眠れなくてちょいちょい書き上げてました。
香港編までなるべく突っ走りたい思いが少し爆発しております。
注意
・あま~い! 場面があるかも
遂に俺は勉強を教えてくれる環境を手に入れたと思っていた。
今俺は萌に招かれ彼女の自宅、それも甘酸っぱい女子の匂いがする彼女の部屋にいる訳だが……
勉強は難航している。
「あ、あのね。私、小学生の時……」
何やらアルバムを出して急に思い出話をし始めた。
しかも、わざわざ俺の隣に座って。
そのおかげで俺は色々と目のやり場にも困っている。
胸が大きく開いてるブラウスからはまんまるのお胸の谷間が微妙に見えている。
で、でかい……白雪並みのデカさだぞ。
って俺は何を考えてる。
その後も何とか俺のロクでもない小学生時代を思い浮かべる事で何とかヒステリアの血流は抑えることが出来た。
そこにちょうど――携帯に電話が鳴る。
やった、助かったぞ。
この状況をリセットするにはちょうどいい。
「あー……すまん。ちょっと電話だ」
「え? ああ、うん……」
萌は急な電話に何やら名残惜しそうだが俺はそそくさと彼女の部屋を出て廊下に出る。
相手は、霧か……バスカービルの中でこいつだけだよな、ある意味では俺を心配してくれるの。
俺が電話に出たところで、
『もしも~し、元気にしてるかな~? 勉強は大丈夫? ご飯はちゃんと食べてる?』
そんなからかい口調で霧は言ってくる。
「お前は母親か」
『前はお姉ちゃんみたいって言ってたのに』
「いつの話をしてるんだ……」
『何なら私と家族にでもなる? そしたらキンジの取り巻く面倒はきっと減ると思うけど』
「丁重に断るよ。代わりにお前は面倒に放り込むだろ」
確かに面倒ごとをいくつか解決してくれるが、関わるとたまにロクでもない事と貸し借りが絶えずに発生するから困る。
『そうかなあ? かなめちゃんの時も知らず知らずに自分からドブにハマったみたいだし? もっと前なら白雪さんの時も――』
「あー……その話はやめてくれ。俺が悪かった」
お前が傷付いた時の話は割と心に来るんだ。
そう思えば、確かに俺がバカだったと諦めるしかない。
『ゴメンゴメン、今の話は意地悪だったね。それで? 結局あれから勉強はどうなの?』
そこを聞いてくるか。
まあ、実際問題俺は困ってるしな。
何だか萌も様子が変と言えば変だし、勉強を教えてくれる雰囲気じゃない。
だけどな~……あいつにまた借り作るのか?
でも、将来的な意味でも俺にとっては死活問題なんだよな……
「それは……結構困ってる」
『さては、教えてくれそうな友達いないのかな?』
「そういう訳じゃない……」
ここで萌のことを話すと彼女は傷付くかもしれない。
今だって扉越しになんか聞いてる感じがする。
扉の下の隙間の明かりに影が差してるし。
素人だからこんなもんだろうが、盗み聞きするならもうちょっと上手くできる気はするぞ。
教えてくれるっていう好意の気持ちはおそらく本物だろうが、どうもそれ以外に目的みたいなのが彼女にはある気がする。
何かは分からんが。
「……明日、空いてるか?」
『空いてるよ。なーに、勉強を教えて欲しいって? しょうがないな~』
「話がはええよ。いや、実際そうなんだが」
今日は勉強できる気配がなさそうだしな。
『人目につかないところで勉強できるのがいいよね? 巣鴨って図書館あったっけ?』
「ある」
『また後でメールでいいから科目と都合の良い場所を教えてよ。それと授業料よろしくね♪』
こ、こいつ……ッ。
だが霧は真面目な時は真面目だ。
本来の目的から外れるようなことはしないからそこは信頼してる。
正当な対価と思えば、仕方ない。
武偵に依頼するなら報酬はきっちり、だ。
「分かったよ。いつもの紅茶でいいか?」
『分かるの?』
「好みぐらいは分かる。お前が紅茶にこだわってるのは知ってるし」
『嬉しいけど、私が買ってるのそこそこの値段するんだよね~』
「だろうな……素人でも美味いって思うモノだからそんな気はしてたよ」
紅茶なんてどれも同じだろって思ったら霧の紅茶飲んだことのある今だとそんな事はとても言えない。
自販機の紅茶よりも美味い。
しかも、何かしらブレンドしてるのか俺の好みの味だし。
『仕方ないからリーズナブルな価格で見積もってあげよう。あとでメールに送っとく』
「助かる」
『それじゃあ、また明日』
「ああ、また明日」
電話を切ったところで何やら扉の方から物音。
会話が途切れるような言葉を聞いた時点で萌は扉から離れたな。
一体、こんな会話の何が気になるんだ?
重要な任務のやり取りでもないのに。
俺が部屋に戻ったところで、萌はさっきと同じ座卓の位置にいた。
「悪い。ちょっと、前の学校の友達と電話してた」
「そ、そうなんだ……その人って……女の、子?」
と、何やら萌はもじもじとして勇気を出すように聞いてくる。
「ああ……そうだが?」
「彼女、さん、とか?」
彼女? あれか?
一般的に言うガールフレンド的な。お付き合いとかそんな事を聞いてるのだろうか?
この手の話題は苦手なのですっぱり終わらすために俺は答える。
「違う」
「で、でも……何だか、遠山君、とっても楽しそうに話すから……」
確かにあいつは女子にしては気兼ねなく話せる。
まあ、俺の大事な秘密を知った上で"利用"しないっていうのが一番大きいからな。
というかやけに食いつくな萌。
そんなに霧というか俺の話し相手が気になるのか?
「気になるのか?」
そう思って聞いてみれば萌は酷く取り乱す。
「へッ!? い、いや……その、お付き合いしてたら、悪かったかなっ、て……。う、ううん、何でもないのッ」
付き合う? やっぱり女子はよく分からんな。
さっき否定したつもりだったんだが、それでも何故か気になるらしい。
「まあ、ともかく俺と霧はそんな関係じゃない。色々と世話になって今でも変に俺を気に掛けてくるヤツだよ」
「霧、さんって言うんだ」
何故か妙に落ち込んでるぞ、萌。
い、いかんぞ……このままだと俺の数少ない学校で助けてくれる
どうすりゃあいいんだ?!
「あ、あー……気になるんなら、会ってみるか?」
「え?!」
取りあえず萌は霧のことが気になるらしいので俺はそう提案すると飛び跳ねそうなくらい驚いてる。
実際に飛び跳ねはしてないが、すごい勢いで顔を上げた。
「明日、ちょっと会う約束をしてな。気になるんじゃないのか?」
「で、でも……邪魔じゃない、かな?」
「そんな事を気にするやつじゃない。そこは保証する。それに普通に話しやすいタイプだし」
「で、でも――う、うん会ってみる!」
お、おう……何か躊躇ったと思ったら急に意を決したように承諾したな。
ちょうど雪もやんでるみたいだし、今日はここまでにするか。
何も勉強できてないけど。
「そろそろ帰るよ。雪もやんだみたいだし」
「う、うん……また明日ね。あ、見送るよ」
パタパタと慌ただしい感じで萌はカーディガンを羽織り、外に出る準備をする。
しかし、何だろうな……俺は最近は一般常識のなさに致命的なミスを起こしてる気がする。
今でもそうだ。女子の心がよく分からないからこうして、何で悩んでるかも察することが出来ない。
避けてきた代償なんだろうが、それでも俺のトラウマがなくなった訳じゃないからどうしても女子と仲良くすることに抵抗は多少なりとも出る。
そう考えるとバスカービルのメンバーとは普通に話せてるのが不思議だが、あいつらは普通じゃないからな、うん。
真面目に言うと秘密じゃないが、多少なりとも一緒に修羅場をくぐり抜けて来た信頼から話しやすいってのはあるかもな。
そう思うと俺は萌とあまり関わらない方がいいのかもしれない。
一般の人と元武偵の俺じゃあ価値観が違い過ぎる。
「クッキー、あげるね。今朝焼いたのだけど」
「ああ、ありがとう」
これだからな。
女子力というのか……ともかく俺には眩しい。
俺はシマシマの紙袋に入ったクッキーをお土産にもらい、玄関の扉を開ける。
「明治通りまで見送るよ。その、迷ったらダメだし」
どこまでも親切なことを言いながら意を決した顔をして、ぎゅ。
萌は俺の手を握ってくる。
しかもこれは指と指を絡める恋人繋ぎじゃあ……
――その時。
「キンジさんは自宅までの道をしっています。案内の必要はありません」
そんな声がして俺と萌は驚き、思わず離れて道の方へ振り向く。
「レキッ……!」
門の前に、レキが立っていたのだ。
しかも、大分雪を被っていたのか溶けた雪でびしょ濡れだ。
俺は思わず駆け寄って、レキの手を握る。
つ、冷たい……これは10分、20分の冷たさじゃないぞ!?
「お、お前……何やってんだよ!?」
「待っていただけです。キンジさんを」
何で待っていたかどうかはともかく、この寒さでずっと待っていたとなると肺炎になる。
凍傷もあり得るだろう。
俺は少し先の道路をタクシーが通りかかったのに気付き、すぐに停めるために駆け寄る。
◆ ◆ ◆
遠山君が、慌てた様子で走って行く。
多分、タクシーを停めに行ったんだろう。
それよりも私は
「警告です。キンジさんに近付くのはやめて下さい」
そして、淡々とロボットみたいにそんな事を言ってくる。
いきなりの言葉に私は真っ白になる。
胸がキリキリと痛い。
今までそんな否定されるような言葉をハッキリ言われたことはなったから。
同時に思う。
何で……そんな事を言われないといけないの!?
「
「"死ぬ"からです」
……死ぬ?
遠山君と一緒にいると、どうして死ぬことになるの?
意味が分からないよ。
「これはあなたを思って言っています。キンジさんの傍には危険な風が渦巻いています。キンジさんが人と関わることでそれはキンジさん自身を傷つける事になる。自分を守れる手段がないのでは、キンジさんの傍に"身を置く資格"がない。いえ、きっと死ぬことよりも恐ろしいことが起こるかもしれない。私はそんなキンジさんを見たくはありません」
守れる手段?
死ぬより恐ろしいこと?
さっきよりも意味が分からない。
言葉は分かるけど、まるで違う言語で喋ってるみたいに意味が通じない。
「矢田さんはヘンだよ!」
その言葉を発したところで遠山君が、戻ってきた。
それから困惑しながらも、矢田さんの手を取る。
「悪い、萌。また明日な! ほらレキ、行くぞ」
そのまま遠山君は矢田さんを心配するように、手を引いて行った。
……台無しだよ。
せっかく、楽しい時間だったのに……
タクシーが去ったところで、私はトボトボと玄関に戻る。
「お、お姉ちゃん……?」
玄関で妹が、
「ご、ごめんね。怒鳴り声、聞こえてたよね」
「う、ううん……大丈夫?」
お転婆な咲が私を心配してくれてる。
だ、ダメだよね……お姉ちゃんがこんな風じゃあ。
「大丈夫、お姉ちゃん部屋で休んでる。ちょっとだけ、静かにしててね」
「うん」
取り繕った笑顔は余計に妹を心配させただけだった。
部屋に戻り、私は布団に身を投げ出す。
うつ伏せのまま、私は嫌な事を考える。
「……魅力、ないのかなぁ」
呟きは布団の中に、静かに消える。
結局、遠山君は私をあまり見てくれなかった。
それとも楽しくなかったのかな?
それとも――霧さんが、本当は好きなのかな?
モヤモヤがずっと渦巻く。
……。
…………。
………………。
あーもう! 落ち込むの終わり!
明日、絶対に霧さんがどんな人かを見て、それで遠山君の好きなタイプを見極めよう!
矢田さんにあんなこと、言われたけど……初恋なんだもん。
絶対に諦めない!
…………?
……なに、この寒さ……?
誰かに、見られてる?
思わず窓の方を見る。
夜の街の明かり、隣の家の窓にも誰もいない。
視線を感じるって、漫画やサスペンスドラマじゃないのに……
どうしてこんなに寒いんだろう。
体が冷えてるからかな、お風呂入ろう。
◆ ◆ ◆
さてさて、望月 萌。東池袋高校の2年所属、ってここは現地で知ってるから割愛っと。
家族構成は父、母、妹の4人家族。
ふーん……まあ、一般的なザ・一般女子って感じの経歴だね。
血液型も珍しくはないし、何かしらの先天性の能力もない。
学力は……秀才には入るかな? 偏差値は高めだし、頑張ればこの日本で有名な東大は狙うポテンシャルはあるね。
学校で会ってるから人格とかは知ってるけど、ここまでアプローチしてるとは。
初めての恋にお化粧もしてる上に勝負下着もチョイス。
うーん、甘酸っぱいね~
初々しくて実に面白い。
本当に
若い子、最近はヤってないんだよね~
というかキンジの近くで殺すのはダメだよね。
芋蔓的に疑われるし。
このムーブをいつまでやればいいのか分からない。
まあ、いっか……香港は否が応でも荒れるだろうし。
ライズシティ池袋という建物の屋上で私はリリヤお手製のドローンカメラと1000倍のスコープでプロフィールを見ながら望月家を少し観察。
「何をしてるのかしら? チャシャ猫さん」
いつの間にかアリスちゃんが私の隣に屋上の端に腰掛けてにいる。
君ってば本当にどこでも現れるよね。
どこの門というか穴というか何を通ってるのか知らないけど、それ私も使いたいね。
それ使えば関係ない所で関係ない死体が出来る訳だし。
いや、そもそも死体すら出ないのか……
行方不明という淡い希望を抱かせる。まさに被害者の関係者にとっては死体を見るまでは
「そうだね~……何してるんだろうね?」
「遊びたいなら、好きに遊べばいいのに」
「それもそうだね。おっと……?」
不意に私はスコープを覗く。
倍率を下げてちょうど良さそうな人を見つける。
うーん……肉付き良し、顔も良し、彼氏いるけど、良し。
私はアリスちゃんに聞く。
「アリスちゃんって子供としか遊ばないの?」
「いいえ? ただ同じくらいの方が話しやすいから」
「それはそうだね。ちょっとアリスちゃんの会場って借りれる?」
「いいわよ。どの人でお遊びになるの?」
「あの2人――出来れば女の人は貰いたいかな~」
「いいわよ。でも私にも分けて下さる?」
「もちろん」
◆ ◆ ◆
――日曜日。
今回こそは勉強が出来るであろうと、俺は意気込んでる。
取りあえずはまずは霧と合流だ。
霧には巣鴨にある俺の家に来るように言ってる。
萌に関してもメールで事情を説明して、霧本人も「いいよ」と言ってくれた。
それから途中で萌を拾ってそのまま図書館に向かう予定だ。
昼食を早めに済ませて昼には着くように向かうんだが、
「早すぎだろ」
「え? 私の料理が食べたいんじゃないの?」
「そんな内容はメールに書いてなかっただろ」
霧は何故か10時くらいに俺の家に来て勝手に上がっていつの間にか料理してる。
ポニーテールに髪を結わえてエプロン着けて、おまけに食材まで持ち込んでる始末だ。
「今日は気分が良くてね。張り切っちゃった♪それに、こっちで食べた方が動きが合わせやすいと思って」
確かに鼻歌交じりに上機嫌で霧は俺の家に来た。
動きが合わせやすいのも同意するけど、何も昼食を作りに来る必要はないだろう。
「……何故ここにいるんですか?」
レキはレキで霧を変な視線で見てる。
しかも言い方にもトゲがある。
これは以前にも見たぞ。
霧を何だかんだレキはよく分からんが危険視してる。
まだ、続いてたんだな……アレ。
「あ、どうも。キンジよりお友達が多いと噂の
「さり気に俺をディスるな」
しかもレキにも遠回しに嫌な言い方してるし。
「ここにいる理由って言われてもね~……キンジが勉強と友達ができないからとしか言いようがないし」
「頼むから余計なことを言わないでくれ」
お前は俺をどうしたいんだ。
いつもの2割増し位に軽口とディスりが多い。
確かに機嫌は良さそうだ。
それが幸になるか不幸になるかは微妙なところだが。
爺ちゃんは競馬、婆ちゃんは霧と入れ替わるように琴の教室、ジーサードとかなめはよく分からんがどっか行った。
家には俺とレキしかいない。
「それはそうと、お皿でも用意しといて」
霧は話しながらも手際よく、玉ねぎをくし型切りにする。
フライパンに油を引いた後に少し温めた後に玉ねぎを投入。
同時に味噌を出汁で解いて、みそ汁の準備をしてる。
手際がいいな……
そう言えば、霧の料理してる姿を間近でじっくり見るのは初めてかもな。
「キンジ?」
視線を感じたのか霧が振り返る。
それからいつものイタズラな笑顔で――
「どうしたの、旦那様♪」
「ゔッーー」
――ドクン。
一発でヒステリアの血流直前まで持ってかれた。
お、おま……!?
「なんて顔しやがる」
今の表情はおかしいだろ!?
お前はいつもそんな照れるみたいな表情しながら言わないはずなのに。
だからこそ、目を奪われたのかもしれないが。
「えー、だってキンジが私を舐め回すように見てるから」
「そんな目で見てねえ――いてッ!?」
何かが後頭部に当たる。
おそらくはレキのドングリパチンコだろう。
そう思って振り返ると、案の定いつの間にかレキがパチンコを持って、居間の柱から半分だけ顔を出してる。
おい、なんだそのジト目は。
「スケベです、キンジさん」
見てただけなのになぜそう言われなきゃならん。
俺はさっさと居間に戻る。
これ以上レキと霧の間にいたら挟撃されかねん。
俺は居間で勉強に持っていく教科書とかを準備する。
「何をしているのですか?」
レキはそんな俺を見て聞いてきた。
「勉強を教えて貰うんだよ、霧に。レキは教えるの得意じゃないだろ?」
俺の問い掛けにレキは首を縦に――振りかけたところで止めてフルフルと横に振った。
絶対にウソだろ。
そもそもレキが人に教えてる想像が出来ない。
ペチンと、俺の眉間にドングリが――!
「何すんだ?!」
「今、失礼なことを考えていたと感じたので」
妙なところで鋭い。
「じゃあ、例えば……to 不定詞ってなんだ?」
「英語ですね。名詞的用法、形容詞的用法、副詞的用法の3種類の使用法があります。前後の文などで訳し方が変わりますので注意が必要です」
あれ? 意外に普通に答えるぞ。
「じゃあ、例えばどんな風に使うんだ?」
「…………」
「レキ?」
「…………」
「まさか、分からないんじゃ……」
「違います」
そこは否定するのかよ。
「キンジさんが何を求めているのか、よく分かりません」
その言葉で俺はやっぱりレキは人に教えるのはやっぱり向かないと分かった。
これはあれだな……先生というよりは辞書的な感じだ。
そんな事をしてる間にも早めの昼食となった。
「昼には早いから割と多めに作ったよ」
霧がそう言ってちゃぶ台には肉入りの野菜炒め、小松菜のおひたし、しじみの味噌汁、ポテトサラダ。
この一般的な料理の感じ、相変わらず白雪に負けずレパートリーが多いな。
「さ、好きに食べて。レキさんにはこれもつけとく」
そして霧はレキの近くに置く。カロリーメイトを。
「いや、カロリーメイトはいらんだろ」
俺も流石にツッコむ。
しかしレキは何も文句を言わずに、唐突にまずはカロリーメイトを食べてからご飯を食べ始める。
どういう食べ合わせだよ!?
「レキ、カロリーメイトは別に一緒に食べなくてもいいだろ」
「キンジさん、カロリーメイトは万能です。普通の食事がとれなくてもこれがあれば問題はありません」
確かに手軽に食べられる上に携行食としては文句ないかもしれないけど、普通のご飯と一緒に食べる必要性はないだろ。
というかお前のそのカロリーメイトに対する妙な信頼感は何なんだ。
人数が減っても騒がしい食事を終え、片付けをして俺と霧は準備をする。
「私もついて行きたいところですが、萌さんと会うのでしょう? 昨日は色々とありましたので」
レキも同行をしたそうだったが、そう言ってレキは静かに席を立った。
やっぱりレキもそこら辺は考えるようになったのか……親じゃないが、感慨深くなる。
以前のレキなら有無を言わさずに「私も行きます」と言いそうなのに。
「ただ、霧さんとはあまり距離を縮めないように」
とは言え霧への謎の警戒心は相変わらずだ。
それとは別の私情じみた何かを感じる。
「ああ……分かった」
霧に関して話すとこじれそうなので俺は適当に返事をした。
そのまま先に玄関の外で待ってる霧へと合流する。
「うう……着てるけど寒いね」
そんな霧はジーパンに縦セーターにロングコートと露出の少ない格好で防寒してる。
とは言え、露出が少なくとも油断はできない。
特にコイツの場合は。
俺も防寒でコートを着てるけど、確かに寒いな。
「冬だしこんなもんだろ」
「早いとこ、図書館に向かっちゃおう。待ってる人もいるみたいだし」
そう霧の言うとおり萌を待たしてる。
俺と霧は、萌が犬の散歩で偶然に出会ったあの公園へと向かう。
◆ ◆ ◆
さてさて、"白野 霧として"は初めて出会う望月に私はどう対応しようか考える。
別にあからさまに私は彼の特別ですってアピールをするつもりはない。
そんな嫌な
私を見た上でキンジを追い掛けるもよし、諦めるもよし。
どっちにしても私は観察するだけ。
公園でキンジと待っていると、確かに来た。
マフラーにダッフルコートを着た望月がこちらに来る。
「待った? 遠山君」
「いいや、そんなに待ってない」
テンプレとも言える望月とキンジの待った、待ってないよのやり取り。
私は横から挨拶をする。
「初めまして、だね。君が望月 萌さん?」
一応キンジからのメールで知ってる、という
にこやかに私は言ったところで望月は答える。
「はい。初めまして、遠山君と同じクラスメイトの望月 萌です」
「ふーん……なるほどね」
顎に手を当てながら望月を見てキンジに意味ありげに視線を向ける。
キンジは私を不思議そうに見てる。
まあ、相変わらず無自覚だよね。
知ってるけど。
「それじゃあ、巣鴨図書館に向かおうか」
私の行動に2人は疑問を覚えながらも私の一言でとりあえず図書館に向かう。
巣鴨図書館は無料で利用できる一般的な図書館。
自習にも向いてる。
そんな訳で私とキンジ、望月は図書館に入って自習できるスペースのある場所へと向かう。
「それで? どっから始める?」
「ああ、数学からだな。この間やったここからなんだが」
どれどれとばかりに私はメガネを出す。
伊達だけど。
「お前、メガネなんてしてたか?」
私の視力が悪いなんて覚えがないキンジは当然に聞いてくる。
「雰囲気出すため。先生として呼んだんでしょ?」
「形から入るのは分かるが、その精神はよく分からん」
その私とキンジのやり取りに望月はそわそわとし始める。
距離感が妙に近いのが気になるんだろう。
「2人は、いつから知り合いなの?」
「ん~? 中学3年生の春だね。今となっては放っておけない友達かな? キンジってば、いざという時しか役に立たないし」
その言葉にキンジは軽く胸を押さえる。
うッ、って感じで。
ふふん♪ 何も言い返せないだろうね。
借りありまくりな上に自分の行動を見返してみても私を助けた経験なんてほぼ皆無だし。
「知ってる? こう見えてキンジって女性嫌いなんだよ」
「へ? そうなの……?」
意外とばかりに望月は目を丸くする。
私の言葉にキンジは目を押さえて上を向き始める。
余計なことを言わないで欲しいって感じで。
「女子に弱みを握られてパシられてた時期があったからね。女性不信になってたんだよ。まあ、そこから私は救い出したキンジにとってのヒーロー。いや、ヒロインかな?」
ウソは言ってないし、大事なことは喋らない。
「その割には女性と関係を持つんだから、よく分かんないんだよね。まあ、なんだかんだお人好しだから強く拒絶するほど冷徹にもなり切れないんでしょ」
「あの……霧さん、勉強を始めて貰ってもよろしいですか?」
キンジは心底から勘弁して欲しいとばかりに敬語で話し出す。
目的はそっちだし、仕方ないな~
「望月さんも、いい覚え方があるならじゃんじゃん教えてね」
「う、うん……」
こうして両手に華という
「これは……何だ?」
「微分です」
「遠山君、さっきの公式だよ。ここをまずは微分できる形に変化させないと」
「これは、to不定詞だよな」
「そうそう、頭に来てるから主語の方ね。You can do it」
「白野さん発音が上手い……」
と、順調に勉強は上手く進みいつの間にか時間は夕方前。
休憩を挟んでたとは言え、キンジは思ったよりも手ごたえを感じてるみたいだけど……同時に遅れ具合を感じて焦りも出てきたみたい。
「今日はここまでだね」
「そうだな。2人共、ありがとう」
キンジの言葉に望月は申し訳なさそうにする。
「う、ううん……昨日は勉強するって言ってたのに、協力できなくてゴメンね」
「いいって、気にしてない」
と、キンジは何やら少し冷たい。
本当に気にしてはいないんだろうけど、同時に彼女とあまり関わらないようにしてる雰囲気がある。
まあ、普通の人ならそんな変化は感じ取れないんだろうけど。
それからちゃっかりと私は報酬の紅茶の茶葉を貰って、図書館前でキンジと望月から別れた。
さて……これからが本題ってところかな、"彼女"は。
帰り道の途中、駅に向かう人気のない通りで私は振り返る。
そんな電信柱に隠れるなんてジャンヌの少女漫画でしか見た事ないよ。
「話があるなら、普通に声を掛けてくればいいのに。それとも不審者で通報した方がいい?」
「まま、待って!」
その言葉に望月は慌てて飛び出てきた。
「それで私に何か御用かな? それとも、キンジの話でも聞きたい?」
「それは、気になる……けど。白野さんに、聞きたいことがあって……」
「聞きたいことね。今日が初対面だから、そんな気になる事もないと思うけど」
と、私は分かっていつつもはぐらかす。
……まあ、いっか。
はぐらかすにしてもどう選択するかは彼女次第だしスパッと切り込むことにする。
「……キンジのことが好きなのかどうかって話?」
「え……?」
望月は意外そうに顔をキョトンとさせる。
「あれだけキンジに熱心に教えてる上にコートの下も気合の入った服装だったら何となく察しはつくよ。私、これでも洞察力には自信があるから」
「はうっ」
照れてる。
こういう反応も小動物みたいで愛らしくは思うけど、私としては歪んでる方が好きなんだよね。
「そうだね。望月さんにとっては重要かもしれないからハッキリ言っておくと、私はキンジが好きだよ」
「そう、なんだ……」
私の言葉に望月はあからさまに気落ちする。
気にせず、私は続ける。
「でも想いは伝えてない。ほら、キンジってば家庭含めて事情が複雑でね。だから、私はキンジが振り向いてもらうまで待つつもり。今ここで告白したところでキンジに想いに応えてる余裕なんてないからね」
「…………」
「別に諦めろとか言うつもりはないし、勝手に諦めてくれるならそれはそれでいいんだけど。どっちにしても望月さんも私の
「いいんですか? 白野さんは、それで」
「別に? 言ったでしょ、選ぶのはキンジだって。ただ覚悟しておいた方がいいよ。少女漫画で言うなら鈍感系主人公だから、無自覚に口説き落としてるし」
「そっか、そうなんだ」
どこか安心したような、それでいてどうしたらいいか分からなそうな複雑な表情を浮かべる。
まあ、初恋なんてそうだよね。
私もよく分からないし。
そう思えば多少なりとも親近感はあるけど……同情はしないね。
家族と友達とキンジ以外には興味もあまりないし。
「あの……連絡先、交換してもいいですか? 白野さんともっとお話をしたくて。遠山君のことももっと知りたいの」
個人的にはすっごい嫌だって言いたい。
でも、同時に楽しみも増えるとも考えられる。
複雑だな~、交換するけど。
「いいよ」
それから望月と連絡先を交換して、私達は別れた。
望月は感謝してたけど、うーん……複雑。
どうしようか迷う。
解体するか、しないか……
コイントスで決めよう。
500円玉を親指で弾いて、手の甲の上に落ちもう片方の手で押さえる。
そして見たところで溜め息。
運が良いことで……
それから家族用兼裏仕事用の携帯にメールが1通届く。
お姉ちゃんだ。
内容は――
『長城を落とす』
の一言。
なるほど、本格的に少し動く訳ね。
と言っても世界はそれを認識できないし、お姉ちゃんの仕業だと誰も知らないまま……
ロマンあふれる犯罪は少しずつ計算されている。
いつしかこの平和な日常も幻想になるかもね。
我ながら二次創作でここまで長編に出来たな。
香港編まで行く緋弾のアリアの二次なんて個人的にあまり見た事がない。
原作どこまで行くんや……
もちろん二次書いてる身として応援しております。