アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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本編始まります!



第五話

side 優月

 

週が明け、月曜の朝―――

HR(ホームルーム)後、すぐに英語ということで皆さんとてもテンションが低いです。しかし月見先生は対照的にとてもテンションが高く……。

 

「おっハロー♡みーんな無事に《絆双刃(デュオ)》が決まってよかったねー♪さてさて、パートナーが決まったことで今日から心機一転、席も《絆双刃(デュオ)》同士の並びに変更しよっか♪……ん?おやおやぁ?仮同居のときとパートナーが変わってない人もいるみたいねー?」

 

「相性が良かったんです」

 

「俺たちは兄妹だからな……相性はいい」

 

「わわっ!どんな相性?どんな相性!?」

 

「「性格」」

 

「ちぇー……」

 

一体どんな答えを期待していたんでしょうか……。

 

「じゃあ九重くんの前の席に座る仲良しコンビは?」

 

「誰がこの筋肉バカと仲良しだ!」

 

トラさんは結局、タツさんと《絆双刃(デュオ)》を組んでいました。

 

「んもー、トラくんってばセンセーへの口の利き方がなってないよ。めってしちゃうぞ☆」

 

「断る」

 

「ほんっとになってないなぁ。……まあいっか。さてさて話を続けるけど、《絆双刃(デュオ)》も決まったことだし、早速来週に《焔牙(ブレイズ)》の使用を許可した模擬戦―――《新刃戦(しんじんせん)》を行っちゃうよー♪」

 

その宣言に教室内が驚きと戸惑いの声でざわめきます。

 

「うんうん。みんなの言いたいことはよーく分かるよ。アタシも学生時代に同じこと思ったもん♡いきなり何を言い出すのよこのクソメガネーって。……あ、今の三國(みくに)センセには内緒ね♡」

 

「……面白そうなネタを拾ったな」

 

隣を見ると、兄さんがニヤニヤしながら月見先生を見ていました。あれ?何か嫌な予感が……。

 

「それじゃあ《新刃戦》のルールを説明するから耳を立てて聞いておくんだよー☆ まず日程だけどー、来週の土曜日―――つまりGWの前日ね。誰かが病院送りになってもいいように休み前にやるってわけ♪」

 

病院送りって……縁起でもない一言ですね……。

 

「開始は十七時、終了は十九時までの二時間ってことで時計塔の鐘が合図だからねー。場所は北区画一帯になるよー」

 

「って事はつまりこの校舎内も範囲なのか」

 

「イエス!影月くん!《焔牙(ブレイズ)》にはそれぞれ特性があるからそれに合わせて正面から闘うもよし!戦略を練るもよし!地形を考慮して、いかに自分が有利な状況で闘うのも重要ってわけ♪後、影月くん敬語☆」

 

「後は互いの技術や知略次第って事ですね」

 

となると色々と混戦した闘いになるのは想像に容易いですね。

先週一週間の授業を見た限り脅威となりそうなのは、ユリエさんや透流さん、橘さん、トラさん、力でタツさん、後は武術経験のある城上(きがみ)さんという男子と、スポーツ経験ありで運動能力もクラス上位の(いずみ)さんという男子位でしょうか。―――そしておそらく私たちも危険視されるかもしれません。

 

「さーてさてさて、お楽しみの対戦相手についてだけど〜……ななななんとー♪」

 

月見先生は満面の笑みを浮かべ、指を立てて楽しそうに言いました。

 

()()()♡」

 

 

 

 

 

その日の昼休み。私たちはユリエさん、透流さん、橘さん、穂高さん、トラさんとタツさんと共に学食でお昼ご飯を食べていたのですが―――

新刃戦(しんじんせん)》の話題が出ると穂高さんは牛乳の入ったコップを手にしたまま、憂鬱そうに溜息を吐きました。

 

「はぁ……。まだ《絆双刃(デュオ)》が決まったばかりなのに……」

 

「決まったばかりだからだと私は思うぞ、みやび」

 

「俺も橘と同じだな。この時期だからこそ、意味があるんだと思う」

 

橘さんの言葉に透流さんが同意すると、トラさんも兄さんも頷きます。もちろん私もこの時期にそんな事をする理由も大体は分かっているので頷きました。

 

「どういうことなの?」

 

問われ、橘さんが私が考えていた事とほぼ同じ説明を始めました。

 

「なるべく早い内から実践形式の戦闘を経験させておきたいのだろう。確かにこれからの授業で《絆双刃(デュオ)》としての動き方や心構えは教わったとしても、それは知識でしかない。経験として蓄積させることで知識は真に身につくものだ」

 

「そうだな。心技体―――この中で他の人から教わる事が出来るのは技術だけ。他の二つは自分で体得しなければいけない。だから今回の戦闘訓練の中で今まで習った技術を存分に生かして、他の二つを伸ばせというわけなんだろう」

 

「まあ、つまり習うより慣れろってことだな」

 

「ふんっ。時間帯や範囲の広さ、それにバトルロイヤルというルールからしても不確定要素を高くし、より実戦的な状況を用意してくれているしな」

 

「時間帯?そういえばずいぶん遅くにやるよね。それはどうして?」

 

「開始から三十分も経てば夕暮れですし、終了三十分前ともなれば日没となって非常に視界が悪くなるからです、みやび」

 

「ふんっ。視界の悪さは戦況へ大きな影響を及ぼす。それも経験させておこうということなのだろう」

 

「視界の悪さは、メリットもデメリットも多いので暗くなっていくにつれて混戦になるでしょうね」

 

「そっかぁ、いろいろな理由があるんだね……。理由は分かったけど、もっと《焔牙(ブレイズ)》に慣れてからでもいいと思うのになぁ……」

 

これまでも、これからも《新刃戦(しんじんせん)》まで《焔牙(ブレイズ)》を扱う授業はありません。

ですが、《焔牙(ブレイズ)》を扱う訓練を全く行えないかと言うとそういうわけでもなく―――

 

「みやび、今回は入試と違って負ければ終わりというわけでは無いから背伸びをせずにゆっくりといけばいい。今日の放課後から《焔牙(ブレイズ)》を使えるのだから地道に慣れていこうじゃないか」

 

今、橘さんが口にした通り、今日から《新刃戦》までの間は申請さえ出せば放課後、学園内のみという条件で《焔牙(ブレイズ)》の使用許可が下りることとなっているのです。

おそらく、というより確実にクラスメイト全員が、今日の放課後から《焔牙(ブレイズ)》の訓練を始めるでしょう。

ここで重要なのは、他の《絆双刃(デュオ)》の訓練を()()()()()()しても構わないと伝えられた事です。

つまり間諜(スパイ)行為を学校側が容認しているという事で、情報戦という観点ではすでに《新刃戦》は始まっているのです。

 

「まったく、厄介な話だよな……」

 

「ふんっ、顔はそう言っていないぞ、透流」

 

「ふっ、お互い様だろ」

 

「気合い十分だな、お前ら」

 

「そういう兄さんだってお二人と似たようなものじゃないですか……」

 

「こ、九重くんもトラくんも影月くんもすごくやる気いっぱいだね……。やっぱりあの賞与があるからなの……?」

 

実は今回の《新刃戦》では優秀な成績を収めた《絆双刃(デュオ)》に特別賞与という名目で、学年末を待つ事無く《昇華の儀》を受けられるのです。

必ずしも一度で《位階昇華(レベルアップ)》出来るとは限らない以上、《昇華の儀》は少しでも多く受けられる方がいいですからね。

 

「賞与があるからってわけじゃないんだけどな。もちろん、それも理由の一つだってことは否定しないけど」

 

と、透流さんは穂高さんにそう返しつつ、トラさんに視線を送ります。

 

「ふんっ。貴様と本気で()るのは一年半振りだな」

 

「ああ、そうだな。俺と当たる前に敗退するなよ?」

 

「それは僕のセリフだ」

 

「え、えっと……」

 

「……暑苦しいな、この二人」

 

「ふふっ、みやびには少々分かり辛い関係かもしれないな。だが、この二人に負けぬよう私たちも頑張ろうではないか、みやび」

 

「う、うん」

 

「―――さてと、話の途中ですまないがちょっと三國先生の所に行ってくる」

 

「―――?何しに行くんだ?」

 

首を傾げた透流さんへの問いに対して兄さんは―――

 

「―――ちょっとあのうさぎ先生の言ってた事を……な?」

 

『…………ああ』

 

「如月……キミという奴は……」

 

「なんか言ったら面白くなりそうだからな。ちょっと行って来る」

 

どうやら兄さんは今日のHR(ホームルーム)での月見先生の話を三國先生に言いに行くようです。

行く際に兄さんはものすごい良い笑顔を浮かべて職員室へ向かって歩いて行きました。

 

 

それから少しした後、月見先生がニコニコと笑いながら(目は笑ってませんでしたが)「今日の事チクったの誰かな〜?」と凄まじいオーラを放ちながら走り回っているのが目撃されました……。

 

 

 

 

 

 

週が明け、放課後。

《新刃戦》に向けてクラスメイトのほとんどが模擬戦を行う中、私たちは模擬戦をせずに他のクラスメイトの模擬戦を偵察していました。

私たちは二、三回練習すればあまり問題ないだろうと言う兄さんの言葉により、放課後はのんびり過ごすか、他のクラスメイトの模擬戦を見たりして時間を潰しています。

 

 

そして今日も、もうそろそろ日が沈もうかという頃―――私たちが寮に戻ろうとしたら、寮の入り口で穂高さんと出会いました。

 

「あ、穂高さん。こんな時間にどうしたんですか?もう日も沈みますよ?」

 

「あ、影月くんと優月ちゃん……。えと、《新刃戦》の下見だよ」

 

橘さんは策を立てて《新刃戦》に望むと言っており、放課後に敷地内を見て回ったり、部屋で穂高さんと共に作戦会議等をしていると聞いていました。

 

「こんな時間にですか……気を付けて頑張ってくださいね?」

 

「あ、ありがとう。優月ちゃん」

 

そして私たちに手を振った穂高さんは小走りで走って行った。

 

「穂高さん最近頑張ってますね、兄さん。……兄さん?」

 

「…………」

 

私の言葉に返事をしない兄さんは穂高さんをじっと見つめていました。

 

「どうしたんですか?」

 

「ん……いや、穂高も変わったなって思ってさ」

 

「―――?」

 

「彼女の靴、見てみろ」

 

「靴?……あ!」

 

遠ざかって行く穂高さんの靴をよく見てみると、ランニングシューズを履いていました。

それが意味する所はつまり―――

 

「毎日走っているんだろうな。あの日以来、彼女は本当に頑張っているよ」

 

あの日―――とは、おそらく透流さんが穂高さんをおぶって戻ってきた日の事でしょう。多分その時に彼女の中で何かが変わったんでしょうね。

 

「毎日……だからあまり夕暮れ時には姿が見えなかったんですね」

 

マラソンでも、結構走っているはずなのに毎日自主的に走っているとは……本当に彼女は頑張ってますね。

「……追いつきたいんだろうな……」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。行くぞ」

 

「あっ!待ってください!兄さん〜」

 

私は兄さんの言った最後の言葉が聞き取れずに首を傾げましたが、兄さんが寮の中へと入ってしまったので私も後を追うように入りました。

 

 

 

 

 

《新刃戦》まであと四日―――二時間目の授業終了を知らせるチャイムが鳴り響くと、教室内のあちこちから疲れたような溜息が聞こえてきます。

 

「はぁ……。やっと終わったか……」

 

この学園は戦闘技術を中心に学ぶ学園とはいえ、普通の高校としての面もあるわけで……無論、学科勉強なども当然存在しています。

そんな学科勉強の中の一つ―――英語の授業が終わると、私たちは机に突っ伏している透流さんの所へと集まりました。

 

「ふんっ、まだ始まったばかりだというのに、今からそんな状態でどうする」

 

「やっぱり皆さん、英語は苦手なんですね……」

 

「日本人は日本語さえ話せればいいんだ……」

 

「え、えっと、英語は出来た方がいいんじゃないかな、九重くん……?」

 

「みやびの言う通りだな。卒業後は海外への派遣もあるから語学は重要だと最初の授業でも言われただろう。……はぁ……」

 

「最後の溜息と、その疲れた顔さえなければもっともな一言なんだけどな……」

 

「っ!!し、仕方ないだろう。私も英語は昔から苦手なのだ……!!」

 

「あはは……。実は私もちょっと苦手かな……」

 

「はぁ……。厄介な話だぜ……」

 

「ふんっ。どいつもこいつも情けない」

 

「「「…………」」」

 

成績優秀なトラさんの一言に、透流さんたちは揃って黙り込みます。

 

「情けないは言い過ぎじゃないか?まあ、それはそれとして英語くらいはしっかりと出来るように勉強しとけよ?覚えておいて損は無いからな」

 

「……そういえばユリエと影月たちは、英語余裕みたいだよな。ユリエは英語が国の公用語だったりするのか?」

 

ナイ(いいえ)。英語によく似た言語ではありますが、違います」

 

「ふむ……。ということはユリエは英語、日本語、そして母国語の三ヶ国語を話せるということか」

 

橘さんの質問にユリエさんは首を振り―――

 

「六ヶ国語です」

 

「「「「六っ!?」」」」

 

その数の多さに流石のトラさんでさえも驚き、四人分の声が重なりました。

 

「母国語であるギムレー語と日本語、英語―――あとは北欧の三ヶ国語を」

 

「す、すごいね……」

 

「へ〜……ユリエ、六ヶ国語も話せるのか。思ってたより多いな」

 

「ヤー、影月と優月も英語以外にも話せますか?」

 

「まあ一応な。英語、中国語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、スペイン語。そして母国語の日本語の七ヶ国語位か。どれも読み、書き、喋りも出来るぜ」

 

「「「「七っ!?」」」」

 

私たちがそれ程の外国語が出来る理由は海外派遣などの任務もあるだろうから、最低限世界的によく使われている国際語や話す国が多い言語を学ぶように親から言われたからです。

 

「……ヤー。すごいです」

 

「ね、ねえ三人とも、今度分からない所を教えてもらってもいいかな?」

 

「ヤー。私に出来る範囲でしたらよろこんで」

 

「構わないぞ」

 

「いいですよ」

 

「……すまない。私もよろしく頼めないか……」

 

「俺も頼む……」

 

「ふんっ。僕が教えてやってもいいんだぞ、透流」

 

「いや、トラは性格上きっとスパルタで厄介なことになりそうだから結構だ」

 

「…………」

 

「……落ち込むなよ、トラ」

 

「落ち込んでなどいないっ!」

 

「……ねぇねぇ如月くん、英語教えて!」

「影月頼む!このままだと俺、次ついていけねー!」

「優月ちゃん教えて!頑張るから!」

 

直後、透流さんたちに続いて他のクラスメイトの皆さんが私と兄さんに揃って教えてほしいと言い始めました。

 

「別にいいけど、皆落ち着け!」

 

「順番にしっかり教えてあげますから……」

 

 

 

「……何だこれ?」

 

クラスメイトの皆さんを抑えていると、突然透流さんの声が聞こえてきました。それが気になって見てみると、透流さんの目の前にはノートがあり、そこには綺麗(きれい)な筆記体の英文と―――謎の象形文字が書かれていました。

 

「これは誰のノートなんですか?」

 

「ユリエのだ」

 

「……ユリエさん、この英文の隣に書いてあるのは何ですか?」

 

「……日本語です」

 

そう言ってユリエは恥ずかしそうに目を伏せました。

 

 

 

 

 

《新刃戦》まであと二日―――この日はどんよりした灰色の雲が空全体を覆っていました。

そんな日の四時間目は保険の授業であり、応急処置―――包帯の巻き方を学んでいました。

 

「―――思い出そうとしてて―――ぶっ!?」

 

授業中、何やら透流さんの声が聞こえてきたので、私は気になりそちらへ向こうとしたのですが―――

 

「優月、こんな感じであってるか?」

 

「あ、はい、合ってますよ?」

 

私の足に巻かれた包帯の巻き方が正しいかどうか兄さんに聞かれ、私は自分の足に巻かれた包帯を見ながら答えます。

 

「でもちょっと締め付けが弱い気もしますね。次はもうちょっと強めに巻いてみてください」

 

「…………」

 

「……兄さん?聞いてます?」

 

私の意見に返事を返さない兄さんを不思議に思って目を向けてみると、兄さんは顔を私から少し逸らしてあらぬ方向を見ていました。

 

「どうしました?向こうの方なんか見て……」

 

「いや……あの、優月?」

 

「はい?」

 

「……その、スカート直してくれないか?……ちょっと白いのが見えてる……」

 

「え?」

 

兄さんに言われ、自分の制服のスカート部分に視線を落としてみると、スカートはかなり上まで捲れ上がっていて、結構きわどい所まで見えていました。兄さんが顔を逸らしているので、兄さん側の方からは私のスカートの中が見えているのでしょう。

 

「あ、すみません。―――でも別に兄さん位になら見られても構いませんけどね」

 

「あのなぁ……。そんな事言ったって優月は女の子なんだぞ?もう少し兄である俺に対しても恥じらいを持ってほしいんだが……」

 

……別にいいじゃないですか。この学園に来てからは一緒の部屋で過ごしてるんですから。それに私にだって兄さんに対して恥じらいを持つ事だってありますし。

それからしばらくして、月見先生が今度は《絆双刃(デュオ)》以外の相手とやってみようということになり、私はクラスメイトの女の子と組みました。

 

「優月ちゃん、これで合ってるかな?」

 

「はい!合ってま「誤解だーーーーっ!!」っ!?「この不埒者(ふらちもの)ーーーーっ!!」

 

私がクラスメイトの女の子に包帯の巻き方について言おうとした瞬間、橘さんが大声を出して教室を飛び出していき、その後を透流さんが追いかけていきました。

 

「おお、せーしゅんせーしゅん♪ひゅーひゅーっ☆」

 

そう言いながら、楽しんでいる月見先生を見て、私は思わず苦笑いしてしまいます。どうやら火種は月見先生のようですね……。

 

 

 

 

夕刻になって朝から雲行きが怪しかった空が雨を落としはじめた頃、私は兄さんをなんとか説得して一緒に寮のラウンジへと向かっていました。

 

「優月〜……俺、暇だからポ○モン見てたんだが……」

 

「別に暇だったらこうして付き合ってくれてもいいじゃないですか……」

 

「……今無理やり付き合わされてるけどな……」

 

「ん?キミたちはラウンジに行くのか?」

 

ぶつぶつと文句を言っている兄さんと話しながら歩いていると、ラウンジに通じる廊下で橘さんと会いました。

 

「はい。兄さんと一緒にちょっと覗いてみようかなと」

 

「俺はそんな優月に連行されてる……橘、助けて……」

 

「はは……諦めたまえ」

 

「……裏切り者ぉ……」

 

兄さんの恨めしそうな声を聞いて、私と橘さんは苦笑いします。

 

「そういう橘さんは?」

 

「私はついさっきまでラウンジに居てこれから戻る所だ。もうそろそろ寝る準備をしないといけないしな」

 

「なるほど……分かりました」

 

「うむ。じゃあ、明日の朝に」

 

「はい。明日の朝に」

 

橘さんとはそこで別れ、私たちはラウンジに着きました。

ラウンジにはテレビ、テーブル、イスやソファなどが設置されていて、生徒が自由にくつろげる空間として開放されています。窓際に設置された棚には雑誌やマンガ、ゲームなどが用意されていてお菓子やジュースは飲み食いし放題というマンガ喫茶顔負けの場所となっています。

 

「いっぱい雑誌がありますね。月刊○○ングマガジンとか電○ゲームズとか……」

 

「こっちには○ァミコンとかP○3とかP○4とかあるぞ?他のゲーム機も幾つかあるしソフトも結構あるな」

 

「将棋とかオセロとかチェスもありますね?何します?」

 

「そうだな……ここは軽くオセロでもしようぜ。テレビゲームはまた今度な」

 

「はい!じゃあ準備しますね」

 

そして私たちはオセロを出し、二人で対戦し始めました。勝負は四回対戦して二勝二敗という互角の戦いで結構面白く出来たと思います。そうしてしばらくオセロをやっていると、トレーニングルームから透流さんが出てきました。

 

「ん?影月に優月か?」

 

「お、誰かと思えば今日の昼間の授業で橘と一緒に注目を浴びた九重くんじゃないか」

 

「……注目を浴びたって……まあ、間違ってないが……」

 

それから私たちは透流さんと軽く会話をし、そろそろ部屋に戻ろうとした所で穂高さんが頭からずぶ濡れになった状態で寮に戻ってきました。

 

「穂高。そんなずぶ濡れになるまでどこへ行ってたんだ?」

 

「え?あ、あれ……。九重くんに影月くんや優月ちゃん……こんなところでどうしたの……?」

 

「俺は休憩中、影月たちは暇だから来たそうだ。で、穂高は?」

 

「う……。え、えーっと……」

 

穂高さんが言い辛そうに視線をあちこちへ彷徨わせる中―――

 

「穂高、ランニングお疲れ様」

 

兄さんが穂高さんへと労いの言葉を口にします。それに穂高さんはとても驚いたような顔をします。

 

「えっ!?……う、うん……ありがとう……」

 

「ランニング!?こんな時間に雨の中を!?授業でも走ったのに!?」

 

「う、うん……」

 

「一体どうして……」

 

「…………。じ、実は前に……ふゎ……ふゎっ、くしゅんっ」

 

「おっと、大丈夫か?」

 

「穂高さん、ちょっとこっちに来てください。軽く拭いてあげます」

 

可愛らしいくしゃみをした穂高さんを見て、私はラウンジに置いてあるタオルを片手に穂高さんを手招きします。

 

「だ、大丈夫だよ、優月ちゃん。これからすぐにお風呂に入るから……」

 

「いいえ、こっちに来てください。少しは水滴を取らないと風邪を引きますよ?それに寮の中も濡れちゃいます。ほら―――」

 

そう言った私は穂高さんの頭を優しくタオルで拭き始めます。

 

「すごいずぶ濡れですね……タオルがあっという間にぐしょ濡れですよ」

 

「あ……。ごめんね?」

 

「……そんなになるまでなんで」

 

「透流さん、理由を聞くのはお風呂に入ってきてもらってからの方がいいんじゃないですか?」

 

「あ……そうだな。そのままじゃ本当に風邪を引いてしまうか」

 

「ふゎっ、くしゅんっ」

 

二度目の可愛らしいくしゃみをして、少し寒そうに震える穂高さんに兄さんが言います。

 

「ほら、透流もああ言ってるんだから話は後にして風呂に入ってこいよ。……まあ、俺たちは部屋に戻るけどな」

 

「うん。拭いてくれてありがとうね、優月ちゃん。九重くん、お風呂入ってくるから待っててね?」

 

「ああ。ここで待ってるぜ」

 

「それじゃ、俺たちも部屋に戻るとするよ。また明日な?」

 

「ああ。明日な」

 

私たちは穂高さんと一緒にラウンジを出て、穂高さんの部屋へと向かう階段の前で穂高さんと別れました。

 

「みやびさん、しっかりと温まってくださいね?」

 

「うん、優月ちゃん本当にありがとう。影月くんも心配してくれてありがとう」

 

「気にしなくていいさ。それじゃあ、また明日な?」

 

「うん、おやすみなさい」

 

そして自分たちの部屋へ戻った私たちは異性に対しての苦手意識が段々と薄れてきている穂高さんについて色々と談笑をして、一日を終えました。そして最後に―――

 

「……穂高の奴、もしかしたら透流に惹かれてるのかもしれないな」

 

そんな兄さんの呟きが寝る寸前の私の耳に届きました―――

 




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