!どうでしょうか!」

 

カーテンを開けた優月の格好を見て、また俺と店員は感嘆の声を上げる。

次は白黒の縦じまが入ったワンピースで袖の方が黒く、沢山のフリルがついていて、靴下は黒のニーハイだった。

 

「……すごく綺麗だよ」

 

俺がそう言うと、隣の女性店員も大きく頷いていた。

 

「分かりました!それじゃあ次で最後ですね〜♪」

 

優月は嬉しそうにしながら再びカーテンを閉めた。

そして、俺は女性店員と少し話をしながら待つ。そして―――

 

「最後です。どうですか?」

 

そう言ってカーテンを開けた優月の姿に俺と女性店員はまたもや感嘆の声。

今度は赤い短めのスカートを履き、上は袖と肩にフリフリがついているブラウスだった。

 

「……なんかこれほど似合うんなら、何を着ても大体似合う気がするな……」

 

「それを言ったら見てもらった意味無いじゃないですか……まあ、いいです。それじゃあこの三着を買わせてもらいますね」

 

その後、会計の際に優月がカード払いでと口にしたら女性店員は心底驚いたような表情を見せた。

だがクレジットカード機能付きの学生証を渡すと、女性店員は納得したような顔をした。聞けば毎年何人かが俺たちのように買い物をしに来ているそうでそれなりに見慣れているそうだ。

 

 

 

その後俺自身も白いTシャツやらジーパンなどを買いに行ったのだが……優月に背中に龍が描かれたジャケットを進められた時は少し面食らった。まあ、結局買ってしまったが。

それから服や小物、さらには日用品も買った俺たちは一旦休憩しようという事で空いているベンチに座る。

 

「さてと……買い物は大体済んだな。それじゃあ帰るか?ちょっと時間的に早い気がするが……」

 

「え〜?もう帰るんですか?せっかくの外出ですから、もう少し色々と見て回りましょうよ」

 

「ははっ、そう言うと思ったよ。でもまあ、こんなに荷物持ってたら見て回るのも大変だし、一回配送カウンターに寄ろうか」

 

「はい!」

 

この後の予定を決めた俺たちは配送センターへ寄って荷物の配送を済ませた後、色々な店を見て回りながらぶらつく事にした。

ペットショップに寄って優月が可愛いと言いながら犬を見たり、ゲームセンターでFPSゲームやプライズキャッチャーで遊んだりと、普段の厳しい訓練を忘れてしまう位に平和で楽しい時間を過ごした。

それから時は進んで午後一時を過ぎた頃―――

 

「ちょっとお腹が空いてきたな……そこら辺の店で何か食べるか」

 

「そうですね。なら―――あ、ここの下にスター○ックスありますよ」

 

「お、ならそこでコーヒーでも飲みながら少し休むか」

 

そう決めた俺たちは一階へ降り、南館にあるスターバッ○スに入る。

店内は多くの人たちが遅めの昼食や、少し早めのティータイムを楽しんでいた。そんな光景を横目に俺たちはそれぞれ飲む物と食べる物を注文して受け取った後、偶然空いていた五人席へと並んで座る。

 

「ふぅ……相変わらずどこでも人が多いな、この店は……」

 

「なんたって世界中に展開しているスターバック○ですからね」

 

そう言いながら、俺はミルクを少しだけ入れたコーヒーを飲みながらサンドイッチを、優月は砂糖とミルクを入れたコーヒーを飲みながらシュークリームを食べていた。

そうしてしばらくゆっくりと食事を楽しんでいると―――

 

「すみません。ちょっといいかしら?」

 

唐突に後ろから響いた声。俺と優月は揃ってその声がした方へ向く。するとそこには長い黒髪の女性が俺たちの方を見ていた。どうやらこの人が俺たちに声を掛けたらしい。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「実は今、三人で座れる席を探しているんだけど……ここに相席してもいいかしら?」

 

そう言われた俺はふと周りを見渡してみたが、ほとんどの席は満席で、空席なのは俺たちが座っているこの席だけだった。

まあ、別に相席自体特に断る理由も無いので―――

 

「俺は別に構いませんよ。優月も良いよな?」

 

俺はそう答え、続いて優月に問いかけると、優月はコーヒーを飲みながら頷いた。

 

「ありがとう。―――兄さん、ベアトリス、ここ座れるわよ」

 

そんな女性の呼び掛けによって姿を現したのは―――

 

「ありがとう、螢。すみません、相席をお願いしてしまって」

 

身長が高い黒髪ロン毛のまさに色男と言える位整った顔立ちの男性だった。その顔立ちの良さは自他共に認める童顔のこちらからしてみれば、後三十年経っても決して同じ域には上がれそうもない程だ。

そしてその男性の隣には―――

 

「相席すみません。お邪魔しますね」

 

金髪を後ろで纏めてポニーテールにしている碧眼の外人女性が俺たちを見てにこりと笑った。

 

「あ、貴女は……」

 

その女性を見た優月は信じられないといった表情で女性を見つめる。そしてそれは俺も同じ事だった。なぜなら俺たちはこの人の事を()()()()()のだから。

 

「……ん?どうしました?何か私の顔に付いてますか?」

 

「い、いえ、そういうわけでは……あの……私、以前貴女とお会いした事ってありますよね?」

 

「え?……ああ!もしかして貴女、あの時私と話した子?」

 

「は、はい……多分そうだと思いますけど……」

 

女性は優月の顔をジッと見つめた後、パアッと明るい笑顔を浮かべた。

 

「うわ〜!まさかこんな所で会えるなんて……という事はそちらが貴女のお兄さん?」

 

「は、はい……」

 

「へ〜……なんか藤井君にそっくりなお兄さんだなぁ……」

 

そんな事を言いながら、女性はまじまじと俺の顔を見てきた。

ああ、なんでこんな状況になってるんだ……この女性もいい匂いしてるし。

 

「知り合いかい?ベアトリス」

 

「あ、うん。ここに来る途中で話したでしょ?前に浜辺で話した女の子の事」

 

「ああ……それが彼女?」

 

「そう!」

 

……ああ、やっぱりこの人―――優月の夢に出てきた人物だ。今の話の内容から聞いても間違い無いだろう。でも夢に出てきた女性が現実に、それに優月と話したという記憶も持っているとはどういう事なのだろうか……。それにこの人たち、何処と無くヴィルヘルムと似た雰囲気を感じる。

 

「へぇ……彼女たちが副首領閣下に……」

 

「あ、あの……?」

 

「ああ、ごめんなさい。つい舞い上がっちゃって」

 

話に付いていけない優月が声を上げると女性は謝りながら優月の目の前へと座り、男性は金髪の女性の隣で俺の目の前、そして黒髪の女性は男性の隣へと座った。

 

「え〜っと……そういえばまだ自己紹介してなかったっけ……」

 

そう言うと女性はスッと表情を真面目なものにして自分の名を告げた。

 

「改めてこんにちは。そしてお兄さんの方は初めまして……ですよね?私はベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンと言います。ついでにもうお二人共予想が付いてると思うので言いますけど……私は元聖槍十三騎士団黒円卓、第五位の末席を(けが)していました。私の名前、長いのでベアトリスって呼んでくださいね?そして私の隣に座っているのは―――」

 

「じゃあ僕も正直に言おうか。同じく元聖槍十三騎士団黒円卓、第二位―――櫻井(かい)だ。僕の事は好きに呼んでくれて構わないよ」

 

「私も……。元聖槍十三騎士団黒円卓、第五位―――櫻井(けい)よ。私の事も好きに呼んで」

 

俺はその自己紹介を聞き、やはりかと納得する。

 

「……貴方たちも聖槍十三騎士団黒円卓の一員なんですね」

 

理事長から聞かされた国際的に危険視されている組織、そしてこの間の《新刃戦》で現れたヴィルヘルムが属している組織でもあった。

 

「“元”だけどね。まあ、それはそうと次は貴方たちの名前を聞かせて?」

 

「あ……昊陵学園一年、如月影月です」

 

「同じく昊陵学園一年、如月優月です」

 

そう言って俺たちは少しだけ警戒を強める視線を向ける。なんたってあのヴィルヘルムが居た組織に属していた人たちだ。例え優月に対して色々と良くしてくれたとはいえ、気を許す道理は無い。

しかしそんな俺たちを見ても、三人は苦笑いを浮かべるだけだった。

 

「……警戒するのは分かるけど、ここはショッピングモールよ?ベイ中尉のように一般人を巻き込んで何かするつもりは無いわ」

 

螢と言われた女性が呆れたようにそんな事を言うが、あいにくとそれで警戒を解く気は無い。そう思いながらチラと周りを見てみると―――

 

「あれ?」

 

何やら不自然な雰囲気に気が付く。周りの一般人たちが誰一人としてこの席を見ていなかった―――いや、見ようとしていなかったのだ。

それなりに注目を集めるような騒ぎや話をしたというのに、隣で昼食を食べているカップルすらもこの席を見ていない。普通なら視線の一つや二つ位は向けてもおかしくない筈だが……。

 

「ちょっとだけ視線がここに向かないようにする術を使わせてもらったよ。そして僕たちはただベアトリスに連れられてここに遊びに来ただけだから何もする気は無い。だから落ち着くんだ影月くん、優月さんも」

 

「……分かりました」

 

戒と呼ばれた男性の言葉を信じて、俺たちは完全にとは言わないまでも警戒を解く。

そこから何分かして頭の中で大体の事態を把握した俺は、ベアトリスさんたちに質問する。

 

「それで……ここに来た理由は本当にベアトリスさんに連れられて来たんですか?」

 

「そう、半ば無理矢理ね。まあ、僕と螢もあの浜辺にはちょっと居づらかったから助かったけど」

 

「今の藤井君、結構怒ってたからね……主にベアトリスのせいで」

 

「ちょ、螢〜……」

 

螢さんの言葉にベアトリスさんは何かを言いたそうに睨んだが、それ以上は何も言わなかった。おそらく螢さんの言っている事が本当だから否定出来ないのだろう。

 

「それって……わ、私のせいですよね……?私があの時あの浜辺に現れたから……」

 

「あ、いや、別に優月ちゃんのせいじゃないのよ?元はと言えばあの副首領閣下が突然私の目の前に現れたからであって―――」

 

「副首領閣下?」

 

ベアトリスさんの話の中に出てきた単語を鸚鵡返しで問うと、戒さんが答えてくれた。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第十三位副首領、カール・エルンスト・クラフト=メルクリウス―――僕らのような魔人を生み出した者であり、偉大な魔術師だよ。聞いた事無いかい?」

 

「…………ああ、そういえば……」

 

教科書か何かで聞いた事がある。希代の賢人、空前にして絶後の魔術師とか言われていた人物だったか……。まさかそんな人が魔人錬成をしていたとは……。

まあ、それはそうと……ちょうどいいからここで少し彼らから情報を聞き出してみるか。

 

「……いくつか聞きたいんですがいいですかね?」

 

「なんだい?後、敬語は別に使わなくていいよ」

 

「……分かった。それじゃあまず最初に、聖槍十三騎士団黒円卓ってなんなんだ?」

 

俺がそう問うと、戒さんが少し目を細めた。

 

「……改めて聞きたいのかい?そちらである程度の情報は持っている筈だろう?」

 

「ああ、一応組織した経緯や今も世界的な脅威として存在している事、そして主要先進国の軍事予算に匹敵する懸賞金が懸けられる程の戦力があるって事もな」

 

「そこまで知っているなら僕らから聞く事なんて何も無いだろう?」

 

「いいや、もっと詳しい事を実際に黒円卓に居た貴方たちから聞きたいんだ。例えば……貴方たちのその強さの秘密とかな」

 

『…………』

 

三人とも顔を見合わせて沈黙……やっぱり主要先進国に匹敵する程の戦闘能力の秘密は教えてもらえないか……。

と、思っていると。

 

「……一つだけ聞かせてほしい。仮に僕たちが君の質問に答えるとしよう、その時に僕たちが偽の情報を言う可能性は考えないのかい?」

 

戒さんからそんな質問が飛んできた。しかし聞いてみれば確かに戒さんたちが偽の情報を言う可能性も否定出来ない。でも―――

 

「もちろん考えた。でもあくまで個人的な意見だけど貴方たちは嘘を言わず、本当の事を言ってくれそうな気がするんだ。特に―――ベアトリスさんとか」

 

「え、私?」

 

「……私も兄さんと同じです。なぜかベアトリスさんは信用出来る気がするんですよね……それにあの時話してくれたベアトリスさんの過去の話も到底作り話とは思えない程の思いが伝わってきましたから……」

 

「優月ちゃん……」

 

「それに……ベアトリスさんって、嘘つくの苦手なんじゃないですか?」

 

「なっ!?そ、そんな事―――」

 

「苦手ね」

「苦手だね」

 

「ちょ……!?二人とも声を揃えて言わないでよ!」

 

否定しようとした矢先に戒さんと螢さんの肯定する声が重なり、ベアトリスさんは顔を赤くして二人に叫ぶ。

その様がどうしてもおかしくて―――俺と優月、そして戒さんと螢さんはクスッと笑った。

 

「……四人とも、私の事いじめて楽しいですか?」

 

「別にいじめてませんよ?むしろいいじゃないですか!嘘をつくのが苦手な人ってある意味すごくいいと思いますよ?」

 

「そうね。それがベアトリスのいい所であり、悪い所でもあるけれど……」

 

「……ふ〜んだ!いいもんいいもん、少なくとも螢より面倒くさい性格してないって藤井君に言われたからいいもん!」

 

「あらら……ベアトリス、そんなに拗ねないで……」

 

「……藤井君……私の事そんな風に思ってたのね……」

 

ベアトリスさんが頬を膨らませて拗ね、それを戒さんが慰め、螢さんは何かにショックを受けたようにぶつぶつと小声で呟き始めた。……なんか話が少し逸れてきたな。

 

「と、とにかく、そういう事だから俺と優月は貴方たちが嘘を言わないって信用してる。それがさっきの質問の答えだ」

 

「……分かった。なら僕たちも幾つか君たちに情報を求めてもいいかい?答えられる範囲内でいいから」

 

「はい、私たちの知る限りの事はお教えしますよ。ただし―――」

 

「心配しなくても大丈夫ですって!他言はしませんから!」

 

『…………』

 

「……私、帰る」

 

「あっ!?ま、待ってベアトリス!」

 

「待ってくれベアトリス!謝るから!本当に他言しないのかって疑う視線送った事謝るから!」

 

「ごめんなさい!ちょっとおふざけが過ぎちゃいました!だから帰らないでください!」

 

「まずはその涙を拭いて一旦席に座ってくれ!弄って悪かったから!」

 

若干涙目になりながら、帰ると言って席を立ったベアトリスさんに俺たちは揃って頭を下げる。ちょっと弄り過ぎたな……。

 

「……ベアトリスさん、とりあえずシュークリームあげますから食べて落ち着いてください」

 

「グスッ……ありがとう、優月ちゃん……」

 

 

それから約十分後―――ようやく機嫌を持ち直したベアトリスさんが、美味しそうにシュークリームをぱくぱく食べるのを横目に俺はようやく本題を切り出す。

 

「え〜っと……それじゃあ改めて聞きたいんだが……」

 

「?―――ああ、聖槍十三騎士団についての事ね」

 

ベアトリスさんは口に含んでいたシュークリームを飲み込むと、暫し間を開けた後に話し出す。

 

「……まずは知ってると思うけど始まりから話しましょうか。時は第二次大戦中、黒円卓は元々政府高官たちのお遊びで作られた組織だったんたけど……とある一人の魔術師が介入した事で本物の魔人の集団へと変貌したの」

 

「その魔術師というのが、カール・クラフト?」

 

「そうだよ。それで僕たちの強さの秘密だけど……僕たちはそのカール・クラフトが編み出した魔人錬成の魔術、永劫破壊(エイヴィヒカイト)というものをこの身に宿しているんだ」

 

永劫破壊(エイヴィヒカイト)―――ベアトリスさんたちによると、聖遺物を人間の手で取り扱う為の魔術であるらしい。

聖遺物とは人々から膨大な想念を浴びて意思と力を持った物を指すという。想念は怨念や信仰心などどのような形であれ力があれば聖遺物というらしい。また、形状も様々と聞いた。

 

「僕たち三人の聖遺物は剣だけど、ハイドリヒ卿はロンギヌスの槍、君たちと戦ったベイは「串刺公(カズィクル・ベイ)」の異名を持つワラキア領主、ヴラド三世の結晶化した血液、他には多くの人の首を()ねたギロチン、ドーラ列車砲に軍用バイク(ZundappKS750)、果ては人間そのものも聖遺物になり得る」

 

なるほど……確かにある一部の人間とかは人々の想念を受けてたりするから、そういう意味では聖遺物の条件にもなり得るのか……。

 

「まあ、人の肉体が聖遺物として認識される為には恐怖やら何かしらの感情を人々から吸い取ってないといけないけどね。とまあ、聖遺物に関してはそんな感じかな。他に聞きたい事とかあるかな?」

 

「あ、なら今度は私から……。貴方たちが所属していた聖槍十三騎士団の目的ってなんだったんですか?」

 

すると今度は優月がそんな質問を投げ掛けた。確かに俺たちは黒円卓の目的を知らないのでそれを知りたいと思うのは当然の事だろう。

 

「私たちの当初の目的は世界中に満ちていた「既知感」という名の牢獄(ゲットー)の破壊というものだったのよ。まあ今は別な目的があって、あまり表世界には出れないんだけどね」

 

既知感?世界?そのような何かしら含みのある言い回しが気になったが、それよりも気になった言葉が聞こえた。

 

「あまり表世界には出てこない?じゃあこの前学園に洗われたヴィルヘルムは?それに各地の紛争地帯で黒円卓の姿を見たという報告もあるみたいだが?」

 

「ああ、それについてだけど……前者の方はおそらくハイドリヒ卿絡み、後者は聖遺物の特性だね」

 

「聖遺物の……特性?」

 

「聖遺物は人の魂を燃料に使用、発動出来るの。分かりやすく例えるなら聖遺物を車、人の魂をガソリンってイメージしてもらえると分かりやすいわね」

 

「で、普通車っていうのはガソリンが無いと動かない。つまりそれと同じって事です」

 

「……なるほど、聖遺物が人の魂っていう燃料を求めるから、それを満たす為に紛争地帯に行くわけか」

 

「そういうわけね。紛争地帯は私たちが直接手を出さなくても多くの人が死んでいくし、そういう意味で言うなら心霊スポットと同じ位効率のいい魂の集め場所なの」

 

「まあ、そういう理由で私たち聖遺物を扱う使徒は常に魂を求めて慢性的な殺人衝動に駆られるの。……あ、別に今私たちに殺人衝動が起こっても、貴方たちや周りの人たちを殺したりはしないから安心して。一応ある程度我慢とかも出来るから」

 

その言葉を聞いて俺と優月は安堵の息を吐いた。しかし慢性的な殺人衝動に駆られるというのは中々のデメリットのように思えるな……。

 

「まあ、それだけ手間のかかる代わりに得られる恩恵は多いんですけどね。基本聖遺物を破壊されるか燃料が枯渇しない限りは不死ですから。人を殺した数だけ霊的装甲というものも強固になるし、身体能力も不死性も上がります」

 

「……なんか聞けば聞く程頭が痛くなってくる話だな……」

 

「あ、それとついでに言っておきますけど、聖遺物の使徒には銃とかの通常兵器は全く効きませんからね?私たちからしたら銃弾なんて丸めてくしゃくしゃにした紙を当てられたのと大差ありません。まあ、核兵器とか持ち出されたら双首領と三騎士以外はおそらく致命的なダメージを受けますけど……」

 

との事だった。となれば核兵器よりも断然威力の低い戦略爆撃機の爆撃など結局仲間を撤退させる時間稼ぎ程度にしかならないわけだ。そしてもう一つ、新しい情報として聖遺物の使徒同士なら格の違いによって攻撃が通じる通じないはあるものの、殺し合いが出来ると聞いた。

そこで一つ疑問が湧き上がる。

 

「待てよ……ならなんで《新刃戦》の時は俺たちの《焔牙(ブレイズ)》がヴィルヘルムに効いたんだ……?」

 

『…………』

 

その疑問を呟くと、俺たちは揃って考え込む。

 

「う〜ん……それは僕たちも分からないけど……多分、その《焔牙(ブレイズ)》っていうのは―――」

 

と、戒さんが予想を言いかけたその刹那―――

 

「やめろ、お前らっ!!」

 

店の外から大きな男の声が俺たちの耳に届く。そしてその声は俺や優月に聞き覚えがある声だった。

 

「今の声は……透流か?」

 

「ん?知り合いかい?」

 

「……とりあえず行ってみましょう!」

 

そう言った優月は席を立って、声のした方へ走っていってしまった。

 

「あっ、優月ちゃん!」

 

「僕たちも行ってみようか」

 

それに少し遅れる形で俺やベアトリスさんたちも優月を追いかけるべく、トレイなどを片付けて走りだした。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 透流

 

「連れだとよ」

「マジみたいだな」

「どーする?」

 

ユリエと共に買い物やスイーツを食べに来ていた俺は今、橘とみやびに絡んでいる四人の男たちの前に立っていた。

なぜ二人がここにいるのかはよくわからないが、多分俺たちと同じで買い物でもしに来たのだろう。

橘たちの連れを名乗り、男たちの前に立った俺を見て奴らはどうするべきかと顔を見合わせていたが―――

 

「みやび、巴、大丈夫ですか?」

 

そこへ少し遅れてユリエが合流した事で彼らは判断を下す。

 

「すっげ。マジ可愛いんだけど……」

「この子もこいつの連れ?」

「ハーレムってやつ?」

「なんかムカつく」

「どうする?」

「当然―――」

 

「軽くボコっちまおうぜ!」

 

「―――ッ!!」

 

リーダー格がそう叫ぶと同時に男たちが一斉に動く。

多少意表を突かれたが、《(レベル2)》へと昇華した俺にとってはそんな彼らの動きもスローモーションのようにしか見えない程遅かった。

 

(仕方ない、軽くいなしてそのまま逃げるか)

 

そう判断し、走り出そうとした瞬間―――遠くから乾いた一発の銃声がハーバーストリートへ響いた。

 

「――――――」

 

その音に驚いた俺はその場で思わず立ち止まってしまったが―――その後続いた展開に俺はさらに驚く。

 

「よっ―――と」

 

突然そんな軽い声が聞こえたかと思うと、男たちの内の一人がドサッと音を立てて倒れた。そしてその後ろでは長身の男が右手を手刀の形にして立っていた。

 

「え……?」

 

呆気に取られて呟いたのは俺たちかそれとも男たちの方か―――

しかしどちらにしても何が起こったのかその場の全員が分かっていなかった。

 

「皆さん!戒さん!無事ですか!?」

 

「ゆ、優月!?なんでここに!?」

 

するとその意識を刈り取った男性に向かって誰かが声を掛ける。その声のした方へ向いてみると、俺や橘たちの友人である優月が居た。

なんで優月がここに……とか俺たちの目の前に居る長身の男は誰なのか……など聞きたい事が幾つか思い浮かんだが……。

 

「よっ、お前もユリエや橘たちと一緒に買い物か?」

 

「影月まで居たのか……一緒に買い物に来たのはユリエとだけだ。橘たちは偶然会っただけだ」

 

「へぇ〜……偶然ねぇ……?」

 

そう言いながら半眼を向ける影月から橘とみやびは揃って視線を外した。……影月が何を疑っているのかは分からないが、とりあえず無視しよう。

 

「……ま、いいか。それよりも戒さん大丈夫か?なんかあそこの転入生の《焔牙(ブレイズ)》の弾丸が当たったように見えたんだが」

 

影月はそう言いながら、他の男の後ろ首に手刀を当てて気絶させる。

そんな影月が指した方向を見てみると―――約百メートル以上離れた三階のバルコニーに立つ先ほど鳴り響いた銃声の主が目を見開き、驚愕の表情を浮かべているのが見えた。

 

(リーリス!?それにあれは―――《焔牙(ブレイズ)》か!?)

 

「戒!?大丈夫!?」

 

「大丈夫だよベアトリス。傷も付かなかったし、魂一つすら減らなかったからね」

 

「ベアトリス、兄さんを心配する気持ちは分かるけどせめて全員無力化してからにして」

 

すると今度は黒髪の女性が残った二人の男の意識を刈り取りながら歩いてきた。

 

「な……影月、この人たちは……?」

 

「ん〜……ちょっとした知り合い、とでも言っておこうか。偶然近くのお店で会って少しだけ駄弁ってたんだ」

 

そう答え、影月は遠くで未だ驚いている表情のリーリスへと視線を向けた。

 

「それにしても……《(ライフル)》の《焔牙(ブレイズ)》か……」

 

その呟きを聞き、以前授業で教わった事が頭の中で蘇る。

 

『《焔牙(ブレイズ)》は銃などの複雑な構造を持つ武器は具現化出来ない』

 

しかし、リーリスのあれは間違いなく《銃》だった。本来具現化出来ない武器を生み出す力……。

そしてリーリスはこちらを睨み返した後、(きびす)を返し去っていった。

 

「《特別(エクセプション)》……」

 

俺はそんなリーリスを見てふと、その言葉を呟いた。




少し長かった……不定期ながらやっていきます。

dies iraeの三人の普段着はkkkのエピローグをイメージしてください(え?螢はどんな服かって?それは知らないですねぇ……(苦笑))。

誤字脱字・感想等よろしくお願いします。
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