緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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16巻をまだ入手できてない私。
なぜだ、入荷が遅いのか?
はたまた私が見落としてるだけなのか……
まあ、多分後者なんでしょうけどね。


27:殺しの才能

 いやー、昨日は驚いた。

 まさか2年前のあの子がいるとは思わなかったよ。

 名前は確か間宮 あかり、だったかな?

 それに昨日の訓練でも分かったけど、1年生にも彼女以外に何人か面白そうなのがいるね。

 だけど一先(ひとま)ず、1年生については置いておこう。

 どうやらキンジは、理子に調査の依頼をしたみたいだね。

 私はその事を理子から聞いてる。

 ついでに私も神崎について個人的に調べていると言う風に、話を合わせるつもり。

 別に彼女の事は充分に知ってるから調べる必要はないんだけど……

 まあ、私も調べたって言う事を証明しとけば話が円滑に進められるしね。

 そのために一応、調べた資料も(まと)めてる。

 そして今は理子と一緒に女子寮前の温室にいる。

「今の所順調だねー」

「モチのロンだよ、りこりんに抜かりはない。問題は……キーくんが武偵活動に消極的な所だけどね」

 理子は後半、真剣な口調でそう言う。

「そうだね。キンジを強襲科(アサルト)に連れ戻したい神崎と、武偵自体をやめたいキンジ。意見は平行線だからねー」

「金一の死があそこまで影響あるとは思わなかったよ。おかげで3学期にあたしまで転科する破目になった」

 誤算だとばかりに理子はそう言う。

「安心してよ。私が上手くやってキンジが少しは前向きになるように誘導してみるよ」

 1度やめて、色々と吹っ切って戻ってくるって言うのもアリだけどね。

 せっかく期待してるのに、こんな事で潰れて貰ったら困る。

 むしろ成長したキンジが楽しみなのに。

「うん。ありがとう」

 理子は笑顔でそう言うけど……怪しいんだよね。

 何か後悔してるような感じがする。

 詮索(せんさく)も調べもしないけど、どうも気になるね。

 本人は話したくないみたいだし。

 ま、焦る必要はない。近い内にいずれ分かる事だしね。

 勘だけど。

 どうやら、待ち人が来たみたいだね。

「理子、と……なんで霧までいるんだよ」

「おーっ! キーくん来たねー」

 理子はすぐにキャラを切り替えて、ぶんぶんと手を振ってアピールする。

「私も個人的に神崎さんについて気になったから調べただけだよ」

「理子。喋ったのか?」

「うん、だってキーちゃんなら問題ないでしょ?」

「確かに問題ないが、依頼人について話すのはどうかと思うぞ?」

 呆れるようにキンジはそう言う。

「まあいい。アリアに知られなかったら問題は無い」

 そう言ってキンジは(かばん)の中から紙袋を取りだす。

 それを見た理子は目の色を変えて紙袋を破り、中身を取り出す。

「うわあ~~~やったー! 『しろくろっ!』に『白詰草(しろつめくさ)物語』に『(マイ)ゴス』だぁー!」

 何かのゲームみたいだね。

 それを見て理子はゲームを掲げてぴょんぴょんと跳ねて髪を揺らす。

 別の所も揺れてるけど。

 キンジは呆れたようにその様子を見てるけど、理子の表情が変化するのを私は見た。

 その視線は、『妹ゴス』というゲームのシリーズに2とか3が書いてある別のパッケージにあった。

 数字に嫌悪感があるからか、微妙な表情を少ししてるね。

 だけど、私を見てすぐに普通の顔になって、

「ま、いっか……。キーくん、ありがとね!」

「ああ。報酬としてそのゲームはくれてやるから、依頼した通りに調査した事について話してくれ。俺はトイレ行くフリをして無理矢理抜け出して来たんだからな」

 時間は無いとばかりにキンジはそう言って腰掛ける。

 理子はゲームを服の中に仕舞う。

 そして私と理子はキンジを挟むように座る。

「それにしても、キーくんはキーちゃんだけでなくアリアの尻にも敷かれたの?」

「どう言う意味だよ……」

「つまりはカノジョさんなんだから、直接聞けばよかったのに」

「アイツは彼女じゃねえよ」

「え? だって、朝にキーくんとアリアが腕組んで学校に行く所を見たって他の男子生徒が言ってたよ? あとはね、キーちゃんだけでなくアリアまで侍らせてるキーくんを殺すってファンの男子がジェラシーしてるし」

 理子の言葉を聞いてキンジは不機嫌そうになる。

(はべ)らせるってなんだ、侍らせるって……好きで傍にいるんじゃねえよ。霧はともかく、向こうが勝手に俺の傍に来るだけだ」

「なんだ、キーくんはツンデレだったのか」

「意味分からん事言ってないで、調査の報告をしてくれ」

 面倒くさいとばかりにキンジは話を切り替えた。

 理子は「ちぇー」とつまんなそうに口を(とが)らせる。

「そうだな……まずは、アイツの評価だ。どう言った実績があるのかとか、強襲科(アサルト)での評価を聞かせてくれ」

「分かったよ。えっと、そうだね……最初にあの子のランクだけどね。武偵ランクはSランクだよ、前のキーくんと同じでね」

 Sランクと言う単語に、キンジは特に驚く事も無く思い出してる様子だった。

 充分にあの子の実力は身を持って知ったみたいだからね。

「それでね、格闘技もすんごいだって。確かボクシングとか、日本の柔術とかの動きを取り入れた何でもアリの……バーリ、バーリ、なんだっけ?」

「バーリ・トゥードね」

「そう! それだよキーちゃん」

 ワザととぼける理子に、私は話を合わせる。

「イギリスでは縮めてバリツって呼ばれてるよ。あとはねー、拳銃とナイフ……って言うか剣術の腕も凄くてね」

「それも身を持って知ってるよ」

「それじゃあキーくん、アリアに2つ名があるのも知ってる?」

「2つ名だと?」

「うん。『双剣双銃(カドラ)のアリア』なんだって」

 理子の放った言葉にキンジはここで少し驚く。

 2つ名――優秀な武偵には、そんなモノが付く。

 犯罪者も同様だけどね。

 私は既にあるから別にどうでもいいし、好きに呼んで貰って結構だけどね。

 そう言えば私と同じ有名な犯罪者で通称があるのって、誰がいたっけな……

 『魔剣(デュランダル)』ことジャンヌと、犯罪者じゃなくてテロリストだけど『厄水の魔女』のカツェ=グラッセが割と有名か。

 イ・ウー以外で考えるなら『歌う殺し屋(シンキングスイーパー)』がそうだね。

 他にも色々いるけど、私が会ったことあるのはあの子だけ。

「次に実績。アリアはねー、14歳からロンドン武偵局で活動しててね……その際の犯罪者逮捕率は100パーセント。たった1度の強襲で犯人を逮捕してる。それも99回連続でね」

 後半に行くにつれて、理子は声を真剣な口調にしていく。

 さすがのキンジも、さっきの2つ名の話より大きく驚いた。

 信じ(がた)いって言う顔してるね。

 私はそれを聞いて納得したように言う。

「なるほどねー。あの子プライド高いみたいだし……さてはキンジ、神崎さんから1度上手い事逃げたんでしょ?」

「……確かに逃げたよ。以前の爆弾事件(ボムケース)の時にな」

「だとしたらそうだね……もしかしたら、その事を根に持ってるんじゃないかな? だって、犯罪者の逮捕率は100パーセントだったんでしょ?」

 私がそう言うと、キンジはちょっと待てと言わんばかりに、

「それって俺が犯罪者にカウントされてるって事かよ!?」

「キンジは否定しても、本人がそう判断してるんでしょ。偶然とは言え、強猥されたと思ってるんだから」

「え? キーくんそんな事したの?」

「おい理子。今の所、絶対に聞かなかった事にしろ」

 キンジはそう言って止める。

 必死だねー。

 さすがに、この話を広められたらキンジが死ぬかも知れないからね。

 社会的に……まあ、その時は私が拾ってあげるけどね。

「えー、でも理子に対しての依頼は調査とそれについて口外しないだけだし~。今の話の口止めは依頼の中に入ってないからねー」

「待て理子。早まるな」 

 あー、理子は理子でこの学校で友人関係を多く築いてるからね。

 少し情報を漏らせば、瞬く間に広がる。

 そんな状況になったら、キンジにとって面倒くさい状況になるし。

 それを未然に防ぎたいからこんなに必死なんだろうね。

「理子、これで手打ちにしてくれるかな?」

 私はそう言って10万を渡す。

 友人関係の口止め料としては充分だろうね。

 それに偶然聞いただけだし。

「うえっ!? いいの?」

「いいんだよ別に、貯蓄は余ってるからね」

 武偵活動で貯めさせて貰った分だけでも何年か過ごせるくらいには余ってるし。

 理子の場合は別の意味でもいいのか、って聞いてるんだろうけど。

「取りあえず、早いとこ調査した内容を話した方が良いでしょ?」

「……でも、さすがに何て言うか」

「取りあえず受け取っておきなよ」

 私はそう言って、理子に向かってワザとらしくニヤニヤと笑う。

 この顔を見た瞬間、理子は納得してくれた。

「ああ……そう言う事ね。じゃあキーくん、次に知りたい事ってある?」

「お前らのやり取りに果てしなく不安を感じるんだが……。あー、じゃあ体質とか生まれについて聞かせてくれ」

 考えないようにして話題を切り替えたね。

「アリアのお父さんはね、イギリス人とのハーフでお母さんは日本人なんだって」

「つまり、クォーターか」

「そうそう。で、ミドルネームの『H』家なんだけどイギリスの方に家があるみたい。それと彼女のおばあちゃんはDame(デイム)の称号を持ってる」

「デイム?」

「イギリスで叙勲された女性の称号だね。騎士階級の称号だよ」

「キーちゃん正解って、キーちゃんも個人的に調べたんだっけ? 一部資料はりこりんから受け取ったけど」

「つまり、あいつは貴族ってことか?」

「正確には違うね。本人が貴族って訳じゃなくて、あくまで貴族の娘。まあ、貴族って言っても差し支えないんだろうけどね」

 キンジが疑問を覚えるように尋ねた事を私が答えてあげる。

 日本だと身分なんて無いに等しいからね。

 他国の身分の上下関係なんて、言われてもピンとこないだろうし。

 そして、理子が私の話を続ける。

「そう言う事だね。それで、アリアはH家とは上手く行ってないらしくてー。ちょっと疎遠になってるみたいだから、家の事をあんまり話したくないようだしね。それに、どうやら情報統制もされてるんだけど……あの家はね~」

「ちゃんと報酬は払ったんだから教えろよ」

 そのキンジの言いように、私はキンジの頭を軽く叩く。

「いてっ……」

「言うほど痛くしてないでしょ」

「だからってお前、いきなり叩くなよ」

「さすがに叩くよ。1から10まで教えて貰うつもり? 中学時代に助言したような気もするんだけどね」

「……あー、そう言えばそんな事も言ってたな」

「『考えない人は死んでるも同然。人形と一緒』、武装"探偵"なんだからちょっとは自分の脚で調べなよ」

「分かったよ……悪かったな理子。あと、強猥だとかの話はするなよ」

「ラジャーであります! ま、頑張れや!」

 そう言って理子はキンジの肩を叩こうとして外し、キンジの腕時計に当たって地面へと叩きつけた。

 ガチャと、音がして時計は見事に壊れた。

 私からして見ればかなりワザとらしいけど、キンジは気付いてないみたい。

「うわーゴメン。キーくん」

「いいよ別に、台場で買った安物だしな。また買い直せばいい」

「だめだよ! 理子が依頼人(クライアント)の所有物を壊したなんて知れたら、沽券(こけん)に関わっちゃうよ!」

 そう言って、理子は胸元の襟首を少し引っ張って壊れた腕時計を胸の中に仕舞う。

 随分と変わった隠し場所だね。

 私には真似できない。

 それと、キンジはどうやら理子の胸を見ちゃったみたいで顔を逸らしてる。

「と言う訳で、きっちり修理して返すよ。他には何かある?」

「いや……特には」

「分かった。それじゃあね、キーくんキーちゃん! バイバイキーン!」

 そう言って理子は両手を広げて去って行った。

「相変わらず騒がしい奴だ」

「しかし、そう言いつつも胸元は見ると……」

「……見てねえよ」

「視線が集中してたくせにね。否定されても見てる人は見てるよ。私しかいないけど」

 私は座ってた柵から降りて、立ち上がる。

「全く、蘭豹(らんぴょう)先生の言う通りだったね。今のキンジはすっかり腑抜けてる」

 まだ1年生の時や武偵中学にいた時の方が考えてた。

「別にいいんだよ。俺はこれで……」

「武偵やめて、本当にすっぱり吹っ切れるのかな? 逆に違和感を感じるだけだと思うけど」

「――どういう意味だよ」

「逆に聞いてあげるよ。私と武偵でコンビ組んでた時……楽しくなかった?」

 私は悲しげにそう聞く。

 不安があるような声音も交えて。

 キンジは、その言葉に目を逸らした。

「そんな事は……ない」

「ならよかった。私からの答えとしてはそう言う事だよ」

 私は笑顔で答えてあげる。

 これは少しずつ矯正して行かないと、問題あるかもね。

 私はそれ以上何も言わず、キンジに背を向けて歩き出す。

「あ、そうだ」

 重要な事を1つ忘れる所だった。

 私は振り返って、キンジに軽く指差しをして――

「理子の口止めで、貸しまた1つね」

 またしても笑顔でそう言ってあげる。

 その時のキンジの顔は苦笑いだった。

 

 

『……1度だけだ』

『1度だけって、どう言う意味よ?』

『1度だけ、強襲科(アサルト)に戻ってやる。そしてその間に起きた最初の事件を一緒に解決してやる。つまりは自由履修で転科じゃない。その条件でいいのなら組んでやる』

 その夕方、私は盗聴器で聞いた。

 キンジが強襲科に戻ると言う約束をアリアに取り付けている事を。

 ただし、聞いた通りに条件付き。

 未だに関係が良好とは言えないけど、当たり前か。

 私がワンクッションにならないといけないのかな? 

 だとしたら、かなり面倒なんだよね。

 2人とも、意地張ってる所あるし。

 これならイ・ウーのメンバー全員を切り裂きに行く方がまだ楽しいよ。

 だけど……お父さんとあの2人が出会うまでは、付き合わないと。

 難儀な話だね。

『分かったわ。あたしも時間がないし、その事件であんたの実力が嘘か本物か確かめる事にするわ』

『どんな小さな事件でも一件だぞ』

『代わりに大きな事件でも一件よ。手を抜いたりしたら風穴を空けるからね』

『ああ、約束してやるよ。全力でやってやる』

 どうやら話は終わりらしい。

 キンジ、全力を出すつもりは無いね。

 口調で分かる。

 きっと屁理屈こねて自分の技能――HSSを使わない全力を見せつけるつもりだね。

 うーん、これはその時になったら誘導するしかないか……いや、待てよ。

 きっと理子も別の盗聴器で聞いてる筈だから、最初に事件を起こすだろう。

 と言う事は十中八九、大事件になるだろうね。

 私はすぐに理子の部屋へと行く。

「どうしたのキーちゃん? 理子の部屋に遊びに来たの?」

「そうだね。ちょっと、聞きたい事もあったし」

 部屋の扉を開けた理子に、そう言いながら入る。

「それで、どうしたの?」

「どうせ……聞いてたんでしょ。さっきの会話」

 私が遠回しにそう言ってキンジの部屋での会話の事を言うと、真剣な表情になる。

「聞いてたよ。よく分かったね」

「アリアとキンジを結び付けたいのなら会話ぐらい盗聴してると思ってね。私も同じだけど」

「それで? おね――」

「ストップ、前も言った筈だよ。今は白野 霧だって」

 それに白野=ジャックなんてバレたら教師陣を皆殺しにしないと行けなくなる。

 そんな骨が折れる事はしたくない。

 それに、お父さんとの約束までバレる訳にはいかない。

 別にバレるとは思ってないし、変装には自信はあるよ?

 だけど、慢心はしたくないんだよね。

 それで全てがパーになったら、楽しむどころじゃなくなっちゃうし。

 理子は相変わらずその事に残念そうな顔をしながらも続ける。

「……結局、どうしたの?」

「どうにもこうにも、最初に事件を起こすつもりでしょ?」

「そうだよ。それであいつらがくっ付けば、あたしは良い」

「その時に私も同行するよ。きっと、キンジはHSSを使わないつもりだろうからね」

「使わせるように誘導するってこと?」

「そう言う事、それでアリアはキンジの実力が本物だって言う風に思うだろうけど……キンジと衝突するかもね」

 むしろ意見が衝突しない訳がないだろうけど。

「だからその時のために私も事件の解決に協力すれば、色々と意見とか主張が言えるからね」

 私はカラカラと笑ってそう言う。

 現場に居なかったクセに口出しするなって言われても困るし。

「……それってつまり」

「私を見ても撃つなり爆破なりしなさいって事だね」

「ダメだよ!」

 すぐに理子は叫んだ。

 今の、周りに聞こえてないかな?

 ちょっと心配だけど話を続ける。

「そう言われても、多少のリスクぐらい負わないと」

 私にだけ攻撃が止んだりしたら逆に怪しまれる。

「だからって……」

「そう簡単に死なないって、むしろ私が死ぬとか……」

 それはそれで――

「楽しみだね」

「冗談でも……そんな事言わないでよ」

「だって自分でも気になるしね。一度しか味わえない感覚なんだし、だからと言って自殺願望がある訳じゃないけど」

「――イヤだ」

 ドン、と私の胸に理子が飛び込んでくる。

 心なしか、肩が震えてる。 

 もしかして、

「泣いてるの?」

 一体何で泣いてるのやら。

 尋ねてみても理子は答えてくれない。

 別に私が死んだわけでもリリヤとかが死んだ訳でもなく、例えばの話をしただけなのに。

 しかし、こんな風に泣かれたのいつだったかな?

 家族が本気で泣かれると、私としても困るんだけどね。

「イヤだよ……死んで欲しくないよ……」

 殺人鬼なのに、死んで欲しくないなんて言われたの初めてだ。

 むしろ逆ならあるのに。

「別に私を殺せって言ってる訳じゃないんだよ?」

「………………」

 そう言っても、理子は離してくれない。

 それどころか……逆に力が強くなってきてるんだけど。

 にしても泣き虫なのは変わらないんだね。

 仕方ないとばかりに私は抱きしめ返して、囁く。

「じゃあ約束しよっか」

「……約束?」

「うん、約束。私は死なないから……ちゃんと攻撃すること。じゃないと怪しまれちゃうよ」

「………………」

「白野 霧としてじゃなくてお姉ちゃんとの約束。それならいいでしょ?」

「……分かった」

 渋々と言った感じに理子は納得してくれた。

「それじゃあ、頑張ってね」

 理子を離して頭に軽く手を置いた後、私はそのまま部屋を出て行く。

 死んで欲しくない、ね……

 これだから理子は面白いんだよ。

  

 

 そして、ある日の放課後。

 いつも通りに強襲科(アサルト)で訓練しつつも面白い人がいないか観察する。

 今はノルマが終わったのでちょっと休憩中。

「あ、白野さん聞きましたか?」

「いきなりどうしたの?」

 男子生徒の1人が私に気付いて声を掛けて来たので返す。

「遠山が強襲科(アサルト)に帰ってくるらしいんですよ」

「へー、キンジがね……それは楽しみだけど。一体、どういう風の吹きまわしなんだろうね」

「白野さんは知ってるんじゃないんですか?」

「全然? 帰ってくる理由が思いつかないよ」

 本当は知ってるけど。

「だけど帰ってるなら出迎えないとね。情報ありがとねー」

 私はそう言って教えてくれた男子生徒に背を向けながら手を振る。

 そのまま私は、強襲科(アサルト)の戦闘訓練所の2階へと向かう。

 私がそこへ到着すると同時に、

 ――ガラガラガラ。

 と扉が開けられる。

 そこに居たのは、憂鬱そうな顔をしたキンジだ。

 相変わらず微妙そうな顔しちゃって。

 そして、他の生徒がキンジの存在に気付いた瞬間。

 剣戟(けんげき)と銃声がしだいに止まり、全員がキンジを見る。

 そして、キンジが中に入って来た所で他の生徒はキンジに雪崩込む。

「おー、久しぶりだなキンジ。お前は何だかんだ言って帰って来てくれると思ってたぞ! お前の元パートナーのせいでイライラが溜まってるから、憂さ晴らしに死んでくれ」

「それ俺関係ねえだろ!? 夏海」

「蘭豹先生の話によると、最近腑抜けてるらしいなぁーキンジ。武偵はお前みたいな腑抜けたマヌケな奴から死んで行くもんだからな」

「だったら何でお前が生き残ってるんだよ三上! しかも毒舌過ぎるだろ!」

 好かれてるねー、キンジ。

「あ、白野先輩」

 私が下にいるキンジを眺めてると、横からこの間聞いた声がする。

「火野ちゃん」

「こんにちは、です。あと、すみませんけど『ちゃん』づけはやめて下さいよ。そう言う風に呼ばれる歳でもない……ありませんから」

 この間戦った火野 ライカが私に声を掛けて来た。

 それと、普段から敬語に慣れてないのか言い直してる。

 その彼女の後ろには例の子――間宮 あかりもいる。

「分かったよ。君も、慣れないなら敬語じゃなくてもいいよ」

「……いいんですか?」

「お互いに喋り(にく)いでしょ?」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

「別にそんなに(かしこ)まらなくてもいいのに、取って食う訳じゃないんだし」

 人を食ったような奴だとは、言われた様な気もするけど。

 私は火野に向かって微笑みながら安心させるようにそう言う。

「ところで後ろの子は? 確か、私と戦った時に話してた子だと思うんだけど」

 私は火野の後ろにいる間宮 あかりの事を尋ねる

 一応、こうして顔を合わせるのは初対面って事になってるからね。

「アタシの友達の、間宮 あかりです」

「は、初めまして」

 火野に背中を押されるように、間宮は紹介される。

 彼女も緊張してるのか、言葉が少し途切れた。

「どうも、初めましてね。2人もキンジの事を見に来たの?」

「見に来たって言うか……たまたま通りかかっただけです」

 まだどこか堅いような喋り方だけど、さっきよりは普通だね。

 火野はばつが悪そうな顔をする。

「あの、白野先輩は……あのひ――遠山……先輩の、元パートナーなんですよね?」

 取りあえず最初にその言葉を聞いて分かった事は、間宮はキンジに良い感情を抱いてないみたいだね。

 『あの人』って言い掛けてたし、取って付けたような先輩からして敬う気なんてあまりなさそうだ。

「まあ、そうだね。キンジと私の事を知らなさそうだけど……もしかして途中から来た子かな?」

「あかりは去年の2学期に一般中(パンチュ―)から来たんですよ」

「と言う事は、私は夏休みに入ると同時に去ったから知らないだろうね。キンジも、任務(クエスト)でよく出かけてた時期だろうし」

 火野の言う事を補足するように、私は呟く。

「それで、どうかしたのかな? 間宮さん」

「その、何て言うか……」

 歯切れが悪そうに、キンジの方を見ながら呟く。

 そこにはもみくちゃにされてるキンジ。

 もしかして――

「想像してたのと違った、とか?」

 顔を覗き込むようにしてそう聞く。 

「な、なんで分かるんですか!?」

「キンジの噂なんて、大体はSランク武偵で強襲科の主席候補、私の元パートナー、プラチナコンビの1人、そんな所だろうからね。そこから考えれば今あそこで遊ばれてるキンジは、Sランク武偵には到底見えないだろうからね。もっと、色々と威厳とかに溢れてる人を想像してたんでしょ?」

「はい……そうです」

「私が言うのも何だけど、普段のキンジは頼りないからね。そう思うのもムリはないよ」

 それでも運動神経は良いから……鍛えればHSS無しでも普通にSランク行けそうだけどね。

 体の土台としては結構出来あがってるんだよ。

「いいんですか? そんな事言って」

「いいんだよ火野さん、蘭豹先生の言う通り最近は腑抜けてるからね。私としても思う所はあるよ。だけど、キンジはちゃんと光る物を持ってる」

「やっぱり、パートナーだとそう言うの分かるんですか?」

「そんな所だね。それと、私の目は良いんだよ」

 そう、色々と人を観察して来た私の目は誤魔化せない。

 火野に向かってそう返しながら目を向ける。

 彼女も『目が良い』という言葉が、ただ単に視力が良いって言う意味じゃない事が分かってるみたいだね。

「この前戦って分かったけど……火野さんも光る物――センスはあるよ」

「ほ、ホントですか!?」

「もちろんだよ。機会があれば、戦姉妹(アミカ)にしてもいいかもね」

「……へ?」

 私が笑顔でそう言うと、火野は固まった。

「う、うええええええええっ?!」

 そして慌てたようにして叫ぶ。

 何を大袈裟に驚いてるんだろうね。

「アタシが白野先輩の戦姉妹(アミカ)だなんて、そんな――」

「イヤだった?」

「イヤって訳じゃないですけど……アタシみたいな人よりも、もっといい人がいるんじゃないかって思いますし。Bランク程度の実力ですし。Sランクに近いって言われてる先輩とはアタシじゃ釣り合わないんじゃないかなーって思いますし。きっと先輩は人気だろうから、他にも戦姉妹(アミカ)になりたいって言う人がいるだろうし」

 動揺してるのか、指を合わせて視線が泳いでる。

 私って、武偵では意外と高嶺(たかね)の花的な感じだったりするのかな?

 もうちょっと周りの評価に耳を傾ける必要がありそうだね。

「別に遠慮する事は無いのに」

「遠慮しますよ!」

「それに、私は戦姉妹(アミカ)にしてもいいかもって言ったんだけどね。まだ戦姉妹にするとは言ってないよ。もしかして、期待してたりするのかな?」

 イタズラっぽく微笑んであげると、火野は顔を赤くする。

「は、はは……すみません先輩! アタシ、まだノルマが残ってるんで!」

 苦笑いで1歩、2歩と下がったかと思うと、火野はトレーニングルームがある方へと逃げた。

 あの子はあの子で(いじ)り甲斐がありそうだね。

 そして、友達の様子を間宮は呆然と見送っていた。

(間宮に近づくのにも、ちょうどいいだろうしね)

 私は彼女の背中を見ながらそう思った。

 

 

 他の人たちに絡まれて、訓練が出来なかったキンジが強襲科(アサルト)を出て行く。

 私もその隣を歩いて行く。

「お疲れ」

「ああ、霧か。お前2階で見てたろ」

「お出迎えはと思ってね。それにしてもよく戻って来たね」

「アリアと約束したんだよ。条件付きだが、強襲科(アサルト)に戻ってやるってな」 

 当然のごとく私は知ってます。

 今思えば、私って性質(たち)の悪いストーカーみたいだね。

 だけど……他の人に成り代わるために観察してる時の私って大体そんなものだから、今更か。

 そんな事を思ってると、夕焼けの門で背中をついて待ってる子がいるのに気付く。

 まあ、神崎なんだけどね。

 キンジも気付いたのか、少しだけ疲れたような顔をする。

 彼女はこっちの姿に気付くと、小走りにやって来て、私がいる反対側のキンジの隣を並んで歩く。

「アリ……」

 私の鋭敏な聴覚が声を拾う。

 この声、間宮だね。

 声を掛けようとしてやめたんだろう。

「……あんた、意外に人気者だったのね。霧が慕われてるのは知ってたけど」

「俺はあんな奴らに好かれたくない」

「そのあんな奴らに私も入ってるんだけど?」

 間宮は無視して、私は嫌味っぽくキンジに言い返す。

 すると、キンジは「悪かった」とばかりに視線を向ける。

「あんたってさ、人付き合い悪いしネクラって感じがしたけど……今日の様子を見て何か違うと思ったのよ。なんていうか……一目置いてるような感じ」

 神崎の言う通り、その判断は間違ってないんだけどね。

 1つ訂正させて貰うなら、キンジは別に人付き合いが悪い訳じゃない。

 なんだかんだ言いながら付き合うし、困ってる人がいれば助けてやるような人なんだよね。

 彼のお兄さん――金一と同じでね。

 つまりは典型的なお人好しだって言う訳だよね。

「あのね、キンジ」

「なんだよ」

「付き合ってくれてありがとね」

「……約束したからな。ただそれだけだ」

 冷たく言うキンジだけど、神崎はどことなく嬉しそうだ。

 それはそうと……後ろの子はいつまで追っ掛けてきてるんだか。

 下手くそ過ぎる尾行だね。

 本当に隠密の末裔(まつえい)かな?

 そう思っても後ろは向かない。

「ただの約束なのは分かってるわ。でも」

「でも……なんだよ?」

強襲科(アサルト)にいるキンジ、なんかカッコよかったわよ」

「………………」

 その言葉にキンジは少し驚いたような、返す言葉に困ったような顔をする。

 私はちょっと茶化すつもりで肘で小突く。

 案の定、鬱陶しそうな顔されたけど。

「あたしは、強襲科(こ こ)では誰も近寄ってこないからさ。実力差があり過ぎて、誰も合わせられない。『独唱曲(アリア)』だから別に構わないんだけど」

「……『アリア』?」

 彼女の名前とは違うニュアンスを感じ取ったのか、キンジは疑問を浮かべる。

「Aria――英語に従って『エア』とも言われる。オペラとかオラトリアとかで用いられる独唱曲の事だね」

「そうよ、霧。よく知ってるわね。あたしはその『アリア』――あたしはいつでも1人だった。イギリスのロンドンでも、イタリアのローマでも」

 ……下らないな~。

 君が1人なのは、周りが合わせられないからじゃない。

 周りに合わせようと"しない"から。

 つまり、君は周りに合わせる事が出来ないんじゃない、そうしないだけ。

 自分の持ち味を殺さずに周りに合わせる事は出来る。だけど君はそれを知らないだけ。

 まわりと良好な関係を築けないのは、どこか心で傲慢(ごうまん)でいるから。

 アレだよね。なんて言うんだっけ……井の中の(かわず)大海を知らずって言う奴かな?

 この子は何も知らない。

 私以上に何も知らない。

 素直に教えてあげるつもりもないけどね。

「ここで俺と霧を引き込んで、デュエットないしトリオでもなろうって言うのか?」

 キンジがそう言うと、アリアはクスクスと笑う。

「あんた、面白いこと言えるのね」

「面白くないだろ」

「いや、キンジ。返しとしては上手かったと思うよ?」

「霧の言う通りよ。良い返しだったわ」

「お前の笑いのツボは分からん」

「あんた、なんだか楽しそうよ。強襲科(アサルト)に戻ってからなんだか()き活きとしてるみたい。昨日とは違ってね」

 神崎にそう言われて、キンジは彼女から顔を逸らして私を見る。

 さすがは良い直感してるね、神崎。

「そんなことは、ない……」

 キンジも無意識だと思うけど、図星だったみたい。

 だから思いっきり否定せずに、少し言葉を(にご)してる。

 この間の温室での言葉が少しは効いたかな?

 そうだったら良いんだけど。

「俺はゲーセンに寄ってく」

 露骨な話題逸らし、と言うか現実逃避。

「そっか、私はちょっと寄る所があるからここでお別れだね。それじゃーねー」

 私はそう言ってキンジ達と別れる。

 後ろから、神崎とキンジが言い争う声が聞こえる。

 ま、寄る所って言っても……後ろのネズミにちょっと用があるんだけどね。

 

 

 キンジと神崎を追い掛けてる、間宮の子の後ろをさらに私が尾行する。

 完全に意識が2人に向いてるね、あの子。

 そう言うのは後ろからサックリ殺されちゃうよ。

 なんて思いつつも、他の人たちに紛れて歩いて追い掛ける。

 ちなみに軽い変装で、伊達眼鏡を掛けてる。

 それにしても……何だかんだで息が合ってるね、あの2人。

 楽しそうに、ゲームセンターのUFOキャッチャーの前でハイタッチなんかしてはしゃいでる。

 すぐに気付いたのかお互いに2人はそっぽを向く。

 そして、肝心の間宮の子はと言うと……背後からでも分かる。

 肩を震わせて嫉妬してるっぽい。

 火野との会話でキンジを敬ってる様子は無いから……

 多分、神崎のファンとかそんな所だろうね。

 彼女は実力があるから、その強さに()かれるって子もいそうだし。

 キンジと神崎が別れて、キンジは住宅街の前の普通の道を通って行く。

 当然、その後ろを間宮の子が追いかける。

 ここら辺で、電話してみようかな?

 そう思って電話を掛ける。

「もしもし」

『霧、どうした?』

「後ろにネズミが()いて来てるけど?」

『知ってるよ。さすがの腑抜けた俺でも、1年の尾行ぐらい分かる』

「そんな、嫌味っぽく返さなくてもいいのに」

『口振りからして、1年の後ろにいるのか?』

「まあね。私としても彼女がちょっと気になるからね。だから()くのを手伝うけど?」

『ああ、頼む。ちょうど風魔に頼もうと思ってた所だ』

 風魔、いたんだね。

 それは知らなかったよ。

 キンジはそのまま後ろを振り返らず、電話を閉じた。

 私は周りに誰もいない事を確認して、間宮の子に早歩きで近づいて行く。

 そして、彼女が電柱の陰に隠れて止まった所で――

「はい、動かないでねー」

 私は彼女の後頭部にグロックを押し当てる。

「……ッ!? 白野、先輩?」

 少しだけ振り返って、間宮は私を見る。

「なんだ、間宮さんだったんだね」

 私はメガネを取りながら、少し意外そうな演技をして呟く。

「てっきり武偵に変装した犯罪者かと思ったよ」

「あたしが犯罪者……。そ、そんな事より……遠山を追い掛けないと」

 慌ててるのか、先輩付けるの忘れてるし。

「なんで追い掛けてるのかな? キンジに何かされたの?」

「いえ、そう言う訳じゃあないですけど……あの人に話があるんです!」

 真剣な表情をして間宮の子がそう叫ぶ。

 これはどう言う関係があるか……ちょっと泳がせて、情報でも吐いて貰うかな。

「ふうん、そっか。ちょっと待ってね」

 私はキンジに電話を掛ける。

『今度はどうした? 上手く撒けなかったのか?』

「そうじゃないよ。どうやらキンジに話があるみたい」

『……分かったよ。今、近くの公園だ』

 渋々と言った感じに話を聞いて電話を切った。

「話があるなら聞くってさ」

 間宮の子にそう伝える。

「そうですか。案内、して下さい」

「はいはいっと」

 私は間宮を連れて、近くにある公園を目指す。

 そして、公園に入ってしばらく歩いてるとベンチに座ってるキンジを発見した。

 向こうもこっちに気付いたのか、立ち上がって歩いてくる。

「それで、霧の後ろにいる子が……俺に話があるって言う1年か?」

「みたいだねー。キンジ、何かしたの?」

「身に覚えがないぞ。そもそも、その1年の顔なんて見たこと無いしな」 

「あ、あたしは1年って言う名前じゃありません! 間宮 あかりです!」

 私の前に出て、間宮は叫ぶ。

「分かったよ。それで? 間宮、何で俺を()けるんだ?」

 キンジはキンジで面倒そうな顔してる。

 まあ、確かに身に覚えのない人に追い掛けられればそう思うだろうね。

「だって……だってズルイです! あたしは、戦って追い掛けて、ようやくお近づきになれたのに! アリア先輩が自分から追い掛けるなんておかしいです! 一体、どう言う関係なんですか!?」

 この子、何を言ってるんだろう。

 嫉妬してるのは分かるんだけど……

 キンジも同じなのか、状況を把握できないとばかりに尋ねる。

「話が見えないが、なんだ? アリアのファンか何かか?」

「うーん、お近づきって言ってたから……戦姉妹(アミカ)とかじゃないかな?」

 私が直感でそう言いながら、間宮を通りこしてキンジの隣に並ぶ。

「そうです。白野先輩の言う通り、あたしはアリア先輩の戦妹(アミカ)です」

「そうか。お前には悪いがな、俺はアイツに追い掛けられて迷惑してるんだ」

 キンジの事だから……本音だろうね。

 対して間宮の子は、いかにも怒ってますって感じ。

 しかし、おかしいね……

 あのプライドの高い神崎の事だから、手を抜いて戦妹(アミカ)にするなんて事はしなさそうだし。

 目の前の間宮の子には、母親と違って大した実力は無いように思える。

 少なくとも武偵にいた期間を抜いて考えても、公儀隠密の一族の末裔って言う話を考えるなら……素人(しろうと)ではない筈なんだけどね。

 どうやって神崎に一杯喰わせたんだか……気になるね。

「どうだ? 聞いて満足しただろ。俺を追い掛けるなんて無駄な事はするな。今の俺はEランクだが、それでも1年の尾行ぐらい分かる」

 それを聞いて間宮の子は表情が変わる。

 キンジ、さすがにそれは違和感を相手に植え付けるだけだよ。

 Sランクがどんな失敗をしたらEランクにまで落ちるのか……落差があり過ぎる事に、間宮の子はおかしいと思ってるよ。

 表情で分かるけど。

「――おかしいですよ。SランクがEランクにまで落ちるなんて! 遠山先輩は、何か隠してるんじゃないですか!?」

 キンジは去ろうとして、背中を向けていたけど……ピタリと止まる。

 私は振り返ろうとするキンジの肩を抑える。

「あとは、私が相手をするよ」

「すまん」

 そのまま、キンジは去っていく。

 個人的に気になる事があるから、キンジを去らせたんだけどね。

「ま、待って下さい! まだ話は――」

「やめておきなよ」

 私は追い掛けようとする、間宮の子を止める。

「どうして止めるんですか?」

 少し、『ム』と言った感じに怒った表情をする。

 分かってないねこの子は……

 仕方ないから殺人鬼がご丁寧に警告して上げよう。

「あのね、他人(ひと)の事情は無暗に詮索(せんさく)するモノじゃないんだよね。神崎さんに憧れてるのか知らないけど、嫉妬で他人の領域に足を踏み込むのは違うでしょ?」

「……あたしは別に、そんなつもりはありません」

 似てるねー、神崎に。

 だけど……神崎とは違って、何かシンパシーを感じるんだよね。

「先輩として1つアドバイスをして上げるね。……勇気と無謀は違うんだよ」

 後半は声を少し低くして、軽く殺気を叩きつける。

「――ッ?!」

 無意識に、彼女はマイクロウージーを抜いた。

 殺気には反応するか……

 でも神崎の戦妹(アミカ)になったのなら、まだ何かあるね。 

「ちょっと殺気を出したからって、先輩に銃を向けるのはどうかと思うよ?」

「……先輩、今のは何ですか?」

「殺気出しただけだけど?」

「おかしいです。誰も殺した事がない人がそんな殺気を出せる筈がありません」

 間宮の子は何を感じ取ったんだろうね。

 にしてもいくら変装で来ても殺気の雰囲気は誤魔化せないか……

「そう言われても、武偵法9条は破ったこと無いんだけど」

「………………」

「まあ、そんな事はどうでもいいや。それとね、こんな事言いたくないんだけど……キンジの事を(あなど)ってるでしょ? それがね、ちょっと私の(かん)に触るんだよね!」

 あくまで口実だけどね!

 そう思いながら、私は間宮の子に向かってナイフを持って駆けだす。

 銃は……撃たない。

 さすがに同じ武偵に向かって撃つのはマズイと思ってるんだろう。

 すぐに銃を仕舞って、彼女は私に向かってくる。

(何をして来るんだろうね)

 少し楽しみにそう思いながら、私と彼女の距離が縮まって行く。

 もちろん、ここで殺すなんて真似はしない。

 狙うのは鳩尾(みぞおち)、ナイフの柄で押し込むようにするつもり。

 そして間宮の子と私が――交差する。

 私の手にナイフは、無い……

 素早く後ろを見れば、彼女の手に私のナイフ。

 あの技……2年前に戦ったあの子の母親が使ってた技と同じ。

 だけど、眼球じゃなくて私のナイフを取った。

(なるほどね)

 私は納得しながらも、すぐに間宮の子へと迫る。

 彼女も後ろに迫る私に気付いてるんだろうけど、ナイフを(かす)め取った時と違って反応が遅い。

 襟首を(つか)んで足を引っ掛けて、背負い投げの要領で彼女を地面に叩きつける。

 地面に落ちる瞬間、ちょっとは引いたから……そんなに痛くは無いはず。

 右手が空いてないので、左のM500を抜いて胸に押しつける。

「はい、ゲームオーバー」

 容赦(ようしゃ)なくトリガーを引く――

 

 ガチン!

 

 だけど、鳴るのはハンマーの音だけ。

 グロックの方は弾は入ってるけど……M500には弾は入れてない。

 意外とバカにならないんだよね、こっちの弾代。

 お金はあるから問題ないんだけどね。

 それにリボルバーとは言え、落ちた拍子に暴発したら困るし。

 威力も洒落にならないからね。

 そう言う意味で、任務と緊急時以外にはあまり入れてない。

 間宮の子は、痛みに耐えるように目を閉じてたけど……何もない事に違和感を覚えて目を少し開ける。

「……いくらなんでも後輩を容赦(ようしゃ)なく撃つ訳無いでしょ?」

 私は笑顔でそう言って、彼女を立たせる。

「どうしてですか?」

「何が? 襲った意味? それとも撃たなかった意味は……さっき言ったね」

「………………」

「襲った意味としては、あんまり後輩に舐められたくなかったからね。どうも、間宮さんはアリア先輩以外を侮ってるみたいだし」

「そんな事は……」

 間宮の子は視線を逸らす。

 侮ってないと思ってるのなら、視線を逸らさないでしょ。

「嘘だね。今日、火野さんと一緒の時に言ったでしょ。私の目は良いって……私の目は誤魔化せない。おっと、私のナイフを返してもらうね」

 彼女の手から、私のナイフを受け取って仕舞う。

「ま、先輩からの警告だよ。身を持って知ったでしょ? だから、これからあんまりそんな事しないようにね」

 引き続き、笑顔で言って私は彼女の肩を叩く。

「あと、私の殺気から何を感じ取ったかは知らないけど……私は誰も殺したこと無いよ」

 "白野 霧"と言う人物はね。

「それじゃあね」

 私はそう言って、間宮の子と別れる。

 帰り道、間宮の子からかなり離れた。

(あの子にシンパシーを感じた理由が分かったね)

 それにナイフを取ったあの技。

 あの子の母親が私に使った所を見るに、元々はきっと眼球とかを(えぐ)る技なんだろう。

 それをあの子は物を掠め取る技にした。

 ワザと反応しなかったのはそれを確かめるためなんだけどね。

 そして、あの子からシンパシーを感じた理由。

 ――あの子には人を(あや)める才能がある。 

 

 面白い子、見―つけた♪

 

 




風魔「解せぬでござる」

うん、ごめん風魔。

そう言えば久々にジルだけの視点をやった気がする。

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