アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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今回は前回の後日談的な話です。
日常の方の会話の方が戦闘描写書くより難しい……。



第三十九話

side no

 

「………………」

 

《K》が倒されて広場の後始末が終わった後、朔夜は一人時計塔の上で月を見て佇んでいた。

なぜ彼女がここにいるのかーーーそれは彼女がこの場所を気に入っている事による。

朔夜は何かあると少し時間を取り、時計塔の上へと登って月を眺めたり、遠くを眺めたりするのだ。

 

「…………影月……」

 

そしてふと、彼女は自らが愛しーーー最も大好きな彼の名を呟く。

言葉だけ聞けば、恋する乙女が想い人の名前を愛おしそうに言っただけに聞こえるがーーー彼女の表情は思い悩んでいるかのように曇っていた。

そのような表情を浮かべている理由は何なのだろうか?

九重透流が大怪我をしてまで、ユリエを止めた事に何か思う所があるのか。

または銀色の少女が我を忘れ、殺意を持って闘争本能をむき出しにした状態ーーー凶獣変生とも言える状態になった事について何か気になる事でもあるのか。

または、愛しい人たちが命を掛けて闘っているというのに、何も出来ない自分を情けなく思うのか。

影月に関係しているこれらの理由で思い悩んでいるのかーーーあるいはその三つも合わせて多くの事を(うれ)いでいるのか。それは少なくとも彼女にしか分からない。

朔夜は「はぁ……」とため息をはいて、先ほどから背後にいた者に向かって問い掛ける。

 

「……それにしても今回は介入しなかったのですね。()()()()()

 

その言葉に反応するかのように、物陰から姿を現したのは安心院なじみだった。

 

「ーーーまあ、僕が介入する必要も無いと感じたからね。それに君としても僕に邪魔されたくなかったんだろう?あの兵器(REX)の性能とか、色々確かめたかったんだろうし」

 

「くすくす……あながち間違いではありませんわね。ですが、邪魔しないでほしいなどとは言いませんわよ?」

 

こつこつと靴音を響かせながら、安心院は朔夜に近付く。

一方の朔夜は安心院に振り返る事もせずに、月を見上げていた。

 

「影月君も言っていたけど、本当に記憶に残る夜だったよね。ユリエちゃんのあれ、一体なんなのさ?」

 

「さあ?私にもさっぱり……彼女を四年前、保護したヴァレリアも何も言っていませんでしたから……」

 

ユリエ=シグトゥーナは四年前ーーーギムレーにて、とあるきっかけで今回と同じように我を失って暴れる事があった。

その時、偶然ある任務でその地に来ていたヴァレリア=カーライルという女性の《超えし者(イクシード)》によって、ユリエは保護されたのだがーーーその時の報告には今回のような凄まじい速度を見せたという話は聞かなかった。

 

「つまり謎だって事だね?」

 

「そうですわね……あんな《力》が使えるようになりそうな原因は思い当たりますけど」

 

朔夜の脳裏にはうざったく笑う魔術師の顔が浮かんでいた。

だが今回は朔夜の直感的に関わっていないような気がして、その可能性はありそうだったが切り捨てた。

 

「まあ、それについては後々調査致しますわ」

 

「ふ〜ん……まあいいか。じゃあそろそろ僕も寝ようかな……朔夜ちゃんも早く寝なよ?」

 

「分かっていますわ」

 

その言葉を聞いた安心院は姿を消しーーー

 

「……はぁ、私も戻りますかね」

 

朔夜もまた振り返り、その場を後にするのだったーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 優月

 

 

あの戦闘から数日後、私はユリエさんと兄さんと安心院さんと一緒に透流さんが眠っている病室にいました。

それぞれユリエさんは透流さんの眠っているベッドの端で突っ伏すように寝入っていて、兄さんもパイプ椅子に座って睡眠中、安心院さんは普通に漫画を読んでいます。

まあ、私も特に何かをするわけでも無く、ただ外を眺めていたのですが。

 

「……っく……」

 

そんな時、ベッドから呻き声が聞こえました。

見てみると透流さんが頭を押さえながら、ゆっくりと体を起こしていました。

 

「あれ……?ここ、は……?」

 

「おはようございます、透流さん。ここは病棟ですよ」

 

私は透流さんに挨拶をしながらそう説明しました。

 

「おっ、やっと目覚めたみたいだね?あれから三日も寝ていたからもう起きないのかもとか思ってたぜ」

 

「……あれから三日も寝てたのか……ん?ユリエ?」

 

そこで透流さんは、ユリエさんに視線を向けました。

 

「ユリエさん、ずっと透流さんを()ていたんですよ?」

 

「そうなのか……ありがとな、ユリエ」

 

すやすやと眠っているユリエさんの頭を、透流さんは感謝の意を込めて優しく撫でました。

するとーーー

 

「んーーーふわぁ……トー……ル?」

 

撫でられた事がくすぐったかったのか、ユリエさんが目を覚ましました。

 

「っと、悪い、ユリエ。起こしちまったか」

 

「ナイ……。気にしないでくださーーー」

 

目を擦りながらの言葉はそこで途切れ、ユリエさんがぽかんと透流さんの顔を見つめました。

すると彼女の深紅の瞳(ルビーアイ)が潤みーーー

 

「トール!!」

「ごふっ」

「ちょ!ユリエさん!?」

 

ユリエさんが透流さんの胸へ飛び込み、透流さんが苦しそうな声を上げました。

 

「ユリエさん!落ち着いてください!透流さん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……。ちょっと痛かったけど、まあ……」

 

「あ……本当にすみません……その、嬉しくて思わず……」

 

しょんぼりと肩を落とすユリエさんの頭を撫でながら、透流さんは「気にしなくていい」と言いました。

 

「トール……。ありがとうございます」

 

まだ気にしているのか、ユリエさんは小さく笑いましたが、眉はまだ両端が下がって困ったような表情をしていました。

 

「ユリエちゃん、気にしなくていいって言ってるんだから、もういいんじゃないかな?」

 

「ヤ、ヤー……」

 

なでなでと透流さんに撫でられながら、ユリエさんは頷きました。

 

「……やっと起きたみたいだな」

 

そこへ今まで俯いて眠っていた兄さんが透流さんを見ながら言います。

 

「あ、ああ……それにしてもなんでここにいるんだ?」

 

「暇で他にやる事が無いんだ。橘たちは帰省したし」

 

ここにいない巴さん、みやびさん、タツさんはあの後透流さんの容体を心配していましたが、元から予定していた帰省をキャンセルする事は出来ず、あの戦闘の次の日にこの学園を()っていきました。

ちなみにリーリスさんはあの戦闘が起きる前にすでに祖国のイギリスへ帰省しており、今もこの学園にいる筈のトラさんは多分どこかで寝ているでしょう。

 

「とりあえず、起きて早々悪いがーーー色々と報告とかするか。まずはあの闘いの顛末(てんまつ)からだな」

 

そして兄さんはあの後の事を透流さんに話始めました。

あの闘いからすでに三日が経過した事、月見先生は何とか一命を取り留めて、今もまだ集中治療室に入っているという事、そしてーーー警備隊に拘束された《K》が、その後どうなったのか分からない事を。

でも兄さんは拘束された《K》さんが今どこにいるのか、そしてどうなっているのかはおそらく知っているでしょう。

ただその事はあえて伏せて伝えたという事は何か兄さんなりの配慮があったのでしょう。

 

「なあ、影月……お前があの時に言っていた……その、《K》の過去って奴は……」

 

「全部本当の事だ。それを証拠に《K》はかなり冷静さを欠いただろう?他人の過去を暴いて、精神を攻撃するってのは好みじゃないんだが……あいつの歪んだ想いを見たら言わずにはいられなくてな」

 

兄さんはそう言って苦笑いしました。

 

「まあ、それを使ってお前たちを虐めたりはしないさ。ーーー二人とも、かなり辛い過去を送ってるみたいだしな」

 

「「……………………」」

 

透流さんもユリエさんも俯いて黙ってしまいました。一体どんな過去が……?

 

「影月君、思ったんだけどそうやって他人の過去とか心を見て、おかしくなったりしないの?」

 

俯いて黙り込む二人を無視して、安心院さんがそう聞きました。

確かにそうやって無闇に人の過去を見たり出来るのなら、壮絶な過去を持っている人もいる筈です。そんな人の過去を見たら兄さんがおかしくなったり、発狂していたりしてもおかしくありません。

 

「それが俺にも分からないけど、何ともないんだよな。現に安心院の過去を覗き見しても、狂わないで普通に話せてるし」

 

「ーーーなら僕の一番過去を見て、誕生日って分からないかな?」

 

「……まだ覚えてたのかそれ。それはかなり遡らないといけないだろう?面倒だし……勘弁してくれないか?」

 

兄さんは苦笑いしつつ、安心院さんの頼みを断りました。

 

「まあ、それは置いておいて、次は……REXについて説明しようか」

 

そして兄さんは、あの二足歩行兵器ーーーメタルギアREXの説明を始めました。

百年程前にある兵器開発企業によって作られた核搭載二足歩行兵器であり、「悪魔の兵器」と呼ばれていたものであると。

 

「なぜ「悪魔の兵器」と呼ばれていたのですか?」

 

「その理由はいくつかあるが、まずREXの性能から言おうか」

 

そう言って兄さんはどこからか、一枚の資料を取り出しました。

 

「まず不整地などのあらゆる地形を走破する為に、両脚部には強力なモーターが搭載されている。これによって、不整地を走り抜けられると共に十メートルは跳躍出来る」

 

「あの巨体で十メートル跳べるのか!?」

 

「ああ、そんな運動性能や対地戦なら無双出来る位の武装。高い気密性と強固な複合装甲で全身覆われているから、高性能なHEAT弾くらいじゃないと損傷は負わないらしい」

 

「HEAT?」

 

「成形炸薬の事だよ、透流君。後で僕が教えてあげようか?」

 

「……遠慮します」

 

安心院さんが透流さんにそう言うと、透流さんはとても嫌そうな顔をして断りました。

難しい事かは別として、そんな顔をして断らなくてもいい気がしますが……。

 

「でも、「悪魔の兵器」って呼ばれていた理由はその高い戦闘能力じゃなくて、「ステルス核」を搭載していたかららしい」

 

「ステルス核?」

 

兄さんの説明の中に気になる単語が出てきました。

透流さんやユリエさんは首を傾げ、安心院さんも聞いた事が無いのか顎に手を当てて考えていました。無論私も聞いた事が無いので興味津々(きょうみしんしん)です。

 

「核弾頭自体に色々なレーダー撹乱処置を施しているのは当然だが、レールガンで「射出する」事で相手に気付かれる事無く核攻撃が出来るーーーって書いてある」

 

「……う〜ん……射出って事は原理としては大砲と同じなんですね。確かにそれなら発射した時に起きる炎とかで探知されて迎撃される心配はありませんね……」

 

そんな発射の探知も出来ないものが突然撃ち込まれたらーーー確かにそれならば「悪魔の兵器」と呼ばれるのも分かります。

 

「まあ、朔夜曰く今のREXに付いているレールガンは普通のものらしいけどな」

 

「さすがに学園で核弾頭は用意しませんよね……」

 

そう言って私と兄さんは苦笑いします。

 

「……そういえば、ユリエ」

 

すると透流さんはユリエさんに向き直り、問いかけました。

 

「あの時ユリエが見せた能力(ちから)ーーーあれは一体何だったんだ?」

 

「あれ、ですか……」

 

ユリエさんは再び、表情を曇らせーーーチラッと兄さんを見ました。それに気が付いた兄さんはーーー

 

「何だユリエ?まさか俺が過去を見れるからって説明してもらおうとか、なんとか話を逸らしてほしいとか思ってないよな?」

 

「…………」

 

ユリエさんは何かを訴えかけるような視線を兄さんに向け続けています。

 

「残念だけど、どちらもお断りだ。まず後者ならもう逸らして話すような事はないからどうにも出来ない。そして前者を俺に求めてるならそれは逃げだ。嫌われて離れていってしまうかもしれないって思ってるから、能力で知った俺に説明してもらってそれを少しでも和らげようとしてるんだろう?でもそれは逃げだし、透流を信用してないって事にもなると思う」

 

「…………」

 

「お互いに信用しあっている《絆双刃(デュオ)》なんだろ?なら恐れる必要は無いと思うぞ?そもそも透流がその位で距離を置くなんて俺は思わないーーーだから怖がらずに、きちんと自分から言うんだ」

 

「……そう、ですね……トール、私は…………」

 

少しの沈黙を経てユリエさんは顔を上げて言葉を紡ごうとするもーーー途切れてしまいました。

ユリエさんのその深紅の瞳(ルビーアイ)には、不安の色が浮かんでいました。

 

「……ユリエ、無理しなくていいんだぞ?」

 

「ナイ、どちらにしてもいつかは言わないといけませんから……」

 

そしてユリエさんはゆっくり深呼吸をしてから話始めました。

 

「私はーーー《超えし者(イクシード)》ではありません」

 

「なっ……!?」

「えっ……!?」

「へぇ……」

「…………」

 

ユリエさんが言った事実に、私と透流さんは驚き、安心院さんは興味深そうにユリエさんを見ました。兄さんはただ黙って聞いています。

 

「じゃあ人を超えた身体能力を持って、《焔牙(ブレイズ)》を具現出来る君は何者なんだい?」

 

「《醒なる者(エル・アウェイク)》ーーー人に秘められた《力》に覚醒せし者……それが私です」

 

胸に手を当て、自らについてそう称するユリエさん。

 

「全ての始まりは、あの雪の夜ーーーそう、私の背に呪いが刻まれた時の事です」

 

言いながら、ユリエさんは背中の傷へ触れるように自らの肩へと手を当てました。

 

「私はーーーパパが死んだ事を、すぐには理解出来ませんでした。私の頭を撫でていた手は力無く落ち、笑顔は消え、瞳は開く事がなくーーーただ呆然と、冷たくなっていくパパを見つめる事しか出来ませんでした……」

 

そんなユリエさんに父親の死を理解させたのは、皮肉にも仇である男だったそうです。

 

「『お前の父親は死んだーーー二度と目を開ける事は無い。俺が殺した』ーーーそう言われて、私の心は怒りと憎しみで染まりました……」

 

負の感情に染まったユリエさんは、無謀にも仇へと飛び掛かったそうですがーーー当然叶う筈も無く、殴られて、地に伏せられてーーーでもユリエさんは激情を持って仇を睨み付けたそうです。

 

「私は《力》が欲しいと強く願い、望みました。この男に突き立てる為の《牙》が欲しい、と……」

 

その時、ユリエさんは胸元に灼けるような痛みを感じて、ユリエさんの体は本当に《焔》に包まれたそうです。

 

「《黎明の星紋(ルキフル)》を投与された時と同じだ……」

 

「ヤー。そして掴んだ《焔》は《双剣(ダブル)》と化し、私は《力》をーーー二本の《牙》を手に入れたのです」

 

《力》を得たユリエさんは、再び仇へと牙を剥いたそうですがーーーそれでも仇には届かなかったそうです。そうして敗れたユリエさんの背中には傷を刻まれーーー《復讐者(アヴェンジャー)》として歩み始めたそうです。

 

「その男ーーーかなりの人物ですね……見た目とか覚えてますか?」

 

「あの時はその男の顔をよく見ていませんでした……ただ、白髪だった事くらいしか……」

 

「…………ふむ」

 

「……ユリエが俺たちと違って、自力で人の限界を超えたーーー《醒なる者(エル・アウェイク)》という奴になったのは分かった。だけどどうしてここに?その時点で《力》を手に入れてたのなら、ユリエがこの学園に身を寄せた理由は何だったんだ?」

 

透流さんの問い掛けにユリエさんは小さく頷いて、再び話始めました。

 

「パパがあの男に殺されてから二年ーーー今から四年前の冬の事です」

 

母親に知られぬように《焔牙(ブレイズ)》の特訓を行おうとして森に入り、そこで複数の見知らぬ外国人に出会ったそうです。

その外国人たちは他国で犯罪行為をしていたマフィアの残党らしく、逃亡の真っ最中だったと言うのはユリエさんは後で知ったらしいです。

その外国人たちはユリエさんを大怪我させて、追っ手の《超えし者(イクシード)》の足止めを画策したそうですがーーーそれがいけませんでした。

銃を向けられたユリエさんは一瞬と言える程の時間でマフィアの残党を戦闘不能にしーーーその場に現れたヴァレリアという女性の《超えし者(イクシード)》にも襲い掛かったそうです。

 

「あの時は私も我を失っていました。なぜか記憶には残ってますが……ヴァレリアを敵の新手だと勘違いして攻撃してしまいました」

 

「その闘いの結果はどうなったんですか?」

 

互角に闘っていた彼女たちの決着は呆気なくついてしまったそうです。

我を失って全力で攻撃し続けていた結果ーーーユリエさんは突如失速し、そこを打ち倒された事で決着はついたらしいです。

その後、ヴァレリアに保護されたユリエさんは体を(むしば)んでいた病気の治療という名目ーーー母親に対してのものとの事ーーーでドーン機関へ赴く事になったそうです。

そこで出会ったのが、《黎明の星紋(ルキフル)》の生みの親であり、朔夜さんの祖父である九十九博士でーーー

 

「その時、私は自分が《醒なる者(エル・アウェイク)》なのだと知る事となりました」

 

「《醒なる者(エル・アウェイク)》っていうのは、一体何なんだ……?」

 

「それは私から説明致しますわ」

 

いきなり病室の扉が開いてそう答えたのは、三國先生を従えた朔夜さんでした。

 

「り、理事長!?な、なぜここに……!?」

 

「あら、貴方のお見舞いに来てはいけませんの?」

 

「あ、いや……別に悪くはないですけど……珍しいなと思いまして……」

 

「何かの報告か?朔夜」

 

「まあ、そうですわねーーーですがその前に話していた《醒なる者(エル・アウェイク)》の事を話しましょうか」

 

そして朔夜さんは説明を始めました。

曰く、人は誰しも《魂》に《星耀(ルミナス)》という《力》を秘めているのだと。

曰く、《星耀(ルミナス)》を目覚める事で、肉体の持つ限界を超えた能力を扱う事が出来るのだと。

曰く、目覚めた者は《魂》を武器として具現化させ、特異な能力を発動させる事すらも可能であると。

 

「……まるで《超えし者(イクシード)》ですね……。いや、寧ろーーー」

 

「《超えし者(イクシード)》は人工的に目覚めさせられた《醒なる者(エル・アウェイク)》……って言った方がいいのか」

 

「そうだったのか……」

 

その後、ユリエさんは九十九博士の計らいで昊陵(こうりょう)学園に入学するまで、剣技の特訓のみならず、基礎身体能力の向上をしていたそうです。

そしてこの数ヶ月で、制御していた《力》を一段階ずつ解放していたらしいですがーーー《K》との闘いにおいて、そのリミッターが一時的に外れたそうです。

 

「私はーーー嘘をついていました」

 

目を伏せながら、ユリエさんは手を胸元に当てて、制服を掴みーーー

 

「トールに《力》の事を隠す為に嘘をつき、私は《超えし者(イクシード)》なのだと自分の事を偽ってきました……」

 

「ユリエ……」

 

「私は影月の言う通り……怖かったんです。真実を知って、トールが離れて行く事が……」

 

ユリエさんは俯いて、さらに続けます。

 

「ですが、それ以上に怖く思う事があります。もし次、あれに感情を混み込まれてしまった時ーーーその時こそトールを傷付けてしまうのではないかと、命を奪ってしまうのではないかと、私はとても恐れています……」

 

不安に揺れている瞳を透流さんに向けて、言います。

 

「ですがそれでもーーーそれでも私は貴方と共に在り続けたく思います。私は嘘つきで、自分を偽っていて、いつか貴方を傷付けるかもしれない。ですが……私と《絆双刃(デュオ)》を続けて貰えませんか?」

 

ユリエさんはその小さな手を透流さんに向けて差し出しました。

そしてユリエさんは透流さんの言葉を、選択を待ちます。

そして透流さんはーーーユリエさんの小さな手に、自分の手を重ねました。

 

「絆を結びし者たちは、(あと)う限り同じ時を共にせよーーー喜びの時も、哀しみの時も、健やかなる時も、死が二人を分かつその日まで……!俺はこの《楯》で他の人をーーー君を護る」

 

「……いいのですか?私は弱いです。いっぱいいっぱい頼ってしまいますよ?」

 

「俺が辛い時は頼らせて貰えるんだろ?それでこそ、互いを支え合う《絆双刃(デュオ)》ってものさ」

 

「あ……」

 

透流さんの言葉にユリエさんは何かに気付いたかのように声をあげました。

 

「透流の言う通りだな。でも二人とも、いくら二人でもどうにも出来ない事があったらーーー俺たちにも頼れよ?出来る限りの事はしてやるからな!」

 

「はい!出来ない事は助け合ってやりましょう?私たちは大切な友人ですから……ね?」

 

「……ははっ、そうだな!」

 

「……ヤー!!」

 

私たちはそんな二人を見てそう言い、透流さんもユリエさんも笑み(ユリエさんは薄っすらと)を浮かべて答えてくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、朔夜。何の用事があってきたんだ?」

 

「あ、忘れる所でしたわ」

 

そうして話が終わったかと思っていたら、朔夜さんが思い出したかのようにそう言いました。

 

「つい、二人の絆を見入っていました……。私らしくないですわね」

 

「……朔夜、変わったな……色々と」

 

兄さんがしみじみと頷きます。

 

「ほっといてくださいな。それよりもーーー九重透流、貴方にお話がありますわ」

 

朔夜さんが兄さんの言葉をさらっと流して、透流さんへ向き直りました。

 

「以前の《殺破遊戯(キリング・ゲーム)》で貴方は見事、《(レベル4)》へと昇華を果たし、その事を私は大変喜ばしく思います」

 

「……ありがとうございます」

 

朔夜さんの賞賛に対して、透流さんは複雑な顔をします。

おそらく朔夜さんの内心がよく分からないので、素直に喜べないのでしょう。

 

「くすくす……しかし、私が言いたいのはそのような賞賛ではなく、あの噴射式注射器(ジェットインジェクター)の中に入っていたもう一つの《力》についてですわ」

 

「《力》……?」

 

透流さんの返しに、「ええ」と言って続ける朔夜さん。

 

「あれには、《焔牙(ブレイズ)》の《位階昇華(レベルアップ)》の効果のみならず、新たな永劫破壊(エイヴィヒカイト)の効果も入っていましたわ」

 

「なっ!?」

 

「……朔夜さん、それってもしかして……?」

 

「九重透流も、永劫破壊(エイヴィヒカイト)の《力》を宿した者になったーーーと言っていますの」

 

「何っ!?」

「えっ?」

 

朔夜さんの言葉に、透流さんと安心院さんが声を上げました。

ユリエさんに至っては、何やら唖然としています。

 

「故に、例え相手が聖遺物の使徒であろうと互角に戦える筈ですわ。そして九重透流の《焔牙(ブレイズ)》の《力》である《絶刃圏(イージスディザイアー)》と《絶刃圏・參式(スリーフォールドイージス)》が創造相当の能力と推測しますわ」

 

「……朔夜、さっき永劫破壊(エイヴィヒカイト)が入っていたと言ったな?……貴女が作ったものじゃないのか?」

 

兄さんの問い掛けに、朔夜さんは頷きました。

 

「あれはカール・クラフトーーーメルクリウス様が試験的に作ったものだそうです」

 

『なっ!!?』

 

その言葉に、私や透流さん、ユリエさんや三國先生まで驚きの声を上げました。三國先生知らなかったんですか……。

 

「そんな物を透流さんに……?」

 

「もちろん、私もそれを疑いなく使うような痴愚ではありませんわ。当然、中の成分なども検査にかけましたわ」

 

「で、結果は?」

 

「先ほど言った通りですわ。《位階昇華(レベルアップ)》などの効果は変わらず、永劫破壊(エイヴィヒカイト)と思われる《力》が確認出来たーーー全く、メルクリウス様は本当に恐ろしいお方ですわ……私と祖父にしか作れなかった物を彼が、それもアレンジして作り出すとは……」

 

朔夜さんはわざとらしく肩を竦めて言いました。

 

「それを普通に使う朔夜ちゃんって……」

 

「…………透流、起きてから何か体調悪くなったりしてないか?」

 

「え?いや……特に何とも……」

 

「おそらく心配はいらないと思います。そしてその噴射式注射器(ジェットインジェクター)の中身を元に、私も同じものを作ってみましたの。それがーーーこれですわ」

 

そう言って朔夜さんが取り出したのは、以前透流さんが使った特殊形状の噴射式注射器(ジェットインジェクター)と同じような物でした。

 

「ーーーなんで作った?」

 

「……私も色々と興味がありましたから……。それにさらっと技術を真似したメルクリウス様にも個人的な感情が湧いたので……」

 

個人的な感情とは嫉妬とか対抗心とかそういうものでしょうか……?そして朔夜さんは手に持ったそれをユリエさんに手渡しました。

 

「え……?」

 

「これの効果も疑い無いでしょう。そして貴女にはそれを打ち込むかどうかの選択肢を与えますわ」

 

「……いいのか、朔夜?」

 

その言葉に兄さんが問い掛けました。兄さんが言っているのはーーーおそらく彼女の最終目的である《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》の事でしょう。

もしユリエさんがそれを打ち込んでしまえば、朔夜さんの目的は叶わなくなってしまうかもしれないーーー兄さんはそれを(うれ)いで聞いているのでしょう。

 

「ええ……構いませんわ。そもそも私の目的である《黎明の星紋(ルキフル)》の完全完成はもはや永劫破壊(不純物)が混ざった以上、破綻していると言っても過言ではありませんもの」

 

朔夜さんは残念そうにーーーしかし、後悔が無さそうな笑顔で言います。

 

「しかしもういいんですの。私は《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至らなくても構わないと思っていますわ」

 

「……朔夜さん……」

 

「……もう私はお祖父様の操り人形はウンザリですの。私は私で一人の人間として意志を持ち、貴方(影月)のーーー他の方たちの支えになりたいと思っていますから」

 

「……朔夜様……」

 

朔夜さんの言葉に三國先生も、目を見開いて驚いていました。確かに彼女からそんな言葉が出てくるとは思ってなかったですからね……。

 

「朔夜ーーーありがとうな」

 

そして兄さんは朔夜さんに近付いて、抱き締めました。

 

「……影月……嬉しいですけれど、恥ずかしいですわ……」

 

朔夜さんもそれを受け入れてましたけど、少ししてからそう言って離れました。……後で私も抱き付きますかーーー兄さんと朔夜さんに。

 

「理事長、ありがとうございます。これは使わせてもらいます。トールもいいですよね?」

 

「……正直、俺は反対したい。ユリエに血の道を歩いてほしくないんだよ」

 

「ですが、私は貴方と共に在り続けたいのですからーーートール、どうか認めてくれませんか?」

 

ユリエさんの真っ直ぐな問い掛けに透流さんは暫く黙って考え込みーーー

 

「……分かったよ。それがユリエの意志なら俺は止めないさ」

 

「ありがとうございます、トール」

 

透流さんの言葉に頷いたユリエさんは自らの首筋にインジェクターを当てーーー引き金を引きましたーーー




戦闘回より酷いんじゃないかと書いてて思いました……(泣)上手く書けるようになりたい……。

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