アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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今回の話の後半で前話の伏線回収します。

ではどうぞ!



第五十二話

 

side 影月

 

皐月市での任務が本格的に始まってから二週間が経った。

任務は僅かながらも進展している。

ここで一旦これまでの状況を振り返り、整理しておこう。

 

 

・初日、美咲が《沈黙の夜(サイレス)》のメンバーに絡まれていた所を、偶然?居合わせていた司狼と共に助けた。

その後底なし穴(ボトムレススピット)で司狼たちと情報交換をした後、螢さんの案内で皐月市内を回る。

・四日目からは拠点と定めたゲーセンで少し長めに過ごすようになった。

・七日目に美咲と再会、美咲とココの二名によりベラドンナの溜まり場であるエレフセリアへと案内された。

そこでベラドンナの相談役(事実上のリーダー)であるリョウを中心としたメンバーと知り合う。

その後、エレフセリアからの帰り道で《沈黙の夜(サイレス)》のメンバーである、あの長髪男にユリエがナンパされた。

ツレの一人が透流だと気付くと、悪態をつきながらすぐに去って行った。

・八日目に再びエレフセリアへ行き、帰り道に喧嘩の仲裁。

皐月工(ツキコー)の生徒同士による些細な事から起こったもので、透流が率先して双方の仲裁を行い、場を収めた。

ただしその後に皐月工にはデカイ顔をしている連中だとなぜか睨まれてしまうが、そこに偶然にも司狼が通りかかって話しかけてきたからか、皐月工の連中の俺たちに向ける目が敵意から恐怖に近いものへと変わった。

どうやら皐月市の連中は底なし穴(ボトムレススピット)のトップである司狼が恐ろしいらしい。そんなのと軽口を叩き合うのを見ていればその反応は納得出来るものと言える。

・十日目。透流たちにとっては初めてのーーーそして少し早く皐月市に来ていた俺たちには数回目の《禍稟檎(アップル)》に関わる事件が発生する。

三番街でナイフを振り回し、数人に怪我を負わせた男を取り押さえた。

駆けつけた警察官に男を引き渡し、翌日に機関を通じて得た情報によると、男は《禍稟檎(アップル)》を含む幾つかのドラッグを所持していたとの事だ。

無所属らしいその男は会話もまともに成立しない状態らしく、ドラッグの出処も今の所分からないらしい。

また、この日はゲーセンで流河高(リューコー)の生徒と知り合い、ゲームの話をした。

きっかけは以前の皐月工との件で、俺たちが仲裁に入る所を現場で見ていたそうだ。

・十三日目。以前司狼に案内してもらったコインパーキングでドラッグの売買を目撃、販売していた人物を取り押さえた。

売っていた男は無所属で、現在の所はルートについて黙秘しているらしい。買っていたのは流河高の生徒で、みんなやってると最後まで喚いていた。

 

そして十四日目となる今日はクリスマスイブだ。日が暮れるにつれ次第に街は色めき、やがて夜を迎えると盛り上がりは最高潮を迎えていた。

家族と、友人と、そして恋人と共に過ごす聖夜は特別なものだろう。……念の為言うが、性夜では無い。

だが気持ちが高揚するという事は、良い面ばかりじゃない。当然悪い面もある。例えばーーー

 

「あ、ははは……皆笑ってらぁ……ひひ……俺も笑って……ひ、ひひっ……」

 

三番街アーケード内で仰向けになり、ぶつぶつと気味悪く呟きながら笑うこの男が、その悪い面の象徴とも言えるだろう。

男の手の中や周囲には、素のままの錠剤やカプセルなどが幾つか散らばっていた。

 

「これは全部脱法ドラッグか……それにこの甘い香りのする錠剤……」

 

「《禍稟檎(アップル)》だな……これで今日二回目か」

 

「連絡しました。機関関係者が来るまで見張ってろとの事です」

 

「了解」

 

ちなみに先ほど妹紅が呟いた通り、今日《禍稟檎(アップル)》が関わっていた事件はこれで二回目である。

まあ、《禍稟檎(アップル)》が関わっていないトラブルも数えたら、八件程なのだが。

 

「透流の提案通り、今日は見回り中心で正解だったようだな」

 

「はい。今日は流河高も皐月工も終業式との事でしたからね……」

 

優月の発言に、数日前美咲から聞いた流河高、皐月工共々イブに終業式だという話を覚えていた透流によく覚えていたと内心感心する。

 

「さて、引き渡しも完了したから見回りを続けようーーーっと?」

 

「どうした?」

 

「ちょっと待ってくれ……」

 

すると俺の持っていたスマホが突然鳴り出した。見回りを続けようとして歩き出した優月と妹紅を止め、画面を確認してみると分かれて見回りをしていた橘からの着信だった。

内容は今から皆で合流してメシを食べないかという提案だった。

 

「ああ、こっちは構わないぞ。トラとリーリスにも言ったのか?」

 

『うむ。高架通路(デッキ)で待ち合わせすると言っておいた。キミたちもすぐに来たまえ』

 

「分かったーーーというわけだ。二人とも、高架通路(デッキ)に行くぞ?」

 

「はい!」

「あいよ」

 

そして俺たちは合流場所がある駅方面へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所の高架通路(デッキ)に到着すると、先に着いていたらしいリーリスとトラが何やら微妙な雰囲気で会話をしていた。

 

「……で、そこまで考えていて貴様はどうするつもりだ?」

 

「……今はまだ分からないわ。でも彼女がまだ研究を続けて、成果が出ないのなら……」

 

「貴様自身が動く……と。だが、そうなると……」

 

「ええ、分かってるわ……彼らとおそらくあの組織が立ち塞がる……だからその時は貴方も……」

 

「…………」

 

俺はそんな微妙な雰囲気の二人に近付いて話しかける。

 

「よう。相談事はそれくらいにしてくれないか?」

 

「む……影月たちか。早かったな」

 

「私たちはさっきまで、三番街アーケードにいましたからね。比較的近かったんですよ」

 

「っと、そんな事を言っているうちに透流も来たか」

 

俺が視線を向けた先には、透流とユリエ、橘に安心院がこちらに向かって来ていた。

 

「俺たちが最後か。待ったか?」

 

「いいや、俺たちもちょっと前に来たばっかりだ」

 

「僕とリーリスも影月たちが着く少し前に来たからそんなに待っていない」

 

「そうか」

 

俺たちの答えを聞いた透流は苦笑いを漏らした。寒い中待たせていなかったか心配だったらしい。

 

「で、どこに行くのか決まってるのかい?」

 

富士山(フジヤマ)というお店だそうです」

 

妹紅が問うと、ユリエが行き先を口にした。

 

「……富士山(フジヤマ)……かぁ……」

 

「ん?嫌なのか?」

 

「あ、いや、そういう事じゃないんだけど……富士山とかそういう名前を聞くとね……ちょっと昔の事を思い出してさ」

 

「昔の事……?」

 

遠くを見るようなーーーそれでいてどこか後悔しているように感じられる目をした妹紅を見て、俺たちは首を傾げる。

 

「ああ、気にしなくていいよ。私が勝手に思い出しただけだからさ。じゃ、行こうか」

 

どこか寂しそうに笑って歩き出した妹紅に、俺たちは困惑しながらもついて行く。

 

「……どうしたんでしょうね?妹紅さん」

 

「富士山に何か嫌な思い出でもあるのかなぁ……。影月君、分からないの?」

 

安心院の問いに俺は首を横に振った。

 

「ああ……妹紅は本当に過去の事を話したくないみたいでな。俺でも見えないんだよ、香とかとの出会いの記憶とかなら見えるんだけどな」

 

俺が今まで出会ってきた人たちの中で、妹紅は誰よりも他人に心を閉ざしている。

余程自分の過去の事に触れられたくないのかーーー彼女は俺に本音を打ち明けた前の朔夜よりも固く心を閉ざしていた。それこそ俺が創造を使わなければ覗けないレベルでーーー

 

「正直、妹紅の過去に何があったのかは分からないが……彼女は長く生きてきた不老不死だ。壮絶な過去や辛い記憶なんて俺たち数十年しか生きていない学生が想像してるより多いだろうな」

 

それだけは確信を持って言える。

大切だった人の死、信じていた人の裏切り、周りからの侮蔑のような視線、誰かへの復讐ーーーさらっと思い浮かんだのはそれくらいだが、彼女はきっとそれより何倍も辛い事を経験したのは違いない。

 

「……皆、どうしたの?」

 

「いや……気にするな」

 

振り向いた妹紅に俺は苦笑いしながらも、そう返事を返す。

そしてそのまま皆が無言のまま目的の店へ到着し、俺たちは心地よい暖かさの店内に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

深紅の瞳(ルビーアイ)をいつもより二割増し位に見開いたユリエが呟く。

 

「回ってます」

 

次に同じく二割増し位に蒼玉の瞳(サファイアブルー)を見開き、リーリスが呟く。

 

「回ってるわね」

 

続いて妹紅が回っている寿司を見ながら呟く。

 

「……外の世界って寿司が回るのか」

 

そう、妹紅が今言った通り富士山は回転寿司のチェーン店だ。

 

「話には聞いていたけど、改めて見るとーーー日本人って妙な事を考えるのね」

 

「初めて見た時は私も驚いたよ」

 

肩を竦める英国人少女に、日本人少女も苦笑いしながら返す。

それを横目に見つつ、俺は妹紅に問い掛ける。

 

「幻想郷には回転寿司は無いんだな?」

 

「うん。でも普通の寿司屋なら人里にちらほらとあるな。どこも回ってないけど……」

 

「幻想郷にも寿司屋ってあるのか……」

 

「そりゃあるさ。まあ、幻想郷には海が無くて魚も手に入りにくいから、店の数は少ないけど」

 

と、たわいもない会話を妹紅としているとーーー

 

「………………」

 

コンベアに乗って右から左へ流れていく寿司を、首を動かして幾度も見送っているユリエが視界に入った。

それを見ていた透流は、まず手本にと皿を取る。

 

「こうやって、食べたい寿司を皿ごと取ればいいんだ。皿ごとだぞ」

 

ベタなお約束を阻止する為に透流の奴、二回言ったな。

 

「それと皿の色で値段が変わるからな?詳しくはそこの表を見てくれ」

 

「皆さん、自分の懐と相談しながら食べてくださいね」

 

最後に俺と優月が念の為にと説明する。

実は今回の任務中に携帯している学生証はクレジットカード機能が無いのだ。それ故、ある程度の経費は渡されているものの、俺たちの懐は平時と比べて随分と軽くなっている。

それを聞いたユリエとリーリスと妹紅は皿の値段が書かれた表を凝視した後、揃って食事を開始した。

 

「さて……まずはサーモン辺りから食べるか」

 

「私は中トロにしましょうか……」

 

そう言って俺たちは流れてきた寿司を取って食べ始めた。

 

「これ美味しいな……もう一個食べよう」

 

そう呟いた妹紅が食べているのはとろサーモン。どうやら一口目から結構気に入ったようだ。

 

「僕はいくら〜♪」

 

そう言って安心院はいくらの乗った皿を取り、口に運んだ。

ちなみに橘はしめ鯖の握り、トラはヒラメと中々渋いものを食べていた。

そうして皆がそれぞれ思い思いのネタを食べる中ーーー

 

「ちょ!リーリス、皿を元に戻したらダメなんだって!」

 

「何よ、そうならそうと最初に言いなさいよね」

 

突然透流とリーリスの声が聞こえたのでそちらを向くと、コンベアから何も乗っていない皿が流れてきて内心ビックリしたが、即座にその皿を回収する。

 

「よっと……リーリス、皿はコンベアに返しちゃダメだぞ。最後に皿の色ごとに枚数を数えて会計するんだから」

 

「へぇ、面白いシステムね」

 

回収した皿をリーリスの方に戻しつつ、俺はリーリスに追加説明するとリーリスは感心したように頷いた。

 

「兄さん、これ一緒に食べませんか?」

 

すると優月が一貫の中トロを片手にそう言ってきた。どうやら俺と仲良くシェアしたいらしい。

 

「じゃあもらおうかな」

 

「分かりました。じゃあーーーあーん♪」

 

すると優月は可愛らしい笑顔を浮かべながら、俺の口元に中トロを近付けてきた。俺はその様に仕方ないなぁと苦笑いしながらも、差し出された中トロを食べる。

瞬間口の中にとろけるような旨味が広がり、思わず頬が緩む。

 

「やっぱり美味いな。じゃあ優月、お返しだ。あーん」

 

「あーん♪」

 

そして俺は先ほどのお返しとして、残ったもう一貫の中トロを優月の口元へと近付けた。

それを優月は嬉しそうにパクッと食べた。

 

「やっぱり兄さんに食べさせてもらうと美味しく感じますね〜♪」

 

「俺も優月に食べさせてもらうと美味しく感じるよ」

 

お互いにそう笑いあいながら話しているとーーー何やら向こうで騒がしく会話していた透流たちの中で突然橘が立ち上がって透流に指を突き付けて叫び出した。

 

「九重の不埒もーーー」

 

「橘、黙ろうか」

 

流石に店内で叫ぶと周りの目も集まる。それを良しとしない俺は橘に若干殺気を込めた視線を向けて黙らせたがーーー周りの客の目は、既に橘たちに向けられていた。

 

 

 

 

 

 

外に出ると、冷たい空気に体が強張るーーーが、俺はそんな空気に影響されない程怒っていた。

 

「橘、店内で叫ぼうとするなんてどういう事だ?」

 

「す、済まない……九重がユリエとリーリスの二人と寿司を分け合っているのを見て……つい……」

 

「いちいち不埒者って叫ぶなよ……」

 

酒で出来上がった客もそこそこいた為店内は騒がしく、橘の叫びも喧騒の中には消えた。

とはいえ素面の客も当然いるわけで、それらの客は迷惑そうに俺たちを見ていたのだ。

それのせいで店内に居づらくなった俺たちはそそくさと会計を済ませて出てきたのだ。

 

「……帰ったら二時間くらい説教な」

 

「そ、それはちょっと勘弁してほしいのだが……い、いや、なんでもない……」

 

二時間の説教と聞き、青ざめながらも待遇緩和を申し出ようとした橘を睨むと、彼女は渋々といった様子で引き下がった。

 

「え、影月?橘も反省しているんだし、そこまで怒らなくてもいいんじゃ……」

 

「反省してもう二度とあんな騒ぎにならなければ、俺だって何も言わないさ。でも橘はまたやりそうだからな」

 

「あー……そうだな」

 

「九重!?そ、それはどういう意味なのだ!?」

 

透流の言葉に突っ込んだ橘だったが、俺たちはそれを無視して歩き出した。

 

「あ」

 

「どうした?」

 

すると隣を歩いていた透流がふと何かを思い出したかのように声を出した。

 

「そういえば今日はエレフセリアでクリスマスパーティーがあるって話を思い出してさ。さっきリョウに誘われたし、行った方がいいかなって思ってさ」

 

「クリスマスパーティーか……もしかしたら何かあるかもしれないな。行ってみるか」

 

俺の提案に誰からも否定の意見は出なかったので、俺たちはエレフセリアへと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

照明が点いていたアーケード街から、街灯に照らされた薄暗い路上に出てエレフセリアに向かっていた途中ーーー

 

「よう、久しぶりだな」

 

俺たちの行く手を遮るかのように、夜道に佇んでいた二人の男ーーーその片割れが突然俺たちに話しかけてきた。

 

「お前たちは……《沈黙の夜(サイレス)》が何の用だ?」

 

男たちの顔を見た俺は、内心驚きつつそう問いかけた。

なぜなら二人は、機関の調査資料に載っていた《沈黙の夜(サイレス)》のメンバーでありーーー皐月へ来た初日に美咲に絡んでいた男たちだったからだ。

 

「俺たちの事を覚えているのなら話は早い」

 

「これからどこへ行くのか、聞かせてもらっていいかい?」

 

低い声で巨漢が頷き、長髪が後を続ける。

 

「言ってどうするんです?そちらには関係の無い事でしょう?」

 

「……もし、エレフセリアに行くというのならここで引き返してもらえると助かる」

 

優月の問いかけに巨漢はエレフセリアに行くなと告げてきた。

 

「……顔を出すって約束しちまったんでね」

 

「引く気はねぇってか。となれば、後はお互い口でどうこう言い合っても仕方ねーな」

 

長髪が肩を竦めた直後、周囲の細路地からばらばらと複数の影が飛び出してきて俺たちを囲んだ。

 

「数は……三十人くらいか」

 

その内の半数以上はバットや鉄パイプ、スチール警棒など明らかに他者へ危害を加える事を目的とした武装をしていた。

 

「……私たちの待ち伏せじゃないな」

 

「ああ、こいつらの目的はおそらくーーー」

 

エレフセリアーーーベラドンナのクリスマスパーティーだろう。しかしーーー

 

「パーティーを邪魔するにしては、過剰過ぎる戦力じゃないか?」

 

「橘もそう思うか……。どうやらそのクリスマスパーティーって奴はただのパーティーじゃなさそうだな」

 

「けっ!この後に及んで知らねぇ振りかよ!ヤク中パーティーなんぞに参加しようとしておきながらよぉ!!」

 

『なっ……!?』

 

長髪が発した言葉の中に聞き捨てならない単語が含まれていた事で、俺たちは顔色を変える。

 

「おい貴様!今の話をもう一度詳しくーーー」

 

「やっちまえ、野郎ども!!俺らの街を護んぞオラァ!!」

 

トラの言葉を遮った長髪の掛け声で、周りの者たちは一斉に飛び掛かってきた。

怒気と敵意が籠もった咆哮が夜闇に響き渡るーーーが、それも一瞬の事だ。

 

「……量が質を圧倒するとは限らないんだよ」

 

「なっ……!?」

 

瞬く間に二十人以上の男たちが路上に崩れ落ち、驚愕に長髪の目が大きく見開かれる。

 

「大丈夫です。皆さん気絶させただけですからね」

 

「まあ、僕たちなら殺ろうと思えば出来るんだけどね」

 

そんな安心院たちを尻目に俺は巨漢と長髪に近付いていく。

 

「おい、さっきの話はどういう事だ。ベラドンナでドラッグパーティーだと?」

 

「何者だ、お前たち……」

 

まるで魔法でも使ったかのような状況に、さすがの巨漢も動揺を隠しきれずに呟く。

 

「その質問は後で答えてやる。先にこっちの質問に答えてもらおう」

 

「……今夜、エレフセリアでベラドンナ主催のクリスマスパーティーが行われているのは知っているな」

 

巨漢の静かな問い掛けに俺たちは頷いて返す。

 

「夜通し騒いで楽しもうと言う趣旨らしいが、その実ドラッグパーティーだという事は知らぬのだな?」

 

「ああ。しかしそれは確かな情報なのか?」

 

「……皐月に来て日が浅いお前たちでも、幾つかの派閥があるのは知っているだろう。だが、グループ同士に全く交流が無いわけじゃない」

 

「俺らと付き合いのある無所属の奴が一人、クスリにハマっちまったんだよ」

 

渋い表情を浮かべながら長髪が続ける。

 

「そいつはこの前ラリってる所をパクられちまったんだけど、ツルんでた奴らが今日の事をちょろっと話しててよ。そっから俺らは話を聞いたんだよ」

 

「パーティーに来ればお前らも俺の気持ちが分かる、一緒にハイになろう、と話していたそうだ」

 

賑やかな場というのは、気分が高揚し、周りに流されやすくなる。

そんな時に誘惑というものは行われる。

少しくらいなら大丈夫、周りも皆してる、断ると周りの空気が悪くなるーーーそれらの言葉はその人の心の内側に入り込み、揺さぶりをかける。

そしてその揺さぶりに耐えられず、誘惑に乗ってしまえば後に待っているのは……自らの人生の破滅のみ。

 

「我々はーーー確かに行き過ぎている行為がある事は否定しない。だが、我々の街を汚し、狂わそうという者には相応の対応を取るだけだ」

 

「警察には相談しようとは思わなかったのか?」

 

「大人なんか信じられるかよ!あいつらはテメーらの手柄が重要で、俺らの事なんざ一ミリも考えやしねーんだぞ!!」

 

その言葉に透流は黙り込んでしまう。

確かにそのような事があるのは真実だろう。

だからこそ彼らは自分たちの力で街を守ろうとしたのだ。大人という自分たちとは違う存在を否定して。

 

(閉鎖的な一面……か。確かに彼らを見てるとそう感じるな)

 

朔夜の言葉が脳裏で再生される中、話は続く。

 

「だから俺らはドラッグを流したり喰ったりしてる奴を見かけたら止めて、それでも聞かねー奴は潰して……」

 

「ふんっ、それで今回はパーティーを潰そうと、人を集めたというところか」

 

意識を失って倒れた男の手から零れた武器を見つつ、トラが言う。

乗り込んで騒ぎを起こせば、パーティーどころじゃなくなるという目論見だ。

 

「そうだ。そしてエレフセリアに向かう途中、こちらに肩入れしてくれている知り合いからお前たちも向かっているようだと連絡が入ってな。お前はかなりやれそうな奴だとは思ってたが、まさかこれ程とは……」

 

「……俺がやったのは五人くらいだ。後はそこにいる影月と優月の二人がやったんだけどな」

 

透流の返事に巨漢は再び驚いたような顔をしたがーーー俺はそれに構わず、最後の問いを投げた。

 

「最後に聞く。ベラドンナがバラ蒔いてるドラッグってのはーーー《禍稟檎(アップル)》か?」

 

巨漢が首を縦に振る様に、俺たちは決断する。

 

「皆!エレフセリアに行くぞ!!」

 

「分かりました!」

「ああ!」

「ヤー!」

「了解!」

「もちろん!」

「分かった」

「ええ!」

「ふんっ、言われるまでもない!」

 

沈黙の夜(サイレス)》の言っている事が真実かどうかは、エレフセリアへ行けば分かる。

一歩踏み出すと、進行方向を塞ぐように立っていた二人は道を空け、俺たちはその間を抜けようとしーーー

 

「……そういやそっちの質問に答えてなかったな」

 

俺はその二人の前で先ほどの質問に答える。

 

「俺たちが何者か……だったな?俺たちは幼い魔女にこの街の《禍稟檎(リンゴ)》を摘み取れと命令された者たちさ。まあ、分かりやすく言えば俺たちは敵じゃないーーーお前たちがこの街を守ろうとしたその意思、俺たちが引き継いでやるよ」

 

呆気に取られた様子の長髪と、表情を動かす事無くこちらを見ていた巨漢の様子を見た俺は、その二人の間を通り抜けて今度こそエレフセリアへと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

沈黙の夜(サイレス)》とのやり取りを終えてから五分程後ーーー

俺たちはエレフセリアの入口を遠目に、街角で足を止めていた。

なぜ今すぐにでも店内に入らないのか……。それは優月が司狼たちに連絡を入れているからだ。司狼たちに連絡を入れれば、ベアトリスさんか螢さんが協力しに来てくれるかもしれないーーーそう提案した優月の案に俺たちは揃って賛同したのだ。しかしーーー

 

「どうだい?繋がった?」

 

「いえ……司狼さんもエリーさんも蓮さんも螢さんも出ません……」

 

スマホを耳から離した優月が困ったように肩を竦めてそう答える。

先ほどから蓮たちの携帯に連絡をしているのだが、一向に繋がらないのだ。

 

「蓮たちに何かあったのか……?橘、機関の方は?」

 

「サポート要員が送られてくるとの事だ。しかし到着までもう少しかかるらしい」

 

「そうか……」

 

一方で機関の方はそのような返答だったらしく、実際今ここにいるのはその機関のサポート要員待ちだったりする。

だがーーー

 

「……まず俺たちだけで探ってみないか?」

 

「サポート要員が来るまで待っても大差無いだろうに」

 

「だけど小さな差はあるだろ。本当にパーティーで《禍稟檎(アップル)》がバラ撒かれてるとしたら、ここで待ってる間にも誰かが犠牲になっているかもしれないじゃないか」

 

妹紅の言葉にそう返した透流の返事を聞いて、トラはため息をはいて「貴様はそういう奴だったな」と言う。

 

「やっぱり透流はそう言うと思った……」

 

「流石トラと影月。俺の事をよく分かってるな」

 

「「単純だからな」」

 

それに微妙な顔をする透流。しかし事実なのだから仕方が無い。

ともかく方針が決まったので、機関と念の為に司狼にメールを入れ、エレフセリアへ向かって歩を進め始めたその時ーーー

 

「ん……?あれ?あの子は……?」

 

妹紅が店の前に佇む二つの影に気付く。

一人はエレフセリアのスタッフで、いつも店の前にいる男だがーーーもう一人は上着のフードを目深に被った小柄な女の子だった。

スタッフと何やら話をしていた様子の女の子が、手をゆっくりと前に突き出したと思った直後ーーー

ドン!と弾ける爆音。それとともに赤い光が爆ぜた。

 

「ーーーっ!?」

 

俺たちも含め、付近にいた人は誰もが驚きに目を向け、夜闇に火の粉が舞う様を見る。

爆発が起きたーーーそれもフードの女の子とスタッフとの間で。

そう判断するまで、僅かな間が必要だった。

がーーー

 

「くっ……!あの子……!」

 

妹紅だけは爆発が起きた瞬間に、エレフセリアに向かって駆け出していた。それを見て俺たちも僅かに遅れながらも我に返り、気付く。

フードの女の子の姿が無く、エレフセリアのスタッフが店の前で倒れている事に。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

俺たちは倒れたまま動かないスタッフへと駆け寄って呼び掛けたが、スタッフから返ってきたのは呻き声だけだった。

彼の着ていた上着は大きな穴が空き、焦げ臭い匂いを漂わせていた。

 

「これは一体……?」

 

「兄さん!妹紅さんとあの子がいません!」

 

そう優月が言った直後ーーー再び弾ける爆音が店の中から聞こえてきた。

 

「店の中か!!」

 

「影月君たちは行って!!ここは僕とリーリスちゃんとトラ君に任せて……!」

 

「分かった!行くぞ!!」

 

「ああ!安心院、リーリス、トラ!彼と付近の人たちは任せた!」

 

「透流っ!気を付けるのよ!」

 

「おい!……くっ、貴様ら全員気を付けるんだぞ!!」

 

火傷を負っていた彼と付近の人たちは安心院たち三人に任せ、俺たちは店の中へと突入する。

すると店内から三度目の爆発音が、それと共に悲鳴を上げて人が波となって押し寄せてきた。

 

「ヤベェ!」

「逃げろ!」

「何なんだよ!?」

「早くどけよ!!」

 

口々に叫び、俺たちにぶつかる事も構わず逃げていく。

 

「おい、何があったんだ!?」

 

透流がその人の波の中で何度か話をした事のある顔を見つけたのか、首根っこを掴んで怒鳴るように問うとーーー

 

「知らねーよ!なんか急に爆発が!ヤベーって!!」

 

パニックに陥った男はもがき、透流が手を離すとつんのめって転びそうになりながらも駆けて行く。

しかし事は爆発だけで終わりじゃなかった。

 

「化け物だーーーーっ!!」

 

店内から、恐怖が入り混じった叫びが響き、互いに押しのけ合いつつ更なる人波が溢れてくる。

 

「行くぞ!!」

 

俺がそう言うと同時に俺たちは、一斉にクラブの床を強く蹴った。

直後、俺たちの体は人波の頭上を飛び越えて、店の奥へと向かうべく宙を疾走する。

勢いが無くなると、エントランスの壁や、ソファ、テーブルなどの足場を使って勢いを付け、どんどんと奥へと向かう。

我先に逃げようと、押し合う客を越えた先で待っていたのはーーー

赤く、紅く、朱く燃え上がる灼熱の炎が至る所で舞い上がる光景だった。

 

「何が……あったんだ……!?これは一体何なんだよ!!」

 

その光景を見て忌々しげに叫ぶ透流。

俺はそんな彼の忌々しさに満ちた叫びに同情の念を抱いた。

おそらく彼の中では、今のこの光景と二年前の記憶が重なっているのだろう。二年前ーーー彼の友人たちや彼の妹が死んだあの燃え盛る道場とーーー

 

「とお、る……?」

「美咲!!」

 

そんな事を考えていると、俺たちの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

透流は床に座り込んだままソファにもたれ掛かる美咲の元へと駆け寄った。そしてその周りを見ると、おそらくドラッグでトンだ様子の数名の姿が目に入る。

 

「どかーんって、すごかったぁ……。あはは、びりびりってして、ふふふ……」

 

「美咲……」

 

明らかにまともでは無い様子に、俺たちは言葉を失う。

すると突然、何を思ったのか透流が立ち上がり、店の奥へと向かって駆け出した。

 

「待て九重!奥は危険だ!!」

 

「俺は他に逃げ遅れた奴がいないかどうか確認する!美咲たちを頼む!!」

 

そう答えた透流は俺たちの制止も聞かずに奥へと走って行った。

 

「くそっ!本当にあいつは単純だな……!俺が連れ戻してくる!」

 

「私も行こう!ユリエと優月は美咲たちを!」

 

「ヤー!」

「はい!」

 

二人の返事を確認した俺と橘は、透流を追って店の奥へと走り始める。

 

「酷いな……こんなに熱くなる程炎が激しいとは……」

 

「うむ。このままだと九重も危険だ。奥で生存者を確認したら即座に九重を連れて戻ろう」

 

「ああ」

 

そう返事をして走りながら、俺は別の事を考えていた。

 

(なんでエレフセリアがこんな事に……誰かがベラドンナのドラッグパーティーを邪魔しようとしたのか?)

 

しかしエレフセリアのドラッグパーティーの事を知っていたのは、《沈黙の夜(サイレス)》と一部の無所属の奴らくらいだろう。そいつらがこのクラブに火を付ける程過激な邪魔をするかと問われると……俺は否と答える。

せいぜい邪魔するとしても、先ほど持っていたバットや鉄パイプ、スチール警棒を振り回す程度だろう。流石に放火までする勇気と意思は彼らには無い。

 

(ならこの炎は一体誰が……?)

 

そう考えていた俺だったがーーーこの後、俺はそんな事など後で落ち着いて考えるべきだった深く後悔する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、如月!そこの前を通るな!!」

 

その後悔のきっかけは俺が考え事に夢中になっていて、橘の忠告を聞きそびれた事から起こってしまった。

橘の忠告に思考が現実に引き戻される。足を止めて橘の方に何があったか聞こうとした瞬間ーーー俺の右側にあった鉄製の扉が勢いよく爆ぜて、灼熱の炎と共に俺の方へ飛んできた。

 

「しまっ……!」

 

どうやら室内に充満していた可燃性ガスが何かのきっかけで爆燃したのだろう。

俺は突然の事過ぎて、呆然としてしまい、防御の構えも取れなかった。

目の前に迫る鉄製の頑丈な扉、そして灼熱の炎ーーーそれらが一瞬のうちに俺の体を覆い尽くすだろうと思った俺は反射的に目をつぶった。

だがーーー

 

「がっ、うぁああぁぁぁぁっ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然苦しそうな叫び声が聞こえ、俺は何かに押されて倒れ込んだ。

 

「ぐっ……ううっ……」

 

その為、俺は後頭部を廊下の壁に強く打ち付けてしまった。しかしその痛みはほんの一瞬だけで、すぐに痛みは引いていった。

 

(痛……でも思ってたより大した事無い……?)

 

その事が気になった俺は今まで閉じていた目を開ける。

するとそこにはーーー

 

「ぐっ……あ、あぁぁ……」

 

「たち、ばな……?」

 

着ていた服の数カ所に大きな穴を空け、全身に大火傷を負い、後頭部から大量の血を流している橘が、俺に覆い被さるように倒れ込んでいた。

 

「橘……橘!!」

 

「う、ぐ……き、如月……無事、か……?っげほっ!ごほっ!」

 

俺が呼び掛けると橘は、苦しそうに笑みを浮かべようとして、血の混ざった痰を吐き出した。

よく見ると彼女の背中には鉄の棒が深々と突き刺さっている。この怪我によって内臓も損傷しているのはもはや容易に想像出来た。

そんな重傷を負った彼女の姿を見て、俺は呟く。

 

「橘……なんで……」

 

「が、はっ……なんで、とは……大、切な……友を、守るのは……当然、ではないか……」

 

そう言って再び苦しそうに笑みを浮かべた橘の姿に、俺の目からは涙が出てきた。それと同時に俺の脳内では数日前から見ていた夢の光景が思い浮かんでいた。

ーーー俺は優月が大怪我を、あるいは死んでしまうのではないかと考えていた。しかし現実ではーーー橘が夢の中の優月のような事になってしまった。そしてよく考えれば、彼女は優月に美咲たちの側にいるようにと言っていた。つまりその時点で、彼女は優月をそんなあり得たかもしれない未来から救ってくれていたのだ。しかしその代償はーーー

 

(くそっ……!もっと俺がしっかりと注意していれば……!)

 

「げほっ……!如月……そんな、に自分を……責めたような、顔をしないで、くれたまえよ……」

 

「だって……橘にそんな大怪我をさせてしまったのは……俺の不注意で……!」

 

「だから……そう、自分を責めるな……こう、するしか……キミ、を救え、なかった私が……悪いのだ……」

 

そう言う橘の目は段々と焦点が合わなくなってきていた。大量に失血している事と、後頭部にダメージを負った事により、意識を保つ事が難しくなってきているようだ。

 

「橘!しっかりしろ!!まさかこんな所で……!」

 

「ふ……心配、するな……私は……まだ、死なぬよ……それに……」

 

橘は自らの血で真っ赤に濡れた右手をブルブルと震わせながらも、俺の頬へと近付けーーー

 

「学園、へ戻ったら……私に、説教を……するのだろう……?」

 

そう言って彼女は笑いながら俺の頬を伝う涙を拭き取った。

そしてーーー彼女は意識が保てなくなったのか、俺へと身を預けるようにして再び倒れ込んだ。

 

「キミ、は……約束を……破る男では……無い、だろう……?ならば、私も……約束を、破るわけには……」

 

ーーーそれ以降の言葉が橘の口から紡がれる事は無かった。

 

「橘ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ーーーそれから僅か数分後、俺たちが戻ってこない事を疑問に思った優月が駆け付けて来るまで、俺は橘を抱きしめながら泣いていた。

徐々に冷たくなっていく彼女の体の熱を逃さないように、ずっとーーー

その時の橘の顔は、後で聞いた優月曰く、どこか嬉しそうな顔をしていた……との事だった。

 

そこから後の事は他の人に語ってもらおうーーー

 




優月の代わりとなってしまったのは橘だった……。橘ファンの皆さん、申し訳ありません。ちなみに作者も橘は好きですから、この場面を書いている時は本当に辛かったですよ?ええ、本当に……。


話は変わりますが、この小説の裏側で水銀が何をしているのかーーーそれを書いた小説を今話と同時に投稿します。是非読んでみてください!

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