アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
side 影月
どうも。ここ最近俺視点が多い気がする影月です。
そんなメタ発言は置いといてーーー今は臨海学校から戻ってきて最初の土曜日を迎えた。
時期的に世間は夏休みムードだが、この学園では関係の無い話だ。
最低限の一般教養の授業に加え、技能教習ーーー戦闘技術の訓練時間を考慮して、夏休みはお盆を中心とした一週間にも満たない連休があるだけだ。
そして俺と優月はいつも通り、寮から校舎へと通い慣れた道を通って、向かっていた。
周囲には同じように校舎へ向かう生徒たちがいるが、その多くは暗い表情を浮かべている。
まずはここ最近身の回りで起きた出来事を説明していこう。
なぜ生徒たちはそんな表情を浮かべているのか?それは臨海学校から戻った直後に、行われた緊急の全校集会で朔夜が語った話に起因する。
曰く、先の襲撃はかつてドーン機関の治安維持部隊が闘った犯罪組織による報復攻撃であるという事。今回のようなケースは初めてであるが、今後も同様の事が起こりうる可能性はあるという事。
そして、聖槍十三騎士団の介入、そして朔夜が彼らと話を付け、警備を頼んだという事を話した。
聖槍十三騎士団については様々な混乱や意見があったりしたがーーー朔夜が俺と優月を巻き込んで、その場を収めたと言っておく。正直ものすごく大変だった。
それらを踏まえた上で、
結果、多くの生徒が頭を悩ませている。今回の被害は銃撃や爆破による器物破損、多くの負傷者を出した。しかし死者は本校、分校共に出ていない。死者が出ていない理由としては、分校では優月の活躍、本校では三國先生の的確な指示によるものだ。
俺は、死者は出ていないとはいえ、去る人は多いだろうと思った。この学園に通っている人たちは入学前はどこにでもいる中学生で、平和な日常を生きていたのだから。そして彼らにとって人の生き死になんて、テレビやネット、あるいはマンガやゲームのフィクションでしかなかったのだから。
それがこの前、目の前で起き、親しい人たちが死にかけ、敵が目の前で死んだ。それを見て彼らは気付かされただろう。自分たちの進む道は日常ではなく、非日常の世界であるとーーー
だからこそ、命を大事にして日常の世界へ戻る者は多いだろうと思っていたのだがーーー現在、誰も学園を去ったという話を聞いていない。
なぜ、去る者がいないのか?そして何を根拠に悩んでいる者が多いのか?
その理由や根拠は三國先生や月見先生、そして俺たちがいるからというのもあるだろうが、おそらく一番の要因はーーー
「聖槍十三騎士団……か」
そう、彼らだろう。本来なら世界の敵だという事で恐れられる彼らだがーーー今回朔夜が学園の警備を頼んだと言った件や、実際に現れて敵を殲滅してくれたという点で揺らぎ、そしてなぜか留まる者が多い。
留まる理由は人それぞれで、詳しくは知らないがーーーまあ、慣れ親しんだ友人がやめないというのはありがたい。
ちなみに優月は今回も友人たちがやめないようにと奔走しまくっていた。そして上級生にも似たような事をしていたと聞く。
「……友人思いだな」
「?兄さん、何か言いましたか?」
首を傾げ、俺を見る優月に何でもないと言いながら考える。優月は昔から友人を大切にして、困った人がいたらなんとしてでも助け、励ましているのだ。俺はそんな優月が微笑ましく思うし、同時に頼りになると思っている。
「……う〜ん……何考えてるんですか?と言っても、教えてくれないでしょうし」
「優月は友人を大切にする優しい美少女だなって思っただけだ」
「へ〜、そうですか…………えっ!?」
褒められた事に気付き、顔が赤くなっていく優月。
「何恥ずかしがってるんだ?さて、遅れるから早く行こうぜ!」
俺は優月の手を引いて、校舎へ急ぐ。きっと彼女に助けられた者たちは、彼女が困っている時に力を貸してくれるだろうと思いながらーーー
教室へ入ると、始業間近というのにクラスメイトは七割程しか登校していなかった。
悩んでいる奴らが不登校気味となっている為だ。
「まだ不登校者がいますね……元気付けないと!」
あの日から、この学園の非日常の中で得た日常の歯車が狂った。
そんな歯車を直すとしたら、優月の役目だろう。俺はそれの手伝いをするだけだ。
そう思いながら、俺たちは席についた。
しばらくすると、うさぎ耳を付けた人物が場違いな位に明るい声を上げて、入ってきた。
「はいはーい♪皆、おっはよんよーん☆HR始めるから座ってねーん♡」
あの日、多くの敵をなぎ倒した姿から、実は頼りになると評価が高まった担任ーーー月見先生だ。
「おはよー白うさ先生」
「今日もテンションたけーな、白うさ先生」
「白うさ先生だし」
月見先生に対し、そこかしこから話し声や返事が聞こえてくる。
ちなみになぜ、白うさ先生と呼ばれているかと言うとーーー
「オラァ!とっとと座れっつーてんだろが、ガキども!!」
「黒うさ先生モードだ」
「ヤベー黒うさ先生ヤベー」
「黒うさ先生もっとなじって……」
素の部分を見られた上で問いただされ、キレた姿を全員に見せてしまった為に、このように呼ばれている。
「そこで男を取り合ってる金銀。HR始めっから、夫婦愛人三角関係修羅場シーンはとっとと終了しやがれっつーの」
「修羅場でも何でもないですから」
「ヤー」
「それにはあたしも同意するけど、あたしを見て愛人呼ばわりした事が気になるわね」
「いやーん、お嬢様はチェック厳しいんだからぁ♪」
「全く、あたしが正妻だっていつも言ってるでしょ」
「ナイ、お断りします」
「何であんたに断られなくちゃならないのよっ!?」
視線をぶつけ合う、銀と金の髪を持つ少女。
それを見て、俺はいつもの雰囲気が少しずつ戻ってきている気がして、笑みを浮かべるのだった。
「買い物?今日の放課後か?」
「はい、ちょっと買いに行きたいものがあるので……付き合ってくれます?」
そんな会話をしたのが、今から約二十分前ーーー俺と優月はあらもーどにいた。
俺はベンチに座り、目の前のお店で買い物をしている優月を眺めていた。
「……暇だ……」
ついてきてほしいと、優月には言われたのだが……実際とても暇だ。
ふと、目の前で歩いている人々へ目を向けるととても楽しそうに歩いている姿がある。
家族と、友人と、そして恋人と笑い合いながら歩いているその姿はここが今、平和だと実感させ、自然と笑みが浮かぶ。そう思って、他の人たちを見ているとーーー
「……ん?」
視界の端である人物が歩いているのが目に入る。その人物はすでに後ろ姿しか見えないが、黒髪ロングの女性だった。面識もなく、初めて見る筈なのになぜか気になり、目で追いかける。
その人物は少し離れた横の細い通路に入り、姿が見えなくなる。
「終わりましたよ、兄さん……兄さん?」
そこへ買い物を終えた優月が戻ってくる。
「……優月、ちょっと気になる人を見かけたから行ってみていいか?」
「え?ま、まあ、買い物は終わりましたからいいですけど……知り合いか何かですか?」
「いや……でもなんだか気になってな」
そして俺は立ち上がり、その人物が消えた通路へと向かった。
side out…
「はぁ……」
みやびは今、とても悩んでいた。
その理由は臨海学校まで遡るーーーあの襲撃がある少し前、浜辺で彼女は透流と二人きりになれた。その時に彼女は今までその胸の内に秘めた透流に対する想いをーーー好きだという想いを彼に伝えた。
しかし透流の返答は、困ったような顔をされただけだった。この時、彼の内心では様々な考えや思いが浮かび、即座に返答出来なかったのだが……そんな事を知らないみやびは、告白した事に後悔した。
その後は逃げるようにその場を離れーーー襲撃に巻き込まれた。
幸い、影月や透流、その他トラたちなどの助けにより怪我は無く、襲撃をやり過ごしたが、彼女の心には深い傷跡が残った。
いつも優しく、元気をくれた人へ告白した事で困らせてしまった事。そして逃げる事によって余計に困らせてしまった事。何より危うく透流の命を落とさせてしまいそうになった事が、彼女の心に傷をつけたのだ。
そして現在、彼女はあらもーど内のベンチに座っていた。彼女の《
(気を使わせちゃってるなぁ……)
みやびは臨海学校で怪我をして、松葉杖を突く《
「……もっと、わたしが強ければよかったのに……」
足手まといにならない強さが自分にあれば、透流の命を危険に晒さずに済んだかもしれないという思いが、みやびの口から零れ落ちた。
「……強くなりたいとは、どういう事なのかね?」
そんな深く沈み込むみやびは突然話しかけられた事で驚く。
いつの間にか
「あ、あの……聞こえていました?」
「ちょっぴりじゃがの」
その老人の笑顔につられ、みやびもほんの少し笑みが浮かぶ。
そんな突然現れた老人に対して、みやびは恥ずかしさを覚えつつも話を続ける。
「えっと……そ、そうなんです。わたし、強くなりたいんです……」
みやびは言葉を選びつつも、友人や大切な人を困らせた事、彼らを困らせない位に強くなりたい事、でも全然ダメだという事を
老人は否定する事も無く、肯定する事も無く、相づちを打ちつつ話に耳を傾ける。やがて、みやびはふと我に返り、力無く笑った。
「あはは……見ず知らずの人にこんな愚痴を聞かせてしまってごめんなさい……」
「構わぬよ。たまには吐き出す事も大事じゃて」
老人は、笑う。
「ところでのう、お嬢さん。先ほどの話じゃがーーー
「そ、そうですかね……?」
「うむ。自分の弱さを知っておる者は、必ず強くなる事が出来るものじゃ」
「くすっ、ありがとうございます、おじいさん。わたし、ちょっとだけ元気が出たような気がします。本当にそうなればいいなぁ……」
「ふははっ、儂が保証しよう」
老人が、
見る者が見れば、それは柔和な老人の笑いでは無く、悪魔の嗤いであった。
そして今、悪魔は一人の少女を甘い蜜のような言葉で誘惑する。
「お嬢さん、其方にきっかけをお贈りしよう。心の底から《力》を欲するならば、の」
そうして、老人はさらに嗤う。
少女はその言葉へ耳を傾けーーー最後に頷いてしまう。
「ならば、これを与えようーーー《
「へぇ、その
「「っ!?」」
突然、声が聞こえて二人は聞こえた方向を向く。
みやびの横から聞こえたその声の主はーーー
「おっと、気にせずに話を続けてくれよ。僕はただ、君たちの話が気になっただけだからね」
そこに立っていたのはヘッドバンドを着けた黒髪ロングの髪を肩と太もも近くの高さで結んでいる少女だった。
服装はどこかの高校だろうかーーー制服を着ていた。手にはソフトクリームを持っている。
「え、えっと……貴方は?」
「ん?僕の事は気にしなくていいって言ったぜ?そちらのおじいちゃんも気にせず続けてくれ。それとも、僕が聞いていたら何か都合が悪い話なのかい?」
「……そちらのお嬢さんは知らんが、其方は昊陵学園の生徒じゃろう?」
「ーーーっ!!ど、どうして知っているんですか……!?」
制服を着込んでいるのならともかく、私服である自分がどうして昊陵の生徒と判かるのだろうとみやびは驚く。
「なんだい、その学園は?……んん?おじいちゃんはその学園の関係者なのかい?」
「この近くにある特殊技術訓練校じゃよ。儂は九十九の嬢ちゃんと
「え……?えっと、九十九って、理事長の事ですよね。それじゃあ、おじいさんは研究室の人なんですか?」
老人ーーー《
けれどみやびはその笑顔で、正解だと信じ込んでしまう。
それも無理からぬ事。学園の地下にある《
しかし、研究者側からすれば、生徒一人一人のデータに目を通していてもおかしくない。
故に結論づけてしまった。
「儂は《
「ふーん……そのディバイスがねぇ……君は受け取るつもりかい?」
「え、えっと……わたしは力がほしいから……その、もらいます!」
「うむ、ではーーーよし。さてと、儂は行くかの。君がいつの日かきっと強くなれる事を祈ろう」
そう言って、老人は雑踏の中へと消えていった。
「……君はそれでいいんだね?」
「いいの。わたしは何としてでも……強くなりたいから」
「…………分かった」
「あれ?みやびさん?」
みやびと少女が話していると、今度は別の声が聞こえた。
「あ、本当だ。こんな所で何してるんだ?」
「な、何も……あ、巴ちゃんと遊びに来て……ソフトクリーム買いにいったから、ここで待ってたの!」
みやびは影月と優月の姿を見ると、老人から受け取ったディバイスを二人に気付かれないようにしまった。
「そういう二人は何でここに?」
「優月が買い物したいって言ったからな。俺はただの付き添いだ」
「それとそちらの方は……?」
お互いがなぜあらもーどにいるのかを言うと、優月がみやびの横に立っている少女へと目を向ける。
「僕かい?僕はただ彼女と話していただけさ。名乗る程の者じゃない」
「…………」
少女の言葉に少し疑わしげな表情を向ける影月。
一方の少女はーーー影月と優月をまるで品定めをするかのような目で見ていた。そこへもう一人の少女がやってくる。
「みやび、待たせたなーーーって、如月と優月じゃないか。キミたちは買い物か何か?」
「そうだ」
「そうか、それでキミは?」
「う〜ん、同じ事言うのめんどくさいなぁ……後でそっちの人たちから聞いてくれよ」
さらっとそう言って、帰ろうとする少女。しかし影月がそこで声を掛ける。
「なあ、ちょっと待ってくれ。聞きたい事がある」
「……なんだい?」
「向こうで話そうか。橘たちはここにいてくれ。優月はどうする?」
「そうですね……私も行きます」
そう言って影月と優月、そして少女は人が少ない場所へと向かい始めた。
「……で、聞きたい事ってなんだい?」
人が少ない場所にやって来た少女はくるりと振り返って後ろの二人を見る。
「ああ……さっき、あんたは俺の友人たちの所へ通りかかる前に、俺の目の前を通ったんだ。その時にふと気になったんだがーーーあんたは何者だ?」
「うん?僕はどこからどう見ても可憐な乙女じゃないか。この近くの高校に通ってる普通の……ね?」
真剣な顔で問う影月に対して、笑顔で返す少女。しかしその顔は目だけが笑っていない。その目は明らかに影月たちをずっと品定めしているような感じだ。
「普通の?信じられないな……あんたからは周りとは
影月のその含むような言葉が何を意味するのかーーーそれはここにいる三人にしか分からないだろう。その内の一人、優月は怪訝そうな顔で兄を見て、その意味を確認するように聞く。
「違うって……やっぱり」
「あんたは明らかに周りの人とは何かが違う。言うなれば……異常者だ」
「おいおい、君は何いきなり漫画みたいな事を言ってるんだい?いきなり君は周りの人とは違う!異常者だ!って……洒落にもならないぜ?」
少女は戯けながら言う。しかしそう言った彼女の纏う雰囲気は先ほどとは違って、少しだけ変わっていた。
「そんなに雰囲気変えるような事か?俺はただ気になったから、聞いてるだけだぞ?そんなに変わったら自分は異常者ですって言ってるものじゃないか?」
「確かにそうだけどねぇ。まあ、君たちの言う通り僕は他の人とは違うから……気付く人は気付くけど、この世界では君たちが初めてだよ」
「この世界?」
影月がそこで初めて聞き返す。
「僕は君たちのいるこの世界とは別の世界から来たと言ったら、信じるかい?」
「そんなの信じられるか!……って言いたいが……この世の中何があっても不思議じゃないからなぁ……聖槍十三騎士団ってのもあるし、信じないとは言えないな」
「私も同意見です。世の中可能性が0じゃない限り起き得る事は起き得ますからね」
二人の返答を聞いて少女は少し微笑む。
「君たちがメルクリウスが言っていた兄妹ね……僕が言うのも変だけど、君たちも常人とはかけ離れてるよね」
「自覚はしてます。というより、今さらっとメルクリウスって言いませんでした!?」
「ん?ああ、彼とは話した事があるからね。と言っても声だけしか聞いてないけど」
「本当に何者だ、あんた……」
少女は変わらない笑みを浮かべて言う。
「初めから言おうとは思ってたけど、人の名前を聞く前にまずは自分から名乗るって言う台詞を聞いた事は無いのかい?」
「聞いた事は……漫画でもあるし、ここ最近もあったな……」
ちなみにここ最近とは、ヴィルヘルムの事である。
「……俺は如月影月だ」
「私は妹の如月優月です」
「と言っても、名乗られても名乗り返すとは言ってないんだけどねーーーってそんな怖い顔をするなよ。分かってるよ、ちゃんと名乗るから」
戯けながら少女は言ったが、影月と優月の無言の威圧により、真面目な顔になって咳払いをする。
「こほん……僕は
「人外か……まあ、《
「まあ、僕の事は親しみを込めて
「分かりました。それで安心院さん、貴方は一体……」
「その続きはまた後で話さないかい?……そうだね……今日の夜、僕が君たちの所に行くよ。いいかい?」
「学園へ?いいが……夜は入るの厳しいぞ?ここ最近色々とあったから警戒も強いし、夜は訪問許可取れるとは思えないし……」
「まあ、そんな事は僕には関係無いけどね。とりあえず君たちの所へ訪ねるから。じゃあね」
そう言うと安心院は手を二人に振った後、その場を去って行った。
その場に残った影月と優月は話し合っていた。
「彼女、必ず来そうですね。お茶でも用意してましょうか?」
「そうだな……メルクリウスの事を知ってたから、一応朔夜にも来てもらうか……」
二人はこの後の方針を大体話し合って決めた後、待たせている橘とみやびの元へと戻って行った。
先ほどの不思議な少女の事を頭の隅にとりあえず置いといてーーー
駄文かなぁ……。
水銀「些か文才が無いのでは無いかね?」
……分かってますよ!てか出てくんな!
水銀「おや、失礼。では誤字脱字・感想意見等よろしく頼むよ(キラッ☆)」
(ウゼェ……)そして台詞取りやがった……。
それはともかくまた次回お会いしましょう!