あと、今回はキンジ視点のみでお送りいたします。
4月7日。
大体の高校は入学式があるころだろう。
それは、この東京武偵高校も例外ではない。
ここが俺の新しい学び舎か……
寮もあるし、日本の首都に存在する武偵高だけあって施設は充実してる。
俺のヒステリアモードを知っていた地元の女子もいない。
まさしく俺にとっては最高の環境だ。
ただ、注目される事は間違いないだろうけどな……
俺が入学式に東京武偵高にいると言う事は、合格はした。
合格はしたが――
(なんでよりによってSランクに位置づけられてるんだよ……)
合否の通知が実家に送られて来た時に、俺は目を丸くした。
合格してたのは、素直に嬉しかった。
思わずガッツポーズをしたほどだ。
だが、他の文章を読み進めて行くうちに気付いた。
『強襲科 遠山 キンジ 入学時暫定ランク S』
と、書かれている事に。
この一文を見た時に、俺の喜びの笑顔は苦笑いに変わった。
いやある意味、名誉な事なんだけどな……
これはヒステリアモード時の俺のランクであって、"素"の俺のランクではない。
…………はあ。
待て、遠山 キンジ……元々分かってた事だ。
入学試験の帰り道に、イタズラ好きな俺のパートナーが言ってただろう。
それと、俺自身も薄々に勘付いてた事だ。
ただ、希望的観測で現実逃避してただけ……
ああ、分かってる。
今更ランクを下げられないし、結果は出てしまった。
(腹をくくるしかないか……)
そうだ、逆にポジティブに考えよう。
パートナーに相応しいランクになったと、そう考えるんだ。
「やっほい!」
――バシン!
そんな声が掛けられたと同時に、背中をはたかれた感触がする。
意外にいてえ!?
入学式早々にこんなことする奴は、一人しかいない。
「おい、霧。もうちょっと普通に挨拶できないのか?」
後ろを振り返ると、東京武偵高の制服に身を包んだ霧が立っていた。
「それって、武偵流の挨拶ってこと? なら、後ろから今度は発砲すればいいのかな?」
「どんな、挨拶だよ! 武偵流って言うが、武偵でもしねえよ」
と言うか、そんな物騒な挨拶があってたまるかと思うが……中学の頃に注意する前に発砲と言うのはよくあった。
警告や注意をする前に発砲。
……順序が逆過ぎる。
なので、背後からいきなり撃たれると言うのも否定できない上に案外あり得そうなのが武偵と言う組織だ。
「それよりも、校門の前でいつまで立ってるの?」
「いや、考え事してただけだ」
「考え事するなら、講堂に入ってからにしようよ」
正論だな……
「なら、行くか」
「うん」
俺の言う事に笑顔で霧は同意しつつ、隣に並んで歩く。
この構図も、当たり前になってきたな。
と、思いつつも講堂を目指す。
生徒がひしめき合う講堂に到着して名簿順に並んで座ってる訳だが……
まず、妙に目立つのが武偵
明らかに
周りの壁も、弾痕を修復したような跡やそのまま穴が開いてる部分がある。
中学の時よりさらに物騒な感じになってるんだが……
それと、3年生と思しき集団。
どう考えても雰囲気が違う。
そう、例えるならウチの兄さんみたいな……プロの風格を漂わせている。
2年生はその途中みたいな感じだ。
先輩は、どの人もヒステリアモードでない俺だと負けそうな感じがする。
たった2年であそこまで変わるもんなんだな……
そして、壁際で並んで見てる教師陣。
あれもヤバい。
矢貫先生よりも恐ろしそうな人たちがゴロゴロいる。
黒い短髪で、煙草を咥えてる女性の先生なんか目が死んでるぞ。
ヤク中みたいな感じだ。
俺と同じ新入生は、ヤバい雰囲気が分かってるのか緊張で肩を張ってるのがよく分かる。
それと同時に分かるのが、武偵中学から来た奴と
前者は雰囲気の違いが分かってるが、後者は分かってない。
暢気にアクビなんかしやがって……一般中学と同じノリだとすぐに痛い目を見るぞ。
問題は俺のパートナーだが、一応ここからでも僅かに見える。
アイツも、緊張してるんだろうかと思ったが、そんな事は無かった。
いつも通りな雰囲気をしてる。
そうだよな。
こう言っちゃあなんだが、アイツが緊張してる所なんて想像できん。
と、軽く周りを観察して気を紛らわせてるが、もう一人気になる奴を発見した。
さっきから妙におろおろとしてる女生徒が一人。
サラサラと音がしそうな、黒髪ロングが揺れている。
同じ新入生だろうな……
と、思って見てると顔が僅かに見えた。
――白雪だった。
大丈夫なのか、あいつ……
本当にこの武偵高でやっていけるんだろうかと、心配になる。
(そう言えば、合格通知が来た時にやたらとメールを送ってきてたな)
それも何十通も……
内容も意味が分からない物だった。
最初は『おめでとう』から始まったやたらと長い文章だった。
その次には、
『今度、お赤飯持って行くね! ついでに何か作ってあげようか? なにが良いかな? って、これって何だかお嫁さん――』
とか、
『寮に遊びに行っていいかな? ご、ごめん迷惑だよね! キンちゃんと久しぶりに話したいと思って、だけど決して一緒に泊まったりしたいな~とか思ってないから! そのまま、夜まで――』
とか、あったが……全部は読んでない。
と言うか、読むのが怖かったので読まなかった。
しかも返事をすると倍以上に返ってくるので、適当に話を切り上げた。
できれば、そこら辺は変わって欲しかったぞ……白雪。
などと色々考えてると、どうやら入学式が始まったようだ。
誰かが舞台へと上がって行く。
そして、マイクを手に取る。
『はい、はい。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私がこの東京武偵高校の校長をやっています。緑松
あれが……校長?
武偵高校を纏める人としては、パッとしないな。
例えるなら通勤電車にいそうなサラリーマンだ。
『どうやら今年も良い人材が本校に集まった事を喜ばしく思います。毎年そうですが、その中でも幾人か"特殊"な生徒がおられるようです。私としてもそう言った方がおられるのは個人的に嬉しく思います』
その特殊の中に俺が入ってない事を願うばかりだよ……
『話を変えまして、武偵と言うのは社会に未だに正しくは認識されていません。少々誤解してる節があるようです』
そりゃそうだろうな。
探偵と言っても、やってる事はドンパッチ撃ちまくったり、街中でカーチェイスを繰り広げたりと……映画でもあるような感じだ。
"武装"とついるからには、ある意味正しいんだろうけどな。
『なので諸君らには、そう言った誤解を無くして貰うためにも犯罪者の検挙に協力して貰いたい。最近では、ジャック・ザ・リッパーなどと言う過去の亡霊がいる様ですが、彼のような凶悪な犯罪者を取り締まる卵の、君たちの奮闘を願います。以上で入学式兼始業式を終わります』
――はやっ!?
って、不思議でもないか。
武偵では来賓がいなければ、始業式や入学式と言った事が短いのはよくあることだ。
要は、説教より訓練。
体で覚えるって言う事を体現してる組織だからな。
つーか、始業式も兼ねてんのかよ……
講堂から出て、自分のクラスを確認して教室に向かう。
クラスは1-A組だった。
名簿の中に意外にも霧や白雪がいた。
そして、教室に向かってる道中で霧と合流したので、一緒に向かってる訳なんだが……
「予想通りに注目の的だね~、キンジ」
「何でこんなにもウワサが広まるのが早いんだ……」
講堂を出てからと言うものの、俺を見てヒソヒソと話す奴が目立つ。
特に、
当たり前なんだけどな……
「この様子だと、教室でも同じことが起きそうだね」
「やめてくれ」
俺は兄さんに比べたらそこまで大層な人物じゃない。
ヒステリアモードなんて無かったら、俺もそこらの武偵と変わらないんだからな。
なんて、話したり考えてる内に1-Aの教室に辿り着いた。
教室の扉の前に立ち、溜息を吐く。
あ~……何か、霧の言うとおりの事が起きそうな気がしてやまない。
と言うか霧。ニヤニヤするな。
どう考えても俺を先に行かせる気満々だろ。
「レディファーストって事で、先に行ってくれないか?」
と、霧に提案するが――
「貸し一つって事で、数えても良いのかな?」
すぐに目論見は、潰された。
チクショウ……そう言われると強く出れない。
こうなりゃヤケだ。
俺も男……いつまでもヘタレてる訳にはいかない。
深呼吸をして、扉に手を掛け――開ける。
「キンちゃん!」
そして、目の前に飛び込んできたのは白雪だった。
そうだった、白雪も同じクラスだった……
さっき確認したばかりだろ、俺。
「その、お久しぶりです!」
と、白雪は俺に対して90度腰を曲げかねん勢いで頭を下げる。
「久しぶりってほどでもないだろ……昨日もメールしてただろうが」
「で、でも……私、星伽から出るのこれが初めてで。だから、キンちゃんに会えないと不安で」
その言葉を聞いた時、俺は頭を手で抑えた。
本当に大丈夫なのか? コイツ。
……いや、箱入り娘だった白雪なんだ。
不安があるのも仕方ない。
しょうがないが……しばらくはフォローしてやるか。
「う~ん、なかなかに面白そうな子だね」
そう言いながら霧が俺の後ろから顔をひょっこりと出す。
そして、白雪は霧を見ると急におどおどした感じになる。
お前人見知りする癖、まだ抜けてなかったのかよ……子供の時よりはマシになってるんだろうけど、根本は変わってないな。
「あの、その……初めまして」
「どうも、初めましてね。星伽 白雪さん」
おどおどとしながらも、白雪は挨拶はしっかりとする。
真面目な所も変わってないな。
「あれ? 私の名前、何で知って――」
「ああ、俺が入学試験の日に教えたんだ」
そう言えば、白雪には霧の事を教えてなかったな。
「白雪には話すの忘れてたが、コイツは俺が中3の時から一緒に組んでる
「どうもどうも」
「パー……トナー……?」
おかしい。
ただ単に霧を紹介しただけなのに、白雪の雰囲気が怖いものに変わってる気がする。
「その、キンちゃん。パートナーって、どう言う意味……?」
「あ、いや。ただ単に、武偵でのパートナーって意味で深い意味はない……ぞ?」
何か知らんが、白雪の雰囲気に呑まれて疑問形になってしまった。
そして俺の言葉に、白雪はパーッと笑顔になる。
「なんだ、そう言う事だったんだね! 私、てっきり将来を誓い合ったのかと」
なんだそりゃ……俺と霧が将来を誓い合う?
意味が分からん。
「なんで俺と霧がそんな関係になるんだ」
「だって、世の中には仕事だけの付き合いが、恋愛に発展するのはよくある事だし……」
「ドラマの見すぎだろ……」
白雪の見当違いな事を流していると、違う人物がこちらに近づいてくる。
「やあ、ゴメンね。お話してる所悪いんだけど、色々と確認したくてね」
その人物は、すまなさそうにしながらこちらに笑顔を向ける。
いかにも優男って感じで、イケメンスマイルがよく似合う人物だな。
「まずは、初めましてだね。僕の名前は
「なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「自分でも分かってるんじゃないかな? 1年でSランクの武偵なんてそれこそ数えるほどしかいないんだよ。ウワサにならない筈がないからね」
ですよね……
「
「それは、初めて知ったね~」
優男――不知火が話してる内容に霧は食いつく。
そして下から覗き込むように俺を見て、ニコニコと一言。
「入学試験の帰り道で何で言わなかったのかな~?」
「お前に言ったら、絶対にイジってくるだろ……」
「話のネタにはするかもね」
「だからだよ」
と、話してると不知火は俺達を見て「はは」と笑いながら、今度は霧の方を見る。
「白野さんの話も聞いてるよ。遠山君と唯一渡り合った人物で、Sランクに近いAランクって事で評判になってるよ。女の子なのに大型の拳銃も使うって話しだからね」
「だろうね~。それに、女の子でこんな銃を使うのも私ぐらいだろうし……」
そう言いながら霧は左のホルスタ―に入ってる、S&WのM500を見せる。
不知火はそれを見た瞬間に僅かながらに驚いた。
「M500、市販品の中では最強の銃弾を使用する銃だね。同じ口径を持つデザートイーグルの方が有名だけど……リボルバーだから
「よく覚えてるな」
俺は不知火の博識さに舌を巻く。
武偵が銃の事に詳しいのは当たり前だが、どうやら見た目と違って頭がバカと言う事はなさそうだ。
知性を感じさせるような、喋り方だったしな。
「これぐらい、武偵……特に
と、不知火は謙遜するように言う。
「全く、同じ
教室にどうやら俺が倒した奴らも混じってたらしい。
不知火が最初に話しかけてから、次々と気兼ねなく話しかけてくる。
「ふふ、さすがはキンちゃんだね」
「やめろよ。気恥ずかしい」
白雪がそんな事を言うのでどこか居た
ピシャン!
「月に代わっておしおきよ! 美少女武偵、りこりん参上!」
……突然に扉を開け放って現れ、なんかのポーズを取ってる人物は、これまたイロモノ揃いの武偵でもかなりの変わり者だった。
身長はどう見ても150以下で、金髪のツインテールを揺らしている美少女。
おまけにその制服は何だ……やたらとフリフリした物がスカートとかに付いてるぞ。
「やー、りこりん」
「やー、キーちゃん」
霧と謎の少女はお互いにそんな挨拶をする。
お前ら知り合いだったのかよ……
「はは、随分とまた面白い人が来たね」
「面白いとかそういう問題か?」
不知火の言う事にそうツッコむ。
「ああ、キンジ。この子は学生寮で一緒に知り合った子だよ」
「あい! 峰 理子であります!」
霧に紹介されて峰 理子を名乗る少女はビシッ、と敬礼しながら挨拶する。
と言うかさっきの『キーちゃん』って、ニックネームか?
「ふ~む、君がウワサのSランク武偵である遠山 キンジだね!」
「ああ……そうだよ」
彼女のテンションに押されつつも答える。
「なるほどね~。遠山 キンジだから……"キーくん"だ!」
「……なに?」
「うむ、キーくんにキーちゃん。ちょうどコンビだからイイ感じだね」
一人納得してる所悪いが――まるで意味が分からんぞ!
そして、峰 理子を中心に教室が段々とカオスになって行く。
俺はこんなクラスで1年間、いや付き合いを考えると3年間も一緒に学ばなくちゃならないのか……
大丈夫なのか? このクラス。
武藤とレキさんの出番はまだです。
まあ、後々と言う事で。
私に1日1話投稿は長続きしません……