アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
妹紅「ちょっとその前に邪魔するぞ」
妹紅さん?いきなりどうしました?
妹紅「ちょっと読者に一言言いたい事があってね」
ほう?
妹紅「なんで私が出た(前話の)後、お気に入りが減ってるんだ?」
分かりません。ですから炎をこちらに向けながら睨まないでください……。それにそれは私ではなく読者様に聞かないと分かりませんよ?まあ、私は好きでこの小説をやっていますし、楽しめるかどうかは読む人次第なのであまりとやかく言いませんが……。
妹紅「……確かにお気に入り外すな!とかは言えないし言わないのは分かってる。お気に入りにするか、そして外すかどうかは読者次第だからね。でも……」
でも?
妹紅「私がこの小説に出た後、お気に入りが減ったのは……なんか私のせいみたいな感じだから軽くショックなんだけど……」
その気持ちは分からなくも無いですが……私は気にしませんよ?
妹紅「私の気持ち的には気にするよ……」
……とりあえずここでペラ回してても、話が進まないので本編を始めましょう。
妹紅「……そうだな。いきなり出てきて悪かったな?じゃあ、今回も楽しんでいってくれ」
side 影月
透流が病院に運び込まれてから六日が経った。
透流はこの数日間を、都内にあるドーン機関関連病院でお世話になっていた。だがそれも今日で終わりで、ようやく退院してくる。
俺たちはそんな透流と付き添っていたユリエを迎える為に、朔夜と共に病院の前で彼らが出てくるのを待っていた。
「六日間か……色々あったな」
「そうですね。美亜さんの事とか……」
ここで作者が何回も説明をするとか言ってた美亜について話しておこう。
まずあの日、あの後の出来事から振り返る事とする。
朔夜から連絡を受けた俺たちは、丁度その場に居合わせていたルサルカと共に学園の理事長室へと直接転移させてもらった。
そしてまず朔夜から聞いたのは透流の怪我の状況などの詳しい内容。
そしてそれらを聞き終わると、次に一緒に連れてきていた美亜の詳しい事情を朔夜とルサルカも聞く中、改めて説明と整理をした。
まず彼女の過去についてーーーこれは俺が美亜から見させてもらった記憶と、美亜本人の証言により詳しく話した。
彼女の過去の説明は前回俺が見た美亜の記憶と大差ない。
家族共々平和に暮らしていたが、突如別次元から飛来した上位種族なる者によって自分以外の家族が殺され、一人逃げ延びていた所を紆余曲折あって上位種族に捕まり、拷問を受けたという事。
そんな話をしていく中で、美亜が生き返る理由が判明した。
元々美亜が捕まっていた館のとある一室には拷問で負ったどんな酷い怪我でも(たとえ死んでても)治る、あるいは復活する魔術が掛けられた場所があったそうだ。
魔術に詳しいルサルカ曰く、その部屋の治癒系魔術が何らかの異常などを起こして、美亜の体や服に永久展開といった形で掛かったのではないかと言う事だった。
最後になぜこの世界に飛ばされてきたのかは結局分からなかったが……。
それらの話を詳しく聞いた優月と朔夜はそんな美亜の人生や境遇に共感しーーー朔夜は普通に学園に居ていいと許可を出すし、優月は美亜のお姉さんになる!とか言い出して色々と驚いたし、大変だった。
「それにしても、美亜ちゃんの過ごす部屋はどこにするかってあの時、話し合ったけど……」
「まさか朔夜自らが面倒を見るなんて言うとは思わなかったな……」
そして一番気になるであろう美亜の過ごす部屋についてだが……朔夜が自身の部屋ーーーつまり理事長室の隣で過ごせばいいと自ら名乗りを上げた。
つまり美亜はこの六日間、あの部屋の天蓋付きベッドで朔夜と一緒に寝ているという事になる。
「朔夜さん、なんであんな事を言ったんでしょうね?」
「さあな……。もしかしたら美亜に対して何か感じ取ったのかもしれないが……まあ、この辺りはあまり俺たちが踏み込む領域でもないだろ」
そう言って、少し離れた所にいる朔夜と美亜に目を向けると、二人とも楽しそうに笑いながら談笑している。
美亜が初めて学園に来た当初は色々と緊張していたようだが、ああして談笑している様子を見るに二人は随分と打ち解けたようだ。
髪の色やゴシックドレスの柄などは違うが、それ以外は結構似ているのでそれもまた姉妹に見える方向へと拍車を掛けていた。
「ーーーっと?出てきたぞ」
そんな事を思っていると、病院の入り口から透流とユリエが出てきた。
透流は俺たちに気付いたのか、足を止めて驚愕の表情を浮かべた。
俺たちはそんな二人の元に近付く。
「……なんで理事長と影月たちがこんな所にいるんだ?」
至って平静を装って問いかける透流を見て、俺はため息をはきながら苦笑いし、朔夜は口角を僅かに上げた。
「俺たちは朔夜に連れて来られたんだよ。なんか護衛しろとか言われてな……三國先生がいるのに」
「私は貴方の怪我の具合の確認とーーー鳴皇榊についてお聞きしたいのでここに参った次第ですわ」
俺の発言とジト目をスルーした朔夜が言った言葉に透流の表情があからさまに曇る。
「九重透流、あの時鳴皇榊と何を話し、何が起こったのかーーー聞かせていただきますわ」
朔夜のその言葉で透流は一瞬何かを考えたような顔をしたが、やがてぽつりぽつりと話出した。
六日前、透流とユリエとトラの三人で墓参りに行った際に、透流とユリエだけで道場跡地に向かったという事、そしてそこで透流の妹の音羽を殺した仇ーーー鳴皇榊と出会った事、その榊に透流は挑み、ろくにダメージを与える事も出来ずに左腕を斬り落とされた事。
そしてーーー
「覇道の道を歩みし者……か」
榊が腕を斬り落とした直後に言ったという言葉ーーーそれを俺は反復する。
「どういう事なんだ?」
透流の問いかけに俺は大体の予想を話す。
「多分そのままの意味だろう。前にザミエルが言っていただろう?人の願いには二種類あると」
「ヤー、求道と覇道の事ですね」
「そうだ。そして俺と優月は覇道の渇望だ。それを指して榊は「覇道の道を歩みし者」と言ったんだろう」
だが、覇道の道を歩むと言うのはーーーやはり俺たちや榊の向かうだろう
「つまりーーーあいつの願いは、影月たちと同じ、覇道……?」
そこで透流が呟いた言葉が聞こえた為、俺は刹那の間考えていた思考を現実へと引き戻す。
「榊の言葉の意味を考えるとそういう事でしょうね。でもーーー」
そう言って、優月はふと空を見て呟く。
「榊の願いって何なんでしょう?」
『………………』
優月の疑問に皆考え始めるもののーーー
「……まあ、それは後々分かる事でしょう」
朔夜がそう言ってその話は終わりとなる。
そして朔夜は傍に立っていた護衛ーーー三國先生の名前を呼ぶ。
そして理事長に代わり、先生は透流たちへと告げる。
「九重くん、シグトゥーナさんーーー貴方たち二人は、先の土曜に外出先からそのまま
「えっと……?」
「察しが悪いな……。その怪我はどうしたんだ?なんて聞かれた時、どうやって返事するつもりなんだ?」
「そうですわ。私闘で重症の怪我を負った、とでも?別にそれはそれで構いませんけれど……フォローはしませんわよ?」
「あ……」
俺と朔夜の補足に透流は気が付いたようで、声を上げる。
任務で負った怪我という方が、トラやみやびたちに対して通りがいいのは分かりきっている。
朔夜もそれを分かっていて、今回のような口裏合わせを考えたのだ。それと同時にユリエを透流に付き添わせていたのもその口裏合わせの為である。
「
「はい。……ありがとうございます」
「此方の用件は済みましたわ。私は学園に戻りますけれど……九重透流、宜しければご一緒に
「……遠慮しておきます」
透流の返答に、朔夜は「振られてしまいましたわね」とおかしそうに笑った。
side out…
side 透流
黒い雲が空を覆っていた。
見るからに重苦しさを感じる空模様は、今の俺の心境を表しているかのように思えた。
俺はユリエや影月たちと共に駅へと歩きながら、ため息をついた。
「……あ、そういえば影月、一つ聞きたい事があるんだが」
「なんだ?」
俺は少し前を歩いている影月に質問を投げた。
「理事長の後ろにいた金髪の女の子ーーーあれは誰なんだ?」
あの時、ずっと理事長の後ろでこちらの会話を聞いていて、帰る時は理事長と共にヘリに乗り込んだ、ゴシックドレスを纏った金髪の少女。
なんだか理事長と親しげに歩いていった気がするが、あの子は一体誰なんだろう?
すると影月はーーー
「彼女は美亜。六日前お前が大怪我を負って病院に運ばれる少し前に、俺たちが皐月市で出会った子だよ。今は訳あって学園で過ごしてる」
「訳……?」
俺はその訳を聞こうとしたが、影月は「続きはモノレールに乗ったら説明してやるよ」と言って歩いた。
そして数分程で俺たちは学園に直通するモノレールの駅に到着。発車前の車内に乗り込んだ。
「さて……あの子がなんで学園で過ごしているのかについてだが……」
「まずは美亜さんの過去から話しましょうか」
そう言って、影月、優月、安心院の三人は俺とユリエに美亜と呼ばれたあの子の事を話し始める。
ーーーその内容は俺とユリエにとって、とても衝撃的なものだった。
まず最初に耳を疑ったのは、彼女が俺たちの世界とは別の世界から飛ばされてきたという事だ。
まあ、俺は以前ifの世界なんてものを見た事があるのだが……まさかそれとは違って、俺たちの世界とは全く別の世界から来た人なんて思いもしなかった。
「美亜のいた世界は上位種族っていう奴らに支配された世界だと聞いている」
「上位種族……」
そこから先はその世界の状況や、美亜に対して上位種族が行った残虐非道な拷問の数々や、そんな拷問をいくら受けても死なない……いや、死ねないという話を聞いた。
「美亜を捕まえた上位種族は、多分退屈しのぎとかで美亜を拷問していたんだろう。……もしかしたら違う意図もあったかもしれないが……そこまでは分からないな」
「……どちらにしても許せません」
ユリエが憤りを込めた声を上げるのを聞いて俺も頷く。
拷問、それも見た目幼い少女を痛めつけて、それを何度も繰り返すなんて正気の沙汰じゃない。そんな事を平然と行う上位種族には憤りや嫌悪感などの感情しか浮かばなかった。
「まあ、ともかく彼女はそんな地獄のような世界から運良く抜け出す事が出来て、偶然この世界に流れ着いてきたって訳だ」
そして影月は最後に美亜とどのようにしてこの世界で出会ったか、そして影月たちと理事長がそんな悲痛な過去を持つ美亜の処遇についてどんな判断を下したのかを話した。
「……つまり、その上位種族って奴らとこの世界の研究機関から守る為に彼女を学園に匿っているんだな?」
「ああ。上位種族についてはもちろん、この世界の研究機関にも彼女の存在は知られちゃマズいからな」
「もし捕まったら色々な実験とかされるかもね。どうやったらこの不死の力を自分たちが使えるか……とかね」
「…………」
不老であろうが不死であろうが、美亜が異質であって同時に一部の人たちにとっては魅力的な存在である事に変わりない。
不老不死は昔からの人類の願望の一つだ。不老不死を求めたという人は今までの歴史などで数多く語られていると影月や優月は言う。
古くはギリシャ神話や北欧神話などで、多くの人々が神々のような不老不死を求めたと描かれているらしいし、ヨーロッパでは魔法使いや錬金術師などが賢者の石なるものを作っていたらしいし、日本にもそのような不老不死にまつわる話があるらしい。
「透流さんは竹取物語って知ってますよね?」
「ああ、お爺さんとお婆さんが竹を切ったら
「だいぶ
「その薬はどうなったのですか?」
そこで今まで黙って聞いていたユリエが影月に問いかける。
軽く目が輝いている(多分
「不老不死の薬は日本で一番高い山で燃やされました。その山が不死の山、つまり富士山と呼ばれるようになったそうです」
「優月、竹取物語という話を初めから聞かせてもらえないでしょうか?」
「いいですよ」
「で、話が
俺とユリエはそれに頷いて、ユリエは優月から竹取物語について聴き始めた。
一方、俺は窓の外を眺めながら榊との闘いを思い返していた。
(それにしても全く話にならなかった……。《
ぎりっと歯を噛み締めながら、そんな事を思う。目が覚めてからというもの、幾度となく考えた事だ。
《
頂が見えない。どこまで《力》を得たら、あの領域に辿り着けるんだろうか……?
もしかしたらーーー永遠に……?
「……透流君、大丈夫かい?」
そんな事を考えていると安心院が声を掛けてきた。
「っと、ごめんな。少し考え事やしててさ……だから、心配しなくていいぜ」
「…………透流君、君の内心は僕と影月君には筒抜けだよ?」
……そういえば影月は副次的なものである程度人の考えてる事が分かるし、安心院は人の気持ちを読めるスキルがあるとか言っていたか。なら二人に強がっても意味は無い。
「……悪い、正直言うとめちゃくちゃヘコんでるんだ……」
「……榊か」
「ああ、実力差があるのは予想してたけど、あそこまで何も通用しないなんてな……」
「……確かに実力差はあるよね……。前にラインハルトの攻撃を受け流したようだし……」
安心院の言葉にこの前、学園で起こった光景が思い出される。
距離百メートル、深さ二十メートルはある巨大なクレーター……あれを引き起こしたのは、やはりラインハルトの攻撃によるものだったらしい。しかも影月によればあの程度の威力はラインハルトにとっては本気どころか、小手調べにもならないらしい。
「なんつー規格外な……」
「ラインハルトも榊もな……」
そうして俺と影月は揃ってため息をはくのだった。
side out…
《
その勢力圏は特に西欧で強く、その中の一つに彼らの説く教えを国教とする国があった。ヨーロッパの東西の境にある王政国家イェウッドは、医療制度に力を入れている事で近隣諸国に知られている。
最も日本ではそういった面に着目する者は少なく、制度を推進する人物ーーーこの国の王女が美女であるという点で国名が知られているのだが。
そして今、この国の中心地ーーー政治の中心であり国の象徴でもある宮殿の一角から、割れんばかりの拍手が起きていた。
議事堂において、一身に拍手を贈られる人物こそは先述したこの国、イェウッドの王女ーーーベアトリクス。彼女は王女でありながら、もう一つの顔を持っていた。
《
けれども今この場において彼女に拍手を贈る者の中に、《七曜》という存在を知る者は一人としていない。彼女が発案した新たな政策が可決された事に対し、手を打ち鳴らしているだけだ。
やがて小一時間程が過ぎ、議会は幕引きとなる。
ベアトリクスは議事堂を出て、次の業務の為に別の場所へ向かおうとする途中、小さくため息をつく。
政策を通す為には、当然ながら時間を掛けて様々な根回しを必要とする。二年掛かりで進めていた案件を今日の議会で通す事が出来た事で、ようやく緊張が解けたのだ。
「……お疲れ様、だな。ベアトリクス」
そのため息に、突如労いの言葉が投げ掛けられる。
ベアトリクスが視線を上げると、腕を組みながら壁に背を預けて立つマフラーを纏った青年の姿が映った。
「れ、蓮様……!?」
ベアトリクスはその青年の姿を見た瞬間、とても驚く。
青年はこの城のーーーそれどころか、この国の者ですらない。
彼の者の名は藤井蓮。
今現在、多くの多元宇宙に流れ出している理ーーー輪廻転生を唱える女神を守護する黄昏の守護者の一人だ。
「様って言うのはやめてくれって言っただろ?普通に蓮って呼んでくれ」
「で、ですが……貴方は神と呼べる力を持つお方です。さらにその力をこの世界を包み込む女神様を守護する為に使っておられるのですから、おいそれと容易く呼ぶ事は……!」
「あ〜はいはい、分かったよ。……でも様は出来るだけ外してくれ……」
ため息をはきながら言う蓮にベアトリクスは取り乱した事を恥ずかしく思い、若干顔を赤らめる。
今の発言で分かった者も多いだろう。彼女ーーーベアトリクスは藤井蓮の事を知っている。いや、それどころか蓮の正体が何なのか、そして
理由としては蓮が多くを説明したらしいのだがーーーなぜ蓮がそのような事をしたのか……それはまだ分からない。そして蓮が何の目的でベアトリクスに接触したのかもーーー
「そ、それで……今回はどのような御用でこちらまでいらっしゃったのでしょう?」
ベアトリクスは先ほどの動揺を抑えながらも蓮へ問いかけるがーーー頭の中では大凡他の人に話せないような内容ではないだろうかと予想していた。
なぜなら、周囲に不自然に人影が全く無いからだ。それはつまり蓮かその仲間が人払いの魔法を使っているという事。
そのような手段を使っているという事は、何か他の人に聞かれると不都合が起きる事を聞きに来たのかもしれない。
「いや、あまり大した事じゃないんだが……
「…………」
その言葉にベアトリクスは僅かに表情を曇らせる。
音羽ーーー九重透流の妹である少女の名前。その少女は二年前に透流の目の前で榊に背中を斬られて殺された
しかし実際には生きていたのだ。正確には《七曜》のとある人物が行った禁呪によって特殊な力を持った人造生命体として蘇生されたのだ。
ちなみにその禁呪とはメルクリウスがヴァレリア・トリファの黄金聖餐杯を用意した方法の元となるものである。メルクリウスはその禁呪を色々とアレンジして黄金聖餐杯を用意したのだ。
そして今現在、音羽は自らの事をオトハと名乗り、この医療技術が発達している国を拠点にしてベアトリクスの
「……そんな顔をするって事は本当なんだな?誰と会ったのか聞いたのか?」
「……はい。確か、アンナちゃんと言っていました」
「アンナ?」
その言葉に聞き覚えがあるのか、蓮は眉を潜めて首を傾げた。
「……聞いた事が?」
「ああ、ちょっとな……ルサルカ、いるか?」
蓮はふと自らの足下の影へと声を掛けるとーーー
「な〜に?蓮くん、私に用事?」
足下からピンク髪の幼い少女がニコニコと笑みを浮かべながら現れる。
その様に蓮もベアトリクスも驚きはしない。二人ともこのような登場の仕方は見慣れているからだ。
「ルサルカ、確かお前の本名ってアンナだったよな?……音羽ちゃんと戦闘をしたのか?」
「えっ?……確かに私の本名はアンナだけど、音羽ちゃんとなんて戦ってないわよ。そもそも戦って何の得があるのよ……。私はベイやシュライバーみたいな戦闘狂じゃないからそんな意味の無い戦闘なんてしないわ」
ルサルカは少し不機嫌そうな表情を浮かべながら答え、それを聞いた蓮とベアトリクスは考える。
「ルサルカじゃないのか……なら、アンナって言うのは一体誰の事だ……?」
「……そういえば」
するとルサルカが何かを思い出したかのように言葉を発する。
「私以外にも黒円卓でアンナって名前の人がいるわよ」
「何?」
「誰なのですか?」
「……シュライバーよ」
ルサルカが何とも言えないような顔で答える。その言葉に元気が無いように聞こえるのは気のせいではないだろう。
そんな事には気付かず、蓮とベアトリクスは一瞬瞠目する。
「……以前、《
「……音羽ちゃん、あいつと二回も会ったのか……」
ベアトリクスは少し前の宴の際に見たシュライバーの事を思い出し、蓮はどこか遠くを見つめるような目でそう呟いた。
「あんな奴と二回も戦ってよく無事だったな……」
「そうですね……私もアンナさんという人がどのようなお方なのか今まで検討もつかなかったので……今は驚きと同時に音羽が無事でよかったと安堵しています。ーーーそういえば蓮様、その話に関連した事で私から一つご報告しておきたい事があります」
「だから様は外してくれって……で、なんだ?」
するとベアトリクスが蓮へと向き直って、以前音羽が言っていたある事を告げる。
「実は数日前、日本から戻ってきたオトハから少々気になる事を聞きまして……」
「気になる事?」
「ええ、先の話のシュライバーと戦っていた際、とある一人の女性がオトハを助けてくれたと言ったのです」
「……助けてくれた?それって崩壊する建物からって意味?」
ルサルカは、ベアトリクスの言葉に対してそう言った。
助けてくれたと言われて、まず思うのはそういう意味だろう。まさか一般の人があの絶対回避を持つ
しかしベアトリクスは再び表情を曇らせーーー
「それもそうらしいのですが……さらにシュライバーも退けたと……」
「シュライバーを退けたぁ!?」
その発言にとても分かりやすく驚くルサルカ。
まあ、黒円卓でラインハルトとメルクリウスを除いた中で最強であるシュライバーを退けたとなるとこの反応も無理は無い。
「シュライバーをか……その人の名前とかは音羽ちゃんから聞いてないのか?」
「そういえば……なんて言ってたか……確か……」
「藤原、妹紅……」
そこに突然たどたどしい言葉が響き渡る。
ベアトリクスたちが視線を向けた先には、茶色がかった髪をした少女がゆっくりと歩いてきていた。
「オトハ……?部屋で休んでいなさいと言っていたでしょう?」
茶色がかった髪の少女ーーー音羽はベアトリクスにそう言われ、少しだけ哀しそうな表情を浮かべた。
「ごめ、なさい……ベアト、リクス、様……でも……眠、なくて……」
「…………いいえ、私こそちょっと強く言い過ぎました。ごめんなさいね」
ベアトリクスは先ほどの発言は少しだけきつかったかと思い、音羽へと近付いて頭を撫でる。
「ねぇ、音羽ちゃん。一つ聞きたいんだけど……」
その様子を見ていたルサルカが音羽に話しかける。
音羽はそんなルサルカを見て、首を傾げながら言葉を紡いだ。
「何……?」
「えっとね……その、フジワラノモコウ?さんって人はどんな人だったのかな〜って思ってね。聞かせてもらえないかしら?」
ルサルカは少しだけ屈んで、音羽に目線を合わせながら聞いた。
そう聞いた瞬間ーーー音羽が少しだけ笑みを浮かべて答え始めた。
「白くて……長い、髪……した、綺麗、な女の人……」
「白くて長い……。他には何か特徴的な事は無いの?」
音羽が言った特徴でルサルカの脳内には
「アンナ、ちゃんと……戦って、私を、助けてくれた……」
「やっぱりシュライバーと……その女の人はどんな方法で戦ってたんだ?」
音羽本人から出た言葉に、蓮は先ほどベアトリクスが言った事は真実なのだと分かり、そこからさらに蓮は踏み込んだ質問をする。
それに音羽はーーー
「私と、同じ……炎、使ってた……」
「炎……?」
その答えに蓮は
「炎ねぇ……私たちの方で炎って言ったら、レオンハルトかザミエルね。でも二人とも白髪じゃないし……」
「って事は俺たちが知らない人物か……」
「…………」
各々、その人物の特徴になどに様々な考えを張り巡らす中ーーー音羽がふと、ベアトリクスを見て呟く。
「ベアトリクス、様……私、またその人に、会いたい……!」
そんな少女のどこか嬉しそうな笑みを見たベアトリクスは、一瞬驚いた顔を浮かべた。
「オトハ……」
「ダメ……?」
音羽が上目遣いでベアトリクスの顔を覗き込む。その様を見たベアトリクスの内心では音羽を抱き締めてものすごく撫でてあげたい欲求が巻き起こる。しかしベアトリクスはそんな欲求を抑え込み、極めて冷静を装いながら言った。
「分かりました。私がこの後の公務が終わり、貴女の体の調整をした後、貴女を再び日本へと送りましょう。ですが……」
ベアトリクスはそこまで言って言葉に詰まる。それもその筈で音羽はその女性に会いたいと言った。しかしその女性と出会ったのは今から六日も前……当然、その女性は今どこにいるのかなど分からない。
もちろん諏訪原市内に住んでいるのならば話は別だが、ベアトリクスは音羽からその女性の話を聞いた後、諏訪原市やその周辺の町などに住む人たちを調べ上げて、そのような容姿の人物は見つからなかった事を知っている。
故にその女性に会いたいと言っても、どうすれば会えるのかベアトリクスには分からなかった。
「大、丈夫……私が、一人で……探、から……」
だがそんなベアトリクスの考えとは裏腹に音羽はたどたどしくもそう言った。
それにベアトリクスは心配そうな表情をする。
「一人で、ですか……」
「ダメ……?」
「…………分かりました。ですが今は部屋に戻って、体を休めなさい。その話はまた後ほどにしましょう」
「はい……!」
音羽はベアトリクスの優しい微笑みと言葉を確認した後、再び少し嬉しそうな笑みを浮かべて頷く。そしてゆっくりとした足どりで自分の部屋へと戻って行った。
やがて音羽の姿が見えなくなると、ベアトリクスは深いため息をついた。
「やっぱり心配か?」
「当然です。いくらその女性に助けられたとはいえ……容姿も素性もはっきりしてませんから。オトハを狙う敵という可能性も大いにあり得ます」
ベアトリクスの言う心配ももっともである。
今の音羽には蘇った影響によって昔の記憶や人格といったものが多少なりとも抜け落ちている。それはつまり他人に対して警戒心というものがあまり無いのである。
そんな幼い子供のような心を持つ音羽を心配するのも無理は無い。
「……なら、こっちで隠れて見張ろうか?」
「…………そうですね。蓮様、お願い出来るでしょうか?」
なのでベアトリクスにとって、蓮の申し出は渡りに船だった。
ベアトリクスは蓮に向かって深々と感謝を示す礼をし、蓮はそれに首を振る。
「構わないよ。俺たちもその藤原妹紅って人が気になるからな。さらっと今聞いた限りじゃ、どうやらただの人ってわけでもないみたいだし」
「なら私が見張るわ。私なら影でこっそり見守れるし、何かあっても守れるわ」
「そうだな……頼んだ」
「まっかせなさ〜い!」
「ルサルカ様もありがとうございますーーーっと、そろそろ私も行かなければなりませんね。では私はこれで……」
ベアトリクスは蓮とルサルカに改めて深々と礼をした後、二人の脇を抜けてその場を立ち去ろうとする。
そしてすれ違いざまに蓮が言う。
「そういえば最近、世界中にある《
その言葉にベアトリクスが立ち止まり、返答を返した。
「知っています。音羽にもその組織関連の建物を襲撃させていますから」
「なら、もう襲撃した建物は十桁にもなるだろ?そろそろ《
「……終いには私が三つの顔を持つトリプルクロスであるという事がーーーですか?それなら心配には及びません。《
ベアトリクスは蓮をチラッと見て言う。
「もし発覚してもーーー私は蓮様があの言葉を言われた時から、すでに覚悟は出来ていますから」
「…………」
決意を込めたベアトリクスの言葉に蓮は、ばつが悪そうに頭を掻く。
「本当に俺はなんであの時、あんな事を言ってしまったんだ……?」
「やっぱり蓮くんは、ベアトリクスちゃんのような女性が好みだったりするんじゃないの〜?だからほっとけなかったとか?」
「ルサルカ……」
蓮はルサルカを睨むと、ルサルカはけらけらと笑い出した。
「冗談よ冗談。蓮くんにはマリィちゃんがいるものね〜」
「……さて、俺も戻るか」
蓮はこれ以上話していると段々とウザくなってきそうなので、ルサルカの言葉を無視して、転移魔法の準備を始めた。
そして転移の準備が完了した蓮は最後に言葉を紡ぐ。
「いずれまたーーー黄昏の守護者の名の下に」
「ええーーー黄昏の守護者の名の下に」
蓮とベアトリクスが互いに言葉を口にし合うと、蓮は瞬きする間に姿を消した。
場にはベアトリクスだけが残されていた。ルサルカも蓮と同時くらいに去ったようだ。
辺りには静けさが訪れ、ベアトリクスは小さく吐息を漏らし、呟く。
「藤原妹紅……ですか」
その言葉は誰の耳に届くわけでも無く、虚空へと消えていった。
なんかもう一人キャラ崩壊が起きてるキャラが……(苦笑)
朔夜「ベアトリクス様ですわね?貴方は私たちをどうしたいんですの?」
う〜ん……それは後々の展開のネタバレになるので言えません(苦笑)あ、それと美亜についてはああいう設定に致しました。何か気になる事があれば聞いてください!
朔夜「ザトラ、もう一つ言う事がありますわよ」
あ、そうですね。作者は数日後から働き始めるので、今までよりも更新が遅くなる可能性があります!でもおそらくやめないとは思うので……更新は気長に待っていてください!
朔夜「では……誤字脱字・感想意見等よろしくお願い致しますわ」