アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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今回は遊園地回です!
それとお気に入り120件越え!本当にありがとうございます!



第四十三話

side 影月

 

 

「はぁ……」

 

「兄さん……昨日はお楽しみでしたね……。お疲れ様でした」

 

「お疲れ、影月君。栄養ドリンク持ってきたけどいるかい?」

 

「……もらおう……後、優月はなんでやってしまった事を知ってるし……」

 

朔夜と一夜を過ごした次の日ーーー俺は教室で机に突っ伏してしまう程疲れていた。

あの後、俺はやる気が無かったのだが……朔夜が誘ってきたのでついついやってしまった……朝まで……。

 

「え?やってしまった?……私が言ってるのは、キスとかの類いなんですけど……まさかそこまでしたとか……?」

 

「え?……い、いやいやそんな事はナイデスヨ?」

 

まずい、自分で墓穴を掘ってしまった。

 

「なぜ片言に……大丈夫ですよ。私はそうだったとしても気にしません。でも……」

 

「……でも?」

 

「今度私にもやってもらいますけどね?」

 

「……えぇ……」

 

「……影月君、頑張って〜……」

 

そう言って安心院が離れて行こうとするもののーーー優月が腕を掴む。

 

「安心院さんも一緒に……ね?」

 

「えっ!?ぼ、僕は邪魔しないように、みやびちゃんと巴ちゃんの部屋に行くからーーー」

 

「行かせませんよ?」

 

「「……………………」」

 

そんな周りのクラスメイトが若干赤面しつつも、注意出来ないような性的な話を朝っぱらから、教室でしているとーーー

 

 

 

「おはよう」

 

「皆さん、おはようございます」

 

「……おはよう、透流、ユリエ」

 

教室に透流とユリエの二人が入ってきたーーーが。

 

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

突然、透流が叫び声を上げながら、でんぐり返しをして大の字となる。

 

「ど、どうしました!?」

 

その光景に優月が驚き、透流の元へと駆け寄る。さらに数名のクラスメイトも心配そうに近寄っていく。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ああ……」

 

俺も近寄り、透流に手を貸して起き上がらせるとーーー窓から声が聞こえた。

 

「はろはろーん♪センセーがいなくて寂しかった人は手ーあげてー☆」

 

「おっ、白うさ先生だ!」

「久しぶりだね、白うさセンセー♪」

「……はぁ……なんか見えてるし……」

 

片膝を立てて窓枠に腰を下ろして、下着が丸見えというろくでもないポーズのままに、いつもと全く変わらないノリで月見先生は室内に声を掛ける。

 

「ってなわけでたっだいまー♪うさセンセーの完全復活だよーっ、ぶいっ☆」

 

「何がぶいっだ!!」

 

透流が怒鳴りながら、月見を指指す。

 

「帰ってくるなり人の背中を蹴るなっ!!」

 

「というか下着が見えてるから隠せよ……」

 

透流がさらに怒鳴り、俺が呆れながら指摘すると月見先生は演技なのか、顔を赤らめる。

 

「いやーん、九重くんと影月くんのえっち☆見えてるじゃなくて、見・せ・て・る・の♡」

 

「何でだよ……」

 

「しばらく留守にしてたから、お土産に夜のおかずをだな……」

 

「真面目な顔で何言ってんだ……」

 

「兄さんにそんなものいらないですけどね」

 

「おい優月」

 

「お?優月、そりゃあどういう意味だ?説明プリーズ!」

 

すると優月の呟きに、超反応した月見先生。優月は月見先生の耳元まで走って行き、耳打ちをし始めた。

そして少ししてから、その耳打ちが終わるとーーー

 

「……影月、お前って……ロリコーーー」

 

瞬間、俺は月見先生の胸ぐらを掴んでいた。

 

「速っ!?」

 

後ろからそんな驚きの声が聞こえてくるが、無視して月見先生を引き寄せ、凄みながら小声で話す。

 

「もう一度集中治療室に戻りたいのか?なら俺が戻してやろう。いいだろ?」

 

「っ!良い訳ねーだろ!冗談だ冗談!!っつーか苦しいから離せ!!」

 

「………………」

 

どうやら本当に冗談のようなので、月見先生の胸ぐらを離す。

 

「だが、全快してないのに戻ってくるとはな……その眼帯の下もまだ治ってないだろ」

 

俺は後半の部分だけ小声で言う。これは単に周りのクラスメイトたちを心配させない為だ。

 

「まあな、でも大丈夫だからあまり気にすんな!」

 

 

 

「……はぁ……それよりも」

 

「何だよ?」

 

俺は大きくため息をつくと、透流に目を向けーーーその視線に気付いた透流も大きくため息をはき、一人の女子に目を向けた。

 

「それだけ元気なら、せめて吉備津(きびつ)には連絡くらいしてやってもよかったんじゃないか?」

 

「む?」

 

「あ……」

 

月見先生に顔を向けられた吉備津が目を丸くしーーー

 

「せ、んせぇ……よか、た……う、ひっく……ぅぅ……ふぇえええんん……」

 

ぼろぼろと涙を零し始めた。

 

「あー……」

 

対して月見先生は気まずそうな表情を浮かべると、吉備津に歩み寄っていく。

 

「心配かけて悪かったなぁ、モモ。だけどまー、アタシはこうしてぴんぴんしてっから、もう安心していいぞ。なっ」

 

月見先生は安心しろとばかりに吉備津の頭を胸元に引き寄せるも、そのまま声を上げて泣き出してしまう。

 

「ふぇえええええええんん……」

 

「泣き止めって、なっ。頼むから泣き止んでくれって。…………ああくそっ、おい《異能(イレギュラー)》と《異常(アニュージュアル)》!てめーら何とかしやがれぇええええっ!!」

 

こちらに助けを求めてくるという事は、どうやら月見先生はこういった状況が苦手らしい。

あたふたと慌てふためく珍しい姿を見て、俺を含めたクラスメイトの多くが月見先生を見て笑い声を上げた。

この時をもって、ようやく一年の教室にも明るさが戻ってくる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

昼を過ぎ、食事もそろそろ終えようかといった頃ーーー

 

「おい《異常(アニュージュアル)》、出掛けんぞ!」

 

「騒々しいな、いきなり何言ってんだ?」

 

何やら離れた所で騒いでいた月見先生がこちらにやってきて、突然そんな事を言い出した。

 

「アタシの快気祝いっつー事で出掛けんだよ」

 

授業は午前中に終了し、午後は確かに空いてはいるのだがーーー

 

「俺はこの後、用事があるんだが……」

 

と呟くも、月見先生の後ろに立つ人たちーーーみやび、吉備津、リーリス、そして何やら困った顔をしている透流の姿が目に入る。

 

「あはは……。成り行きでDNLへ行こうって話になっちゃって……」

 

「DNL?」

 

その言葉に安心院が首を傾げる。

 

デスニューランド(DEATH New Land)って言うホラーテーマパークですよ。確かここから一時間くらいの所にありましたね」

 

「へぇ〜、僕らの世界でいうネズミの王国的な所か」

 

「ネズミの王国?」

 

「気にしなくていいぜ」

 

そう言って安心院は苦笑いする。

 

「ほら、お前らも行こうぜ!」

 

「だから俺は用事が……」

 

「影月、行きますわよ」

 

「ーーー朔夜、なぜここにいる……?」

 

そこへ突然現れた朔夜に唖然とする。

 

「アタシが連れてきた!こうすりゃ、お前も来ると思ってな!!」

 

「というわけですの。だから影月ーーーエスコートしてくださいません?」

 

その言葉に俺は頭を抱えるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約一時間後ーーー

結局、朔夜にねだられて無理やり参加する事となった俺は、DNL(デスニューランド)の入場口前へと立っていた。

 

「早速、皐月市に行こうと思ったのに……こうなるって……」

 

「あら、早速任務に赴こうとしていましたの?感心致しますわ」

 

「まあ、でもいいじゃないですか。朔夜さんの事、心配でしょう?」

 

「というか朔夜ちゃんが最近アグレッシブになってきた件。……さらに最近の影月君も、朔夜ちゃんの言いなりになってきている件」

 

「ほっとけ……」

 

ニヤニヤと笑いながら言う安心院にそう返して前の方に並ぶ面々の顔を視界に入れる。

先頭はリーリスで、その後に月見先生と吉備津、みやびと橘、透流とユリエ、そして安心院に優月に朔夜に俺という順番で入場を待っていた。

ちなみにトラとタツはどうした?と透流に聞いた所、トラは『どうして僕が、あの女の快気祝いに参加しなければならないんだ』と言い、タツは参加したらトラがうるさそうだからと言って参加しなかったそうだ。

なのでこの面々となったわけだが……いつぞやの海水浴の再来とでも言うべき男女比率である。

 

「それにしてもなんで朔夜は学園の制服を着てるんだ……?」

 

「……私が一人だけ漆黒の衣装(ゴシックドレス)を着ていたら、今より目立つでしょう」

 

「……ああ」

 

その返事を聞き、納得する。

俺たちは現在もの凄く目立っていて、周囲からの注視はもちろん、アイドルグループ(おそらく同じ制服を着ているから)の撮影なのかと憶測する声まで聞こえてくる。

確かにこれだけの美少女(俺と透流は美少年かどうかは知らないが)たちがいたら、そう思われるのも無理は無い。

さらにこんな注目されている中で朔夜が漆黒の衣装(ゴシックドレス)など着ていたら、さらに目立つ事間違い無しだ。

朔夜としてはやはり目立つのは避けたいのだろう。……それでも十分目立ってると思うが。

 

(はぁ……とりあえず早く入りたい……)

 

俺は内心、ため息をはきながらそう思うのだった。

 

 

 

 

「さあ、時間も勿体無いしどんどん行くわよ。まずは基本を押さえた上で、各々行きたい所を挙げて順に回りましょ。一通り回り終わったら、その時は皆で行き先を話し合うって事でいいわね?」

 

ようやくパーク内へと入ると、リーリスがこれから回るアトラクションについての提案をする。

最もな提案の為、誰も反対する事無くその案は採用された。

基本として回る事となったのは三つのジェットコースターで、後はそれぞれが希望をリーリスに伝えていく。

 

 

そしてリーリスが回るコースを考えている間ーーー突然どこからか俺の聞き覚えのある名を呼ぶ声が聞こえた。

 

「あ、いた!蓮ーー!」

 

「ちょっと綾瀬(あやせ)さん、声大きいわよ」

 

「ん?蓮?」

 

その名前にふと、藤井蓮の顔が思い浮かぶ。だがここには流石に藤井蓮は居ないだろう。故にこの呼ばれている蓮さんという人は多分全くの別人だと思う。

偶然だなと思いながら、聞き流すがーーー

 

「おーい、無視するなーー!そこっ!藤井れーーんっ!!」

 

「あ、綾瀬さん、あの人は違うんじゃ……!?」

 

「藤井蓮……?」

 

「ん?この声……兄さん、どこかで聞いた事ありませんか?」

 

「知り合いか?」

 

優月の言う通り、藤井蓮と大声で叫んでいる人をなだめようとしている女性の声は、俺もどこかで聞いた覚えのある声だった。という事は、橘の言う通り知り合いの可能性もーーー

そう思いながら、優月と共にその声が聞こえた方を振り返るとーーーバシッと強く肩を叩かれた。

 

「全く、蓮ったらなんで先に入っちゃうのよ!探すの苦労したんだからね!」

 

「「…………はい?」」

 

俺と優月はその肩を叩いた女性の言葉に呆気にとられる。

年齢は俺たちと同い年位だろう女性はにこやかに笑いながらそんな事を言う。

 

「ってなーによその顔、どうかした?」

 

「いや……あの……どちら様?」

 

「なっ……あたしをバカにする為についにそういう真似までするようになったか!なったのかー!」

 

そう言って、バシバシと肩を二回叩いてから襟首を掴み、がくがくと揺すってくる女性。つか、肩を叩かれたのが結構痛い。

 

「影月、その方はーーー?」

 

「なんだ、《異常(アニュージュアル)》?知り合いか?」

 

「知らねぇよ!というかユリエと月見先生も首を傾げてないで、なんとかしてくれよ!?」

 

「綾瀬さん、その人は別人よ。藤井君はそんな制服着てないでしょ」

 

「へ?」

 

そこで先ほど聞こえていたもう一人の女性が近付いてきてそう言うと、俺の襟首を掴んでいた女性は手を離して俺の服装を見始める。

というかもう一人の女性はやはりーーー

 

「螢さん……ですか?」

 

櫻井螢さんだった。螢さんは苦笑いをしながら近付いてくる。

 

「ああ、やっぱり優月ちゃんね。綾瀬さん、その人は藤井君じゃなくて昨日話した如月君よ」

 

「というか久しぶりだな……螢さん」

 

「ええ、貴方たちも遊びに?」

 

「まあ……俺は無理やり連れて来られただけなんだが……」

 

「「あはは……」」

 

俺の言葉に苦笑いをする優月とみやび。そしてーーー

 

「あなた、本当に蓮じゃないの?」

 

「綾瀬さん、やめてあげて。この人困ってるから」

 

すると、俺の事をまじまじと見ていた女性の視線を遮るかのように、少し青みがかった銀髪の女性が間に割って入った。

 

「だって氷室先輩、彼もの凄く蓮に似てませんか?」

 

「確かにもの凄く似てるけど……本物はあっち」

 

そう言って銀髪の女性が指を指した方向にはーーー

 

「俺はこっちだ、バカスミ。というかこんな人の多い場所で人の名前を大声で呼ぶな」

 

俺とそっくりの顔ーーー藤井蓮がため息をはきながら歩いてきた。

 

「蓮!?……って事はもしかしてこの人は……?」

 

「……蓮、早速で悪いがこの人に色々言いたい事があるんだが……」

 

「構わないぞ、影月。なんでも言ってやってくれ。チョップも三発までなら許す」

 

「ちょっと蓮!?あたしを見捨てるかー!」

 

「たまには他人から怒られてみろ。そしていい加減懲りろ!」

 

「……肩、叩いてたの結構痛かったんだが?何か言わなきゃならない事があるんじゃないか?」

 

「あ、あははは〜……」

 

女性はぎこちない笑みを浮かべながら、ゆっくりと方向転換しーーー

 

「ごめんなさ〜い!!」

 

「あっ!待て、バカスミ!」

 

そう言いながら、走り去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう……痛い……」

 

「全く……だからお前はバカスミって言われるんだよ。ーーー影月、ごめんな?うちの香純が手を出して……痛かっただろ?」

 

「それなりにな……まあ、こっちもお返しに一発叩かせてもらったから、少しは溜飲(りゅういん)が下がったよ」

 

あの後、謝りながら逃げ出した女性ーーー綾瀬香純(あやせかすみ)は結局蓮に捕まり、俺はとりあえず一発バシッと叩いてさっきの肩の痛みを払拭させてもらった。

 

「それにしても、本当に綾瀬さんが見間違うくらいそっくりだね。ーーーねぇ、どこかの芸人みたく、幽体○脱〜とかやってみてよ」

 

「先輩も何言ってんすか……」

 

そして銀髪の女性ーーー氷室玲愛(ひむろれあ)は俺と蓮の顔を交互に見て、そんな事を言い始めた。

ちなみにベアトリスとか司狼は来ていないらしい。聞くと今日も皐月市で色々と情報収集しているそうだ。

 

「それにしても奇遇だね。まさか蓮君とまた会えるなんて」

 

「俺もだよ。まさか会えるとは思ってなかった」

 

安心院の言葉に苦笑いする蓮。その様を見て、今まで黙っていたこちらの人たちが俺に聞いてくる。

 

「なあ影月、本当に知り合いなんだよな……?」

 

「ああ、って言ってもお互いに知ってるのは蓮くらいだが。……何で俺と蓮の顔を交互に見てる?」

 

「い、いやぁ……そっくりだなって……」

 

「ヤー、本当に見間違えます」

 

透流とユリエの言葉に俺と蓮以外の全員が頷く。

 

「「お前ら……」」

 

「そ、そうだ!あなたたちも遊びに来たなら、あたしたちと一緒に回らないかしら!?」

 

俺と蓮がそれぞれ睨むと、リーリスが慌てたように話を変える。

 

「あたしは月に一、二度はここに遊びに来てるからオススメの所を回るわ!」

 

「そ、そうなんだ〜!ならあたしたちも一緒に回ろっかな〜!ねっ、櫻井さん!」

 

「そ、そうね……」

 

こうして何やらドタバタとしたものの、ここで会ったのも何かの縁という事で共に回って、遊ぶ事になった。

 

 

 

 

「そういえば蓮、マリィちゃんは?」

 

「っ!?」

 

そこで香純さんが蓮に向かってそう言い、朔夜がなぜか反応する。

そんな事など知らずに、蓮は右腕を上げる。

 

「この中にいるぞ。端末だけど」

 

「じゃあ、出してあげたらいいんじゃない?マリィちゃんだってここで皆と楽しみたいだろうし……」

 

「でもなぁ……そうは言っても外は危ないし……」

 

すると蓮さんが突然独り言を話始める。

 

「ーーーう〜ん……遊びたいって言ってもだな……ここだったら騒ぎになるし……。ーーーーーー……ああもう、分かったよ。何かあったら俺が守ってやればいいんだろ?ーーー分かった。出てこいよ、マリィ」

 

そう言うと、突如蓮の目の前に光が集まりだしーーーそれが人型の形を取ると爆ぜた。

その光が晴れるとーーー

 

「「「ーーーーーーーーー」」」

 

「おお……!」

 

『うわぁ……!!』

 

俺と優月と朔夜は言葉を失い、透流は感嘆の声を上げ、女性陣は綺麗な花を見たかのような声を上げる。

 

 

「ほら、自己紹介して、マリィ」

 

「うんっ。えへへ……初めまして、わたしはマルグリット・ブルイユって言います。マリィって呼んでね」

 

 

 

 

光の中から現れたゴスでロリな格好をした金髪の少女がそう自己紹介すると、周りがほんの少しの間沈黙しーーー

 

 

 

『可愛い〜!!』

 

 

 

こちらの女性陣(優月と朔夜除く)と、周りでこちらの様子を伺っていた他のお客さん(男女どちらも)が咄嗟に耳を塞いでしまう程の大声でそう叫ぶ。

その声を聞き、さらに多くの人が足を止めてこちらを見てくる。

 

「やっぱり騒ぎになっちゃったね。藤井君、早く行った方がいいよ」

 

「そう言いながらどさくさに腕を絡めないでくださいよ。ほら、マリィも皆も行くぞ。リーリスが案内してくれるんだろ?」

 

「ええ、まずはジェットコースターよ!!」

 

そう言いながら歩いていくリーリスに皆が付いていく。

俺と優月と朔夜もその後を少し遅れながらも付いて行くとーーー

 

「影月君、優月ちゃん、朔夜ちゃん」

 

「螢さん……」

 

螢さんが俺たちの隣へと近付いてきて、歩きながら話しかけてくる。

 

「どうしたの?マリィちゃんを見て、何か衝撃を受けていたみたいだけど……」

 

「あ……何でもない。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……彼女とは初めて会った筈なのに、どうにも()()()()()()()()()()()()()

 

「私もです……」

 

「……そう」

 

俺と優月の言った違和感に黙り込む螢さん。すると朔夜がーーー

 

「螢さん、このような場で聞くのは(はばか)られるのですが……彼女が例の……?」

 

「……ええ」

 

そう聞くと螢さんがマリィを見やり小声で、しかし俺たちにはっきりと聞こえる大きさで言った。

 

 

 

 

 

 

 

「彼女が黄昏の女神よ」

 

「黄昏の女神……?」

 

「……あの方が第五天の女神様ですのね……」

 

朔夜が噛みしめるように呟くが、俺と優月は今一要領を得ない。

すると朔夜が俺たちにも分かるように簡潔に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女こそ、ラインハルト様、メルクリウス様、そしてツァラトゥストラ様が守護しているこの世界の理を流れ出している存在ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ最初に乗るジェットコースターの席順を決めたいと思うんだが……」

 

先ほどの話の続きはまた今度という事で一旦終わらせ、一番最初に向かったジェットコースターの待ち時間中、蓮がそう言い始めた。

 

「わたしは、透流くんの隣に乗りたいな……」

 

「あたしも透流の隣に乗るわ。もちろん今日一日全てよ」

 

「ナイ、みやびでいいと思います、もしくは私か巴でも構いません」

 

「私は誰でもいいですよ?」

 

「僕も優月ちゃんと同じ〜」

 

「私も優月と同じだな」

 

「私は優月か安心院か……一番は影月の隣がいいですわ」

 

「私はせんせーと一緒がいいなー」

 

「おう、いいぜ。んじゃーアタシらは一緒に乗るとすっか」

 

「わーい」

 

するとみやび、リーリス、ユリエ、優月、安心院、橘、朔夜の順(月見と吉備津は決まったようだが)でそれぞれ思い思いに希望を言い出しーーー

 

「あたしも誰でもいいな〜。櫻井さんは?」

 

「私も誰でも構わないわ」

 

「私は藤井君か影月君の隣がいいかな」

 

「……影月、先輩に狙われてるから気を付けろよ」

 

「……分かった」

 

香純さん、螢さん、玲愛さんの順で向こうも希望を言う。

……あれ?

 

「マリィは?」

 

「ああ……彼女は基本俺と一緒じゃないとダメだ。どうしても目が離せない事情があるからな」

 

「…………あれの事ですわね」

 

蓮の言葉に朔夜がほんの小さく声を出したが、俺には何の事だか分からなかったので忘れる事にする。

というか先ほどから周りの他のお客さんの視線が痛い。特に男性客からは『もげろ』とか『爆ぜろ』という視線が感じ取れる。全て無視するが。

 

「そっか。じゃあ私は影月君希望しかないんだね」

 

「ちょっと待ってください。氷室さん」

 

そこで橘が待ったを掛ける。

 

「それだと色々不公平も出てくるだろう。だから一緒に乗る相手をグーパーで決めるというのはどうだろうか?」

 

「ナイスアイディアだ、橘。でも、それだと望む人と一回も一緒になれないって不公平も起こるかもしれないから、自分の乗りたい希望アトラクションの所は希望した奴が一緒に乗る相手を選べるってのはどうだ?」

 

橘の意見に俺がさらに付け加えると、誰からも異論が出る事は無かった。

 

「なら、グーパーをしようか。月見先生と吉備津、蓮とマリィは抜いてーーーいくぞ?」

 

俺の声と共に皆が手を差し出し、じゃんけんを始める。

 

『せーの、グとパでほいっ!』

 

 

 

 

 

結果ーーー俺は透流と乗る事になった。

 

「……喜んでいい席なのか?」

 

「……さあ?ただ……」

 

何やら先ほどから俺たちが座っている座席の前と後ろ(前はリーリスと螢さん、後ろは朔夜と安心院)から、羨ましそうな視線を感じる。

 

「……とりあえずよかったって事で……」

 

「……そうだな……」

 

とりあえず今はこのジェットコースターを楽しむ事とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてジェットコースターを楽しんで次に向かったのは、ユリエの希望であるティーカップだ。

最大四人乗りの為、四グループに分かれる事となり、俺たちのグループは俺、朔夜、優月、そして玲愛さんがカップに乗り込む。

 

「今度は一緒ですわ、影月」

 

「ああ、三人とも一緒ですごく嬉しいよ」

 

「私もですよ!兄さん!」

 

「私も君と一緒に乗れて嬉しいよ、影月君」

 

などと楽しく話していると、カップの出入り口をスタッフの人が閉める。

 

「よっしゃー、回すぜ!」

「まだ始まってないわよ……」

 

別のカップから月見先生と螢さんの声が聞こえてきて、俺はふと思う。

 

「そういえば、ティーカップの操作はどうする?」

 

「あ、そうですね……私はいいですから、三人の中の誰かでいいと思います」

 

「……私も結構ですわ。どちらかで……」

 

「じゃあ、私が回すよ」

 

「分かった」

 

そうしてティーカップの操作を玲愛さんに決めると、やがてメロディーと共に床全体が動き始め、カップの操作が出来るようになる。

 

「行くよ」

 

そう言って、玲愛さんがハンドルを回し始めるとカップが回り始める。

 

「このくらいの速度でいいかな?」

 

「俺は大丈夫。二人は?」

 

「私も大丈夫です!」

 

「問題ありませんわ」

 

ーーーと、その時だった。

 

「回れ回れーーっ!フガクの(あけ)きサイクロンたぁアタシの事だぜ!!」

「せんせー、目が回るよー」

(あけ)きサイクロン!?というか回し過ぎですっ!」

「つ、月見先生、少々回し過ぎでは!?後フガクとは何ですか!?」

「船橋のゲーセン!くぁーっはっはーーっ!!回れ回れ、花びら大レボリューショーーン!!」

 

月見先生、吉備津、螢、橘が乗るカップが、ぐるぐるとバターでも出来そうな速さで回りだし、そのカップから高笑いと悲鳴が聞こえてくる。

 

「橘と螢さんには悪いけど、この組み合わせでよかったな……」

 

「そうだね……あたしもあんな速度で回ったら流石に……」

 

「あはは……。……っ!と、透流くん!!綾瀬さん!!」

 

すると今度は透流、ユリエ、みやび、香純さんが乗っているカップからみやびの悲鳴が聞こえた。

ふと俺たちも見てみるとーーーユリエの視線は月見先生たちの乗るカップに向けられ、その目は輝いていた。

 

「ユ、ユリエ……!」

 

「ヤー!こちらも全力で行きます!」

 

その言葉と共に、バターが出来そうなカップが二つに増えた。

 

「逆だーーーーーーーっっ!!」

 

「…………逆でしたか」

 

「そう、逆!」

 

「ヤー♪」

 

「うわわわっ!!ちょっと九重君とみやびちゃん!逆って何なの〜!?」

 

ユリエはハンドルを逆方向に回した。

 

「ぎゃあああああああーーーーーっ!!」

「ひゃぁああああああーーーーーっ!!」

「わぁぁああああああーーーーーっ!!」

 

さらに三つの悲鳴が加わり、段々とカオスになっていく中ーーー

 

「僕たちもあれくらい回して楽しもうぜ!マリィちゃんも手伝ってくれよ!」

 

「はいっ!!」

 

「マリィ!?」

「なじみ!?」

 

蓮、マリィ、安心院、リーリスが乗っているカップも、リーリスや蓮が制止する間も無く、凄まじいスピードで回り出す。

 

「…………他の所じゃなくてよかったですわ……」

 

「ふっふっふ……」

 

朔夜が他のカップを見て、そう言うと玲愛さんが突然笑い出す。

 

「……れ、玲愛さん……まさか……?」

 

「あれを見てると、ツキサワの(あお)きハリケーンと呼ばれた私も血が(たぎ)ってくる。よし、私たちも負けないくらい回るよ!」

 

「ちょ!?朔夜掴まれ!」

 

「わ、分かりましたわ!」

 

「ちょっと玲愛さん!?やめてーーー」

 

俺は朔夜を引き寄せ、朔夜は俺にしがみついて目をつぶり、優月は玲愛さんを止めようとしたが間に合わずーーー

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」

「ーーーーーーーーーっ!!!」

 

結果、猛スピードで回るカップは結局四つとなってしまった。

 

「おお!?やるねぇ!!流石ツキサワの(あお)きハリケーンだぜ!!」

 

「ふっ、フガクの(あけ)きサイクロンはその程度の実力?なら相手として恐るに足らず!」

 

「ふふっ、サイクロンもハリケーンも大した事ねーな!ハコニワの荒れ狂うタイフーンと呼ばれた僕の敵じゃないぜ!!」

 

「トール!楽しいです♪」

 

『うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 

 

その後一分半もの間、四つのカップはその回転速度を落とす事無く回り続けーーーメロディーと床全体が止まると同時にアトラクションは終了する。

 

「兄さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ……何とか……後もう三十秒くらい多く回ってたら吐いてた……」

 

「…………………………」

 

「ふ、ふふ……み、見たか……こ、これが、私の力……うっ……ぐおっぷ……」

 

優月は戦闘などでも素早く動ごいて、よくくるくると回転したりしているので目を回さずに平然としているが、俺は気分が悪くなり、朔夜はもはや死んでいるのでは?と思う程にぐったりしており、玲愛さんは自分で回しておきながら目をぐるぐると回して、吐きそうになっていた。

 

「……はぁ……落ち着いてきた……朔夜、立てるか?」

 

「…………………………」

 

返答は無いがーーー目に光が宿っていない時点で立つ事はおろか、しばらく復帰出来ないだろう。

 

「しょうがないな、背負って行くか……優月は玲愛さんを……」

 

「はい。ほら掴まってください……」

 

そして俺たちは二人を介護しつつ、カップから降りて外へと向かった。

 

 

 

 

 

外へ出ると、ほとんどのグループは誰か一人が死屍累々(ししるいるい)となっていた。

 

「くは、はは……回った、回りきったぜ……」

「せんせぇ……私、もうだめ……」

「蓮〜……世界が回って見えるよ〜……」

「綾瀬さん、大丈夫?」

「世界っていうか、地球は元々回ってるぞ」

「センパイ、大丈夫?」

「な、なんとか……うっぷ……」

「全く、(あけ)きサイクロンも(あお)きハリケーンもその程度で目を回すとは情けないぜ」

「ほら、玲愛さんもここに座って……リーリスさんも大丈夫ですか?」

「うう……気持ち悪いわ……ありがとう、優月」

「巴、これを」

「す、すまない、ユリエ……」

 

約半数はグロッキー状態でダウンしている中、ユリエは近くで買ってきたジュースを橘に手渡していた。

 

「影月、無事だったか……」

 

すると背後から透流とみやびに声を掛けられる。

 

「俺は多少気持ち悪くなったくらいだ。でも俺じゃなくて朔夜が死にそうな事に……」

 

「…………な、なんとか生きてますわ……」

 

「とりあえず、しばらくここで休憩にした方がいいかもしれないね……」

 

苦笑いしながら言うみやびに、誰からも異論は出なかった。

……出せなかった、の方が正しい気もするが……。すると蓮がこちらに近付いてきた。

 

「お疲れ。とりあえず背負ってる朔夜さんは下ろした方がいいんじゃないか?」

 

「いいえ……しばらくこのままで……お願いしますわ……」

 

「……だってさ。それより蓮は目が回らなかったのか?」

 

「ああ、慣れてるからな。俺だけじゃなくて櫻井も慣れてるだろうし、マリィはなんと言うか……そんな感覚が無いと言うか……他も目を回してない人は皆、平衡感覚が抜群らしいな」

 

「……そうだな……」

 

そんな事を話しているとーーー

 

「トール、もう一度乗りましょう」

 

後ろからユリエの声が聞こえ……俺と蓮は苦笑いをしながら見る。

そこにはユリエに誘われて、この世の終わりみたいな顔をしている透流がいてーーーユリエにズルズルと引きずられて行った。

 

「「ご愁傷様……」」

 

「……私も行ってきます。透流さんの為に……」

 

その光景を見た優月は、苦笑いしながら二人の後を追いかけて行ったーーー

 

 

 

「ぎゃーーーーーっ!!」

 

数分後、透流の絶叫が青空に響き渡るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

それから皆動けるようになったところで、のんびりとしたアトラクションでゆったり過ごして気力を回復し、続けてガンアクションやルーピングシップを巡りーーー次に、橘の希望となる天空激流下り(スカイリバーライド)に乗る事になった。

最大四人乗りの円形ゴムボートに乗り込むのは俺と朔夜、蓮とマリィだ。

 

「この組み合わせは初めてだな。マリィ、足元滑るから気を付けろ」

 

「うん。ありがとう、レン」

 

「そうだな。ほら、朔夜」

 

「ふふっ、どうもですわ」

 

俺たちは乗り込むとゴムボートの内側についているグリップを掴み、向かい合って座る。

このゴムボートは、コースに合わせて不規則に跳ねたり回転したりするらしいので、このグリップから手を離さないでほしいとスタッフから説明を受けた。

席順は右隣に朔夜、左隣にマリィ、正面に蓮が座り、俺たちの乗ったゴムボートは急流を下り始めた。

 

「これくらいの回転ならなんとか楽しめそうだな……」

 

「そうですわね……あのティーカップは…………」

 

ボートが不規則に回転する中、朔夜の顔が段々と青ざめていく。どうやら先ほどの悪夢を思い出して、気持ち悪くなってきているらしい。

 

「朔夜、思い出すと酔うから考えるなよ……」

 

「え、ええ……」

 

大丈夫か?と心配になり、朔夜に問おうとした直後ーーー

 

「うおっ!?」

 

突如、ばいーんとボートが跳ねた。

エレベーターなどの浮遊感にも似た感覚に襲われ、ボートはすぐに着水して滑り始める。

 

「びっくりした……」

 

「……下手をすれば今ので舌を噛む所でしたわ……」

 

「レン!レン!今、ばいーんって!ばいーんって!!」

 

「ああ。なかなかスリルがあって面白かったな」

 

先ほどの飛び跳ねで俺と朔夜は互いにびっくりし、マリィと蓮は互いに顔を見合わせて笑っていた。

 

「ねぇレン、またさっきのあるかな?」

 

「さっき始まったばかりだから、きっとまだ何回もあるよ」

 

「ほんとう?」

 

「ああ」

 

その返事を聞いたマリィはとても嬉しそうにーーー見惚れてしまう程の満面の笑みで笑った。

 

「ーーーーーー」

 

「……ちょっと影月、何見惚れてるんですの?」

 

すると少し不機嫌そうな朔夜が至近距離から俺の顔を覗き込んできた。

 

「い、いや、別に見惚れてなんか……」

 

ーーーん?至近距離?

 

「朔夜、グリップは……?」

 

「心配いりませんわ、こうやってしっかりと片手は握っていますから。それよりもさっき見惚れーーー」

 

そう朔夜が言った直後ーーー再びボートが跳ねた。

 

「きゃ……!」

 

突然予期せぬタイミングで跳ねたせいなのか、朔夜はそのグリップを掴んでいた片手を離してしまった。

 

「っ!朔夜!!」

 

瞬間ーーー俺は宙に浮かんでしまった朔夜を助けようと咄嗟に右手を伸ばす。

すると朔夜もそれに気付いたのか、右手を伸ばしーーーお互いの伸ばした手が繋がる。

そして俺は自分の体に朔夜を引き寄せようと引っ張る。

結果、朔夜はなんとかコースに落ちる事は無く、俺の胸へと落ち着く形になった。

 

「大丈夫か?いきなり跳ねたからびっくりしただろ?」

 

「ええ……そ、その、助けていただいてありがとうございますわ」

 

朔夜は頬を赤く染めて、俺の胸に顔をうずめる。

その様子を見て、俺は朔夜を抱えている右腕に力を入れる。

 

「……とりあえず今、元の位置に戻るのは危ないからしばらく俺の腕の中にいろ」

 

「え……?」

 

俺の言葉にキョトンとする朔夜。

なんでそんなに驚いたような顔をするんだろうか。

 

「……俺の腕の中にいるのは嫌か?」

 

「い、いいえ!そんな事はありませんわ……その、いさせてもらいますわ……」

 

「ははっ、ラブラブだな」

 

するとその様子を見ていた蓮がからかってくる。

 

「うるさいぞ、蓮。別にいいだろ?このアトラクションが終わるまでだ。ーーーそれまで俺は絶対に彼女を離さない」

 

「ーーーーーー」

 

「影月……」

 

「OK、分かったよ。別にここのスタッフに言ったりしないから、好きにするといい」

 

蓮が苦笑いすると、俺もつられて苦笑いする。

そこでマリィが俺をずっと見ている事に気付いた。

 

「マリィ?どうした?」

 

「ーーーあなたはレンにそっくりだね」

 

「「え?」」

 

その言葉に俺と蓮は、疑問の声を上げた。

 

「マリィ、待ってくれ。俺と蓮は顔と声くらいしか似てないって司狼とエリーに言われたぞ?」

 

そう言う俺に、マリィは首を横に振る。

 

「それはそうだよ。あなたはレンと違って、カリオストロに少しの力しかもらってない。だから全部似ているわけじゃないから。でも今日遊んでみて分かったよ。ーーーあなたもレンと同じくらい、仲間一人一人をとても大切に思ってる。レンがわたしやカスミ、センパイにケイにシロウにエリーを大切にしてくれるのと同じ」

 

「………………」

 

その言葉に俺の脳内ではこの数ヶ月間で出来た仲間たちの顔が思い浮かんでいた。

透流にユリエ、みやびに橘、トラにタツに月見先生、さらに吉備津などのクラスメイト、そして優月と安心院と朔夜ーーー皆の顔が思い浮かべると、自然と自らの頬が緩む。

俺もこうやって仲間の顔を思い出してこんな表情(かお)をするって事は、やっぱり俺はマリィの言う通り仲間思いなのだろう。

 

「それにね、もう一つレンと似てるところがあるんだよ?」

 

不安定な揺れの中、マリィは慈愛に満ちた笑顔で続ける。

 

「レンがわたしを一番大切な刹那だって言ってくれて。大好きだって言ってくれて。そんなわたしをーーーみんなを失わないために絶対護るって、絶対離さないって思うその気持ち」

 

「……………………」

 

「あなたはレンと少し違って、そんな大切な人が三人いるけど……絶対離さないって、わがままを言うのはすごくレンに似てるよ。ねっ、レン」

 

「……だってさ。俺はそう言われてもよく分からないけど、きっとマリィが言うならそうなんだろうな」

 

そう言って蓮もまた、優しい笑みを俺に向ける。

するとまた、ボートが大きく跳ねる。三回目のその跳ねの際に俺が見たのはーーー

 

 

 

 

このアトラクションを楽しんでいるのか、それとも俺のそんな思いに何か感じるものでもあったのかーーー

 

少なくとも、今この瞬間をとても大切にし、楽しんでいるだろうマリィと蓮の満面の笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかったね、ユリエちゃん」

 

「ヤー♪」

 

「ただいま、藤井君」

 

「おかえり、先輩」

 

一番最初に俺たちがゴールしてからしばらくした後、一番最後のみやび、ユリエ、玲愛さん、リーリスが降りてくる。

 

「あら?あたしたちが一番最後の筈だけど……透流、巴とあのバカうさぎは?」

 

「え、えーっと……ちょっとランニング……?」

 

「あ、あははは……」

 

月見先生、橘、透流、香純たちのグループは降りてきた直後、橘が『私が戻ってくるまでに忘れろ!!』と、一緒に乗っていなかった俺たちからすれば、何の事か分からない言葉を透流に叫んだ後、何かをからかいながら逃げる月見先生を追いかけてどこかへ行ってしまった。

香純さんから聞いた所によると、月見先生がまた透流と橘にいたずらをしたらしい(内容は教えてもらえなかった)。

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくして二人が戻ってきた(結局捕まえられなかったとの事)ので、俺たちは引き続きアトラクションを楽しむ事にした。

そしてーーー

 

「むぐっ!?」

 

十四個目のアトラクションに並んでいる最中、俺はとある人物の口を塞いで背後へと引き摺って行く。

順番が回ってきた事もあり、前に並んでいた皆が次々とアトラクションに乗り込んで行く中ーーー唯一、こちらに気が付いた優月と目が合って苦笑いされる。それに俺も苦笑いで返した後、目で『ちょっと行ってくる』と優月に伝える。すると優月は小さく手を振って返してくれた。

誘拐をした人物はーーー月見先生だ。

 

「月見先生、ちょっと来てください」

 

「むが〜!」

 

そのまま俺は月見先生を引き摺って行き、明るい外へと連れ出した。

そこで月見先生の口を塞いでいた手を離し、拘束を解除する。

 

「っ!はぁ……!おい影月!何しやがる!?」

 

「先生もさっき、透流に同じ事をしてただろ?こっちへーーー」

 

俺は月見先生の手を引き、近くにあったベンチに座らせる。

 

「さて、何しやがる……だったか?今回で三回目だから分かるんじゃないか?」

 

「っ!……くはっ、やっぱりおめーにはお見通しだったか…………ふぃーー……」

 

すると、月見先生はずるずると背もたれからずり落ちつつ、大きくため息をついた。

 

「……はぁ、いくらクラスの連中や吉備津を安心させる為とは言え、その体で来る事は無いだろ。体を大事にしろよ……」

 

「わーってるよ、全く兄妹揃って同じ事言いやがって……」

 

月見先生の様子を見つつ、俺も隣に座る。

入園以来、テンションMAXだった月見先生が今、こんなに疲れている理由ーーーそれは先週のあの戦闘での傷がまだ全然()えていないからだ。

俺の前に月見先生を連れて行った優月曰く、腹部はナノマシンによってほぼ塞がったらしいが、他の部分がまだ治っていないらしく、体力も全然回復していないとの事だ。

本来ならば、まだベッドの上で寝ていた方がいいらしいが……そんな状態でもクラスに顔を出した理由の一番は、やはり吉備津の為らしい。

 

「それにしても……吉備津、か……」

 

「……ああ、実は救急救命室に入る寸前に、自分のせいだって泣きじゃくる声が聞こえてよ。そのまま意識がドボンで、気がつきゃ何日も過ぎてたからよ……あいつはどーなったとか、もしかして泣きっぱなしじゃねーかとか、考えたら眠れなくてよ……」

 

「……まあ、泣きっぱなしでは無かったな。けどあんたが来るまで毎日暗い顔で過ごしていたよ」

 

「やっぱりか……」

 

そう言って月見先生はごろんと寝転がって、俺の膝を枕代わりにする。

俺はその行為に対して何も言わず受諾する。

 

「この前なんか、俺が元気づけようとしたらなんか突然泣き出してきたし……」

 

「はぁ?なんでだよ?」

 

「さあな……ただ、ある事を何度も頼まれたよ。月見先生の様子を聞かせてくれってさ」

 

「訳分かんねーぞ……どういう事だよ?」

 

「……多分俺が朔夜と繋がりが深いから、一般生徒が知らない学園の事を知ってると思っていたんじゃないか?それこそ、あんたの容体とか……な?」

 

「……………………」

 

「正直、俺も知らないって言ったらさらに泣かれて困ったよ。一緒にいた優月がなだめてくれなかったら、色々と大変だった」

 

「……なんかすまねーな。アタシのせいで……」

 

月見先生が珍しく本当に申し訳なさそうな声色で言う。

その事に内心驚きながらも、俺は首を振る。

 

「どちらにしても過ぎた事だ。それよりも今は少し休んで、体力を戻せ。……別に俺と喋りたいならそれはそれで構わないが……」

 

「ああ……そうだな。正直おめーとは話しやすいから、ゆっくり喋りてぇけど……ここはご厚意に甘えて、休ませてもらうぜ……」

 

「ああ、時間が来たら起こしてやる」

 

あっという間に眠りにつき、規則正しく胸を上下させる月見先生を一瞥し、俺は優月たちが乗っているであろうアトラクションを眺めた。

 

 

 

それから二、三分後ーーー

 

「そろそろ戻ってくるか……月見先生、起きろ」

 

俺は月見先生の肩を揺すって起こそうとする。

 

「ん……もうか……?」

 

「ああ、ほんの少しだけど休めたみたいだな」

 

「ふぁ……ああ、中々いい寝心地だったぜ。流石うちのお嬢様(朔夜)が気に入っているだけの事はあるな!」

 

「……どこでそれを知った」

 

「蛇の道は蛇だぜ、影月」

 

つまり詳しく教える気は無いらしい。朔夜が言うわけは無いだろうから……まさか、あの時耳打ちした優月か?

 

「まあ、問い詰めるのは後にするか……ちょうど近くに自販機あるから何か飲むか?」

 

「おっ?奢ってくれるのか?かー!ほんっとおめーはいい奴だな!じゃあ、コーラでもサイダーでもいいから炭酸系で!」

 

「了解……」

 

嬉しそうに笑う月見先生を見て、俺は苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

「ほら、コーラだ」

 

「サンキュー。おめーは……「おっす!お茶」か?アタシもそれはたまに飲むぜ」

 

「ああ、とりあえずこれでアトラクションに乗れなかった口実は出来たな……」

 

「喉乾いたから飲み物買いに行って、乗り逃がしたってか?くははっ!用意周到だな、《異常(アニュージュアル)》!」

 

「それはどうも……それよりも皆戻ってきたようだし、行くぞ?これからも疲れたら言えよ?」

 

「ああ、サンキューな、影月」

 

そうして、俺と月見先生はベンチから立ち上がって、皆と合流した。

 

 

 

ちなみに膝枕の件はやっぱり優月のせいだった(問い詰めたらあっさり認めた)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺たちは遊びまくり、すっかり夜の(とばり)が下りたDNL(デスニューランド)の帰りーーー

 

「さてと、じゃあ俺たちはここで降りるからお別れだな」

 

皐月駅に到着するアナウンスが電車内に響き渡った所で蓮たちが立ち上がる。

 

「あ、もう皐月に着いたんですね……なんか、あっという間に終わってしまいましたね」

 

「楽しい時間っていうのは早く過ぎてしまう気がするよね。僕も同じ気持ちだよ」

 

優月と安心院が何やら感傷に浸って、そんな事を言う。

 

「楽しかったね、レン」

 

「そうだなーーー影月たちもありがとな?本来ならお前たちだけで遊びに来たんだろうけど、なんだか一緒に楽しんじゃって……悪いな?」

 

「気にしなくていいわ。それよりもまたDNL(デスニューランド)に行く時は、あたしたちも誘ってくれないかしら?その時はあたしがまた案内してあげるわ!」

 

「リーリス……」

 

リーリスが胸を張って言う姿に、蓮たちは笑う。

 

「ああ、次に行く時も出来たら誘うよ。皆もいいよな?」

 

「うんっ!わたしもいいよ!」

 

「あたしも異議な〜し!みやびちゃんとかとまた話したいし!」

 

「私も構わないよ。次こそは影月君と一緒に天空激流下り(スカイリバーライド)に乗って、手を離した時に救ってもらいたいし」

 

「先輩、危ないのでやめてください。……私も構わないわ。今度は兄さんとベアトリスも呼んで行きたいわね」

 

「決まりだな。次がいつになるか分からないけど、その時は多分おそらく絶対に誘うと思うから、その時はよろしくな?」

 

『多分おそらく絶対ってどっちだよ(ですか)(なのよ)!!?』

 

俺と透流と安心院、さらに優月とリーリスと香純さんが蓮の言葉に突っ込む。

その突っ込みに、誰もがしばし顔を合わせて無言となりーーー誰かが「ぷっ」と吹き出したのを合図に皆が楽しそうに笑い出した。

皆の顔は今日遊んだ事、新しい人たちと知り合えた事、そしてその二つを合わせて心から楽しめた事を表すかのように、一人一人が満ち足りていて、眩しい笑顔をしていた。

それはもちろん、普段はあまり楽しく笑わない朔夜も例外ではなくーーー

 

「朔夜さん!貴女もまた行きますよね?」

 

突然問いかけた優月の言葉に、皆が笑いを止めて朔夜を見る。

すると朔夜は、今日見たマリィの微笑みにも負けないくらいの明るい笑みでーーー

 

「もちろんご一緒させていただきますわ。ですがーーーティーカップだけはお断りしますわ」

 

その言葉でさらに皆が笑う事になった。

 

 

 

 

 

「じゃあな。お互い今度は全員揃って遊びに行こう」

 

「ああ、それじゃあなーーー」

 

そしてドアが閉まり、電車が発車する。蓮たちは俺たちが見えなくなるまで、ホームで軽く手を振ってくれたーーー

それが見えなくなると、俺たちは暫し無言となりーーー優月が話す。

 

「……兄さん、楽しかったですね」

 

「ああ、本当にあっという間だった……」

 

「僕も楽しかったぜ。やっぱり気心のしれた仲間と行くのは最高にいいよね」

 

「くすっ。次はトラくんたちも一緒だといいね」

 

「ふむ、次回は月見先生の快気祝いという名目も無くなるわけだし、彼も参加してくれるのではないか?」

 

「そうだといいけど、問題は……」

 

俺たちのやり取りに透流が加わり、彼は楽しそうに話す月見先生と吉備津に目を向けながらに言った。

 

「月見とのグループ分けが重要になりそうだな……」

 

『同感』

 

その一言に皆が声を揃えて肯定する。

 

「まあ、それを考えるのはまた今度遊びに行った時ですね」

 

「ヤー、またいつかーーー」

 

「そうね。そうしましょ」

 

ユリエと、くすりと笑ったリーリスが同意し、次いで橘とみやびも頷いた。

 

「また今度ーーーか」

 

その時はきっと今日よりも、もっと楽しく過ごせるだろう。

そしてーーー

 

「マリィ……黄昏の女神か……」

 

あの慈愛に満ちた笑顔を浮かべる少女ーーー彼女の事はまた今度朔夜にでも聞こう。

そんな予感と思いを抱きつつ、俺たちは学園への帰路へとついたーーー

 




どうでしょうか?ちなみに作者の地域では、グーパーではなくグーチーです。

影月「どうでもいいぞ、そんなもの……」

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