倒壊しかけた街の中に騒音が響く。エンジンを蒸し、決して速いとは言えない速度で走るバイクを運転するのは重装備と形容してもまだ足りないような容姿のアーマーを身にまとい、顔に一特徴的なパーツつけた異形の、しかしどこかに優しい雰囲気を持つ戦士。ガンバライダー。そしてその変身者である葵火牙刀は後ろに乗った二人の対応に頭を悩ませていた。
(なんでこんな空気になるのかね……)
後ろに乗る火牙刀のオペレーター、木戸センナ。そして弟の木戸マサヤ。2人は互いの為に仮面を被り、結果として間に溝を作ってしまった。しかし、火牙刀の頑張り、と言うまでもないが火牙刀の言葉で少しずつ2人は近づいていった。だが、突如出現したショッカー連盟に大切な思い出が詰まった家を壊されたのだ。歩み寄れはしたものの、ショックは大きいだろう
「あの、葵さん」
そんなことを考えていると、センナが火牙刀に話しかける。
「お、おう……」
内心火牙刀は冷や汗で日本を沈没させているがそれをセンナに悟られることのないよう、平然を装って答える。
「この近くのエリアで他のガンバライダー、恐らくノゾムさんのブラストの識別波数を認識しています。合流した方がいいかと」
「ん?あ、おう」
火牙刀は予想と違う答えに驚いたものの、冷静に考えれば、ここでセンナが弱音を吐くなど考えにくい、それこそマサヤの為にはならないだろうと思ってのことか。
「よっしゃ、それじゃあ俺は……」
しかし言葉は途中で遮られた。
火牙刀たちの乗ったバイクに何者かの撃った数十発の銃弾が飛来する。
「なっ!?」
幸い弾は大きく反れて、3人とも無事だが、先の戦いで痛んでいたバイクのエンジンに穴が開き、どんどん減速していく。
「チッ……誰だって言うまでもねぇな……」
ガトリングガン、正確にはガトリングモジュールで火牙刀達をを撃った張本人、ガンバライダーアクートは、相変わらずビルの上で悠然と立っている。しかし、今まで持っていたカタストロフは無く、代わりに白い魔法使いの持っていた笛型の剣、「ハーメルケイン」を隣に突き刺している。
「変身したのか……葵火牙刀」
「……どうして俺の名前を知ってるんだ?いやそもそも、アンタ一体誰なんだ?」
火牙刀は不審がるが、それより先に武器を構えようと手を伸ばす。そこに大型のトマホークが生成されると跳躍してアクートに襲いかかる。
「ま、答えなくてもいいぜ!あんたを倒せばわかるしな!」
火牙刀が繰り出したガンバトマホークの一撃をアクートはハーメルケインで受け止める。衝撃で周囲のビルのガラスが割れ、特に倒壊がひどかった近くのビルが、火牙刀達が戦っているビルの方に倒れてくる。
「あくまで倒せばの話、アクートは現存するガンバライダーでは最強だ」
アクートはなんとデウスの一撃を完全に受け止めると地上へと弾き返す。そして今度はお返しとばかりにビルから飛び降り、着地したデウスの胴に向かって、蹴りを放ってくる。間一髪でかわし、もう1度トマホークをアクートの首めがけて叩きつけるも、途中で逃げられる。
「……チョコマカと面倒な動きしやがって……」
火牙刀はもう1度トマホークを構えるも、アクートは距離を取り、ベルトを操作する。すると突如としてアクートの目の前に光のゲートが出現する。
「この件から手を引け、でなければ君の大切なお姉さんが悲しむ」
「お前……姉ちゃんを知ってるのか!?」
アクートは返答を返さず、ゲートに包み込まれて消えていった
「ちくしょう、なんだったんだ……」
火牙刀も変身を解く
「センナ、あのゲートの追跡……」
追跡は出来ないか?そう口にするはずが、センナに伝わらない。声が出ないのだ。
あれ?急に体が重くなった。
「あ……さん……?」
目の前に見えるセンナの輪郭がボヤける。天地が逆転し、頭に鈍い痛みが走る
あれ──これ、もしかして死ぬんじゃないか?
それ以上何も考えることが出来ない。視界が暗転し、意識を手放す。
そして世界は闇に染まって──
「君の物語はそこで終わるのでした!チャンチャン♪」
馬鹿にするような声で目を覚ました
「ッ!!!」
すぐに飛び上がり、声の主から離れる。周りを見渡すもそこにはだだっ広い真っ白な床がずっと続いていた。壁は見えない、圧倒的な静寂とそこに張り詰める緊張感。聖域、と称されるなら恐らくこのような場所なのだろう。だが、
「ひっどーい!せっかく起こしてあげたのに〜」
その空気をぶち壊すかのように明るい少女の声が響く。
「……なんだお前」
目の前に立つのは灰色の装飾に身を包んだ少女。頭には子犬の耳のような機械をつけ、絶えずピョコピョコと動いている。
「私は誰?知らないよ?私が誰なんて」
「……は?」
「私は誰?ここは何処?何を求めてここに来て、何の為にここにいて、何をすればここから出られるの?何も分かんない。分かんないよ。アハハハっ!」
狂気
目の前の齢もいかない少女から限りない狂気を感じ、後ずさる火牙刀。
すると背後にあった何かに接触し、その上にあったものが転げ落ちる。
「…オルゴール?」
転げ落ちたオルゴールはその衝撃でスイッチが入ったかのように音を奏でる。ただ音を並べただけのような無茶苦茶なメロディが火牙刀の頭の中を掻き回す
「あぐっ……がっ……!」
「あははっ!あははっ!あはハハはハはハHAハはハHAHAАЕЁЗНЮ……」
少しずつ遠のいていく意識。助けを求めるように伸ばしていた腕がだらりと落ちる。
(…………え?)
自分でも知らない内に、火牙刀は誰かに助けを求めていたのか。助けられる者はいるのか、助けられる資格はあるのか、そもそも自分に、誰かの慈悲を受ける資格など___
『……ろ!…ぜ…て、奴を……!』
これは誰の声だろうか。アニメで見たような近未来な設計の司令室の中で慌ただしく駆け回る人々と、遠くで聞こえる地鳴りのような音。まるで夢の中のようにぼんやりとした感覚でしか感じ取ることが出来ない。
『ダメです!目標第三シェルター突破!第三から第六小隊全滅!』
『目標、あと15kmでシェルター中心部に到達!予想されるルートに第8〜18小隊、無人戦闘兵装240体、SSO1534体配備されています!』
目まぐるしく変わるモニターの映像にちらほらと見えるのは、過剰とも言える破壊の傷跡と人かもわからない屍の山
『スレイヴ隊に伝達!シェルター中心部に民間人を避難させろ!「アンサラー」を奴にぶつけるぞ!』
『司令!「アンサラー」の格納庫から連絡!……「アンサラー」が突然消失したとのこと!』
『馬鹿な!?何者なんだあれは!?』
怒号が飛び交う部屋の中、火牙刀の存在に気づいてるものなどいない、それどころか自分を見ると少し透けているような感じもする
『んー、もう潮時かニャ?』
途端、その場にそぐわない少女の声が聞こえる
『なっ…………』
突如部屋に付けられたモニターが全て暗転する
今までの喧騒が嘘のように、その場にいる誰もが驚愕でものも言えぬ様子でソの少女に目を向けていて__いや、目を向けて「いた」
何かが少女の周りを動いたことを認識した次に見えたのは勢いよく首を飛ばされる人々
『お、お前は……なんだんだ……何なんだよ!?』
唯一首が繋がっている司令官らしき男性が懐の銃をその少女に向けて、無茶苦茶に発砲する。
実力主義の軍部において、司令官椅子に座る人間だ。無茶苦茶に撃ったにも関わらず、流石と言った腕前で球はすべて彼女に命中する____はずだったが、打ち出した銃弾は全て不可解な動きをして彼女の一寸隣を通り過ぎる。
『まさか……「アンサラー」を取り込んだのか!?そんな馬鹿な、お前は一体……』
男はその先を言うことは出来なかった。彼女の周りに浮遊している2振り長短の剣が、彼の頭を突き抜けていた。
おもわず一歩後ずさる火牙刀、が
「……あれれ?まだいたの?」
少女は狂ったような笑みを浮かべ火牙刀の方を向く
「ッ!?」
思わず腰のドライバーに手を伸ばすが、それより先に火牙刀のすぐ隣で1発の銃声が聞こえた。
「……ぁ……」
火牙刀のすぐ後ろには、もはや後何秒生きられるか、そもそも生きているかのが不思議なほどの傷を負いながら、未だこの少女に銃口を向ける1人の男がいた。
「お……えは…………誰……何故……」
そう言った男は少女に少しずつ這いずりより、
「おー、まだそれほど元気とは、感心したネ!」
一瞬で近づいた少女によって、その頭を踏みつぶされていた
「……私は誰か?何故ここにいるのか?どうしてあなた達を攻撃するのか?みんなみんなそんな事ばっかり、もうちょっとバリエーションは無いの?まぁいいけど」
少女はこの場にそぐわない年相応の笑みを浮かべて答えた
『……アタシは、終末の乙女。文明の破壊者、____』
「ウサギ?」
「いや名前とのギャップありすぎんだろ!」
何も考えずに突っ込む。なんだ文明の破壊者ウサギって、破壊されてるのはネーミングセンスかもうちょっとやりようがあるだろうに……
「____え?」
いままでの風景はなんだったのか、病室のようなベットに寝かされ、周りにはノゾム、センナと、見知らぬ雪のような白い肌を身に纏う少女
「ウサギ……ウサギ?」
「ウサギではありません。ウアサハです」
ウアサハ、と名乗った少女は俺の額に滲んでいた汗をタオルで拭う、見ると服も着替えさせられていた、検査服の様な形状のそれも汗でびっしょりだ。
「ウアサハ?」
「はい、この度、零課の主任研究員の命により、葵火牙刀様のシステムオペレーターをやらせていただくことになりました」
「アクートとの戦闘の後、ぶっ倒れたお前を俺とセンナで回収してこのメディカルルームまで持ってきたんだ、感謝しろよ?」
「……今のは……夢」
「せめて話聞いてる仕草くらい見せなさいな、可愛げ無いぜ?」
ノゾムが何か言ったが聞き流す。
「恐らくデウスを通してドン=クアルンゲのメインシステムと接触したのでしょう。認証前の変身が原因でドン=クアルンゲの中のデータ群が逆流したかと思われます」
「ドン=クアルンゲ?」
火牙刀が聞きなれぬ単語を不思議に思い尋ねるが、その答えを遮るかのように荒々しくメディカルルームのドアが叩かれ、外から声が聞こえる。
「ウアサハ、葵が目覚めたんだろ。なら会議室まで引きずってでもいいから連れていってやれ、ミーティングの時間だ」
「サー、隊長」
するとウアサハは突然寝ていた火牙刀の足を掴むと、火牙刀をベットから文字通り引きずり下ろした。
「!?」
突然の事で火牙刀の頭の中がブルースクリーンで埋め尽くされる
そんなことをお構い無しにウアサハはズリズリと火牙刀の足を持って引きずっていく
「待て待て!歩くから!歩けるから!」
「隊長から引きずって連れていけとのご命令です」
「いや例えだろ!!離せって!!汚いし痛いわ!」
火牙刀がジタバタ暴れるものの、華奢な見た目からは想像も出来ない馬鹿力で火牙刀を引きずっていくウアサハ
「あまり暴れられるようでしたら抵抗できないように拘束させていただくことも視野に入れますが。というか暴れられると運びにくいです」
「いや素直に離せって言ってんだろ!」
そう言いながらメディカルルームから引きずり出されていく火牙刀を見送ったノゾムとセンナ
「全く世話が焼けるというか……私達も行きましょうか」
「ベット、二人きり、密室」
「そのハッピーな頭はいつになったら思春期卒業するんですか!?」
「あははは、悪い悪い。ジョーダンジョーダン」
ぷりぷりと怒りマークを出しそうな雰囲気で部屋を後にするセンナ、ノゾムもあとに続こうとして_______________
「……まさか、な」
置いていかれた火牙刀の衣服の胸ポケットから、長方形のカードネックレスを取り出した。
「お前な……たしかにそう言ったが、程度ってもんがあるだろ……」
本当にGRZ社内を引きずり回された火牙刀を見て、隊長、と呼ばれていた男は深くため息をついた
「やはり途中で両足を持って振り回したのはいけなかったでしょうか」
「ジャイアントスイングして自分の主人を半分失神させるのは良くないな」
「____運良くまだ意識はあるけどな……」
まだ頭がふらふらする。
「あの、もう始めてもよろしいでしょうか」
会議室の中で、存在感を誇るまるで大型スクリーンの前で、相変わらず眉一つ動かさない朝霧がメガネをクイ、と上げる。常に平常運転、と言った様子だ。
「葵さんはメディカルルームでの通信会議で良かったのでは……?」
そう答えたのは__誰だ?
まだ焦点の定まらない目で見つめたその男?はセンナよりも小さく華奢な外観、中性的な顔立ち。何より、センナと同じくGRZ社の女性指定スーツを着ていた。
いや、女かもしれない。流石に変人の巣窟であるGRZ社であっても女装癖持ちの一部の層に人気が出そうなメガネ男子ガンバライダーなど、盛りすぎでお腹いっぱいである、女であってくれ。
「紅麗、今回はお前達の顔合わせも兼ねているんだ。それにこれはGRZ社に取っては最重要機密とも言える任務だ。通信傍受なんてされたら洒落にならん」
「はぁ、でしたらやはり奈々ちゃんはいた方が良かったのでは……」
「あいつは情報漏洩しかねん」
どうやらこの女も零課の人間らしい。
とりあえず少し落ち着いたので用意されていた椅子に座ると、目の前にペットボトルの水が差し出される。
「気分が悪いのでしたらこれがいいでしょう、奈々さん用のリンゴジュースもありますが」
「遠慮なく水を頂こうか……朝霧だっけ?会議なんだろ?始めてくれ」
「……ではこれよりGRZ社第4セクター特務部隊、零課の今後についての会議を始めさせていただきます」
その声に応じて、スクリーンが光り、日本の地図が映し出される。
「まず、今回この零課が結成された目的は2つでした。先日の事故で回収されたライジングギア計400台、火牙刀さんが破壊、回収した2台を除けば残り398台の回収、そしてそれを足がかりにした関東近辺をショッカー連盟による支配からの解放、及び庇護の2つ」
予想外な台詞を聞いて、怪訝な顔を見せる火牙刀
「待て、関東近辺の庇護の目的は?」
「エンブレイス内での人口増加から考えて、あと数年で住宅地の過密化と資源不足に陥りますので」
ムッとする火牙刀だったがその反面どこか感心していた。やはりGRZ社だ、もし「関東圏の住民の保護」など言い出そうものなら、火牙刀は背中を預けられないだろう。あくまでビジネスライク、利害の一致で動かなければ火牙刀は彼らを信用しきれない。
するとノゾム怪訝そうにが手を挙げた
「二つ『だった』んだろ?今は違うのか?」
「今回のブリッジ襲撃に乗じてGRZ社から何台かαタイプ、βタイプが、1台のZクラスのライジングギアが持ち出されました。もちろん無断で。恐らく内部に巣食っていたスパイの仕業かと。そしてそのZクラスのガンバドライバーが……」
今まで旧日本地図を映し出していたスクリーンがガンバライダーのスペック表にすり変わる。
「Z-002、通称アクート……」
呟いた紅麗が嘆息する。
するとセンナが立ち上がりスクリーンの隣に立って目指し棒を構える
「アクートは基本スペックでこそZ規格ではZ-003 アキレウス、Z-005 デウスに劣りますが兵装、稼働コストでは大きく勝るライダースーツです、しかしZクラス特有の身体汚染が他より酷く、第二セクターの元で永久保管されるはずでしたが……」
と、説明するセンナをよそに火牙刀は部屋のドアの外の騒ぎに気づいた。どうやら面倒事でもあったようだが。
それに気付いたのは俺だけでなかった、ノゾム、隊長さん、ウアサハ、紅麗、朝霧がスクリーンと逆側の大扉に目を向ける。
「他のα、βタイプのガンバライダーも……って聞いてます!?ねぇ、皆さん!?」
もちろんセンナは気付いていない。
だがそんなセンナですら気付くほどの、対核兵器シェルターを兼用する会議室の大扉打ち破るほどの衝撃と怒号が響き渡った。
「一切!いっっっっっっさい認めません!!!」
瓦礫の中から聞こえる甲高い怒号、そこに居たのは、美しい黒髪を怒りに震わせた見知らぬ女、いや、火牙刀でも知っている、この女は……
「扉を破っての登場など、パフォーマンス性溢れて感心ですね、第二セクター主任研究員ともあろうお方にしては品がないのでは?」
この女は柳美麗(やなぎみれい)
第二セクター「皇樹(すめらぎ)」の頭を務める主任研究員にして、20歳にも満たないこの若さでこのGRZ社の最高峰の知能の持ち主とも言われる稀代の天才である……
が、今は皇樹を統治する主任研究員の面影などなく拳をわなわなと震わせ怒りに我を忘れて朝霧に掴みかかる。
「何が零課よ!何がZクラスの新型よ!何が稀代の天才魔女よ!チョーシのんなこのあばずれが!こちとら10年間のギャップがあるのよ!!!言っとくけどGRZ社最大勢力のこの皇樹を差し置いてうちのアクートちゃん掠め取ろうとか死にたいわけ?」
怪獣のような剣幕で朝霧に食いかかる美麗、糸の切れた操り人形のように振り回される朝霧、周りの零課のメンバーは各々タバコを吸ってたりタブレット端末を弄ってたり、助け舟を出す素振りも見せない。唯一希望を託せるセンナは美麗の剣幕に怯えて縮こまり声も出ない様子である。
そしてそれが美麗の逆鱗に見事なアッパーカットを食らわせたらしい。
「それになんですのこの腑抜けたメンバーは!かたや第七セクターの問題児!かたや第一セクターを追い出された犯罪者くずれ!挙句の果てに外部から連れてきた野良犬ですって?冗談じゃない!こんな面子、うちのガンバライダーに触れることすら許さねぇからな!?」
火牙刀達にも飛んでくる罵声、火牙刀に至っては野良犬呼ばわりだ。
最も外では「○○○○」とか「○○○○○○○」とか
酷い時には「○○○○○○○○○○○」
(あまり教育上よろしい言葉では無いので伏せるとして)などと呼ばれることもしばしばなので、慣れたものだ。
「まぁまぁ落ち着いてください柳主任、アナタが思ってるより彼らはやりますよ、事実その野良犬が2セクのガンバライダー2機を圧倒していますし」
されど朝霧の言葉は美麗に振り回され遮られる
「そこが問題じゃないのよ!そもそも私の子供同然のガンバライダーをそんじょそこらのヤクザ共に渡すのが生理的に無理だってのよ!」
さらに続けようとする美麗だが、流石に見兼ねたのか、隊長がため息をつく。
そして、横に置いてあったカバンから大型の散弾銃を取り出して、盛大にぶっぱなした。
''朝霧と美麗に向かって''
……いや、そもそもに問題がある。
流れるように行われたが、あろう事かこの男。自分の上司とGRZ社の中心人物に向かって何の躊躇もなく発砲したのだ。しかも散弾銃を。距離にして5m、普通なら必中の距離だが……
「…………」
幸いにも玉は全て彼らには掠りもせず被害は会議室の壁に穴を開けるまでに留まる。
絶句する美麗、顔色一つ変えない朝霧。
何が起こったかもわかっていないセンナと、とんでもないことをしでかしたと理解して青ざめる紅麗。
いつの間にか会議室のモニターを乗っ取ってゲームをしてるウアサハ。
もうダメだ、葵火牙刀。就職二日目にしてこの職場から一刻も早く離れたい。
「あ、姉御!?ご無事ですか!?」
と、先ほどの崩れた大扉から大柄な男達が慌てふためいた様子でやって来た。片方のロン毛男は腰を抜かした美麗を心配しているようだがもう1人のスキンヘッドの男注意は先ほどの主犯格、隊長に向けられていた
「お、お前ら!姉御をよくも!」
ドライバーを起動し、ガンバライダーに変身するスキンヘッド
白いベースカラーにガンバライジング社制のバトルアックスとビームシールドを装備した姿はさしずめロイヤルガードと言ったところだろうか
しかし美麗への呼び方や容姿からか、ロイヤルガードと言うよりかはヤクザの用心棒と言った方が幾分かは似合う。
しかし、そこはあくまで守護騎士。変身したまではいいが、それ以上のアクションは起こさない。
一触即発の空気が会議室を包み込む……なんてことは無く。
「さて、では皆さん、会議も終了したところですし、早速作戦に移るとしましょう。紅麗くん、先行した部隊に連絡を。武蔵さんはセンナくんと積荷用の兵装のリストアップ、ノゾムくんは車両で待機、火牙刀君には渡したいものがあるので私とウアサハについて来てください。それでは解散」
えりを整えると何事も無かったかのようにテキパキと指示を出して会議室を出る朝霧。その後ろに付いていく紅麗と武蔵、ノゾム、ウアサハ。もはや何が何だかわからないままウアサハを追いかけるセンナ。
会議室を包む沈黙が火牙刀の心を妙に締め付ける。
「こんな自由人たちがショッカー連盟から都市を解放するって、絶対無理だろ……」
とうとう、火牙刀の中で必死に押しとどめていた言葉が流れ出てしまった。
センナと同様に話が理解出来ず、固まっているロイヤルガードと美麗を尻目に嘆息しながら会議室を後にする火牙刀
その後、俺が出ていった会議室から、まさしく獣の慟哭が暫く聞こえていた。ちなみにこの話がGRZ社の都市伝説になるのはまた先の話。
エレベーターで地下27階まで降りると、そこは巨大な車庫と武器庫が内蔵された施設、俗に言う軍事基地が膨大な広さで建築されていた。
「ここが恐らくこれからの零課の活動拠点となる、第36地下格納庫です」
物静かな地上と違って、多数の人間の喧騒に満ちた空間。堅苦しい雰囲気がニガテな火牙刀にとってはこういう空気の方が好ましい。
ウアサハが手元のタブレット端末を見ながら答える。
「朝霧主任。メカニック長から催促の連絡が来ております」
「あらま、それは失礼。さぁ火牙刀君、こちらに」
施設に案内された火牙刀。そこは「車両研究ラボ」と明記されているエリアで、見たこともないような戦車や車がところせましと並んでいた。
「今回の任務にあたって我々が新規に開発したGCS搭載型の特殊車両『デウカリオン』です。お使い下さい」
そのエリアの中央に飾られている『デウカリオン』と呼ばれたバイクは火牙刀のGSXを元にしているのか、黒を基調とした車体に金と真紅のラインが引かれた火牙刀好みの機体だ。
「自分のバイクくらいもってきてるんだが、あれじゃダメなのか?」
「戦闘時の衝撃に耐えきれませんし、何より長距離運用を視野に入れると、旧世代のエンジンでは到底補給が追いつきませんので」
「……ま、とりあえず乗れりゃいいけどさ……っと」
シートに跨り、ハンドルを握る火牙刀。なかなか悪くない。
「それでは、これも船に積んでおきます。ウアサハ、ほかの人達の準備の進捗はいかがですか?」
「ノゾムさんが待機済み、センナさんとボスのリストアップ終了、翼さんは奈々さんと連絡が取れないとの事で、副隊長との交信を試みている模様です」
「それでは早速搭乗を、火牙刀君も今回はバイクでは無く我々と来てもらいます」
「え、あ、おう」
内心はしゃいでいた火牙刀は冷や汗を書きながらバイクを降りて朝霧の後を追った。
どうやらこれを乗り回せるのはまだ先のことらしい。
「お、よう、やっと来たな。火、持ってない?」
大型格納庫内の別の施設に入ると、そこの入口でノゾムがタバコを加えながら器用にブラスターを回していた。
「それ、体に悪いぞ」
通路を併走しながら持っていたライターでノゾムのタバコに火をつけながら皮肉もなく素直に警告する火牙刀
「これだから三流様はっと……」
加えたタバコを手で挟み、煙を吐くノゾム、その煙は通常のものとは明らかな違いを示す緑色の煙だった。
「こちらになります」
朝霧が電子ロックされた三重の扉の鍵を開ける。
「__コカインか何かか?」
見当もつかない煙に疑問を持つ火牙刀、部屋の入口で苦笑しながら答えるノゾム
「そんな大層なもんじゃない、ただの鎮痛剤と精神安定剤の混合薬ってとこよ」
「はい仕事終わりましたしんどい死にますもう即死三秒前です!!!!!!」
すると、何か狂った様子でセンナが目を回しながら部屋に入りこんできて、床に転がった。頭のネジが1本を除いて外れてるらしい。
「補給物資、追加武装、予備バッテリー、全部予定数通り。いつでも出れるな」
「はーい、こっち副部隊長との連絡が取れました、部隊長は相変わらず行方不明だそうで」
続けて紅麗も部屋に入ってくる
図らずとも零課の皆がこの施設に集合した訳だが。
いや、図らずとも。ということはあるまい、朝霧の事だ、また何か企んで……
と、ここでセンナが回転に綺麗なターボをかけて手前の手すりに後頭部を打ち付けた
「ドフッ!?」
年頃の女の娘とは思えない声を発するセンナ、しかしその声は誰の耳にも届かなかった。
轟く轟音、そして音を立てて地鳴りが起こる
「なっ……!?」
すると、壁に亀裂が走ったように断線が走り、光が差し込む。
そして現れたのは一面の空と_______________飛び交うショッカー戦闘員だった
朝霧が先程まで執務室の机だった制御デバイスを操作し、通信を繋ぐ。
「特務飛行艇『CROWD』、地上からショッカー連盟の襲撃を確認、左舷ウイングの損傷は今のところなし、ブラストとデウスをそちらに下降させますので、協力して撃破をお願いします」
_______________ん?
朝霧の野郎、今俺を下に送ると言ったか?
はて、ここからどう行けというのか
そう思った矢先、火牙刀の視界が一瞬途切れ、次の瞬間には自由落下特有の浮遊感に襲われていた。
「_______________やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
突如現れた大型の浮遊戦艦と2機のガンバライダー
その光景を見ていた静かに見守っていたガンバライダーは先程殺したGRZ社の兵士の血で染まったデスサイズを暇そうに弄び、片手に先程殺した男の首を掴みながら、その目は1点に落ちてくる男を見続けていた。
「……見つけたぜ、化け狐」
その男は掴んでいた首を投げ捨てながら、マスク越しにもわかる歪な笑を浮かべた。
そう、かつて『如月良太郎』と名乗っていた男の首をゴミのように投げ捨てながら。