緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんは、サイコにカワイイ。

原作を読んでてここの時系列が妙な感じがしたので若干前後してますがご了承ください。

注意事項

・霧ちゃんが久々のピンチ


109:変貌する日常

 鏡高は、私と望月を舐め回すように見てる。

「昨日はあんまり話せなかったけど、イメチェンでもしたの?」

 そして真っ先に中学と雰囲気の違う私に声を掛けてきた。

「まあね~」

「そういう飄々(ひょうひょう)としたところは、昔から変わってないね」

 鏡高が話してる間にも、ブランドのスーツを着た怖いお兄さん達が車から降りてくる。

 数は2人。

 って言っても、後ろにも1台いる。

 だから鏡高を除いて5、6人ってところかな?

 別にこの程度で私をどうにか出来るとは思ってないだろう。

 私は一応は守るように望月の前に出る。

「赤桐さん、知り合い……なの?」

 望月が呟いた私の名前を聞いた鏡高は、眉を動かす。

「赤桐? ああ、なるほど……遠山と一緒に退学した訳じゃないのは聞いたけど、そんな制度あったわね」

 鏡高も元武偵なだけで経過観察任務は知ってるらしくすぐに気付いた。

「別にアンタと事を構えるつもりはない――"白野"」

 わざとらしく私の武偵の時の名前を言ってきた。

 軽い牽制のつもりだろう。

 別にそんなの牽制にもならないけど。

 でも、私の後ろにいる望月から困惑の声と息を呑むのが聞こえる。

 自分からネタバラシする楽しみがなくなったのは残念だけどね。

「白野、さん?」

「そうだよ。別に隠すつもりは特になかったけど、まあそこは事情ってことで」

 背中を向けたまま口調と声音を少し変えて、白野として振る舞う。

 すぐに菊代に向き直り、

「それで? 学校に遅れるから用件をお願いしたいんだけどね」

「そう急かさないでよ。遠山のことで一緒にお話しない? そうね、喫茶店でお茶でもしながら」

「私だけなら付き合うよ。この子は関係ない」

 一触触発とまではいかないけど、段々と雰囲気が剣呑になってる。

 望月もそれは感じてはいるかな?

 このままお好きにどうぞ、と望月を差し出しても私は構わない。

 別にどうなろうが興味ないからね。

 でも、それじゃあキンジに任せてって言った意味がない。

 せめて少しは、仕事しておかないと。

「そうもいかないの。中国に腕の立つ人材を紹介することになってるからね。なんならアンタも来る?」

「朝からお仕事とは精が出るね。キンジが望むなら付き合うけど、そうじゃないでしょ?」

 鏡高組が藍幇(ランパン)とパイプがあるのは知ってる。

 だから、キンジを勧誘してる。

 鏡高は別の思惑もあるだろうけど。

 なんか、段々と腹が立ってきたね。

 キンジはありのままが面白いのにそれを邪魔するのが気に入らない。

 藍幇……(ジャック)が目にかけていると知りながら、何で手を出してきたのかな?

 ココは少なくとも、あまり乗り気じゃなかったはずなのに。

 あの諸葛(メガネ)の入れ知恵かな?

「待って赤桐、さん……じゃない、白野、さん」

 と、望月は声を上げる。

 出来れば大人しくして欲しいんだけどね。

 何も知らないなら、口を出さないのが正解だよ。

 って言っても、初恋(キンジ)のことになればそうもいかない、か。

「白野はともかく、そっちの遠山の新しい女の子の方はどう? アタシとお茶でもする?」

「あ、新しい……どういう意味?」

「さあ、どういう意味だろうね」

 気になるワードを出しておきながら、答えない。

 弱いところを狙うのは、手慣れてるね。

 私にはその手の駆け引きとか話術が通じないから、素人の望月を狙ってきたか。

「気になるなら、ついてきなよ。別に何もしないよ」

「……行きます」

 その返事に私は頭を抱える。

「望月さん、考えて言ってる?」

「だ、だって……断ったら酷いことになるんでしょ?」

 完全に目の前のヤクザのイメージで言ってるよね。

 いきなりこんな住宅街でドンパチする訳がない。

 むしろ抵抗されて困るのは向こうの方だよ。

 素人じゃ、そんな状況判断を求めるのは無理か。

 知ってたけど、面倒なこと受けちゃったな。

 でも、キンジも私が迎えに行くと信じてるだろうしやらない訳にはいかないよね〜

 私は分かりやすく教える。

「ここで話に乗らない方がいいよ。どうせ、キンジを誘き出す餌にでもするつもりなんだろうし」

「言いがかりだよ」

「へー、そうかな? じゃあお話はまた今度でもいいよね? 別に何もしないなら断っても構わないでしょ」

「ええ、"アタシ"は別に何もしないよ」

 クイ、と顎で何か鏡高は合図を出す。

 すると額に傷がある運転席から出た男が、鏡高に携帯を持ってくる。

「そう言えば、アンタは妹がいるんだっけ? 丁度今は登校中だけど道中で事故が起きるかもね」

 わざとらしく、携帯を主張するようにヒラヒラと見せる。

 これはボタン一つで連絡すれば実行できるっていうことだね。

 脅し慣れてるし、手が早い。

 これもブラフだろう。

 本当に実行すれば、立場を悪くするだけ。

 でも、必要ならやるだろうな〜

 手段を選ばないその姿勢は好きだけどね。

 そして、ブラフなんて分からない望月は顔を青くする。

「そ、そんな……。……わ、分かったから咲には手を出さないで!」

「って言うことだから、白野。余計なことはしないで」

 私に釘を刺して、鏡高は望月を連れ去る。

 やっぱりこうなったかって感じだけどね。

「はいはい、キンジにも連絡しないよ」

「よく分かってるじゃない」

 どうせ、鏡高は自分のタイミングでキンジに連絡するだろう。

 そのまま望月は鏡高と一緒に黒いセダンに乗り込んで去っていく。

 ガムを口から出して、ある物を取り付ける。

 そのまま後ろから車両が近付き、タイヤの進行方向に見えないようガムを指で弾いて地面にくっつける。

 車はガムを踏んで、そのまま鏡高の乗ってる車両を追い掛ける。

 完全に車が見えなくなったところで、私は東池袋高校の生徒が使ってる(かばん)から端末を出す。

 追跡装置〜ってね。

 リリヤ特性――耐久性抜群の発信機をガムに包んでタイヤに付けた。

 これで本拠地かもしくは鏡高に関連する施設が分かる。

 キンジにまた、貸しが作れる。

 その点は感謝するよ。

 いつでも頼れる元パートナーってね。

「〜〜♪」

 鼻歌交じりに無事に発信機が起動してるのを確認。

 そのまま私は発信先を追い掛ける。

 

 

 適当なところで武偵高の制服に着替えて、いつもの白野ちゃん、参上っと。

 着いた先は西池袋の豪邸らしき場所。

 ふむ、遠巻きから見てもただの豪邸って雰囲気じゃないね。

 どうやら本拠地の方らしい。

 ラッキーではあるね。

 探す手間が省けたよ。

 どっから侵入しようかな?

 今回は完全にノープランだし、家の見取り図もない。

 道具の準備はしたけど、それだけ。

 豪邸の周りに見晴らしが良さそうな場所は……あった。

 池袋駅の近くのビルから見えるかな?

 そう思い、すぐに屋上へと移動し侵入して鏡高の家を観察。

 うー寒い。インナー着てるけど、屋上は冷える。

 倍率の高い双眼鏡で見るに和風庭園に、広そうなガレージ。間取りも大体は分かった。

 しかし、監視カメラやセキュリティはなさそう。

 あれかな? 常に組の人が詰めてるから特に必要はないって感じかな?

 そんな中で物騒な物を携行してるのが見える。

 ……AK―47か。

 言わずと知れたロシアのアサルトライフル。

 ま、大した脅威じゃない。

「さてと、カチコミに行こうかな?」

 家の構造も見当はついた。

 望月を探して、あとはキンジがピンチになったら私が登場しよう。

 あそこから素人を連れ出すのは難しいだろうし、それが現実的。

 

 

 鏡高のことだから、きっと手元に置いておくだろう。

 問題はいつキンジが来るか、何だけどね。

 その前に望月の場所だけは把握しとかないと。

 下手に人数を減らすと侵入に気付かれる。

 この程度なら難しくはないけど。

 面倒なのは面倒なんだよね。

 基本的に成り代わって堂々と潜入だから、あまり慣れてないんだよね。

 出来ない訳じゃないけど。

 とりあえずは塀から侵入して、素早く室外機を使ってベランダへ昇り、雪解けの屋根へと飛び上がる。

 さてさて、見回ってる連中から何か会話でも聞けないかなと思って外回りを警戒してるヤクザに聞き耳を立てる。

 普通なら、話し声なんて聞こえない距離。

 でも私は、常時ヒステリアモードもどきだから集中すれば聞こえる。

「はーあ、ガキ相手に姐さんもよくやるよな」

「だが、それもすぐに終わるだろ。高値で売れる例のボウヤが来て、ふん縛れば姐さんは用済みだ」

 何とも穏やかじゃないね。

 どうやら、キンジを無力化したら鏡高を裏切るつもりらしい会話が聞こえた。

 ホスト風の男にインテリ風の男の会話をもう少し聞いてみる。

「ところで(こう)先生達は?」

「くつろいで貰ってる。すぐにビジネスが出来るように奥の部屋でな」

 ……来てるんだ。

 丁度いいや、私の家族になる予定の想い人に手を出す理由を聞かせてもらおう。

 そのまま、裏口に降りてレッツピッキング。

 鞄からピッキングツールを出して、5秒で開ける。

 私、殺人鬼のハズなんだけどね。

 怪盗は理子なのに、とか思いながらもすんなり侵入。

 侵入する前にビルの屋上で見た時に料理が運ばれてる部屋があったね。

 だったら、こっち……。その前に白野のままじゃあ困るから変装しとこう。

 用意してた赤毛に変えて、ドイツ人っぽい感じに特殊メイクを変える。

 さて、内容次第ではすぐに殺してあげるからね♪

 何て思いつつ私は、堂々と中華風の扉の部屋を開ける。

 そこには――

「ん?」「()……」

 バナナを食べてる猴と、桃を食べてるココ四姉妹の末妹でメガネを掛けてる機嬢(ジーニャン)、そして生レバーを食べてる諸葛静幻(しょかつせいげん)

 見ーつけたってね。

 私が入るや否や、諸葛は静かに立ち上がり一礼する。

「お待ちしておりました。ジャック」

 ……この丸メガネ、私を待ってたね。

 キンジに手を出したら私が出てくるのを分かっていて、あえて手を出したのは私を呼び付ける策だった訳だ。

 久々にハメられたよ。

 それを瞬時に理解した私はすぐに聞く。

「それで? 私が出張るのを分かってて手を出した理由はなんだよ?」

 カツェみたいな喋り方で私は真意を問いただす。

「いえ、少々お願いがございまして。本来ならこのような周りくどいやり方ではなく直接連絡をしたかったのですが、神出鬼没な上に行方の知れない人ですからね。彼の近くにはいるとは思っていたので、こうした訳です」

「連絡先なら機嬢(ジーニャン)が知ってるだろ?」

 諸葛の説明に私はツッコむ。

 イ・ウーで既に知ってるでしょうに。

上海(シャンハイ)に目付けられててこっちの連絡は無理ヨ」

 本部の方か……

 中国も一枚岩じゃないのは知ってる。

 まあ、元々が多民族国家だし当たり前だけど。

「わざわざ私を呼ぶなんて、物好きだな。遠山が来る前に用件を終わらせろ。私は楽しみを邪魔されるのは嫌いなんだ」

「では、単刀直入に。我々に手を貸して頂けませんか?」

藍幇(ランパン)の問題を解決する気はないぜ」

 私はすぐに拒否する。

 そして私の言葉に図星だったのか、諸葛はやれやれと首を振る。

「手厳しいですね」

「好きに生きて、好きに殺す。私が何なのか、知らない訳じゃないだろ?」

「ですが、彼に惹かれてるのでは? 昔に比べて随分と丸くなったようですしね。男か女か分かりませんが」

 私の正体を絞ろうとしてる?

 鏡高以上に頭が回るから、これ以上話すのは危険だね。

 別にお父さんとお姉ちゃん以外に頭で負けるつもりはないけど、諸葛は私でも荷が重い。

 私は、退室しようと背を向けながら話す。

「これ以上は雑談する気はねえな。ただ、私の目的を知りたいなら教えてやる」

「ほう? それは興味深いですね」

 諸葛は大層な目的があると、私に思ってるだろうけどね。

 私の目的は今も昔も変わらない。

「――家族を救うこと」

 それ以外の命なんてどうでもいいね。

 もう1つ目的を付けるなら、キンジが私に振り向いてくれること。

 いや、恋してくれることかな?

 ともかく、私はそれだけ答えて部屋を静かに出る。

 特に言葉を掛けてこないあたり、諸葛は私が交渉に応じないことくらい分かってただろう。

 きっと別の事を確かめようとしてた。

 相変わらず食えないね~

 まあ、相手からしてみれば私の方が食えないヤツと思われてるだろうけど。

 

 

 白野に戻ってると連絡が来る。

 敵地のど真ん中で余裕で連絡に出る。

 穴が多過ぎるんだよね。

 ヤクザって大体は正面から裏切るみたいな感じだったり、抗争とかも正面からみたいなところもあるから、侵入してどうこうなんてあまりないだろう。

 だから、施設の警戒に関しては正規軍とか政府に比べて意識が違う感じはある。

「はい」

『霧、お前のことだからなにかしてるんだろ?』

 キンジからの電話ですぐにそう聞いてくる。

 別に私からは連絡してないから、これは問題じゃないでしょ。 

 以心伝心ってやつかな。

 お互いに分かってるから、それだけで伝わる。

「まあね。それとゴメン、任せてって言ったけど鏡高さんが思ったより意地汚くてね」

『ヤクザだからな。手段は選んでくれない』

「呼び出し?」

『ああ、西池袋の住所だ』

「もう当たりはつけてるし、その気になればキンジが着く前に片付けられるよ」

『俺が囮になる方が確実だろ?』

 よく分かってる。

「ヒステリアモードじゃないのに、大丈夫?」

『何とかするさ。それに、お前がいるからな』

「また貸しね」

『分かってるよ。俺は、"お前がいないとダメ"みたいだ』

「っ――」

 今のは大分……殺し文句が過ぎるよ。

 前ならすぐに軽口返してたのに、今は無理だ……

 なんか、悔しいな~

 同時に嬉しいって思ってる辺り、相当に入れ込んでる。

 恋ってこんなに戸惑うものなんだね。

「もう一回言ってくれる?」

 ちょっとおねだりしてみる。

 向こうは聞こえないフリしてからかってると思うだろうけど。

『なんでだよ』

「冗談。さっさと来てよ。潜伏するのも楽じゃないんだから」

『分かってる』

 電話が切れてから、携帯を下ろして胸元へ。

 冗談じゃないんだけどね……

 

 

 また屋根の上でしばらく待機してると、何やら騒がしくなってる。

 下を見れば、何やらカチコミな様子。

「オラァ! どけや、望月さんを返せ!」

 と先陣を切って突っ込んできてるのは、この間ボコボコにしたレオン。

 それから後ろには、藤木林と朝青もいる。

 騒ぎを聞きつけた鏡高が和風庭園に出てくる。

「なんだい、お前達」

「菊代さん、アンタが攫った人を返せ」

「藪から棒だね。攫ってなんかないよ」

 相変わらず、堂々ととぼける鏡高。

 しかし、レオンは言葉を続ける。

「喫茶店から張ってたんだ。しらばっくれるな、望月とか言う女がいるだろう」

「そうだ! 返して、キ……ある人と一緒に平穏な生活をさせやがれ!」

「しらばっくれんなら、無理矢理でも連れ出してやるよォ!」

 レオンに続けて藤木林と朝青も言葉をあげる。

 レオンに比べて2人は声が震えてるけど。

 ヤンキーじゃあヤクザは、荷が重いでしょうに。

 しかし、どうやら様子を見るにキンジのために動いてるらしい。

 荒くれ者に対して妙にカリスマ発揮するよね、キンジ。

 ここで私が手を出しても意味ないね。

 そのまま見てると、

「オラァ! 掛かってこいや!」

 レオンが素手で奮闘してる。

 しかし、すぐに――

「おとなしくしな!」

 鏡高は部下に命じて銃を持ち出してきた。

 流石に銃を持ち出されたら動ける訳がない。

「お前達、誰の差し金だ」

 鏡高はゆっくり近付いてそのままレオン達を問い詰める。

「別に俺達が勝手にやってるだけだ。誰の差し金でもない」

 男気ってやつかな? 見てて気持ちがいい堂々さだね。

 嫌いじゃないね、そういうの。

 そこで私は気付く。

 チャンス到来だね。

 キンジに手間を掛けさせずに済むかも。

 おまけに藍幇に接触させる必要もないし。

 注意がレオン達に向いてる内に、リビングの方へと侵入する。

 それからリビングの隣の部屋へお邪魔する。

「な、なんだテメエ!」

「カチコミです!」

 言いながら、距離を詰めて顎に飛び膝蹴り!

 サングラスの男はそれで一撃。

 部屋には1人か2人しかいない気配だったので、普通に突っ込んだ。

 そして、当たりだったらしい。

 小さい寝室みたいな場所には望月がタオルを口に巻かれて、腕というか親指だけ結束バンドで拘束されてベッドに座らせられてた。

 私を見て望月は驚いた顔をしてる。

「ひ、ひはのふぁんッ!?」

 どうやら私の名前を叫んでるけど、こっちは急いでるからね。

 さっさと用件を済ませる。

 タオルと拘束を外して、すぐに笑顔で言う。

「さっさと逃げるよ。外にレオンとか藤木林もいるけど、望月さんを助けに来たらしいから3人と一緒に逃げて」

「白野さんは?」

「私も逃げるけど、時間は稼がないとね。ヤクザは手と足が早いから」

「で、でも……」

「あのね、素人じゃないんだよ。あれぐらい何とかなるから。むしろ望月さんが残ると邪魔」

 キツめに言っておかないと、いらん心配で足を止めそうだからこれぐらい言っておく。

「閃光弾を合図したら投げるから、目と耳を塞いで4人で逃げて」

 コクコクと望月は首を縦に振る。

 そのまま望月の手を引いて、和風庭園を目指す。

 そこには、

「オラァ! さっさと吐けや!」

「ゴフッ!」

 ヤクザに蹴りを入れられてるレオン、銃床で顔面を殴られてる藤木林と朝青がいた。

 その光景に、望月は「ひ、酷い」と口を押さえてる。

 それからレオンがこっちに視線を向けた瞬間、チャンスだね。

 ヤクザ共はこっちを見てないので、目と耳を閉じて欲しいってジェスチャーをする。

 何とか気付いてくれたらしい、それから見えるように閃光弾(フラッシュ・グレネード)を見せる。

 それからピンを抜いたところで、

「目と耳閉じて」

 そう言ってすぐに鏡高の前に落ちるように投げる。

「目と耳を塞げ!」

 レオンも叫んだ瞬間に、バキィィン! と閃光と音が弾ける。

「な、なんだ!?」「クソお、目がああ!」

「走って!」

 ヤクザ共が混乱してる間に望月の背中を押す。

「おらああ!」

 レオンも目の前のヤクザを殴り倒したところで、

「藤木林くん、朝青くん! 逃げて!」

 望月と共にレオンは2人をすぐに立たせて走り去っていく。

「チッ、お前達――」

 鏡高が指示を出す前に、私はM500で鏡高の足元を撃ち抜く。

 同時にGLOCK18Cを抜いて、

「動かないで。全員を未成年誘拐、暴行、銃刀法違反で逮捕する」

 安全装置(セーフティ)を外しながら罪状を叩きつけて脅す。

 誰もが動かないで、鏡高だけがゆっくり振り返る。

「白野……」

「悪いね。デートの邪魔させてもらうよ」

 私の一言に鏡高は珍しく、内心が穏やかじゃなさそうな顔をしてる。

「好きな人には私もイタズラしたくなるけど、これはやり過ぎたね」

「たかが喧嘩とお茶してただけで逮捕するつもり?」

 この現状を見て、しらばっくれるのは胆力があるね。

 繊細な癖に駆け引きには図太いのは知ってたけど。

「あっそ。君がどうとぼけようと勝手だけど、自分で格を落としてキンジに釣り合うと思ってるの?」

「…………」

 これには鏡高も思うところがあるのか、黙ってしまう。

「格を上げて出直しなよ。キンジも似たようなこと言ったんじゃないかな?」

 予想だけど、キンジはしれっとそういうこと言うからね。

 それにヒステリアモードのあの時ならなおさらね。

 私の言葉に鏡高は胸を痛めたのか、悔しそうに下を向いて胸を両手で押さえる。

「って、出直すのは私なんだけどね。流石に帰らせてもらうよ。改めて挨拶させてもらうね」

 銃を向けたまま、家を通って帰ろうと思って屋敷の方へと下がる。

 ふ~、キンジが来る前に片付いてよかった。

 藍幇なんかに接触させたくなかったしね。

 ドクン……!

 突然に胸が高鳴って、締め付けられる感覚。

 さ、最悪……体調管理はちゃんとしてるのに。

「う、くぅ……」

 我慢、出来、ないッ……

 もうちょっとで、一件落着だったのにッ。

 銃は離さないけど、痛みにうずくまるしかない。

 膝をついて、息が荒くなる。

 なん、で……

 この痛み、色金の共鳴現象(コンソナ)――

 ……まさか。

「すみません、何かありましたか?」

 後ろから諸葛が悠然と歩いてくる。

「おや、初めましてですね"白野"さん」

 そして、私に今気付いたフリをする諸葛。

 ……やってくれたね。

 冷や汗を出しながらも、私は笑みを浮かべるしかない。

 

 久々に、殺意を抱くよ。

 


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