緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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ようやくです。
ええ、ある種の長いプロローグが終わったような感じです。
ちゃんとシリアスになってるか、不安な所はありますがね。(二度目)

知ってる人は知ってるかも知れませんが、一度投稿したんですが、修正のために一旦削除させていただきました。

ええ、せっかく読んでいただいた方には申し訳ありません。

変化している部分を読んで、違いを楽しんでいただければ嬉しく思います。

いや、見比べる事は出来ないんですけどね。


23:ポイント・オブ・ノーリターン

「もう充分でしょう?」

 私はお父さんの部屋に入って、そう切り出した。

 対してお父さんは相変わらずパイプを口に(くわ)えてる。

 喫煙してもお父さんが推理してた寿命が変わらないって言うのは、どう言う事なんだか……

 まあ、大方イロカネが関係してるんだろうけどね。

「そうだね。金一君の信条は、かなり揺らいでるだろう。そして、今日……彼にはもう一つ決断して貰わなければならない」

 今日――12月24日。

 今の今まで、お父さんの言う通り私は忙しかった。

 8月の終わりらへんで、私は金一を敗北させた。

 信条が揺らぐように。

 それが終わってからと言うものの……手を貸してくれだの、なんだの忙しかったんだよね。

 おまけにジーサードには見つかって、逃げるのにも一苦労だよ。

 つまるところ、お父さんの推理通りだった訳だけど。

 そして昨日、イ・ウーへと戻ってきたばかり。

「理子も頑張ってるみたいだね」

「彼女なら、今頃舞台を整えている最中だろう」

「それで? どこに向かえばいいの?」

「浦賀沖を航行するクルージング船がある。そこに、金一君はいる」

「船の名前は?」

「――アンベリール号だよ」

 

 

 さて、魚雷型の潜航艇『オルクス』で、私は目的の場所に着いた。

 と言ってもまだオルクスの中で、船と並行して移動してる最中だけど。

 さて、集合場所の甲板に行かないと。

『どうも、りこりんです。お姉ちゃん、着いた?』

 インカムから理子の声が聞こえる。

「んー? 今、海面の下で離れて航行してる。誰か甲板にいたりする?」

『いいや、誰もいないよ。大体、こんな寒空の下に来る物好きなんていないって』

 そう言えば、冬だったね。

「そっか……じゃあ今から行くよ」

 浮上して、ハッチを開ける。

 そして、波に揺られながらも甲板に向かってフックショットを放つ。

 引っ掛かった事を確認しつつ、強力なモーターによってワイヤーが巻き上げられて、私の体は上へと浮いて行く。

 甲板の高さへすぐに辿り着くけど、回転数が速いためにそのまま通り過ぎて、少しだけ空中に浮き、クルリと回転しながら甲板に着地。

「10点!」

 ノリのいい理子は、体操選手の評価をするように叫ぶ。

「どうもどうも、ってね。首尾はどうなの?」

「抜かりはありませんぜ、姐御(あねご)

 自信満々に、変装している理子は言う。

 取りあえず姐御だとか呼称は置いておこう。

「それにしても、お姉ちゃん……着飾ってるね」

「まあ、パーティーだからね。豪華客船に乗るんだったら、こう言うのが自然だし」

 私が着ているのは黒色の、落ち着いた感じのパーティードレス。

 肘より先が露出している以外は、そんなに肌は出ていない。

 風に吹かれてカーテンのように揺れるフリルの着いたスカートは、(ひざ)下まである。

「顔も声もキーちゃんだけど、大丈夫なの?」

 そう、理子の言う通り今の私は白野 霧。

 あと、変わった点として髪が長くなってショートからセミロングになった。

 ちょっとした気まぐれで印象を変えたんだけどね。

「サプライズは大事だからね」

「……悪い顔してるよ」

「そうかな? 私としては笑顔のつもりなんだけど」

 まあ、何にしても今日で武偵である遠山 金一は死ぬんだけどね。

「それじゃあ理子。あとは予定通りによろしくねー」

 私は船の中へと歩いて行く。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 俺は、果たして……このままでいいのだろうか?

 あの惨劇から4ヶ月ほど経つ。

 俺が気絶した後、研究所は全て破壊された。

 その結果だけをイ・ウー内で言って、ジャックは去って行った。

 他の研究員はどうなったのか、果たして無事なのか? と、アイツに色々と言ってやりたい事もあった(はず)なのに、俺は見送る事しか出来なかった。

 そう……奴の罠に掛かったとは言え、間接的にだが――殺してしまった。

 そして自分の信条を破ってまで、奴を殺そうとした。

 自覚した時に、俺は……(さいな)まれた。

 自分が堅く誓っていた事が、父親と同じようにあろうとした事が……簡単に脆く崩れ去って行ったような気がした。

 何より(てのひら)で踊らされていたのだと感じる度に、苛立ちを覚える。

 俺が未熟なのは当たり前だが……ここまで"未熟過ぎる"とは、思いたくなかった。

「――……ッ!」

 アイツの言葉が、離れない。

『見殺しにすればいいんですよ。自分の手を汚したくはないのでしょう?』

 もし、俺がアイツを殺せば……俺が手を汚せば、防げたんじゃないのか?

 相手は殺人鬼、例え法廷に出したとしても極刑は(まぬが)れない。

 そもそも切り裂きジャックに対しては、武偵や警察と言った行政機関には殺人許可が降りている。

 武偵法9条は適用されない。

 これから先もアイツは……誰かを喰らうようにして生きていくだろう。

「と…やま……いッ!」

 ――多くの人を救うためには、犠牲を強いるしかないのか?

「遠山、おい! 聞いてるのかッ?!」

「……ッ」

 同僚の声が聞こえる。

 どうやら、考え過ぎていたらしい。

「全く、最近呆然としてるが大丈夫か?」

「あ、ああ……すまない。考え事をしていた」

「へえ。普段は真面目で堅いけど甘い、お前さんがな……」

「色々と余計だ」

 軽口を叩きながらも、俺はその場を離れる。

「おい、どこに行くんだよ?」

「シフトだろう? 休憩させて貰うさ」

「なんだ、聞こえてたのかよ」

 同僚の言葉を背に、俺はパーティーを楽しんでいる人たちに目を向ける。

 輝くシャンデリアの下で、今の俺とは違って彼らは笑顔でいる。

 鏡を見なくても分かる。

 自分でも、酷い顔をしてるに違いない。

(……ん?)

 今、見知った顔を見たような気がする。

 が……すぐに、分からなくなった。

 何故か気になって、俺は邪魔にならないように人混みの中に入って行く。

 しばらく首を回しながら、探すが、やはり分からない。

「金一さん?」

 突然に後ろから声を掛けられた。

 この声は――

 そう思って振り返る。

「……霧、なのか?」

 セミロングでストレートの髪の少女が立っていた。

「やっぱり金一さんだ」

 笑顔を見せる彼女は、間違いなく霧だった。

「まさか、こんな所で会うとはな……」

「まあ、私のセリフでもあるけれどね。仕事?」

「見ての通りだ。豪華客船のパーティーに、こんな服を着てくる訳ないだろう」

 自分の服装を示すように、他の人にぶつからないよう手を少し広げる。

 防弾の黒いロングコートに編上げのブーツ。

 仕事服ながらもパーティの雰囲気は最低限、壊さないと言った服装だ。

「そう言う白野は、どうしてここに?」

「お仕事の一環かな?」

「お互いに仕事か……」

「私の場合は仕事よりもパーティー優先だよ」

 確かに彼女は黒色のパーティードレスを着ている。

 心なしか、髪型と相俟(あいま)って大人びて見える。

「似合ってるよ、キレイだ」

「なに? 口説いてるの?」

「社交辞令だよ。休憩中とは言え、口説くなんて事をしてたら上司に怒られる」

「キンジみたいに慌てたりはしないか……」

「アイツは初心(うぶ)過ぎるだけだ」

 俺がそう言うと、彼女はクスリと笑う。

 そう言えば……夏休みに会った時、言いそびれていた事があった。

「少し、話があるんだが……いいか?」

「別にいいけど……個人的な話なら外に出ようか?」

「いいのか? 寒いぞ」

「大丈夫だよ。上着はちゃんとあるから」

 なら、安心だ。

 それにしても気が利くな。

 少し申し訳なくも思うが。

 

 

 コートを羽織った白野と共に、船の先の甲板へと向かう。

 寒い冬の風が、頬を撫でる。

 こんな寒い空の下に来る人はあまりいないだろう。

 海を見ながら、甲板に設けられた柵に腕を乗せる。

「お話って? HSSについてじゃないのは、分かるけど」

「ああ、あの時は本当は言いたい事があったんだ。話が変わって、俺達の体質についてになってしまったがな」

 ……そう。

 彼女に対して俺は謝罪していない。

 あのジャックではないかと、疑ってしまった。

「君に一つ謝っておきたい事がある」

「ん……?」 

「俺は、以前に君の事をとある犯罪者が化けてるのではないかと疑ってしまった。すまない」

「とある犯罪者、ね。どんな犯罪者なの?」

 どんな犯罪者……か。

 切り裂きジャックだと思っていた、なんて言えない。

 いくらなんでも失礼過ぎる。

「そうだな……その犯罪者は、他人に化けるのが得意なヤツだ。本当はどんな顔で、どんな人物なのかも分からない」

「それって存在してるの?」

「普通なら、そう思うだろうな。だけど、確実に存在している」

 そう、存在している。

 ……あんな巨悪を、俺は見過ごしている。

 こんな事、父親に聞かれたらなんて言われるだろうな。

 あの人は、『静かなる鬼(オルゴ)』と言われたほどで、家庭でも例外じゃなかった。

 きっと怒鳴り散らされるだろう。

「そっか。まあ、何にしても謝る必要なんてないよ」

「そう言ってくれると助かるが、俺としてもケジメを着けておきたかったんだ」

「お堅いね」

 彼女はにこやかにそう言う。

「よく言われる」

 俺も、自然に微笑んで返していた。

 すると、突然に俺の携帯がバイブを鳴らし始める。

 ポケットから取り出して表示を見れば、『非通知』の三文字。

 間違い電話か?

 通話ボタンを押して出る。

「もしもし?」

『ご機嫌いかがですか?』

 その声に悪寒が走った。

 聞き間違える筈も無い……この声は、夏の終わりに研究所で聞いた時の声ッ!!

『女性と二人、甲板で仲良くとは……存外、ロマンチストだったりするのですかね?』

 コイツ……!?

 隣にいる白野に気づかれないように、辺りを見回す。

 どこにも人影は見えない……

 取りあえず、努めて冷静に返す。

「何か用か?」

『いえね、そろそろアナタには一つ決断して貰わなければいけないんですよ』

「何をだ?」

『イ・ウーの一員であるのか、はたまた武偵であるのか』

 ――クソが……

 そう言う事か。

 確かに今の俺の立ち位置は中途半端だ。

 武偵でありながら、犯罪組織の一員となっている。

 いい加減にどちら側の人間なのかをハッキリさせろと言う事か……

 教授(プロフェシオン)――いや、シャーロック。

 ここにきて、選択肢を突き付けて来たか。

「俺に、どうしろと言うんだ?」

 

『隣にいる人を殺しなさい』 

 

 ――……なに?

『隣にいる女性を殺せれば、イ・ウーの一員として改めて認めましょう』

 幻聴じゃない、聞き間違いでもない。

 隣にいる白野を――弟のパートナーを殺せって言うのか?!

(どこまでも平然と、コイツは……!!)

 携帯が壊れるくらいに力が入る。

 だが、そんな俺の心境など構うこと無くヤツは話を続ける。

『まあ、出来ないのなら……船もろとも沈んで貰うしかないですね』

「……今度は何をした?」

『いえ、クリスマス・イブですからね。前祝いとしてクラッカー代わりに派手に爆破しようと思いまして』

「何を言ってるのか、分かってるのか……?」

『分かっていますよ? 乗客、約1000人がキリストの所へ旅立つかもしれませんね』

 もう、何を言ってるのか分からない……コイツは何を言ってるんだ?

 なぜ、コイツは――

『温いんですよ。アナタは……』

「………………」

『アナタの信条は立派であるとは言っておきましょう。そして、それを実現できていたのもまた素晴らしいことです。ですが人である以上、犠牲も無しに誰かを救う事など出来ない』

「………………」

『それにアナタはイ・ウーについて知り過ぎた。我々と来る気が無いのなら、武偵として死んで貰うだけです』

 その言葉を最後に、ヤツとの通信は切れた。

 力無く、携帯を下ろす。

 全てが幻聴だと思いたい。

 だが、違う。

 俺はまた、選ばなければいけない……

「金一さん? どうかしたの?」

 心配するように、俺に声を掛けてくれる彼女。

 白野を殺さなければ……俺だけじゃない、同僚も、関係のない乗客たちも、死ぬ。

 だが白野は、アイツが――(キンジ)がやっと見つけたパートナーなんだ。

 それを兄である俺が奪えと、アイツ(ジャック)は言う。

 もう俺には、何が最善かも分からない。

 

 ――救えない。

 

 犠牲も無しに誰かを救う事なんて、俺にはもう……出来ない。

「くっ……ふふふふふ! あはははははははははッ!」

 白野が突然に、狂ったように笑いだす。

 こんな時に、一体何だと言うんだ……

 そうぼんやりと思いながらも、彼女は無邪気に、腹を抱えて笑い、柵を叩きながらも笑う。

「ひーッ……あー、お腹痛い……。いやー、傑作だね。今までに無い表情だったよ」

 途端に白野の雰囲気が変わっている……

 何だ、今度は何だって言うんだ。

 まるで理解が追いつかない。

「あー、理子。もう出て来てもいいよ」

 理子だと……?

 そう思っている内に、甲板に一人の人影が現れる。

「ゴメンねカナちゃん――じゃなくて、今は金一か」

 そう言ってここの乗組員の格好をした理子が現れる。

 何だ? 何が起こってるんだ?!

 いや、待て。

 白野が理子を知っている事について疑問はない。

 そもそも理子は、何が目的かは分からないが武偵高に通っていた。

 そして、白野も同じ東京武偵高に通っている。

 ならば二人が知り合いだったとしても何の不思議も無い。

 だが、なぜこの状況で理子を呼んだ?

 何かがおかしい。

 これではまるで――

「おい……どう言う事だ!?」

「まあ、不思議に思うだろうね。と言うより、理解が追いついてないって感じかな?」

 そう言いながら彼女は、俺から離れて行き、理子の隣へと立つ。

「つまりはこう言う事だよ」

 そう言って白野がコートを脱ぎ捨てる。

 そうして現れたのは……黒いシルクハットにタキシード、黒い外套(がいとう)を羽織った彼女。

 その姿は忘れるはずも無い。

 シルクハットと外套はなかったが、夏の終わりに研究所で見た姿とほぼ同じ。

 ――何の冗談だ。

 なんで、白野が……

 

 ジャックと同じ恰好(かっこう)をしてるんだ?!

 

 そんな俺の疑問に答えるかのように、

「どうも白野 霧……改め、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)です。よろしく」 

 シルクハットを取り、紳士的なお辞儀をしながら自己紹介をする。

 俺は、彼女の言葉に絶句するしかない。

 ……嘘だ。

 そんな事が、あって良いはずがない。

 あっては……ならないッ。

「だから、言ったでしょう? 謝る必要なんかないって、だって疑ってた事は"正しかった"んだから」

「き、さま……!!」

 にこやかに(わら)ヤツ(ジャック)に、俺は我を忘れそうになる。

 それと同時に一つの考えたくない事が、頭の隅に思い浮かぶ。

 ジャックが白野だったとして、"本当の白野"はどこにいるのか……

 同じ人間が二人もいれば矛盾が生まれる。

 だとすれば、

「お前、本当の白野はどこにやった?!」

「本当の白野? 私だけど?」

「そんな冗談を聞いてるんじゃないッ!!」

「ああ、なるほど」

 白野の顔をしたジャックはそう言って、何かを納得したような表情をする。

「私が本当の白野を殺したと……そう思ってるんだね?」

「それ以外に何があるって言うんだッ!」

「そうだねー、分かるように言ってあげると……白野 霧って言う人はね、そもそも"存在しない"んだよね」

 存在しない……だと?

「白野 霧とジャックはイコールだよ。つまり、こう言える。私は本物の白野 霧であって偽物なんかじゃない」 

 そんな、バカな事があってたまるか……  

「まあ、お父さんを甘く見過ぎなんだよね。世界一の探偵なんだから、書類偽装一つとっても、見破るなんて不可能に近い事だよ」

 ニコニコと白野の顔で、言ってくる。

「確か、日本語の(ことわざ)で後悔先に立たずだっけ? まさしくそうだよね。最初に銃を見せた時に警戒してたのに、しばらくしてすぐに解いちゃうんだもん。せめて自分の勘は信じるべきだったね」

 全て、嘘だった……

 最初から、初めて会った時から、踊らされていた。

 俺の実家で初めて会い、キンジにとっていいパートナーだと……そう思っていた。

 今まで悲惨な事件があっても、俺は現実だと受け入れて来た。

 だが、今回ばかりは受け入れられる訳が無い。

 誰か、夢だと言ってくれ……

「さてと、早いとこ決断して貰わないとね。まあ、どっちにしろ表舞台から消えて貰うしかないんだけど。それに消した後は、キンジに会いに行かなくちゃいけないんだから」

 キンジ……

 そうだ、コイツは俺だけじゃない。

 同じ学校の生徒も、何よりも俺の弟を騙している。

 そう考えると何もかもが腹立たしく思える。

 こいつの存在が、憎いッ!

「私を撃つ?」

 白野の言葉に初めて気づく。

 無意識で俺は、コルトSAA(ピースメーカー)の銃口を白野――いや、ジャックに向けていた。

「それもいいけどね。切り裂きジャックは死ぬけど、同時にキンジのパートナーも死ぬ事になるよ? それでもいいのかな?」

 ――ッ!!

 そうだ。

 キンジにとっては、まだコイツは信頼のおけるパートナーだ。

 それを俺は撃っていいのか?

 だが、ここで討たなければ……これからもコイツは人を騙し、殺して行く。

 そんな事を義に生きる遠山の一族として見逃していいのか……?

「迷ってるねー。じゃあ、もっと分かりやすい選択肢を出してあげるよ」

 そう言ってヤツは、静かに俺に近づいてくる。

 引き金(トリガー)に乗せた指が、震える。

 どう言うつもりか、ヤツはまるで避ける雰囲気が無い。

 今撃てば、当たる。

 だが――、

(撃てない……!)

 迷ってる内に、もう俺の手が届く所まで近づいてきた。

 どうする……HSSでもない俺が、コイツを取り押さえるのは至難の(わざ)だ。

 そんな素振りを見せれば、確実に船を爆破するだろう。

 犠牲者が、出てしまう。

 助けを呼ぶ? そんな事をコイツが許す訳が無い。

 ゆっくりとヤツは、俺のピースメーカーの握る手を持ち、その銃口を――自身の心臓がある場所へと誘導した。 

「犠牲を(いと)わず、信条を自分の手で捨て、キンジのパートナーと1人の犯罪者の人生を終わらせるかどうか……その選択肢を上げるよ」

「「……ッ!?」」

 その言葉に俺だけじゃない、理子も驚いている。

「おね――ジル、そんなのあたしは聞いてないぞ!」

 協力していた理子が焦ったような男口調で、そう言う。

「そりゃあ言ってないからね。聞いてないからって、邪魔はしないでよ? 今、良い所なんだから」

 そう言ってヤツは俺に向き直った。

 銃を握る手に思わず力が入る。

 理子は、何も言わない。

 俺も、何も言えない。

 決断が出来ない。

 ここでコイツを殺せば、終わる。

 ジャックに殺されるかもしれない、未来の犠牲者は救われる。

 その代わりに、今いる船の皆が死ぬ。

 こいつの言う通り、犠牲を(いと)わず、信条を自分の手で捨てれば……ジャックと言う巨悪を、討つ事が出来る。

 だが、仮にそうした所で、

(俺に何が残る……?)

 今までやってきた事を俺自身で否定する事になる。

 そもそも、そうして帰ってキンジにどう説明すればいい?

 白野がジャックだから殺した。

 そう言ってキンジが信じるのか?

 信じられる訳が無い。

 そこまで考えた所で、俺は何も考えられなくなった。

 

 ……何も分からない。

 

 何を選べばいいのかも分からない。

「う、クソ……」

 悪態を()きながら、俺は一歩、二歩と下がる。

 そんな俺を見て、ニヤリと笑う犯罪者(ジャック)

 クソ、が……

 そこまで分かっていて、コイツは。

 ………………。

 討てない。

 ガシャンと音を立てて銃を落とし、膝を突く。

 俺には結局、どうする事も出来ない。

 何が……特命武偵だ。

 笑わせる。

 たった一人の悪意に、勝てない。

「ぐッ……クソッたれが――!!」

 思わず、涙が出る。

 悔しくて、どうする事も出来ない自分に――

 

「それじゃあ、新しい選択肢だね」

 

 愉しそうな声が、聞こえる。

 

 ◆       ◆       ◆

 

「今回の事件について、どう思いますか!?」

「お兄さんと同じく武偵であるそうですが、今回の件についてどう感じていますか!?」

 いくつものフラッシュが、俺の目を刺激する。

 今の俺には何も聞こえない。

 だけど、俺の頭の中を一つ言葉が支配している。

 

 ――兄さんが、死んだ。

 

 昨日の浦賀沖を航行していたクルージング船・アンベリール号が海難事故を起こした。

 事故の原因は、人為的な爆発らしい。

 テロかもしれないし、ただエンジンが爆発しただけかもしれない。 

 詳しい事は何も分かってはいない。

 幸いにも、乗客は全員……救命ボートに乗って脱出したらしい。

 だが、俺の兄さんだけは乗り遅れたのか、アンベリール号とともに沈没した。

 何時間にもわたる捜索をしたが、夜間と言う事もあり何も発見できなかった。

 俺は訴えた……もう少しだけ探してくれと。

 だが、返ってきたのは「これ以上の捜索は無意味」と言う、冷たい言葉だった。

 あの兄さんが……どんな難事件も解決してきた兄さんが、死んだ。

 その事実を信じられないでいる。

 あの人はヒーローだった。

 例えるなら戦隊モノのヒーローそのものだ。

 ピンチには颯爽と駆けつけて、仲間を見捨てず、弱き者を助ける。

 そんな子供が見るテレビ番組のようなそれを実行してきた人だ。

 兄さんが働いてる武偵庁には、数えるほどしか行った事がなかったが……俺が兄さんの弟だと言うと、職場の同僚に感謝される事もあった。

 信頼も厚く、誇らしかった。

 なのにだ――

『よいですか? 彼は特命武偵と言う地位にありながら、事故を未然に防げなかったのですよ? これは如何ともしがたい事実です』

『つまり、武偵としての腕が怪しいと言う訳ですか?』

辛辣(しんらつ)な事言わせて貰いますが、そうです。でなければ、クルージング・イベント会社も豪華客船や多大な損失するという事も無かったはず』

 何で非難されるんだ……

 多大な損失? 物的被害だけだろうが!!

 人的被害は誰一人として出ていない! なのに何で兄さんが非難されなくちゃならない!?

 うるさいマスコミから抜け出すように逃げて来た矢先にコレだ。

 ビルに設置されている巨大な屋外テレビに、多くの人が行きかうイルミネーションが施された夜の街に、先日の事件が放送されている。

(――クソ、何でなんだよ……)

 どいつもこいつも、兄さんの事を無能だと言う。

(全員助かったのは、誰のおかげだと思ってるんだッ!!)

 救助に向かった警察の話によると、兄さんは最後まで避難誘導をしていたらしい。

 だから、兄さんだけ遅れた……

 帰らぬ人となってしまった。

 人的被害は皆無なのに、客からの訴訟を恐れてクルージング・イベント会社は亡くなった兄さんをスケープゴートに利用しやがった。

 その結果が、今やってるテレビでの放送だ。

 銃であのテレビ画面を撃ち抜いてやりたい。

 俺は逃げるように駆けだす。

 何も聞きたくは、なかった。

 でなければ本当に撃ってしまいそうになる。

 自然に武偵庁へと……俺の足は向かって行く。

 何か手掛かりがあるんじゃないか?

 もしかしたら、平然と兄さんが帰ってきてるんじゃないか?

 そんなぼんやりとした希望を持って、俺は走る。

 そして、見えて来た武偵庁のビル。

 表の玄関口に向かって目に着いたのは多くのマスコミが押し掛けている所だった。

 ……胸糞悪いが、通るしかない。

 意を決して歩んで行くと、誰かが気付いたのか……こちらに向かってくる。

 そして、1人が釣られると2人、3人と、砂糖を見つけたアリのように俺に群がってくる。

「今回の事について何か一言お願いします!」

 そう言いながら、1人の女性レポーターがマイクを突き付けてくるが、俺は無視する。

「君、待ちたまえ」 

 入り口を通ろうとすると、マスコミを止めていたガタイのいい1人の男性が俺を呼びとめる。

「名前は?」

「遠山……キンジ。あの人の、弟です」

 自分でも分かる、覇気の無い声。

 そんな消えそうな俺の声が聞こえたのか――

「そうか……入ってくれ」

 俺に同情の目を向けるように、その人は通してくれた。

 自動ドアをくぐり抜けて行くと、また1人、知らない人が俺を出迎える。 

「お前さんがキンジかい?」

 スーツを着た、細身の青年が確認をとるように、俺に声を掛ける。

 胸には兄さんと同じ特命武偵を示すバッジ。

「……そうです」

「お前さんの兄さんが持っていた物が、事故当時の捜索の末に発見された」

「――ッ!? それは、どこに?」

「3階に、プレートに304と書かれてる部屋だ」

 それを聞いた瞬間、俺は走った。

 俺を止める声が聞こえたような気がするが、構わず走る。

(兄さん……!!)

 目的の部屋へと辿り着き、扉を勢いよく開ける。

 そこに置いてあったのは1つの長机。

 その上に載せられているのは、兄さんが使っていたバタフライ・ナイフ。

 当然、部屋に兄さんはいない。

(そうだよな。何を勘違いしてんだ俺は……)

 兄さんが持っていた物が発見されたからと言って、本人がいる訳でもない。

 必ず手掛かりになる訳でも無い。

 バタフライ・ナイフを手にとって、刃を出す。

 緋色に輝くそれが、俺の顔をわずかに映し出す。

 自分でも思う、酷い顔だと……兄さんや霧がいれば、殴られたり、からかわれたりされるだろう。

 ここに来て、ようやく自覚した瞬間に涙が溢れる。

「う、うッ、くうっ、兄さんッ!」

 父さんも母さんもいなくなり、

「う、うああああああぁッ……!!」。

 俺の憧れていたヒーロー(兄さん)も、もういない。

 

 もう、いないんだ。

 

  

 一頻(ひとしき)り、俺は泣いた。

 武偵庁の中だと言うにも構わずに泣いた。

 そして、俺は喪失(そうしつ)感に襲われた。

(……兄さんを失った。人生で目標としてる人を)

 俺は一体、何を目標に生きて行けばいいのか分からない。

 誰の背中を追って行けばいいんだ?

 俺には、分からない。

 フラフラと立って、俺は部屋を出る。

「君が、遠山特命武偵の遺族だな」

 部屋を出ると、また、中年の知らない人が俺に話しかける。

 ぼんやりとした頭で、この人は武偵庁に勤務してる人ではないと、分かった。

 ここで働いてる人と雰囲気が違う。

 修羅場をくぐり抜けて来たと言う感じがない。

「クルージング・イベント会社の者だが。今回の件について、遺族としてどう責任を取るのか聞かせて貰いたい」

 ………………。

 何を言ってるんだコイツは。

 責任を取る? 兄さんに何の責任があるんだ。

「今回、腕の立つ武偵と言う事で船の警護を依頼させてもらったが、結果は豪華客船一隻を失うと言う大損失だ」

 低い声で、威圧的にその男性はそう言う。

 俺には理解できなかった。

 本当に……ナニヲイッテルンダ。

「客からのクレームもある。なぜ未然に防いでくれなかったのか、とね。私としても気になるが、残念ながら本人がいない以上確認も取れない」

 テレビと同じ様な事をコイツらは言う。

「なので、同じ武偵である君に聞かせて貰いたい。どうやって、彼の後始末をするのか?」

 こいつを今すぐ、ぶっ殺してやりたい。

 バタフライ・ナイフを握った手に力が入る。

 ああ、こんなに腹立たしい事はない。

 これほどまでに人を殺してやりたいと思った事はない!

「おい、お前さん。誰に責任を取らせようとしてんだ」

 声を聞いて振り替えると、さっきの細身の青年がいた。

 その後ろには彼に付き添うように数人の人が並んでる。

 訝しむように、俺の前にいる中年の男性は声を掛ける。

「君は?」

「遠山特命武偵と同じ任務に就いてた武偵だ。俺の後ろにいる連中もそうだ」

 この人が、兄さんと……一緒にいたッ!?

 俺は反射的にその人に掴みかかっていた。

「なんで、兄さんを見捨てたんだ!?」

「見捨てたなんて人聞きの悪い事を言うな、武偵憲章(けんしょう)を破る訳ねえだろう」

 俺に掴みかかられながらも、その人は平然と返す。

「武偵である以上、任務の際に犠牲が出るのは仕様がねえ事だ。いや、武偵に限らず軍隊や警察、諜報機関。武器を持つ連中には、死が付きまとう」

 ……そうだ。

 武偵中学や武偵高でも教わった事だ。

 この人は正しい。

 当たっても意味のない事だと分かってる。

 だけど、あの人はその犠牲を出さずに生きてきた人だ!

「先に言っておくと、俺はお前さんの兄と同じ武偵であっても同じ生き方をしてる訳じゃない」

「――ッ!!」

 俺の言いたい事を見透かしたように、その人は言ってきた。

 そう言われて自然に手を離す。

「あの人も、そこら辺の事は分かってる。今日はもう帰りな」

「待ちたまえ、帰って貰っては困る。彼には――」

「お前さんも、勘違いしてる様だから言わせて貰うが。いくら何でも今回の件、遺族に責任を取らせようって言うのはお門違いじゃないかい? スケープゴートなんて真似しといてそれはねえぜ。コイツも武偵とは言え、高校生だ。教える側の人間じゃなくて、まだまだ教わる側の人間なんだよ。そんな奴に、責任の一端を(かつ)がせようって言うのか?」

「………………」

「責任を取らせようって言うなら、武偵庁か、ここにいる俺らにしな。あいつ一人に全部責任をなすりつけてんじゃねえ」

 青年に言われてクルージング・イベント会社の連中は黙った。

「お前さんも、さっさと帰りな。ここにお前さんの兄はいない」

 最後に青年にそう言われて、俺はフラフラと彼の横を通り抜ける。

 俺は帰らず、人知れず、適当に入った誰もいない一室に閉じこもる。

 閉じたドアに背を預けて、ズルズルと力なく座る。

(何でなんだ……)

 被害を出したとは言え、誰も死傷者なんていない。

 褒められるべきなのに……なんで糾弾される。

 『正義の味方』の末路がこれほどまでに悲惨だなんて、何かの悪い冗談だ。

 死んだ挙句に死体に石を投げられる。

 そんな死体に石を投げた奴らを、

(あんな奴らを救いたいとは、俺は……思えないッ)

 それどころか、殺してやりたいと思った。

 本気で――

 そんな事を思った時点で、俺には無理だ。

(正義の味方には、なれない)

 そもそも何で、兄さんは死んだ?

 何で兄さんは人を助けたのに、批難なんかされなきゃならない?

 スケープゴートになんかされなきゃならない?

(そうだ……兄さんも言ってたな。武偵は捨て駒にされる事が多いって)

 そう思った瞬間に俺は分かってしまった。

 つまりは、そう言う事だと理解してしまった。

(正義の味方なんて――)

 そう、心で呟きかけた時、

 バァン!

「ぐおっ!?」

 俺の後ろのドアが勢い良く開かれ、俺は跳ね飛ばされた。

(一体、誰だ?) 

 そんな事を思って人物を確認する前に、俺は腕を掴まれて、無理矢理連れて行かれる。

「おい、誰なんだ!?」

 俺の声に反応する事も無く、強引に走らされる。

 抵抗しようにも、今の俺は無気力で、そんな気も起きない。

 ただ、その後ろ姿は、

(何で懐かしく思えるんだ?)

 そう、懐かしい。

 セミロングのストレートな黒髪。

 まるでキャリアウーマンが着るようなスーツに身を包んでる俺より少し背の低い、女の子と思われる。

 俺を連れて武偵庁の廊下をただ走り、そして、武偵庁の職員達が出入りする扉から出る。

 どうやら外の駐車場へと向かっているらしい。

 さらに走らされて、1台の車に辿り着いた。

(この車は……)

 見覚えのある車だった。

「お前は誰――」

 顔を確認しようとする前に助手席に押し込められる。 

 一体、誰なんだよ。

 俺の隣、つまりは運転席にその女の子は乗り込んでくる。

 そして、車内のライトを点けた。

「久しぶりだね、キンジ」

「……霧、なのか?」

 俺の、元パートナーだった。

「誰と見間違うんだか。まあ、今時間あるよね?」

 シートベルトを締めながら、彼女はそう言う。

 だけど、俺は再会を(なつ)かしむ気分じゃない。

「悪いけど、霧――」

「分かってるよ。金一さんが亡くなった事くらい」

 割と真剣な口調で彼女はそう言う。

 今までに聞かない口調だった。

「取りあえず、誰もいない所で二人で話そう」

 そう言って霧は、エンジンをかけて車を走らせる。

 走ってる間、俺は何も話す気にはなれない。

 霧は、そんな俺を見て分かってるのか話しかけてこない。

 ぼーっとしていると、いつの間にか学園島の海辺の駐車場へと着いていた。

 俺は、何も言わずに車の外に出る。

 そして冬の冷たい潮風が、俺の頬を()でる。

 何も考えず、俺は柵にもたれかかる。

「キンジ」

 霧が俺に声を掛けてくる。

 だけど、何も答える気にはなれない。

「すまん、ここまで送ってくれて。あとは、一人で帰れる。悪いけど一人にしてくれ」

 突き放すように俺はそう言う。

「車を出す前に二人で話そうって、言ったんだけどね」

「……そんな気分じゃない」

「私としては、放っておく訳にはいかないんだよね」

「放っておいてくれって言ってるだろッ!」

 思わず怒鳴る。

 今の俺は、酷い顔をしてる。

 そんなのを見られたくはない。

「世話が焼けると言うか、何と言うか」

 そう言いながら彼女は、俺の隣へと図々しく立った。

「一人にしてくれって、言ってるだろうがッ……!」

 霧に当たっても仕方がない。

 そんなのは分かってる。

 だけど、妙にイライラするッ!

「そう言って一人にしたら、大体は自分で抱え込んで余計に辛くなるもんなんだよね」

「分かったような、口してんじゃねえよ!」

「そりゃ、分かるよ。キンジだもの」

 いつもの飄々(ひょうひょう)とした感じで答える霧に、俺は言い知れない怒りが積もる。

「俺の、何が分かるって言うんだッ!」

「色々だね。家族を失った悲しみと、怒りと……あとは何だろうね。目指すべきモノを失ったような、そんな感じがするね」

 驚くぐらいに当たってる。

 そりゃそうだ……1年半も一緒にやってきたんだ。

 こいつに誤魔化しは通じないのも分かってる。

「分かってるなら、さっさと一人にしてくれよ」

「"元"になっちゃったけど、パートナーだって言うのを忘れないで欲しいね。たまたま日本にいたとは言え、飛んで来たんだから」

 

「俺は武偵をやめるんだ!!」

 

 ……言ってしまった。

 正義の味方なんて存在しない。

 そう武偵庁で思い、そしてそう分かってしまった俺が決断した事を――

 よりにもよって、霧に。

「そっか、そりゃしょうがないね。……だから?」

 どうしたと言わんばかりの表情。

「お前、聞こえてなかったのか?!」

「節穴じゃないからちゃんと聞こえてるって」

「だったら、なんで――」

「やめたかったらやめればいいんだよ。わざわざ楽しくない事を続けてもしょうがないしね」

 あっさりと、彼女はそう言う。

「別に、ショックを受けてない訳じゃないし、キンジがやめるなんて聞いて悲しく思ってない訳でもないよ? ただ、そんな決断をするのも可能性としては考えてた」

「………………」

「世の中そんなもんだよ。利益を失ったりするのが怖いって言うつまらない人間が、責任を逃れたりするのはよくあることだし。ま、責任を逃れるためじゃなくて職場を失ったら困る社員のために、なんて事もあるけどね。今回は前者っぽいけど」

「……霧。俺は」

 言葉を続けようとすると、途端に何かに包みこまれる感触がする。

「いいんだよ、何も言わなくて。本音を言えばやめて欲しくはないけどね。まあ、しょうがないよ」

 アレだけ怒鳴り散らしたのに、霧は嫌な声一つ上げない。

 何でお前は――そんなに笑顔でいられるんだ?

 そんな事を考えていると、霧は俺を離した。

「さて、本当はもう少しキンジに構ってやりたいけど……残念ながらここまでだね。私も忙しいし」

「すまん、霧」

「いいんだよ。それにしても酷い顔だね。海で顔を洗うついでに体ごと突っ込んできたら? 寒中水泳的な感じで」

「確実に風邪になるだろうが……」

 お互いに軽口を叩く。

 自分でも分からないが、少しだけ笑えたような気がした。

「そいじゃあねー」 

 車に乗ってアイツは、窓から手を出して去って行く。

 俺も、それに応えるように僅かに手を挙げた。

 アイツの車が見えなくなるまで、挙げ続けた。

 

 

                     Go For The Next……

 




やっと、原作に入れる!
いや、長かった。
実に長かった。

初投稿から何ヶ月経つんだって話ですがね。
まあ、何にしても引き続き楽しみにしている方はそのまま楽しみにしていて下さい。(これも二度目)

引き続き意見を下さると嬉しく思います。

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