緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんカワ(・∀・)イイ!!

今年最後の投稿じゃ受けとれい!
あんまり長い話じゃなく幕間的な感じです。


100:それぞれの日常

 

 翌日には中間テストであったことをすっかり忘れていた俺は、部屋で死んでいた。精神的に。

 最悪だ……テストの結果は惨敗の一言。

 ジーサードと戦って、かなめを慰めて……テストの事なんて欠片も考えてなかった俺が勉強をしているはずもない。

 保健体育の選択問題なんて鉛筆を転がして答えを決めた。記述問題はなけなしの知識を掛け合わせて適当に埋めた。

 そのテストが終わった時に霧はニマニマしてやがった。

 あいつ……俺が絶望的な顔をしてるといやらしい顔をしやがる。

 そんな俺はジーサードとの戦闘での傷をいやすために自宅療養で霧のお手製弁当でテストの傷心を癒している最中だ。

 ああ、相変わらず美味い。そして同時に惨めだ。

 何でテストで笑われたヤツに飯を作ってもらってるのか……

 まあ、お互い見下してるとかじゃないから大して気になる事でもないんだがな。

「何やってやがんだ、兄貴」

「どわぁぁあッ!?」

 反射的にデザートイーグルを引き抜いて俺は声のした方に銃を向ける。

 すぐに声が誰かは分かったので、名前を呼びながら銃を左右に向ける。

「おい、ジーサード! バカやってないでさっさと出てこい」

人工天才(ジニオン)をバカ呼ばわりすんじゃねえよ。テスト赤点の兄貴よ」

「てめえ……勝手に人のテストを採点すんじゃねえよ」

 見てたのかよ。

 しかも自分でも絶望的だと思ってたがジーサードのネタバレでそれが確定してしまった事に俺は膝が崩れ落ちそうになる。

 ああ……また霧に貸しが。

 ただでさえ、つい最近一生分の貸しを作ったところなのに。

 銃をしまうと例の迷彩のコートを解除したのかジーサードがジジジ、とノイズ音と共に俺の目の前に現れた。

「よお、この間ぶりだな」

 今日は派手なプロテクターじゃない。派手な私服だ。

 ゴテゴテしてる。

 どこの成金ホストだって感じに黒と金のスーツみたいな恰好だった。

「お前、大丈夫なのかよ? 瀕死寸前だったろ」

「俺はRランク武偵だぞ。何度死地に追いやられたと思ってんだよ」

 言いながらジーサードはどっかりと俺のソファーに座る。

 用も無しに俺のところに来たって訳じゃないだろう。

 なので俺はソファーに座りなおして対面するように弁当を食べながら話を聞く。

「それで? いきなりノックも無しになんだよ」

「ああ……色々と確かめに来た。それと俺は兄貴について行くことにする」

 それは願ったり叶ったりだ。

 ジーサードの先端科学兵器はかなりの戦力。

 今後の戦役でも有効な手段だろう。

「"かなめ"のことだ」

 その言葉に箸が止まる。

 ジーフォースとは呼ばないってことは、認めては貰えたらしい。

「なあ、兄貴……空の上であの偽物野郎はああ言ってたが。実際かなめはどうだったんだよ?」

 その言葉に俺はどう伝えるべきかを迷う。

 真実を話すかどうか。

 兄弟とは言え、ジーサードは緋々色金を狙ってる。

 つまりまだアリアや下手をすれば霧が狙われる可能性がある以上、俺は確かめる必要がある。

「お前こそどうなんだよ? アリアを狙うのか?」

「諦めちゃいねェよ。ただ、少し他の手段を考えてみようとは思ってる。兄貴とは戦いたくねえしな」

 その言葉に俺は安心した。

 ジーサードは文字通り諦めてはいないだろう。

 ただ少なくとも、俺の身内を狙うような真似はしない。

 だが……霧に関して俺は巻き込みたくはない。

 そう思って、少なくとも真実は言わないことにした。

「そうか。だが、俺を見てるならかなめもどっかで見てるんだろ? つまりはそういうことだ」

「そうかよ。つまりかなめは"生き返った"んだな?」

 その言葉に俺は動揺する。

 知ってやがったのか?

 ジーサードはソファーに両腕を広げ、もたれて座りながら笑う。

「悪いな、兄貴。部下のバイタルサインぐらい確認するに決まってるだろ? 兄貴がボートに乗り込んだあと、俺は確認した。かなめが死んでるのをな……」

「だったら合流する前に死んでるのを確認できたはずだ。偽物だって、知ってたんじゃないのか?」

「ああ、それな……不可解なのは俺と戦う前にかなめは確かに生きてた。詳しい説明は省くが本人の認証が必要な高度なセキリュティがあのHMDにはあった。それが電気信号を送って、無事かどうかを判別してたんだが……それをどうやら誤魔化されたらしい。先端科学(ノイエ・エンジェ)をハッキング出来る頭の良い野郎だったのか……もしくはそれが出来る協力者がいた可能性がある」

 つまりは天才の犯罪者がいるってことか?

 あんまり考えたくねえな。

「使われてたかなめの装備を回収したが……指紋も体液の一滴すらも出やしねえ。装備が使われた履歴も綺麗さっぱりないんだ。何もなかったみたいにな」

「だが、かなめを殺したんだ。絶対に逮捕してやる」

「それは俺も同じだ、兄貴。人工天才(ジニオン)が簡単に遊ばれたまんまじゃああの人も浮かばれねェ。この雪辱は必ず果たすさ」

 お互いに敵討ちをするのは決まってるらしい。

 義理堅いのはやっぱり遠山家って感じだな。

「それはそうと、誰が生き返らしたんだよ? 俺の調べじゃあアリアには絶対に無理だ。そこまで色金を使いこなしてねえのは知ってる。兄貴を追い掛けたのは1人だけだ。だからまあ、ほとんど分かっちゃいるんだが……正直俺も半信半疑なんだ」

 誤魔化すのは無理なようだ。

 だが、俺は絶対に名前を言わないし兄弟だろうと教えるつもりはない。

「答えねえぞ、俺は」

「だろうな。だがな、兄貴……俺はお前の身の回りを調べてんだ。信じたくないのは分かるが、"白野 霧"。あいつははっきりと言うと怪しい」

 そのサードの言葉に俺は少しイラつく。

 かなめを生き返したのは他の誰でもない、霧だ。

 それを疑われるのは気分の良い話じゃない。

「どいつも経歴はハッキリしてやがるが、白野だけどうも不透明な部分がある。もちろん、あいつの書類にも目を通した……普通なら不審なところなんてない一般的な経歴だが、色金が絡んでるなら話は別だ。普通過ぎるんだよ。どうしようもねえ違和感だ」

「だから霧を疑うってか? 悪いが、俺はそんなことを考えたくもない。そもそも殺した相手を生き返らすか? 普通」

「そう言われたら俺としても反論しようもねェ。殺してといてわざわざ生き返らすなんて、何のメリットもねぇしな」

 俺は霧が作ってくれた料理に目を落とす。

 イタズラ好きの変わったヤツだが、それ以外はバスカービルの中では比較的まともだ。

 今までに何度も助けられた。

 確かに色金の件については驚いたが、それがどうした?

 霧は霧だ。

「惚れてんのか? 兄貴」

 唐突に聞いてきたサードに俺は面食らう。

「なんだよ、藪から棒に」

「いや、兄貴の身の回りには女ばっかりだからな。その中で白野は一番距離感も近いみてェだし、そうかと思ってな。アリアか霧のどっちかだとは思ってんだが……」

「惚れるだどうだなんて関係ないだろ」

「色金が恋と戦うんぬんって話を聞いてない訳じゃねェだろ?」

 確かにそんな話をボストーク号、イ・ウーでシャーロックが話してた気もするが。

「それが何だってんだよ?」

「いや、女は怖えって話だ。嫉妬で人を殺す事件もあるんだ。兄貴は特に気を付けた方が良いと思うがな」

「いつでも死にそうな目にあってるよ」

 アリアなんか、よく銃をぶっ放すしな。

 霧なんかも社会的に殺そうとしてくるし。

「まあ、なんだ……しばらくは療養も兼ねてこっちにいるからな。また遊びに来るぜ」

「来るな」

 俺がそう言うと、サードは再び迷彩のコートを起動したのか部屋の風景に紛れた。

 それからドアの開く音がした。

 どうやら出ていったらしい。

 静かになって、部屋にいるとジーサードの言葉が引っ掛かる。

 確かに霧は何者なのか……少しだけ気になった。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 久々のスッキリ気分。

 かなめを殺して、金一が死んだと思ってた時以来のキンジの表情に身が震える。

 何度思い出しても良い。

 あんなの見ちゃったらもう1回くらい、とは思ってしまう。

 今度は生中継とか。

 なんて考えは、取りあえずはやめにしよう。

 私が我慢できなくなる。

 武偵高では4時間目までが一般の科目で5時間目からは専門科目。

 なので昼食を兼ねて専門科棟への移動がある。

 キンジはサード戦の疲れとテストでの疲れとかなめの件での精神的な疲れもあって、まだ教室で休んでるだろう。

 私は一度教室を出たが、仕方ないのでキンジに差し入れをしにいく。

 栄養ドリンクと好物の(うな)まんを添えて。

 たまには優しくしないとね。

 いや、いつも優しいか……

 私は残酷なようでこれでもキンジに何が大事かは教えてるつもりだし。

 大体は気付いたら手遅れだけど。

 教室に着いたところで私は人の気配を感じて扉の手前で止まって、扉の脇に隠れる。

「あんたにご褒美をあげるわ。これから1勝するごとに、1段ずつ内容をレベルアップさせてあげる。最初は何がいい?」

 神崎の声が聞こえる。

 肝心な時に邪魔だなぁ。

 空気を読まずに入ってもいいし、荷物を置いて移動してもいいけど……何故かその場を去る気にならなかった。

「じゃああと5分寝させてくれ」

「何がいい? ほら、時間もないんだから。好きなこと頼みなさいよ」

 どうせキンジのことだから弾代くらいしか考えてないよ。

「ちなみにお小遣いはあげないからね」

 神崎がそう言うとキンジのため息が聞こえる。

 やっぱりね。

「何もいらねえよ。モノなんかもらっても置き場所ねえし」 

 神崎の言い方からしてプレゼントなんて持ってないでしょうに。

 もっと他に――

 考えたところでズキンと、心が痛む。

「あたしが何かプレゼントの箱でも持ってるように見える? モノ以外でも、もっと他に……何か、その……あ・る・で・しょ!?」

 神崎が興奮してるのが分かる。

 これ以上聞いても何も良い事はない。

 いや、違う……別に私は何とも思ってない。

 でも何故か離れられない。

「でも、でも一定程度までよ。場所が場所だし。ほら早く! 敵前逃亡は校則違反よッ」

 この状況は校則違反に引っ掛からないと思うけどね。

「……本当は、心配してたの。……霧が行こうって言ってくれて、でも……信じてたから。キンジは帰ってくるって」

 さっきまでの食いつくような話し方じゃなく、甘い女性的な言い方。

 引き込まれるような、誘い方をしてる。

 扉1枚の向こう側見えなくても分かる。

 だけど少しだけ教室を見れば、2つの影が1つになってるのが見えた。

 その瞬間――

「ッ……! あ、ぐ」

 思わず胸を押さえる。

 痛みがッ。

 私の心を何かが蝕んでる感じがする。

 気付かれたくない。

 神崎にだけは、私の中にあるものは絶対に。

 私とキンジ、家族だけの秘密だから。

「フ、フー。んッーー」

 袖を噛んで何とか耐える。

 音を出さないように、その場をゆっくりと離れる。

 ふらふらとしながら壁に手をついて。

 ある程度離れたところで女子トイレに入る。

 あの一瞬だけで冷や汗が止まらない。

 同時にとてつもなく冷めた気持ちが湧き上がる。

「あー……気分、悪いなぁ」

 今ならかなめや白雪の気持ちが分かる気がする。

 いつもなら誰と何をしようが何も感じなかったのに。

 神崎だから、かな。

 それとも私がキンジに恋しちゃったからか。

 これが妬み、なのかな?

 ……やっぱり色金使っちゃったせいで反動が来てる。

 でも、キンジの為だったし仕方ないよね。

「あは♪」

 そう思うと、この気分の悪さも多少は意味があったって嬉しくなる。

 でも神崎を選び続けるとどうなるか……もう少し分からせる必要はあるかもね。

 

 昼休みももう少しのところで終わりそうなので、私は専門科棟へと移動する。

 その場で頭を下げたところで大きな風がさっき首のあったところを通り抜けた。

「お義姉(ねえ)さん。どうしたの? いきなり人の首を取ろうなんて♪」

義姉(あね)呼ばわりされる言われはないって私は言ったはずよ」

 私の背後から鎌を振ったのか正面へとそのまま通り抜けて、金一……"カナ"が対峙する。

「このタイミングで来るなんて、珍しいね。どうしたの? 私はもう、授業始まるんだけど?」

「調子が悪い今が狙い目だと思ったのよ。それにその姿じゃあ、本気も出せないでしょう?」

 どうして分かったのかな?

「女装に慣れすぎて女の子の日とかも分かっちゃったりするの? とんだ変態だね」

「軽口に付き合う暇はないわ」

 銃を抜く気はないのか、鎌だけをブンブンと回して構える。

 遊び心のないことで。

 私は1つだけ聞きたいことがあったので聞く。

「廃車置き場でコソコソしてたのは、何? 私の寝首を掻こうとでも思ってたの?」

 そう、あの廃車置き場にいたのはおそらくカナで、多分私を監視してた。

 足跡が見覚えのあるブーツだったし。

 なんの為かは知らないけどね。

「いいえ、見たくもないけど観察が必要だっただけよ。敵を知り、ってね」

 私を観察したところで何もないと思うけどね。

 しかし観察、ね。

「行動とか分かるの? お父さんみたいに」

「別に。どうでもいいでしょ、ここであなたは死ぬの」

「正義の味方はどこ行ったの? もうやめて、カナさんはそんな人じゃないでしょ!」

 私が説得する感じの演技をするとカナの手に力が加わるのを感じる。

 それと同時に歯軋りが聞こえる。

「あなたが、捨てさせた癖にッ」

「そうだね~。でも、選んだのは結局自分だよね? それと、私をあの時に殺しておけばキンジの悲しみも一瞬だったのに」

「今からでも遅くは、ない!」

 今にも飛び出しそうな雰囲気。

 本調子じゃないし、正直ここでやりたくはない。

 キンジでも助けに来てくれないかな~

 なんて思っていると、

 ――ビシュン! 

 カナの脇腹を何かが貫いた。

「ぐッ……あ」

 そのまま痛みに持っていた鎌をゆっくりと下ろした。

 同時に私の使い捨ての方の携帯が鳴る。

 出てみれば、一言。

『さっさと日常に戻りなさい』

 お姉ちゃんだった。

 しかもそれだけで通話が切れた。

 この為だけにレアちゃん辺りでもわざわざ寄越したの?

 と、思ったけど……お姉ちゃんの言葉からして私はまだ日常に溶け込めという話らしい。

 まだまだしばらくは武偵、か。

「って言うことだから、私は授業に行かないといけないからじゃあね~」

「待ちな――ッ」

 今度はカナの左足が貫かれる。

 防刃・防弾の服でしょうに……それを貫くってことは徹甲弾(AP)でも使ってるんでしょう。

 カナはそのまま膝をついて崩れた。

 心臓くらい射貫けるのにしないって事は、まだお姉ちゃんの計算上は死んで貰ったら困るってことだよね。

 それか私が不機嫌になるか。

 まあ、実際キンジの家族には手を出さないつもりだし。

 別に手を出さないってのは、何も傷つけない訳じゃない。ただ単に殺さないってだけ。

 あとは……せいぜい五体満足に回復する程度にってところかな?

 と思ったけど、今思えば死んでも復活させれば問題ないんじゃ?

 それやったら文字通りに私の寿命が削れる羽目になるけど。

 カナを置いて私はそのまま授業へ向かう。

 私を狙うことに躊躇いがないのはいいけど、私の命を取るなら文字通り手数が足りないね。

 私もお姉ちゃんにとっては盤上の駒の1つ。

 だけど常に相手の二手、三手先の位置にいる。

 他の連中は戦役なんてモノに目を向けてるけど私達は既にその先の戦いの準備をしてる。

 たとえ戦役の後のことを考えてる連中がいたとしてもそれは自分達が上手くいった時のことしか考えていない。

 浅はかだよね。

 だからこそ、高みの見物を出来るしいいように引っ掻き回せる余裕があるんだけど。

 さて、次はどこが動くかな?

 そんなことを楽しみに考えながら私は日常へと戻る。

 

 その後、私はキンジの退学を耳にするのであった。

 

 




本来はかなめがキス前に妨害するはずですが、精神的なショックを癒すためにおやすみです。
つまりキンジがまた何気にやらかしてる。

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