アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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今回は幻想郷の二人のお姉さんに関わるお話です。お姉さんです。大事な事なので(ry

紫「あら、お姉さんだなんて……うふふ♪まあ実際、この作品に出てくるキャラって私や幽々子、そしておそらく東方Projetc最高齢の永琳よりも年上がいるけどね」

水銀「私は三〜四万年×那由他位だからな」

安心院「僕も三兆年位だし」

幽々子「だから、たかだか千年程度しか生きてない私たちがBBAと呼ばれる事は、少なくともこの作品ではーーー」

水銀「いや、それでも呼ばれる可能性はあると思うがね。いずれにせよ、私たちは常人から見れば老人だろう。違うかな?」

紫、幽々子「「…………」」

朔夜「あ、え〜っと……そ、それでは今回のお話もお楽しみくださいな!」



第六十話

side 紫

 

「ふぅ……」

 

師走の月日が過ぎ去り、新たな一年の始まりとなる睦月に入ったある日の夜ーーー私は寺子屋の縁側で一人、熱燗を飲みながら雪見酒を嗜んでいた。

 

「…………」

 

もう飲み始めてからかれこれ二時間位経っただろうかーーー辺りはすっかり暗闇に包まれ、光源は丁度真上に浮かび上がっている天体と、それが発する明かりを反射して輝いている雪位しかなくなっていた。

 

「月……ね」

 

誰に言うでも無く呟いて上を見上げる。そこには夜になると必ずと言っていい程現れる天体、月が静かに浮かんでいる。

正直な所、私は月に関してあまりいい思い出が無く、そこに住む者たちーーー月人たちに対してもあまりいい感情を持っていない。

千年以上前に力ある妖怪たちを大量に集めて、月に攻め込んだ第一次月面戦争。

そして霊夢や魔理沙、紅魔館の吸血鬼やメイド、さらには藍や幽々子や妖夢まで巻き込んだ第二次月面戦争。

第一次月面戦争時は月の兵器によって無残にも敗走。第二次月面戦争の結末はとりあえず月の都のリーダーである綿月姉妹にぎゃふんと言わせる事には成功したがーーー実際勝利したとは胸を張って言えないものがあり、正直複雑な気持ちだ。

 

「はぁ〜……」

 

ため息一つはき、私は残ったお酒を一気に飲み干す。

 

「……やっぱり塩辛いわねぇ」

 

今回の熱燗はどうにも塩辛く感じる。先ほどあまり思い出したくない記憶を思い出していたから、尚更そう感じるのかもしれない。

とりあえずこれを用意してくれた藍には後で一言言っておくとして、私は盃を徳利が乗っている盆へと置いて、もう一度息をはいた。

最近、こうして一人で居る時にため息をはく事が多くなった。本来なら冬眠(というかいつもより少しだけ寝てる時間が増えるだけ)している時期なのだが、こうして無理矢理起きているから疲れが溜まっているのかもしれない。

 

「……まあでも、あんな顔されて頼まれたら断れないわねぇ……」

 

思い出すのは妹紅と再会し、あの世界の者たちと初めて知り合った時の事。

妹紅は自分を気にかけてくれたり、手を差し伸べてくれた人たちを救いたいと、どこか自虐的に笑いながら言っていた。

彼女があの時、自虐的な笑みを浮かべていたのは、おそらく自らの過去を思い出していたのかもしれない。

 

岩笠(いわかさ)……ねぇ……」

 

今から数年位前だろうかーーー私は以前、幽々子と共に白玉楼でお茶をしていた時にある一人の幽霊と話した事があった。

その者の名は岩笠。千三百年程前、当時の帝の勅命によって数名の兵士たちと共にとある薬を運んで、富士の山を登ったという男である。

その薬というのは蓬莱の薬ーーーそう、あの月の民たちが生み出し、迷いの竹林に住む月の姫が残したという不老不死の薬である。

岩笠の受けた勅命は月に最も近い富士の山の火口にその薬を投げ入れて燃やせというものだった。

話を聞いた当時は、不老不死の薬がいらないなんて随分欲の無い人間だと思ったものだ。不老不死は寿命が妖怪より格段に短い人間が追い求める一つの夢なのだから。しかしよくよく考えてみれば、そのような考えにも理解出来なくも無い。

月の姫を育てた竹取の翁夫婦は突然いなくなった姫の事がショックで、不老不死なんてどうでもいいかのように寝込んでしまったようだし、帝は姫無きこの世に不死となって生きながらえても何の意味があるのかと思ったのだろう。

つまりどちらも長生きする目的を失ったが為に、不老不死という夢を抱かなかったのである。

私も永く生きてきた身故に、人間というものをよく知っている。だからそんな彼らの思いもそれなりに理解出来た。

 

 

 

……話が逸れたが岩笠はその勅命を受け、富士の山に登っている最中に一人の少女が自分たちの後を付けているのに気が付いたらしい。

その少女は例の薬ーーーその時はまだ運んでいる薬の正体を知っているのは岩笠一人だけだったらしいが、それを一人で奪おうとしていたらしいのだ。

しかし結局その少女は途中で行き倒れ、岩笠が助けたらしい。それから岩笠はその少女や数名の兵士たちと共に富士の山の山頂へ辿り着き、薬を火口へ投げ入れて処分しようとしたが、そこで突然現れた木花咲耶姫によって阻止された上にその薬の正体まで暴露されてしまった。

そして結局薬は処分出来ず、仕方なく富士の山の頂上で一晩を過ごした次の日ーーー朝、岩笠と少女が目覚めると、辺り一面は血の海になっていたそうだ。

咲耶姫は愚かな人間たちーーー岩笠と少女以外の兵士たちが薬を巡って殺し合いをしたと言っていたらしいが、今思えばあの現場はそんな生易しいものではなかったと岩笠は言っていた。

つまりそれが意味するのは咲耶姫が兵士たちを殺したのではないか、という事である。まあ、今となっては確かめようも無い事だと岩笠は言っていたが。

 

 

その後、咲耶姫が薬を処分する場所として八ヶ岳を勧め、二人は下山しようとしたそうだがーーー岩笠は急な下り坂で一人残った少女に思い切り背中を蹴られて滑落、そして気が付いた時には幽霊となっていたそうだ。

岩笠は死した後、自らの背を蹴った少女に対してなぜあの様な行動をしたのか気になると言っていたのを覚えている。

 

 

 

さて、証拠がこれだけ揃っているのならもう分かるだろう。岩笠が話していた少女とはおそらく妹紅の事だ。

そして彼女が不老不死になったのも、岩笠から蓬莱の薬を奪った結果だと考えれば色々と辻褄が合う。あの自虐的な笑みの意味も。

 

「若気の至りって奴ねぇ……後々後悔するのならやらなければよかったのに……」

 

自らに手を差し伸べて助けてくれた人をその手で殺めてしまい、今度はその罪を持つ自分があの時と同じように手を差し伸べて助けてくれた人たちを救いたいと願う……なるほど、確かにそう考えると少し思う所は出てくるだろう。

 

「……詫びたいのね。彼に」

 

そう呟いた私はぬるくなってしまっただろう熱燗を再び飲もうと、視線を向けずに徳利を持って盃に注ごうと手を伸ばす。

するとーーー

 

「ーーーほら」

 

不意に横から軽い口調が聞こえたかと思った瞬間、私の目の前にお酒の入った盃が差し出される。

それに少しばかり驚きながら横を見ると、私たちの世界とは別の世界から来ている一人の青年が優しい笑みを浮かべながら座っていた。

 

「ふふ……ありがとう」

 

それに私も笑みを返して、盃を受け取る。

ぬるくなってしまったお酒を一口飲んだ後、私は彼に問い掛けた。

 

「起こしてしまったかしら?皆寝静まった頃にこうして飲み始めたし、極力静かにしていたつもりだったのだけれど……」

 

「いいや、紫のせいで起きたわけじゃない。ただ少し前になぜか目が覚めてな。そしたら同じ部屋で寝ている紫がいなくて、しばらく経っても戻ってこないからーーー」

 

「気になって私を探しに来たと。心配かけてごめんなさいね」

 

「別に構わない。それよりせっかくだから俺も付き合っていいか?今眠れる感じがしなくてさ」

 

「ええ、構いませんわ。むしろ話し相手がほしいと思っていましたし」

 

一人で雪見酒というのもいいが、私は誰かと楽しく雑談しながら飲むのも好きだ。

 

「了解。ならお望み通り、話し相手になってやるよ。それで……何を話すんだ?」

 

そう聞かれ、私は少しだけ考える。……なら私が今一番彼に聞きたい事を聞いてみよう。

 

「なら一つ聞きたいのだけれど……貴方たちが幻想郷に来てからもう一週間位経つじゃない?」

 

「そうだな。なんだかんだでそれ位経ったか。そういえば橘の方はまだ分かってないのか?」

 

そう言われ、そういえば二日位前にあの閻魔の部下である死神が状況報告に来ていたなぁ、と思い出す。確かそれなりに場所は絞り込めているが、もう少し掛かるとか言っていた。

 

「さあ?でもあの口うるさい閻魔が来てないって事はまだ見つかってないんじゃないかしら?」

 

「そうか……。ああ、悪い。それで何が聞きたいんだ?」

 

私の言葉に少し落胆した影月は気を取り直して、私に問い掛けてきた。

 

「幻想郷に来てから一週間……その間に貴方が感じたこの幻想郷の感想を聞きたいのよ」

 

「感想……ね」

 

私がそう答えると、影月は顎に手を当ててじっと考え込み始めた。

私はその間、盃に注がれたお酒を飲みながら返事を待っていた。そして少しして考えを纏めたのか、彼が答える。

 

「すごく綺麗でいい所だと思うぜ?人間と妖怪、妖精、神とかの神秘が共存する理想郷ーーー本当に素晴らしいと思う。正直な所、見ていて色々と羨ましいなと思う所もいくつかあったよ」

 

理想郷ーーーその言葉と共に述べられる感想を聞き、私は少し嬉しくなる。

 

「あら、そこまで褒めてくれるなんて……ここを創造した者としては嬉しい限りね」

 

「それは何より。それにしても、幻想郷をここまで作り上げるのには相当な年月が掛かっただろ?」

 

「そうね……軽く千年以上は掛かったわ」

 

当時は色々と問題が山積みで大変だった。まずこの幻想郷を作るにあたって最初に行ったのが二種類の結界、「幻と実体の境界」と「博麗大結界」を張った事だった。

その時、事態をあまり芳しくないと思われた龍神様が現れたりと初っ端から雲行きが怪しかったりしたものだが。

他にもある時期の間に妖怪の力が弱まったり、外国からの妖怪である吸血鬼が暴れまわったりと中々一筋縄ではいかなかった出来事も多々あった。

しかしそれだけ大変な思いをした結果が今のこの幻想郷という地を形成しているのだと思うと、本当に苦労して作った甲斐があるというものだ。

 

「一部では神々が恋した幻想郷、だとか言われてるみたいだな?確かに神々が好みそうないい土地だし」

 

「というか、現在進行形で住み着いている神なんていっぱいいるけどね」

 

妖怪の山に住む厄姫とか守矢神社の奴らとか。後は普通に名前も知られてないような神も沢山いる。

 

「それらを色々と管理している紫はすごいよな。疲れないのか?」

 

「そりゃ当然疲れるわよ。だから私は年に一度、少しだけ寝る期間を長くしなきゃならない時期があるのよ」

 

それが今この時期……なのだけれど、彼や彼と共に来た彼女たちにそんな事は言えない。それを言ってしまえば、彼らがこの時期に幻想郷に来るのがいけなかったみたいな言い方になってしまうから。

でも、彼はそんな事もお見通しだったみたいでーーー

 

「……すまないな。本当なら今がその時期なんだろ?それなのにわざわざ無理してまで起きてもらってて……本当に申し訳ない。本来なら俺たちはこの時期に来ない方がよかったんだろうなぁ……」

 

「そんな事は無いわ!」

 

私はなぜだかそんな事を言って申し訳なく、そして悲しそうに苦笑いする彼の顔が見たくなくて声を荒げて否定してしまった。

突然私が声を荒げたので、当然ながら彼は驚いたような顔を私に向けてくる。それを見てすぐに我に返った私は慌てて彼に謝った。

 

「あ……ごめんなさい。突然声を荒げて……」

 

「あ、いや、別に気にしてないからいいんだが……それよりなんでそんなに強く否定したんだ?」

 

それは貴方のそんな顔が見たくなかったからーーーと、答えればいいのだけれど……。そう答えれば、彼はなぜ?と私がそう思った理由を聞いてくるだろう。しかしその理由は私にも分からないのだ。

 

「…………」

 

「……理由は無い?」

 

どう答えようか迷っていると、彼は苦笑いしながら聞いてきた。

 

「いいえ……理由はあるわ。でもそう思った理由が無いというか……」

 

「なんだそれ?理由があるのに無いとか……」

 

確かに我ながら言っている言葉が矛盾している。でも他に表現のしようが無いのだ。

 

「はっきり言ってくれ。このままじゃ気になって眠れないからな」

 

「…………はぁ。ただ何と無く、貴方が悲しそうな顔をするのが見たくなかったのよ」

 

彼の言葉に負けた私は息を一つはいて、自分の思った事を素直に打ち明けた。

すると彼は驚いたように数秒、目を若干見開いた後に問い掛けてきた。

 

「悲しそうな顔、してたか?」

 

「ええ、まるで何かを後悔しているような感じにね」

 

まあ、そんな顔をしていた理由は大体想像がつく。大方、あの時眠っていたあの子()の事だろう。

 

「……後悔、か。……まあ、実際後悔とか迷惑掛けてるって実感はあるよ。俺のせいで友人が生死の境を彷徨う位の大怪我を負ってしまったし、それをなんとか助ける為とはいえ、紫とか映姫とか幽々子にはすごく迷惑を掛けてるからな」

 

「私は別に迷惑だなんて思ってないわ。それは映姫や幽々子もきっと同じに思ってるだろうし」

 

むしろ私的には、随分と久しぶりに他の者から頼られてすごく嬉しいのだ。いつもは何かと胡散臭いとか言われて頼られる事が少ないのだから。

 

「それに貴方たちは私たちから見て、とても魅力的な人たちだもの」

 

「魅力的?」

 

「そう、魅力的。私たちのような人外を認め、毎日を一緒に楽しく過ごしてくれる外来人ーーー」

 

私たちにも引けを取らない位の強さを持ち、思わず私たちの方が頼りたくなってしまう位の優しさを持っている彼ら。

今まで様々な人間たちを見てきたが、ここまでの人間たちなんてほとんど見た事が無い。

 

「私は貴方たちの事が好きよ。……ああ、だからなのかしらね。さっき声を荒げてしまったのは」

 

「好きって……いきなり告白されるとはなぁ」

 

「あっ!ち、違うわ!いや、違わないけれど……。い、今の好きっていうのは、その……れ、恋愛的な意味じゃなくて……!」

 

「分かってるから落ち着けって。loveじゃなくてlikeの方なんだろ?」

 

「え、ええ!そうよ!」

 

「なら、最初からそう言えばいいのにな」

 

「うう……」

 

そう言って笑いかけてくる彼に、私は先ほど取り乱した事が恥ずかしくなって俯く。

確かに彼らーーー特に異性である影月の事は、loveというよりlikeよりの感情だ。まあ確かに影月は顔も性格も頭もいいし、少なくともそこらにいる妖怪よりも実力がある。

そんな彼に対して恋の感情を抱いている幻想郷の者もいるかもしれない。

……何かきっかけでもあれば、私もころっとloveに堕ちてしまうかもしれない。というかフラグを立ててしまった気がする。

 

 

それにしても彼と話していると、どうにも話のペースが彼に握られてしまって調子が狂ってしまう。

普段の私は相手を操りやすくする為に色々と話術や策、さらに仕草を使って自らのペースへと巻き込むのだが、彼と彼の妹の優月が相手だとそれが上手く行かないのだ。なぜなのかは分からないが。

 

「あ、そういえばさっきからずっと気になってたんだが……」

 

「……何かしら?」

 

「そんな顔で睨むなよ……。紫は寒くないのか?もう結構長い時間ここにいるんだろ?」

 

また彼のペースに巻き込まれた気がして何と無く悔しく思った私は彼を睨む。しかし彼は苦笑いしながら受け流してそんな事を聞いてきた。

そういえばもう飲み始めてからかれこれ二時間以上は経っている。それだけ長い時間外にいれば、普通の人間より体が何倍も丈夫な妖怪である私でも流石に寒さを感じる。

まあ、先ほどまであったかい熱燗を飲んでいたので震える程ではないが、彼に言われて自覚し始めると段々寒くなってきた気がする。

 

「ん〜……ちょっと寒くなってきたかしら?流石にここでちょっと長く飲み過ぎたかしらねぇ」

 

もう時刻も亥の刻位だろう。もう少しここで飲むつもりだったが、そろそろ部屋へ戻って眠った方がいいかもしれない。

そう思って、杯を盆の上に置いたその時ーーー

 

「ちょっといいか」

 

「っ!?」

 

その言葉と共に、いきなり影月が私の手を掴んできた。そんな突然の行動に私は驚いて硬直してしまう。

すると影月はーーー

 

「手、すごく冷たいじゃないか。何がちょっと寒くなってきた、だよ」

 

そして彼はお酒の乗っていた盆をずらして、私の体を自らの方へと引き寄せた。

 

「ほら、くっつけばそれなりにあったかいだろ?」

 

「え、あ……そ、そうね……」

 

彼からそう聞かれ、なんとか返事を返した私だったが、内心はかなり混乱していた。

突然手を掴まれたと思ったら、引き寄せられて体をくっつけてきたのだから、混乱するのも無理は無いと思う。

そして段々と冷静になって状況を理解してくると、頬が徐々に熱くなってきて、心臓も早鐘を打ち始める。多分今の私は恥ずかしさで頬が真っ赤になっているだろう。

なのにこの子はーーー

 

「どうした?顔が赤いぜ?」

 

ニヤニヤしながら意地悪くそんな事を聞いてくる。これは完全に私の内心を見透かした上で聞いているのだろう。それに少しながら悔しいという感情が湧き上がってくる。

が、ここで一つ私はある事を思いついて、少し笑みを浮かべつつ言った。

 

「うふふ……どうして顔が赤いのかって?それはーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は影月の唇へ自分の唇を重ね合わせた。

 

「んっ……」

 

「んんっ!?」

 

そんな突然の行動に驚いたのか、影月は目を見開いて私の顔を見てきた。

私はそんな彼に向かって視線で笑いかけた後、ゆっくりと唇を離して笑う。

 

「こうして貴方と一緒にいれて、一緒に話せて、こんな恋人同士でやるような事が出来て嬉しいからよ。ふふ……中々美味しかったわ、ご馳走様」

 

「恋人同士って……俺には付き合ってる人がいるんだが」

 

「知ってるわ、朔夜(あの子)でしょう?でも私は構わないわよ?貴方にとっての何番目の女でもね?」

 

そう言うと、今度は彼の方が顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

初めて見れたそんな反応が可愛らしく思えた私は、さらに彼に寄り添った。

 

「あらあら、どうしたのかしら?そんなに顔を赤くして?」

 

「……したり顔しやがって……突然キスするとか卑怯だぞ」

 

そう言って彼は睨んでくるが、頬が少し赤いせいで微妙に説得力に欠ける。

私はそんな彼がさらに愛らしく見えてきて、私の胸に彼の顔を埋めるようにして抱きしめた。

 

「ちょ、紫!?」

 

「貴方って中々可愛らしい所があるのねぇ。ふふ……なんだか貴方の事がもっと好きになってきたわ。ーーーもっと貴方の事が知りたい。だから……ねぇ、ちょっと向こうの方へ行きましょう?ここじゃあれだから……ね?」

 

「…………」

 

私がそう誘うと、影月は断るとかもう寝た方がいいとか酔い過ぎじゃないかとか色々言ってきたがーーー私が何度も諦めずに誘惑を繰り返すと、彼は最終的に観念したのか「好きにしてくれ……」と言ってくれた。

 

 

そこから先の事は今この場で語るものではないでしょうから、皆さんのご想像にお任せします。

ーーーただ、一つだけ言える事は今日この夜に起きた出来事によって私は彼をーーー如月影月をかなり好きになったという事だけですわ。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はほんの僅かだけ遡りーーー紫と影月がそのような事をしている裏側で、とある場所では幻想郷の冥界に住む華胥の亡霊がとある人物と思いがけない邂逅を果たしていた。

 

 

 

side no

 

 

この幻想郷では死した人間の魂は中有の道を通り、三途の川を渡り、閻魔様の裁きを受けるという循環が出来ている。

その際、その人間の罪の重さによって地獄か冥界か天界等へと行き先が分かれる。

その内の冥界は、罪無き死者が成仏するか転生するまでの間、幽霊として過ごす世界である。

荒涼とした地獄とは異なり、四季が顕界と同じように存在する世界であり、春には冥界に存在する桜の木々が美しい桜の花を咲かせ、秋には紅葉で美しく染まる。

そのような四季が豊かな世界であるならば当然、冬となれば冥界でも雪が降る。現に今この時も冥界では雪がしんしんと降り積もっているのだ。

 

ーーーさて、そんな冥界にはとてつもなく広い庭園を持つお屋敷が一つ、存在している。

屋敷の名は白玉楼。冥界に永住する事が許されている名家、西行寺家の持ち家でその名家のお嬢様、西行寺幽々子とその従者、魂魄妖夢が住んでいる。

建物の見た目はよく一般に想像されるような美しい日本屋敷であり、中庭には玉砂利が敷き詰められ、見事な松の木が植わった枯山水の庭園もある。

 

「もぐもぐ……」

 

そんな由緒正しい屋敷の縁側では、一人の少女が傍に置いてある大量の団子をかなり速いペースで食べながら、空から降ってくる雪を眺めていた。

その少女の名は西行寺幽々子。先ほども述べた通り、この屋敷に住む西行寺家のお嬢様である。

 

「もぐもぐ……もぐもぐ……」

 

彼女は一言も言葉を発する事無く、ただただ団子を咀嚼する口と団子を口へと運ぶ手のみを動かしていた。

そして彼女の隣に積み上げられていた大量の団子が残り五つとなった時、彼女は団子の乗った皿の隣に置いてあった緑茶を一口啜って息をはいた。

 

「……死とは儚く尊いもの、生きとし生ける者全てが必ず経験する絶対に逃れられない事象ーーー私は人も妖怪も一瞬で死に誘う能力を持っているわ。そんな能力を持っているからなのかしらね……時々考えるのよ。死とは何かってね」

 

彼女のまるで誰かに語りかけるような独白は静かな庭園内の隅々まで響き渡る。

 

「老いや病によって体が機能しなくなる事?何かしらの致命的な外傷を受けた肉体が鼓動を止めて停止する事?そしてそんな使えなくなった肉体から魂が出てきた瞬間?ーーー死とはそれらの事を言うの?……貴方はどう思うかしら?こんな夜中に許可無く侵入してきた不審者さん?」

 

幽々子は変わらず前を見たまま、まるで背後にいる何者かに問いかけるようにして言葉を紡いだ。

すると彼女の背後で何か黒い靄のようなものが音も無く現れる。それは最初、ほんの掌程の大きさの靄だったがーーー次の瞬間、それは確かな質量を持ってして人の形を形成していく。

そのような目を疑う出来事が背後で起きているというのに、幽々子は何事もないかのように団子を一つ、口の中へと放り込んで咀嚼する。

そして彼女の背後に現れた影が彼女に向かって、先の問いの返事を返した。

 

「ふふふ……いずれも違うと私は考える。なぜなら私が知る限り、この世に生きる生物は皆、不死なのだからね」

 

そう返答を返したのは、全身をボロ外套で覆った若い男だった。

幽々子はそんな男に視線を向けずに問いかける。

 

「なぜそう思うのかしら?根拠でもあるの?」

 

「無論。この世は輪廻転生という循環で回り続けている。この法則は非常に優秀だ。生物の心臓が止まったその瞬間、刹那の誤差も無くその魂は来世へと転生させられる」

 

「へぇ……でも強制的に転生させられるのならそれは死んだ、という事では無いのかしら?」

 

幽々子は興味深そうに問いかけながら、二つ目の団子を食べる。それに対して男は嗤う。

 

「確かに普通に見ればそう映るだろう。だが、その輪廻転生はこの世界で使われている輪廻転生とは少々異なっていてね。無論転生すればその者の前世の記憶は全て白紙へと帰るが、自らが前世で歩んだ道筋は無に帰らない」

 

「自らが歩んだ道筋は無に帰らない……」

 

「そして転生した世では、前世で歩んだ分だけ成長した己となり、新たな生き方、可能性を模索する。曰く、これは螺旋なのだよ。前世で歩んだ道は決して無駄にはならず、己が望む願いに辿り着く為に自らの道と生をどこまでも追及し、全うする。人は永遠に続く輪廻の中で自らが心から望む願いを胸に、ただひたすら歩み続けるのだ。それはある種、不死であると言っても過言では無いと思うのだが、どうかね?」

 

「…………」

 

そう問われ、幽々子は黙って考え込む。

自分が前世で選んだ道が消えずに、来世でもその経験が認識出来ないとはいえ残っているというのならばーーーなるほど、確かにそれはある意味不死と言えるのかもしれない。

 

「……なるほどねぇ、そういう考えーーーいや、そういう世界もあるのね」

 

そう呟いた幽々子は三つ目の団子を口へと放り込んで、ここでようやく背後にいる人物へと視線を向ける。

そこには陽炎のようにゆらゆらと揺れる影絵のような男が立っていた。そして幽々子はその男の顔を見て、一瞬目を丸くした後に笑った。

 

「あらあら、どんな顔の男が私の屋敷に入り込んだかと思えば……貴方、影月くんや優月ちゃんの父親かしら?」

 

「おや、なぜそう思われるのですかな、西行寺殿」

 

「幽々子、でいいわよ。そうねぇ……理由は二つあるわ。まず一つはあの二人が持ってる力の質が、貴方の持つ魂の質とすごく似通っているって所。そしてもう一つはーーー影月くんとそっくりのその顔よ」

 

そう言って幽々子は再び笑う。それを見た男ーーーメルクリウスもまたつられて笑う。

 

「彼とそっくり、か。確かに私と彼を両方とも知っている者は皆、口々にそう言うよ」

 

「世の中には同じ顔の人が三人はいると言うけれど……この目で見たのは初めてねぇ」

 

「ふふふ……ならば私と彼にそっくりな顔をした男をもう一人、ここに呼んでも構わないだろうか?文字通り、同じ顔の人物が三人集まる事になるが」

 

「あら、もう一人いるのね。それは是非とも見てみたいーーーと言いたい所だけれど……」

 

幽々子は緑茶を一口飲んでから、彼に鋭い視線を向けた。

 

「それはまた別の機会ね。それで貴方がここに来た理由は何かしら?メルクリウスさん?わざわざこんな所まで来て、私とただ世間話をーーーというわけでもないでしょう?」

 

「然り、本来ならばもう少し貴女とゆっくりと語り合いたいのだがね。生憎と今は時間が惜しい」

 

「何か他にご用事でも?」

 

「さてーーー」

 

メルクリウスは幽々子の問いかけに首を傾げながら答えた。それが意味する所はつまり、教える気が無いという事である。

それに対し、幽々子は彼が言う他の用事がこちらにとってあまり関係の無い事だと判断。思考を切り替え、四つ目の団子を食べてから本題を切り出した。

 

「もぐもぐ……まあ、それは構わないけれど、それよりも早く本題へと入りましょうか?何か私に頼みたい事でもあるのかしら?」

 

そう問いかけた幽々子は表情にこそ出さないが、内心かなり複雑な気持ちだった。

幽々子は以前、影月たちからこの男の性格や人物像について聞いていた。

曰く、策謀や暗躍が大好きな男で、基本的に小石一つを投じた後は傍観している男だと。しかしその小石一つの投擲が恐ろしい程巧妙かつ正確で、この男の投擲を受けた者は例外無く人生を狂わされていると。

それらの情報と、ついさっきまでの彼との一切隙の無いやり取りを思い返した幽々子は、心の中でメルクリウスの事をこう評した。

 

(この男ーーー紫よりも危険ね)

 

彼女はメルクリウスの事を一番古い親友であり、同じく策謀や暗躍が得意な紫より何十倍も危険な人物だと評した。事実その評価は決して間違ってはいないだろう。

そしてそんな危険な人物が今、自らの目の前に現れて何か一石を投じようとしている様子に幽々子は非常に警戒していた。

彼女の表情や態度などは至って何事も無いかのように振舞っているものの、その透き通るような桃色の瞳だけは常にメルクリウスの姿を映し出し、一挙手一投足すらも見逃す気は無いといった意志を薄っすらと感じさせる。

そこまでして彼女が警戒するのも無理は無いだろう。なぜなら今から投げられるだろう一石で、この幻想郷の運命が確実に変化してしまうだろうから。

 

(……本来こういうのは紫が相手する筈なのにねぇ……。まさか私の方に来るなんて……今日はツイてないわ。本当、紫っていてほしい時に限っていないわよねぇ……)

 

これからの幻想郷の未来選択をいきなり一人で背負わされた幽々子は、内心とてもげんなりしながらここにいない親友に悪態をつく。

しかしそのような考えすらも見通しているのか、メルクリウスは気味の悪い笑みを浮かべながら話す。

 

「然りだ、幽々子殿。実はーーー」

 

そう言ったメルクリウスは彼女に“頼み事”を説明し始めた。

幽々子は自分に説明をしてくるメルクリウスを注意深く観察しながら、内容をしっかりと聞いていた。

 

 

 

 

そして数分後、メルクリウスは彼女に依頼する“頼み事”について一通り話した後、彼女に視線を向ける。

 

「ーーー以上が私から貴女に頼みたい事だ。理解したかね?」

 

そう問われ、幽々子はーーー

 

「……少しいくつか質問しても構わないかしら?」

 

「何なりと」

 

そう言うメルクリウスに幽々子は最初に最も気になる事を聞いた。

 

「なら一番最初から思っていたのだけれど、なぜ私なのかしら?その頼み事は私じゃなくて紫にするべきよ?」

 

「それはそうなのだが……彼女は現在我が息子と二人で仲良くなっているようでね。そのような仲睦まじくしている場に私が突然現れるなど、二人の大切な時間に水を差すようなものだ。それに彼女に直接頼むより、彼女の親しき友である貴女から伝えてもらった方が幾分か都合がいいのだよ」

 

「…………そう」

 

そう聞き、紫は本当にあの子と何をしているのだろうかと呆れながらも返事を返した。

 

「じゃあ次に聞くけれど……なぜ私たちにそれを頼むのかしら?貴方たちの事は影月くんたち(あの子たち)から聞いているわ」

 

「それはそれは……」

 

「そして当然だけど、貴方たちの戦闘能力についても大体知っている。なら、こうして私たちに協力を申し出る必要は無いんじゃないかしら?」

 

影月たちの話によると、彼らはこの幻想郷住民が束になって不意を突いたとしても勝てない程の実力を持っているらしい。

それ程の力を持つ彼らなら、こうしてまどろっこしい事などせずに今すぐ行動を起こして、相手を叩き潰した方がいいだろう。しかしーーー

 

「それがそうも行かないのだよ。確かに先に話した彼女たちを叩き潰すのは、私たちにとって赤子の手を捻るよりも容易だが……今回の目的は殲滅ではなく説得。その為にはどうしても君たちが私たちに協力したという足跡が必要なのだよ。でなければ後々、お互いに面倒な争いが起こる事になるが……嫌と言うならばそれでも構わないが?」

 

「…………」

 

そう言われて幽々子の脳裏に真っ先に思い浮かんだのはーーー例の都との戦争。

一度目は大敗し、二度目は辛うじて知略だけが勝利したあの時の記憶が蘇り、さらにこの提案を蹴った先にあるだろう結末を予想して幽々子は顔を歪める。

 

「……ああ、確かに断ると面倒な事になるわねぇ。もしかしたら()()()()()()()が起こるかもしれないわ」

 

ここでメルクリウスの提案に乗らなければ、第三次月面戦争のきっかけーーー穢れを嫌う月人たちと穢れを多く持つ幻想郷の者たちの勝ち目の無い終末戦争が幕を開けるかもしれない。

かと言って提案に乗ってしまえば、それはそれで面倒な事になってしまうだろう。

 

(これって完全に詰みよねぇ……。彼の手を取るしかないけど……でも、私たちはただでは踊らないわよ?)

 

そう思った幽々子はメルクリウスに問いかける。

 

「……大体の内容は理解したわ。でもそれはそれとして、私たちに何かメリットはあるのかしら?無ければ正直、乗る気は無いわ」

 

「無論、君たちにもそれなりのメリットは与えるつもりでいる。ーーー例えば、君たちの頼みや願いを私が出来る限り叶えてみせる、というのはどうかな?」

 

「…………」

 

その発言に幽々子は若干の驚きを浮かべながら、メルクリウスの顔を見る。

その顔は初めて会った時からずっと変わらない薄ら笑いをしていたが、目だけはどこか真剣味を帯びていた。

 

(……本気で言ってるのね。なら……こちらも色々と利用させてもらおうかしら)

 

そう思った幽々子は最後の団子を口の中に入れてから答える。

 

「分かったわ。その提案、乗らせてもらいましょうか」

 

「重畳」

 

幽々子の返事を聞いたメルクリウスは一層笑みを深めてそう返事を返す。

その笑みを見た幽々子は一瞬背筋がゾッとしたが一度視線を逸らし、咳払いを一つして気持ちを落ち着かせてから再びメルクリウスを見る。

 

「なら早速頼みたい事があるのだけれどいいかしら?」

 

「構わぬよ。何をお望みかな?」

 

「みたらし団子、五百本位ここに追加してもらえるかしら?」

 

「…………」

 

「…………」

 

とびきりの笑顔で皿を指し、そんな事を言う幽々子にメルクリウスは今日初めてとも言える表情の変化を見せた。

即ち呆れ顔である。

 

「……先ほどから見ていたが、まだ食べるつもりなのかね?あまりこのような事を貴女のような美しいご婦人に言うのは失礼極まりないと重々承知の上で言わせてもらうが……それ以上食べると流石に太ると思うのだが」

 

「あら、失礼ねぇ。私のどこが太ってるのよ」

 

「いや、別に今太ってると言っているわけでは無いのだが……」

 

「まあ、確かに私は他の人より()()()()だけ多く食べるけど、ちゃんと体重とかの管理はしてるわ」

 

「……そもそも貴女は亡霊という肉体が無い身故、太るという概念事態無いのでは?」

 

「それは言わないお約束。それに亡霊とか幽霊みたいな精神体も一応は太るのよ。結構食べないと太らないけど」

 

「…………結構食べている気がするがね」

 

そう言ってさらに呆れた様子のメルクリウスに幽々子は「うふふ」と返事を返した。

 

「冗談よ。本当に頼みたい事は他にあるわ」

 

「……まさかみたらし団子ではなく、三色団子に変更して更に緑茶も欲しいなどと言うつもりではないだろうな?私は茶屋の店員では無いよ」

 

「だからさっきのあれは冗談よ?まあ、本当にくれたら嬉しいけれどーーーってそれはいいから、頼み事を聞いてちょうだい」

 

「ふむ、ならば仕切り直してーーー何をお望みかな?」

 

そこで二人は再び真面目な雰囲気を醸し出しながら、話を続ける。

 

「今の所、貴方に頼みたいのは一つ。その前に貴方はあの子たちがどうやってこの幻想郷に来たのか知ってるかしら?」

 

「無論だ。八雲殿の境界を操る程度の能力……だったかな?あれのスキマという技でこの世界に来たと記憶しているが」

 

「そうよ。というかそこまで見てたのなら多分知ってるでしょうけど……紫がこの時期、本当なら力を使わずに冬眠してるのも知ってるわよね?」

 

「冬眠というか、若干彼女の寝る時間が増えるだけだろう。事実、以前少し覗いた際にはそのような感じだったしね」

 

「…………」

 

さらっと友人のプライベートを覗き見ていたこの男に、幽々子は若干の寒気を覚えるも、無視して続ける。

 

「……で、そんな時期に無理やり力を使ってるものだから……紫、結構体にキテる筈なのよね。多分それに気が付いてるのは私だけではないと思うけれど」

 

紫は他の幻想郷住人たちや影月たちに、自らの疲れを悟らせまいと、気丈に振る舞いながら頑張っていた。しかしながら、長年の親友である幽々子はそれを見抜いていたのだ。伊達に千年以上の友人関係を続けていない。

それはおそらく同じく千年以上の友人である伊吹萃香や、彼女の式である八雲藍、さらに洞察力が鋭い影月や優月も見抜いているだろう。

 

「だから少しでも楽させてあげたいの。それで頼み事だけれど……紫にあまり負担を掛けないようにして、あの子たちといつでも会えるようにしてほしいのよ」

 

「ほう……それはつまり、あちらの世界とこちらの世界の行き来を八雲殿の力に頼る事無く、自由に出来るようにしてほしい、と?」

 

「ええ、貴方ならきっと結界とかに影響無く出来るでしょう?」

 

「確かに不可能ではないが……」

 

「ならお願いよ。……私たちは、少なくとも私は彼らと別れたくないの」

 

どこか含みのある言葉と共に笑う幽々子に、メルクリウスは視線を少し細めた。

 

「……それは彼らが君たち(幻想)を受け入れてくれたから、かね?」

 

「もちろんそれもあるわ。けれど……」

 

そこで言葉を切った幽々子は少し困ったような笑いを浮かべた。

 

「なぜかしらね……今、彼らと関係を絶ってしまえば何か取り返しのつかない位、大変な事になるーーーそんな予感がするのよ」

 

そんな幽々子の言葉を聞いたメルクリウスはーーー

 

「大変な事、か……」

 

何かを噛み締めるかのように小声で幽々子の言葉を反服した。

そんな彼の様子を不思議に思った幽々子は、どうしたのかと彼に問いかけようとしたのだがーーー

 

「……おっと、すまないね。少々昔の事を思い出して呆然としてしまった。貴女の頼み、委細承知した。近い内に用意しておこう」

 

まるで何事も無いかのように話を終わらせたメルクリウスは、先ほど現れた時と同じように靄となり、音も無く消え去ろうとしてーーー

 

「待って」

 

幽々子の呼びかけによって、その動きを止めた。

 

「……最後に一つだけ、いいかしら?」

 

「何かな?」

 

「……貴方は何の為にこんな事をしているの?」

 

「何の為にとは愚問。私の行動理由は永劫ただ一つのみ、この世界の総てを包み込んでいる女神の為。故に他の事は知らんし、本音を言うとどうでもいいのだよ」

 

「それは違うんじゃないかしら?」

 

永劫、至高の既知と評した一人の女性の為に何百何千何万何億と回帰した男。そんな男にとってはその女性以外の有象無象など総てが既知であり、彼の言う通り一片の興味すらも無いものだろう。しかし幽々子はそれを正面から否定した。

 

「なら、貴方はなぜそこまで悲しそうな顔をしているの?ーーーまるで()()()()()()()()()()()()って感じに見えるわ」

 

そう答えた幽々子に対して、メルクリウスは一瞬驚いたかのように目を見開いた。

 

「貴方はさっき、女神の為とか言っていたけれど……本当は皆の為なんじゃないかしら?それにさっき、私の言った大変な事になるって言葉に何か引っ掛かってたみたいだから……。貴方はこれから先の未来がどんな風になるのか、大体分かってるんじゃないかしら?」

 

「……いやはや、貴女は中々鋭い慧眼をお持ちのようだ」

 

メルクリウスは観念したかのように肩を竦めて苦笑いした。この男にしては珍しい反応である。

 

「確かに私は女神を第一に動いていると自負しているが……実際の所、今回は我が友である獣殿や息子である刹那、そして君たちやあの兄妹の為にも動いている」

 

「私たちや……あの子たちの為?」

 

「然りーーー全ては(きた)るべき戦いに勝つ為。これから先、数千年後に現れる下種に打ち勝ち、最良の未来へと至る為」

 

「…………」

 

そう言うメルクリウスの目は、普段のような他人をどこか見下しているような目では無かった。

その目を見た瞬間、幽々子は思わず驚き、若干後ろに身を引いてしまう。それも無理は無いだろう。なぜなら今のメルクリウスの目には憎悪と悲憤の感情を宿していたのだから。

 

(下種……?最良の未来……?それって、彼がここまでの目をする程の相手だというの……?)

 

「……ああ、怖がらせてすまない。今のは話半分程度で聞き流してくれたまえ。では、私はこれにてーーー」

 

そう言ったメルクリウスは瞬きする間に消え去ってしまった。

 

 

 

後に残ったのはメルクリウスが先ほどまでいた場所を呆然と見つめている幽々子だけだった。

 

「…………下種、ね」

 

幽々子は最後にメルクリウスが言っていた言葉がどうしても気になり、言葉を反服する。

下種とは一体誰の事を指しているのか。

あれ程までの憎悪と悲憤を溢れ出させる程、凄まじい相手なのか。

その下種とやらに自分たちがどのようにして関わってくるのだろうか。

そしてーーー自分たちの未来はこれからどうなってしまうのか。

 

「……あら?」

 

そんな事を考えていた幽々子はふと視線を横に向け、声を上げる。

そこには大量のみたらし団子と湯気が立ち上る美味しそうな緑茶が置かれていた。

 

「いつの間に……というか、冗談で言った事なのにしっかり用意してくれるなんて律儀ねぇ」

 

そして幽々子はみたらし団子を一つ手に取って食べようとしたその時、盆に置かれた一枚の紙に目が止まった。

幽々子は右手でみたらし団子を取りながら、左手でその紙を取る。

その紙には、おそらくメルクリウスが書いたと思われる言葉が添えられていた。

 

 

『一応、貴女に最初に頼まれた事なので、私たちの世界でかなり美味しいと評判の団子と上質な緑茶を置いておく。遠慮せずに食べるといい』

 

 

「こんなものまで置いていくなんて、本当に律儀ねぇ。……あら、この団子すごく美味しいわ。いくつか残して妖夢や紫にも食べさせてあげようかしら」

 

そう言いながら幽々子は、未だしんしんと雪が降り続いている空を見上げた。

 

「……どちらにせよ、紫には彼の言っていた事は話さないといけないわね。ーーーそして私たちも色々と備えないといけないわ」

 

これから先、起こるのはおそらくこの幻想郷でたまに起こる異変などよりも数十倍は凄まじい出来事ばかりだろう。それに対してこの幻想郷に住む者たちは本気で挑まなければいけないのかもしれない。

あのメルクリウス(魔術師)に目を付けられた以上、もはや逃げる事は出来ない。ならば全力を持って抗わなければーーーそれこそ本当に恐ろしい結末になってしまうのではないか。

そんな思いと共に呟いた幽々子の言葉は、雪が降り続ける空へと消えていった。

 




というわけで、紫視点と第三者目線で幽々子とメルクリウスの会話でした。

安心院「紫ちゃんがフラグを立てて、速攻回収してる件」

紫「し、仕方ないじゃない!あそこまでやって、はい終わり……なんて私も出来ないし……」



ところでアニメ、dies iraeの放送日が決まりましたね。

蓮「超今更だな」

楽しみですねぇ(笑)そしていらっしゃい雑念寺も中々面白いですよね(笑)

紫「そうねぇ……私はヴァレリアがお父さんと呼ばれて狂喜乱舞する回が結構面白かったわ」

あれですか……個人的には先輩が「ウザい、死ね」の後の叫び声で大爆笑しました(笑)ってか神父さんが完全にネタキャラに……(笑)

幽々子「私は……やっぱりお茶の間の代表、シュピーネさんの回かしらねぇ」

紫「ああ、あれね……私もあれは結構気に入ったわ」

ああ、いわゆるーーー


影月、優月、紫、幽々子「「「「形☆成!」」」」


ですね!(笑)やっぱりシュピーネさんは色々な意味で我ら爪牙を魅了してくれますねぇ(笑)

幽々子「流石シュピーネさんよねぇ」

シュピーネ「あの〜……そこまで持ち上げないでくれませんかねぇ?正直な所、そこまで期待されてもアニメで責任を持てないというか……困ってしまうというか……」

何言ってるんですか!アニメのシュピーネさんに期待を寄せてる人は沢山いるんですよ!困ってないで頑張ってください!

シュピーネ「えぇ〜……」

さて、では今回はこれで終わりです!誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!
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