移動中に大淀から手渡された資料群を読む。車の中で読むものではなかったと後悔するが時間がないのでは致し方ない。そもそも戦略が立てられない状況の戦術は飛車角落ちて将棋を指しているのと同義だ。
資源をいくつ消費していいのか弾は何発までがいいのか長期戦となる場合にはそここそが肝となる。逆にあまり資源がない場合ならば短期決戦を築き敵の長期的な離脱が止むを得ないほどになるまで叩き潰さなければならない。深海棲艦が人であるならば頭を潰せば大方のことはそれで終るのだがもし、痛みを知らぬような特攻部隊のようなものであれば戦禍も戦果も悲惨なものとなる。
さて、どんなものが出てくるやらと資料の表紙をめくるとはじめに『事項匿秘生命体壱 個体名称”蟒蛇(ウワバミ)"』と題された報告書群と六枚ほどの写真がはさまれていた。
いや、写真というのには御幣がある。二枚ほど模写が含まれており紙は和紙である。
固体名称が変わっているのは何かしらの敵に対する知識が生まれたからなのか。
大淀が”深海棲艦”と言っていた。こちらが正式な名称だろうが一体この写真に写る怪物を生物に分類していいのだろうか。
残る四枚の写真は外見と臓腑。そして、装備。大砲らしきものが口から這い出ているがやはり、和紙の方と写真の方とでは武器の技術力がかけ離れている。
前者がカノン砲とするならば後者は12.7cm単装砲。12.7cm単装砲は確か亜米利加に留学したときにそういった武装があるのを見た覚えがある。ドイツも開発していたか。12.7センチ砲を作る動きはわが国にはない。
兵装は我が軍より格上と見積もったほうがいいのだな、難儀なことだ。よくもまぁ、東郷は愚痴らずにやってこれたものだと。目をそらしたくなるような事実が襲ってくるが嘆いている暇ではなく提督が弱音を吐くのは指揮に関わる。例え、大淀だけだったとしても悪い波は広がりやがて大きな津波ともなりえるのだから。
資料を読み進めるとある日を境にと蟒蛇の名称が急に変わり”駆逐イ級”、”駆逐ロ級”などに駆逐にイロハを付加させた名称に替わりeliteやflagshipといった部類まで生まれていた。
ここで対抗策が生まれ鹵獲ができるようになったのか。
だが、いくら加速度的に増えた敵の情報だが致命的に三つの命題がまったく持って不明であった。
一つ、深海棲艦の始点と終点
二つ、深海棲艦はどこからきたのか
三つ、そもそも深海棲艦とはなんなのか
体の構造、近しい生態系、捕食経路は判明しているがこの三つがない。
手にある資料の全てに記載はなかった。
最後に”艦娘(かんむす)”と題された軍には似つかわしくない題名だとは思いながらも手に取ると先ほどの深海棲艦より資料はの厚さはなかった。
「提督。横須賀鎮守府到着しました。これからどうなさいますか?」
「もうそんな時間が経ったのか、作戦室に支障なく戦える者を集めてくれ。収容できそうか?」
「……可能です」
「そうか、では十分で集めてくれ」
「わかりました。十分後ですね。工廠の者たちはどうしましょう」
「工廠のものはそのまま修理や兵装のメンテナンスがあるならば続けてくれ。それと資源の備蓄がどれぐらいか纏めたものを用意できるなばしてくれ。では、十分後に」
「はい。十分後に作戦室で」
車から降り大淀は踵を返し指令を実行しに歩いていく。
「あぁ、それと、この”艦娘”の資料は借りてくぞ」
「なくさないでくださいね」
「注意しよう」
数滴の冷や汗が東雲の頬を伝った。