ガンバライダーAGE   作:狸吉 ガンバライダーどん兵衛

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第三次世界大戦勃発後、世界のあらゆる経済大国は疲弊し、国力は著しく低下した。
そんな時現れたのは、世界征服を企む秘密結社ショッカー連合。
彼らの手によって大戦前に世界のリーダーとなっていた強国は例外なくショッカー連合によって蹂躙され、支配された。
それから6年⋯⋯
比較的ショッカーによる支配が進まなかった日本において、世界的な軍事企業ガンバライジング社は、日本国の再建を掲げ、秘密裏にショッカーの討伐隊を結成する。
ガンバライジング社の保護する地域の外、外交区に住む青年 「葵火牙刀」は、彼らの誘いを受け、世界を護る為にガンバライダーとなる⋯⋯はずが⋯⋯?



1話「Who is the HERO?」

2066年

日本国中枢都市「新東京」と、新東京北部にある洋上都市「エンブレイス」を繋ぐサファイアブリッジをバイクで走る青年がいた。リペイントされたサンダーバード、今の時代ではほぼ見ないガソリン式のバイクで青年は交通量の多いこの橋を法定速度ギリギリで走っていた。途中の渋滞も車と車の間を器用にすり抜けていく。そしてサファイアブリッジの先、エンブレイスへの入口で止まっている1台の車を確認すると、青年はそこにバイクを向かわせて、その車のすぐ横にバイクを止める「なかなかの操縦技術ですね、感心します」

車から降りてきた一人の男が青年とバイクを見ながらそう言った「……ふん」

青年は不機嫌そうにヘルメットを外した。血のようなくすんだ赤い髪と藍色の瞳は男に対する敵意を感じさせる。男も気づいているのか、少し後ずさりながらも、 「開発リーダーの依頼者の葵火牙刀(あおいかがと)さんですね、本社までお送りいたします」

と、仕事口調で青年を車に招き入れる。

後部座席にバイクを載せられるほどの大型リムジン車はゆっくりと目的地に向かい始めた。このエンブレイスは今や日本人口の有に15%を占め、人口密度は他県と比べればざらに10倍はある大都市だ。途中にあるエンブレイスの移住地区を通った時、ずっと外を眺めていた火牙刀の目に興味の色が映るのを男は見逃さなかった。

「ここもやっと緑の豊かな土地になりましたよ、ここ2年で人口も32%増加していますし」得意げに男が話すが当の火牙刀は気に入らなかったのだろう、

「そりゃそうだ、皆自分が一番大事だからな」

と皮肉のように吐き捨てる。

「俺はあんたらがやったことを肯定する気もないし、許す気もない」

ここに人が集まるのにはある理由がある。今から6年前に起きた「東雲事件」九州地方にあるGRZ社の実験施設で謎の爆発事故が起き、200人以上の無関係な人間が死にいたり、さらに1000人以上の人間が姿を消した。

そして、それが引き金であったかのように各地でテロが勃発すると共に、謎の集団からの「日本を帝国へと回帰させる」という犯行声明が放送された。その集団が「ショッカー連盟」

かつての伝説の秘密結社の名を継ぐこの組織は警察や民間の警備会社を襲い

秩序の無い無法地帯のようにしていった。そして、今国土の40%以上の地域がショッカー連盟の被害を受け続けている。そのせいもあって唯一ショッカー連盟の攻撃を受けていないこの街に平和を求めて引っ越してくるのは当たり前かもしれない。にしても、力こそ全て。なんとも短調な考えだ、と火牙刀が彼らに喧嘩を売ったせいで大きめな騒ぎになったのはいい思い出だ。火牙刀の言葉を聞き流すように聞いていた男は、ふと思い出したかのように、火牙刀に名刺を渡した。

「GRZ社第4セクター、プロジェクトデウスの研究員の真白と言います」しかし、その名を聞いた火牙刀は余計に不機嫌んなったのか、名刺を受け取ろうともしない。

「……また第4セクターかよ、いい加減に諦めてくれ、今月で何度目だよ」今回、火牙刀がGRZ社のアプローチを受けるのは初めてではない。

有に2年前から、GRZ社は彼に異常な優待を提示して、GRZ社への勧誘を行っている、軽く20回ほど。にもかかわらず、火牙刀はその勧誘を全て一蹴しているのだ。しかし……「まさか直接お偉いさんに会うなんてなぁ」今までは仲介や電子メールばかりで今回初めてだ

「それほど我々も本気なんです」

真白は作り笑顔を浮かべながら答える。事前に上司から絶対に不機嫌にさせるな、という命令が来ている。

もちろん真白も、テロリストがうようよいる新東京エリア外交部で平然と生きている人間に喧嘩を売れば、どうなるかは安易に想像できるが。

「答える必要も無い、燃料費返せ」

火牙刀は相変わらず不機嫌な態度で応じる。場所がかわっても火牙刀の意思は変わらない。GRZ社がGRZ社である限りは。

「まあまあ、そう言わずに話だけでも……」

真白はは火牙刀を引き止めようとするが、火牙刀はなんと走行中の車のドアを開ける

「え、あの、ちょっと」

真白は流石に動揺したようで、狼狽してポカンとしている。火牙刀はその間に

「じゃあ、おえらいさんにはいつも通りって伝えといてね」

そう言って、バイクに跨り、エンジンをかける。エンジンの轟音とともに火牙刀の乗るGSX-400Rはなんと走行中の車から発進していく

「エェェェェ!?」

真白は柄にもなく大声を上げる。真白の専用リムジンの運転手も主人のこんな大声は初めて聞く。この状況を作り出した張本人は顔色一つ変えずに平然と着地、そしてリムジンを追い抜いていく。こんな神がかった技を見れるのは運がいいと思いながら、運転手は後ろで追えだのなんだのうるさい主人の命令に一応従い、追いつかないであろうスピードでのろのろと街道を走っていった。

 

先程曲芸を見せた火牙刀もまた、先のリムジンの運転手の腕に感心した、彼は、追いついてないけど、追いつこうと思えば追いつける距離、とてもいえばいいか、そんな絶妙な距離で追跡してくる。こんな芸当は自然に出来るものではない。まぁさっき振り切ってしまったが。そう思いながら、ふと喉の乾きを感じた火牙刀は近くにあった公園の駐輪場にバイクを止めた。未だに変わらないタイプの自販機の小銭を入れ、コーラのボタンを押す。商品受けからコーラを取り出そうとした時、ふと後ろでバイクのクラクションがなった。

「ん?」

それは火牙刀の愛車の盗難対策として勝手に付けた機能で他人がエンジンやアクセルに触るとクラクションがなるようになっているのだが……

「おい、誰だ!」

火牙刀からは盗人の姿は見えないが、現にバイクは盗人を認識しているようだ。火牙刀はコーラを取るやいなやバイクを留めた駐輪場へ飛び出す。外交部で鍛えられた身体能力が役に立つのはこの穏便な街でも一緒だ。すると、バイクの前にクラクションに驚いたのかポカンとしている少年を見つける。

「あー……」

火牙刀はこの構図で大体のことを察した。どうせ今どき珍しいバイクが止めてあったからつい触ったらこのザマ、ってことだろう。子供は俺に気づくと慌てて頭を下げる

「ご、ごめんなさい!珍しかったのでつい……」

まぁ気持ちもわかる。今更数十年前のバイクに会えるなんてバイク好きなら誰だって触ってみたくもなる。

「いいって、それより、もうちょい触ってみるか?」「え?」

少年の目が輝く。そして、少年は少し躊躇した後、バイクの外装を撫でたり、フロントの写真を撮ったりして、楽しんでいた。火牙刀もそんな無邪気な子供を見るのは久しぶりでつい頬が緩んでいた。外交部で生きるのに必死な子供とは違う、心に余裕がある。「この街が気に入りました?」

突如真後ろから声がして、振り向き様に声の主から離れる。

「……またGRZの奴か」

先程火牙刀の真後ろにたっていたのは白いスーツに黒のGRZの社員バッチを付けた男だった。バッチの色からするに、幹部クラスなのは予想できる。「この都市はあなたの街とは違う。秩序があり、それが当たり前だ。少なくとも今は」

「あんたナニモンだよ」

火牙刀は子供を庇うように立つ。当の子供は話についていけずポカンとしている。 「第四セクター、のガンバライダープロジェクト、『プロジェクトデウス』の主任研究員、朝霧と申します」

朝霧の名乗った男は、火牙刀に名刺と一緒に何かを渡してくる

「……板チョコ?」

何故か渡された板チョコに火牙刀は動揺する。何の意図があってこいつは初対面の相手に板チョコを渡してるのだろうか。しかもこのメーカーのチョコは確か超人気で毎日開店から3分で売り切れるとかいうレア物だが。

「あ、そこのお子様もどうぞ」

朝霧は胸ポケットからもう1枚同じチョコを取り出して少年に渡す。

「え、あ、ありがとうございます……」

先程までポカンとしていて少年は目の前に差し出されたチョコに現実に引き戻されたようで、受け取ったはいいものの不思議そうに観察している。完全に警戒モードだ。

「あ、それ、お近づきの印です、私甘党なので」

特に意味はなかったようだ。わかりにくい。

「そのチョコが食べられるのもこの都市が平和だから、そうも考えられますよね、火牙刀君」

「……なんで俺の名前を知ってるって質問は、どうせしても無駄だろうな」

「君は結構有名人ですよ?両方の意味で…現に君のいる外交部は、チョコを作る暇もない、皆生きるために武装して、誰にも心を開けない。過去にあった言葉を借りるなら……『世紀末』とでも言えるのでしょうか?」

「……何が言いたい」

相も変わらずこいつらはものを遠まわしにしか伝えてこない。火牙刀の嫌いなタイプだ

「果たしてあなたはそれて満足でしょうか?」

その言葉が火牙刀の逆鱗に触れたのは言うまでもない。朝霧の襟を掴みあげる。

「叶わない願いに振り回されるのはもう散々だ!それに変わらないのはあんたらが足踏みし続けているせいだろ!」

八つ当たりだと頭では理解しているが、体はいうことを聞かない。火牙刀は単純に何も出来ない自分への怒りを朝霧にぶつけているだけだった。情けない。

「あなたに今必要なのは力だ。現状を打開して、世界を前に導くための、ね?」

その言葉を聞いた時、火牙刀は電流が走ったようなショックを受けた。その拍子につかんでいた腕を離してしまう。朝霧は襟を直しながら火牙刀に問いかけた。

「君は伝説の戦士の名を継ぐ勇気はありますか?」

朝霧の瞳に映る、狂気に似た色を見た時、火牙刀の中の疑問は確信に変わった。こいつらは……

「我々の城に行きましょう、そこに答えはあるから」

朝霧の態度は先と全く変わっていない。だが真白と違い、その態度に畏怖は見られない。

「……応じよう」

火牙刀は初めて彼らの誘いにNoでは無い答えを返した。

 

誘いを受けた火牙刀はGRZ社本部に足を踏み入れた。巨大な7つのビル郡からなる本社は3層の電磁フィールドに守られ蟻1匹入れない防御を誇っている。

そのさらに中枢地区にある開発部の中の応接室に案内される。すると応接室からガラス越しに見える実験室に一人の青年が立っている。火牙刀とは対照的な黒い髪と眼鏡をかけた青年は腰に特徴的なベルトをしている。

『2066年 10月20日 14時39分被検体No.193 ブラスト 起動及び戦闘テストを開始します』

ガラス越しに音声アナウンスがくぐもって聞こえると、眼鏡の青年は特徴的な構えをとりながら腰につけられた箱から1枚の緑色のカードを取り出してベルトのバックルに取り付ける。

『CHANGE GANBARIDER BLAST』

電子音声がベルトから流れると青年の周りにアーマーが構築される。そしてベルトバックルを中心にスーツが構築され、青年は特徴的な黒いスーツに纏われる。そして浮遊していたアーマーが装着されると前頭部の板のようなものに機械的な顔が浮かびあがる。すると壁の数箇所が開き、計14機のガトリングガンが姿を現す。それと同時に異形の戦士が手を開くと開いた右手に拳銃サイズの武器が生み出される、異形の戦士は即座にトリガーを引き、銃口から生み出された光弾がガトリングガンの8機を粉砕するも残った6機が射撃を開始する

異形の戦士は大きく横に転がり銃弾の雨から逃れながら、ガトリングガンを1機1機的確に処理していく。ほんの十秒にも満たない時間で異形の戦士はガトリングガンを処理し終わった

「あなたもよく知っている、うちの従業員ですよ?」

奥の部屋から資料を持ってきた朝霧が素っ気なく話すが、火牙刀は朝霧の話に聞く耳を持たず、険しい表情をする

「あれが……ガンバライダー……」

そもそも、何故このエンブレイスに人が集まるか、何故GRZ社がこの街に君臨しているのかその答えが今火牙刀の目の前の存在、『ガンバライダー』である。

GRZ社に作られたこの兵士は、使用者を選ばず、身体能力を大幅に増幅することが出来、ショッカー連盟への一番の回答として全世界で欲されている。にも関わらずGRZ社はガンバライダーの技術をひたむきに隠し続けて、正式な名称すら明かそうとしない。おかげでエンブレイスか発展したのも事実だが。

「これを俺に見せてどうするんだ、俺は……ガンバライダーにはなれなかったんだぜ」

GRZ社曰く、「誰でも変身できる」ガンバライダーはまだ完成していない。大体はガンバライダーのコアシステムとの相性によるのだ。火牙刀は1度ガンバライダーのコアシステムとの相性を測ったことがあったその時火牙刀の相性値理論上最低値を叩き出したのだ。それも火牙刀がガンバライダーを嫌っている理由の一つだった。

「えぇ、知っています。あなたがガンバライダーに変身できない原因も。」

「原因?」

ガンバライダーの適正は確か生まれ持った物だと聞いていたが

「まぁ、そこは置いといて、まずはこれをお受け取りください」

朝霧は火牙刀に銀色のアタッシュケースを渡す。火牙刀がアタッシュケースを開けるとそこには見覚えのある物があった。

「……ライジングギア」

GRZ製のこのベルトは、使用者をガンバライダーへと変身させる装置だが、これを変身出来ない火牙刀に渡す意図を火牙刀自身が図れずにいた。

「それは、現存するライジングギアの中で、最も適合者が少なかったギアです、何せ、適合者があなただけだったのですから」

「俺が適合者……?どういうことだ?」朝霧が不敵に笑う

「これは我々第4セクターの中核を担う『プロジェクトデウス』の本懐、そうですね、名付けるとすれば、『デウスドライバー』とでも言えばいいでしょうか」

「デウスドライバー……これが俺の力……」

火牙刀は思わずそのアタッシュケースに手を伸ばす。が、朝霧は火牙刀の伸ばした手を掴む。

「しかし、これはGRZ社でも数える程しかない、進化するベルトシステム、半端な覚悟で使えば、一瞬でシステムに飲み込まれますよ?」

「……システムに?飲み込まれる?一体何を……」

相変わらず朝霧が言っていることは火牙刀の要領を得ない。

「まぁ別にそこは説明が面倒ですから、しませんが。それでは本題に入りましょうか」

朝霧は持っていたタブレット端末を火牙刀に渡す。どうやら書いてあるのは航空機の通信履歴のようだ

「先日、GRZ社アメリカ支部へ物資を載せた支援機が飛び立ったのですが、その支援機が途中のルートで消息が途絶えました。数週間後に飛行機の残骸が真珠湾で見つかりましたが、その中のライジングギア400台がなくなっていました」

「なっ……400台!?」

今まで他国に配備されたガンバライダーの数は多く見積もっても80人程度。その5倍近くのガンバライダーをテロリストやあのショッカー連盟が手に入れでもしたら……

「火牙刀君にはそのライジングギアの回収をしてもらいたいんです。我々の仲間として」

「……何故俺なんだ」

この任務を聞く限り、火牙刀に執着する必要は限りなくゼロだ。にも関わらずこんなドライバーまで用意して、俺をスカウトする理由が火牙刀にはわからなかった。しかし……

「わかった、もちろんあんたらもサポートしてくれるんだろうな」

これ以上の状況の悪化。それを止められるのであれば火牙刀は依頼の意図を理解する必要は無かった。「我々もライジングギアの回収専用チーム既にを立ち上げていますので、あなたには彼らとともにライジングギアの回収に当たってもらう予定です 」

「……群れるのは好きじゃないんだがな、それに1人の方が動きやすい」

「あなた1人ではベルトシステムの制御やメンテナンス、ライジングギアの所有者の搜索は困難です、それにサポートしろと言ったのはあなたですよ?」

火牙刀は足元をすくわれて、押し黙る。その様子を聞いていなのだろう。すると実験室の扉が開き、ニコニコした青年が仲裁に入ってくる

「主任、うちの仲間をあんまりいじめないでくれよ。へこたれられると困るしな」

「……誰だよアンタ」

火牙刀は吐き捨てる。だが青年は特に気にしている様子はないようだ。

「俺はGRZ社零課の黒羽ノゾム、お前の同僚になる予定のガンバライダーだ」

「お前が……」

先の芸当に、火牙刀は正直感心していた、彼が仲間になってくれれば、火牙刀は……

「彼だけではないですよ、センナ君」朝霧は扉の方に話しかける。すると扉が空き外から女性というには少し幼い女の子が入ってくる。

「はじめまして、葵火牙刀さん。私は「ブラストシステム」及び「デウスシステム」の制御オペレーターの木戸センナと申します」

「オペレーター……何のための?」

「主にベルトシステムの管理やメンテナンスを」

木戸に投げかけた質問に朝霧が応じる。当の木戸はピクリとも笑わない。「お前らが俺の同僚予定ってか?……使えるとは思わんが」

「なら、試してみるか?」

すると黒羽がベルトを取り出し、不敵に笑う。火牙刀もアタッシュケースからベルトとカードを取り出すがそこに朝霧が割って入る。

「面倒なのであとにしてください、もう勤務時間終了ですよ?」

「え……まだ5時だろ!?」

まだ定時とは言い難い時間だが、当の主任が荷物をまとめている。

「6時からのムーンライトの販売があるので、月に一回での限定販売なんですよ」

「ちなみに、ムーンライトってのは主任の気に入ってるメーカーのチョコレートな」

黒羽が付け足す。

「え、何、馬鹿なの?」

とうとう火牙刀の心の内が言葉にロールアウトされる。しかし当の本人はさっさと帰る準備をしている。

「そのドライバーはあなたに預けておきます、まだチューン中ですから変身しても反動で死ぬんで、気をつけてください」

サラッと朝霧が付け足す。

「おいテメェ、なんてもん渡してやがる!せめて完成させろ!」

火牙刀が噛み付くも朝霧は聞く耳持たず、真顔スキップで走り去る。

あの真顔でスキップされても気持ち悪いのだが……

「んじゃーな」

そして黒羽も白々しく開発部を出ていく。結局残ったのは俺と木戸の2人だけ。

「超めんどくさい状況なんだけど……」

つい呟くと木戸に聞こえたのだろう。キッとこちらを睨んでくる。

「こっちのセリフです!なんで私がこんな人のオペレーターにならなくちゃ……」

「いやオペレーターなら俺はいらん」

素っ気なく火牙刀が答えるがかえって逆効果だったのだろう

「こっちだって願い下げですよこんなやる気無さそうなヘタレじみた人のオペレーターは!断ってくださいこの仕事!」

何故か逆ギレついでに罵倒されるが、それ以上に火牙刀は驚きの表情を見せる。

「お前……ちゃんと感情あんだな」

「は?……いや、人をロボットみたいに言わないでください」

「なんか朝霧の前ではピクリとも笑わなかったじゃねえか。てっきりそういう娘なのかな~なんて、ね?」

すると、木戸は目をそらす

「あの人はあまり得意なタイプじゃ無いだけです、あまり馬鹿にしないでください!」

ぷりぷりと怒りながら、開発部を出ていく木戸、正直ホントに頬をふくらませて歩いてるのはなんか萌える……

とにかくこのままここに取り残されては困る。とりあえず木戸のあとに着いていくことにした。こっそりと木戸の五歩後ろをついていくが当の木戸は気づいていない。ぶつぶつと文句を言いながら、出口へと向かっていく。出口に着いても、まだ火牙刀の尾行に気づかない木戸は、バス停の椅子にちょこんと座り、バスを待っている。

火牙刀が辺りを見渡すと、ちょうど、無人のGSX-400Rが、火牙刀の方に走ってくるのが見える。無人で走るバイクとはちょっとホラーだ。近くの車の運転手も、窓越しでわかるくらい驚いている。

「お疲れさま、って言ってもバイクは疲れねえか」

そう皮肉を言いながら、火牙刀はバイクに跨る。しかし、すぐに発進せず、直感的な何かから、少し木戸を観察することにした。しかし、すぐバスが来て、木戸も椅子から立ち上がり、そのバスに乗ろうとする。しかしバスはバス停に留まらず、そのまま行ってしまう。流石のコレには火牙刀も吹き出す。そして木戸はぽかんとバスが行った方向を見ていたが、わざとらしい咳をして、椅子に座り直す。すると、今度はタクシーがバス停の近くに留まる。すると木戸は目を輝かせて、そのタクシーの方に走る。しかし、足がもつれたのか、その場で転んでしまう。その間に、当のタクシーは無情にも走り去っていく。

「ま、待ってください!」

木戸の悲痛な叫びもタクシーには届かない。余りに可哀想な木戸に、火牙刀はバイクを発進させて、木戸の前に出る。

「あ、あら葵さん、やっと開発部から出れたんですか?」

火牙刀の顔を見て少し安心したのか、挑発的な態度になった木戸は全く火牙刀の尾行には気づいていない様子で馬鹿にしてくる。

「さっきバスとタクシーに無視されたやつに言われてもなぁ……」

木戸の顔がまたたく間に真っ赤に染まる。

「み、見てたんですか!?さっきまでの出来事全部!?」

「うん、というか開発部出るところから着いてったけど?」

「…………っぁぇぇぇ」見られてることに気づかなかったのがショックだったのか、木戸はしゃがみこみ顔を両手で覆う

「乗せてってやるよ、どうせ俺も宿探ししなきゃならねえし」

「……お願いします」

木戸はしゅんとしながら、火牙刀の後ろに乗る。しかし、木戸は跨っただけで、それ以上何もしなかった。このままではバイクから振り落とされてもおかしくない

「ほら、掴まれって」

「掴まれ……ってどこにですか?」

「俺に」

火牙刀は当たり前のように言ったがまた木戸は顔を真っ赤にする

らふ「と、殿方の体に触るなど……あまりにも淫らで……」

「途中で振り落とすぞ」

「うぅ……」

木戸は仕方なさそうに、火牙刀の腰に手を回す。そして、火牙刀はバイクのエンジンを蒸し、道路をいつも通り法定速度ギリギリで走らせた。

 

「あ、ここを左です」

しばらく道路沿いに走っていた火牙刀は木戸の案内のまま、進んでいた。偶然にもここは、先程の少年がいた公園の近くで、土地勘も全くない、とも言えないほどだった。しかし、路地に入った途端バイクは進路を変え、大きく右に逸れる

「うぉ!あっぶね!」

火牙刀はなんとか乗りこなす。が、もう一人の搭乗者を忘れていた。

「んにゃぁぁぁぁ!」

突如のカーブに対応できない木戸は盛大にバイクから転がり落ち、そのまま花壇に突っ込んだ。

「あーらら……」

火牙刀は急いで火牙刀バイクを止め、木戸に駆け寄る。

「悪い、……大丈夫か?」

「大丈夫な訳無いでしょ!」

花壇に盛大に突っ込んだおかげで怪我はないものの、制服は泥だらけに、持っていたバックの中身も乱雑にばらまかれている。木戸は泥を拭うのも忘れてバックの中身をかき集める。

火牙刀も手伝おうと落ちていたパスケースを拾う。が、そのパスケースに入っている一枚の写真に火牙刀は目を留めた。

「この子って……」

木戸は勝手に写真を見られたからか、また不機嫌そうに火牙刀の手からパスケースを取る。

「人のプライベート漁らないでください!」

そう言うと木戸はさっさと荷物をまとめて、バイクの後ろに乗り込む。火牙刀も何も言わずにバイクにまたがり発進させるが、カーナビは相変わらず木戸の言った場所とは別の場所を指している。どうせさっきみたいになるならと、火牙刀は素直に従って見ることにした。

 

 

火牙刀達がたどり着いたのは、朝霧と出会った公園だった。火牙刀はバイクから降りて、公園に入る。すると、暗がりで何かが動いた。少し警戒するも、火牙刀にはそれが何かすぐわかった

「……おい、チビ、こんな時間に何やってる」

それは昼に会ったバイクの少年だった。確か火牙刀はあの後朝霧の車で移動したので少年と別れたのだが……

「バイクが……勝手に……走ってって……お兄さんに怒られるって……思って……」

半泣きになりながら少年は話しているが、走ってきた木戸をみるやいなや、顔が真っ青になる。

「お、おねぇちゃん!?」

「マサヤ!?なんでこんなところにいるのよ!今何時だと……」

木戸は文字通り鬼の形相でマサヤと呼ばれた青年に迫るがその間に火牙刀は割って入った。

「あー悪いね木戸ちゃん、これ俺のせい、というよりうちのあれのせいなのよ」

と言って火牙刀は外のバイクを止めた方を指さす。すると、それに反応してバイクのクラクションが鳴る。

「待っててくれたんだろ?あいつがここに来ると思って」

火牙刀は優しくマサヤの頭を撫でる。マサヤは少し驚いたもののこくりと頷いた。

「なるほど、だからここに連れてきたって訳だな」

火牙刀は独り言のようにつぶやくとそれを聞き逃さなかったバイクはまたクラクションを鳴らす。どうた、と言わんばかりで、そもそも自分が原因だとわかっているのだろうか。

「……まぁマサヤが無事なのでまだ良かったですけど、あまり危ないことしないでください。私も忙しいんですから」

木戸はそうマサヤを律す。マサヤはしゅんとして

「……ごめんなさいおねぇちゃん」

と小さな声で謝った。

「はいはい、お二人さん。もうそろ行くよ。夜は危ないから、木戸ちゃんも家に早く帰んなきゃ」

火牙刀は木戸とマサトをバイクに乗せ、三人でバイクに乗る。

「えっ、これってアウトなんじゃ……」木戸は動揺してるが気にしない。

「捕まっとけよ?」火牙刀は先程聞いた木戸の住む家に向かって走り出した。

「くれぐれも安全運転でお願いしますね!マサヤも乗ってるので!」

木戸に釘を刺されながら

 

10分ほど走り、ついたのは二階建ての一軒家。中々大きい家だ

「そんじゃ俺はこれで」

火牙刀はすぐ帰ろうとするがマサヤに袖を引っ張られる。

「お兄さんこれからどこ行くんですか?こんな遅いのに……」

時間を見るとまだ8時だった。あまり遅いというわけでもないが、マサヤほどの年齢からしたらもう寝床についても早くない時間だ。

「んー……帰るかね?」

「えっ、外交部まで!?」マサヤに驚かれる。そりゃそうだ。今から外交部に帰るものなら、付く頃にはもう寝る時間だ、次の日のだが。

「あ、いや、どっか泊まるところ探す……かな……」

といいつつ火牙刀は財布の中を確認して、苦い顔をする。

何処かの宿に泊まろうものなら、火牙刀は最悪明日までの命だろう。

「ねぇお兄ちゃん!それならうちに泊まってきなよ!」

予想外の返答をされ、火牙刀は目を丸くする。木戸もいきなりの提案に困惑する。

「ちょっとマサヤ!?うちに泊めるの!?このひとを!?」

しかし、マサヤは至って普通に答える「だってお姉ちゃん送ってくれたじゃない」

それだけで赤の他人のような火牙刀を家に泊めるのもどうかと……と思ったが、これがマサヤなりの優しさなのだろう。火牙刀は素直に受け取っておくことにした。

「んー……じゃあお言葉に甘えておきますか」

「やった!いいよねお姉ちゃん!」

マサヤに決断を迫られて、木戸は苦い顔をする

「もう……今日だけですからね?」

木戸は仕方なさそうに答え、家の中に入っていく。それに続いてマサヤと火牙刀とバイクが……

「お前は外に決まってんだろ」

火牙刀はバイクのエンジンを切る。バイクは不服そうにクラクションを鳴らした。

 

 

「あれ?木戸ちゃん……お姉ちゃんは?」

バイクを置いて戻ってきた火牙刀はリビングに案内されるが、木戸の姿は無い。てっきりすぐ夕飯の支度にでも取り掛かると思っていただけに、少し気になる。すると、2階を見に行ったマサヤがパタパタと降りてくる。

「お姉ちゃん寝ちゃった」

「えっ……マサヤは夜ご飯は食べないのか?」

「うーん……こんなのならあるけど……お兄ちゃん食べる?」

マサヤは戸棚から大きな籠を取り出し、中身を見せる。そこにはカップ麺や保存食品が詰められていた。

恐らくこんな日は少なくないのだろう。しかし、これでもマサヤは成長期真っ盛りの子供。一応大人としてこういう現状は避けたいところだ。

そこで火牙刀は隣にあった冷蔵庫の扉を開くと、そこには食材がまた所狭しと並んでいた。

これならいける。火牙刀はそう思って、マサヤに尋ねた。

「あー……マサヤ、なんか食べたいものあるか?」

 

 

ふと、鼻腔をくすぐる匂いがした。空腹の体が匂いの正体を突き止めるために先まで全く動かなかった体がスッと立ち上がる。そして階段を危なげに降り、リビングに向かう。仕事場では表情を崩さないことに定評のある彼女も度重なる仕事の疲れからこの時だけは他人には見せられないような顔をしている。だが、リビングについた途端彼女の眠気は驚きに変わった。

「な……何してるんですか!?」

匂いの根源である台所、正確に言えばそこで今調理されているカレーライスが根源であるが、そこに立っているのは、エプロンと三角巾を着こなした、目つきの悪い来客者、火牙刀だった。

「おう、やっと起きたな木戸、ほら、お前も食えよ。なかなかにうまく出来たぜ」

そういって火牙刀はセンナの席にカレーライスの盛られた皿を置く。目の前の匂いにたまらずセンナの腹が音を立てる

「こ、これレトルト……じゃないですよね……」

「うん、それ凄く失礼だから他人には絶対言うなよ?」

火牙刀に毒づかれるが、センナは未だに信じられなかった。人は見かけによらないというが、彼に至っては中身にもよらない立ちの悪いタイプらしい

「ごちそうさまでした」

その隣でマサヤは早々と大盛りにしたカレーライスを平らげると直ぐ上の階に向かっていく。

「で、では私も失礼して……」

センナは席に座りカレーライスを口に運ぶ。いつも夕食は時間が無いため大体がセンナが買ってくる弁当かレトルト食品で済ましていたため、誰かの手料理を食べるのは何年ぶりだろうか。

「……美味しいですね」

レトルトカレーならよく食べるが、手作りのカレーがここまで美味しいとはセンナは予想していなかった。

「ま、見たところカップ麺とかレトルト食品が多かったからな。それじゃあマサヤの成長に悪いだろ。飯くらいせめて作ってやれよ」

火牙刀に律されるとセンナは少しむっとしたものの、すぐに俯く。これには火牙刀も少し驚く。てっきり反論されるかと、料理中に幾つか反論を考えていたのだが。

「マサヤは……多分私のことを家族と思ってくれてないんです」

「……あん?どういうことだ?」

突然の告白に火牙刀は首を傾げる。

「私は仕事上相手の気持ちが多少は読み取れるんです……まぁホントに多少ですけど。そんな私で確信が持てるくらい、マサヤは私を拒絶してるんです。……いや、拒絶してるというよりは、受け入れてくれないって感じでしょうか。六年前に父と母が死んで、途方に暮れていた私たちを引き取ってくれた叔母さんを事故で亡くしてから、私は親代わりにマサヤに不自由なく過ごしてあげようって思ってたんです……けど、全然ダメだ……不自由なくどころか、料理1つ作ってあげられなくて……もう不甲斐なくて」

火牙刀の中では慰めの言葉が渦巻いていたが、それを出すのには余りにも躊躇いがあった。彼女らの間の歪みはその程度の言葉で埋まるものじゃない。もっと根本的な何かを埋めなければ……

「家族か……」

火牙刀は何か思い当たる節を探してみたが、何かを思い出したのか苦い顔をする。

「なぁ木戸ちゃん、もしマサヤが木戸ちゃんを受け入れてなかったとしてもさ、木戸ちゃんがいること自体に意味はあると思うんだ。誰かが隣に居てくれるだけで、人ってのは強くいられるもんなんだよ」

「……そうでしょうか」

「少なくとも俺はそうだったかな……あの人が隣でただいてくくれただけで、俺は勇気を貰えたからさ」

しかし、木戸はまだ納得していないようだ。席を立つと、書斎の方へ向かう。

「あんまり無理すんなよ」

火牙刀はねぎらいの言葉をかけるもセンナはそのまま出ていってしまう。

「こりゃまたなんというか……」

火牙刀は洗い物を片付けながら苦笑する。何故こうも二人の間の溝が深まっているのか。洗い物とは違い簡単に片付けられるものじゃないなと、火牙刀はマサヤに案内されていた部屋に入り、寝る間も無く考えていたがどうしてもわからなかった。

 

 

明朝にカチャカチャとドアの鍵を開ける音に火牙刀はふと気づいた。まだ街も寝静まる中、泥棒かなにかだろうか。火牙刀は音を立てずにドアを開けて、玄関に向かう。しかし、道中には誰も出会わない。玄関までついても変化はない。すると、ふとマサヤの靴がないことに気づいた。不思議に思い、火牙刀が靴を履き、外に出ようとすると、ブーっと聞きなれたクラクションが聞こえた。ドアを開けると、案の定バイクがマサヤの前で止まっている。

マサヤの事を心配してか、恐らく乗せていこうとしてたのだろう。

「あっ……お兄ちゃんどうして……」

「お散歩なら付き合うぜ?こんな時間に一人だと危ないしな……そういやここは警察に深夜徘徊取り締まられるのか……警察って厄介だな」

むしろ10年も前は当たり前だった警察の取締りはもちろん外交部ではやっていない。というか警察が存在しない。

「でも……」

何か躊躇っているのだろうか、マサヤは釈然としていない。

「いいからいいから、これも年長者のお節介ってやつよ」

そう言って火牙刀ははんば強制的にマサヤをバイクに乗せて、走り出した。

 

サファイアブリッジの近くに着いた火牙刀達は1つの家の前でバイクを止めた。決して大きい家ではないが、海の見える綺麗な場所に建てられている。

マサヤが来たいと言っていた場所だった。しかし、その様子から火牙刀はここがただ景色だけの場所ではないことを充分に理解していた。

「……なぁマサヤ、ここって、お母さん達と暮らしてた家なのか?」

するとマサヤは驚いた顔を見せる。どうやらあたりだったようだ

「……うん、僕とお父さんとお母さんと……そしてお姉ちゃんの大事な思い出がたくさん詰まったお家」

「……そっか」

それ以上は火牙刀は何も言えなかった。昨晩のセンナの弱音の答えをまだ見つけていない火牙刀にはそれ以上踏み込んではいけない話題なのかもしれない。しかし、マサヤの一言が火牙刀に答えをもたらした。

「……昔はみんなと一緒で楽しかったんだ」それは抑えきれなくなったマサヤの本音なのだろうか。それを聞いた火牙刀は問いかける。

「今は楽しくないのか?」

「そんなことないよ、お兄ちゃんと一緒にいて、手料理作ってもらったり、バイク乗らせてもらったり、すごく楽しい。けど……」

「けど?」

「今のお姉ちゃんはなんかお姉ちゃんじゃ無くなっちゃって、寂しいんだ」

やっぱりか……火牙刀はそう思い、マサヤの前でしゃがみこみ、マサヤと視線を合わせる。

「その気持ちはな、胸に留める必要なんてないんだ、それを外に出していいんだよ、そうしなきゃ、お姉ちゃんも気づいてくれないだろ?」

「でも、お姉ちゃんは僕の為にお仕事頑張ってるから……我侭なんて言えないから……」

やはり兄弟だ、似ている。独りで抱え込んで、苦しんで、その相手への優しさが相手にも苦になっていたとは気づきもしないのだろう

「今日の夜にでも言ってみろ、お前の気持ち。飾らない正直な気持ちを」

マサヤはこくりと頷く

「それじゃ、もうそろ帰るか、いないと木戸ちゃんも心配するからさ」

そう言って火牙刀はマサヤをバイクに乗せて走り出した。その時のマサヤはどんな表情をしていたのか、火牙刀には見えなかった。

 

 

「それじゃ、行くか」

家に戻り朝食を作ったあと、火牙刀は早々とセンナを連れ出した。マサヤにあんなことを言ったのは自分だがまだ覚悟も出来ていないだろう。それにその後にセンナとも話し合う時間が必要だ。当のセンナは、昨日のことは気にしていないようで、オレのバイクの後ろに乗りながらぼーっとしている。

「……あのさ、木戸ちゃん」

大通りにでたところで、火牙刀はマサヤのことをセンナに事前に話そうとしていた。マサヤのことだ、もしかしたら気を使ってすべてを明かさないかもしれない、しかし、それでは溝は埋まらない。自分の気持ちを全て相手にぶつけて初めて、人は近づける。

「…昨日はすみませんでした、まだ会って間もないのに、あんなことを……」

「気にしてねぇよ、むしろ良かったさ、教えてくれて」

もし火牙刀がGRZ社に入るなら彼女達との交流も続くだろうし、何より自分と重なるところもある。

 

 

突如、奇怪な音が聞こえた。聞いたこともない、まるで何かの鳴き声のような、心に恐怖を刻む声が。

同時に、サファイアブリッジから、爆発が起こる。突然のことに、その場にいる誰もが、呆気にとられている中、火牙刀は生存本能からか、バイクを急発進させて、急いでGRZ社の方へと向かう。

これは普通じゃない。「奴ら」が来たんだ。

そう確信を持ったのは火牙刀だけでは無かった。センナはくくりつけてあったアタッシュケースから、デウスドライバーと時計を取り出す。

「これをつければ衛生通信で本部との連絡が取れます」

火牙刀はドライバーを受け取り、即座につける。すると時計に立体ウィンドウが開き、朝霧が顔を覗かせる

「あ、どうも火牙刀君。センナ君も一緒でしたか」

「現状を知りたい、あの爆発はなんだ?」

火牙刀はもうわかっていたが、それでも可能性はある。ただの爆発事故かもしれない。火牙刀はその可能性にかけたかった。それは朝霧にも伝わったのだろうか。

「現実は非情ですよ、火牙刀君……ハイパーレーダーで観測しました。「奴ら」のお出ましです」

「……クソッ!ブリッジのゲートの守りどうなってんだよ!奴らの強化兵士くらい余裕だろ!」

「あれが破ったのは恐らく……ガンバライダーです。しかも最も立ちの悪いガンバライダー……「AQOOT」が」

「アクート……なんぞそれ」

火牙刀には聞き覚えの無い単語だが、センナはそれを聞いて顔を青ざめる

「そんな!あれはマトモに運用できる代物じゃないです!あれを使うのは人間性を失うのと同意義なんですよ!?」

人間性を失う。それを聞いた火牙刀は戦慄する。その言葉から、そのアクートやらが、デウスドライバーと同じ力を持っているのかと想像してしまったのだ。ベルトに飲み込まれ、人間性を失う。それは変身するのではなく「させられている」のでは無いだろうか。

しかし、ふと二度目の爆発で現実に引き戻された火牙刀はあることに気づく。

「センナ、ここで待って……」

しかしセンナもすぐに気づいてしまった。

「あそこは……私の家が!葵さん!行ってください」

「お前はここで待ってろ!」

「オペレーターは近くでの支援が仕事です!早く!このままじゃ私絶対後悔します!」

「わかったよ!掴まってろよ!」

火牙刀はそう言うと今度こそ法定速度をオーバーして、サファイアブリッジの前のセンナ達の大切な場所へと向かった。

「来たのか…ショッカー連盟が!」

 

 

 

火牙刀達を乗せたバイクは、やっと驚異を実感して、街の中心部へと逃げていく人々とは逆の方向へと走っていく

道路は捨てられた車でいっぱいでバイクがぎりぎり通れるかどうか程度の隙間を通るしかないため流石の火牙刀もスピードを落とさざるを得ない

「駄目だ……出ない、どうして……」

センナはさっきからずっと電話をかけている。おそらくはマサヤだろうが、出ないとなると、あそこに向かっているのだろう。早く行かなければ、マサヤが危ない。

ブリッジに近づく程少しずつ人が少なくなっていく。火牙刀もスピードを上げる。すると突如頭上からガラスの割れる音がして、火牙刀たちの進行方向に、大きな影が映る。

「うおっ!」

急いでブレーキをかける。その勢いでまたセンナは「うにゃ!」と火牙刀の背中に頭を強くぶつける。

急ブレーキをかけ止まったバイクの目と鼻の先に大型のトラックが落ちてくる。

「こんなこと出来るのって…なぁ?」

火牙刀は自問自答のようにつぶやく。

するとそのトラックの上に白い影が飛び降りてくる。

全身が白く、顔についている独特のカードのようなバイザー、何よりその腰に巻いているものが火牙刀とセンナに正体を暗示させた

「ガンバライダーか……!」

その手にはかつてフェニックスというファントムが持っていた大剣、カタストロフを握るガンバライダー。センナは自分の頭の中のデータと目の前のガンバライダーが一致した。

「まさか、アクート!?」

その言葉に火牙刀は驚く。

「こいつが……アクート……」

確かにこのガンバライダーには前黒羽望が変身したガンバライダー、確かブラストだったか、それとは明らかに違う何かを感じる。

「驚いたな、まだ逃げ遅れた人間がいるとは、それとも貴様らもガンバライダーか?」

恐らくはガンバライダーの変声機能によるものと思われる声に火牙刀はなにか違和感を感じる。

「……まぁいい、残念なことに後者なんだよな」

火牙刀はドライバーを改めて腰に巻く。そしてセンナを下がらせるとベルトの電源を入れ横についているボックスからライダーメモリーを取り出す。ライダーメモリーは共通のベルトで変身するガンバライダーにシステムバリエーションをつけるためのアイテムで、ライジングギアのリミッターを解除するキーでもある。

そして、ライダーメモリーをさそうとした時、朝霧とセンナの会話を思い出す。

『ベルトに体を奪われる』

その言葉が体をよぎると、途端に動きがとまる。しかし、必死にその言葉を自分の中で否定し、すぐにライダーメモリーをベルトに装着する。

「変身!」

しかし、火牙刀の体に変化は訪れない。ガンバライダーに変身できないのだ。

「何?どうして……」

するとアクートが火牙刀に襲いかかる。火牙刀はカタストロフの一閃を間一髪で避ける。予想以上に早い。続く腹部を狙った一撃は火牙刀には避けられず、直撃を食らい、後方にふっ飛ばされる。幸い骨などに異常はないものの、相当な痛みがある。

「火牙刀さん!」

センナが叫ぶ。すると火牙刀たちが来た方向から、アクートに向かって光弾が撃たれる、アクートは回避するも、その間に火牙刀は体制を立て直す。すると光弾を放った主、ガンバライダーブラストが火牙刀とアクートの間に立つ。

「ノ、ノゾムさん!?」

「お前……どうして」

突然の乱入者の登場に火牙刀とセンナは驚く

「朝霧の閣下から事情は聞いたぜ。ここは俺が引き受けてやるから、センナの思い出、ちゃんと守って来いよ!」

そう言うとノゾムことガンバライダーブラストはガンバブラスターを2つ呼び出し、二丁拳銃のように乱射する。

アクートはカタストロフで防御するも、少しずつ後退していく。

「…ここは頼むぞ!行くぞセンナ!」

火牙刀はバイクにまたがり、フルスロットルで走り抜けた。ブラストの無事を祈りながら。

 

「おいセンナ、どうして俺は変身できなかったんだ?」

走りながら火牙刀はセンナに聞く。実際、あのベルトは朝霧曰く未完成らしいが、昨夜中身を見てみたら、もう完成の域にとっくに達していたのだ。なのに変身できないのには、なにか理由があるのだろうか。

『私がお答えしますよ、火牙刀君』

時計から朝霧の声が聞こえ、火牙刀はまた時計のスイッチをオンにする。

『単刀直入にいいます、原因は火牙刀君がガンバライダーに、いや、デウスになるのを拒んでいるからです』

「拒んでいる……俺が……?」

唐突な言葉を火牙刀は飲み込めない

『あなたはアクートシステムのように変身者のことを蝕むドライバーが怖いんですね?だから、変身に支障が出た。彼は弱者には厳しいですからね』

「俺が……弱者……なのか?俺には変身する資格が無いのか?……そんなことは無い!」

火牙刀はその言葉が飲み込めなかった。自分がただのベルトに恐怖を覚えるなどあるはずがない、はずなのに、今回の火牙刀は確かにそうだった。まるでベルトに乗っ取られるのが怖いのか、メモリーを入れた瞬間とてつもない否定の感情を火牙刀は感じていた。

それはまるで火牙刀に変身する資格がないと、言い放つようだった。

『火牙刀君、そのベルトはとても我が儘です、だから強い信念をぶつけなさい、その信念が君をガンバライダーにする。それでは幸運を』

「あっ長官!?……切れてしまいました」

センナはまだ話したいことがあったのか、少し不機嫌そうだが、火牙刀は今言われた言葉を頭の中で反芻させていた。

(信念をぶつける……か……)

 

そのまま妨害もなくブリッジのすぐ近くの家に着いたが、その惨状は酷いものだった。建物の6割程度が倒壊し、残骸も燃えている。なにより驚くのは、その隣の家には何の危害も加えられてないことだった。

「嘘……私たちの家が……」

センナは恐らくは気張っていたのだろう、現状を突きつけられて、地面に座り込む。

火牙刀は同じように地面に座り込んでいる人影を見つけて、素早く近づく。

人影の正体、マサヤは焦点のつかない目で火牙刀を見つめる。

「お兄ちゃん……どうしよう……僕もう……」

「……大丈夫だマサヤ、大丈夫、大丈夫だから……」

火牙刀は必死に慰めの言葉を紡ぐが、マサヤには届かない。すると、多くの足音が聞こえた。

音の出処を探すと、黒い特徴的な全身タイツを着た人間が、短剣のようなものを構えて、隊列を作ってファイティングポーズを取っていた。

火牙刀は前に出て身構える。

するとその後ろからまた見覚えのある姿をした者が歩いてくる

「おいおい、まだ逃げてない奴がいるのか?そんなに潰されたいみたいだな!」

「落ち着け、予定より人を拉致できてない、こいつらで傘ましするぞ」

ガンバライダーの姿をしているふたりに火牙刀は問いかけた

「お前ら!そのベルト、どこで手に入れたんだ!」

すると、その聞き方が気に入らなかったのだろうか、大柄のほうのガンバライダーが持っていたガンバライダーの装備ではない斧で火牙刀に切りかかってくる。

「関係ないね!それより、俺達の為に死んでくれよ!」

先ほどのアクートと違い、隙の多い動きに火牙刀は素早く対応する。

「まぁいい、それよりどうしてあの家を襲った!」

火牙刀はまたそのガンバライダーに問いかける。すると大柄なガンバライダーは攻撃をやめ、顔を抑える。まるで笑いをこらえているようで、火牙刀は不快感を覚える。

「俺達が来たとき、チビッ子がここを必死に守ろうとしててなぁ、元々俺達は被害はあまり出さないつもりだったがあまりに必死なもんだったから、俺は感動しちまってなぁ、つい壊しちまったんだよ、それでこのザマさ」

火牙刀は大柄なガンバライダーの言っていることが理解出来なかった

「何を……言っている?」

「まだわかんねぇのか?この俺は、ガンバライダーバンデット様はなぁ……ああやって必死に何かを守ろうとする奴らが大好きなんだ……何もかも壊してやった時の絶望の表情が堪らねぇんだよ!ハハハハ!!!」

火牙刀にはバンデットと名乗ったガンバライダーの言葉が理解出来なかったが、一つ理解出来たことがあった。それは火牙刀自身のこいつらへの憎悪が

「というわけです、なので私たちに捕まってもらえると尻拭いが出来て助かります」

するともう一人のガンバライダーが火牙刀に襲いかかる。バンデットと比べると格段に早い。火牙刀は放たれた蹴りをなんとか腕でガードするもそのまままた後方にぶっ飛ばされ、バイクにぶつかる。

「お兄ちゃん!」

バイクの後ろに隠れていたマサヤが、火牙刀に駆け寄る

「なんだ、小僧まだ元気じゃねぇか!こりゃ楽しめそうだ!またあんな顔が見れるとは今日はついてるなぁシーフ!」

「……くだらない、あなたの趣味は非紳士的すぎる」

そう言いながら2人のガンバライダーは、余裕からか堂々とこちらに歩みを進める。

「……あんまり舐めてると痛い目見るぜ!」

火牙刀はふらつきながらバイクの後部にあるレバーを引き抜く。

28cm単装砲、火牙刀が魔改造したGSX-400Rに搭載された秘密兵器、対ショッカー連盟の強化兵使用の装備でもある。

単装砲が火を吹き、バンデットに直撃、衝撃でバンデットが宙を舞う。

「……あなたも無駄なことはおやめなさい」

次弾装填より速いシーフ、と呼ばれたガンバライダーの一閃、28cm単装砲の砲塔があっけなく切り裂かれる。

がしかし、そこに間髪入れずに強い光が差し込む。

「ッ!?閃光弾……そんなもので……」

ガンバライダーの装備の前ではゼロ距離の閃光弾でも目眩しの効果は数秒しかない。だがその数秒で、火牙刀はセンナとを、物陰へと避難させていた。

「……とりあえずここにいろ、俺が戦う。それでおれが負けそうになったらそれに乗って逃げとけ」

火牙刀は隠れている草むらから出ようとするが、小さな手が火牙刀の手を掴んだ。

「……マサヤ」

「もういいよお兄ちゃん、逃げよう?あんなのに勝てっこないよ、もういいから……」

そういったマサヤの顔は俯いていて見えなかった。果たしてどんな表情をしていたか。火牙刀にはわからなかったが、それでも必死に握られた手から、マサヤの感情が伝わって来るのを感じた。

「……大丈夫だ、俺があいつらを倒してくる」火牙刀はノゾムを優しく抱きしめる。

「だけどな、マサヤに勇気が無いと、俺にも勇気が湧かないんだ。だからマサヤ、今ここでお前の勇気を俺に見せて欲しいんだ。出来るな?」

マサヤにはその言葉の真意がわかったのだろう。一瞬緊張を見せたがすぐそれが困惑に変わる。

「やっぱり僕にそんな資格は…」

「あの!何の話か知りませんがここは流石に逃げた方がいいんじゃないですか!?葵さんまだ変身できませんし!」

しびれを切らしたのかセンナが声を上げる。

丁度いい、火牙刀はセンナを引き寄せ、マサヤと対面させた。

突然の行動にマサヤは驚いたが、決心したのだろう、センナと面を向いて対峙する。

「僕は…あの時みたいに…またお姉ちゃんと遊びたい!お父さんやお母さんと一緒に居た時みたいに、お姉ちゃんと一緒にいたい!お姉ちゃんが楽しそうに笑ってる姿が見たいんだ!たとえ仕事が出来なくても、構わない!お姉ちゃんに笑ってて欲しい!ただそれだけで、僕はいいんだ!」

その言葉はセンナの耳にはどう聞こえたんだろうか、今までの努力を否定された。過ごしてきた時間は間違いだった。マサヤのためにやったことが全て裏目に出ていた。そうとも取れる言葉を前にして、センナの瞳からは一筋の涙が流れ出ていた。慌てて涙を拭うセンナだが、拭っても拭っても涙は収まらない。

「──なんだ、それじゃあ私のして来たことって……ひたすら努力して、ここまで這い上がって来て、マサヤに寂しい思いさせないようにって……なのに、その為にマサヤの笑顔を切り捨ててたなんて……私……これじゃ全部無駄に──」

「それは無駄じゃなかったろ」

火牙刀が突然口を挟む。

「なにせ、木戸ちゃんは、センナは、努力し続けた結果俺に会ったんた。そして間違いに気づけた。遠回りではあったが無駄ではなかったよ」

その言葉に2人は兄弟らしく同じように驚いたような顔を見せるが、すぐに吹き出して微笑みを見せた。

「そうですね……結構大それた遠回りでしたけど」

「けとお兄ちゃんにそんなヒーローみたいな役似合わないね、どっちかと言うと怪人さんだよ」

「……なんだと?マサヤお前な〜」

火牙刀がマサヤの頭をくしゃくしゃとなでたその刹那、殺気を感じ取った火牙刀はセンナとマサヤを抱えて倒れ込む。

その頭上を膨大な熱量を持った扇状の熱戦が通過、木々を残らず焼き払った。

「いい話だよなァ!兄弟の友情ってのは!ぶち壊し甲斐があるから大好きなんだよ!」

熱戦を放った主、バンデットはマスク越しでもわかるほどの醜悪な笑を浮かべる

「……見てろよマサヤ、正義のヒーローは、『仮面ライダー』は絶対に負けない」

そう言って火牙刀は、バンデットの前に対峙する。

気配を消していたのか、シーフもバンデットの背後から霧のように出てくる。

「とりあえず一つわかった。俺はお前らを許せないってことが」

火牙刀はデウスドライバーを手に取り、話しかける。

「お前も見てたろ、マサヤの勇気…お前に何かをぶつけてみろってんなら俺は、マサヤから貰ったこの勇気をお前にぶつけてやるよ…だからこの場だけでいい……この状況を帰れる一手を、お前が!俺と!作り出してくれ!仮面ライダーになる資格を俺にくれ!」

火牙刀はドライバーを腰に巻く。

「貴様、まさかガンバライダー……」

変身できる保証はない、むしろあんな屁理屈でこいつが落ちると思いにくい。しかし、今の火牙刀はデウスを「信じて」いた。

腰のライダーメモリーに手を伸ばす。

そしてドライバーに装着する

「変身!」

『DEUS BEGINNING!』

変身音が響き、地面に現れる五芒星を模したライダークレスト。そして火牙刀の周りにガンバライダースーツが展開される。

そして光に包まれたアーマーが装着される。

「そんなハッタリが効くかァ!」

バンデット達はデウスに襲いかかるがデウスは手に大型のアックスを展開するとバンデットの斧を受け止める。

「膂力で俺に勝てるかガキがァ!」

その言葉が聞こえると同時に、バンデットのマスクの中の人間の酷く醜悪な顔は、驚愕から固まっていた。

全力で叩きつけた一撃を単純な力で押し返される。同時に腹部に何重にもわたる激痛、ライダースーツの腹部に渡る損傷は12箇所、「12回撃っても認知させないほど速い攻撃」をデウスはバンデットに与えていた。

さらに返す刃が巻き起こす風は並んでいたショッカー連盟の兵士をバンデットと纏めて一瞬で海へと吹き飛ばす

「なっ……バケモノか!?」

シーフは後方に大きく飛び、撤退の姿勢を見せる。がデウスが突然加速。距離として50m以上を一瞬で詰められる。そして、雷のようなトマホークの一撃が、シーフを一瞬にしてダウンさせ、ドライバーを塵芥残さず破壊した。

それを見ていたセンナとマサヤの瞳には火牙刀はどう写っているのだろう。

デウスは文字通り現状を変えていった。それが正解なのかは誰にもわからない。しかし一つだけ確かな事は、火牙刀はとうとう手に入れてしまったのだ。後戻り出来ない。大きすぎる力を

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