緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんカワイイ(挨拶)


記念すべき100話目です。話数は99だけど。
50話目もそんな感じだったし、今更ですね。
内容は相変わらずエグい。



99:どうしようもない真実

「お前は……誰だ?」

 俺の問い掛けに、小首を傾げながらも笑顔でいる……かなめ、の姿をした誰か。

 そいつは悲しそうな顔をする。

「どうして、そんなこと言うの? あたしは、かなめだよ……?」

 ああ、そうだ。

 かなめの姿で、顔で、声で……雰囲気も同じだ。

 でも、何かが違う。

 部屋で過ごしたあのかなめと何かが。

「お前、ジーサードには恩義があって。恐怖もあったが……尊敬もしてただろう!」

 それをかなめは手に掛けた。

「そうだよ。でも、もう……2人が争うのを見たくなかった」

「なら今までどうして、黙って見てた……」

「それは……チャンスを待ってたんだよ。2人を止められるチャンスを……」

 話の流れに違和感はない。

 かなめが決起したんなら考えられない行動じゃない。

「もう、終わりにしよう。サード……サラ博士はこんなこと、望んでないよ」

 サードは脇を押さえながら立ち上がる。

 それから、笑った。

「おい、フォースの皮を被った誰か。さっさと出てこいよ……」

 何か確信があるのか、力強く睨んだ。

「サードまで、あたしを疑うの?」

「今までフォースは気をつかって俺にサラ博士の話は一度もしなかった。今まで一度も、だ。引きずってた訳じゃねえが、あいつは変なところで俺を心配しやがる。だから、ここでサラ博士を引き合いに出したのは……間違いだったなァッ!」

 恫喝するように、サードは素早い拳を繰り出した。

 ヒステリア・レガルメンテのお陰でその拳が今は確実に視認が出来る。

 パァン!

 しかし、かなめはそれを難なくそれを弾いた。

 おかしい、さっきはそれで吹き飛んで重傷を負ったのに……捌きやがった。

 それから距離をとって、笑った。

「あーあ、調査不足とは言えもう少しバレないかと思ったんだけどな~」

 かなめの声だが、雰囲気がいきなり変わった。

 残念とばかりにそいつは、両手を上げてやれやれをする。

 サードは再び問い掛ける。

「てめえ、フォースはどこだ? 何が目的でここにいる?」

「慌てないでよ、サード。うーん、そうだね……目的はお兄ちゃんに話したいことがあってね」

「何だよ……」

 俺が聞き返すと、ソイツは言った。

 

「あたしね、死んじゃった♪」

 

 …………。

 ……死んだ?

 かなめが?

 何を、言ってるんだ……コイツは。

 一瞬、その言葉に真っ白になるが……ハッタリに決まってる。

 いや、そうでなくちゃいけない。

 かなめが、せっかく人として歩みだそうとしてたんだ。

 そんなこと……そんなことがあってたまるか!!

「信じない? まあ、そうだよね……でもお兄ちゃん、言ってたよね。お前なんか妹じゃないって」

 俺の様子を見て、クスリとソイツは嗤って言った。

 確かに俺は言った。

 それをコイツは何故か知ってる。

 誰だ? 俺達の近くに誰がいた?

「だから、家族じゃないなら別に消えてもいいかなって思って……殺したよ。迷惑だったでしょ? 消えてよかったでしょ? ね、お兄ちゃん♪」

「信じないぞ……俺は」

「俺もだ。お前みたいな意味分からん三下にフォースが負ける訳がない」

 意見が合ったのか、かなめが死んだことにサードも否定する。

「まあ、そうだよね。いきなり言われても信じないよね。じゃあ、これな~んだ?」

 ソイツが取り出したのは、バスカービルの女性メンバーが合作で作り出した仲直りの印であるキメラレオポン。

 そして、かなめが作った俺とかなめの人形。

 ……やめろ。

 ヒステリアモードの頭が、最悪の可能性に気付かせようとする。

 目の前のコイツはおそらく嘘を言ってない。

 人形に付着してる血は、誰のものなのか……

 そうピースを勝手に当てはめようとする。

「どっちにしてももう終わった話。真実を見るまでは生きてる可能性が残ってるかもしれないもんね。お兄ちゃん♪ まあ、そんな希望なんてないんだけど」

 希望なんてない……それが今に分かるとばかりに嘲笑する。

「おい、キンジ……ゴホ……手を貸せ」

 喀血(かっけつ)しながらもサードは、立ち上がる。

 手を貸せってことは、やるつもりだろう。

 一時休戦ってやつだ。

 実際、ここで俺とサードが戦っても意味はないし俺にも聞きたいことがある……いや、出来た。

 かなめの姿をしているが、そんなのは関係ない。

「お前、明らかに重傷だぞ」

「いいや、こんなのはハンデだ。それに暑かったからな……冷えてちょうどいいぜ」

 サードはまだやれるとばかりに、獰猛な笑みを浮かべる。

 さっきの光の剣……おそらくはSF映画で出てくるような熱で焼き斬るものだろう。

 それで傷口はそのまま熱で塞がったんだろうが……それでも血の気が引いてる。

「寒いなら、暖めてあげるよ」

 かなめの姿をしたソイツーー偽かなめはバイザーを着けて言いながら腰に装着された1つの剣の柄を出すと、その柄から光の刃が伸びた。

 ライトセーバーみたいなそれはさっきサードを貫いたやつだ。

 あれに防刃制服は役に立たないだろう。

 焼き斬れるのが目に見えてる。

 ブンブンと、剣舞のように回転させながら偽かなめはサードに向かって斬りつける。

 サードは既のところで回避してるが、明らかに動きが鈍い。

 ブンっと大振りで横に一閃した剣をサードはしゃがんで避けた、が偽かなめはそのまま回転して回し蹴りを食らわせる。

「……グッ!」

 サードはガードが間に合ったが、少し後ずさりした。

 今、サードは硬直してる……追撃が来る。

 そう思った俺は、デザートイーグルで偽かなめに向かって銃弾を2発放つ。

 しかし、そこにあの飛ぶ布の剣が盾となって銃弾を防いだ。

 カチャカチャと、機体の上に防がれた弾が落ちた瞬間、偽かなめはバッと光の剣をサードに向かって槍のように投げる。

「あぁッ、クソ……!」

 サードは悪態を吐きながらも剣を体を横にしてかわした。

 そのまま自分の正面に来て通りすぎようとしてる剣の柄を右手で掴み、追撃にきた飛ぶ剣を正面から斬った。

「フォースより使い方が上手いってのは、癪に障るな……偽物さんよォ」

「さっすがサードだね。お兄ちゃんも絶妙なところで邪魔してくるし」

 邪魔をされた割には楽しそうな反応だ。

 偽かなめの周りに飛ぶ剣がクルクルと3つ、螺旋を描くように回ってる。

 サードは光の剣の刃を消した。

「あんまり長くはもたないのか?」

「ああ、コイツはプリズム……中の結晶が光を集めて刃にしてる。あまり長く展開すると結晶が溶けて焼けるんだよ」

 俺の質問にサードは律儀に答えた。

 何となくそう思って聞いてみたが……SF映画みたいに都合の良い兵器じゃないみたいだな。

「まあ、正直……剣なんてガラじゃねえ」

 サードは口の端の血を拭いながら言う。

 サードが拳を構えると、一斉に飛ぶ剣の剣先がこちらへ向いた。

 偽かなめも身長と同じくらいの大剣とも言うべきそれを構える。

「もうやめにしようよ。無駄に命を散らしたいの?」

 遠回しに降伏しろって言ってるみたいだが、それに対してのセリフは決まってる。

「ーー散らせるもんなら」「ーー散らしてみな」

 俺の言葉に合わせるように、遠山家伝統の言葉をサードが続けた。

 ジリジリと偽かなめから殺気を感じる。

 決闘のような緊張感が、冷気と共に肌を包む。

 ーー来るッ!

 そう肌で感じとった瞬間に飛ぶ剣が蛇のように、蛇行しながらこっちに向かってくる。

 同時にさっき落ちたデザートイーグルの弾丸を偽かなめが剣の腹ですくい上げると。

 ーーパアン!

 と、テニスみたいに剣の腹で打った。

 しかも俺とサードに1発ずつ。

 絶妙なコントロールしてやがるッ!

「キンジ! 飛ぶ剣は先端についてる菱形の部分を破壊しろ!」

 言いながらサードは手甲の拳でアッパーのようにして粉砕した。

 すると、飛ぶ剣は布のように空中へ飛んで消えた。

 俺もサードと同じように蛇行する剣の動きを予測して、飛ぶ剣と菱形の接続部分をバタフライナイフで斬る。

 見えない拳ーー『桜花』の要領で出来たな、見えない斬撃。

 名付けるなら『桜閃(おうせん)』。

 しかし、暢気(のんき)に名付けてる場合じゃない。

 そのまま偽かなめがこっちに迫ってくる。

「ーーあは」

 あいつがしない笑い方で偽かなめは、サードの方に行った。

 しかもこっちにいきなり銃弾が飛んでくる。

 いつの間にか、銃を握ってこっちに発砲したらしい。

 通常のヒステリアモードでもギリギリ反応出来ない距離。

 だが75倍ならーー!

 俺はそれを銃弾斬り(スプリット)で難なく対処できた。

 反応速度がいつもよりも速いのを感じる。

「サード!」

 それでも、対処しながら援護は出来ない。

 いつの間にかサードが、飛ぶ剣に腕を拘束されてるかと思いきや偽かなめに剣の柄で殴り飛ばされた。

(このままだと落ちるッ)

 俺はすぐに駆け出して、空中に浮かんだサードの左腕を掴む。

 何とか、機体の外に出る前に掴めたが……この状況は万事休すだぞ。

 サードは俺が腕を掴んで空中でぶら下がってる。

 俺は半ば機体の端に腹ばいで身を乗り出してる状態。

「お兄ちゃん達、ピンチだね。まあ、サードはほとんど満身創痍だし……しょうがないよね」

 偽かなめが剣を軽く振りながら話し掛けてくる。

 また、機体から火の手が上がる。

 このままだと……爆発する。

「お前は……何者で、何が目的だ!?」

 不利な状況。

 それでも俺は聞かずにいられなかった。

 偽かなめは、クスリと笑う。

「その質問をするには合理的な状況じゃないよね? うーん、答えてもいいけど……あえて教えな~い」

 それだけ言って偽かなめは、俺達に背を向ける。

 絶好のチャンスなのに、何故だ?

「HSS相手に2人はこれ以上しんどいし、お兄ちゃんが本気になられても困るから帰るよ。この飛行機ももうすぐ爆発しそうだし。それじゃあ部屋で待ってるね♪」

 それだけ言って、偽かなめは飛ぶ剣に掴まって飛び降りた。

 このままだと、爆発に巻き込まれて2人とも死ぬ。

 機体は既に火の玉だ。

 光学迷彩も解除されてきている。

 ジーサードは呆れたように笑う。

「……はッ、横槍を入れられたと思ったら逃走か。不粋な話もあったもんだな」

「んなこと言ってる場合か!」

 この状況で軽口が叩けるなんて余裕だな?!

 機体が(きし)む音が聞こえる。

 マズイ……今度こそ本当に万事休すだぞ。

「もういい……キンジ、離せ」

 何かを悟ったような顔をして、サードは言う。

「離せるかよ……!」

 俺はいつもそうだ。

 家族に何かがあって、後悔して……

 今までたまたま何も失わなかっただけだった。

 それを俺は理解してなかった。

「もういいんだよ、"兄さん"」

 サードの言葉に、俺はすぐに分かってしまった。

 お前も、かなめと一緒だ。

 俺の兄弟だ。家族だったんだ。

 それを俺は……理解できないものとしてどこか分かりつつも否定ばかりしてた。

 サードはまた、何かを諦めた顔をする。

「不本意な終わり方だが……これでいいのかもな」

「何を言ってやがる。何もかも中途半端だろうがッ」

「決着をつけようにも、もう手遅れだ。兄さんだけでもーー」

 その時、通信が入る。

『キンジ、生きてるならさっさと飛び降りなさい! 爆発しそうなんでしょ?』

 アリアか……!

 その言葉を俺は信じて、サードに笑いかける。

「悪いが、家族を見捨てはしないぞ」

 そのまま機体の床を蹴りだしたところで、2人でガリオンから飛び降りた。

 それに対してサードは空中で俺に怒声を浴びせる。

「バカか! 何もねえのに、飛び降りてどうする!? 兄貴だけでも何とかしようと思ってたのによ!」

 兄貴呼びになったなサード。

 確かに、パラシュートもなしにスカイダイビングなんて馬鹿だろうな。

 だが、アリアがいるなら大丈夫だ。

「まあ、そう言うな。俺も死ぬ気はない」

「この状況で言うなんて、正気じゃねえな」

「お迎えがくるらしいからな」

 サードと軽口を叩いてると、雲を突き抜けて海が見えてきた。

 その海の上にポツンとボートが浮いてる。

 それを見た俺としては、やっぱりなって感じだった。

 すぐに予想通りの人物の通信とのやり取りがインカムに入る。

『あー、神崎さん。現在、パッケージが降下中……ちなみに荷物は2つ』

『はあ!? これ、2人も運べないわよ! そもそも設計的にそういう意図で作られてないのに!』

 ボートの近くにいる飛翔体、もといピンク色の頭が見えた時点でサードは察したようだ。

「そういうことか。愛されてるな、兄貴!」

「愛されてはねえよ! 妙なことを言うな!」

『バカキンジ! 飛び降りたってことは聞こえてるんでしょ!? 何で2人で降りてきてるのよ!』

「色々とあってな。悪いが、着水の瞬間だけでもいい。一瞬だけ引き上げてくれ」

『ああ、もうッ! 燃料も少ないのに!』

 言いながらもアリアは俺達の近くに飛んでくると、ホバー・スカートの噴射を切って俺達の落下速度に合わせるように急降下する。

 初めて扱うらしいが、やっぱり天才的な身のこなしだな。

 すぐに俺の腕を掴み、続いてサードのところへ手を伸ばそうとする。

「別に俺はいい。自分で何とかなるからな」

 ジーサードが言いながら着ているロングコートがフワリと不自然に動く。

 あの浮き方はかなめの空飛ぶ剣に似ている。

 すぐにジーサードは失速した。

 まるでパラグライダーか紙飛行機みたいに滑空してる感じだ。

 あいつ、あれがあるなら俺を置いて飛行機から飛び降りればいいのに。

 と思ったが、そうしない理由は何となく分かった。

 この後にどうなるかも。

「いい!? あたしがホバー・スカートを逆噴射させてボートの上に降ろすわ!」

「ああ、頼む!」

 既にボートが拳くらいの大きさで見え始め、だんだんと近付いてくる。

 高度的に150メートルくらいになったところで逆噴射をし始めた。

 そのままゆっくりと高度を下げていき、無事にボートの上に降りれた。

 アリアがボートの上に降りたところでホバー・スカートからプシュうと白い煙が出る。

「ギリギリね。今ので燃料はすっからかんよ」

 腰に手を当ててふう、とアリアは息を吐いた。

「助かったよ、アリア。それに霧も」

 俺は2人にお礼を言う。

 アリアは少し何故か照れて顔をそらし、霧は運転席で別にいいって感じでヒラヒラと左手を振る。

「それより、決着はついてない感じだけど?」

「ああ、そうだな」

 霧の言うとおり決着はまだついていない。

 ボートに降りてきたジーサードは、相変わらず瀕死だ。

 霧が何とか応急処置をしてくれたが、それでも脇腹に風穴が空いてるのに変わりはない。

 そのままボートは戻り、学園島の向かい側にある……俺とアリアが飛行機で不時着した空き地島に停まった。

 全員が一度降りたところで、サードは俺に向き直る。

「じゃあ、続きといこうじゃねえか?」

 そんなことだろうと思ったよ。

 その言葉にアリアが前に出る。

「あんた、それ以上は命に関わるわよ?」

「知ったことじゃねえよ。変な横槍が入ってあの時は仕切り直そうとは思ってたが、早くも機会が訪れたんだ。なぁ? 兄貴」

「兄貴……あんた弟がいたなんて言ってないわよね?」

 まあ、サードの言葉に疑問を持ったアリアが聞いてくるが、俺はそうだと答えるしかない。

「言ってはいないが、どうやらコイツは俺の弟らしい。今は、兄弟ゲンカの最中だ」

「そういうことだ」

 言いながらサードは構える。

 あれは……俺の構えとは違うが、音速の拳ーー『桜花』だ。

 まずいな。

 あれは、受け身技である『絶牢(ぜつろう)』でも受けきれない。

「別にケンカに茶々いれる訳じゃないけど、不毛じゃない?」

「兄弟のケンカはそんなもんだ。何でケンカしてたかもその内分からなくなる。今回は男としての意地もあるけどな」

 霧の軽口に俺はそう答える。

 アリアは心配そうな顔をする。

 俺はそれに笑顔で返してやる。

「心配するな。何とか勝つさ」

「べ、別に心配してなんて……でも、信じてるわよ」

「ああ」

 照れながら言うアリアに俺は静かに答えて、サードの間合いに入る。

 相手は通常のヒステリアモードの100倍、こっちは75倍。

 倍率的には不利だが、相手は瀕死。

 加えて動きは鈍い。

 しかし、直接的な動きだけなら間違いなく俺の体の一部をその拳で吹き飛ばせるだろう。

 なら、対応策を今ここで考えるしかない。

「いいのかよ。わざわざ間合いに入って。女の前で命を散らしにきたのか?」

「散らせるもんなら、散らしてみな」

 本日二度目の決めゼリフを言ったところでサードは動いた。

 低い姿勢、円錐水蒸気(ヴェイパー・コーン)が放たれる右拳。

 受ければ吹き飛ぶ。

 流そうにも通常の受け流し技じゃあ、受け流す前に千切れる。

(橘花(きっか)ーー絶牢ーー桜花ッ!)

 拳が右足に触れた瞬間に同じ速度で引き、左足で軽く跳ぶ。

 そのまま空中での前方宙返り、サードの拳の運動エネルギーを利用して右足の桜花に乗せる!

 ーーバスンッッッッッッ!!

 ジーサードの肩に、宙返りした俺の踵落としが炸裂する。

 黒と金の肩部のプロテクターが弾け飛ぶ。

「ーーうがァァァァァァ!!」

 衝撃が伝導してるのか、地面に突いた膝のプロテクターも砕けていく。

 足は、痺れがあるがくっついてるッ……

 立ってるぞ。何とか対応出来た。

 そして、新しい技……橘花。

 これは桜花の要領で衝撃が加わる前に逆のベクトルに変化させる技だ。

 それを絶牢で防御と攻撃を入れ換え、桜花で再加速。

 自損しない桜花だ。

「ーーああ、クソ」

 サードはそのまま倒れた。

 脇腹に風穴空いてるのに無茶するからだ。

「そのまま寝てろ」

 決着はついた。

 俺には確かめないといけない事がある。

 今までは戦闘で気にしてる暇もなかったが、終わって胸騒ぎが段々と強くなる。

「兄貴、ジーフォース……"かなめ"を頼む」

 同じ胸騒ぎがしてるのかサードはあいつを、名前で呼んだ。

「霧、ボートを借りるぞ!」

「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!!」

 アリアが俺を呼び止めるが、それどころじゃない。

 停泊してるボートに飛び乗り、まずは俺の部屋に戻る。

 部屋で待ってる。

 偽かなめはそう言った。

 罠かもしれないが、ヒステリアモードが続いてる今なら多少の奇襲には対処できる。

 学園島の近く、寮の近くの岸に停泊してすぐに男子寮に入り、階段を駆け上がり、部屋の扉を開け放ち、銃を構えてゆっくりと玄関を上がる。

 かなめッ……

「かなめ、いるのか!?」

 頼む……返事を、無事だと言ってくれ。

 人の気配はしない。

 廊下の途中の部屋を覗いて見るが、誰もいない。

 最後にリビングの扉を静かに開けると、ソファーに誰かが座っている。

 あの後ろ姿は、かなめだ。

 偽かなめ……じゃなさそうだな。

 あの感じだと俺を待ち構えてる感じだったし。

 声を掛けても反応がないのは、少しおかしい。

「かなめ?」

 リビングに入りながら名前を呼ぶが、反応がない。

 いつもなら嬉しそうな声を上げて反応するはずなのに。

 かなめはそのままズズ、とソファーに横たわる。

 寝てる……のか?

 胸騒ぎがまだする。

 俺はゆっくりとソファーに近付き、かなめの正面にしゃがむ。

 眠るように、かなめは目を閉じてる。

 寝てるだけ、だよな……?

「はッ……はッ……」

 息が荒くなる。

 そのまま、ゆっくりかなめの頬に触れた瞬間。

「ッ……!?」

 全身を寒気が、襲う。

 嘘だ……

 両手でかなめの頬を持つが、体温が……ない。

「かなめ、起きろ」

 なあ、頼むよ……起きてくれ。

 嘘だよな?

 あの偽物野郎の悪い冗談だって言ってくれ。

「なあ、かなめ。バカにお灸据えて兄ちゃん帰ってきたぞ」

 ……返事はない。

 生きてる証が、ここには何も、ない。

 体温も、鼓動も、呼吸も。

 ウソ、だ。

「かなめ……かなめぇ。なあ、起きてくれよッ……」

 抱き起こして、抱き締めるが……全身が氷のように冷たい。

 ーー死ーー

 もう、その言葉が頭に浮かんだ瞬間には実感してしまった。

「かなめえええぇぇ!! う、ああ……ああああ!」

 俺は部屋で泣き叫ぶ。

 ここにかなめはいない。

 どうして、なんだ?

 何でかなめが死ななきゃならない。

 そして俺は後悔してる。

 ずっとかなめを否定してたのは、俺自身だった事に。

 本当は気付いてた、分かってたはずなのに……俺は!

「ああ……あぁ……クソ」

「様子がおかしいから追いかけてみれば……キンジ」

 いつの間にか、霧がそこにいた。

 かなめを抱く俺の様子を見て、すぐに察した顔をする。

 目の前の光景に動揺せず、静かに霧は息を吐いて俺に問い掛けた。

「ねえ、キンジ。何を後悔してるの?」

「……かなめを認めて、やれてなかった。妹、だって。俺は……ッ。人間だって認めてても、かなめ自身を認めてはなかったんだ」

「今は?」

「ああ、認めるよッ。かなめは、俺の妹だった……家族だったんだ」

「遅いよ、今更」

 霧の言葉が胸に刺さる。

 そうだ……遅かった。

 本当に今更だった。

 失ってから気付くなんて……

 兄さんの時に、既に分かってたのに。

「……私が探してるものの話、覚えてる?」

 唐突に霧がそう聞いてきた。

 ヒルダと戦う前の夜にそんな話をした気もするが、何故そんな話を、今?

 俺の近くに来て、霧はかなめの頬を撫でる。

 姉が妹を可愛がるように。

「これから起こることは秘密ね」

 ふぅ、と息を少し吐くと霧の体から光が……徐々に出てくる。

 見たことのある緋色の光。

 それに俺は目を見開く。

 この光は、まさか……!?

 シャーロックやアリアが持ってるものと同じ力。

 色金のーー

 少しかなめから俺は離れると、霧がかなめに触れて緋色の光が体を包み出す。

 ベランダの窓の外に光が漏れそうなほどに強くなったかと思うと、光が段々と小さくなっていく。

 光が消えて、かなめには血色が戻ってるのが分かる。

「すぅ……すぅ……」

 そして息遣いが聞こえる。

 かなめが、生きてる……いや、生き返った。

 思わずかなめの手を握れば、多少は冷たいがさっきは感じなかった体温がある。

「霧……ありがとうッ」

 どうしてとか聞く前に俺は、感謝した。

「感極まってるのは分かるけど、自分から抱き締めてくるなんて熱烈だね」

「…………あ、ああすまん!」

 我に返って、慌てて離れる。いつの間にか霧を抱き締めてたらしい。

 霧は少し申し訳なさそうな顔をする。

「その前に、ごめんね。今まで黙ってて」

「驚いてるよ」

「そうだよね……」

 珍しく霧がしゅんとしてる。

 だけど、俺としては色金を霧が持ってるのは意外だったが、正直そんなのはどうでもいい。

「白野って名前なのに、私の中には真っ赤なものがある。それにーー」

「真っ赤な嘘も……か?」

 霧が言おうとしてることを予想して俺が言うと、霧はクスリと笑った。

 当たりだったらしい。

「うん。嘘っていうか本当のことを話してない。実は知ってたんだよ……イ・ウーも、色金も」

「…………」

 体育座りをしてる霧に、俺は隣にゆっくり腰掛ける。

「でも、言えば色々と面倒な事になる。日常から離れていく。キンジなら、分かるでしょ?」

「ああ」

 そうか。

 お前も、振り回されてたんだな。

 似た者同士だったんだ。

 俺も、アリアも、霧も。

「キンジと出会ったのも、偶然じゃないの……本当は。ある人に言われて。出会って、パートナーになって欲しいって」

「……お父さんか、お姉さんか?」

「まあね。理由は聞いてないけど、今なら分かる気がする。キンジとなら色々と解決するんじゃないかって」

 霧は、少し笑う。

 だけどいつもみたいな明るい感じじゃない。

 無理に笑ってる感じだ。

「……ね、キンジ。もし、神崎さんも私のお姉ちゃんも助かる方法があるって言ったら、どうする?」

 その言葉に対する俺の言葉は決まってる。

「協力するに決まってるだろ」

 ただ、1つ、ヒステリアモードの今なら気付いてる。

「お前も、助かる方法を探した上でな」

 その言葉に霧は、ビクッと体を震わせた。

 やっぱりな。

 霧は、自分に関して何も触れなかった。

 アリアと自分の姉が助かる方法はある。

 じゃあ同じ色金を持ってるお前はどうなんだ?

 俺の言葉は当たりだったらしく、霧はフフと笑う。

「ヒステリアモード、ズルいね」

「誤魔化すなよ。俺は、お前にまだ何も返しちゃいないんだ」

「……無理だよ。私は、どうしようもない」

「諦めるなよ。俺はお前を見捨てたりしないぞ」

「ありがと♪」

 にへっといつもの無邪気な笑顔に俺はヒステリアモードなのにドキッとする。

 ズルいのはそっちだろう。

 そう思いながら、俺は顔をそらす。

「それじゃあ帰るよ。神崎さんと一緒にかなめちゃんを探してたからね。何もなかったってことで、話は合わせておいて……余計な混乱は避けたいし」

「そうだな」

 霧は立ち上がって、スカートを直しながらそのままリビングを立ち去ろうとする。

 その途中で振り返り、

「大事なモノは傍に置いておきなよ」

 それだけ言って今度こそ去って行った。

 大事なモノ……か。

 その言葉に俺は殺人鬼の言葉が脳内に響く。

『今後もホームズの4世に味方をし続ければーー君の元パートナーは必ず死ぬ』

 俺は、守れるだろうか?

 そう思ってしまう。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 キンジの部屋から出て、階段を降りる。

「ふ、フフ……」

 それから寮の出入口に向かう途中で、押さえてた笑いが込み上げる。

「あハハハは……ハハ、ふふ」

 キンジ、ごめんね。

 私は本当に"どうしようもない"女なんだよ。

 ああ、良かった。

 思わずゾクゾクしちゃって、リビングに入った瞬間に笑みが出そうだった。

 ポーカーフェイスも楽じゃないね。

 慣れてるけど。

 これでキンジは本当に失う怖さを目の当たりにした。

 きっと私を失わない為なら殺しとか以外なら何でもしてくれる感じ。

 私の為なら何でも。

 ん~、特別な響き♪

 何かの天秤が傾いてるように感じる。

 かなめちゃんを生き返らすかどうか迷ったけど、家族だって言うなら仕方ないよね。

 遅すぎるし、私が誘導した感じなんだけども。

 余韻が体に響いて、まだゾクゾクしてる。

 もっともっと、バラして(恋して)殺して(愛して)あげないと。

「楽しそうだね」

 寮を出たところで、後ろから声が掛かる。

 振り返れば扉の近くに"もう1人の私"がいた。

「やあ、ウルスラちゃん。協力ありがとうね」

 ウルスラーーUNKNOWNの通り名を持つ殺人鬼。

 今回は彼女に協力して貰った。

 私がかなめになってる間にウルスラは白野に化けて貰って、それっぽく振る舞って貰った。

「いや、なかなか楽しめたよ。私のガラじゃないけど……あと気絶のフリとか少し笑いそうだったし」

「それは良かった。はい、報酬ね」

 私が渡したのはUSBメモリ。

 中身はかなめちゃんが死んだ瞬間の動画。

 実は録画してた。

 自前のビデオカメラで、パソコンで音質とか映像とか良くした上でデータを移した。

「うん、コレコレ。見るのが楽しみだよ」

 観察が好きな彼女は、これで良いと快く引き受けてくれた。

 私も同じ考えだから、何となく分かるけど。

「今度はどうする?」

「未定。サスペンス映画みたいに私が屋敷の中で切りまくるとか?」

「うーん……私が楽しめないから無し」

 私の提案にウルスラは却下する。

 まあ、そうだよね。

「決まったら連絡して、喜んで協力するよ」

「そうするよ。それじゃあね~」

 部活の帰りで別れるような気軽さで、ウルスラは帰っていった。

 神崎さんに何事もなくかなめが見つかったって連絡したら、私も帰って見よ。

 そう言えば……かなめはこれからもキンジを今まで通りに信じれるかな?

 私が変装してたとは言え、キンジに殺されたショックは大きいはず。

 トラウマになったら突っついてみようか。

 死んで、生き返って、なおも遊ばれる。

 うーん、我ながら鬼畜。

 でもキンジが家族って認めちゃったから、かなめに手を出すのは駄目だね。

 残念だな~

 サードの反応も見たかったのに。

 まあいいや。

 これで色々とやり易くなった。

 あとはお姉ちゃんのタイミング次第だね。

 いずれ円卓で交渉が始まるだろう。

 その時にどっちに交渉が傾いても私は楽しめる。

 お姉ちゃんからすれば、答えは分かりきってるだろうけど。

 それよりもかなめが起きた時に何を思うのか、今はそっちが気になるな~

 

 ◆       ◆       ◆

 

『お前は家族じゃないんだ』

 お兄ちゃんの顔で、声で、そう言われて……胸が、赤く。

『さようなら、かなめ』

 そして貫かれた。

「うあ!? あ……あれ?」

 ここは、お兄ちゃんの部屋?

 あたしに……何が。

 跳ね起きれば、酷い汗。

 そう……あたしは、確か………

 思い出して、ぞわりとする。

 変な気持ち悪さが体を駆け巡ってる。

 あれ? あたし、死んだ……よね?

 手を見て、握り、開く。自由に動く。

 ……夢?

 ならあの感触は? あの光景は?

 ハッとして制服の前を乱暴に開けて、貫かれた胸を見る。

 けど、何もない。

 嘘だったみたいに。

「かなめ……」

 声を掛けられてドキリとする。

 後ろにお兄ちゃんが、いる。

「おにい、ちゃん」 

 姿を見て思わず、涙が出る。

「あたし……あた、し……」

 確かめたい、けど……声に出す勇気はない。

「いいんだ。何も言わなくていい……何もなかったんだ」

 お兄ちゃんが安心させるようにあたしをすぐに抱き締めた。

『お前は家族じゃないんだ』

 けどそんな幻聴が聞こえた。

 違う……あれは偽物ッ。

 でもーー

「お前は、"妹"だよ……かなめ。俺の家族だ」

 ……ッ。

 ずっと認めて欲しかったこと。

 言って、くれた……ようやく。

 あたしの、お兄ちゃん。

「あ、ああ……お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

 そのまま子供みたいに泣いた。

 忘れるように、いつまでも。

 




実はかなめの闇堕ちルートもあったという。

かなめ生き返す

キンジに捨てられた事を刷り込む

家族へようこそ

ざっくりとした流れはそんな感じ。

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