アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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今話で新たな世界の人物が登場します!



第四十四話

side 影月

 

 

「兄さん兄さん!見てください!!取れましたよ!!」

 

「……よかったな」

 

俺は優月が嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめている姿を見て、特に感慨のない返事を返す。

 

「……む〜、兄さんももう少し楽しんでもいいんじゃないですか?そんなつまらなさそうな顔をされても困ります」

 

「そうは言ってもなぁ……」

 

「おい影月!こっち来いよ!格ゲーしようぜ!」

 

すると突然、俺を呼ぶ声が聞こえる。俺はそれに呆れながら答えた。

 

「司狼、お前も情報収集しに来たんじゃないのかよ」

 

「それはそうだがよ、せっかくゲーセンに来たんだから一つくらい遊んでいかないともったいねぇだろ?」

 

そう、現在俺たちは皐月市の三番街付近に位置するゲームセンターに司狼と共にいた。

なぜここにいるのかーーーそれは以前、朔夜から命令された任務の為だ。

 

 

 

『皐月市に出回っている闇ーーー《禍稟檎(アップル)》について、情報収集をしてきなさい。それが貴方たちの当面の任務ですわ』

 

 

 

そう言われたのが、つい一ヶ月程前だ。それ以来、俺たち三人は訓練や朔夜の手伝いが無い時に、こうして皐月市へと来ている。

 

 

 

 

ここで少し、この一ヶ月の間に起こった事や大きく変わった事を二つ程説明しよう。

まず一つ目だが、少し前から学園の授業で射撃訓練というものが始まった。

焔牙(ブレイズ)》があるのに……とは思うものの、卒業後に所属する事となる《護陵衛士(エトナルク)》の任務は多種多様に(わた)る。その為様々な状況を想定して、射撃訓練も行っていくらしい。

ちなみにその射撃訓練、クラスメイトたちの中で誰が一番上手いのかと言うとーーー

 

「よし!完璧だぜ!」

 

俺たちから少し離れた所にあるガンシューティングゲームで少し嬉しそうに言う安心院。

スキルによって銃の扱いが長けている彼女と《(ライフル)》が《焔牙(ブレイズ)》のリーリスの二人の命中率がほぼ100%で一番、次いで俺と優月とトラが85%程、そして少し下がって橘が75%程度と続く。

他のクラスメイトたちは皆、35〜45%くらいの命中率で透流、ユリエ、みやび、タツなどもその中に入っている。

さらに最近、《(レベル4)》の人たち(透流、ユリエ、俺、優月、そして紆余曲折あって認められた安心院)を的にして射撃を行うという訓練まで始まった。

月見先生曰く、『動く的を狙った方が技術も上がるしね♡』との事だ。それに透流や俺たちにとっては回避や防御の練習となるので、あながち悪くない訓練だ。

 

……最も、銃弾の軌道を予測して避ける俺。

とても当てられないような速さで動き回る優月。

そして上の俺と優月の行動を併せ持ち、余裕で回避する安心院は今まで誰にも銃弾を当てられた事は無い。

ちなみに透流とユリエは必ず、一回は命中してしまい、二人とも悔しがっていた。

 

「ってか、もうゲームは最近腐る程してるんだよ……」

 

「ああ、そういやお前、あの嬢ちゃん(朔夜)の新しい研究の手伝いをしてるんだって?なんか聞くところによると、ゲームと大差ねぇ事をほぼ毎日やらされてるって」

 

「ゲームって……まあ、VR訓練もそういうものと少し似てるから、あながち間違ってるとも言い切れないな」

 

そして二つ目、それは最近朔夜が研究していた「VRシート」なるものが完成間近であり、俺や優月や安心院はその手伝いをしている事だ。

実際には手伝いと言っても、ただVR空間内でVR訓練をこなすだけの手伝いだが……朔夜曰く、これが一番肝心な事とか。

まあこれに至ってはまた別な機会に話す事としてーーー

 

「……はぁ、とりあえず一回だけだぞ。これが終わったら情報収集な?」

 

「分かってるって。負けて悔しがんなよ?」

 

俺は司狼とそんな事を話しながら、格ゲーのゲーム台へと向かった。

 

 

ん?結果?僅差で俺の勝ちだったよ。いや〜、司狼は中々上手かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、惜しかったなぁ!あれは技の選択ミスったわ」

 

「残念だったな、司狼。……さて、本来の目的を果たすぞ?」

 

「へいへい、お前変なとこで真面目なのは蓮と似てんだな」

 

「ほっとけ。まずは優月たちと合流するぞーーーって話をしたら、向こうから来たか」

 

優月たちと合流しようと司狼に提案しようとしたが、向こうの方から優月と安心院が小走りで駆けてくる。

 

「兄さん、終わったんですか?」

 

「ああ、それじゃあそろそろ情報収集と行きたいんだが……司狼、どこへ行く?」

 

「んあ?どこって特に決めてねぇよ。この辺りでウロウロしてれば何か起こるんじゃね?」

 

「「「はぁ?」」」

 

そんな司狼の言葉に俺たちは呆れたような声を出してしまった。何言ってるんだこいつは……。

 

「んな顔すんなって、俺だって別に理由無しで言ってるわけじゃねぇからよ」

 

すると司狼は理由を話始めた。

司狼の話を纏めると、まず最初にこの皐月市には、司狼たちのグループを含めて五つの派閥があるらしい。

司狼率いる底なし穴(ボトムレススピット)

特にルールに縛られる事無く自由に遊んでいるベラドンナ。

ベラドンナと不仲にある少人数のグループ、《沈黙の夜(サイレス)》。

昔から皐月で幅を利かせる不良の多い高校、皐月工業高校。通称皐月工(ツキコー)

皐月工(ツキコー)と昔から対立関係にある高校で、校内でもさらに少数の派閥に分かれているという、流河(ながれかわ)高校。通称、流河高(リューコー)

加えて、四つの派閥のいずれにも属さない個人や小さなグループが相当数。

 

そんな五つの派閥の奴らや、無所属の奴らはこのゲームセンターを中心に一番多く集まっているらしい。

確かにそれだけ様々な派閥や、多くの人たちがこの辺りにいるというのなら、どこかの派閥の拠点近くに行くよりも、ここでウロウロしてた方が色々効率がいいだろう。

さらに司狼たちがこの前、俺たちに譲ってくれた《禍稟檎(アップル)》は、この近くのコインパーキングで売買されていたものだそうだ。

この辺りではそういうドラッグの売買が多いらしい。

 

「確かにそういう話なら……この辺でウロウロしていた方がいいですね」

 

「だろ?つーわけだから様子見がてら、今から近くにあるマク○ナルドでハンバーガーでも食べに行こうぜ」

 

「……分かった」

 

説明を終えて、近くで軽くファストフードでも食べようと言う司狼に俺たちは苦笑いして歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三十分程経ち、俺たちはマク○ナルドから出た。

 

「兄さん、ご馳走様でした!」

 

「影月君、奢ってくれてありがとうね〜」

 

「俺まで奢ってもらって悪いな、影月」

 

「お前は元から払う気無かっただろ……」

 

司狼が食べに行こうと言った時から嫌な予感はしていたが、やはり司狼は俺に奢ってもらう腹だったみたいだ。

まあ、俺はあまりクレジットカード(学生証)や現金を使わないので、別にこの人数を奢ってやる事くらい何の問題も無いのだが。

 

「まあ、実際そうなんだけどよ。それよりもこれからどうするよ?」

 

「…………司狼、お前たちが例のドラッグを押さえたっていうコインパーキングってこの近くか?」

 

「ああ、すぐそこだぜ。……そういえばお前たちは場所知らないんだっけ。案内してやろうか?」

 

「頼む。一応見ておきたいからな」

 

「了ー解」

 

気の抜ける返事を返した司狼は、欠伸をしながら歩き出す。

そんな様に俺たちは呆れて苦笑いしながらついていこうとしてーーー

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

俺がある人を見つけて足を止めた。するとそんな俺の反応が気になったのか、全員足を止める。

 

「影月、どうした?」

 

「いや……なんだ、あれ?」

 

俺が指を指した方向には何かヘンなのが……いや、何やら高身長の外国人らしき人がいた。

 

「……あいつは……」

 

「……あれは神父さんですかね?」

 

司狼が何やら複雑そうな表情を浮かべる中、優月はその人の格好を見て答える。

俺たちは《超えし者(イクシード)》なので視力も常人よりかなりいい。そんな俺たちからすれば、その人物の格好は遠目からもよく見える。

その人物が纏っているのは僧衣(カソック)にロザリオ……確かに典型的な神父の格好だろう。

その神父と思われる人物は何やらキョロキョロと視線を移しながら、道行く人たちに声をかけていく。だがそんな怪しさ満点の人物の事など誰も相手にしない。

それでもその神父はめげずにまた別な人へと話しかける。だが次に話しかけた人物は、明らかにこの辺りの不良(おそらく皐月工(ツキコー))と思われる人だった。

 

「なんだ、テメー、何話しかけてきてんだよ。ドッゴーン」

 

「ああ、すみません、ただ私は貴方に道を聞きたいだけで……ってグハー」

 

「テメー、そんな動きにくそうな時代遅れの格好しやがって、何者なんだよ。言えコノヤロー」

 

「ドゴ、バキ、バゴッ、ガッシャーン」

 

『………………』

 

「みたいな感じだね……」

 

「そうですね……」

 

遠目で見ても、そんなやり取りが容易に想像出来る(ちなみに上のやりとりを言った順番は、俺、優月、司狼、安心院の順)。

あ、起き上がって今度は別の不良(おそらく流河高(リューコー))に聞きに行った。

そして先ほどと似たようなやり取りを繰り広げーーーまた吹き飛ばされた。

 

「うわ……今のは痛そうでしたね……」

 

「あれ、大丈夫か?電柱に体を思いっきりぶつけてたが……って何事も無かったかのように立ち上がったぞ!?」

 

「タフだね……」

 

そんな様子の神父に皆気持ち悪くなったのか、遠巻きに見ていた人たちもそそくさと去っていく。

そして気付けば、ただ一人ポツンと立っている神父。

 

「……はぁ……あの人は……」

 

「お、おい司狼?」

 

そんな神父に見兼ねたのか、司狼が近付いていく。そんな司狼に俺たちもついていく。

一方の神父も近付いていく司狼に気付いたようでこちらに近付いてくる。

そして目の前までやってきた金髪の神父と向き合ってーーー俺たちは驚く。

 

「ーーーお、お前は……!?」

 

「ヴァレリア・トリファ!?」

 

そう、その神父は以前見た資料と全く同じ姿のーーー聖槍十三騎士団黒円卓首領代行、ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリーン、その人だった。

それが分かると俺と優月と安心院は一斉に警戒を向けるもーーー司狼が俺たちの前に出た。

 

「待て、そんなピリピリすんなよ。この人は俺たちの味方だ。なあ、神父さんよ」

 

「……ええ。なのでそんなに殺気立てないでくれませんかね。別に貴方たちに危害を加えるつもりはありませんから」

 

するとトリファは苦笑いしながら、そう答えた。

 

「……司狼さん、そう言う根拠は?」

 

「この人は蓮に頼まれて世界中を飛び回っていたのさ。まあ内容は色々あるから言えねぇけどな」

 

「そういう事です。いや〜、それにしても参りました。まさかこちらに戻ってきていきなり殴られるとは……」

 

「……見るからに不良って人に話しかけるからじゃないか?」

 

「おや?不良は見た目によらず、優しいのではないですか?」

 

『……は?』

 

キョトンとした顔でそう言い切るトリファ。

それに俺たちは驚きの声を上げ、なぜそんな結論になるのか分からないと首を傾げる。

が、突然司狼が何か思い至ったかのように目を見開いて、すぐに半眼になる。

 

「……まさか、俺や蓮がそうだったからか?」

 

「ええ、それが何か?」

 

さも当たり前のように返したトリファに対して、司狼は呆れたようにため息をつく。

 

「あのなぁ……俺や蓮が不良っぽいって言うのは、まあ百歩譲っていいとしてもだ。不良が全員、俺や蓮のように優しいとは限らないだろ」

 

「……そうなのですか?」

 

司狼の言葉を確認するかのようにこちらに問いかけてきたトリファに俺たちは頷く。

 

「むしろ二人のように優しい不良っていうのは少ないと思うぞ……」

 

「……そうですか」

 

「つーか影月、今普通に俺と蓮の事を不良って認めたな?認めやがったな!?」

 

「いいだろ別に、俺は不良じゃないし」

 

「おい、待て待て。お前は蓮と同じ顔をしてるんだぜ?だったら当然お前も不良に見える筈だろ?なあ、神父さん」

 

「……申し訳ありませんが、私から見たら彼は不良には見えませんね」

 

「なっ……!?」

 

トリファの言葉に衝撃を受けたのか、驚く司狼。しかしそんな司狼を気にせずにトリファは続ける。

 

「彼は顔こそ藤井さんに似ていますが、全体的に雰囲気が違います。何と言うか……藤井さんよりも優しくて、優等生という感じがしますね」

 

「いや、言われる程優等生ってわけでも……」

 

俺がそう否定しようとするとーーー

 

「そうですよね!兄さんは勉強もスポーツも私より出来て、何よりトリファさんが言った通りとても優しいんですよ!」

 

「ちょ、優月ちゃん!?」

 

「ああ、やはりそうでしたか!」

 

珍しく優月が目を輝かせて俺の自慢話をトリファに話し始めた。

それを聞いて、興味深そうに話を聞くトリファ。そしてそれを見て呆然とする俺と司狼。

そして優月の突然の変わりように驚き、オロオロする安心院ーーー

 

「なんだこの絵図……」

 

俺はそんな光景に一言そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……着いたぞ。ここだ」

 

そんな事を五分程続けて優月が落ち着いた後、神父さんも何やらついていきたい言う事でメンバーに加え、俺たちが傷心の司狼に案内されて辿り着いたのはーーー車が十台くらい止まれる比較的小さなコインパーキングだった。

現在は数台の車が止まっているコインパーキングの中へ司狼は入っていき、ある場所で指を指して立ち止まった。

 

「俺たちが見つけた時、例のドラッグはあの隅っこの方で売買されてたよ。数人で固まってな」

 

「ほう……」

 

「司狼さん、このコインパーキングではよくドラッグの売買はされているんですか?」

 

「頻繁って訳でもねーけど、たまに見かけるぜ。うちのクラブにいる奴らも、ここから買ったって奴は多いみてーだし」

 

それを聞いて、俺はコインパーキング内を見渡す。

 

「今は特に怪しい事をしている奴はいないみたいだな……」

 

「まあ、それはそれでいい事なんだけどね。司狼君、この辺りで他に売買されている場所はあるのかい?」

 

「この辺りでよくやってるのは、ここ除いたら三箇所くらいだな。そこらも見ていくかい?」

 

「お願いします!」

 

俺たちはコインパーキングを後にし、次のドラッグの売買場所へと移動を始めたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、司狼に案内されて他の三箇所も回ってみたものの特に気になる事や真新しい発見は無かった。

 

「結局何も無かったねぇ……成果はよく売買が行われている場所が分かったって事くらいだし……」

 

「まあ、そんな四六時中ドラッグの売り買いしてるわけじゃねぇからな。こればっかりはどうしようもない」

 

「いいではないですか。そのような違法な行為が行われていなかったのなら、それは素直に喜ぶべきです」

 

「まあ、それはそうなんだが……とりあえず、一旦クラブに戻って戒さんたちの報告でも待とうか……」

 

「はい……」

 

その結果に若干肩を落としつつ、俺たちは来た道を戻ろうとする。

 

 

だがーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃーーーーーーーー!!!」

 

 

突然響いた甲高い悲鳴に俺たちは一斉に振り返る。

 

「なんでしょう?今の悲鳴は……?」

 

「あっちの方からだ!」

 

司狼が指した方向へ俺たちは駆け出した。

同じく悲鳴を聞いた人たちが立ち止まって視線を悲鳴が聞こえた方へ向ける中、俺たちはそんな人たちを掻き分けながら進む。

そうして五十メートル程進んだ所で、野次馬が多く集まっている場所を見つけた。

 

「ぁ……に、兄さん……あれは……」

 

そこに広がっていた光景に、優月が悲痛な声を上げる。

それも無理は無い。顔を真っ青にさせている野次馬たちが囲む中心には、腹部や左胸からおびただしい量の血を流して仰向けに倒れている少女と、ナイフを片手に立っている男がいた。

男は息を荒くしながらも少女を見下ろして、少女の方はピクリとも動かない。

俺はその少女を見るも……体から流れ出す血の量や左胸ーーー心臓部分を刺されている事から、おそらくあの少女はもう助からないだろうと予想する。

だがーーーそんな少女の死を悲しむのは後回しにされた。

 

「ウ……ウオオオァァァァ!!」

 

ナイフを持って立っていた男が正気を失ったような叫び声を上げて、周りの野次馬へ飛び掛かったのだ。

それに今まで顔を青くして、呆然としていた野次馬たちが悲鳴を上げて一斉に逃げ始める。

 

「行くぞ!」

 

そう言った司狼は逃げ惑う野次馬たちを押しのけて進んでいき、俺たちもそれに続く。

そして俺たちはナイフを持った男の前へと立ちはだかり、俺は男に叫ぶ。

 

「やめろ!これ以上人を傷つけるんじゃない!!」

 

すでに一人の少女の尊い命が奪われてしまったが、もうこれ以上誰かを男に傷付けさせる訳にはいかない。

それに、あの男にもこれ以上重い罪を背負ってもらいたくない思いで俺は叫んだがーーー

 

「ウオォォォォォォォォ!!」

 

そんな言葉など聞こえていないかのように、ナイフを持った男は焦点が合っていない目で、俺たちの方へと襲いかかってきた。

 

「おいおい、なんなんだあいつ。ドラッグのやり過ぎか?」

 

「多分そうだろうなーーー優月!安心院!他の人たちがここに来ないように見張ってろ!」

 

「神父さんも見張っといてくれよ。ついでに警察と学園にも連絡入れて、念の為に救急車も呼んどけ。こいつの相手は俺らがするからよ!」

 

「分かりました」

「分かりました!!」

「分かったぜ!!」

 

司狼と共にそう指示すると、三人は即座に行動に移した。それぞれ分かれて移動し、男と野次馬たちの間に立ち、優月と安心院は男に警戒を向けながら携帯に連絡をし始め、神父さんはそんな二人や通行人を見張って、何かあったらすぐに行動出来るように体制を整えた。

 

 

そして男がその手に持ったナイフを俺へと突き出してくる。

そのナイフを持った腕を俺は右手で払い除けて、男が突っ込んできた速さを利用して投げ飛ばす。

 

「ふっ……!」

 

「ガアァァ!!」

 

地面へと叩きつけられた男の手からナイフがこぼれ落ち、司狼がその落ちたナイフを素早く男の手に渡らないように拾い上げた。

俺はそのまま男の首を押さえつけて、男を気絶させる。

 

「ふぅ……とりあえず終わったか」

 

「ああ、まあ俺は何もしちゃいないけどな。それよりもーーー」

 

司狼はある方向を見て表情を曇らせる。

その視線の先には無残にも切り裂かれた少女の遺体。俺と司狼はその少女の元へと歩み寄る。

 

「…………かなり(むご)いな……」

 

「心臓を一刺し……こりゃあ即死だわ」

 

司狼と俺は揃ってやるせない思いになる。

 

「もう少し早く来れれば、もしかしたら助けられたかもしれねぇな……」

 

「ああ……」

 

もしこの少女が刺されようとしていた場所が、もう少し俺たちと近かったら止められたかもしれない。

せめて刺されても、もう少し早くここに来れたのなら、少女は軽傷で済んだかもしれない。

そんな事を考えながら少女の顔を見る。

 

「ーーーーーーーーー」

 

整った顔立ち、腰まで伸ばした金髪のツインテール、血に汚れてしまっているが綺麗なゴシックドレスを着ている姿は、どことなく朔夜に似ているような気がする。

身長も年齢もおそらく、朔夜より少し上くらいだろうかーーーなどと思っていると、背後から声を掛けられる。

 

「……兄さん、指示された場所に連絡しました。警察と救急車は約五分くらいで到着、学園は機関の者を送る、との事です」

 

「お二人とも、お疲れ様です。……この子は安らかに眠っていますね」

 

「影月君、司狼君、無力化お疲れ様。…………この子……綺麗だね。顔だけ見れば、今にも起き上がってきそう……」

 

「ああ……せめてこういう安らかな表情(かお)をしているのが救いだな……」

 

 

 

 

そう、俺が言った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…………」

 

 

 

 

ふと、俺や司狼や、優月や安心院、神父でもない小さな第三者の声が聞こえたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えっ……?』

 

 

そんな小さな声に俺たちは誰が発した声だろうかと思い、周囲を見回すもーーー野次馬たちは遠くで俺たちを見ている。故に先ほどの小さな声を発したのはーーー

 

「……んっ、うあぁぁ……」

 

目の前で血濡れとなっている少女しかいないという事になる。

少女は突然呻き声を上げながら、身を(よじ)り始める。

 

『ーーーーーー』

 

その様に俺たちは全員言葉を失い、その少女に視線を向ける。

 

「うあぁぁ……うっ、あああ……」

 

少女の身を捩る動きは段々と大きくなっていく。それと共に俺たちは普通ならあり得ない現象を目の当たりにする。

 

「……ほう……」

 

「ーーーき、傷が……」

 

優月の言う通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

さらに少女の血と思われる赤い液体も、少女の体の中へと戻っていく。

まさに逆再生の如くーーー

 

「あっ……うあっ……うぁぁぁぁぁ!」

 

そして彼女が一層苦しげに叫ぶと同時に、少女の傷口は完全に塞がりーーー少女の服とアスファルトの地面に広がっていた血が綺麗さっぱり消え去った。まるで始めからそこで何も無かったかのようにーーー

 

「ーーーーーーーーー」

 

そしてそのまま少女は先ほどの悲痛な叫びなど無かったかのように静かに、規則正しく胸を上下させて眠り始めた。

 

『……………………』

 

その一部始終を見た俺たちは、無言のまま顔を合わせるのだったーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーで、そんな彼女を放置するわけにもいかないからここに連れてきたと?」

 

エリーがソファで寝かされている肌にも()()()傷一つ無い少女を見て、呆れながらそう確認すると俺と優月が頷く。

 

「仕方ないだろ!?あのまま放置したら警察とか来て、色々面倒な事になるし……」

 

「それにあの傷の治り方……明らかに彼女は普通の人じゃないですよ!」

 

「そ、そうだね……」

 

俺たちの迫力に、軽く身を引いているエリーは司狼を見て問い掛ける。

 

「…………司狼、あんたはどう思うの?」

 

「……まあ、色々言いたい事はあるが、まずあの場で放置って選択肢は無いわな」

 

「どうして?」

 

司狼が続ける。

 

「まずサツ相手ならあんな摩訶不思議な現象を説明してもまともに取り合ってもらえるわけがねぇ。まあ、それならそれで色々と誤魔化せばいいんだけどよ。機関の方相手ならそうはいかねぇだろ」

 

「そうだね……もしさっきの事を話したら、この子は研究されるだろうね……何度も何度も殺して、なぜ生き返るのかとか言ってさ」

 

「そんなの見るのも聞くのもごめんだろ。研究の為とか言って何回も殺すんだぜ?いくらこの子が普通の子とは違うと言っても、そんなの嫌過ぎんだろ」

 

司狼と安心院がそう吐き捨てる。

確かにいくらドーン機関がこちらの味方とはいえ、そのような事をしないとも言い切れない。つまりーーー

 

「とりあえずこの子をここに連れてきたのは正解だったって事でいいんだよな……?」

 

「そうですよ。あのまま何もしないでいるのは色々とまずかったですからね。……これからどうするのかは考えなければいけませんけど……」

 

「そうは言いましてもね……優月さんは一体どうするつもりなのですか?」

 

神父さんに聞かれると優月は「う〜ん……」と唸りながら考え始めた。そんな優月を横目に俺も考える。

 

 

これからこの少女をどうするのか……。

 

一番いいのは、この少女と親しい者ーーー家族か友人に保護してもらう事だ。だが、あの時の事を思い返してみても周りにはこの子と知り合いだというような人はいなかった。

となるとそのような親しい人たちを探さなければならないのだが……それはそれで時間がかかる。

それに親しい人を探す為に現場に戻ってしまうと警察や機関の人たちと会ってしまい、さっき話したように面倒な事になる可能性もあるのであまり理想的な考えではない。

 

次にしばらくこのクラブで保護するという方法もあるがーーーこのクラブを含めて、この辺はドラッグが普通に取り扱われるような無法地帯。そしてドラッグ絡みで先ほどのような危険な事件が起きる可能性も高い。そのような危険性を考慮したならば、この選択肢もまた取りにくい。

 

次に思い浮かんだのはしばらく学園で保護するという選択肢だがーーーこれも色々と問題が思い浮かぶ。

メリットとしては、前述の二つに比べれば学園は一番安全に保護出来るだろう。

だが保護してもらうなら学園の最高責任者の朔夜と話し合いをしなければいけないし、何よりも昊陵学園はドーン機関の傘下だ。そう考えるとこれもまた難しい。

 

 

そんな事を考えながら、ふと周りを見てみると安心院はこめかみに手を当てて、神父さんと司狼は目を閉じて腕を組み、エリーは眠っている少女を見て、俺たちと同じようにこれからどうするのか考えているようだった。

 

皆が同じ事を考えーーー誰も言葉を発さない時間が数分程続いたがーーー

 

 

 

 

「うっ…………」

 

そんな時間は今まで眠っていた少女が、小さな声を上げた事で終わりを告げる。

 

「おっ、起きたか?」

 

司狼の声を聞いて、俺は少女の顔を見る。

少女は少し苦しそうに顔を歪めた後に、ゆっくりと目蓋を開いた。

 

「ここは……?」

 

「……とあるクラブだ。気分はどうだ?」

 

「っ!?」

 

俺が話しかけると少女は、ビクッと身を震わせて顔をこちらに向けた。

その表情や瞳には不安や恐怖と言った感情が(うかが)える。

 

「落ち着け。別に襲ったりはしない」

 

「……あんたたちは?」

 

その少女の質問に俺は答える。

 

「俺は如月影月。何の変哲もないただの学生だよ」

 

俺は少女をあまり怖がらせないように優しく笑いかけながら自己紹介する。

すると後ろで様子を見ていた優月たちが自己紹介を始めた。

 

「初めまして。私は影月ーーー兄さんの妹で如月優月って言います。そしてこっちにいるのがーーー」

 

そんな感じで、後の安心院、司狼、エリー、神父の軽い自己紹介が続いた。

そんな皆が自己紹介をしている最中、俺は警戒しながらも、真面目に自己紹介を聞いている少女を見ながら、ある事を思っていた。

 

(……髪の色とゴシックドレスは違うけど……朔夜にそっくりだな……)

 

先ほどここに連れて来る前にも思ったが、改めて見てみると本当に似ていると俺は実感していた。

さらに今、この少女と目が合った事で分かったが……目の色もまで朔夜と似ている。

朔夜は水晶のように透き通った紫色の瞳をしているのだが、この子は同じく水晶のように透き通った赤紫色の瞳をしている。

そしてーーー彼女の瞳の奥には一週間前、あの夜の朔夜と同じような不安と恐怖が揺らいでいた。

 

(……彼女も色々と事情があるみたいだな……)

 

「では、今度は貴女の名前を聞かせてもらえるでしょうか?」

 

そんな事を考えていると、どうやらこちらの自己紹介は全員終わったようで、神父が少女に向かってそう言った。

少女は少し躊躇いを見せた後に、小さく口を開いた。

 

「…………美亜(みあ)

 

「……美亜さんですね。体調はどうですか?」

 

「……あまりよくないかな」

 

優月の言葉に未だ警戒を解かないまでも、しっかりと返事を返す美亜と名乗った少女。

そんな様子を見つつ、今度は俺から質問する。

 

「なあ、早速で悪いけどいくつか聞いていいか」

 

俺の発言に美亜は、警戒しながらも頷いた。

それを確認した俺は先ほどの事について聞き始めた。

 

「まず、君が気を失う前に何をしていたか覚えているか?」

 

「……この街を歩いていたら、知らない男の人に絡まれたって所までかな」

 

そう美亜は答えるが、何処と無く歯切れが悪い。おそらく刺されて治癒した所は見られていないと思い、そこを避けて言ったのだろう。

俺はそこには突っ込まずに、別の質問を投げる。

 

「なんでこの街に?」

 

「気が付いたらここにいたの。数十日前くらいからね」

 

「一人で?」

 

「そう。一人で」

 

「家族は?」

 

「……昔、ある出来事で私以外、皆……」

 

「…………そうか、すまない」

 

その言葉に俺はなんとも言えなくなる。

その質問のせいか、美亜の纏う雰囲気は少し暗くなってしまった。俺はそんな彼女の雰囲気を少しでも明るくしようと次の質問を投げ掛けようとするがーーー

 

 

 

 

 

「ばあ!」

 

『っ!!!』

 

突然、美亜の足元の影から現れたピンク髪の幼い少女の声と姿に俺たちは驚く。

しかし、一番驚いたのは自分の目の前に突然出てこられた美亜のようでーーー

 

「な、何!?」

 

彼女はソファの上に足を上げる程身を引きながら、涙を浮かべていた。

その様を見ながら、司狼はため息をはいて、突然出てきた幼い少女をジト目を向けた。

 

「おいルサルカ、影に隠れて黙って聞いてた事は何も言わねぇけどよ。いきなり出てきてこの子を驚かすのはどうなんだよ?」

 

「あら?なんか暗い感じになったから、雰囲気変えようと思ってやったんだけど……ダメだった?」

 

「ダメですよ!見てください、美亜さんがもっと怯えてしまったじゃないですか!」

 

ルサルカは首を傾げてそう聞くが、優月がルサルカに対して少し怒りながら美亜の元へと近付いた。

 

「大丈夫ですか?落ち着いてください……」

 

「というか、マレウスはなぜここにいるんですか?」

 

「別に〜。特に深い意味はないけど、強いて言うなら、なんか面白そうな子がいるから来ただけよ。しかもそれを言うならクリストフもでしょ?」

 

「……まあ、それは否定しませんがね」

 

「…………それよりこの子の何が面白いんだ?」

 

俺の発言にルサルカはニヤッと笑って告げる。

 

「その子ーーーどんな事をされても死なないっていう拷問系の魔術が掛けられてるわ。それもかなり強いーーーね」

 

「っ!」

 

小さく美亜が反応したように見えたが、それよりも俺はルサルカの発言が気になった。

 

「どんな事をされても死なない?」

 

「ええ、例え首を絞められようとも、高い所から落下しても、さっきみたいにナイフで突き刺されようともーーーおそらく木っ端微塵になってもすぐに再生すると思うわ」

 

「……………………」

 

「……そうなのか?」

 

ルサルカがそう話している最中、ずっと俯いて黙っている美亜にそう問いかけるとーーー彼女は静かに頷いた。

 

「多分本当ね……。まあ木っ端微塵はどうなのか私自身あまりよく分からないけど……。今までの事を考えたら……」

 

「今まで……?」

 

「…………ちょっといいか?」

 

気になった俺は美亜に断りを入れて、彼女の過去を見てみる事にした。

彼女の頭に触れた瞬間ーーー俺の頭の中には彼女の様々な記憶が入り込んできた。

 

 

まず俺が最初に見たのはーーー彼女の両親だと思われる二人の男性と女性、そして美亜より数歳程年上の姉だろうか?そんな人たちと楽しそうに美亜が笑っている記憶だった。

 

そして次に見たのはーーー平和な日々を過ごす彼女たちの世界に突如として現れた、謎の人物に対する記憶。

その者は自分の事を別の次元からやって来た“上位種族”と名乗り、美亜以外の家族ーーー両親と姉を惨殺した。

さらにその者と同じ、上位種族と名乗る者たちがその時を境に世界中に現れて、その圧倒的な能力を持って人々を蹂躙し始めた。

 

(……上位種族……そんな人たちは見た事も聞いた事も無いな……)

 

俺がそんな事を思っている間も、彼女の記憶は思い起こされていく。

次はそんな世界中に現れた上位種族たちから一人逃げ延びていた美亜が、たまたま人間を襲っていた上位種族の男を発見。

彼女はその男に対して激情を向け、彼を逃げる途中で拾ったナイフで刺すという愚行とも言える行動に出た。

当然そんな事で彼は死なず、返り討ちにあった美亜はそこで意識が途絶えた。

次に彼女が目を覚ましたのは、その男のねぐらである館の中でーーーその時から彼女にとっての地獄が始まった。

そこから次々と彼女の記憶が思い起こされていく。そんな記憶のほとんどはーーー

 

「ーーーくっ……」

 

見るに堪えない拷問の記憶ばかりだった。

例の男にナイフで様々な箇所をめった刺しにされる記憶。

銃で足などあらゆる所を撃ち抜かれる記憶。

拷問具で視線が覆われ、周りの状況が全く分からないまま手足や頭が粉砕される記憶。

彼女がいた館に張られた罠なのだろうかーーーその罠により、全身焼かれるような痛みを感じて絶命する記憶。

さらにはそんな地獄の中で出会った人たちと共に無残に惨殺された記憶。

しかし自分はそんな酷い目に何度あっても生き返り、再び肉体的にも精神的にも痛めつけられるという記憶。

そんな酷く残酷な拷問の記憶や、彼女の内に渦巻いた気持ちをーーー俺は刹那の間に見ていた。

 

 

 

「兄さん?大丈夫ですか?」

 

「影月君、大丈夫?」

 

「影月さん、大丈夫ですか?」

 

美亜の記憶を見終えた俺は、美亜の頭から手を離して俺を心配してくる優月と安心院、そして神父を見る。

 

「ああ……大丈夫だ。ーーーなあ、優月、安心院」

 

「はい?」

 

「どうしたんだい?」

 

俺の言葉に優月と安心院は首を傾げる。その様子を見て、俺は先ほど見た彼女の記憶を思い返しながら告げた。

 

「この子ーーー学園に連れて行かないか?」

 

「えっ……?」

 

「……どうしてですか?」

 

「………………」

 

ソファに座る少女の戸惑うような声と、優月の疑問を問う声、そして黙って俺を見つめる安心院を見て、俺は苦笑いしながら答える。

 

「だってほっとけないだろ?この子はいきなり訳も分からずこの街に来たって言ってるし……。この子には今頼れる人が一人もいない。そんな中でさっきみたいな事がまた起きたらどうなるかーーーそんな事を考えたら、黙って見て見ぬ振りをするわけにはいかないじゃないか」

 

「それはそうですけど……」

 

「……それにこれは個人的意見だけど、彼女は朔夜に似てるから放っておけないしな」

 

「似てるって?見た目かい?」

 

そう聞く安心院に、俺は少し考えて言った。

 

「それも少しはあるんだが……この子の過去に対する考え方も朔夜に似ているんだよ。他人に知られたくない、知られてはならない、教えたくない……ってな」

 

「あの……」

 

そこへ今までソファに座っていた美亜が恐る恐る俺へ声を掛けてきた。

 

「さっきから言ってるけど……私の過去を見たってどういう事?」

 

「ああ……俺の能力には確率視則と確率操作ってものがあってな?その確率視則の使い方を少し変えれば、人の過去が見れるんだよ。まあ君が刺されて復活した所も見たからな、なんでそんな事が起こるのか?とか色々気になったから君の過去を覗き見させてもらったーーーごめんな?」

 

「…………見たんだ」

 

俺は自らの能力を明かして、勝手に彼女の過去を見てしまった事を謝ると、美亜はそう言った。

俺はそれに頷く。

 

「見た。君の過去はかなり辛いものだったね……。それに、その復活する力を得た経緯も分かったしな」

 

「っ……」

 

それを聞いた美亜は息を呑んで、俺を睨みつけた。

俺はそんな彼女をなだめながら言う。

 

「落ち着いてくれ。別に死なないから何か酷い事をしようとかは思わない。それに死なないとかそれくらいの力なんて……俺たちは別に驚きはしないよ」

 

「えっ……?」

 

「そうですね。もっとすごい力を持った人たちがこの世界にはいますからね」

 

俺と優月の発言に美亜は目を丸くする。

まあ普通の人たちならあんな光景を見た途端、彼女を化け物呼ばわりして、忌み嫌うだろうがーーー同じくもはや化け物同然の能力を持った俺たちからしたら、彼女のどんな事をされても死なないで復活するって能力は別に珍しい事でもなかったりする。

 

「私たちからしたら美亜さんは珍しくないですよ。ここにいる皆さんは簡単に死なないでしょうし……」

 

「僕は不死のスキルとかあるし」

 

「俺たちもちょっとやそっとじゃ死なねぇし」

 

安心院や司狼の言葉に美亜は呆然とする。

 

「そういう事ですから……少なくともここにいる皆さんは誰も美亜さんを忌み嫌ったりしません。それどころか今は貴女を助けたいって思ってますよ」

 

「ああ……だから安心してくれ」

 

そう言って俺は美亜の頭を撫でた。

 

「あっ……」

 

「今まで色々酷い目にあって辛かっただろう?今まで頼れる人がいなくて寂しかっただろう?」

 

「でも大丈夫です。これからは私たちに頼ってください。貴女は一人じゃないんですから!」

 

「っ……っ……!」

 

俺と優月の言葉を聞いて美亜は堪えきれなくなったのか、近くにいた優月の胸に顔をうずめて泣き出した。

優月はそれを優しい眼差しで見つめて、抱きしめた。

 

「ふふ……今はいっぱい泣いていいですよ。辛かったでしょう?」

 

「……うん……っ、ひぐっ……」

 

そんなまるで姉妹のようなやり取りに俺たち全員の顔に笑みが浮かぶーーーだがそんな空気はすぐに壊れ去ってしまった。

 

 

 

 

 

『〜〜〜〜〜♪』

 

「……ん?」

 

突然、俺の持っていた携帯が鳴り響いた為だ。こんな平和な時に一体誰からだろうと見てみるとーーー

 

 

【朔夜】

 

 

と表示されていた。滅多に電話してこない(というより学園内ではよく会う為、携帯なんて使わない)人物からの電話に驚きつつも、俺はそれに出る。

 

「はい?」

 

『もしもし影月?今どこにいますの?』

 

「今?司狼のクラブだ。どうかしたか?何か緊急の用事か?」

 

俺の言葉に部屋の中にいる全員の視線が俺に向けられた。

一方、電話越しの朔夜の声は先ほどから硬い。それから察するに、向こうでは何か問題が起きたらしい。

 

『……ええ、緊急ですわ。今日、九重透流とユリエ=シグトゥーナ、そして虎崎葵が三人で出掛けたのは影月も知っていますわよね?』

 

「ああ。確かお盆に行けなかった墓参りに行くとか言ってたな。ーーー思えばお盆はとっくに終わってるから結構遅れて行ったなとは思ったが……それが?」

 

俺がそう問い返すと、朔夜は小さく息をついてーーー言った。

 

 

 

 

 

『先ほど、ドーン機関の関連病院から連絡がありまして……九重透流が重症で運び込まれた、との事ですわ……』

 

「なんだって……?」

 

朔夜から告げられた言葉に、俺は耳を疑った。

そしてーーー

 

「ーーー分かった。じゃあすぐに戻るーーー優月、安心院、そして美亜も学園に戻るぞ」

 

数分後、通話を終えた俺は優月たちにそう言った。

 

「えっ……?なぜですか?それに美亜さんもいきなり連れて行くなんて……」

 

「……朔夜ちゃんと何を話していたんだい?」

 

その二人の言葉に、俺は朔夜から説明された事を簡潔に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹の墓参りに行った透流が……道場跡地で榊に左腕を切断される大怪我を負ったらしい」

 




新たな世界の人物が登場!
「死に逝く君、館に芽吹く憎悪」の主人公、美亜です。分かる人いますかね……?
分からない人は検索してみてください。ただし注意事項として「死に逝く君、館に芽吹く憎悪」はR18指定、さらに内容もかなりえぐいです。調べる時は自己責任でよろしくお願いします。

美亜の口調などは何処と無く手探りなので上手く書けてるかどうかよく分かりませんが……何か意見があればよろしくお願いします。
彼女に関する細かい説明は次かそのまた次くらいの話でする予定です。

それとこの小説の序章を大幅に加筆・修正させていただきました。……何やら色々言葉が追加されているのは気にしないでください!

では、誤字脱字・感想意見等、ありましたらよろしくお願いします。
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