アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
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「《
《
星を象徴する《
しかし、彼らは時々一堂に会していた。一番初めに朔夜が受け取ったと言ったものがその宴だ。
「主宰より、《
「光栄ですわ。私の方こそ、此度の宴を心待ちにしておりましたとお伝えを」
手渡された招待状の内容を確認し、朔夜は《
ーーーが、やがて使者が退室して重いドアが閉じられた途端、少女はその小さな体をイスの背へと沈み込ませて大きく息をはいた。
「気が進まないご様子ですね、朔夜様」
「甲斐無き宴に参加せねばならないと思うと……しかも今はそれよりも大事な事もありますわ」
今回の宴に参加した所で、己の研究に何かメリットがある訳ではない。ようは時間の無駄だと感じているのだ。しかし、《
「失礼します。理事長、昼間の話の件でお迎えに来ました」
ある一人の生徒ーーー数日前の夜、朔夜が精一杯自分の好意を伝えた青年がやってきた。
「あら、ちょうど話が終わったのでよかったですわ。三國、貴方はいつも通りの仕事に戻りなさい。私は彼とちょっと出掛けてきますわ」
そう言って朔夜はイスから立ち上がり、自らを呼びに来た青年と共に外へと出た。
世界をーーーその地域周辺を明るい光で照らしていた太陽が西に沈み、代わりに東から姿を現したのは、太陽の光とは別の雰囲気の光を放つ月だ。
その月に照らされ、草木は昼間とは違う色を見せ、辺りの景色ーーー寮から校舎へと続く道も昼間とは違う雰囲気を放っている。
そんな夜の雰囲気の中、舗装された道を歩いて寮へと向かっている人影が二人あった。
一人はこの学園の生徒である影月。彼は天に浮かぶ月を横目に、隣に並んで歩く少女のペースに合わせて歩いている。
そしてもう一人はこの学園の責任者であり、理事長である朔夜。彼女は並んで歩く影月の横で薄く笑みを浮かべながら歩いている。
なぜ薄く笑みを浮かべているのかは分からない。月の綺麗さを見て自然と笑みを浮かべているのか、それとも花壇に咲いている花を見て笑みを浮かべているのか。
それともーーー想い人と共に、歩いているのが嬉しいのか。それは本人にしか分からないだろう。
「朔夜、突然の事で申し訳無い」
「構いませんわ。その安心院さんーーーと仰る方が今夜この学園に来る、さらにその方がメルクリウスの事を少しは知っているとなれば……私も少なからず興味がありますわ」
ちなみに三國は自分の仕事をしにいったので後ろからこっそりとついてくるーーーなんて事はない。
ーーーもう朔夜の警護は影月でいいのでは?という意見が上がりそうだが、そのような意見はどこかへ放り投げておこう。
「一つ聞きたいんだが……あれから退学者はいたのか?」
影月が聞いているのは、以前あった襲撃によって、この学園から去った生徒はいるのだろうか?という内容だ。それに対し朔夜はーーー
「良いのか悪いのか、私には分かりませんが……今まで誰も退学届を出していませんわ」
「そうか、そりゃあよかった。友人がいなくなるのは嫌だし、それは上級生に対しても同じ事だからな……良い知らせだよ」
朔夜は少し思考したような表情を浮かべながら、影月の質問に返答し、その返答を聞いた影月は優しい笑みを浮かべる。
その優しい笑みを見た朔夜は少しだけ見惚れて、頬が赤くなるが、すぐに我に返って見惚れていた事を誤魔化すように話を逸らす。
「っ!そ、そういえば影月は昼の事で他に何か気になった事は無かったですの?」
「ん?どういう事だ?」
影月に気付かれないようにする為に朔夜がそんな事を質問する。
「例えば、何か気になる人物がいたとか……安心院さんという方以外で。または気になった行動とか……」
「気になった事…………ああ、そういえば一つ、気になった事はある」
ただ話を逸らす為に聞いた事だったが、気になる事があると言われ、朔夜は先ほどまでの動揺を消し、目を細め問う。
「……それはなんでしょうか?」
「みやびだ」
「……何かおかしな所でもあったんですの?」
影月の口から思わぬ名が出た事で朔夜は少しだけ目を見開くが、すぐに細めて続きを促す。
「ああ……俺と優月がみやびと会う前、安心院と一緒にいて話していたっていうのは言ったよな?」
朔夜が頷くのを見て、影月は続ける。
「で、優月がみやびに話しかけたんだが……彼女は俺たちの姿を見た途端、慌てて何かをポケットにしまった気がしてな……」
「慌てて何かをしまった…………貴方たちや、人には見せられないもの……という事ですの?」
「人に見せられないものかは分からない。でももし人に見せられないなら、安心院が話しかけてきた時点でしまってるだろう?」
「……それもそうですわね……でも手に持っていたと言う事は……
影月の話を聞いた朔夜は少しだけ思考しーーー再び口を開いた。
「……そのしまったものが何なのか、それを安心院さんか第三者からもらったのかは分かりませんし、色々と可能性としては考えられますけれど……どちらにしてもあまりいい予感がしませんわね」
「ああ、同感だ」
そんな話をしている内に目的地である寮に着いた。
二人は寮内に入り、影月と優月の部屋へと向かう。そこで話し合いをするつもりなのだ。
階段を上がって、部屋に入ろうとした二人の背後からーーー三つの声が聞こえた。
「あれ?影月?それに理事長?」
「ヤー、こんばんわ」
「あら?朔夜、貴方が寮に訪ねてくるなんて珍しいわね。どうしたの?」
二人が声をかけられた方を見ると、透流とユリエ、そしてリーリスがこちらに向かって歩いてきていた。
透流とリーリスは普段、寮に現れる事の無い人物がここにいるという事に驚いていたが、ユリエは相変わらず無表情だった。しかし、ユリエの《
「別に大した事ではありませんわ。彼らにただ、お茶を誘われただけですわ」
「ちょうどいいな。三人も来るか?まだ就寝時間じゃないし……少しくらいは時間過ぎても大丈夫だろう」
「いいのか?うーん……二人ともどうする?」
「ヤー、私は透流に任せます」
「あたしも任せるわ。旦那様♪」
「じゃあ、いただこうかな」
「分かった。さあ、入ってくれ」
リーリスの旦那様発言を全員が綺麗にスルーして、影月が三人を部屋に招き入れるーーーリーリスが「ちょっと、無視しないでよ!?透流!」などと言いながら、透流について行ったが。
そこで影月の後ろをついていく朔夜が影月に耳打ちする。
『影月、いいんですの?彼らを巻き込んで……』
『問題無い。彼女が来る前に帰ってくれるのが一番いいかもしれないが……別に接触しても問題は無いだろう』
部屋に入ると優月がカップをテーブルに置いて、お茶を入れる準備をしていた。
「あ、おかえりなさい、兄さん。そしていらっしゃい、朔夜さん。透流さんたちも一緒に飲みに……?」
「ああ、プラス三人分のカップが必要だな」
優月は影月に言われるとすぐに台所の戸棚からカップを取り出し、リビングのテーブルに置く。
「もう少しで紅茶が出来ます。皆さん、適当に座って待っててください」
「分かった。ありがとう、優月」
「俺たちまで悪いな」
「いえいえ♪」
影月が部屋に敷いてある座布団に座ると、その左隣の座布団に朔夜が座った。ちなみに透流はユリエとリーリスの間ーーーおそらく彼女たちが透流を挟んだのだろうーーーに座っていた。
「……なんで俺は挟まれているんだ?」
「ん〜……こっち見ながら聞かれてもな。二人に聞いてみたらどうだ?」
「あたしは透流の旦那様よ?隣に行くのは当然でしょ♪」
「ナイ、お断りします」
「なんで貴方が断るのよ!?貴方だって今、透流の隣にいるじゃない!」
「私は透流の《
「はぁ……ゆっくりお茶を飲むというのに、始めから騒がしいですわね」
影月は苦笑いし、朔夜は呆れたように首を振っていた。
「ちょ……見てないでなんとかしてくれよ!?」
「「無理(だ)(ですわ)」」
二人は声を揃えて拒否をした。
数分後、優月は全員のカップに紅茶を淹れ、自分のカップにも淹れた後に影月の右隣に座る。
「さて、それじゃあいただきましょうか?」
優月の言葉で皆が頷き、お茶会が始まる。
「このクッキー美味しいですわ。優月も影月も料理出来るんでしたわね」
「ああ、優月の腕には劣るが……」
「何言ってるんですか!兄さんの方が上手いですよ!」
「いやいや、優月の方が」
「いえいえ、兄さんの方が」
「そんな事より、誰かなんとかしてくれ……」
透流の悲痛な声が聞こえたので、三人の視線が透流に集まる。その目に映ったのはーーー
「トール、私がクッキーを食べさせてあげます。こっちを向いてください。あーん」
「透流、こっち向いて口開けて♪あーん♡」
美少女二人が微笑みながら(ユリエは分かりづらいが)透流の口元にクッキーを持っていく。
しかし美少女二人の目は互いに視線をぶつけ、睨み合っていた。
「……諦めてくれ、透流。なんとも出来ない。まあ、どうにかしてその状況から脱せるように頑張れ!!」
「ちょっ!?影月!?」
「トール」
「透流〜♪」
「ところで兄さん、いつ来るんでしょうね?彼女……」
そこで優月が唐突に話を変える。おそらく彼女もどうにも出来ないから話を変えたのだろう。透流涙目。
「……さあな、特に時間とか決めてないし……夜って事以外は」
「もう夜ですから来てもおかしくないとは思いますわ」
現在は夜の八時ーーーお茶会が始まって数分だが、すでに賑やかになっている所はなっていた。
「まあ、ゆっくり楽しもうぜ」
「透流!早く口を開けてちょうだい♪」
「ナイ、あっちでは無くこっちに開けてください」
「誰か助けてくれぇぇぇ!!!」
そして時は経ち、時刻は夜の九時ーーーお茶会開始から一時間程経過した。
その間には、朔夜や優月が楽しそうに話す姿や、
「う〜ん……まだ来ないか……」
ここに来ると言った人物ーーー安心院なじみが来ないのである。
ちなみに何も知らない透流たちは、その発言を聞いて不思議そうな顔をしている。
「さっきも言ってたみたいだけど、他にも誰か来るのか?」
「ああ……まあ、夜はまだまだ続くから気長に待つか……」
「そうだね、世の中気長に待った方がいい事もあるからね。あ、紅茶、僕にももらえるかい?」
「はい!分かりまーーー」
『………………』
優月の隣から声が聞こえ、皆がそこを見るとーーーいつの間にかそこに少女がいた。その唐突な出現に皆、動きを止めてその少女に注目した。
一方突然現れ、注目を集めた
「ん?どうしたんだい?早く紅茶をくれよ。淹れてくれないなら勝手に淹れて飲むぜ?」
「……どこから入ってきた!?そしていつ来た!?」
影月が最もな反応をする。いきなり現れ普通に会話して来たのだから、この反応は自然と言えるだろう。
「ん?ついさっきだぜ?どこからってそんなの、僕のスキルで来たに決まってるだろう?」
「……スキル?」
「……お、おい影月、彼女は……?」
「ああ……彼女がさっき話した俺たちの待ち人、安心院なじみさんだ……」
「そうそう。まあ、僕の事は親しみを込めて
安心院は優月が淹れた紅茶(優月も驚いていたがしっかりと紅茶は淹れていたらしい)を飲みながら言った。
その後は、多少驚きながらも透流たちも自己紹介をした。
そしてほんの少しだけお互いに無言になりーーー紅茶を飲んで一息ついた安心院が口を開く。
「で、君たちの聞きたい事は僕の事だっけ?」
「あ、はい、改めて聞きますけど……貴方は何者ですか?」
優月が聞いたその言葉は昼間、影月が聞いた同じ言葉とは違う意味を持っている。
その言葉に彼女は答える。
「……う〜んと……君たちに分かりやすく言うと、僕は別の世界、別の次元から来た人外なんだよ」
「別の次元、別の世界ねぇ……」
「うん。僕は前の世界ではある人物に殺されてしまってね……結局時間はかかったけど僕は復活出来た。で、目覚めた場所はどこの次元にも所属してない僕自身が作った世界で……まあ、その殺された世界に戻りたくなくて、今まで色々な世界を見て回ってきて、最終的にこの世界に入ったんだ」
「なぜ元の世界に戻りたくないんだ?」
「僕は死んだだろう?まあ、そんな事構わずに現れてもいいんだけどさ、なんか行きにくくてね。殺されたし」
「……貴方のいた世界ってどんな世界なんですか?」
「うん。僕がいた世界はこことは違ってね。人に六つのタイプがあるんだ。
「ちなみに貴方のスキルと言うものは一つだけですの?」
「いや、それは人によって違うぜ?一つとか二つとか、複数持ってる奴もいるし、僕は1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持ってるし……」
「なんだそのおかしい数字……」
安心院の持っているスキルの数にドン引きする影月。周りも絶句し、引いている。
「僕がここに来たのも、1京個のスキルのうちの一つ、『
その後はスキルの事や、その世界での彼女の過去ーーー殺されたり、顔の皮を剥がされたりされたという話をしていた。皆は驚いたり、気になった事を聞いたりしながらしっかりと聞いていた。
「……安心院さん、一つお聞きしても?」
「なんだい?朔夜ちゃん?後、発言する時には手を上げようか」
話しかけた朔夜は安心院の返事に若干表情を歪めたが、すぐに気を取り直して問う。
「……私は九十九朔夜と申しますわ。貴方は、メルクリウスさんとは本当に話しただけですの?」
「そうだけど……君は彼の事を知ってるのかい?なら僕はそれを知りたいんだけど……」
今度は安心院が目を細め問う。彼女はメルクリウスに対して、警戒というか、興味という感情を持っていた。
次元や別の世界へ渡るような方法を持つ者ならば、別次元への干渉なども可能だ。しかし安心院自身が作ったあの教室の形の世界は、そう簡単に外部からの干渉は出来ないように彼女自身がとても強く作った世界だ。
それを
そんな男に対して普段はつまらなそうな目をしている彼女がこうして興味を抱くのは当然だと言えるだろう。
「……彼とは実際に会ってお話した事がありますわ。掴み所が無くて、何かを言うにしても遠回しに言ってきますわ」
「ふ〜ん……ちなみにこの世界で彼は有名な人なのかい?」
「ああ……表の世界ではノストラダムスとか名乗ってたらしい。名前も星の数ほどあるとか。裏では有名な魔術師で、ドイツの聖槍十三騎士団って軍組織を魔人の集団に変貌させたりとか……知らないか?」
「ノストラダムスは僕の世界でも聞いた事あるね。そして聖槍十三騎士団かぁ……長く生きてる僕もそんなもの聞いた事無いね。どんな組織?」
今度は安心院がそう質問してきて、影月たちが説明をし始める。
百八十年経った今でも猛威をふるっている組織で特異な術により、不老不死であるという事。首領はドイツの有名なゲシュタポ長官で色々な人から恐れられた人物である事。そして一般人どころか通常兵器では傷一つ付かないという事。最後に裏社会に通じている者たちで無いと彼らの事は知らないという事を話した。さらに付け足してこの学園に最近干渉しているという事もーーー
「へ〜、ラインハルト・ハイドリヒかぁ……第三帝国の首切り役人って呼ばれた人ねぇ……そして十三人の魔人の集団……箱庭学園に通ってる人たちより強いかな?」
「あんたの通ってたその学園の人たちの事は知らないからなんとも言えないが……余程の実力が無ければ、平団員すら手も足も出ないかもしれないぞ?」
「…………そんなに強いのなら、興味あるね」
安心院はここに来て初めて、目の色が変わる。
そしてとんでもない事を言い出した。
「ねぇ、僕もここへいていい?」
『……は?』
「僕もここへいていい?」
『…………』
同じ事を二度言った安心院。
彼女は本気で言っているのだ。彼女は戦闘狂では無いが、そのような面白い者たちがいるなら一目会ってみたいーーーと思ってこのような事を言っている。学園に騎士団が干渉してきているならば、下手に探し回るよりここにいれば、出会える可能性が高いからそう言っているのだろう。
最も彼女は答を知るスキル『
しかも仮に使っても最後の結末だけは分からないかもしれない。彼女は知らないが、この世界を収める女神の守護者である水銀の蛇の力によって最後の結末は分からないようにしているのだ。まあ、水銀の蛇に言わせれば、「そのような興醒めな事は認めん。断じて認めん。私が法だ、黙して従え!」とか言うだろうーーー
「あ、部屋とかはいらないよ?君の中にいさせてもらうから」
「え、俺!?」
さらに安心院がそう言って、影月を指差す。影月は自分に対してそう言われるとは思ってなかったようでさらに驚く。
「その方が色々都合がいいんだよ。君たちといた方が……ね?」
「……ならば、一つ条件がありますわ」
そこで今まで沈黙していた朔夜が口を開き、その条件を言った。
「この学園に生徒として通ってもらいますわ。扱いとしては転入生という形を取らせていただきますわ」
「それなら《
優月が一番の問題を聞く。確かにこの学園では《
「《
「……そうですわ。貴方は何か武器を出せたり、武器を扱ったり出来ますの?」
「剣とか銃火器なら出せるよ?他にも細かく言ったら、精神系スキルとか魔法系スキルとかあるけど……」
「魔法!?」
その言葉に透流たちが再び驚き、安心院に注目する。対して影月や優月、朔夜は驚きはしたもののあまりそこまで反応は大きくなかった。
「魔法ですか……メルクリウスが魔術師って一面もあるらしいので、あまり驚きませんね……」
「同感だ」
「私もメルクリウスの事もありますし……それ以外でも魔術に長けた者を聞いた事がありますわ」
「へぇ?朔夜さん、それはこの世界の人かい?」
安心院が再び興味深そうに聞く。彼女自身、そんな存在は今初めて知ったのだろう。
「そうですわ。まあ、どんな人というのはお教え出来ません。重要機密ですし、それに近い内に私はその方たちと会う事になっていますわ」
「俺たちに関係するかは分からないが……一応覚えておこう。ちなみにリーリスは、朔夜が言った魔術に長けた者の事は聞いた事があるか?」
影月がリーリスにそう質問した理由は、彼女が《
学園では彼女のその称号故に、生徒の個人情報を覗き見たり、ある程度の裏社会に通じているなど、《特別》な扱いを受けている。そんな彼女なら知っているのだろうか?と思って、影月は聞いたがーーー
「……いいえ、初耳よ。あたしの耳に入らないって事は相当の機密なんでしょ、朔夜?」
「ええ、いくら《
朔夜は首を横に振り、そう言う。リーリスが知る事が出来ないという事はそれだけ深い裏に通じている者だという事だ。
「で、話を戻すけど僕はここにいていいんだよね?さっきの条件は飲むよ。《
「…………まあ、いいか。俺の中に入ってもいいが……迷惑掛けるなよ?そして何か頼む事があったら、相談させてもらう」
「構わないぜ。僕の方こそよろしくね」
そう言って安心院は影月に手を差し伸べてくる。その手を影月が握り返し、握手をする。
ちなみに優月や朔夜が先ほどから何も言わないのは、様々な事を考えて、メリットとデメリットを考えた結果問題はあまり無いだろうと判断したからであるーーー影月の中に入るという所は何か言いたげだが。
二人の握り合った手が離れると、部屋の空気がいくらか軽くなる。
「はぁ……お茶しに来たらこんな場面を見せられるなんてな……」
「でも、いいと思います。結果的に新しい仲間も増えたって事ですから」
「あたしもいいと思うわ。監視は
「リーリス……なあ、安心院、彼女の中に入らないか?」
「そうだねぇ……なんか危険物みたいな言い方されたから、流石の僕も今の発言は気に食わないなぁ……皆、
『どうぞ!』
「ちょっと!?待って、謝るからやめて!?」
そんな騒がしい二度目の邂逅を終えて、その数分後にお茶会はお開きとなり、皆部屋や学園へと戻っていったのだった。
「報告は以上か?」
「はっ!私たちからは以上です!ハイドリヒ卿」
「分かった、下がりたまえ。しばらく休むがよい」
「「jawohl!」」
「……」
報告を受けた黄金の獣ーーーラインハルトは三騎士に労いの言葉を掛ける。
労いの言葉に
そして三人が玉座の間から出て行き、玉座の間が静寂に包まれる。
が、そこへ別な人物が現れる。
「失礼致します。ハイドリヒ卿」
「ん?シュピーネか。どうしたね?」
黒円卓第十位ーーーロート・シュピーネ。彼はかつての
そんな彼が何の用でここに来たのかーーー
「副首領閣下は今どちらにいらっしゃいますか?」
「カールか?ふむ……」
彼がここに来たのは、ラインハルトに用があって来たのではなかった。副首領メルクリウスに用があって来たのだ。
しかしメルクリウスは神出鬼没、どこにいるのか、どこに現れるかなどが彼には分からないので、唯一の親友であるラインハルトの元に来たというわけだ。
「カールよ、見ているのだろう?私が知らぬ間にシュピーネに何を依頼した?」
「何、ちょっと聖餐杯に変わるものについて調べ物を依頼していてね。何か成果はあったのかな?」
ラインハルトが虚空に呼びかけると、いつからそこにいたと言いたくなるような感じでメルクリウスはふっと現れた。
「は、はい。とある組織にて
「
「この世界での魔法だよ。厳密に言えば錬金術で創り出した知的生命体と言った所かな。外見や基本的能力は人のそれと何ら変わりないが、調整する事で身体能力の向上を図ったり、特異な力を出す事が出来る」
「ふむ……それをどうするのかな?まさか、それに私の遺伝子でも錬金釜に入れて聖餐杯を創ろう、などとは思っていないだろうな?」
「ふふ、そのまさかだよ。元より錬金術は私の得意分野でもある。複製として貴方の肉体を創り、その中にクリストフの魂でも突っ込めば、黄金聖餐杯は出来るのではないかと思っているのだよ」
「……何というか、いつもの卿らしくないな。いい加減な気がするのだが?」
ラインハルトは親友の説明に対して呆れたように言う。しかしメルクリウスはそんな反応を無視して、シュピーネから渡された資料を見ながら話を続ける。
「そこまでいい加減ではないと言っておこうか。オリジナルとは違って、色々と彼に都合がいいように肉体は創っておこうと思う」
「具体的にはどのような事だ?」
「耐久年数による劣化を無くしたり、肉体の器を大きくしたりだな。実際、器を大きくした所で入る魂の総量は貴方程の量は無理だろうが、かつての聖餐杯並みの強度にはなるだろう」
「ふむ……ちなみにそのオリジナルとやらは、今は存在しているのか?そしてもし存在するならば、どこにあるのだ?」
ラインハルトがシュピーネへと視線を向ける。
シュピーネは視線を向けられビクッとその身を震わせたが、知っている情報を提示する。
「はっ、はい!東欧のイェウッド国です。なんでもその国の王女であるベアトリクス=エミール=イェウッドというお嬢さんが関わっているとか……」
「ベアトリクス……確かあの世界では《
「ほう……《
メルクリウスの言葉を反復し、笑みを深めるラインハルト。
その笑みを見たシュピーネはさらにその身を震わせる。
「そうだ、獣殿……一つ提案があるのだがーーー」
メルクリウスはラインハルトにある事を提案する。
その内容はこの場にいる三人しか今はまだ知らないが、後にこの提案が新たな波乱を巻き起こす。
「ーーー相分かった。卿の提案、乗ってやろうではないか」
「重畳、では私も準備するとしよう。シュピーネ、引き続き頼むよ」
「り、了解です!」
こうして物語はさらに動き出すーーー
安心院さんは影月たちの味方となりました!
そして
もう一人の
誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!