アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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しばらく一日一話になると思います。



第三話

 

―――如月影月は夢を見ていた。

目の前には黄金の髪の男が圧倒的威圧感を放ちながら、愉悦の笑みを浮かべながら何か言っている。しかしながら声は全く聞こえない。

そしてそれは自分に向かって言っているわけではないと影月は黄金の男の視線を見て気付いた。

影月はその黄金の男が見ている方向を見てみる。するとそこにはもう一人の男がこちらを見下ろすようにして立っていた。

その男は軍服(ぐんぷく)を纏い、こちらも黄金の男を愉悦の眼差しで見ていた。

黄金の男は軍服の男を見上げながらさらに言葉を紡ぐ。そして対する軍服の男も何か言っているが、生憎と影月には何も聞こえない。

(……いつも見ている夢とは違うな……)

 

いつも影月が見ていた夢は黄金の男がどこかでただ一人、佇んでいるだけの夢だった。

だが、今日はいつも見ていた夢とは違う。周りを見渡してみれば星々が浮かんでいる宇宙のような景色が広がっているし、黄金の男も軍服の男と相対していてどこか一触触発(いっしょくしょくはつ)という雰囲気を感じさせる。

何かきっかけさえあれば、すぐさま争いでも起こるだろう―――そう思える程である。

そう考えてると黄金の男が手に持っていた黄金の槍を構え、軍服の男は背後には双蛇(カドゥケウス)が現れる。

そしてその二人は口元を歪めながら―――

 

 

 

『―――行くぞォッ!』

 

 

 

その言葉が最後に影月の耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 影月

 

 

「―――っ!?……夢……か……?」

 

不思議な夢から目覚めた俺は、乱れた息を整えながら先ほどの夢の内容を思い返す。

 

「……なんだったんだ、あれは……」

 

「兄さん?」

 

「……優月……」

 

俺を呼ぶ声が聞こえた方を見ると、制服に着替えた優月が首を傾げて、心配そうな顔をして立っていた。

よく見ると腰まで伸びている髪の毛が若干濡れているので、俺が起きる少し前まで浴室でシャワーを浴びていたのだろう。

 

「……かなりうなされてましたけど、大丈夫ですか?」

 

「あ……ああ、大丈夫だ」

 

「…………嘘をつかないでくださいよ。そんなに汗をかいているんですから大丈夫なわけがありません。……一体どんな夢を見ていたんですか?」

 

俺は優月に心配をかけまいと虚勢(きょせい)を張るが、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる優月に言われてどきりとする。確かに自分の体を見るとパジャマとして着ている黒い半袖Tシャツには汗でぐっしょり濡れていて、肌に張り付いていた。……確かにこれではさっきのは嘘だって分かってしまうな。

 

「……いや、大した夢じゃないから本当に大丈夫だ。それより、優月近い……」

 

俺がそう言うと、優月は一瞬悲しそうな顔をして黙り込む。そして―――

 

「…………はぁ、分かりましたよ。そこまで言うのなら大丈夫だって事にしておきます。でも、またうなされる事があったら、今度は聞かせてもらいますからね。……ほら、もう少しで登校時間ですから、早く用意してください」

 

「ああ……分かった」

 

俺は着替えを持って浴室へと向かい―――

 

「……ごめんな、優月」

 

最後に小声でそう呟いて浴室へと入った。

 

 

俺はシャワーを浴びながら先ほどの夢を思い出していた。

黄金の男……俺は何度もその男が出てくる夢を見ていたが、今朝見た夢は今までと違っていた。

ただ薄っすらと笑みを浮かべて佇むという夢ではなく、愉悦の笑みを浮かべて相手の軍服の男を見ていたという夢。

その愉悦の笑みはまるで、やっと全力を出して戦えるというようなものだった。

 

「……なんだか怖いな……」

 

そんな事を考えていると、ふと自分の指が震えているのに気付く。それを見て俺はあの男に恐怖という感情を抱いているのだと自覚する。そしてさらにあれは夢ではなく、現実に起きた事なのかもしれないと思った。

あまりに鮮明に記憶に残っているからそう思ったのだが……もしかしたら、今もどこかに例の黄金の男がいて、見られているのではないかと思い、その考えに至った途端、さらに恐怖が増した。

俺はそれから数分間、優月に声をかけられるまでシャワーを浴びながらずっとそのような事を呆然と考えていた……。

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

side 優月

 

 

「…………はぁ……」

 

兄さんが浴室に行った後、私は溜息を吐いて呟きます。

 

「……謝る位なら、夢の内容教えてくれたっていいじゃないですか」

 

今までも兄さんは今回のように夢でうなされていた事は何回もありましたし、今まで私も特に気にしてはいませんでした。

ですが、今朝は今までに無い程うなされていて汗もいつもより多く出ていたので流石に心配になり、声をかけたのですが……大したものでは無いと一点張りされ、私もそれ以上何も言えなくなってしまいました。

 

「……言ってくれたら、楽になるかもしれないのに……兄さんはそういう所だけ全く変わっていませんね……」

 

それから、私は兄さんに遅れるからと声をかけるまでずっとその事を考えていました………。

 

 

 

 

 

 

入学二日目の朝、学食に向かう途中私たちは廊下にいる一年や二年、三年の生徒達から視線を向けられていました。

その際、少しだけ聞こえているヒソヒソ話の中に、ある単語が多く聞こえてきました。

 

異常(アニュージュアル)》―――と。

 

どうやら私たちの事は《異能(イレギュラー)》と呼ばれた透流さん同様、かなり広まっているようです。

 

(少なくとも透流さんよりは普通なんですけどね……)

 

どっちにしても気にしていても仕方の無い事なのですが……やはりこうして周りからこそこそと言われると、少し位は気になってしまいます。

 

そんな事を考えている内に食堂に着いたので、私はその事について考える事を中断して、今朝は何を食べようかと考え始めました。

昊陵学園(こうりょうがくえん)の学食は肉がメインのA定食、魚がメインのB定食、和洋中の五十種類から好きなものを選べるビュッフェの三種類から選択する形式になっています。

定食は学食のおばさんたちが栄養管理をしっかりと考えた組み合わせなのですが、やはり自由に選べるビュッフェが人気らしく、大半の生徒が思い思いの料理をお皿に乗せていました。

 

「兄さんは何にするんですか?」

 

「そうだな……やっぱビュッフェかな」

 

「そうですか……じゃあ私もビュッフェにします」

 

私たちは揃ってビュッフェを選び、バランスよく料理をお皿へと乗せた後、どこかに座れる場所はないかと辺りを見渡しました。すると昨日知り合ったばかりの友人の姿を見つけ、私たちはそこの席へと向かう事にしました。

 

「―――なあユリエ。頼みがあるんだけど……」

 

「何ですか?」

 

「実はセロリとナスを食べて欲―――」

 

「よお、おはよう。透流」

 

「っ!お、おはよう……影月……」

 

「おはようございます、透流さん。そしてユリエさんも」

 

「おはようございます」

 

「ゆ、優月もおはよう」

 

「……それでトール、頼みとは?」

 

「……いや、忘れてくれ……」

 

「―――?」

 

さらっと今聞こえた感じでは、恐らく苦手な食べ物をユリエさんに食べてもらおうとしていた透流さんでしたが、兄さんがちょうどよく話しかけたので言うタイミングを失ってしまったようです。ちなみに兄さんはわざとらしく笑っています。

 

「一緒に食事を摂らせてもらうぞ?……ああ、それと好き嫌いはなるべく無くすべきだぞ?なあ?優月?」

 

「……そうですよ。透流さん」

 

兄さんの言葉を肯定した私に対し、透流さんは何やら味方になりそうな人に裏切られたみたいな顔をしてますが、とりあえず無視します。実際、好き嫌いは無い方がいいですからね。

さらにそこへ―――

 

「せっかくだから私もここで食事を摂らせてもらおう」

 

先ほど遠目で見ていた時に透流さんと話していた女子がこちらに来て、透流さんはさらに絶望した表情を浮かべました。

 

「おはよう、ユリエ。昨夜はよく眠れたかい?」

 

「おはようございます」

 

ユリエさんはよく眠れたと返しますが、その後に透流さんへと怪訝(けげん)そうな表情を向けました。

 

(そういえば昨日のユリエさんはずっと透流さんを見てましたっけ……なら彼女は自己紹介なんて全く聞いてなさそうですね……)

 

「私は橘巴(たちばなともえ)。キミや九重や、そこにいる如月兄妹と同じく新入生―――つまりクラスメイトだ」

 

「そうでしたか。失礼しました、巴」

 

「ふふっ、別に構わないさ。昨日は入学当初、しかもあんな試験の直後だからいろいろと混乱していただろうしな」

 

(ユリエさんは見る限り混乱してませんでしたけどね)

 

混乱のこの字も見受けられなかった昨日のユリエさんを思い返していると、(わず)かに(たちばな)さんの頬が緩みました。

 

「ところでトール。頼み事とは本当に何だったのですか?」

 

「……いや、本当になんでもないから忘れてくれ」

 

「―――ヤー?」

 

不思議そうにユリエさんは小首を傾げ、チリンと鈴の音がしました。

それを見て私と兄さんは苦笑いを溢します。

一方の橘さんは、学食のおばさんから定食を受け取っている女子へと視線を向けていました。

 

「む……すまない、私のルームメイトをこちらに呼んでいいか?」

 

「ああ、構わないぜ」

 

「俺たちも構わないぞ」

 

「ありがとう。……みやび、こっちだ」

 

橘が手を上げて声を掛けると、それに気が付いた女の子がやって来ました。

 

「こ、ここにいたんだね、巴ちゃん」

 

「はぁ……。呼び捨てでいいと何度も言っているだろう、みやび」

 

「で、でも巴ちゃんは巴ちゃんだから……」

 

「全く、キミは……っと、すまない。彼女が私のルームメイトのみやびだ」

 

「え?あっ……!?お、おはよう、穂高(ほたか)みやびです……」

 

私たちに気付いて慌てて頭を下げる穂高さんと言う女子は、大人っぽい橘さんとは対照的に身長は平均よりやや小柄で、幼い顔立ちをしていました。肩口で切り揃えた髪は後ろの方だけを伸ばしているらしく、お下げとしてまとめた部分を前に持ってきています。

しかしそれらよりも目を惹くのはその豊かな胸の膨らみです。同性の私も思わずお辞儀をして揺れる胸に目が行ってしまいました……。

そんな穂高さんへまずはユリエさんが、次いで透流さん、兄さん、最後に私が名乗り返すと―――

 

「あ……。う、うん、よろしくね……」

 

穂高さんは赤面し、視線を落として小さくなってしまいます。

 

「どうしました?穂高さん?」

 

「わ、わたし、その……じょ、女子校出身だから、その……」

 

理由を尋ねると、ちらちらと透流さんと兄さんを見つつ穂高さんが答えます。

 

「なるほど、男が苦手なのか。……大丈夫だ、九重と如月は別に噛み付いたりなどしない」

 

「おい橘、人を犬みたいに言うな」

 

「ほ、本当……?」

 

おどおどした様子で男子二人を見る穂高さん。というか女子に噛み付く男子って何なのだろう……。

 

「とにかく座りたまえ、みやび」

 

「う、うん……」

 

穂高さんが椅子に座る瞬間大きな胸が揺れ、思わず同性である私でも再び目が行ってしまいました。

しかも座った後はテーブルの上にそれを載せているのでさらにその大きさを強調していました。

 

私は自分と穂高さんの胸を交互に見て、最後に少し溜息を吐きます。

 

(……私もせめてもう少しだけ欲しいなぁ……)

 

「……ん?どうした、優月?」

 

「……別に、なんでもありません……」

 

「……ふ〜ん……」

 

兄さんにそう返すと、興味無さそうな返事が返ってきて……。

 

 

 

 

 

「…………別に胸の大きさなんて気にしなくても……って、おっと」

 

その言葉を聞いた瞬間私は拳を作り、兄さんの顔目掛けて容赦無く拳を突き出しましたが、兄さんはそれを片手で軽々と抑えました。

 

「……分かった、悪かったって。謝るから落ち着け……」

 

「………………」

 

苦笑いしながら謝る兄さんを見て、私は兄さんを睨みながら渋々手を下ろしました。

……確かに胸が大きいと肩が凝るとか邪魔くさいとか言われますが、それでも少し位は……と思うのが一部女子の悩みだと思います。まあ、そこまで気にしていてもあまりどうにもならない問題ではあるのですが……。

 

「……な、なあ、如月、優月?」

 

すると橘さんが微妙に引きつった顔をしながら話しかけてきました。どうやら今の私と兄さんのやり取りに若干ながら圧されていたようです。

ちなみに穂高さんは私の気迫のせいか、完全におびえていました……。それに申し訳なく思いながらも、私と兄さんは橘さんに視線を向けます。

 

「あ、ごめんなさい……それでなんですか?」

 

「ああ……実は今度からこの四人で今後もこうして一緒に食事を摂るということになったのだが……キミたちも一緒にどうかと思ってな」

 

橘さんの提案はこれから先も、皆さんで楽しく食事をしようと言ったものでした。それに対して特に断る理由もないですし、やっぱり食事は大勢で楽しみながら食べる方が美味しいので―――

 

「私はいいですよ。兄さんは?」

 

「ああ、俺も構わないよ」

 

「ではよろしく頼むよ」

 

そう話が決まると私達は揃って朝食を食べ始めました。私の朝ご飯はパンやスープやコーヒーなどの洋食、兄さんはご飯やさんまや味噌汁の和食です。ちなみに透流さんは肉が多く、野菜が圧倒的に少なくてバランスが悪いなと思いました。まあ、橘さんが色々と野菜をあげていたので完全に野菜が無いわけではありませんが。

ちなみに透流さんは先ほどユリエさんに食べてもらおうとしていたセロリとナスはコーヒーで流し込んでいました。そんなに嫌いなんですね……。

そうして食事が続けていると、昨晩の同居生活についての話になりました。

ユリエさんは特に問題なく過ごせていると言い、橘さんは安堵(あんど)していました。

 

「お気遣い感謝します。……ですが本当に大丈夫です。トールは優しい人ですので」

 

「そ、そうなんだ」

 

「へ〜……」

 

「……影月、そんな意外そうな顔で見ないでくれ……」

 

そしてこくりと(うなず)いたユリエさんはさらに発言を続けました。

 

 

 

 

「昨夜も、先に眠ってしまった私を優しく抱いてくれましたから」

 

……爆弾発言を。

 

「「「ぶーっ!?」」」

「「っ!?げほっ、ごほっ!」」

 

その言葉に対し味噌汁を吹いた人が二人(透流さんと橘さん)。穂高さんは牛乳を吹きました。

ちなみに私はコーヒーで()せ、兄さんはお茶で噎せました。

 

「ユ、ユリエ!?」

「なっ、ななっなっ!?」

「ユユユ、ユリエちゃん!?」

「げほっ……お前昨日何してたんだよ……」

「透流さん……」

「―――?」

 

激しく動揺する透流さんたち三人と透流さんに説明を求める視線を向ける私たちを前に、チリン、と鈴の音を響かせてユリエさんが小首を傾げました。まさかの無意識爆弾発言だったようです。

その後、橘さんは透流さんや穂高さんの言葉も聞かず、食堂から走って出ていってしまい、その後を穂高さんが追いかけて行ってしまいました。

 

「……騒々しい。何をしているんだ、貴様たちは」

 

「ちょっとな……」

 

「あ……トラさん」

 

そこへ呆れたような顔をしたトラさんが現れ、事情を聞かれました。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ、バカらしい」

 

「そう言うなよ……」

 

朝食を摂り終えた私たちは揃って教室へと向かっています。

トラさんは先程の騒ぎについて透流さんから事情を聞くと、さらに呆れたような顔をしていました。尚、トラさんの《絆双刃(デュオ)》であるタツさんは大笑いしています。

 

「先程、私は間違った答え方をしたのでしょうか?」

 

相変わらず自分の爆弾発言の意味に気付いていないユリエさんが小首を傾げます。

それに対し言ってやれというトラさんの視線に、透流さんは渋々と答えます。

 

「ええと……日本で抱くっていうのは、男女の……その……なんていうか……」

 

「……夫婦として夜の営みをするって意味にも取れるんですよ」

 

「…………。そうでしたか、それは困りましたね」

 

私が助け舟を出すと幸いその手の知識はあったようで、ユリエさんも事情を飲み込めたみたいで、若干頬を赤く染めながら呟きました。

 

「巴には誤解だと伝えておきます」

 

「あ、ああ。頼む……」

 

 

 

 

 

「さあさ、それじゃあ記念すべき最初の授業をはっじめるよー♪」

 

朝からハイテンションの月見(つきみ)先生が、両手を(ひろ)げて授業開始を宣言します。

私はノートやらを準備する前に、ユリエさんが誤解を解いたと言っていた橘さんをチラッと見てみました。

その橘さんはと言うと、なぜか透流さんの事をずっと見ていました。誤解が解けたと言うのなら、なぜそんなに凝視しているのか分からないですが……。透流さんもそんな橘さんの視線に気が付いているらしく、少し困惑したような顔をしています。

 

「―――というわけで《黎明の星紋(ルキフル)》による身体能力超化は、掛け算みたいなものだから、訓練で体を鍛えれば鍛えるほど効果が高まるんだよー☆つまりマッチョになればなるほど強くなるって事ねー♪ここまでオッケー?」

 

(分かりましたがマッチョは嫌ですね……)

 

授業の内容は、初日なので《黎明の星紋(ルキフル)》についてでした。ちなみに先ほどの月見先生のマッチョ発言を聞いて、クラスメイトの大半の人たちが嫌そうな顔をしていました。かく言う私もですが。

 

「《黎明の星紋(ルキフル)》は《位階(レベル)》って呼ばれるランク付けがされてるの!みんなは昇華したばかりだから《(レベル1)》ってわけ。これは学期末ごとに《昇華の儀》ってのをやってランクアップさせていくから、一年間ランクが上がらないと、見込み無しとして退学させられちゃうから日頃から心身ともに鍛えてこーね☆」

 

月見先生の話によると上のランクに昇格するためには、より強靭(きょうじん)な肉体と精神力が必要になるらしく、今学期は特に体力強化を重点的に行っていくことになるらしいです。

 

 

 

午後の授業―――

 

 

「さてさてさてーっ☆今日からしばらくは体力強化って事でマラソンだよー♪」

 

そう月見先生が言った直後、ほとんどの人が嫌そうな顔をしました。無論、私と兄さんもあまりいい顔はしません。

 

「ま、しばらくは軽めにいこっか。ってなわけで学園の周りをじゅっしゅーう♪」

 

「……一周4キロ程あったよな……」

 

「フルマラソンですね。それを軽めって……」

 

身体能力が超化されているとはいえ、相当の負担が来るだろう事は想像出来ます。というか10周が軽めって……。

 

「そんなに走ったことなんてありませんね……」

 

「確かにな……俺たちも体鍛えていたがここまではな……」

 

「じゃあ、はっじめるよー☆」

 

そして私たちは準備もそこそこに、月見先生の指示でマラソンを始めました。

 

 

 

 

私たちのゴールから遅れること二十三分。ユリエさんが十周を走り終え、そのまま地面へと座り込みました。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「お疲れ、ユリエ。これ、ゆっくり飲んどけ」

 

「ありがと……ござい、ます……」

 

「大丈夫ですか?ユリエさん」

 

「お疲れ、ユリエ」

 

透流さんから渡されたスポーツドリンクを飲みながら、ユリエさんは呼吸を整えます。

 

「それにしても結構早かったな」

 

確かに体力はあまりないと言っていたユリエさんでも女子だけなら三位、男女込みでも九位という順位です。そう考えれば、ユリエさんの順位は非常に優秀と言えるでしょう。

 

「ほらほら、そこで寝転がらないー。体を動かした方が蓄積された乳酸の分解が早くなるんだよー。というわけで立ってー☆」

 

『……は〜い……』

 

ちなみに月見先生も私たちと走ったのですが、誰よりも早く、しかも全員に周回差をつけて走りきっていました。やはり《位階(レベル)》が上になればこの程度は全く問題無いようです。

その後月見先生は唐突に放課後宣言をし、職員室へと戻ってしまいましたが、まだ走り終えていない生徒たちも多くいました。穂高さんもその一人です。

 

―――結局、穂高さんは空が黄昏色に染まった頃にゴールをし、疲労で倒れてしまいました。

そして夕食の席で穂高さんは姿を見せず、微妙な雰囲気の中で夕食を取る事となってしまいました。

 

 

そして夕食を終えた私と兄さんは部屋に戻る途中で、退学届けを出そうとしていたクラスメイト二人を発見しました。

 

「……お二人共、やめるんですか……?」

 

「あ、優月ちゃん……うん、私たちはこれからこの学園で頑張っていける気がしないよ……だから……」

 

「待ってください!まだ二日目なんですよ?これからちゃんとやっていけば、あの訓練だってしっかり出来るようになりますよ!だからやめるのはもう少しだけ過ごしてからでもいいんじゃないですか?」

 

「そうだな。それに折角この学園でお互いに知り合ったんだ。たった二日でさようならって言うのは……寂しいだろう?」

 

「でも……私たちもう付いていけないよ……」

 

「うん……あんなに辛いなんて思わなかったし……私たちには無理だよ……」

 

「まだ諦めないでください!辛いとか言いたくなるのはよく分かります。でもそれを皆で乗り越えていきましょうよ!それに……兄さんの言う通り、折角こうして知り合えたのにすぐにお別れなんて……そんなの悲しいじゃないですか……」

 

「……優月ちゃん……」

 

「……辛かったら、私や兄さんが助けてあげます。だから……お二人共、お願いですからやめないでください……!」

 

「……ねぇ、あともう少しだけ頑張ってみない?優月ちゃんも影月くんもここまで言ってくれるんならさ……」

 

「……うん、そうだね。優月ちゃんにそこまで言われたら……辞めづらいし……何よりなんか元気が出てきた気がするよ」

 

そんな私たちの説得に何か思う所があってくれたのか、二人はなんとか思い留まって、もう少しだけ頑張ってみると言ってくれました。

そして私たちと少しだけ話した後、自分の部屋へと戻っていくその二人の背中を見ていた兄さんがふと、呟きました。

 

「だが……本当にあの二人の気持ちは分からないでもないよな……今日一日で俺たちでも辛く感じたし……」

 

そんな呟きを聞きながら、私たちは部屋に戻る為に歩き出しました。

こうして二日目は様々な不安などを抱えながら終わったのでした……。

 




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