アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
今回、拡大解釈や多少の強引さはあると思いますがそこはどうかご理解を……うまく説明出来てるか分かりませんがどうぞ!
追記:獣殿の言葉を少し変更しました。
no side
ヴェヴェルスブルグ城にてラインハルトは自らの爪牙であるヴィルヘルムの報告を聞いていた。
「ーーーという事です、ハイドリヒ卿。マレウスは蓮の所へ戻っていきました」
「ふむ、よくやった、ベイ。卿の忠誠大義なり。休むがいい」
「jawohl!」
そして、ヴィルヘルムが玉座の間から出ていくのを確認すると、ラインハルトは深くため息をついた。
なぜため息をついたのか?その理由は彼の親友に対してのものである。
ラインハルトの親友ーーーカール・クラフト、メルクリウスは最近様子が変わり過ぎていて、おかしいのではないかとラインハルトは思っている。何と言うか、ニートなのにニートをしていないのである。
そしてもう一つ変わった事がある。それは黄昏の浜辺で、
蓮やマリィからしたら、ウザいので来なくなってよかったと思われていたようだがーーーそれからまた少し経った頃、カールが全く浜辺に姿を現さなくなったらしいのだ。
先ほどベイが報告をする少し前に蓮やマリィから
しかしながら、ラインハルト自身も友人のそのような行動の理由は検討がつかない。
ーーーいや、実際心当たりは一つある。
あの日、親友が目を付けて手を加えた兄妹に関しての事だろうと思う。それ以外では少し前までカールはいつものように行動していたのだ。
正直、女神以外の事では滅多に動かない親友が他の事で忙しなく動いている。普段はただ諦観する筈なのにだ。
まあ、どう考えても最終的にはその兄妹が女神の為になるのだろうとは思うが。
「はぁ……して、カールよ。いつまでそこにいる?」
そこで一旦思考するのを中断したラインハルトは自らが座っている玉座から階段の下に目を向け、いる筈の無い友人に声をかける。
すると、始めからいたようでカールが薄っすらと姿を見せ始めた。
「やはり気づいておられましたか、獣殿」
「無論だ。ベイがここに来た時からずっといたであろう」
段々姿が見え始めたカールに対し、ラインハルトは肩を竦めて答えた。
「で?今日は何をしに来た?まさかベイの報告を聞きに来た、というわけではあるまい」
「まあ、そうだな……私はあの催しによって兄妹の片割れが創造位階になった事について聞きたいと思ってね。獣殿も喜ばしいと思っているのでは無いのかね?」
確かにカールの言う通り、座の拡張と言う目的に関して言うなら一歩近づいたし、戦えると言う意味でも喜ばしい事だと思う。しかしーーー
「確かにそこは卿と同じく喜ぶところだが……いささか解せない所が多い。故に卿に幾つか聞きたい。構わんか?」
「ええ、構いませんよ。他でも無い貴方の頼みとあらば私は答えられる範囲で答えよう」
そして、はっきりと姿を現したカールは玉座の階段を上がり、ラインハルトの前へと立った。
「では、まず一つーーー彼らの持つあれは
まず、
本来ならば叶う筈の無い願いを創造位階で作り上げるーーーそれ程の狂おしい願い、それが本来の
対して彼らは強い意志によって能力を開花させた。もし彼らに宿るものが自分たちと同じものならばあれ程簡単に創造位階にはならないだろうと思う。
もしそれで至るならば、形成位階であるシュピーネとバビロンの二人もとうの昔に創造位階に至っているだろう。
まあそのような事はラインハルト自身も可能性は低いと思っているので、目の前の親友が何かしたのだろうと思っている。
しかし彼らの中にあるのが、自分たちと同じ
「ふむ……
カールがそう言うと今まで何度も物事を諦観をしてきただろう暗い青色に輝く目をラインハルトへと向け、説明を始めた。
「まず、始めに私は最近従来の
「そう思った理由は?」
「まず、一番の理由は戦力の増強。女神の渇望の性質上、これから先、凶悪な者が現れてもおかしくない」
マリィの渇望、「全てを抱きしめる」という渇望は以前話した通り、覇道神の共存を可能にしている。
そしてその渇望で生み出された
「例え今がどれだけ不幸でも来世はきっと幸せになれる。だから頑張って。私がついているから」という思いを人々に与えている。その慈愛を感じながら人々は今日も頑張って生きている。
このようにこの理はとても優れているように見えるが、欠点が今現在分かっている限りでは二つある。
一つ目は以前言った覇道神共存の為、座の容量が限界を迎えているという事。これは現在あの兄妹を覇道神として育て上げ、ぶつかり合う事で座を押し広げようとしている案が出ているので問題はあまり無いと思われる。
一方もう一つは先ほどカールが言った通りーーー
「凶悪な者?女神の収めるこの世界にそのような者が生まれる可能性があると?」
「我らが女神は「全てを抱きしめる」という渇望故に
カールはそう説明しながら目を細めた。
「そこでそうした敵に対して、先ほど言った戦力増強をしておこうと思ってね。その方法として、新たな特性を持つ
「つまり卿はあの兄妹を新たな力の実験台にしたという事だな?……刹那が知ったら何と言うか、卿も知っているだろうに」
「仕方がなかったのだよ。今の世界に狂おしい程の渇望を抱く者は探しても中々いない。しかし早く手を回した方がいい事なのでね。普通に生まれ、生きている者の中から選ばせてもらった。それでも魂の質がとても良く、意志がとても強い覇道の願いを持つ者というのを前提条件として選んだから誰かれ構わずという訳では無い事は理解してほしい」
「ふむ……そして最後にあの力ーーー確か《
カールは二つの新しい力を使える条件を言った。
一、魂の質がとても良い者。
二、意志ーー狂おしい渇望とは違い、純粋に強い覇道の思いを持っている、あるいは持つと思われる者。
そしてラインハルトはあの世界にある武器ーーー《
しかしカールは苦笑いしながらーーー
「いや、あれは私も予想していなかったのだがね。数年前からあの世界で研究されていたのは知っていたが、あれほど
「なるほど、何がどうなるか分からぬが手探りで様々な事を試してみようという事か、カールよ」
ラインハルトがそう言うと、カールは頷いて続きを話す。
「随分と寄り道をしましたが、貴方の質問に対して答えるとするなら、あれは
「ならば、次に聞く質問は決まっている。何が似ていて何が違うのか卿の口から聞かせてもらおう」
そしてラインハルトが次の質問をする。それに対し予想していたのだろう、カールは質問の答えを言い始める。
「まずは先ほど申した通り魂の質、強い覇道の意志、そして《
カールの確認の問いにラインハルトは頷き、先を話すよう無言で促す。
「では次に、性質についてだが強い意志、あるいは狂おしい程の渇望でも一応能力は開花するようになってはいる。強い意志で開花するようにした理由は先も言った通り手頃な方法がこれだったからな」
「先ほど言った事だな。確かに狂気的な願いを持つ者よりはその方が戦力を増やすという点では手頃であるな。どちらにせよ数が少ないのは変わらないが、少しはましだろう」
「そして新たな
「なるほど……より強力な覇道神か……」
「そしてこの術の補助と自らの魂の質により、傷を負っても素早く自然治癒するようになっている。まあ、手足切断などになるといくら上質な魂とは言え、治療や時間が必要になるだろうがな」
尚、素早く自然治癒と言ったが常人からみたら異常な程の回復速度である。
例を出すならベイが優月に対し、攻撃をして骨折させたが三日程で完治出来た程なのだから。骨折でそれくらいならば、擦り傷や切り傷は一瞬で治るだろう。
「聖遺物の使徒のようにすぐに再生・復元は出来ず、重症ならばそれなりに時間が掛かると……寿命や耐久力はどうなのだ?」
「寿命は無くなると考えていい。肉体が魂に引っ張られ、魂が劣化しない為に肉体も劣化しない。耐久力は相手の攻撃と魂次第だろう。……この術は完全に施す者の魂次第であり、上質で無ければいけない。大体の性質はこんな感じですな」
「……全ては自分の魂次第……か」
その言葉と共にラインハルトは長考へと入った。対してカールはラインハルトの次の言葉を黙って待つ。
ーーそんな時間が数分程続いた後、ラインハルトが再び口を開く。
「最後の質問をしても構わぬか?」
「どうぞ、何なりと」
「……なぜ、妹の方はヴァルキュリアとレオンハルトの能力を使える?」
ラインハルトはカールの説明を踏まえ、様々な事象を考えたが上の疑問だけはどうしても解決しなかったので、質問をした。
それに対しカールは淡々と答える。
「ただ単に試してみようと思ってね。那由他繰り返した永劫回帰の
真顔でそう語る親友に対し、ラインハルトはなんとも言えない表情になる。
「二人の魂は彼女の魂の質によって昇華され、全盛期並の力を使えるようだ。それに先も言ったが劣化しないから使い過ぎて枯れる、なんて事は事実無いだろう」
「……カールよ、卿は相変わらず私の予想の斜め上を行く男だな……彼女の渇望は彼女たちの影響も受けているのか?」
「然り、元々似た渇望だったから尚更だ」
そこで再び長考へと入るラインハルト。それを黙って待つカール。
そこへ静寂を打ち破る人物が玉座の間に入ってきた。
「ハイドリヒ卿、一緒にお茶でも飲みながらお話でもーーーってあれ?クラフトもいるの?久しぶりだね」
白髪でトーテンコープの描かれた眼帯を右目につけた幼く中性的な顔立ちの美少年ーーーウォルフガング・シュライバーが玉座の間へと入ってきた。
「おや、シュライバー、私にもお茶をいただけるかな?」
「……構わないけど、その前にハイドリヒ卿」
「ん?」
カールのお茶に同席するという言葉に少し嫌な顔をしたシュライバーだったがそれを了承した。
黒円卓の団員たちは皆カール・クラフトを嫌っている。それは彼によって自分の人生を狂わされたり、彼に与えられた魔名という名の「呪い」などが原因になっている。彼の性格や行動なども嫌われる原因であるだろうが、カール本人は全く気にしていないようだ。
そして改めてラインハルトへ向き直ったシュライバー。
「いい加減僕も外に出してくださいよ〜。ベイが言っていた兄妹に僕も会ってみたくなっちゃって、ハイドリヒ卿もクラフトもその二人を知ってるんでしょう?」
彼がここに来たのはラインハルトをお茶に誘う為と頼み事ーーようはおねだりをする為である。
シュライバーは城の中で毎日のようにザミエルやベイと殺し合いをして暇を潰しているが、最近ベイがラインハルトの命令によっていない時が多く、帰ってきてもベイ自身が戦った兄妹の話ばかりをしていて、それを聞き自分もその兄妹に会ってみたいと思い、こうしてラインハルトに頼んで行かせてもらえないかと聞いているのだ。
「ふむ……獣殿、良いのではないのかね?シュライバーを彼らに会わせてみるのもまた一興だと思うよ」
「卿はそう言ってもな……シュライバー、卿が外に出たいと言ったのはその兄妹に会いたいというだけではあるまい。……もしや他の者たちを喰らいに行くつもりか?」
「まあ、それも少しは思ってましたけど〜」
そう言ってシュライバーは笑う。
その笑う姿は彼の顔立ちが整っている事もある為、その笑顔は純粋無垢な少年の印象を受ける。
ーーー彼を知っている者たちからすれば、そんな笑顔を見ただけですくみ上がる者も多いが。
「……カールよ、あの学園で他に覚醒の兆しを見せている者はいるか?」
「いや、私が見た限りそのような可能性がある者は今の所いなかったが……なんだ獣殿、そんなに悩む事では無いだろう?何をためらっているのだ?」
普段ならば「よかろう、行くがよい」などと言いそうな親友が、なぜこんなに考え込むのだろうかとカールは思っていた。
「何、些細な問題では無い。……しかしあの兄妹が毎日楽しそうに友人と過ごしているのを見ていると、あれを
続いたラインハルトの言葉にカールは驚きで目を見開いた。
それも当然だろう。目の前にいる親友は「真に愛するなら壊せ」とよく言い、森羅万象あらゆる物を
だが今回はためらい、手を出す事を恐れている。
「珍しいな、獣殿?貴方が
「私も色々思う事はあるのでな。刹那に感化され、あれも良いのだろうと思うようになったのだ」
「ならば、うむ…………学園の者たちには手を出さず、襲いかかる敵のみを斃す、というのはどうだろうか?あの学園に対し攻撃を行う者はそう遠くないうちに現れるだろう。それならば、その学園の「敵」を我らが排除する事で彼らの刹那を壊す事無く、我らも学園の者たちの中から才能がある者をを見出す暇が出来ると思うのだが?敵の魂も回収出来るだろうしな」
「ほう……なるほど、敵か」
「敵?クラフト、そんな奴らがいるの?」
カールがラインハルトへ意見の提案をするとシュライバーが疑問の声を上げた。それに対し、カールは少しにやけながらシュライバーに話す。
「ああ、数が多くてやりがいのある連中だろう」
「へぇ〜……ハイドリヒ卿、僕がそいつらを歓迎して上げますよ」
カールの返事を聞いたシュライバーは見た者を恐怖に染め、背筋を凍らせる程の殺気を撒き散らしながら笑みを浮かべ、ラインハルトへと言った。
「ふむ…………学園を守るような立ち位置か……それもまた一興か。では敵をこちらで確認次第、卿を近くに送ろう。そこで
「jawohl!楽しみだな〜♪じゃあ、ハイドリヒ卿、また後で〜」
そしてシュライバーは上機嫌で玉座の間から出ていった。
そしてラインハルトとカールだけが玉座の間に残る。
「……獣殿、私も一応頼みたい事がある」
「ふむ?またもや珍しいな。何かね?」
珍しく頼みたい事と言われ、本日何回目かの驚きを感じつつ頼み事を聞く。
するとカールは自分の懐から一枚の紙を取り出した。それは
「実は、貴方と会う少し前にあの学園で学園長と呼ばれている少女と話をしてね。その少女から頼み事をされたのだ。内容は
「……本当に諦観するだけでは無かったのか?」
ラインハルトはもはや呆れるしか出来なかった。
諦観主義である親友がここまで動いているのだからーー
「ふっ、今回は予想よりも面白くなりそうだからな。それに約束は破らぬ主義なのでね」
「律儀な男だなカールよ。ちなみに先のシュライバーの頼みを了承したのはこの頼みを通しやすくする為かね?」
「然り、何か不満でも?」
「いいや、今回の歌劇より面白くなってきたではないか。先ほどの頼み、引き受けよう。ベイかザミエルかマキナか……ともかく考えておこう」
そう言い、ラインハルトは不敵に笑う。それを見てカールも薄っすらと笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻して玉座の階段を降りて行きながら話す。
「では、私はこれにて。今度は少し浜辺の方へ行かなければならない用事があるのでね」
「……カールが働いている……これも未知か……刹那にも協力してもらうようにでも言うのか?」
「そのつもりだが……実際ほっといても問題は無い。実際私は久しぶりに女神を見に行こうと思ってね。ああ、それとシュライバーには相席出来ないと言っておいてくれ。では」
そう言うカールの後ろ姿を見ながら、やはり親友は女神の事となると変わらないのだなとラインハルトは深く思った。
そしてカールが消えてしばらくした後、ラインハルトはおもむろに玉座から立ち上がってシュライバーのお茶の誘いに向かう事にした。
黄昏の浜辺にいる黒円卓メンバーは蓮と関係が深い人たちです。ベアトリス、螢、戒、ルサルカ、マキナがいます。もちろんラインハルトが収集をかければ集まりますからね?後もう一話くらい別の話入れるか、本編か、予定と気分次第ですが次も楽しみにしていてくれると嬉しいです。
誤字脱字・感想等よろしくお願いします!