アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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皆様、新年明けましておめでとうございます!
……なんて挨拶の後に言うのもあれですが……。

投稿遅れて申し訳ありませんでした!

リアルが忙しかったり、上手く内容が書かなくてこんなに時間が掛かってしまいました……。もう前回の内容覚えてない!って人は前回の話を軽く見て、思い出してくれたら幸いです(ちなみに少しだけ内容変わってたり記述増えてたりする)。
とりあえず今年は去年より投稿頻度を上げれたらいいなぁ……と思っています。なのでどうか気長に更新をお待ちいただけたら幸いです。

それでは新年最初のお話をお楽しみください!



第六十七話

 

side 影月

 

「―――ん」

 

……朝。それはいつもと変わらないごく自然な目覚めだった。別に悪夢にうなされたわけでもなく、睡眠が足りなかったというわけでもない。爽快……という気分ではないが、俺は静かな気持ちで朝を迎えていた。

 

(時間は……5時か)

 

枕元に置いてある目覚まし時計の針はいつも起きている時間より一時間程早い時間を指している。それを確認した俺はベッドから体を起こす事無く、昨日あった出来事について考え始めた。

 

 

 

まず皐月市の倉庫街にて行われようとしていた《禍稟檎(アップル)》関連のドラッグパーティー制圧作戦について。

作戦終了時の被害は倉庫二十棟が戦闘の余波や火災などで半壊ないし全壊。負傷者は重傷者3人、軽傷者18人、そして死者は0といった感じかだった。

多少の怪我人は出たものの、死んだ者が居なかったというのは実に素晴らしい事であると同時に、あの時の状況を考えれば奇跡だなと今更ながらに思う。

 

(ヴィルヘルムにシュライバー……)

 

なぜなら今回の作戦中に乱入してきた黒円卓第四位の吸血鬼と第十二位の狂犬―――この二人は黒円卓の中でも言わずと知れた屈指の危険人物で、ラインハルトや他の黒円卓団員などに厳命されてなければ、敵どころか味方や同盟を組んでいる者にも手を掛けるバトルジャンキー……もとい狂人だからだ。

 

(確かに狂人だよなぁ……まあ、それでもヴィルヘルムの方がシュライバーよりマトモみたいだが……)

 

ヴィルヘルムはまだ幾分か常識やら理性やらがあるから話は多少なりとも通じるのだが……シュライバーについては正直、真面目に話すだけ無駄と言える程に狂っている。

 

(そもそもあの時……創造を使っていたにもかかわらず、過去を見れなかったし……)

 

透流たちや朔夜などを含むこの学園の者、ヴィルヘルムやルサルカ、ザミエルなどの黒円卓に属する者、安心院や美亜や香、そして別の異世界から来た人や人外―――俺は今まで出会ってきたそんな彼ら彼女らの過去をなんとか知る事が出来ていた。

普通の人相手なら活動位階でもそれなりに過去を見る事が出来るし、透流やユリエや朔夜などについてはある程度集中するか、あるいはその相手が眠るなりして精神ガードが弱まってる時に見れば、大抵の場合は過去を読み取る事が出来る。さらに創造位階になれば、読み取れない者などほぼ居なくなると言っていい。

 

しかし何事にも例外というものはあるもので、たとえ創造位階になっても読み取れない、あるいは読み取れなさそうな者もまた居る。

例えばラインハルトやメルクリウス、そして蓮などについては試した事が無いので予想するしかないが、おそらく力の差があり過ぎて過去を読み取る事は出来ないと思われる。

さらに妹紅や紫などの幻想郷住民たちはその辺りの能力に耐性があるのか、あるいはそれ程までに過去を読まれたくないのかは分からないが読み取る事が今まで出来ていない。しかし以前、霊夢に許可を得て彼女の過去を見たら比較的簡単に見れたので、全員が読み取れないという訳ではないようだ。

そして今回読み取れなかったシュライバーについては、完全に他者に対して心を固く閉ざしているが為に読み取る事が出来なかった。

 

(あそこまで完全に心を閉ざしているとは……一体過去に何が……って今はそんな事考えてる場合じゃないか)

 

いくら考えようとも答えが出ない疑問などとりあえず頭の片隅へと置いておくとして、次に考えたのは作戦中に重傷を負った自分の妹と、透流の絆双刃(デュオ)である銀色の少女の事。

 

(優月……ユリエ……)

 

俺や妹紅たちが居ない間にあの倉庫内で何があったのかは、あの場に居たリーリスや司狼から詳しく聞いた。

 

(父親の仇、か。想像はしてたけどまさか本当にヴィルヘルムが仇だったなんてな……)

 

そして仇を突然乱入してきた桜色の髪の少女に横取りされ、狂乱していたユリエは怒りに任せてその少女に襲い掛かり―――恐怖で動けなくなっていた少女を守ろうとした優月が少女の代わりに首を斬られたそうだ。

その後、安心院たちから応急処置を施された優月と狂乱から目覚めたユリエ、そして全身に火傷を負ったスミレは香が手配した近くの病院へ緊急搬送され、作戦中に軽く怪我を負った俺たちやあのパーティーの参加者たちもそれに少し遅れる形で同じ病院へと送られた。

そこから俺たちは優月やユリエの治療が終わるまで病院待機、ドラッグパーティーの参加者たちは薬物依存症の更生施設に連れていかれた。そして治療を終え、なんとか一命を取り留めた二人はすぐに昊陵学園の医療棟へと移され、病院で司狼と別れた俺たちもそれと共に帰還した。

 

 

その後、学園に帰った俺たちは出迎えてくれた朔夜に労いの言葉をもらい、帰還報告を行った。

その際に今回の件で優月たちが怪我をしたのは自分の指揮が悪かったからだと香が泣き始めたり、そんな彼女を慰めたりと色々あったが、とりあえず報告を済ませた俺たちはそのまま医療棟へと向かおうとした。

しかし―――

 

『優月とユリエの事はこちらで見ておきますわ。ですから貴方たちは自分の部屋に戻ってゆっくりと体を休めてくださいな。……これは私からのお願いですわ』

 

俺たちを引き止めてそう言った昨日の朔夜の表情は様々な不安や心配などの感情が混ざり合ったような表情をしていたのを覚えている。

彼女がなぜそんな表情をしていたのか……理由は分からないが、ただそんな表情を浮かべる彼女を見ていると何も言う気が起きなくなり、俺も透流も他の皆もおとなしく自分の部屋に戻ってゆっくりと休む事にした。

そして今現在に至る。

 

「はぁ……」

 

そこまで昨日の出来事を思い返した俺は溜息を吐き、一先ず体を起こす事にした。

今日は日曜日で授業も無いし、シャワーでも浴びて目を覚ますついでにこの暗い気持ちも洗い流してしまおう。いや、その前に久々にランニングでもしてくるか……その後に朝飯を食べて優月とユリエの様子を見に行こう―――なんて事を考えていると。

 

 

 

 

 

 

「……んぅ……」

 

……なんかこう、なんて言うのか……何やら柔らかいものが右腕に当たり、さらには消え入りそうな程小さな声が聞こえたのである。その事に疑問を感じ、俺は声の聞こえた方を見てみる。

 

「…………」

 

「すぅ……すぅ……」

 

するとそこにはなんとびっくり、金髪の可愛らしくも美しい幼女が気持ちよさそうに寝息を立てているではないか。―――というか誰だこの幼女。

 

「…………」

 

ああそうか、昨日の疲れがまだ残ってるのか、俺。

確かに睡眠時間とかいつもよりかなり短かったし、優月が怪我したりしてすごく不安だったし。

幻覚にしては随分リアルな気もするが、この世界には沢山の神秘が溢れてるしこういう事も珍しくないだろう。……とりあえずこの幻覚を覚ます為にもう一回寝てみる事にしよう。そういうわけだからおやすみ。

 

 

 

そう思って目を閉じたのだが……。

 

「むぅ……」

 

「…………」

 

……なんだか抱きついてきてないですか、この幻覚。しかも結構強く抱きついてきてるし。というかこの幼女が着てる白い着物―――おそらく寝間着―――も結構危うい所まではだけて、色々と見えかけてるし。

なんて考えていると、その幼女は薄っすらと目を開けた。

 

「…………」

 

「…………」

 

そして見つめ合う事数秒。薄っすらと開かれた金色の瞳は、眠たそうにしながらも俺の顔をしっかりと覗き込んでいる。

そして次の瞬間―――

 

「影月ぅ〜……」

 

まるで子猫が親猫に擦り寄るように、幼女はさらに強く抱きついてきた。

そんな幼女の行動に俺は色々と混乱しながらも、ある人物の名前をその子に向かって聞いてみた。

 

「もしかして紫……か?」

 

「ん?な〜に?」

 

すると幼女―――紫は寝ぼけ眼のまま、首を傾げてこちらの顔を見上げてきた。

……なんだか可愛らしいなぁ……ってそんな事思ってる場合じゃない。

 

「なんで俺のベッドで寝てるんだよ?」

 

確か彼女は今の時期、自分のスキマの中で冬眠している筈。彼女本人も言ってたし、彼女の式である藍もそう言ってた筈だが……?

 

「ん〜……分かんない!」

 

「…………」

 

いや、分かんないって……。そもそもなぜ彼女の体はこんなに小さくなっているのだろうか?

 

(もしかして冬眠中はこの姿で寝てるのか……?)

 

あるいは冬眠前に俺たちの世話なりなんなりをして、力を使い過ぎた反動でこうなっているのか……。どちらにしても寝ぼけてるのか、子供っぽい受け答えしかしない今の紫に質問しても答えは分からないだろう。

 

「ねぇ……ぎゅっとして?」

 

「…………はぁ、分かった」

 

色々考えたものの、結局答えが出ない俺は上目遣いでお願いをしてくる紫を優しく抱き締め、そのついでに少しだけ頭も撫でてやる。

 

「えへへ……♪影月の匂い……」

 

人の胸に顔をうずめてスンスンと匂いを嗅がないでいただきたいが、今の彼女には何を言っても聞かないだろう。というか藍からあまり邪険にしないでくれと頼まれた手前、あまり強く拒絶する事も出来ないし。

しかしこのまま好き放題にさせてたら、こちらの理性がいつか吹き飛ぶのは確定的に明らかなので足掻けるだけ足掻いてみる事にした。

 

「紫」

 

「?」

 

「その……そろそろ起きるから離れてくれないか?」

 

「だ〜め!もうちょっとだけ!」

 

―――ダメだこれ。しっかりと抱き付いてきて一切聞く耳を持ってくれない。

 

「……どうしてもダメか?」

 

「……影月、紫がこんな事するの……嫌?」

 

「いや、そんな事は無いけど……」

 

幼い美少女が自分にこうして甘えてきてくれる―――それは誰であろうと大抵は嫌だなんて思わないだろう。むしろほとんどの人は嬉しかったり、微笑ましい気持ちになったりすると思う。

しかしそれとは別に色々と問題はあるわけで……。

 

「俺だって起きて色々とやらなきゃいけない事があるんだよ。だから頼む」

 

「…………分かった、じゃあちゅーして?してくれたら離れる」

 

……そうきたか。

 

「…………分かった」

 

俺は理性が弾け飛ぶ前に早く済ませようという気持ちで、紫の唇に自分の唇を優しく重ねた。それと同時に紫は嬉しそうな目をしながら、抱き付く力を強めてくる。

 

(……小さくなってもいい匂いがするな……)

 

そう思いながら十秒程口づけをした後、俺はゆっくりと唇を離して彼女の頭を撫でる。

 

「さあ……したぞ。それじゃあ約束通り……」

 

「……うん」

 

少しばかり寂しそうな表情を浮かべる紫に心が痛むが……とりあえずこれで理性が弾け飛ばずに済みそうだ―――なんて考えていると。

 

 

 

 

 

 

「おやおや、朝から少し騒がしいと思ったら……美少女2()()と同衾してるなんて、影月君は結構大胆だねぇ」

 

背後から聞こえてきたのはこの部屋に住む三人目の住人の楽しそうな声。その声を聞き、俺はその言葉に含まれた意味を考えずに後ろへ振り向いてしまった。

 

「――――――」

 

そこには二段ベッドの上段から、頭を逆さにして下段のこちらをニヤニヤと笑いながら見ている安心院と―――

 

「んん〜……」

 

()()()()()姿()()()()、心地よさそうに眠っている幽々子が居た。

 

「―――は?いや、ちょ……えぇ!?」

 

なんで幽々子がここに!?しかもなぜnaked()!?いや、正確にはnude()って言った方が正しいのか―――ってそうじゃなくて!

そんな混乱状態に陥っている俺の内心など露程も知らないだろう幽々子は小さく身じろぎをした後、ゆっくりと瞼を開いた。

そして今度は幽々子と見つめ合う事数秒。淡い桃色の瞳は優しげな光を湛えながら真っ直ぐこちらの顔を覗き込んでくる。

そして彼女の小さな口が開き―――

 

「おはよう、影月くん」

 

「……あ〜、うん。おはよう」

 

まるでどこかの神話に出てくる聖母のように、美しく母性溢れる微笑みを浮かべながら朝の挨拶をしてくる幽々子に俺は一瞬何もかも忘れて見入ってしまう。

 

 

 

「うふふ……昨日の夜は随分楽しませてもらったわ♪本当にありがとうね♪」

 

「――――――」

 

そしてそんな表情を浮かべながら告げられた爆弾発言に俺は頭の中が真っ白になる。

……あれ、昨日の夜って確か部屋に戻ってすぐ寝た筈だよな?なのに服をはだけさせた幼女紫と素っ裸の幽々子がここに居て、さっき幽々子があんな事を言ってきたという事は……?

 

「…………」

 

「ん?影月君、突然滝のように冷や汗を流してどうしたんだい?」

 

いや、どうしたもこうしたも……分かってるくせにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる安心院に若干イラっとするものの、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。

 

「……なあ、幽々子。一つ聞きたい事があるんだが」

 

「ん〜?何かしらぁ?」

 

「えっと……昨日の夜、楽しませてもらったって一体どういう……」

 

「えっ……」

 

……おい、なんでそんなショックを受けたような顔をする。

 

「え……ちょっと待って。もしかして影月くん、昨日の夜の事……覚えてないの?」

 

「……うん、まあ……」

 

部屋に戻り、最低限の事を済ませて眠った記憶しかない。

そう伝えると、幽々子はさらにショックを受けたような顔をした後―――

 

「っ……何よそれ……昨日私をこの部屋に連れ込んで……愛しているって言って抱いてくれたのに……!」

 

「―――はぁ!!!??」

 

なんだそれ微塵も記憶に無いんだが!?

 

「グスッ……酷い……酷いわ、影月くん……昨日私を抱いたのはただの遊びだったの……?愛しているって言ったのも嘘……?」

 

「うわ〜……影月君、僕今まで君の事かなり信頼してたけど、今この光景見て変わったよ。……君って最低だね。しかも優月ちゃんが意識不明だって時に……」

 

「いやいやいや!ちょっと待ってくれ!!」

 

なんか俺を見る2人の視線が凄まじく痛い。ってか俺は遊びで女の人を抱くような女たらしじゃないし、本当に何も覚えてないんだが!?

 

「いいえ、待たないわ。こうなったら今日は責任取るって言ってくれるまで付き合ってもらいましょうか」

 

「ちょ、幽々子!?どこ触ってるんだよ!?」

 

「どこって……言わなくても分かるでしょう?女の子にそんな事言わせないでちょうだい」

 

おい、ちょっと本当に待て。あんまりゴソゴソと手を動かさないでほしいんですが!?―――あ、ちょ、裸のままで人の上に跨るな!!

 

「ちょっと幽々子、本当に待て……!とりあえず落ち着いて話し合えば……!」

 

「もう、うるさいわねぇ……そんなに騒がしいお口は―――こうして塞いじゃおうかしら♪」

 

「んんっ!?」

 

「ん……♪」

 

抵抗する俺の態度に業を煮やしたのか、幽々子は俺の唇に自分の唇を重ね合わせてきた。……今日二度目の美少女とのキスである。

 

「…………なんで僕は朝っぱらからこんなもの見せられてるんだろうね」

 

幽々子の甘く香る匂いと柔らかい唇が俺の理性と精神を容赦無く削っていき、さらに我関せずといった感じの安心院の声を聞いて様々な感情が湧き上がってくるものの……。

 

(ああもう、誰でもいいからなんとかしてくれ……)

 

とりあえず神でも悪魔でも妖怪でもいいからこの状況から助けてほしい―――と心の中で叫ぶも事態は変わらず、腕と口を押さえられてどうする事も出来ない俺は、最終的にもうどうにでもなれという気持ちで幽々子を見る。

それに気付いた幽々子は唇を離して、少し不満げに見つめてくる。

 

「あらあら、さっきまであんなに拒否してたのにもう諦めちゃったの?」

 

だって……馬乗りになられてるし、腕押さえられてるし、紫も居るから下手に暴れるわけにもいかないし……。

 

「む〜……なんだか面白くないわねぇ……でも、まあいいわ。それじゃあ早速楽しませてもらいましょうか♪」

 

と幽々子が言った次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……朝から騒がしいですね。廊下にまで声が聞こえてきてますよ。一体何をそんなに騒いで―――」

 

『あ……』

 

俺の祈りが天に届いたのか、丁度いいタイミングで救いの女神―――もとい幻想郷の閻魔様が来てくれた。

彼女は部屋に入って速攻目に入ったであろうこの光景に一瞬言葉を失ったものの、次の瞬間には背筋が凍りつく程冷たい視線をこちらに向けてきた。

 

「…………これは一体どういう状況でしょうか?」

 

「あ、えっと……その……」

 

「映姫様、助けて……幽々子に襲われる……」

 

「……とまあ、そんな感じの状況だぜ」

 

「―――なるほど、なんとなく把握しました。とりあえず幽々子、今すぐ影月さんの上から降りてそこに正座しなさい」

 

「……このまま?」

 

「ええ、そのまま(裸のまま)です」

 

そうして俺は幽々子の捕食(意味深)を受ける前に危機を脱する事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十分後―――

 

 

 

「影月くん、本当に……本当にごめんなさい……」

 

映姫の事情聴取―――という名の尋問が終わると、幽々子は俺に向かって何度も申し訳無さそうに謝罪してきた。

彼女がこうして謝っている理由は先ほど幽々子が言っていた事のほとんどが嘘であると分かったからだ。

つまり俺は昨日の夜、幽々子をここに連れ込んでないし、抱いてもいないという事である。

ではなぜ幽々子がここで寝ていたんだという話になるが、幽々子本人に聞いた所「夢遊病」という答えが返ってきた。

―――いや、夢遊病って……。

 

「いや、もう謝らなくても大丈夫だ。別に怒ってるわけでもないし……」

 

むしろ怒りなどの感情は湧き上がらず、どちらかというと驚きやら困惑やらの方が浮かび上がってきた位だ。

まあでも……。

 

「今回ばかりはちょっとイタズラがすぎるとは思うけどな?心臓に悪いぞあの冗談は……」

 

「うっ……」

 

俺はそんな事を言いながら幽々子に彼女の寝間着だと思われる白い着物を手渡し、彼女は申し訳無さそうな顔で頬を赤く染めながら受け取った。

ちなみに幽々子は今も素っ裸である。

 

「というかずっと思ってたけど、なんで幽々子ちゃんは裸で寝てたのさ?」

 

「えっと……実は私ったら寝ている間に服を脱いじゃう事がたまにあるのよ〜……。自分で脱いでるって自覚は全く無いんだけどね?」

 

彼女はかなり前からそうした脱ぎ癖があるらしい。寝ている間に暑くなって無意識に脱ぐのか知らないが……正直、こちら(主に男性)の心臓と神経に悪い癖である。

 

「全く……貴女は影月さんに一体何度迷惑を掛けるつもりなんですか……」

 

「うっ……えっと、その、影月くん……本当にごめんなさい」

 

「いや、もう謝らなくても大丈夫だって。そんなに言う程迷惑掛かってるわけじゃないし……。むしろ俺たちの方が紫や幽々子、映姫たちにいつも迷惑掛けてるんじゃないかと思ってるんだが」

 

「そんな事はありません。だから気にしなくても大丈夫ですよ?」

 

「……分かった。ありがとうな?映姫に幽々子」

 

「いえいえ……さて、それでは話を戻しますが……影月さん。今度は貴方に一つ聞きたい事があるのですが」

 

「分かってるさ……彼女の事だろ」

 

そう言い、俺は抱き付いて眠りこけている紫へと視線を向ける。

 

「うぅん……」

 

「はい。なぜ現在冬眠している筈の紫がここに居るんですか?」

 

「それはな……」

 

そう問い掛けて来た映姫に、俺は藍が言っていた事を全て話した。

 

「寝ぼけて姿を現す事があるとは知りませんでしたね。しかしなぜ影月さんに抱き付いて眠っているのでしょうか?」

 

「……多分寝ている間に人肌恋しくなって、無意識に影月くんの近くに現れたんじゃないかしら?稀にあるのよねぇ、朝起きたら隣で紫が寝てたとか……」

 

聞けば、幽々子もまた紫が冬眠時期中たまに現れる事を知っていたそうだ。だが紫がこんなに幼い容姿になって現れた事は今まで無かったという。

 

「まあ、なんでこんな姿になってるのかはある程度想像付くけれど」

 

「力の使い過ぎによる妖力低下の影響……といった所でしょうか」

 

「その辺りが妥当だろうね」

 

「……う……んんーっ……」

 

そんな会話をしていると、紫は大きくのびをしてゴシゴシと目をこする。そして改めて俺の顔を見た瞬間―――

 

「……ん?影月?」

 

紫は少し困惑したような声色と表情で俺の名前を呼ぶ。そこには先ほどまであった幼い少女のような雰囲気は無い。どうやら完全に目を覚ましたらしい。

 

「よう、おはよう紫」

 

「…………あ、あれ!?な、なんで貴方、私を抱いて……!?というかここは……!?」

 

そして今の自分の状況を確認した紫は目に見えて狼狽え始める。

 

「ここは影月さんたちが普段過ごしてる寮の部屋ですよ」

 

「そして影月くんが紫を抱いてるのは、紫が抱いてほしいって自分から甘えたからよ?」

 

「『ねぇ……ぎゅっとして?』って言ってたね。他にはキスとかも自分からねだってしてもらってたけど……覚えてないのかな?」

 

「……ぁ」

 

映姫たちが紫の質問に一つずつ答えると、紫は小さく声を発した後に顔をこれ以上無いのではないかと言う程真っ赤にして俯いた。

というか安心院、お前そこまで知ってるって事は最初から全部見てたのか。

 

「そりゃあ見てたぜ?僕には地の文に干渉出来るスキルもあるからね」

 

「地の文?」

 

「またお前はさらっとメタな事を……」

 

「……ねぇ、影月。一つお願いがあるのだけれど」

 

「ん?」

 

「さっきの私が寝ぼけてた間にやった事……全部忘れて……くれないかしら?」

 

『…………』

 

上目遣いでそう頼み込んでくる紫。

……そうしてほしいという思いも分かるし、俺自身もそうしてあげたいとは思うんだが……やっぱり俺も男な訳だから……。

 

「……善処する。多分無理だと思うけど……」

 

「そうよね……男の子だもの、そう簡単に忘れられないわよね……」

 

そう言った紫は、今度は一人で何やらブツブツと独り言を呟き始める。

 

「こうなったら影月の記憶の境界を弄って私の痴態を抹消するしか……でも今の私じゃそんな事出来る力も残ってないし……もう一層の事物理的に忘れさせるしかないかしら……よし、そうと決まれば何か鈍器を……」

 

耳を澄ませば何気に結構恐ろしい事言ってるし……。

 

「……映姫、ちょっと紫の事頼んでいいか?このままほっとけば何か変な事されそうだ」

 

最悪俺が死ぬような事をされるかもしれない。

 

「……分かりました。紫はこちらに任せてください」

 

それを聞いた俺は映姫に礼を言って紫を離し、ジャージを片手に風呂場の脱衣所へ向かい、手早くジャージに着替えた。

 

「ん?影月君、ランニングでもするの?」

 

「ああ、ちょっと気分を落ち着かせるのも兼ねてな」

 

「なら僕も一緒に付き合わせてもらってもいいかな?」

 

そう言ってくるりと回転し、一瞬でジャージ姿になった安心院に俺は運動靴を履きながら頷く。

 

「―――とまあ、そういうわけで俺たちは軽く走りに行ってくるよ」

 

「分かりました。私は留守番も兼ねて暫くこの部屋に居させてもらいますね」

 

「なら私も居させてもらおうかしら〜♪影月くん、いいわよね?」

 

「勿論。二人とも、自由に過ごしていいからな?」

 

そう映姫と幽々子に告げ、俺は安心院と一緒に部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜……今日もいい天気だねぇ」

 

「そうだな……まだ少し肌寒いけどよく晴れたいい朝だ」

 

校門前で波の音をぼんやりと聞きながら、俺は安心院と二人で軽くストレッチをしていた。

こうした準備運動は非常に大切だ。ろくに準備運動もしないでいきなり走り出すと、上手く体が動かなくて怪我をしてしまう可能性がある。それを防ぐ為にはゆっくりと念入りに時間を掛けて、体を慣らす事が重要なのだ。

そうしてたっぷり数分程体を慣らし、いよいよ走り始めようかと思ったその時―――遠くから軽い足音が聞こえてきた。

 

「ん……あれは……」

 

振り返るとそこにはその足音の主である二人が肩を並べて走ってきていて、俺は迷わずその二人へ声を掛けた。

 

「おはよう、みやびに橘」

 

「やあ、二人ともおはよう」

 

「あ……影月くんになじみちゃん。お、おはよう」

 

「おはよう。今日は二人とも随分と早起きだな?」

 

「あ〜……朝から色々な事があってな……」

 

橘の質問で数十分前に起こった眠気なんぞ吹き飛ぶ出来事が脳裏に浮かび、思わず疲れたような笑みを零してしまう。

そんな俺を見てみやびと橘は何かを察したのか、揃って苦笑いを浮かべた。

 

「……何があったのかはよく分からないが、とりあえずお疲れ様と言っておくよ」

 

「影月くん、幻想郷から来た人たちの面倒も見てて大変そうだもんね……わたしからもお疲れ様って言っていいかな……?」

 

「……そう言ってくれるだけで少し元気が出てくるよ。ありがとう、二人とも」

 

「ふふっ、別に構わないさ。何か辛くなったり困った事があったら遠慮無く相談してくれ。私でよければ幾らでも相談に乗らせてもらおう」

 

「わ、わたしも言ってくれたら相談に乗るから……ね?」

 

そう言って気遣うように優しく微笑む二人に、俺は胸の奥から込み上げてくる嬉しさを抑えながら再度ありがとうと言って頭を下げた。

―――本当に俺は……俺たちはいい友人に恵まれたものだ。

 

「さて、それじゃあランニングを再開しようか。二人も一緒に走るか?」

 

「勿論、付き合わせてもらうよ」

 

そして俺たちは肩を並べて走り出した。走るペースはそれ程速いわけでもなく、それなりに会話をする余裕もあった。

 

「橘、体の方はもう大丈夫なのか?」

 

「うむ、見ての通り問題無いよ。傷口ももうほとんど目立たない位に治ったしな」

 

「本当に《超えし者(イクシード)》の回復力ってすごいねぇ……」

 

そんな中で次に出た話題は当然というか、昨日のドラッグパーティー制圧作戦についてだった。

 

「そ、そういえば昨日は随分と帰りが遅かったよね……」

 

「ん、ああ……色々と大変な事が起きたからなぁ……」

 

「大変な事?」

 

「…………ユリエちゃんと、優月ちゃんが大怪我したんだよ」

 

「「っ!?」」

 

その言葉に驚いた表情を浮かべる二人に俺と安心院は昨日の作戦について、色々と掻い摘みながら話をした。

作戦の被害、聖槍十三騎士団が乱入してきた事、ユリエが暴走した事、そして……優月が暴走したユリエを止める為に大怪我をした事を。

 

「そうか……だからここに優月が居ないんだな……。二人とも大丈夫なのか?」

 

「ああ、なんとか昨日の内に一命は取り留めたからな。今は二人とも学園の病棟で休んでる」

 

「よ、よかった……。でも知らなかったな……ユリエちゃんのお父さんがヴィルヘルムに殺されてたなんて……」

 

「本人もそんな事言ってなかったからねぇ……。それにユリエちゃんもヴィルヘルムが親の仇って事を直前まで分からなかったみたいだし……まあ、影月君は感付いていたみたいだけど」

 

「おいおい……俺もユリエのお父さんを殺したのがヴィルヘルムだって事は話聞くまで知らなかったぞ?まあ、ある程度の予想はしてたが」

 

よく俺が他人の過去を見れるという点から、その人の過去に関して当人が知らなくても、俺なら知ってるみたいな事を思っている人も多いだろうが、実際の所そういう訳でもなかったりする。

基本的に俺が見れるのはその人の過去の()()であって、映像とかではない。つまり当人の記憶が朧げではっきりしてなければ、俺が見ても朧げではっきりしていないのである。

実際、ユリエのお父さんを殺したヴィルヘルムの顔だって当時ユリエが幼かったからなのか、それとも父親が目の前で死んだ事が余程のショックだったのかは分からないが、あまりはっきりと映っていなかった。せいぜい分かったのは以前ユリエが言っていた仇の特徴である白髪位だ。

 

「その人の過去の記憶を見られる、かぁ……。影月くん、それって私の過去とかも見られるんだよね……?」

 

「勿論、みやびの過去も橘の過去も見ようと思えば見られるぞ?」

 

まあ、余程気になったりしない限り勝手に覗き見る事はない(能力が目覚めたばかりの頃は感覚を掴む為に他の生徒の過去をさらっと見たりはしたが)。しかもそういう余程気になる人に限って、そう簡単に見る事とか出来ないし(妹紅とか)。

 

「そもそも俺が気になって過去を覗き見た人なんて今まで数人くらいしか居ないしな。その中ですんなりと見れたのは《K》とユリエと……後は透流くらいか」

 

「えっ……?」

 

するとみやびが困惑したように声を上げる。

 

「どうした、みやび?」

 

「あっ、ううん……ちょっと透流くんの名前が出たから……ね」

 

「ふむ、そうか……。それにしても九重の過去を見たという事は……何か気になる事でもあったのか、如月?」

 

「……少しだけ、な」

 

思い出すのはこの学園に来てまだ間もなかった頃の、あの夜の出来事―――

 

 

『私もトールと同じ―――《復讐者(アベェンジャー)》です』

 

 

……透流とユリエが復讐者だと知ったあの出来事から暫くした後、能力を使いこなせるようになった俺はある時に彼らの過去を覗いた事がある。

なぜ覗いたのかというと、ただ単に彼らの過去をもっと深く知りたかったから。

そんな子供が思い付くような単純かつ痴愚な理由だったが、何か面白いものが見られるかもとかそんな楽観的な好奇心などは微塵も無かった。そんな覚悟も何も無い軽い気持ちで他人の過去を見るなんていうのはその人に対しての冒涜であり、許される事ではないからだ。

だからどんなに辛い過去であろうとも、目を逸らさずにしっかりと受け止めよう。

 

―――そうした思いで見た二人の過去は……辛く、苦しく、悲しいという言葉では足りない程過酷なものだった。

突如として昨日までの何気ない平和な日常が、そして二人にとって大切な人が、一瞬で奪われたのだ。

俺はその中で特に透流……彼の過去に酷く共感し、同情した。

彼が奪われたのは平和な日常と、共に武術を学んで鍛錬した仲間たちと―――大切な妹さんだ。

 

(随分と……いい妹さんだったな……)

 

俺は透流の過去を覗いたおかげで、彼の妹―――九重音羽がどんな人物だったのか知っている。

誰に対しても気遣いが出来て、屈託の無い可愛らしい笑顔で笑う心優しい少女。それはまるで俺の妹とそっくりだった。

そういった似たような妹を持つ故か―――俺には透流の辛さが、悲しさが痛い程に分かるのだ。

 

(もし、俺が透流の立場だったとしたら……復讐に走っただろうか?それとも……)

 

「影月くん?」

「如月?」

 

そんな事を考えていると、横から二人の声が聞こえた。どうやら俺が急に黙った事に疑問を覚えたらしい。

 

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてたよ」

 

「……そうか」

 

「…………」

 

そう言うと二人は少し複雑そうな顔をしたまま黙ってしまった。

おそらく今の二人の内心では透流の過去に何があったのかという疑問が渦巻いているのだろう。しかし彼女たちが何も聞いてこないのは、今この場に透流本人が居ないのに彼が今まで秘密にしていた事を他人である俺から聞くべきではないと考えているからだと思う。

まあ実際聞かれたとしても、俺は何も答えるつもりは無いが。

 

「……さて、後二週位走ったら中に戻ろっか?」

 

「……そうだな」

 

少しばかり沈んだ空気を変えるように安心院がそう提案して、俺たちは頷いた。

とりあえずこの話は一旦終わりにしよう。どちらにせよ俺から話す事はもう何も無いし、もしかしたらそう遠くない内にこの話はまたするかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ランニングを終えて部屋に戻った俺と安心院は順番にシャワーを浴びて汗を流した後、食堂で透流たちと共に朝飯を食べてから、優月とユリエの様子を見る為に病棟へ足を運ぶ事にした。

無論の事、透流たちも一緒だ。

 

「そういえば映姫、紫は?」

 

二人の病室へと向かう最中、俺は隣で歩いている映姫に質問を投げる。

確かランニングを終えて部屋に戻った時にはまだ紫は居た気がしたんだが……?

 

「ああ、紫なら影月さんがシャワーを浴びている際にスキマへと戻っていきましたよ。気付きませんでしたか?」

 

「あ〜……」

 

正直、シャワーを浴び終えた後は着替えとかで少しドタバタしてたから気付かなかった。

 

「とりあえず紫は大丈夫よ〜。説得したから少なくとも影月くんを襲って物理的に記憶を忘れさせるとかはしないと思うわ―――多分ね」

 

「多分って……」

 

そこははっきり“しない”と言い切ってほしかったが……幽々子にそんな事言っても仕方ないので飲み込む事にする。

 

「三人ともさっきから何の話?紫さんがどうとか言ってるけど……」

 

「確か紫は今の時期は冬眠してるって話じゃなかったか?」

 

すると後ろから会話を聞いていたリーリスとトラが割り込んできた。

それに対して俺と映姫は透流たちに今朝の出来事を軽く説明する。……ちなみに俺の身に起こったあのハプニング(紫が甘えてきたりとか、幽々子が裸だったりとか)については説明しなかった。言った所で意味も無いし、下手したら橘とかが顔真っ赤にして走り去っていきそうだし。

 

「寝ぼけて姿を見せたって……本当なのか?」

 

「本当よ〜♪まあ、実際は寝ぼけてた他に人肌恋しくて無意識に現れたって可能性も否定出来ないけれど……紫って意外と寂しがり屋なのよね。元々そういう性格なのか、長く生きてきた影響なのか……あまりよく分からないけれど」

 

「多分半々じゃないかな?僕も一応かなり長く生きてきた身だけど、たまに人肌恋しくなるぜ?そういう時は影月君の中にお邪魔してるんだけど」

 

「そうだったのか!?」

 

たまに心の内に入り込んで好き勝手くつろぐのにはそういった理由があったのか……。

 

「そうだよ?影月君や優月ちゃんと一緒に居るとなんか落ち着くからねぇ―――っと、そんな話をしてる間に着いたよ。確かこの部屋の筈だぜ」

 

そう言って安心院は扉をノックすると、中から「は〜い」という返事が返ってきた。

 

「ん?中に誰か居るのか?」

 

「み、みたいだね……妹紅ちゃんか美亜ちゃんかな……?」

 

「みやびちゃん残念。どっちもハズレだよ」

 

そして開かれた扉の先に居たのは、ベッドの上で幾つかのチューブに繋がれた様子で眠っている優月と、椅子に座っている白いワンピースを着た明るめの茶髪にピンクと緑のヘアチョークを施した女性だった。

 

「……おはよう。そろそろ来ると思ってたわ」

 

「なっ……あんたは……!?」

 

「スミレ……!?」

 

「そう、彼女だよ」

 

「リョウと一緒に護陵衛士(エトナルク)に連れていかれたんじゃ……」

 

「彼女とリョウは昊陵学園(ウチ)で拘束する事になったんですわ」

 

予想外の先客が居た事により驚く俺と安心院以外の面々。

その背後から透流の疑問に答える別の声が聞こえてきた。

 

「朔夜ちゃんおはよう。美亜ちゃんと香ちゃんも一緒?」

 

「おはようですわ。それと彼女たちの他にあと三人程……」

 

「みんな、おっはよんよ〜ん☆」

 

「よっ、おはようさん」

 

「おはよう〜」

 

朔夜、美亜、香の後ろからさらに月見と妹紅と萃香が顔を出し、挨拶をしてくる。

なんだかんだでいつものメンバーが集合したな……。

 

「どういう事なの朔夜?彼女たちを学園で拘束って……」

 

「そのままの意味ですわ。―――ドーン機関は敵組織《666(ザ・ビースト)》における戦闘員であり、《獣魔(ヴィルゾア)》に変化する能力を持つ彼女と《禍稟檎(アップル)》の供給者であるリョウを最重要人物として当学園に厳重拘束し、彼女についてはその能力を詳しく調査、そして今後の戦闘において優位に立つ為の対策を研究する事にしましたの」

 

と、組織の方針を話した朔夜は小さく苦笑いを浮かべる。

 

「―――と、建前上はそのように決まりましたが、実際にはちょっとした裏事情がありまして……」

 

「裏事情?」

 

「実はさっきの対策研究云々についてなんだけど……本来ならスミレさんは機関の研究所に移送される筈なの」

 

「でも今回はどういう訳か、この学園で調査研究をしろと連絡があったんですよ」

 

「その理由は?」

 

「さあ?今回については上層部からの指示なので私にも見当が付きませんわ」

 

この学園を仕切っている朔夜でも理由が分からないとは……つまり今回の指示は機関上層部が何かしら独自の思惑を持って決めた事なのだろう。

一体どういう理由が……などとは思うものの、とりあえず考えても分からないものは仕方ないのでその件は一旦頭の隅へと追いやる事にする。

 

「ちなみにリョウは?」

 

囹圄(れいご)に監禁中ですわ。今はまだ気絶しているようですけれど……彼が起き次第、事情聴取するつもりです。その後の処遇についてはまだ未定ですけれど」

 

「といってもあの子は《666(ザ・ビースト)》の中でも下の地位だから、有益な情報なんて持ってないと思うわ。かくいう私もあまり大した情報なんて持ってないしねぇ……」

 

そう言って彼女は床に居た仔月光を膝の上に乗せて撫でる。

ちなみになぜ仔月光が居るのかというと、スミレが何か怪しい行動などをしないか見張る為―――要は監視役として俺が置いた。

監視役、というのなら俺がいつものように自分の《焔牙(ブレイズ)》を透明にして監視役になってもよかったのだが、今回は朔夜にしっかり休養を取ってほしいと言われたのでそれをしていない。

そういうわけで今スミレが撫でている仔月光も一応俺が監視役として出したものだが、俺の意思で動かしてはいない。

だからスミレに撫でられている仔月光は、元から内部に組み込まれている監視用プログラムで動いている。

 

「というかあんた、そっちの喋り方が素なのか?」

 

「そう、今までやってたあのバカみたいな喋り方は全部演技よ。―――あ、もしかしてぇ……こっちの喋り方の方がよかったぁ?」

 

わざとらしく甘ったるい声を出してそう聞くスミレに透流は少しばかり顔を顰めて首を横に振った。

それを見て、スミレは苦笑いを浮かべる。

 

「そう。まあ、あの喋り方は私も疲れるからあまりしたくないんだけどねぇ。それに……はっきり言ってあの喋り方、うざったいでしょう?」

 

私もうざったいと思ってたしというスミレを見て、こちらも思わず苦笑いを浮かべてしまう。

まあ、確かにあの喋り方はあまりいい感じはしない。というか実際うざかったし―――なんて思いながら何気無く月見へと視線を向けた。

 

「…………おい、異常(アニュージュアル)。何こっち見てやがる?」

 

「いや、別に……」

 

「……もしかして影月くんったら、アタシのこの喋り方もうざったいな〜とか思ってたりしてたのかな〜?」

 

うわ、うちのうざったい喋り方をする奴にうざったい喋りで絡まれた。

しかしそんなやりとりをガン無視したトラが話を続ける。

 

「……それにしても厳重拘束、と言った割には随分と自由に過ごさせているんだな」

 

「ええ、彼女自身逃げる気も無いようですし……むしろ研究に協力するから、代わりにこの学園で保護してほしいと言ってきた位ですわ」

 

朔夜はそんなスミレのお願いを快く受け入れたようだ。

 

「保護してほしいって……殊勝ねぇ」

 

「まあ、妥当な判断だろう。仮にこの学園から抜け出せたとしても、もう《666(むこう)》には戻れないだろうし……」

 

「そうねぇ。それどころかここから出た瞬間を狙われて組織の息が掛かってる者に殺されるのがオチねぇ」

 

「だから保護してほしいと?」

 

「……あの時、私は影月くんに介錯を頼んだ。でも影月くんはそれを拒否した上に私を殺そうとしたあの少年(シュライバー)から身を呈して守ってくれた。だから……責任を取ってもらおうと思って」

 

「せ、責任!?」

 

「そう。私にまだ死にたくないって思わせてしまった責任を……ね?」

 

……つまりあれか、それは遠回しに俺に守ってほしいと言っているのか。

そんな意味を含めた視線を向けるとスミレはニコッと笑って頷く。

 

「くはっ!そりゃ随分と重大な責任を背負ったもんだなぁ!くははははっ!!」

 

「……はぁ、そういうわけで影月も彼女の事を気に掛けておいてくださいな。他の者たちも無論の事……」

 

どこか真剣に告げた朔夜の言葉に俺たちは揃って苦笑いを浮かべながらも、その言葉の内に秘められた意味をよく理解しながら頷いた。

 

 

 

 

そして話は続いてベッドで眠っている優月の事へと変わる。

 

「理事長、優月の様子はどうですか……?」

 

「……治療を担当した医師によると、ヴィルヘルムとの戦いで負った傷については数日程度で完治するとの事ですから然程問題も無く、今の所生命に危険もないでしょう、と」

 

しかし、と言って朔夜は優月の首に厚く何重にも巻かれている包帯へ優しく手を添えながら、悲痛な面持ちで告げる。

 

「この包帯の下に負った傷だけはどうしても残る……と言ってましたわ」

 

「……無理も無いわね。あれだけ深く斬れてしまったんだから……」

 

そうリーリスが呟いた瞬間、ガタッと病室の扉の方から物音が一つ俺たちの耳へと届き、全員の視線がそちらへと集まる。

 

『…………』

 

俺は扉の近くに居た幽々子に扉を開けてほしいと視線で伝える。それを見て察してくれた幽々子は病室の扉を静かに開ける。

 

「ぁ……っ」

 

「ユリエ……」

 

開けられた扉の向こうに居たのは銀髪の少女。

こちら側から開けられるとは思わなかったのか、呆然とした表情を浮かべていた銀髪の少女だったが、彼女は俺の顔を見た瞬間にまるで逃げるかのように振り向いて立ち去ろうとする。

 

「おっと、待つんだ。影月君と顔を合わせたくない気持ちは分かるけど逃げちゃダメだぜ?」

 

「安心院さんの言う通りだよ。ほら……」

 

「っ……」

 

しかし少女―――ユリエの逃げ道を塞ぐように回り込んだ安心院と美亜に促されて、ユリエは恐る恐るといった感じで俺の前へとやってきた。

 

「「…………」」

 

そして顔を合わせる事無く、俯いてそのまま沈黙。

多分今の彼女の頭の中では何を最初に言ったらいいのか必死に考えているのだろう。かくいう俺も最初にどんな言葉を彼女に掛けるべきか悩んでいた。

ちらりと視線をユリエ以外の面々へ向けてみると透流やみやび、橘や朔夜、映姫などは黙って俺とユリエを見つめていて、トラや安心院、幽々子や妹紅などは目を閉じて話が始まるのを待っている。

スミレは仔月光を撫でているし、月見は腕を頭の上に組んで壁にもたれかかっているし、萃香に至ってはいつものように瓢箪の酒を飲んでいる。しかし三人ともこちらの様子は気にしているようだ。

そうした誰も言葉を発しない時間が数十秒程続き、いい加減気まずくなってきたのでとりあえず俺から軽く話を振ってみる事にした。

 

「あ〜……もう体を動かしても大丈夫なのか?」

 

「っ!ヤ、ヤー……」

 

『…………』

 

ビクッと体を震わせ、俯いたまま頷くユリエ。

しかしそれ以上に会話が続く事は無く、またもや無言の時間が流れ始める。

 

(これはちょっと時間が掛かりそうだな……)

 

今度はユリエから話しかけてくるのを待つか……なんて思っていたが、その時は意外と早く訪れた。

 

「え、影月……その……」

 

「ん?」

 

小さくかろうじて聞こえる程度の声を発したユリエはゆっくりと様子を伺うように顔を上げ、光が消えた深紅の瞳(ルビーアイ)が俺の目と合う。

そして徐々にその深紅の瞳に大粒の涙が溜まっていき―――

 

「―――ごめんなさい……!ごめ、なさい……!!」

 

今まで抑え込まれていただろう彼女の後悔の念が俺を見た瞬間に堰を切ったのか、彼女は頭を深く下げて何度も何度も涙声で謝る。

 

「私は……優、月を……傷付けて……!」

 

「……ユリエ」

 

「影、月……ごめん、なさい……!私、は取り返し、のつかない事を……!」

 

「……そうだな。でもやってしまったものは仕方ない。それに一番悪いのはユリエを暴走させたヴィルヘルムであって、ユリエは何も悪くないと思うぞ?」

 

俺だって大切な人を殺した仇が目の前で笑っていたら、理性を無くして襲い掛かるかもしれない。その大切な人が自分の目の前で殺されたのなら尚更だ。

そう思い、自分にとって一番大切な人たち(優月や朔夜)へ視線を向けると―――偶然朔夜と目が合い、彼女は少し苦笑いを含んでいるように見える笑みを浮かべてくれた。もしかしたら彼女も俺と似たような事を思っていたのかもしれない。

 

「でも……私はこの手で優月を……友人を……人を殺そうとした……!」

 

しかしユリエはそれでもまだ納得出来ないようで、嗚咽を漏らしながら雪のように白い頬を涙で濡らす。

正直俺はさっきも言った通りやってしまった事は仕方ないと思っているし、ユリエを責める気なんて微塵も無いんだが……ユリエは罰を受けたいと言って聞かないだろう。堂々巡りになるのは目に見えている。

 

 

 

「……もう一層の事……死んでしまいたい……」

 

「ユリエ!?」

 

「ユリエちゃん!?何を……!?」

 

いくら後悔しているとはいえ、そこまで言う必要は無いだろう。そう思ってユリエに声を掛けようとしたが、それよりも早くある人物がユリエの目の前に立った。

 

「―――君みたいな若い子がそんな自棄になって、死んでしまいたいなんて言うもんじゃないよ」

 

「妹紅……」

 

ユリエの目の前に立った妹紅の顔はこちらから伺えないが、声を聞く限りどこか寂しそうな顔をしているような気がした。

 

「確かに自分を止める為にとか……自分を庇って大きな怪我を大切な人に負わせてしまったり、あるいは死なせてしまって自分を責める気持ちは痛い程分かるよ。……私も永く生きてきた中でそういう経験は何度もしたから……」

 

その度に妹紅は何度も後悔して、自らが死んで罪を償う事が出来ない不老不死である事を恨んだ。

でも、と妹紅は続ける。

 

「前、慧音にその事をぼやいたらこんな事言われてね―――」

 

 

 

 

『はぁ……いいか妹紅。確かにそうした気持ちを抱くのは私にも理解出来る。実際、そうした自責に駆られて命を絶ったりした者たちも多く知っているからな。……しかしそうして悲しみ、自ら命を絶った所で庇ってくれた者たちがいい顔をしてくれると思うか?―――思わないだろう?もし思っていたのなら命をかけてまで庇ったりしないだろうからな』

 

『大事なのは後悔するよりも反省する事だよ。いつまでも自分のせいだと責めていても何も変わりはしない。反省し、次はどうすればいいのか考えないといけないんだ。それをしないでいつまでも悩んでいたら……庇ってくれた人たちに申し訳がたたないと思わないか?』

 

 

 

 

「―――ってね。……私としては後悔するのも反省するのも大事だけど、また同じような事が起こらないように努力する事が一番大事だと思う。じゃないと優月ちゃんのように君を庇って怪我する人がまた出てしまうかもしれないし……」

 

「……『後悔するより反省する事だ、後悔は人をネガティブにする』―――なんて事を言ってた人も過去に居たらしいしな。それに今回、ユリエは誰も殺していないんだからそこまで気にする必要は無いよ。……まあ、橘に大怪我させて落ち込んでた俺が言えたものじゃないが」

 

「……ユリエちゃん」

 

そして今度はみやびが俯いているユリエの頭を、あの時落ち込んでた俺に対してやったのと同じように優しく撫で始めた。

以前は俺が受けていた側だからあまりよく分からなかったが、今見るとその動作はどこか昔からやり慣れているようにも見える気がする。

 

「みやび……っ」

 

「……妹紅さんの話を聞いて少しは落ち着いた……?」

 

「…………ヤー」

 

「…………ねぇ、ユリエちゃん。さっき言ってた死んでしまいたいって言葉……本気なの?」

 

そう問うみやびの声は少しばかり悲しそうな声色で、ユリエの事を心の底から案じているというのが分かる。

それはユリエも感じ取っているのだろう。彼女は俯いたままゆっくりと首を横に振った。

 

「そうだよね……ユリエちゃんも本当は分かってるんだよね?そんな事、透流くんも影月くんも私も……そして優月ちゃんも含めたみんな……誰も望んでないって……」

 

そしてみやびは俯くユリエを抱き寄せ、さらに落ち着かせるように頭を撫でる。そんな彼女へさらにリーリスが―――

 

「……確かに死して罪を償うのも一つの選択なのかもしれないわ。でもそれは贖罪じゃなくて逃げなんじゃないかってあたしは思う。……そう思わないかしら?」

 

「……そう、ですね」

 

そう呟いたユリエは自分を落ち着かせてくれたみやびとリーリスにお礼を言いながら離れ―――今度は顔を上げ、しっかりとした足取りで俺の前まで歩いてきた。

そして俺の目に合わせられた彼女の深紅の瞳(ルビーアイ)には、強い意思を宿した光が戻っていた。

 

「迷いは無くなったみたいだな」

 

「ヤー……本当に申し訳ありませんでした……」

 

「別にいいって。俺だってユリエの立場なら似た迷いを持ったかもしれないしな……。それよりもっとこっちに来て……優月の様子を見てやってくれ」

 

「ほら……ここに座っていいわ」

 

そう言うと今まで仔月光を撫でていたスミレが椅子から立ち上がり、俺の隣へとやってきた。

それにユリエはぺこりと頭を下げた後、椅子に座って眠っている優月の手を優しく握った。

その時―――

 

「――――――」

 

―――一瞬だけ優月が優しい笑みを浮かべたような……そんな気がした。

 

 

 

 

 

「―――あら、もうこんな時間ですか……影月」

 

「ん?」

 

そんな二人の様子を見守っていると、壁に掛けてあった時計に視線を向けた朔夜に呼ばれる。

 

「私はこれからある人に会う為に格納庫へ赴かなければならないのですが……貴方も一緒に来てくれませんこと?」

 

「俺も?」

 

「ええ。その人が是非とも貴方に直接お会いしてお話したいと言ってましたので……」

 

俺みたいな一生徒に直接会って話をしたいとは……一体どんな人なんだろうか?なんて思っていると安心院が会話に入ってきた。

 

「それってもしかして影月君のメタルギアを定期的にメンテナンスしてるあの子の事?」

 

「そうですわ。影月は会った事は無くともそういう方がいるのは知っていますわよね?」

 

「ああ」

 

俺の召喚するREXなどの兵器は壊れてもしばらく引っ込めていれば、損傷具合によって時間が掛かったりするがゆっくりと自動的に修理される。

安心院によると、俺に渡したスキルが俺の中で独自に進化した結果、こんな効果が付いたらしい。ちなみに他にも色々と俺の中で独自に進化した効果があるらしいが……それはまた機会があれば話すとしよう。

しかしそうした自動修復機能があってもやはり点検はしておいた方がいいらしく……定期的に学園の格納庫に出しておいて、整備士の人や研究員の人たちに色々と点検してもらっている。

その際に俺はその場に立ち会わなくていいと言われていたので、点検が終わるまで普通に寮で過ごしたり、授業を受けていたりしていた。だから朔夜の言う通り、俺はREXたちを整備してくれてる人たちに今まで会った事がない。―――もしかしたら学園の廊下とかで知らない内にすれ違ってたりしてたかもしれないが。

 

「……というかあの子?」

 

「ん?ああ……影月君は知らないんだもんね。僕はその子とたまにお茶飲みながらお話したりするんだよ」

 

「私と美亜さんもよくお茶しますね〜」

 

「あたしも最近は会ってないけど前はよくお茶してたわ」

 

「へぇ……影月くんの兵器を点検してる人ねぇ……」

 

そう呟き、何か思案し始めたスミレを横目にこちらもまたこの後の事について考えてみる。

 

(今日は別に予定も無いから優月の側に……って思ってたけど……)

 

先程の雰囲気から思うに優月の様子見はユリエにやってもらった方がいいかもしれない。きっと今のユリエに病室に戻ってと言っても首を縦に降るとは思えないし……それなら彼女の気が済むまで優月の側に居させてあげるのがいいだろう。

 

「分かった、一緒に行こう。代わりにユリエは自分の気が済むまでしばらく優月の側に居てやってくれ。でも無理はするなよ?」

 

「ヤー、ありがとうございます」

 

「じゃあ俺は優月とユリエの様子を見ておくよ。今日はこれといった用事も無いしな」

 

「僕も暫くここに居る。透流だけでは何かあった時に対応に困るだろうからな」

 

「なら頼んだぜ透流、トラ。それで他の奴らはどうする?」

 

「ふむ……九重とトラが居るなら一先ず心配は無いか」

 

「そうだね……なら私はお部屋に戻って編み物の続きでもしようかなぁ……」

 

「私は昨日の作戦の報告書を纏めなきゃいけないので……」

 

「私も手伝うよ、香」

 

「私も何か手伝うよ」

 

「ならばそちらの方は香と美亜と妹紅に任せますわ。よろしくお願いしますわね」

 

「……私は部屋に戻って久しぶりに将棋でも指すとしようかな」

 

「あ、それなら私もご一緒してもいいでしょうか?安心院さん曰く、橘さんの将棋の腕前はかなりのものだと聞いたので、もしよければ一局指したいと思っていたのですが……」

 

「なっ……わ、私は趣味で嗜む程度ですからそれほどの腕前は……しかしそれでもいいと映姫さんが言うのでしたら……」

 

「なら決まりですね。行きましょうか」

 

「アタシは片付けなきゃならねー仕事があるから戻るわ。じゃあな〜」

 

そう言うと月見はひらひらと手を振りながら病室から出ていき、そんな月見の後に続いてみやび、橘、映姫、美亜、香、妹紅が出ていく。

そして後に残ったのは幽々子と萃香、リーリスと安心院なのだが……。

 

「さて……安心院たちはどうする?」

 

「僕は影月君と朔夜ちゃんに付いていくつもりだぜ?暇だし」

 

「右に同じく〜♪」

 

「左に同じく〜♪」

 

「あたしは透流と一緒に―――って思ってたけど少し気が変わったわ。久しぶりにあの子に会いたいから私も朔夜に付いていくつもりよ」

 

「……って言ってるが大丈夫か?」

 

「特に問題ありませんわ。むしろそれなりに人数がいた方があの子も色々と喜ぶでしょうし」

 

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

 

とそこで今まで俺たちの話を聞きながら何かを考えていたスミレが話しかけてくる。すると朔夜が―――

 

「……別に構いませんわよ?貴女も一緒に来ても」

 

「あら、まだ質問もしてないのに答えが帰ってきたわ……。随分あっさりと許可するのねぇ」

 

「ええ。貴女は色々と信用出来そうですし、あの子に会わせても構わないかなと……」

 

「信用出来そうって……大丈夫かい?そんな根拠も無い事言っていつか寝首を掻かれるかもしれないぜ?」

 

確かに安心院の言う通りだ。昨日まで敵として殺し合っていたのに一晩話しただけで信用するなんて危険だろう。しかし―――

 

「あら、根拠ならありますわ」

 

……なぜそう言って俺に視線を向けるんだろうか―――いや、もう何を言いたいのか大体予想付くんだけどさ。

 

「見た所、彼女もまた私や優月のように貴方に愛慕を抱いている―――貴方を愛し、慕う者の中に裏切りを行う者など居ませんわ」

 

……正直、そんな事言われても俺としては本当なのか?と思うのだが……俺以外の面々はどこか納得しているような表情を浮かべている。

 

「まあ、確かに影月くんと優月ちゃんは人望も厚いし、裏切るような事もしないからそういう事しようと思う輩が少ないのは確かよねぇ」

 

「それにしても愛慕を抱いてるって……スミレとは昨日の戦闘以外、そんなに話した事無いんだが……」

 

「影月君、女の子って言うのはね……意図的に惚れさせようって思って行動すると中々惚れなくて難しいけど、何かその子にとって嬉しい事とかを無意識の内にしたらころっと簡単に堕ちちゃったりするもんだよ。勿論、世の女の子たち全員がそうとは限らないけどね」

 

なんて事を3兆年も生きてきた人に言われて、そんなものなのかと一人納得する。

 

「まあ、なんであれ今ここではっきりと言っておくべきね。さっきも言ったけど私はあなたたちを裏切るつもりなんて微塵も無いわ。だからと言ってそれを信用しろとは言わないけれど……正直私にとってはあなたたちを裏切るメリットなんて何も無いし」

 

「それはどうかしら?裏切ってここから逃げるついでに朔夜とあたしを拉致するか、最低あたしたちの首でも持っていけば色々とメリットあるんじゃない?」

 

「…………」

 

あまり考えたくは無かったが確かにそう考えれば彼女にもメリットはある。それに遅れながらも気付いた俺は念の為、朔夜とリーリスをスミレから守るようにして立つ。

 

「そうね……ドーン機関が現在一番力を入れて研究している技術の最高責任者とイギリス代表の三頭首(バラン)の娘……確かに始末した証拠だけでも提示すれば処遇も変わるかもしれないわねぇ」

 

しかしスミレはでも、と言って苦笑いを浮かべる。

 

「私はそこまでして向こうに戻りたいとは思ってないの。何しろ向こうの方が色々と酷かったからね……それと比べたらこっちの方が余程居心地がいいわ」

 

「酷かった、ねぇ……向こうでは一体どんな事があったのさ?」

 

「―――それはまた別の機会に話すわ。今ここで話すと長くなって人を待たせてしまうし……今はその話をしたくないの」

 

「……分かった」

 

彼女がそう言うのなら俺たちもこれ以上この話を無理に続ける必要は無いだろう。

それを悟った俺たちは透流、ユリエ、トラに優月の事を頼んで病室を後にした。




というわけで2019年初投稿のお話はいかがだったでしょうか?

もはやス○ロボや大乱闘なんとかブラザーズレベルのキャラの多さですが……今年もこんな感じでやっていきたいと思います。

安心院「これからも新キャラとか増える可能性はあるのかい?」

……あるかもしれませんねぇ……パンテオンってかスイッチ版diesも出て、神座列伝についても見ましたし……(尚、スイッチは諸事情で持っていない)。

安心院「……ってな感じでかなりカオスなこの小説はまだまだ続くからよかったら最後まで最終話まで付き合ってくれると嬉しいぜ。まあ、その最終回ってのがいつ来るのかは分からないけど」

とはいえ途中で投げ出すのは前にも言った通り、余程の事でも無い限りしないつもりなので……どうかよろしくお願いします!
それでは今回はこの辺で……誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!

優月(……私は後どれくらい待てば目覚めるんでしょうかね……)


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