我が雲は未だ行いに救いを求める
目を塞ぐなかれ心を閉ざすなかれ
深い意識の微睡みに彼女がいる。
深い海底の微睡みに奴らがいる。
似たもの同士か。似合わぬ同士か。
岩奬の如き徹甲弾が頬を掠め方耳の一部をえぐった。
本当は痛みなどないのだが場と言う無味無臭の劇薬が神経に作用し幻覚痛を発生させ激痛を錯覚させる。
苦しさのあまり呻き声が塞ぎ歯を食い縛った口から漏れ出た。叫んだのもつかの間、すぐさま敵の猛攻が襲ってくる。
爆風が全身を襲い海中へと叩きつけられる。
痺れた痛みが少女の無垢な体を這う。
少女は手を伸ばし海中を藻掻いた。
心臓が飛び出てしまうほどの望みがその手の先にあった。藁束にすがり付こうと思うほど少女は強欲ではなく純粋で生粋な淡い蛍火の恋いを望んで――しまったのだ。
叢雲――それが彼女を示す名前であり自身のあり方であった。
壱
那由多の平和が其処に鎮座する。ここは東海鎮守府内にひっそりと存在する執務室であるが、今のご時世は平和と発展の真っ只中。財ある者は洗濯板から洗濯機へ。白黒テレビはいつの間にか色が付き、冷蔵庫は氷要らずに
しかし、この東海鎮守府にはどれひとつとしてなかった。それはこの鎮守府は仮設の鎮守府であり、近々ーー明日に横須賀に移転となる。横須賀以外にも佐世保に舞鶴。最後に呉に鎮守府ができるそうだ。設備のどれを取っても最新鋭らしいとの噂を聞く。
時代は流れて行くものだ。横須賀鎮守府賀できるまでの短い間だったがいざ、この場が無くなると思うと心底から浮上する思い入れが顔を出す。
離れたくはないとは思うが無論、無理なことはわかっているが愚痴の一つは吐いても問題ないだろう。
まして、東雲は東海鎮守府のお飾り。提督を冠されてはいるがそれらしき行動は一度も行ってはいない。最近の海軍省の軍令部は特にきな臭く、何かを隠し通そうとしているのか鎮守府周辺の沿岸警備やちょっとした見廻りすら許しがでない。
「考えても無駄か。私ごとき浅知恵で無理なはなしだ」
物思いに耽っていると執務室の扉が叩かれた。不意の来客は多いが鎮守府の最後に来るものなどいないと思っていた東雲は慌てて威厳ある声に整え来客に応じる。
「どうぞ」
「失礼します」と若い女性の声が聞こえ扉が開けられる。案の定、入室したのは女性であったが若さは想像していたよりずっと若い。首元まである艶やかな黒髪を少女思考な水色のカチューシャが一層に女性らしさを持ち上げ幼さを表すような制服と眼鏡が合わさり美少女だと言える。片手には複数の書類。
あぁ、なるほど。提督の任を解くことを告げきに来たのかと納得する。なにゆえ少女なのかはさておくとして彼女は提督たる私にとっての処刑人だ。
「横須賀鎮守府より参りました。大淀と申します。本日は東雲提督に極秘の案件があって参りました。なお、この案件は特秘につき他言無用とさせてただきます。もしこの案件を他言した場合ーー」
違った。それを察したのかしていなかったのか或いは知った上で笑ったのか。
「極秘とは穏やかではないな。して見せかけの提督になにようか」
確かそうだ。彼女はーー大淀は笑っていたのだ。
「--深海に棲まうものどもの掃討及び撃滅を」