アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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皆さんお久しぶりです。
それなりに待たせてしまい、申し訳ありません。今回も是非楽しんでいってください。ではどうぞ!



第六十二話

side 影月

 

幻想郷から戻ってきた次の日の朝、朝食を食べ終えた俺たちは二週間振りとなる教室へ向かっていた。

 

「はぁ……幽々子の奴、なんとか今朝は食べる量を減らしてくれたな……」

 

「そうですね。……なんたって昨日の夕食はあんな事がありましたからね……」

 

 

 

 

 

 

『いっただっきまぁ〜す♪』

 

 

ムッシャア……

 

 

『!!!??』

 

幽々子が笑顔でいただきますと言った瞬間、ビュッフェの料理の約七割が一瞬で消え―――いや、幽々子の腹の中へと収まったようだ。

 

『ん〜♪おいひぃ〜♪どれもこれも美味すぎて口と手が止まらないわぁ♪』

 

『な、な……!?』

 

『い、一瞬でビュッフェの料理が……!?』

 

いきなり目の前で起きた信じられない現象に俺たちのみならず、食堂に居た人たち全員が呆然、そして戦慄する。しかしそんな周りの反応を気にしていない幽々子は目を輝かせながら、周りにいる人たちの料理へ視線を向けた。

 

『あ、そこの貴女が持ってる唐揚げいただけないかしら〜?』

 

『えっ!?―――ああっ!私の!!』

 

『もぐもぐ……♪あ、そこの貴方のパスタもいただき〜♪』

 

『あっ!?俺のパスタがっ!?』

 

『ちょ、幽々子さん!?』

 

『りょ、料理が一瞬で消えていく……』

 

そんな他人の料理すらも食べていく食欲魔人は、一向に食べる速度を緩めない。

 

『『………………』』

 

『ひっ!?え、影月くんと映姫さん……?目が怖いよ……?』

 

『あちゃ〜……やっぱり我慢出来ずに振り切れちゃったみたいだねぇ……』

 

『……映姫、やっぱり彼女……』

 

『……ええ、言わなくても分かってます。ですがまずはこの被害をなんとしても止めなければなりません』

 

『ん〜♪このお刺身も美味しい〜♪あ、こっちのチキンも―――美味し過ぎるわ〜♪』

 

『おい!それは僕のだ!』

 

『俺のチキンが……俺のチキンが……!』

 

トラが怒鳴り、透流が落ち込む中、幽々子は次の標的として妹紅へと向かった。しかし幽々子の狙いは妹紅の持っていたお皿では無く―――

 

『はむっ……。う〜ん、こっちの焼き鳥も美味しいわぁ〜♪』

 

『ちょ、おい幽々子!!私は焼き鳥じゃないぞ!?だから私の腕を食べるのはやめろ―――』

 

 

ブチィッ!

 

 

『うわぁぁぁ!!腕が!!腕がぁぁぁ!!!』

 

『きゃあぁぁぁぁ!!!妹紅さんの腕がぁぁ!!」

 

『はぁ〜……幸せ……♪』

 

『うっわぁ……すっげぇカオスだぜ……』

 

『……阿鼻叫喚ってこういう事を言うんですよね……』

 

『『……幽々子ォォォ!!!』』

 

 

 

 

 

 

……うん、安心院と優月の言う通り、めっちゃカオスで阿鼻叫喚地獄だったわ。

 

「妹紅ちゃんの腕が噛みちぎられた辺りから、周りも恐慌状態になったよね」

 

「いや、当たり前だろ!?誰だって他人の腕食って幸せって言ってる奴見たら悲鳴位は上げるって!」

 

中には失神して倒れた人もいた位だ。ちなみに腕を噛みちぎられた妹紅はあの後、一瞬で腕を再生させてた。非常に不謹慎な事だが、本当に不老不死ってこういう時役立つなって思った瞬間だった。……そんな状況で役立つってのも嫌だが。

その後、俺と映姫は優月や他の生徒たちと協力して暴食の限りを尽くしていた幽々子を取り押さえる事に成功。二人でがっつり説教した。

 

「冬眠に入った紫を呼ぶべきか迷ったけどなぁ……」

 

「幽々子さん、本気で泣きながら懇願してきましたよね……」

 

 

 

 

 

 

『さて―――幽々子、何か言いたい事はあるか?』

 

『……ええ、その……ごめんなさい。ついやってしまったわ』

 

『反省は?』

 

『…………してるわ』

 

『なんですか、今の間は』

 

『い、いえ!本当に反省してるわ!』

 

『……映姫、紫を呼んでくれるか?相談してやっぱり幽々子を幻想郷に―――』

 

『待って!お願い、本当に待って!!』

 

『待たん。釘を刺した側から派手にやらかしたからな』

 

『そ、そんな……!』

 

『影月さんがこう言ってるのです。諦めなさい』

 

容赦無く切り捨てる俺たちに幽々子は縋り付いてくる。

 

『い、いや……お願いよ!影月くん!』

 

『無理だ。諦めろ』

 

『……うぅ……』

 

『…………』

 

『……ねぇ、お願いよ……せめてもう一回だけチャンスをちょうだい……?』

 

涙目で許しを乞う幽々子だが……今回のは少しばかり許容出来る範囲を超えている。

一応復活したけど負傷者だって出たし。

 

『……映姫、紫は?』

 

『……まだ何の応答もありません。どうやら完全に眠っているようですね』

 

『そうか……折角寝れたのにまた起きてもらうのは偲びないが仕方ないからな。呼びかけ続けてくれ』

 

『はい』

 

『兄さん!本当に幽々子さんを幻想郷に送り返す気なんですか!?』

 

『当然』

 

『……影月君、もうそこまでにして今回だけは許してあげたらどうだい?幽々子ちゃんも本気で反省しているみたいだしさ……ほら』

 

『っ……グスッ……ヒグッ……ううっ……』

 

『幽々子さん、泣かないでください……。兄さん!映姫さん!本当に許してあげてくださいよ!可哀想じゃないですか!!』

 

『『…………』』

 

『グスッ、ほ、本当にお願いよぉ……こ、今度は気を付けるからぁ……!ヒック、だ、だから……!お願いだから帰さないで……!』

 

『幽々子ちゃん……』

 

俺に縋りながら、幽々子は涙を流して必死に懇願してきた。

その様子は本当に心の底から反省し、帰らせないでほしいという思いが伝わってくる。

 

『……はぁ……幽々子』

 

『グスッ……な、何?』

 

『反省、本当にしてるか?』

 

『うん……本当に悪かったと思ってるわ……』

 

『……もう今日みたいに見境無く食べたりしないか?』

 

『うん……しない……』

 

『本当に約束出来るか?』

 

『うん……絶対に約束する』

 

『…………よし、なら今回だけは許してやる。その代わり、次は無いからな?映姫もそれでいいか?』

 

『……この世界にいる限り、私は影月さんやここの方々の意見に従うまでです』

 

『っ!!あ、ありがとう……!……それと……ごめんなさい』

 

『お礼はいいって。……それに俺だって謝らなくちゃいけないな。悪かった、つい色々厳しく言ってしまって……』

 

『……いいのよ。私は、自分の食欲のままに行動してしまって、ここに居る人たちの楽しみを多く奪ってしまった……。それを考えれば、影月くんや四季様、皆の怒りも当たり前の事……本当にごめんなさい』

 

深々と俺たちに頭を下げた幽々子に俺は苦笑いする。

 

『幽々子のその気持ちはもう十分に受け取ったよ。それよりも今はさっき料理を食べてしまった人たちに謝ってきた方がいい。ほら―――』

 

『……そうね……うん。謝ってくるわ』

 

 

 

 

 

 

「それにしても、わざわざあそこまで言う必要はあったんですかね?正直、幽々子さんが本当に可哀想だったんですが……」

 

まあ、確かに言い過ぎたかなとは思っている。まさか本気で泣きながら縋り付かれるとは思ってなかったし、何よりそんな幽々子を見ていて心が痛んだ。

でも、だからと言って叱らずに放置するって事も出来ない。

 

「いいや、むしろあれぐらいしっかり釘を刺しておかないと、後々もっと大事になるかもしれないからな。あれぐらいで丁度いい」

 

実はあの時、映姫には紫を呼ぶように指示を出していたが、実際俺は紫を呼ぶ気は無かった。

あそこで紫の名を出したのは幽々子を本当に反省させる為だったのだ。つまりはハッタリ。

おそらく映姫もそれを分かっているだろう。

 

「紫を呼ぶって嘘に即興で合わせてくれた映姫には申し訳無い事をしたな……」

 

そういう意味で現在俺の中では凄まじいまでの罪悪感が渦巻いている。幽々子にかなりキツく言ってしまったし、映姫に対してはそんな俺の演技に付き合ってもらったのだから。

後で幽々子と映姫に謝りに行った方がいいな……。

 

「映姫さんは気にしないでくださいって言ってましたけどね」

 

と、そんな話をしている内に教室へ辿り着く。

 

「さて、二週間振りの授業か……」

 

「一時間目は確か数学でしたね。今まで出来なかった分、しっかりやらないと……」

 

「分からない所があったら、僕が教えてやるぜ」

 

「ああ、頼む」

 

そして教室へと入った俺たちは、クラスメイトたちに挨拶をしようとして―――

 

「あれ……?」

「んん?」

「んっ?」

 

ここに本来居る事の出来ない筈の人物を目にする。

 

「巴ちゃん!長い間入院してたって聞いたけど大丈夫?」

 

「ああ、なんとかある程度までは回復したよ。心配かけてすまなかったな」

 

「おはよう、今日から授業復帰か?」

 

「うむ、今日から授業に出てもいいと許可をもらったからな。まあ、戦闘訓練などは参加出来ないから見学するだけになるが……」

 

苦笑いしながらクラスメイトの質問に一つずつしっかりと答えていたのは、つい昨日までベッドの上で体を休めていた筈の橘だった。

俺たちは首を傾げながら、彼女に近付く。

 

「橘?」

 

「ん?ああ、如月達か。おはよう」

 

「ああ、おはよう……って待て待て」

 

「む?」

 

「何、普通に出てきてるんだよ?昨日目覚めたばかりで、色々と様子を見るから安静にしてろって言われただろ?」

 

「ああ、その事か……」

 

すると橘は苦笑いしながら答える。

 

「実は今朝、朝食を病室で食べた後、映姫さんがやって来てこんな事を言ってきたんだ」

 

 

 

『おはようございます。……どうやら結構元気が出てきたようですね。なら、早く準備して授業とやらに出ますよ。あ、お医者様に許可はもらってるので気にしないでください』

 

 

 

「……とな」

 

「「「……はあ?」」」

 

映姫がなんでそんな事を……?

 

「なんで?」

 

「私にも分からない……」

 

「……ちなみに映姫は?」

 

「何やら幽々子さんや萃香さんを探しに行ったっきり見ていないが……」

 

『…………』

 

そんな話をしているうちに、段々とクラスメイトたちが席に着き始めた。

見てみると透流たちもすでに席に着いていて皆、朝のHRを待っている。

 

「……その話は後にしよう。俺たちも席に座るか」

 

「そうですね。では巴さん、体調が悪いと思ったらすぐに言ってくださいね?」

 

「ああ、心遣い感謝するよ。では後でな」

 

「はい―――兄さん、なんか嫌な予感がするんですけど……」

 

「奇遇だね……僕もそんな予感がするよ」

 

優月と安心院の何やらフラグを立てるような言葉を聞きながら、自分たちの席に座って月見先生が来るのを待つ。

すると―――

 

「おっはよんよ〜ん♡今日も朝から元気にHR、はっじめるよ〜♪」

 

相変わらずいつもと変わらないテンションで月見先生が入ってくる。

そんな月見先生を見て俺はなぜだか、実家に帰ったかのような安心感を感じた。

 

(って、いやいや、俺はなんでそんな事で安心感を感じてるんだ?)

 

そんな事を考えていると、月見先生は「あ、そうそう!」と言って手を叩いて全員の注目を集める。

 

「まず最初に皆に言っておかなきゃいけない事があってね〜♪実は今日、皆の授業を是非とも見学したいと言ってる人たちが、今教室の外に居てね☆」

 

「…………」

 

「…………に、兄さん……」

 

「……まさか……ねぇ?」

 

月見先生の言葉にクラス内がざわめく中、俺たちは揃って顔を見合わせる。

 

「まあ、アタシの説明を聞くよりもまずはその人たちに早速入ってもらおっか!それじゃ、どうぞ〜♪」

 

月見先生が教室のドアの方へ声を掛けると、教室のドアを開けて三人の人物が入ってくる。

それを見て―――

 

(((やっぱりかぁ……)))

 

俺たちは揃って、頭を抱えながら呆れるのだった。

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 幽々子

 

 

『さて、それじゃあ今から影月さんたちの授業、見に行きましょうか』

 

『『……え?』』

 

 

朝食を食べ終えた私と萃香の前に現れた四季様がいきなりそんな事を言い出してから、約三十分後―――私たちは影月くんたちの教室の前で、月見ちゃんが私たちの事を呼ぶのを待っていた。

 

「別に普通に入って行ってもよかったんですけどね」

 

「月見ちゃんが呼ぶまで待っててって言ってたからねぇ……」

 

どうやらサプライズということをしたいらしいが……昨日、私はあんな事をやらかしてしまったので、正直そんな事をされても顔を出し辛い。

というかそもそも―――

 

「四季様、なぜ私たちはここに居るのでしょう?」

 

私は今だにこの状況をあまりよく理解していなかった。何せろくに説明もされずに、四季様にここに連れて来られたのだから。そしてそれは萃香も同じ事―――彼女もまた理由を求める視線を四季様に向けていた。

それを知ってか知らずか、四季様は答える。

 

「実は今朝、橘さんの所へお見舞いに行きまして……」

 

「あらあら……彼女の加減はどうでした?」

 

「……話には聞いていましたが、流石《超えし者(イクシード)》と呼ばれるだけの事はありますね。昨日までの不調がほぼ無くなっているようでした。後は軽く運動するだけでおそらく普段通りの体調に戻るでしょう」

 

「……驚いたね。まさかそんなに回復が早いなんて」

 

「やっぱり彼女も影月くんたちと同じ、人外なのねぇ……」

 

昨日の橘ちゃんは体を起こすのもやっとって感じだったけれど、今朝四季様が訪ねた時は普通に病室内を歩いていたそうだ。

 

「なので私は、彼女をこの学園の授業に出しても特に問題無いと判断して連れ出したのです。あまり長く休むと授業単位とやらに響くそうですからね。ちなみに病棟のお医者様にも許可をもらっています。ただし体を動かす授業は控えるように言われましたけど」

 

ちなみに授業単位というのは、授業科目を単位と呼ばれる学習時間に区分したものの事を指すと後で影月くんから聞いた。正直あまりよく分からなかったけれど、つまり授業の受けた回数が少なかったりしたら、卒業出来なかったりして色々と大変な事になるらしい。

それにしても問題無いと判断して連れ出したって……。まあ、お医者様の許可をもらってるならいいけれど……。

 

「しかし彼女は昨日まで意識不明でした。それに幽々子の反魂の術の副作用なんかも後に出てくる可能性も否定出来ません。なので彼女の経過観察を行う為に私たちはここに居るのです」

 

「橘ちゃんの経過観察……ね……。本音は?」

 

「この世界の学校で行う授業にすごく興味があるのでここに居ます」

 

萃香の質問にあっさり本音を答える四季様。普段の彼女からはまったく想像出来ない程の私欲が入った本音だった。

しかし、そんな四季様の気持ちは分からなくない。いや、むしろ私や萃香も同じような気持ちだと言える。

そもそも幻想郷の外の世界についてだって興味津々になる私たちなのだ。外の世界とは別の異世界の事など、私たちの興味が向かない筈がない。

まあ、ここに居ない妹紅は他にやる事があるとか言って参加していないけれど。

 

「そういえば……幽々子は昨日、紫と二人きりで何か話していましたね。一体何を話していたんですか?」

 

すると今度は四季様がそう聞いてくる。

 

「別に大した事じゃないわ。あのスキマについてちょっと話し合いをしたくらいよ」

 

そう答えながら、私は紫と二人きりで話し合った時の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『―――っていうのが、メルクリウスさんがあのスキマと引き換えに出した条件……というか頼み事よ』

 

『…………幽々子、その話……全て本当?』

 

『ええ……信じられないかもしれないけれど……』

 

実際、私も彼からその話を聞いた時は自分の耳を疑ったものだ。

 

『……メルクリウスさん曰く、彼女たちの存在はいずれ訪れる戦いの鍵になるかもしれないそうよ』

 

『……そうは言われてもねぇ……正直に言わせてもらうけど、私はあの連中とは今後も極力関わりたくないわ。それに……』

 

紫はそこで言葉を切って、どこか遠くを見つめた後に呟く。

 

『……今年、なのよ?()()の封印が解けるのは』

 

『あれ?……ああ……そういえば……もうあれから二百年も経ったのね……』

 

『ええ……そして幻想郷が出来て以来、初めての封印解除……いえ、封印が破壊される、と言った方が表現として正しいかしら』

 

そんな紫の言葉に、今から二百年前に見たある恐ろしい存在の記憶が蘇る。

 

『憎悪に染まった龍神……ね……』

 

―――その存在はかつて太古の時代から人々に崇められ、祀られていた龍神だった。伝承によるとその龍神はとてつもなく巨大な黄金の体を持ち、星の血流とも言える地脈を司る偉大な神獣だったそうだ。

しかし時代の流れによって人々は神秘を信じなくなり、信仰を忘れ、大地を自分たちの住みやすいように作り変えてしまった。

人々からの信仰を失い、貶められ、さらには自らが司っていた地脈というものすらも封じ込められた龍神は人間を含む万象総てに怒り狂い、存在するだけで未曾有の災厄を振り撒く廃神に墜ちてしまう。

眩いまでの輝きを持っていた黄金の体は腐り落ち、数多の生物たちの発展を見守っていた眼も濁りきった廃神は人々に再び崇められたいと願いながら、破壊の限りを尽くした。

 

『……それにしても封印が破壊されるって……確かあれを封印する式を敷いたのは紫よね?その式が破壊されてしまうなんて事がありえるの?』

 

私が見る限り、紫が敷く式はほぼ完璧だと言える位に強力だ。

そんな並の妖怪どころか、紫以上の実力を持つ人外ですらも封印してしまう式を破壊されるなんて私には想像出来なかった。

しかし紫は苦笑いしながら答えてくれた。

 

『……普通にありえるわよ。そもそも相手は星の血流とも言われる地脈の化身であり、総てを滅ぼす規格外の破壊神よ?そんな神を永遠に封印する事なんて私じゃなくても出来ないと思うわ。あれは自らに掛けられた封印の術式ですらも破壊してしまう。だから私程度の妖怪が全力で敷いた封印術式も―――大体二百年程度で破壊されてしまうの』

 

『……聞けば聞く程規格外ねぇ……。まあ、そんな存在をなんだかんだで二百年も封印出来る紫も大概だと思うけど』

 

『ふふ……それは褒めているのかしら?』

 

『もちろんよ〜♪流石紫ね♪』

 

『……そう言ってくれて嬉しいわ。でも、私が出来たのは結局その程度の事。しかも外の世界に放っておく事も出来ないから、止む無く幻想郷へ連れてくるしかなかった』

 

外の世界は今や、幻想や夜を恐れない人間たちの天下である。そしてそんな外の世界の裏返しである幻想郷は今や妖怪―――人外の天下で成り立っている。

これは紫の創り出した結界による効果で、外の世界で神秘が消えれば消える程、幻想郷では逆に神秘が強くなるのだ。

 

『でも、外の世界の人間たちがもし例の存在によって根絶やしにされてしまったら?……きっと幻想郷にも深刻な影響が出る。それこそ私たちの存在が危うくなる位の……ね』

 

だから紫は例の存在を不本意ながらも幻想郷に連れてきたのだろう。

外の世界という私たちが手を出しにくい場所に放置して、外の世界の人間たちに全てを任せるか。あるいは幻想郷に連れてきて、多くの犠牲を払いながらも自分たちが再び封印するか―――

そう考えると、明らかに後者の方がいいと言えるだろう。私が思うに、外の世界の人間たちでは決してあれには抗えないだろうから。

対してこちらは紫や霊夢などの術者、さらには封印を敷くまでの時間稼ぎが出来そうな者たちもいる。

 

『……本当は幻想郷の皆に迷惑や辛い思いはさせたくないんだけれど……こればかりはどうしようもないのよね……』

 

『ええ……分かってるわ』

 

紫にとっても苦渋の選択だったのだろう。それは親友である私も痛い程分かっている。

紫は―――本当に心の底から幻想郷を、そこに住む者たちを愛しているのだ。だから―――紫は私たちが知らない間に陰で色々とやってくれている。

 

『……私は幻想郷という楽園を作って以来、あれが与える被害を出来るだけ最小限になるように色々な策を考えてきた。正直、どれもこれもあれにとっては雀の涙程度の効果しかないでしょうけれど……何もしないよりは断然いい。それは幽々子にも分かるでしょ?』

 

当然だ。あれは人や妖怪……果ては八百万の神様たちですらも恐怖し、逃げ出すと言われる程の力を持っている。しかしそんな相手を前にして、何もせずにただ恐怖に震えているのは賢明とは言えない。

 

『とまあ、私はそれについての事とかいろんな事を考えてて常時脳みそフル回転状態なのよ。そんな時に頼み事をされても、正直手一杯過ぎて困るのよね……』

 

『―――紫、ごめんなさい。そんな忙しい時にこんな頼み事を持ってきてしまって……』

 

私は……そんな紫に、親友に大きな負担を掛けてしまった。ただでさえ近いうちに災厄の塊が目覚めるというのに……それを忘れて、さらに忙しくなってしまうような頼み事を持ってきてしまった。

疲れたように笑う紫を見て、罪悪感に駆られた私は頭を下げる。そんな私に紫は―――

 

『謝らなくても大丈夫よ。幽々子がこうしていきなり頼み事を持ってくるのはもう慣れてるもの。その話もとても大事な話だってのは変わりないし。それに―――』

 

そこで紫はふっと笑って呟く。

 

『実は私もさっきの話の中の幽々子と同じ予感がしていたのよ。彼らと私たちは別れてはならない、関係を絶ってはいけない……ってね』

 

『紫……』

 

『なぜかは分からないわ。確かに私たち(幻想)を受け入れた彼らと別れたくないというのもある。けれどそれとは何か別の予感も……そうね、言うなれば……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような―――』

 

……やっぱり紫も私と似たような事を感じたみたいね。

 

『……もしかすると私たちはそう遠くない未来、あの子たちの為に何かしなければならないのかもしれないわ』

 

『……そうね……。しかもそれは必ず成し遂げなきゃいけない……』

 

私たちは向き合って、お互いの瞳を相手の瞳に合わせながら、戒めるように呟いた。

 

『……ねぇ、幽々子』

 

そしてその黄金の瞳に強い意志()を宿した紫が、私の瞳を真っ直ぐに見据える。

 

『私は……そんな予感にとても興味があるし、もしそうなったとしたら必ず成し遂げたいと思う。それがあの子たちの為になる、というなら尚更』

 

『紫……それは私も同じ気持ちよ』

 

『……ふふっ、なら―――』

 

『ええ、なら―――』

 

 

 

『『私たちは―――』』

 

 

 

 

 

 

 

「―――こ、幽々子?どうしました?突然ぼーっとして……?」

 

そして四季様に呼ばれる声で私は記憶の旅から戻ってくる。目の前にはどうしたのかと私を見てくる四季様と萃香の姿があった。

 

「うふふ……なんでもないわ。ただ昨日の紫との語らいを思い出していただけよ」

 

「「―――?」」

 

首を傾げて私を見る四季様と萃香に笑みを溢す。

……私たちはこれから先の事について色々と考えなくちゃいけない。でも今この瞬間だけは―――

 

「どうぞ〜♪」

 

すると扉の向こうから月見ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。

 

「あ、やっとですね。それじゃあ行きましょうか」

 

「いよいよだねぇ♪」

 

「うふふ♪楽しみねぇ♪」

 

私たちはそれぞれその胸に同じような感情を抱きながら、教室へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

私たちが教室へ入ると、席に座っている子たちは私たちを見て「おぉ……」とか「わぁ……」などと声を上げながら、どこか見惚れているような顔を向けてくる。

その一方で、私を見て驚いた表情を浮かべたり、恐怖に近い表情を浮かべる子もいた。そんな顔をする子たちの大半は昨日、暴走していた私に夕食を食べられた子たちだった。

 

(本当に申し訳ない事したわねぇ……)

 

私はそんな子たちを見て、思わず苦笑いしてしまう。きっとその子たちと仲良くなるまでにはそれなりの時間が掛かるだろう。まあ、そんな状態にさせてしまったのは私なのだけれど。

 

「はいは〜い!この三人の美女たちが今日一日、皆の授業を見たいって事で来てくれたよ〜♪それじゃあ早速自己紹介を―――と思ったけど、今日は早めにHR終わらせちゃうから、興味のある人はHRが終わってから個人的に聞くんだぞ♡―――じゃ、後の事は任せたぜ!《異常(アニュージュアル)》!!」

 

「は!?いや、ちょっと待て!!」

 

「月見先生!?なぜ私たちに丸投げを―――」

 

「じゃあ、皆今日も一日頑張ろー!おー!」

 

影月くんと優月ちゃんの呼び掛けにも答えずに、月見ちゃんはそそくさと教室から出て行ってしまった。

後に残ったのは席から立ち上がって呆然としている影月くんと優月ちゃん、そしてそんな二人へと説明を求める視線を向けているクラスの子たちと私たち。

 

「あの(野郎)……!全部俺たちに丸投げしやがった……!」

 

「……確かに月見先生より私たちの方が彼女たちの事知ってますけど……月見先生、それ程映姫さんと関わるのが嫌だったんですか……」

 

「それでもあそこまで綺麗に丸投げするなんて……流石の僕も驚いたよ」

 

「あの……えっと……」

 

あ、珍しく四季様が困ってる。ちなみに月見ちゃんが逃げるように教室から出て行った理由に、私は心当たりがあった。

実は昨日、夕食後にちょっとした事で四季様が月見ちゃんに軽く説教をしたのだ。

……軽くと言っても二十分程度は説教していたが。

 

(まあ、昨日みたいにうるさく説教されたら避けたくなるのも当然よねぇ……)

 

実際、私も月見ちゃんの立場だったとしたらきっと似たような事をしてしまうと思う。あそこまで全部丸投げにはしないけれど。

 

「え、影月さん?私たちはどうすれば……」

 

「……はぁ、あの腹黒ウサギ、後で覚えておけよ……。とりあえず昨日姿は見たけど、名前は知らないって人が大半だろうから、映姫から自己紹介してくれ」

 

「は、はい……」

 

四季様はクラスの子たちに改めて向き直った後、気を取り直すかのように咳払いを一つして話し出す。

 

「えー……皆さん、初めまして。私は四季映姫と申します。今日は皆さんの授業に興味があり、見学させてもらおうと思ってやってきました。よろしくお願いします」

 

「ふっ……!」

 

四季様、橘ちゃんの経過観察って建前が完全に消えて、本音をそのまま曝け出してるわね。

萃香もそれに気付いて笑いを堪えてるし……。

 

「?どうしたんですか?」

 

「っ!いや、なんでもない。……さて、私は伊吹萃香。私も映姫様と同じ目的でここにやってきたよ。よろしくね〜」

 

さっきの四季様の堅苦しい挨拶から一変、萃香の気軽な挨拶にクラスの子たちの表情が緩む。彼女は情に厚くていい鬼だから、私たちの中でクラスの子たちと馴染むのが早そうだ。

そして最後に残った私が自己紹介しようとして、一歩前へ出ると数人の子たちの表情が強張った。

 

(……はぁ……。自業自得なのは分かっているけれど、そんな反応をされると少し悲しくなるわね……)

 

内心で溜息を吐きながら、私は苦笑いを浮かべて話す。

 

「……そこまで怖がらなくても大丈夫よ。もう昨日みたいな事は絶対にしないわ」

 

『…………』

 

「……皆、大丈夫だ。彼女とは昨日、しっかりと話し合って約束させたからな。もう昨日みたいな事は起こらない。もし起こったらどうするか、対処法も決まってるし」

 

影月くんの言葉に、先ほどまで強張っていた子たちの表情が少し和らぐ。影月くんったら、随分と皆から信頼されているのねぇ。そして優月ちゃんも―――

 

「だから皆さん、幽々子さんともちゃんと仲良くしてくださいね?あ、幽々子さん自己紹介……」

 

「ええ。ありがとう、二人とも。それじゃあ改めて……初めまして、私は西行寺幽々子。昨日見た人もいるだろうけれど、食べるのが好きなただのお姉さんよ♪でもまあ……昨日のような事は本当に起こさないから、あまり怖がらずに接してくれると嬉しいわ」

 

「……で、今日はこの三人が俺たちの授業を見るってわけだが……ちなみに朔夜はこの事知ってるのか?」

 

「はい。事前に許可は得ています」

 

「ならいいね。さて、それじゃあ―――」

 

と、安心院ちゃんが言葉を紡ごうとした瞬間、鈴の音が鳴った。

 

「あらら、始業のチャイムが鳴っちゃったぜ」

 

「とりあえずいつも通り、授業の準備をしましょうか。映姫さんたちへの質問はまた後でということで……」

 

そう優月ちゃんが言うと、クラスの子たちは頷いて授業の準備を始める。

 

「さて、私たちはどうすれば……?」

 

「三人とも、こっちだ」

 

私たちは影月くんの手招きによって、彼の近くへと向かう。

そして影月くんたちの元へと着くと、早速溜息を吐かれた。

 

「はぁ……」

 

「……影月くん、開口一番に溜息吐くのはやめてくれないかしら?」

 

「いや、だって……朝から色々な心配事が舞い込んできたら……なあ?」

 

「はい……」

 

「まあまあ、そんなに心配しなくても大丈夫さ。あまり邪魔しないようにするから」

 

「ならいいんだがな……」

 

そんな話をしていると教室の扉が開き、一人の女性が入ってくる。よく見ると手に本を持っているので、彼女は教師なのだろう。

 

「お、先生が来たか……。とりあえず映姫たちは、俺たちの後ろにある椅子に座って授業見学してくれ」

 

「分かりました」

 

そして私たちが後ろの椅子に座ると、授業が始まる。

さて、別世界の学校の授業を見させてもらいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから時は経ち―――五、六時間目の授業。

今日最後の授業は《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》というものをやるらしく、私たちは現在格技場という場所に居た。

今日一日、色々と興味深い授業を見させてもらい、最後にこの学校の特殊訓練授業―――戦闘技術の授業も見せてもらえるという事で、どんな事をやるのだろうと内心わくわくしていた私だったが……。

 

「はぁ……」

 

私は深く溜息を吐いて、()()()で《焔牙(ブレイズ)》を構えている優月ちゃんを見る。

 

「それじゃあ幽々子さん、始めましょうか?」

 

「……そうね」

 

それに対して私も、安心院ちゃんに作ってもらった剣(殺傷威力無し)を構える。そして心の中で一言。

 

(どうしてこんな事になったのかしら……)

 

そう思いながら横目で、他の人たちの方へと視線を向ける。そこには―――

 

 

 

「ふふ、ふふふふふ……」

 

「はは、ははははは……」

 

自らの《焔牙(ブレイズ)》を全力で振り下ろした影月くんと、それを大きく後方に飛ぶことで回避した萃香が、とても楽しげな笑みを浮かべて睨み合っていた。

 

「相変わらず人間が出したとは思えない威力だねぇ……。ああ、やっぱり君とやり合うのが一番楽しいよ!まだ始まって一合もやってないけど、もう滾ってきた……!」

 

「ああ、同感だ。俺も萃香と二週間振りにやり合えるのが嬉しいよ。それにしても、相変わらず見た目に合わない身体能力だな……瞠目するよ」

 

双方、それぞれ構えは解かずにお互いの事を褒め合う。

あの二人は二週間前のあの決闘で戦って以来、随分と仲良くなっている。ある時はまるで仲のいい兄妹みたいにじゃれ合うし、また今回のような時はお互いを認め合う好敵手となっている。

 

「さて……準備運動はさっきので十分だろう?そろそろ本腰を入れてやろうか?」

 

「もちろん!」

 

そして二人は芝居がかった抑揚で。この上なく真摯に、苛烈に叫ぶ。

 

「それじゃあ……いざ尋常に―――」

 

「―――勝負しようか!!」

 

お互いを認め合う二人は、精一杯この闘い(遊び)を楽しむように激突する。

二人の戦闘は辛うじて私の目で追える位の速さで展開され、影月くんの《焔牙(ブレイズ)》と萃香の拳がぶつかり合う度に火花が飛び散り、まるで剣戟を行っているかのような音を響き渡らせる。

二人の戦闘によって巻き起こされた風は相応の強さを持って、格技場内に吹き荒れる。

 

 

 

 

「……影月くんって……あんなに強かったっけ?」

「……なんか影月が段々遠い存在になっていくなぁ……」

「少し見ない内にあそこまで強くなったなんて……あんなに強くならないといけない位、幻想郷って所はすごいのかな?」

「萃香さんもあんな小さい見た目なのに、凄い力を持つ鬼なんだもんね……」

「やべぇ……俺らも頑張らないと……」

 

 

……二人がそんな模擬戦とは言えないレベルの戦闘を開始した事で、周りで彼らを見ていた子たちは若干放心状態になりながらそう呟いていた。まあ、それも仕方ないけれど。

ちなみに先ほどの呟きの中で気付いた人もいると思うが、クラスの子たちには私たちがどこから来たのか、そして私たちの正体が何者なのかは伝えてある。……それ聞いて結構すんなりと受け入れてくれた彼らにはとても驚いたが。

まあ、妹紅も以前大体の事情を説明していたみたいだし、彼らにとっては私たちの存在もそれ程驚くようなものではなかったのだろう。

 

 

閑話休題(それはともかく)―――

 

 

私は影月くんと萃香から視線を外し、もう一人の幻想郷から来た人物に目を向ける。

 

 

 

「はっ!!」

 

四季様が手に持っている懺悔棒を全力で横に振り払う。その速度は萃香の拳に負けず劣らずの速さで威力もかなり強い。

直撃すれば体の骨が折れるどころか上半身と下半身がお別れするだろう。

 

「くっ!」

 

しかしそんな攻撃を放つ四季様の相手―――透流くんは具現化した《楯》で防ぐ。

ガキィンという音を立てて攻撃を防いだ透流くんは、お返しとばかりに四季様に拳を放つ。彼の攻撃も中々に威力が高く、速度も悪くない。

だが―――

 

「よっ―――と!」

 

四季様は引き戻した懺悔棒で拳を受け流しつつ、さらにお返しとばかりに拳を放つ。

しかしその一撃を再び透流くんが防ぎ、透流くんは四季様に再び攻撃をして、四季様はそれを大きく後ろへ飛んで回避して―――と言った感じで二人は闘っている。

 

(透流くんもすごいけれど……四季様も中々ねぇ……)

 

そういえば以前、四季様が先代の最高裁判長に体術をみっちり教え込まれたと言っていた覚えがある。それがあの動きなのだろう。

 

 

 

「それじゃあ―――行きますよ!」

 

そんな事を考えていると、今まで私の様子を伺っていた優月ちゃんが私に向かって駆けてくる。

そして優月ちゃんは、私を自らの剣の間合いへ入れると、連続した斬撃を放ってきた。その斬撃の速度は相変わらず瞠目してしまう位速い。以前の戦闘の時よりは大分手加減しているみたいだけれど、それでも尚速かった。

 

「相変わらず速いわねぇ……目で追うのも一苦労だわ」

 

「む……そんな事言いながらちゃんと私の動きについてきてるじゃないですか。随分と余裕ですね」

 

私が優月ちゃんの剣を捌きながら呟くと、優月ちゃんは少し不機嫌そうに眉を潜めた。それに対して私は苦笑いする。

 

「あら、これでも結構捌くの精一杯なのよ?確かこれ位の速さで打ち合ったのは、もう随分と昔の事だったわねぇ」

 

私は昔から剣術を妖夢の祖父の魂魄妖忌(ようき)や、妖夢から指南されてきた。とはいえ、腕前はそう大した事は無い。妖夢と真面目に打ち合ったって勝率は半分より少し下くらいだし。

ならなぜ私が優月ちゃんの速度についていけるのか―――その理由は、今の優月ちゃんの振るう速度が妖忌や妖夢の指南を受ける時と大体同じ位だからだ。

 

「懐かしいわねぇ……。「幽々子様もこの程度の剣術位は身に付けてください」なんて、よく言われたわ」

 

正直、少し前までは妖夢位の剣術を私が身に付けてもなぁ……なんて思っていたものだが、今この時こうして役立っているのはありがたいというべきなのか……複雑な気持ちだ。

 

「へぇ……。剣術指南してくれた方がいらっしゃったんですか?」

 

「ええ、少し昔にね。今はその人の孫娘の妖夢が、私の剣術指南役よ」

 

「へぇ……。妖夢さんがですか」

 

私たちは打ち合いを続けながらそんな事を話す。

おそらく周りの人から見れば、高速で打ち合いをしながら私の昔の身の上話を呑気に話しているというなんとも奇妙な光景に見えるだろう。事実、周りの子たちは完全に唖然としてるし。

そして数合続いた打ち合いの末―――私は優月ちゃんの攻撃を無理な姿勢からかわしてしまい、僅かに体のバランスが乱れてしまう。

その隙を見逃す優月ちゃんでは無かった。

 

「ふっ……!」

 

大気をも刺し貫く勢いで突き出されたのは、刃を寝かせた首への刺突だった。

その攻撃の狙いは私の首。きっと首に刃を刺した後、横に薙ぎ払って意識を刈り取る気なのだろう。彼女の《焔牙(ブレイズ)》が非殺傷で振るわれていなかったら確実に死んでしまう攻撃である。

 

「――――――」

 

でもいくら非殺傷とはいえ、私はそんな攻撃に当たるつもりはない。そもそもここで意識が刈り取られてしまったら、この後の放課後が楽しく過ごせなくなってしまう。

故に私は無理やり姿勢を立て直して、首と優月ちゃんの剣の軌道上に自らの剣を滑り込ませる。

結果、私たちの得物は金属同士がぶつかり合う音を辺りに鳴り響かせ、私たちは鎌競り合いの状態になる。

 

「容赦無いわねぇ。首を狙ってくるなんて」

 

「模擬戦とはいえ、これは闘いですからね。下手に躊躇でもしたら逆にやられます」

 

「ふふっ、違いないわ―――ね!」

 

私は優月ちゃんの剣を押し返し、後ろへ飛んで距離を取った。

 

「ふぅ……ここまで運動したのは久しぶりだわ。結構体は覚えてるものなのねぇ」

 

「鍛錬して覚えたものはそう簡単に忘れませんからね。それにしても本当にすごいですね……正直、ここまでやるとは思いませんでしたよ。流石西行寺家のお嬢様ですね」

 

「あらあら、褒めても何も出ないわよ?」

 

するとそこで丁度よく模擬戦終了の合図が鳴る。

その合図が鳴り終わるのを確認した私は溜息を吐く。

 

「……はぁ〜……やっと終わったわ……」

 

「ふふっ、お疲れ様です」

 

焔牙(ブレイズ)》を消し、労いの言葉を掛けながら近付いてくる優月ちゃんを見て、私は苦笑いする。

 

「本当、優月ちゃんは強いわねぇ。……妖忌とどっちが強いかしら?」

 

「?何か言いました?」

 

「うふふ、なんでもないわ」

 

そんな事を話していると、橘ちゃんとタオルを持ったみやびちゃんがこちらへとやってきた。

 

「優月ちゃん、幽々子さんお疲れ様。はい、これ」

 

「みやびさん、ありがとうございます」

 

「私の分までありがとうね〜♪」

 

「ふふっ。それにしても優月、また強くなったんじゃないか?私が入院する前よりも動きが断然良くなってるぞ」

 

「本当だよね。もう私たちなんかじゃ相手にならないよ……」

 

そう呟くみやびちゃんに周りの子たちが頷く。確かに厳しい事を言うかもしれないけれど、今この場で優月ちゃんの相手になりそうなのは影月くんや私たちを含めても、片手で数える程もいないと思う。

 

「いやー、決着つかなかったねぇ♪でも楽しかったよ!」

 

「ああ、俺もいい運動になった」

 

「お疲れ様です。透流さん、大丈夫ですか?」

 

「なんとか。最後の攻撃だけ結構痛かったけどな……」

 

「っ!す、すみません……」

 

「あ、いや、別に気にしないでくれ。怒ったりとかしてないから」

 

離れた所で闘っていた影月くんたちもまたこちらへとやってくる。どうやら今の話を聞く限り、影月くんと萃香は引き分け、透流くんと四季様の所は四季様が一撃攻撃を当てた所で終わったみたいだ。

 

「最後の最後で攻撃に当たるとは、貴様もまだまだだな」

 

「……そういうトラだってさっき、安心院にいいように遊ばれてただろ」

 

「っ!そんな事は無い!」

 

「僕は透流君の言う通り、君で完全に遊んでたけどね。トラ君もまだまだだねぇ」

 

「…………」

 

にやにやと笑いながら煽る安心院ちゃんにトラくんが無言で睨みながら、何かをしようと動き出す。

そんなトラくんを一番近くにいたユリエちゃんが抑えた。

……裸絞で。

 

「……落ち着いてください、トラ」

 

「ぐっ!?……ユ、ユリエ……!?」

 

「ユ、ユリエちゃん!?」

 

「……うわぁ……」

 

「ま、待て……ユリエ……!それ以上絞めると……がっ……い、息が……!」

 

容赦無く首を絞め上げるユリエちゃんに私たちは揃って言葉を失ってしまう。というか普段大人しかった子がこんな方法で友人を止めようとしていたら大抵誰だって言葉を失ってしまうと思う―――ってそんな事を冷静に考えてる場合じゃないわね。

 

「ユリエちゃん、とりあえず一回離しなさい。それ以上やるとトラくんが私のような存在になってしまうわよ?」

 

「っ!ヤ、ヤー!」

 

「が、はぁっ!はぁ……はぁ……」

 

「トラ!大丈夫か!?」

「トラくん大丈夫!?」

 

やり過ぎだと気付いたユリエちゃんがトラくんを解放すると、トラくんは一回大きく息を吸い込みながら床に倒れ込んだ後、肺に足りない分の空気を取り入れる為に大きく呼吸をする。

そしてそんなトラくんへ透流くんとみやびちゃんが駆け寄った。

 

「……ユリエさん、流石に首絞めはやり過ぎですよ」

 

「す、すみません……トラ、大丈夫ですか?」

 

「はぁ……はぁ……ああ、一瞬綺麗な川と鎌持った死神みたいな人が見えたがな……」

 

「それガチでやべぇ奴だな」

 

「本当にすみません……」

 

「いや、大丈夫だ。……それにしてもなんだ、さっきの死神は……何やら船の上で昼寝をしていたようだが……仕事をしてないでサボってたのか?」

 

「……トラさん、一つお聞きしてもいいでしょうか?その死神はどんな見た目をしてましたか?」

 

「ん……確か赤い髪の女性で着物を着ていたな。なぜそんな事を?」

 

「いえ、気にしないでください」

 

ああ……四季様が静かに怒気を立ち上らせてるって事は、その死神はあのサボリ癖のある死神で間違いないわね。きっと幻想郷に帰ったら思いっきり説教されるでしょう。

それにしてもなんでトラくんは幻想郷の三途の川へ行ったのかしら?

 

 

 

 

 

「皆さん、お疲れ様ですわ」

 

そして授業が終わり、月見ちゃんが格技場で放課後宣言した後、朔夜ちゃんが美亜ちゃん、香ちゃん、妹紅を引き連れて私たちの目の前に現れた。

 

「ん?珍しいな、朔夜たちがこんな所に来るなんて」

 

「あら、そんな事はありませんわ。たまにここの来賓席から訓練の様子を隠れて見させてもらってますし」

 

「ちなみに私たちも一緒に見てますよ」

 

「今回も見てたんですか?」

 

「ええ。おかげで幻想郷の方たちの実力を少しだけ知る事が出来ましたわ」

 

そう言ってニコリと笑う朔夜ちゃん。

その笑顔はどこか妖艶さを感じさせながらも、年相応の幼さも感じさせるような、思わずぎゅっと抱きしめてあげたくなるような可愛らしい笑みだった。

 

「それにしても、なぜ幻想郷の方たちも模擬戦していたの?」

 

「あ〜……萃香がな?俺と模擬戦したいって言い始めたから……」

 

「そんな話を聞いた映姫ちゃんも、乗り気になって模擬戦をしてみたいと言い出してね。幽々子ちゃんはそうでもなかったみたいだけど」

 

「優月に誘われて、幽々子さんも渋々剣を取ってたがな」

 

「私はただ見学するつもりだったのにねぇ……」

 

「……つまりそうなった原因は萃香」

 

「えへへ、でもいい刺激になったでしょ?特に透流には」

 

「まあ―――そうだな」

 

確かに透流くんにとっては普段と違う相手と闘えて、何かしら得られるものもあったかもしれない。まあ、かく言う私も久しぶりに剣を振るえたし、いい刺激にはなったのだけれど。

 

 

「さてと―――それじゃあ、楽しいおしゃべりはこれ位にして……朔夜たちがここに来た本当の理由はなんだ?ただ訓練を見に来たわけではないだろ?」

 

そこで先ほどの雰囲気とは打って変わって、真面目な口調で問い掛ける影月くん。そんな彼に答えたのは妹紅だった。

 

「もちろん。実は一時間位前に皐月で調査してた調査員から報告があってね」

 

そして朔夜ちゃんがやや低いトーンで告げた。

 

 

「《禍稟檎(アップル)》の件で動きがありましたわ」

 




今回のお話、どうでしたでしょうか?

幽々子「何やら幻想郷にとてつもない存在が居るみたいねぇ……」

はい。もう勘のいい人なら何が幻想郷入りしてるのか分かると思います(苦笑)

影月「あれだけヒントあればな……」

あ、それから最近、過去話の方の修正を本格的に少しずつ始めました。
誤字脱字はもちろんの事、一部場面の消滅や新しいシーンの挿入などがなされているので、気が向いたら過去話を見てみてください。

優月「まあ、作者さんの仕事が忙しいので直していくスピードは結構遅いと思いますけどね」

その辺りはご了承ください(苦笑)
では誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!
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