アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
side 優月
「おかえりなさい、透流くん。ユリエちゃん、リーリスさん、トラくん、影月くん、優月ちゃん、安心院さんもお疲れ様」
あれから数刻程経った後、私たちは別働隊の
そこでみやびさんや巴さん、タツさん、月見先生が出迎えてくれました。
「ただいま、みやび。……約束、守ったぜ」
「うん、ありがとう」
本当なら色々と話をしたい所ですが、皆さんは怪我の本処置をする為、すぐに医療棟へ向かう事になりました。
ですが、皆さんの怪我は私の能力のおかげでほとんど無く、診断の結果、透流さんは《
リーリスさんは診察後、サラさんに付き添われて部屋に戻り、ユリエさんとトラさんはとりあえず、一晩だけ医療棟で様子見として過ごす事になりました。
皆さんと別れた後、私たちは寮の自室へと戻って眠る準備をしています。
「さて、それじゃあ寝よっか」
「あ〜……疲れた……」
「ふふっ、おやすみなさい」
そして二段ベッドの下に兄さんが、上に安心院さんと私が横になりました。
それからあっという間に横と下から二つの寝息が聞こえ始め、私もまた眠りに落ちようとしていました。
(私も……寝ましょうか……)
ウトウトとしている中、今日起こった事が薄っすらと思い浮かんできます。そしてーーーある言葉が眠りに落ちかけていた私の意識に引っかかりました。
『くすくす……これで貴方の目的にまた一歩……ですわね』
それは朔夜さんがメルクリウスに向けて言った言葉ですがーーーそれが私の思考に引っかかりました。
(……また一歩……?朔夜さん……彼らの……何を知って……)
ですが、そこで私の意識は暗闇の中へと落ちていきました。
side out…
ゴグマゴグ極東支部、その通路を《
『十全一等、たとえ貴方が不純物と思われる学生生活も、私たちは必要と考えていますの。闘う事のみに特化した純粋なる兵士こそが有能であるとお考えの貴方には、決してご理解出来ないのでしょうけども。くすくすくす……』
昨夜の《
「九十九ぉ……!!」
名では無く姓を口にしたのは、かつて競い合った人物を意識しての事だ。
「敗れたのは、儂の《
苛立ちのままに激しく研究室のドアを開きーーー彼は気付く。
室内に先客がいる事に。
「
老人の顔に驚きが浮かぶ。何しろ先客とはーーー
「どうやら、私の顔は覚えてくれていたようだな」
軍服を纏った男ーーーメルクリウスだった。彼は研究室の資料を勝手に読んでいた。
「……何用じゃ、水銀よ。儂を笑いにでも来たのかの?」
「私が何か君の事で笑う事があるのかね?私はただ、君に話があって来ただけだよ」
メルクリウスは不敵に笑いながら話始めた。
「まず始めに、先ほど上層部の部屋で興味深い話を聞いてね」
「ほう?」
尚、盗み聞きである。
「君の《
「ほう……あの若造もようやく分かったか」
メルクリウスの言葉に満足感を得る老人。
「だが、良い話もあれば悪い話あるのが常というものでね。その悪い話だが、どうやら君の研究はここで終わりーーー打ち切りという話になり、幹部はそれに賛同したようだ」
「なっ……!?ど、どういう事じゃ!?間も無く外部兵装も完成しーーー」
想定外の言葉に驚き、老人は狼狽える。
「なら問うが仮にそれが完成した後、またしてもドーン機関を相手に実戦テストを行うのかね?取るにも足らない君の矮小な自尊心を満たす為にーーー」
「矮小だと!?貴様!!儂はーーー」
「自らの研究を切り捨てたブリストル、君を差し置いて研究が選ばれた九十九ーーーそれらに対し、君は一人
故に、とメルクリウスは続ける。
「この組織は君に揺り椅子を与える事を決定したようだよ」
「なっ……ま、待て!
揺り椅子ーーーつまりは粛正という意味を知ると同時にメルクリウスへと縋る老人。だがーーー
「私に勘弁してほしいと言われても困るのだが。まあ残念ながら、この組織の上層部は君が開発したその程度の《力》では足りないと考えているようだ。それにーーー」
そうメルクリウスが言った直後、部屋に突然赤い液体がほとばしった。
「あ……が……」
「私も生憎と気分が悪くてね。手荒な真似はしない主義なのだが、神をーーー我が女神を斃すなどとほざいた塵芥が目の前にいたので、ついこのような事をしてしまったよ。故に用済みの役者には退場願おうか」
老人の腹部には大きな穴があき、そこからおびただしい量の赤い液体を吹き散らしながら音を立てて倒れた。
そして呆気ない最後を迎えた老人の体と飛び散った血液は暫くするとどこからか伸びてきた影に飲み込まれ、跡形も無くなってしまった。だがその場には一つの青い光がふわふわと漂い、それはやがてメルクリウスの掌の上に浮かんだ。
「ふむ……」
この青い光は、先ほどまで生きていた《
「!貴方は……先日はあまりお話出来ずに申し訳ありませんでしたね」
研究室に華やかな軍服を纏った青年が入ってきた。華やかな軍服を纏った青年ーーー《
「いいえ、成り行きとは言え、《
メルクリウスは《
「まさか、
「私の当時の魔名を知っているという事は、君は余程深く魔術に踏み込んでいるようだね」
「いえ……ほんの少しですがね」
「ふむ……君とは是非とも語り合ってみたいがーーー私も暇ではなくてね。今日は退散させてもらうよ」
そうメルクリウスは言うと、瞬きをするほんの一瞬の間で姿を消した。
一人残された《
「《
side 影月
邸宅での戦いから翌々日となった今日、あれからユリエもトラもしばらくは様子見をするが、退院してもいいという許可を得て、久々に穏やかな日々を過ごしていた。
だが、全ての問題が解決したというわけではなかった。なぜなら昨日、朔夜から《K》を護送していた車両が何者かに襲われ、《K》が行方をくらませたという報告を聞いたからだ。
そのような問題はあったものの、とりあえずこの二日間は何事も起こらず、表面的には平和な日々が戻ってきている気がする。
そして俺は今、なぜか突然理事長室に呼ばれていた。
俺は理事長室のドアをノックし、中に入る。
「来たぞ、何の用ーーー」
部屋の中に入るなり、俺は驚きで固まった。それは理事長室にいた先客に対してだ。
「優月と安心院!?なんでここに!?」
「やあ、なんでって朔夜ちゃんに呼ばれたに決まっているだろう?」
「突然呼ばれたのは兄さんだけじゃなかったんですよ……」
安心院はそう言って紅茶を飲み、優月は苦笑いをする。そして俺たちを呼んだ張本人はというとーーー
「……はぁ、終わりましたわ……」
書いていた書類をトントンと纏め、そう呟く。
「……毎日毎日お疲れ様だな。それで疲れている所を悪いが、用件を聞かせてくれないか?」
俺は来客用のソファの背もたれに腰を掛けて、朔夜に聞く。
そこ、行儀悪いとか言うな!
「貴方たちを呼んだのは他でもありませんわ。ある頼み事をしたくて呼びましたの」
朔夜はイスから立ち上がりながら、窓際へと近付いた。
「俺たちじゃないと出来ない事か?」
「ええ、その頼みというのはーーー」
「は……花火、大会に皆で一緒に行きたいですわ」
「「「………………は?」」」
ーーー彼女は今何と言った?何やらとても彼女に似合わない、妙な単語を聞いた気がした。
「……兄さん、私、耳がおかしくなったんでしょうか?」
「……奇遇だな。俺もおかしくなったかもしれない」
「……朔夜ちゃん、それ本気?」
「ほ、本気ですわ!こ、この面々で、花火大会に行きたいと……思いまして……」
大きく声を出したものの、後半になると、段々と声が小さくなって、恥ずかしそうに俯く朔夜。
ーーーこれを見て、あるいは想像して抱きしめたくなるのは俺だけではない筈ーーー今、ロリコンって思った奴は出てこい。
「……ふ〜ん、僕は構わないぜ?寧ろ僕も行ってみたいぜ」
「私もいいですよ。行くのなら浴衣の方がいいんでしょうか?でも……う〜ん……」
「俺もいいぜ。他の人も誘うか?それともこのメンバーだけでいいのか?」
問うと朔夜は少し考えーーー
「……この面々だけでいいですわ。下手に誘えば騒ぎになりそうですし……」
「それもそうだね……いつ行くの?」
その問いに、朔夜は時計を見て言う。
「他にも出かける生徒がいるかもしれませんわ。なので早めに……五時くらいがいいかもしれませんわね……」
「五時くらいか。分かった。優月たちもいいか?」
「はい!」
「構わないぜ」
そして俺たちは後ほど、理事長室に五時前に集合すると決めて、準備をする為に寮へと戻った。
それから時は経ち、時刻は四時四十分。五時まで残り二十分となった頃ーーー俺は準備を整え、理事長室へと向かっていた。尚、安心院と優月は先に理事長室に向かった。
先に行った理由は優月曰く、おめかしするとの事。なのでどんな格好で行くのかとても気になっている。
「……まあ、俺はいつもと変わらないけどな」
俺はいつもとあまり変わらず、白いTシャツに今回は黒いジャケット、下も黒のジーパンという格好だが。
一応、以前優月とあらもーどに行った際に買った服は着ている時は着ている。龍が描かれたジャケットも着てはいるが……正直、恥ずかしさ故にそこまでの頻度で着てはいなかった。
「ん?影月、出かけるのか?」
そんな事を思い出していると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、橘が立っていた。
「ああ、俺と優月と安心院、それと後もう一人の四人で、ちょっとな」
ちなみに朔夜の名前を伏せたのは、彼女本人が名前を伏せてほしいと言っていたからだ。理由はあまり
確かにこの学園の最高責任者がお忍びで、生徒と共に出かけるのが知れると大事になりそうである。
「そうか。どこに行くのかは分からないが、気をつけて行ってくるんだぞ」
「ああ、ありがとうな。じゃーーー」
見送ってくれた橘の言葉にそう返し、俺は理事長室へと向かった。
そこから少し経った頃、理事長室の前へ立ち、ドアをノックしようとしたーーーが、突然ドアが開く。
「うわっ!?」
突然開いた事によって驚きの声を上げてしまった。
「おっと……影月君、今来たみたいだね。丁度こっちも終わったから、中に入ってくれよ」
「あ、ああ……」
突然出てきた安心院に驚きながらも、俺は理事長室の中へと入る。
その室内で俺はさらに驚いた。
「三人とも、その格好は?」
それもその筈、彼女たちは浴衣姿だったのだから。
「僕のスキルで作ってーーーってそんな事を聞きたいんじゃないか。やっぱり花火大会って言ったら浴衣だと思ってね」
「安心院さんに出してもらったんですよ。どうですか?」
くるっと手を広げて回る優月の浴衣を見る。浴衣は赤を基調とした
「撫子ーーー意味は笑顔とかだっけ。いつも笑って皆を明るくする優月らしい。可愛らしいよ」
「兄さん……ありがとうございます!」
俺が素直に思った事を言うと、優月ははにかみながら嬉しそうに笑顔でお礼を言ってくれた。
その顔を若干頬を緩めながら見ていると、くいくいと服の袖を引かれる。
「優月ちゃんの次はまだ僕と朔夜ちゃんが残ってるぜ?朔夜ちゃんは最後の楽しみって事で取っておくとして、僕のはどうだい?」
今度は安心院の浴衣を見る。薄いピンクを基調とし、色とりどりな花と蝶が描かれているもので、帯の色は紺。正直、俺は彼女が黒を基調とした浴衣とかを着ると思っていたが、薄いピンクでこのような柄の浴衣を着ているのに少なからず驚いた。
だが、似合わないのかと聞かれるとそんな事は無いと言える程似合っていた。
「蝶か……」
「うん。この世界に来る前の世界では殺ったり、殺られたり、復活したりとかあったからね。この柄がいいと思って。それと似合ってるって思ってくれて嬉しいぜ」
「なるほど、蝶は復活とか意味があるんだっけ……そういう意味ではぴったりか。ってか人の思考を読むなよ……」
「まあ、そんな事より最後は朔夜ちゃんだぜ?聞けば、初めて浴衣を着たってさ。しっかりと感想を言ってあげなよ?」
そう言って、安心院は朔夜の背を押して俺の前に出てきた。
「あーーーあ、あう……え、影月……その……私の格好……どう、ですの?」
少し俯き、恥ずかしそうにしながらも、目の前に出てきた朔夜の浴衣は、黒を基調とし、白い水仙が描かれた浴衣だ。帯の色は白で、いつも彼女が着ている
「水仙か……色も意味も朔夜に似合った柄だな。初めて着たとは思えない程よく似合ってるよ」
水仙の意味は、知性美だ。天才と呼ばれる朔夜にはふさわしい柄だと思う。
「ーーーあ……ありがとう……ございます……私もそう言ってくれて嬉しいですわ……」
そう言って上目遣いで見てくる朔夜。正直ものすごく可愛い。
「ちょっと兄さん!なんで朔夜さんにはそんなにデレデレしてるんですか!?」
「影月君、僕と優月ちゃんの時と反応違うよ!」
「えっ!?いや、そんな事……「ものすごく可愛いって思ってたよね?僕たちには思わなかったのに」……そ、そんな事無いって……」
安心院に問われ、戸惑いながらも否定する。でも内心を見透かされてる気がしてならない。
「『
「……もうそろそろ出るか」
「逃げましたね、兄さん……」
優月にそう言われるも、俺は黙ってドアノブに手を掛けるがーーー
「ちょっと待った!影月君、朔夜ちゃんがいるのにそのまま出て行くつもり?」
「……ああ、そのまま出て行ったらまずいか……」
お忍びで出かけるというものである以上、見つかると後々面倒になる事は必然だ。
「だから僕の『
なぜモノレール乗り場の近く?と問うと、朔夜がそうして楽しく話しながら行きたいからとの事。
「分かった。じゃあーーー」
「うん。皆、某魔法使いの映画のように僕の手に触れて?」
その言葉に優月と朔夜が安心院の手に触れ、最後に俺が触れると、一瞬で周りの景色が理事長室から薄暗い屋外へと変わった。よく見ればモノレール乗り場まで後少しの場所だ。
「……某魔法使いの映画みたいに気持ち悪くなったりしないんだな」
「まあね。さて、乗ろうぜ」
ちなみに俺たちはしっかりと外出届を出しているし、朔夜も三國先生には出かけると言ってきたらしい。なので余程の事が起きない限り問題は無い筈だ。
モノレールに乗り込むと、この時間帯には出かける生徒はほとんどいないようで、誰もいなくて貸し切りのような状態だった。
安心院が先にボックス席の奥に座り、安心院の隣に優月が座った。
俺は朔夜に奥の方へ座るように促した後、朔夜の隣に座った。
「それにしても……俺だけこの格好はおかしくないか?」
そこで俺は先ほどからずっと気になっていた事を尋ねる。
浴衣姿三人の女子と普段着で行く俺……それに何と無く不安を覚えて、聞いてみたのだ。
「う〜ん……別におかしくはないと思いますけどね。けど、浴衣姿の兄さんもいいかな……」
「じゃあ、せっかくだから影月君も浴衣姿にしようか?」
そう言って安心院がパチンと指を鳴らした瞬間ーーー服が変わった。
俺の格好は紺色を基調とした刺子縞が入った浴衣になっていた。帯も同じ紺色だ。
「一瞬だな……」
「似合ってます!兄さんの髪の色も似てますから統一感がありますね!」
その言葉に女子たちは頷く。
「そ、そうか?……ちなみに安心院、さっきまで俺が着てた服は?」
「ちゃんとあるから大丈夫だぜ?僕がスキルを解けば元に戻るから」
そんな話をしているとモノレールは動きだし、駅に着くまで俺たちは楽しく話した。
そしてモノレールを降り、今度は電車で乗り継いで目的の駅へと近付くにつれて、同じように花火大会へ向かう人の姿が増えてきた。
やがて駅に到着して外へ出ると、会場までの誘導員がそこかしこに立っていて、周囲の会場へ向かう人たちの流れに乗って進み始める。
尚、これだけ人が多いとはぐれてしまいそうな為、俺の左手は優月と、右手は朔夜と、そして朔夜は俺と繋いでいる反対の手で安心院と手を繋いでいる。
会場へ向かう道のりには様々な出店が左右に並んでいる。
「出店が多いねぇ……何か先に食べるかい?」
「そうだな。夕食時にはまだ早いけど、会場へ着いたら今より混んでて買えないかもしれないしな」
先に食べようという意見が全員一致した。
なのでここで手を離し、俺はホットドッグと皆で後で食べれるように大きいフライドポテト、優月はクレープ、安心院はチョコバナナ、朔夜はフランクフルト、そして四人揃ってお好み焼きを一つずつ購入すると、会場へ向かいながら食べ始める。
ちなみに全ての食べ物は俺のお金で買った。やっぱり女子にお金出させるのはどうなのか……と思ったからだ。
「さて……着いたけど、人が多いな」
花火大会の会場となる土手へ到着した俺たちだったが、すでに多くの人が先ほどあった出店から買ってきたであろう食べ物を食べながら、花火が打ち上がるのを今か今かと待っていた。
「そうですね……花火大会が始まったらもっと混むでしょうね……」
「そうなったら大変だね。本音としては座って、これを食べながらゆっくりと花火を見たいけどね」
「とは言っても、ゆっくり見るなんて出来ませんわ」
そうしてどこで見ようか四人で考えているとーーー
「あれ?優月ちゃん?」
ふと背後から聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り向く。
「あ!やっぱり優月ちゃんね!」
「ベ、ベアトリスさん!?」
「ベアトリスさんもここに来ていたのか……」
「僕もいるよ」
「私も……久しぶりね」
「螢さんに戒さんも……お久しぶりです」
以前あらもーどで会ったベアトリスさんたちがいた。
ベアトリスさんは優月の手を握って嬉しそうに笑い、戒さんと螢さんはそんなベアトリスさんに苦笑いしながらこちらに歩いてきました。ちなみに螢さんはたこ焼きとお好み焼きを、戒さんはアメリカンドッグと焼き鳥を持っている。
「影月君、その人たちは?なんか見た事あるけど……」
「ああ、安心院も朔夜も会ったのは初めてか?」
今更ながらに二人にそう聞くと、安心院は頷くも朔夜は口を開く。
「私も実際に会うのは初めてですわ。ただ、お噂はかねがねお聞きしております。トバルカイン様、レオンハルト様、ヴァルキュリア様」
「「「!?」」」
薄っすらと妖艶な笑みを浮かべて、魔名を呼ぶ朔夜に三人の目が見開く。
「……ああ!どこかで見たなって思ってたけど、この前資料で見たのを思い出したぜ」
「ちょ……影月君、彼女たち何者!?私たちの事知ってーーー」
さらに安心院の言葉を聞いて、ベアトリスさんがこちらに振り向いて聞いてくる。
「……とりあえず、お互いに話し合いたいので、人のいない場所に行きません?ついでに座れて、ゆっくり花火見られる所に」
優月がそう提案し、ベアトリスさんたちは顔を見合わせた後、戒さんが「ついておいで」と言ったので後をついていく事にした。
数分後、辿り着いたのは川沿いに立つ一つのマンションの屋上だった。
勝手に入ったような気もするが、戒さんたちについてきただけだからあまり気にしない事にする。
「ここで花火を見ようか。邪魔も入らないだろうし」
「ほら朔夜……着いたぞ」
「ありがとうございますわ」
ちなみに朔夜はここに来る最中、足が痛くなるのを考慮して俺が背負ってきた。
丁度近くにあったベンチを繋げて、全員が座ると、まずは自己紹介を始めた。
初めはベアトリスさんや戒さん、螢さんが自己紹介をし、次に安心院と朔夜が自己紹介をした。
と、その時ーーー
ドーン、と大きな音が聞こえて空気が震えたかと思うと、夜空に大輪の花が咲いた。花火大会が始まったのだ。
「わぁ……綺麗ですね」
「わぁ!戒、戒!すごく綺麗!」
「そうだけど落ち着いて、ベアトリス……じゃあ、買ってきた物を食べながら花火を見ようか?話はその最中にしよう」
ベアトリスさんの喜ぶ声を聞きながら、戒さんが言う。
「ヴァルキュリア様も花火をご覧になった事はありませんの?」
「ええーーーってヴァルキュリアって呼ぶのはやめてくれません?魔名はあまり好きじゃないんですよね」
「では、ベアトリスさんとーーー」
「いえ、呼び捨てで構わないですよ?戒と螢も呼び捨てにしてくださいーーー影月君たちも、ね?」
そう言われ、俺たちは頷く。
「それで花火見ながら何話しましょうか?」
優月がクレープを食べながら聞く。
「まずは、最近の君たちの状況を聞きたいんだが……」
戒さんが焼き鳥を口を開けて待っていたベアトリスさんにあーんしてあげながら言う。
「そうですわね……まず、数日前に裏で行われた《
「知ってるよ。ハイドリヒ卿とカール・クラフトも現れたからね。災難だった?」
「そうでもありませんでしたわ。そもそも彼らを呼んだのは私ですし」
朔夜の返しに少なからず戸惑う戒さん。ベアトリスさんも螢さんも同じような反応だ。
「……なぜ彼らを呼んだんだい?」
「それ程大した理由はありませんわ。ただーーー宴をより面白くする為、と言っておきましょうか」
そう言って、朔夜は手に持っていたフランクフルトにかぶりつく。
「…………ねぇ、彼女何を企んでるの?」
螢さんがそう聞いてくるも、俺たちも分からないので「さあ?」と首を傾げるしか出来なかった。
「まあ、九重透流が《
「…………優月ちゃん、彼女貴方たちより若いですよね?それなのに怖いんですけど……」
「……たまに
優月はそう言いながら、俺に食べかけのフランクフルトを出してくる。そんな事より、俺は彼女の言葉が気になった。それは優月と安心院も同じだったようでーーー
「ギフテッド……?」
「…………確か先天的に平均よりも知能が高い人の事を言うんだっけ。もしかして朔夜ちゃんも……?」
「……まあ、私の場合はちょっと特殊ですけれど……それよりも他に報告する事ーーーというより、一つ聞きたい事がありますわ」
俺の口にフランクフルトを突っ込みながら、今度は朔夜が問う。
「貴方たちの大将ーーーツァラトゥストラ様は未だ諦観しているのでしょうか?」
「
どこかで聞いた言葉だと思いながらも、会話は進んでいく。
「……そこまで知っているとはね。まあ今は諦観というか、見てる事しか出来なくてね。……こっちの方も色々やる事があるから」
「私たちは今、ここから少し離れた皐月市に住んでるの。今度遊びに来てほしいなぁ」
「……暇があったら、ですね……」
そこからはしばらく、花火を見ながら、食べ物を食べたり、食べさせたり、食わされたりして楽しく過ごしたーーー現在進行形で。
「たーまやー!!」
「ベアトリス、テンション高いわね……」
「テンション上がる位綺麗なんでしょう……はい兄さん、あーん」
「あ、あーん」
「僕からもやるよ。ほらあーん」
「戒〜!口開けて〜!ほら、あーん!」
「ちょっと、ベアトリス!?そのお好み焼きは大き過ぎーーーウグッ!?」
「二つも同時に食べられなーーーモガッ!?」
「……花火、綺麗ですわね」
「……そうね」
ちょっと、朔夜に螢さん!?我関せずの状態にしてないで助けーーー
「こっちもお好み焼きあるから食べるかい?」
「ーーーっ!はぁっ……お返しだ!」
「よっと……そんなんじゃ、僕にお好み焼きを食べさせる事はーーームグッ!?」
「兄さん。こっちも美味しいですよ?」
「ぷはっ!僕もお返しだ!」
「もう勘弁してくれーー!!!」
俺の叫びは夜空に響き渡る花火の音にかき消されたーーー
ーーー結局、花火大会が終わるまで俺と戒さんはこのやりとりに巻き込まれた。
「…………」
「……影月君、生きてるかい?」
「な、なんとか……」
目の前に立つ戒さんから差し出された手を掴みながら、ベンチから立つ。
「……君も苦労してるんだね」
「……戒さ……戒も……」
「うん。呼びにくかったら、さん付けでいいよ」
「はい……ありがとうございます」
俺と戒さんは互いの苦労をしみじみと感じた。
「戒ー!帰ろー!」
「兄さん、帰りましょう?」
そして俺たちを呼ぶ彼女たちの声に、俺と戒さんは苦笑いしながら近付く。
「兄さん、はしゃぎ過ぎてしまいました……ごめんなさい」
「ベアトリスも兄さんに謝った方が……」
「……戒、許してね?」
「そんなににやけながら言われると、説得力無いんだが」
そんな会話をしているとーーー
「ええ……頼みますわ」
「分かったぜ。ーーー影月君」
背後から安心院の声が聞こえ、後ろを向くとーーー
「んっ!?……む……ぐ………はぁ……」
「んんっ…………」
いきなりキスされた。なぜ!?この突然の行為に当然周囲の反応はーーー
「え……」
「くすくす……」
「なっ……!」
「……ねぇ、戒……」
「僕たちまで彼女たちに感化される必要はないから。だから目を閉じて待たないでくれるかな?ベアトリス」
そんな会話を聞きながらも、未だ続く口づけ(しかもD)。
そんな長く感じられた口づけは、安心院が離れる事で終わる。
「ぷはっ……安心院、何を……」
「別に?したいからしただけだぜ?ーーーよかったよ?影月君のキス!」
「ーーーーーーーーー」
ああ……優月からの視線が……凄まじく痛い……。
「さて!じゃあ戻ろっか?」
安心院はそんな優月の視線を気にせずに、俺と優月の手を無理矢理取り、最後に朔夜を待つ。
「では、お三方今日は楽しく過ごせましたわ。ありがとうございます。ではーーーいずれまた、ごきげんよう」
「はい。こちらこそありがとうございました。《
「じゃあ皆、またね!」
ベアトリスさんの言葉に返事を返そうとするもーーー刹那の間に景色はマンションの屋上から理事長室へと変わってしまった。
「……なんで帰りはこれで……」
「歩くの面倒になったからね」
「……気ままな人ですわね」
その後服装は戻り、俺たちは部屋へと戻った。
そして優月は寝る間際まで、さっきの事を怒っていたがーーー
後に安心院が取ったあの行動は重大な事であり、朔夜からの差し金であった事を知るのは、また別の話であるーーー
side out…
(……少し、眠ってしまったようですね)
影月たちの花火大会から数日経った頃ーーー《K》は埃と汚れにまみれた路地裏の臭いが鼻を突き、目を覚ます。
彼は今、追われていた。
その時は助けが来たのだと思ったのだが、実際には違っていた。
『お前は組織に切り捨てられたんだよ』
襲撃してきた部隊は、《K》の口封じが目的であった。その男を殺し、今に至る。
逃亡の最中、《
(……さて、私は……)
腹部に巻き付けた布は、赤黒く色を変えていた。
追っ手との闘いの中で被弾したのだ。
傷は深く、このまま追っ手に殺されずとも、彼に死が訪れるのは遠くないだろう。
《K》は目を閉じ、考える。残された時間で、何よりも己が望む事を定める為に。
これより数時間後、ゴグマゴグ極東支部は襲撃される。
襲撃者は彼らが追っていた、彼らが名を与えた少年であった。
内部を知り尽くした《K》は、支部を大きく混乱に陥れーーーやがて銃撃音が止むと共に、姿を消した。
《
《K》が、自身の最後の戦場と選んだ場所は
夜とはいえ、内部手続きが無い状況では接近も侵入も察知されている事を承知の上で、《K》は学園ーーー時計塔へと降り立ち、上を見る。
「さて……最後の戦場がこことは……ついぞ思いもしませんでしたね」
「……残念だけどよ、いくら見上げても、今夜ウサギが居るのは月じゃねーんだぜ」
「おや、貴方ですか」
《K》が振り返ると、メイド服にウサギ耳という人物が、《
「おや、じゃねーっつーの。うちのガッコは事前連絡を入れてねー来客はお断りだって、前言っただろーが」
「これは失礼。なにぶん、急に来訪を決めましたものでしてね。ですから、今回もお見逃し頂けると大変嬉しいのですが」
「くはっ。そうしてやりてー所だが、あのお人好しに任せろって言っちまったもんでな。だからまー一言で言うとーーー断る!!」
そう返す、
「仕方ありませんね。ではーーー」
《K》の両の手を左右に広げると同時、体がゆらりと宙に浮かび上がりーーーその背中より赤光を放ちながら、四枚の羽が広がる。
見る者を死に誘い、屍と化す、悪魔の遺産が。
「外部兵装ーーー《
さて、次は戦闘ですね!上手く書けるか……それよりもこっちも上手く出来てるのか……う〜ん(苦笑)
誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!