緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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この話を書いてて気づいたこと。

平賀あややさん、いつ出そう?





19:勘違いから始まる決闘

 

 最近……と言うほど、入学から時間は経っていないが。

 変化が起きた。

「おはようございます、霧さん」

「ああ、白雪さん。おはよう」

 いつの間にか霧と白雪が仲良くなってると言う事だ。

 その証拠に現にこうして俺の目の前で挨拶(あいさつ)してる。

 まさか、人見知りする白雪に友達が出来るとは……思ってもみなかったぞ。

 などと感心しながら白雪を見ていると、こっちに気づいた。

「あの……キンちゃんどうしたの?」 

「いや、何でもない。と言うか、昔のあだ名で呼ぶのはやめてくれ……」

 入学してからこのやり取りも何度目だろうか。

「ご、ごめんなさいキンちゃん。つい癖で……あっ」

 自分の言動にあわわ、と言った感じに慌てふためく白雪。

 またこのパターンか。

 最早お決まりだな……

「はいはい。落ち着いてね」 

「う、うん」

 しかも霧にフォローされてやがる。

「まあ、アレだよ。キンジも気恥ずかしいんだよ」

 霧の言う通り、確かに気恥ずかしいのもあるが……キンちゃんって呼ばれる歳でもないからな。

 昔ならいざ知らず。

「で、でも……それじゃあキンちゃんの事なんて呼べばいいの?」

「普通に名前で呼んだらいいじゃないかな~」

 ……相談するなら本人に聞こえない所でやってくれ、と言いたいが。

 まあ、ここは霧に任せておこう。

 女子の会話に突っ込む気にはなれん。

「そんな……ハードル高いよ。キンちゃんの……その、名前を呼ぶなんて」

「難しく考えたり堅く考えたりするからダメなんだって。もう少し柔軟に行かないと、いつの間にか"取られちゃう"よ?」

 "取られる"の意味は分からんが、霧。

 お前、絶対に何か企んでるだろ。

 さっきよりもニコニコしてるあたり怪しいぞ。

「う、うん。頑張ってみる。そうだよね……女は度胸だよ。頑張れ白雪」 

 自己暗示なんだろうが全部聞こえてるぞ。

 いや、まあ……なんだ。

 気恥ずかしいあだ名で呼ぶのをやめてくれるのなら、あえてスル―しておこう。

 そして、白雪がこっちに向き直る。

 お前、なんか緊張してないか?

「あの……」

「お、おう」

「キ……キ、キキキキキンキン! キン」

 ……なんか白雪が怖いぞ。

 特に壊れたテープレコーダーみたいに喋ってるあたりが。

 しかも、何故かは知らんが気合いがあるせいで顔にも力が入ってる。

 と言うか、なんで『ジ』が出てこないんだよ!

 たった一文字だろうが!

「む、ムリだよー!」

 俺の目の前にいた白雪は、顔を真っ赤にして叫びながら教室を出て行った。

 あいつ、もうじき授業だぞ……

 俺の目の前に残ったパートナーが白雪が走り去った扉を見ながら問う。

「ねえ、キンジ」

「なんだ?」

「白雪さんって、面白いね」

「否定はしない」

 白雪はいつからあんな愉快な感じになってしまったのか……

 幼馴染みの俺すら分からん。

 

  

 ――昼休み。

 一応、アレから白雪はちゃんと授業前に返ってきたが。

 相変わらず様子は可笑(おか)しいままだ。

 いくらなんでも名前一つで大袈裟すぎないか?

 と言うのを事情を話した不知火と事情を知っている霧に話したところ――

「さすがはキンジだね~」

「うん、そうだね。さすがは遠山君だ」

 と、何故かは知らんが勝手に納得された。

「お前ら俺をバカにしてるだろ……」

「察しが悪い方が悪いと思うけどね~。先に言っておくと答えは言わない。こう言うのは自分で分からないと意味無いからね」

「なあ、霧。せめてヒントとかくれよ」

「ヒントね~……女心(おんなごころ)かな?」

 俺の不得意分野じゃねえか。

 どうしろって言うんだよ……

「ま、別にキンジはキンジのままでいいんじゃないかな? 今のままだと色々誤解を招くぐらいだし」

「ダメじゃねえか」 

「だったらアドバイスとしては、人の心に機微(きび)でいる事だね~」

 何故だ……霧が言うと説得力があるぞ。

 って言うかお前は逆に洞察力とかが良過ぎるんだよ。

 今では慣れたが、俺の言う事を大体は先に言われるからな。

「白野さんはどうやってその洞察力を手に入れたのか、参考に聞いていいかな?」

 不知火も同様に霧の凄さについては知ってる。

 同じ学科でもよくつるんでるからな。

 対して霧は自信満々に、

「経験だね」

 笑顔で言った。

「なるほどね。(すご)い説得力だよ」

 確かにな……不知火の言う通り凄い説得力だ。

 まあ、こいつの家庭事情は笑顔に反して暗いからな。

 多分、そう言った経験をしてるのも他の事情が絡んでるんだろう。

 深く聞くつもりはないけどな。

 そう思っているとチラリと、霧が別の所に目線が向いたような気がした。

「さて、ちょっと私は手洗いに行ってくるよ」

「あ、僕も手洗いに行くついでにコーヒーを買ってくるよ。お昼の後は眠くなるからね」

 と、二人は何だか打ち合わせをしたように席を立った。

 なんだ……?

「あの、キンちゃん」

 と、声を掛けられた方を見ると今日は絶賛暴走気味の白雪さんが俺の背後に立っていた。

「……どうした?」

「う、うん。青森から届いたリンゴがあるんだけど、どうかなって思って」

「ああ、貰うよ」

 青森のリンゴと言えば名物だからな。

 食後のデザートにはもってこいだろう。

 白雪が差し出したランチパックから、一口サイズに切ってあるリンゴを一つ食べる。

 さすがは星伽のお嬢様だな。

 リンゴも良い味で瑞瑞(みずみず)しさが口の中で広がる。

「ふふ、美味しい?」

「まあな……」

 と、曖昧な返事になったのは白雪の笑顔にドキッ、とさせられたからだ。

 幼馴染(おさななじ)みで忘れそうになるが、コイツはコイツで美少女なんだ。

 そりゃ笑顔も映える。

 身近にも危険物はあるんだよな……

 これが灯台下暗しって奴か。

「それはそうと、霧と不知火もタイミングが悪かったな。まさか白雪と入れ違いになるとは……」

「……うん、そうだね」

 また、白雪の様子が変だ。

「すー……はー」

 そこで深呼吸する意味はなんだ?

「あのね、えっと……キン、キン……キンッ!」

 何か喉に詰まったみたいになってるぞ。

 ああ、多分アレだな。

 朝と同じように名前で呼ぼうとしてるんだろう。

 と言うか、あのチャレンジまだ続いてたんだな。

「なあ、しらゆ――」

「やっぱり無理だよ霧さーん!!」

 俺が声を掛ける前に白雪は両手で顔を覆って朝と同じように走り去ってしまった……

 呆然と見送っていると、

「相変わらず愉快だね~。白雪さん」

 いつの間にか霧と不知火が戻ってきていた。

 霧の発言からしてお前ら絶対にどこかで見てたろ。

「最後に星伽さん、白野さんの名前を呼んでたけどいいのかな?」

「ん~? 別に行かなくても問題ないよ。すぐに戻ってくるだろうし」

 適当だな、おい。

 まあ、霧の言う通りすぐに戻ってくるだろう。

 そう思っていると、

 スパン!

 と、教室の扉が勢いよく開かれた。

 白雪かと思ったが……あの(普段は)おしとやかな白雪がそんな乱暴な開け方をする筈も無く――

 

「遠山 キンジ! オレと決闘だ!」

 

 扉を開けたツンツン頭の男がそう叫ぶ。

 今日は厄日(やくび)なのか?

 神様、俺が何をしたんだ……

 

 ◆       ◆       ◆ 

 

 随分とまあ、面白い事になっちゃって。

 ツンツン頭の大柄な男性――武藤(むとう) 剛気(ごうき)が決闘を宣言してからと言うものの、話は平行線を辿ってる。

「だから、俺が決闘をする意味が分からん」

「んなもん、星伽さんを泣かせたからに決まってるだろ! 1日に2度も泣かせやがって」

「そこで白雪が出てくる意味も分かんねえって言ってるだろ!」

 さっきからこの会話は似たような事しか言ってない。

 あの武藤って人は、確か……車輌科(ロジ)ではそこそこ有名な人だったはず。

「不知火は武藤って人について何か知ってる?」

「う~ん、そうだね。重度の乗り物オタクって所は聞いた事があるよ。それと、ランクはAで……白野さんと同じで割と期待されてるみたいだよ」

 私を例に出す辺り、この人もなかなかに喰えない人だね。

 それはそうと、面白い展開にはなったけど進展しなくちゃつまらないし――

「はいはい、お二人さん。そこまでにしようね~」

 パンパンと手を叩いて、注目を集める。

「もうすぐ昼休みも終わりなんだから、いい加減に話を終わらせないとキリがないよ」

「だけどな、霧。コイツが意味分からん因縁吹っ掛けるんだからどうしようもないだろ……」

「お前なッ!!」

「武藤って人も落ち着いてね~」

 全く、二人して教室で注目を集めちゃって。

 さっきのキンジと武藤のやり取りを見て……まあ、原因は分かった。

 武藤は星伽の巫女を意識してる――惚れてるって言い方もできるのかな?

 まあ、もう少し観察してればすぐにはっきりと分かるだろうけど。

 何にしても、武藤って人も報われないね~。

 星伽さんが見てるのはキンジであって君じゃないって言うのに。

「ここは武偵なんだから、やりようはいくらでもあるでしょ? 気に入らなければ実力で決着をつければいい……ルールに(のっと)った上でね」

「だからやる意味が分からん」

「キンジ、取りあえずぶっ飛ばして黙らせるのと、いつまでも無駄に言い争ってるのとどっちが良い?」

 言いながら、キンジにマバタキ信号(ウインキング)で――

『多分、何を言っても引き下がらないよ』

 と送っておく。

 その瞬間にキンジは疲れたような顔をしながら、

「……分かったよ。決闘を受ける」

 承諾した。

 周りからも「おお」と言った感じにどよめきが生まれる。

「まあ、問題はどんなルールにするか? だけどね」

「はいはーい! りっこりんに提案がありまーす!」

 と、元気よく手を上げてピョンピョン跳ねてる。

 まあ、ここはノリに合わせておこう。

「はい、りこりん! どうぞ」

「ランバージャック!」

「はい、決定~」

 その瞬間にキンジは嫌な顔をする。

 そして、そんなキンジとは逆に盛り上がる教室。

「イエーイ!」

『イエーイ!!』

 理子が合いの手を入れるとさらに盛り上がった。

 理子も大分ここら辺に馴染んでるね~。

「ランバージャックか、面白いじゃねえか。遠山、まさか降りるなんて言わねえよな?」

「俺も男だ。勝負を受けた以上、降りるとは言わん。大体、意味分からん因縁吹っ掛けられたこっちとしてはいい迷惑だ」

「ハッ! Sランク武偵だからって、余裕かましてると痛い目を見るぜ」

 表情だけで分かるけど、キンジも割とイラついてるね。

 まあ、どっちにしてもどうなることやら。

「あれ? どうなってるの?」

 ちょうど帰って来た星伽の巫女はポカンと表情を浮かべてる。

 どうなってるも何も、原因はアナタなんだけどね。

 

 

 そして、放課後――

 決闘は教師陣からは非推奨行為とされてはいるが、禁止ではない。

 まあ、やるなら適当に見えない所でやってくださいね――と言う事な訳なんだよね。

 武偵の教師は大体は放任主義が多い。

 1年の今は、それなりに最低限のフォローはしてくれるみたいだけど。

 それでも、最低限って言う辺りは武偵らしいと言うか何と言うか。

 今まではこんなに長い事、武偵に成り済ます事なんて無かったからねえ……ある意味、新発見と言えば新発見だけど。

 私には関係の無い事だね。

 敵情視察ぐらいにしか思ってないし。

「さてさてやって参りました! ランバージャックの時間でーす! 司会は私、峰 理子がお送りいたしまーす」

『イエーイ!!』

「今回は遠山選手と武藤選手による徒手格闘戦です! 時間無制限で、武偵柔術ルール。目突き(サミング)噛みつき(バイティング)無しで、道具の使用も一切無し」

 生徒が円状に配置されたリングの中で理子がご丁寧に進行役となって、ルールを説明する。

 あまり目立たない一般校舎の裏だからって、騒ぎ過ぎな気もするけどね。

 ま、気づいていても教師たちは見て見ぬフリをする可能性が高いけど。

「ちなみに、『幇助者(カメラート)』はアリだけどどうする?」

「あ~……霧? 頼めるか?」

 まあ、そうだよね。

 と言う事でキンジに呼ばれて私もリングの中に入る。

「ちなみに手出しすることになったら……まあ、(あばら)の1本か2本は覚悟した方が良いよ」

 左のホルスタ―に入ってるM500をチラリと見せる。

 見せられた相手は当然に冷や汗を流してる。

「さすがにそれはやり過ぎだ。最悪、死ぬぞ」

「はいはいっと……冗談だよ」

 金一のような武偵を目指してるキンジだから止めてくると思ったよ。

 仕方ないので、GLOCK18C(グロック)の方を手に持つ。

「ハッ! 上等だ。オレの幇助者(カメラート)は――」

「俺だ!」「いや、俺がやる!」「いいや、遠山をぶん殴るのは俺だ!」

 武藤の幇助者(カメラート)は候補が多いね。

 と言うか、どうも周りの雰囲気を見るにキンジは完全にアウェーって感じ。

「なんか、いきなり俺に殺気が来てるんだが……気のせいか?」

「気のせいじゃないと思うよ?」

 だって、さっきからキンジに対して嫉妬(しっと)の眼差しが見えるし。

 アレかな? 白雪みたいな美人が幼馴染みでなおかつキンジに対して恋愛感情があると分かってるから、妬んでるんだろうね~。

「ふーん……何と言うか。見苦しいね」

『ぐほッ!!』

 私が笑顔で聞こえるようにそう言うと武藤を含めたほとんどの男子が胸を抑える。

 私の言う事の意味が分かってるんだろうね。

「へっ、精神攻撃か。随分と姑息な手を使いやがる」

「なんだこの茶番は……」

 武藤の反応にキンジは若干、呆れた反応を返してる。

 キンジは……まあ、私が見苦しいって言った意味を理解してないだろうね。

「取りあえずさっさと決めちゃいなよ。教師陣が横槍を入れて来るかもしれないんだからね」

 黙認されてるとは言え、発見すれば注意はしてくるだろうし。

「んな事は分かってるさ! 三上! 頼んだぜ」

「おう」

 と、武藤に呼ばれて出て来たのは糸目の男性。

 あの人は同じ強襲科(アサルト)だったはず。

 それはともかくとして――

「キンジ、HSSは使う? 使わない?」

 近づいて耳元で話す。

 もちろん、読唇術で読まれないよう相手の視界に口を映さないようにする。

 念のためにね。

「使う訳無いだろ、こんな大衆の面前で。おまけにこんな事でいちいち本気にしてどうする?」

「聞いてみただけだよ……それに幇助者(カメラート)なんて言っても、出番はなさそうだけどね」

「……どう言う事だ?」

「始まってみれば分かるよ。それに、決闘なんて言ったけどただの"喧嘩"でしょ?」

 私の一言に、キンジは少し微笑む。

「ああ、そうだな。ま、いざとなったら頼むよ」

 私を信用してる。

 言外にそう言ってるような感じでリングの中央へと、歩いて行った。

 ま、リングと言っても……ルール上で人数は1桁までと決まってるんだけどね。

 リングより外にいるのが観客。

 そのリングの直径は大体10メートルってところかな?

 今回は格闘戦オンリーだから、そこまで大きく動きまわる訳じゃない。

 なにより周りに障害物(オブジェクト)がある訳でもないからね。

 どう考えても、泥仕合になる予感しかしない。

 あ~、でもどうだろうな~。

 キンジは私と組み手をやってるから……HSS抜きでもそれなりにやれるし。

 案外、あっさりと終わっちゃうかもね。

 あの武藤って人についてもうちょっと知ってたらハッキリとした答えが出せるんだけどな~。

 と、考えてる間にも二人はリングの中央に立っている。

 そして、進行役の理子がレフェリーみたいに右手を上げ――

 

「……始めっ!」

 

 振り下ろした。

 最初に駆けだしたのは、キンジ。

 対して武藤は動かずにどっしりと構えてる。

 迎え撃つつもりなんだろうね。

 体格が大きいから、組み手に持ち込むつもりかな?

 と、思ってるとキンジもその事に気付いたみたい。

 右のストレートを放つフェイントをして、そのまま回し蹴りへと変えた。

 左足を軸に回ってそのまま武藤の右脇腹へと決まる。

「ぐッ!」

 苦痛に顔を歪めるけど、素早くキンジの右足を掴む。

 なかなかにタフだね~。

「なっ……!?」

「うおりゃああああああ!!」

 キンジもすぐに切り替えて、反撃しようとしたけど武藤に掛け声とともに大きく体を振り回された。

 そしてそのまま、背中から地面へ叩きつけられる。

「おお……」「アレは痛そうだ」「いいぞ!」

 と、周りは盛り上がりを見せる。

 受け身は……何とか取れてるね。

 後頭部を打ってたら、もっと隙が出来てるよ。

「へっ! もういっちょ行くぜ!!」

「そう何度もやられて、(たま)るか!」

 もう一度同じ事をするつもりらしいけど、その前にキンジが反撃した。

 体を捻って、武藤の顎を蹴り上げる。

「ぐあっ!」

 もっとも、体の一部を掴まれてる無茶な体勢からだからそんなに威力は無いけど。

 まあ、充分に(ひる)むよね。

 その間にキンジは抜け出して距離をとる。

「おいおい、Sランク武偵って言うのはそんなもんか?」

「たった一撃、喰らわせたからって調子に乗るなよ。まだ、始まったばかりだろうが」

 武藤の挑発に、少し熱く返すキンジ。

 なんだかんだでノッてきてるね。

 まあ、それ以上に腹が立ってるだろうけど。

 それからお互いに殴り、殴られ、キンジは相手に掴まれないように、武藤はキンジに肉薄して積極的に掴みかかる。

 やっぱりこうなったか……

 これじゃあ、撃てない。

 お互いに近過ぎる。

 下手に撃ったら味方に当たるとかそんな状況。

 それに周りの雰囲気を見るに、どう考えても幇助者(カメラート)の出る幕は無い。

 手助けしたら水を差すってことになる。

 それは相手の幇助者(カメラート)も同じ事を感じてるのか、視線が合い「やれやれ」と言った感じに首を振る。

 全く……面倒だ。

 

 

「ハァ……ハァ、ちくしょう。タフな奴だな、武藤」

「――ハッ……ハッ。お前もしつこいんだよ、遠山」

 試合が始まって10分近く。

 さりげなくいた不知火と、審判と進行役からジョブチェンジしてた理子、つまりはリングの生徒に押し戻されたりしながらも二人は戦った。

 お互いに疲弊しまくってる。

 そのおかげで戦闘は膠着(こうちゃく)状態。

 最初は盛り上がりを見せてた観客たちも段々飽きてきたのか……今じゃすっかり盛り下がってる。

 中には帰ってる人もちらほら。

 私も、この状況には飽きてきた。

 殴り合ってた二人も、戦う理由を忘れてるんじゃないかな?

 まあ、どっちにしたって既にこれ以上戦えないだろうし……意味も無い。

 だから――

 

 パァン!

 

 発砲音が"二重"に響く。

 そして、キンジと武藤は同時に倒れる。

 誰もがその光景に、驚きの声を上げる。

 発砲した私と武藤の幇助者(カメラート)はお互いに、倒れた二人のリングの中央へと行く。

「お、お前ら……な」

「こんな、状態で……撃ってくるなよ……」

 悶絶してる二人。

 武藤とキンジの順番で文句を言ってくるけど、知った事じゃあないよ。

「長いのが悪いんだと思うけどね。短期決戦かと思ったら、予想通りに泥仕合だったし。それに、幇助者(カメラート)の本分はちゃんと果たしたでしょ?」

「だからって……おま、え……普通、幇助者(カメラート)が"味方"を撃つ……かよ」

 確かに私は背中からキンジを撃った。

 だけど、それは相手も同じこと。

「三上……」

「いや、ここらでお開きだと俺も思ったからな。白野が構えた時点で合わせただけだ」

 細い糸目をさらに細めながら、武藤が何かを言いかける前に三上は弁明する。

 いくら疲弊してると言っても、銃口が見えた時点で避けられる可能性はあった。

 だからお互いに対戦相手ではなく、組んでる味方の背後を狙った。

 それだけの話。

「ま、お互いにもう言いたい事も言ったし……充分に殴り合ったでしょ? それとも死ぬまでやりたかった?」

 私がそう尋ねると、二人は何とか体を起こし、座った状態で顔を見合わせる。

「遠山と心中なんてゴメンだ」

「俺も、意味の分からん因縁の所為で死にたくはない」

 と、お互いに拒否した。

「ま、取りあえず――」

 私は握ってたグロックを上空に向けてパァンと一発放ち、注目を集め、

「決闘は終了。結果は引き分け。以上、解散」

 終了を宣言した。

 

 

 翌日――

 当然だけど、キンジは全身……と言うほどではないけど打ち身や打撲傷だらけ。

 だけど、そこは武偵。

 二重の意味で"うたれ"慣れてるからか、それほど痛がってる様子は無い。

「だ、大丈夫キンちゃん? あんまり無理しない方が――」

「白雪、これぐらい武偵じゃ当たり前だって言ってるだろ?」

 私の隣にはキンジ、そしてキンジを挟んで向こう側に星伽さんの順番で並んで教室に向かってる。

 キンジが寮を出てからずっとコレだよ。

 心配性……いや、違うか。

 さらに観察してる内に星伽の巫女について段々と分かって来た事がある。

 それは――恐れ。

 そう、彼女はキンジを失う事を極端に恐れてる。

 キンジと彼女は幼馴染み……そして、彼女にとってキンジは昔馴染みとは別に特別な存在。

 …………ああ、バラし甲斐がアルヨネ。

「あ、あの、どうしたの? 霧さん」

「ん~? 世話焼き女房だな~と思って」

「そ、そんな……世話焼き女房だなんて……キンちゃん、ダメだよ。まだ、1日は始まったばかりなのに――」

 ちょっと勘付かれ掛けたかな?

 上手い事、話は逸らせたけど。

 星伽の巫女の能力は侮れないからね~。

 危ない危ない。

「おい、霧が余計な事言うから白雪が変な世界に旅立ったぞ」

「でも、しつこく聞かれる事も無くなったでしょ?」

「……お前、たまに酷くないか?」

「あしらい方が上手いって言って欲しいな」

 と、キンジと言い合ってる間に教室へと辿り着く。

 そして、扉を開けると、

「いよ~キンジ!」

 武藤がいち早くこちらに気づいて挨拶をする。

「昨日の今日でなんか軽くないか?」

「気にするなよ!」

 キンジは半目で睨んでるけど、武藤は気にせずに「はっはっは!」と豪快に笑う。

 決闘終了後、お互いに冷静になった所で話してる内に誤解は解けたらしい。

 ま、誤解も何も星伽さんはそもそも泣いてた訳じゃ無かったから本人がその事について話したらすぐに終わったけど。

 ちなみにその時のキンジはかなり疲れた顔をしてた。

 それは置いておいて、私はキンジに話しかける。

「ま、取りあえず昨日の反省点としては」

「何だよ……」

「白雪さんに、無理に名前で呼ばせようとしたらダメだって事だね」

「――同感だ」

 




ちなみに武藤の幇助者(カメラート)を不知火にしようかなと思いましたが……かの有名な勘違い武偵さんと被るので却下しました。
あと、確か原作でリング役に理子と不知火が入っていましたのでそのようにしました。

ちなみに三上さんですが原作にちょこっと出てますよ。

具体的に言えば最初の巻でキンジが強襲科(アサルト)に戻って来たところで。

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