遅れるも何も不定期更新と明言してるんで期限なんてありませんけども、それでも申し訳ない。
何て事はない閑話ですが、久々に投稿するので色々忘れてます。
もしかしたら描写がどうとか、あまり面白くないとか言われるかも。
やはり普段から書かないとこう言うのはダメっぽいですね。
ボディーガードを引き受けた翌日。
白雪は行動が早かった。
キンジも護衛をする事を条件に、私と神崎の護衛を引き受ける事になった後の白雪の行動は"キンジの部屋に引っ越す"と言うことだった。
随分と大胆に動くよね。
そんな訳で、今朝から引越しの作業中。
「ゴメンね、武藤君。朝早くからこんな事を頼んじゃって」
「いいんスよ、星伽さん。これぐらいの事は朝飯前っスから!」
そして、白雪の荷物運びをどこから聞きつけたのか、協力者である武藤は誰が見ても分かりやすいぐらいにやる気に満ち溢れてる。
彼は白い軽トラに載せた荷物をせっせと降ろしている。
「霧さんも、なんだかゴメンなさい」
「私は依頼でやってるし、気にする事はないよ」
にっこりと笑って返し、私もタンスを運びこむ。
友人を助けるのは当たり前の事だしね。
「そのタンスは俺が持つから、他の荷物を運んでくれ」
運んでる最中、タンスの影になって見えない角度から声がした。
角度を変えてそちらを見ると、キンジがいた。
「気を
「いや、力仕事は男の仕事だしな」
「とか言って、貸しを少しは返したいんでしょ?」
むふー、と言った感じに私が笑みを浮かべると図星なのか『うぐ』とキンジは声を上げる。
気の利いた事なんてキンジはあんまりしないからね。
「悪かったな……見え透いた感じで」
「冗談、冗談。じゃあ、しっかりと働いてねー」
そう言って私はキンジにタンスを渡す。
それから軽トラに戻る。
「それにしても……男子寮に星伽さんは、荷物を置きに来たんですか?」
「え? ううん、違うよ。今日からね私、キンちゃ――遠山くんの部屋に住むの」
武藤が尋ねた事に白雪は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに答えた。
「え、き、キンジの部屋ぁ!?」
武藤は絶句して、私を見つけたかと思うと詰め寄って来た。
それから私の前で涙目になって訴えるように話しかけてくる。
「ど、どう言う事なんだ白野さん!?」
「まあ、ボディーガードを依頼されてね……白雪に。それで、成り行きでキンジの部屋に住みこむ事になったんだよ」
私はちょっと苦笑を交えて、彼に教える。
「もも、もしかして、白野さんも!?」
「そうだけど? キンジの事だし、間違いなんて起きるはずもないけど」
私は言いながらも、最後の荷物を持って男子寮の方へと歩く。
言い忘れてた事があった。
「ああ、それと……あんまり情報を漏らさないでね。これについては言わなくても分かることだろうけど。あとはそうだねー、お兄さんが貴希ちゃんに黙ってモナコグランプリのチケットを入手したのを知ってるからね~。貴希ちゃんに黙って行くつもりでしょ?」
「な!? 一体、どこから」
「さあて、どこからだろうねー」
思わせぶりに言ってるけど、貴希ちゃん本人から聞きました。
つまりは既にバレてるんだよね。
脅してる様で、脅してない。
「私の場合は
笑顔でフォローの言葉を付けくわえて私は白雪と一緒に去ると同時に、武藤はあんぐりと口を開けて呆然とした。
白雪に関しては、さいごに感謝を籠めたお辞儀をしてたけど……果たして彼の目に映ってたかどうか。
キンジの部屋の玄関に辿り着いて、白雪が扉を開ける。
「その……お邪魔、しまーす」
妙にオドオドとした雰囲気で入って行く。
「何でそんなによそよそしいの?」
「いや、その……何だか緊張しちゃって」
はにかむよう白雪は笑ってるけど……この間、大暴れしてた時は何だったのかな?
そんな事を思いながらも私は靴を脱いで、部屋の中に荷物を運んで行く。
荷物を置いて神崎の方を見ると、どうやら天窓になにやら細工をしてる。
ベランダの窓に目を向ければ、赤外線探知機。
どうやらこの部屋に警戒網を敷くみたいだね。
「それで最後か?」
「ああ、キンジ。そうだね。私の足元に置いてある荷物で最後だよ」
私が答えてるうちに白雪も入って来て、
「ふつつかものですが……よろしくお願いしますっ!」
綺麗な90度に腰を折ったお辞儀をし始める。
それと同時に彼女の甘い香りもする。
「何を今更テンパる事があるんだ?」
「だ、だってキンちゃんの部屋に本格的に住みつくなんて今日が初めてだし……」
キンジの言う事に白雪は上目遣いで答えるが、キンジにとっては角度的に胸が強調されて目に毒。
すぐさま目を逸らした。
それから白雪は慌てるように言う。
「あ、そうだ。居間の片付けもしないと……そもそもこんなにしちゃったの私だし、色々と"処分"もしないと」
この子、本性を隠す気がない。
チラリと見た神崎に対して熱烈な視線を送ってる。
でも、確かにこんな戦場跡みたいな居間じゃあくつろげもしないけどね。
それから何かを思い出したようにキンジは、
「……ピアノ線とかはやめておけよ」
と注意した。
ピアノ線?
「ピアノ線って何のこと?」
私と同じ疑問を抱いたのか、白雪はキョトンとした顔をするけどキンジはそれ以上言ってこない。
取りあえず私はキンジの傍に寄って尋ねる。
「キンジ、ピアノ線って何のこと?」
「そう言えばお前は
「ふーん、なるほどね」
嫌がらせうんぬんは、実際に強襲科で神崎と一緒にいる事もあるから知ってたけど。
ピアノ線に関しては本当に知らなさそうな顔をしてた。
動揺もしてないし。
と言う事は……この間の一般校区で見掛けた白雪に成り済ましたジャンヌがいたのはそのピアノ線を仕掛けた前後だったのか。
なんて考えながらも私は、
「私の方からもそれとなく話してみるよ」
と言う。
「ああ、頼む。と言うか、お前がいないと白雪とアリアを抑えられる気がしないんだが……」
「前向きに頑張ってみるよ」
「その発言になぜか不安を感じる」
失礼な。
私はいつでも楽しい事には前向きだよ。
◆ ◆ ◆
忘れがちな事だが、白雪と霧は友人関係である。
どう言う原理かは知らんが、白雪は俺に女性が近づくと謎の
それは霧に対しても例外ではなかった。
武偵高に入学してからしばらくは、霧に対しても
が、ある日を境にいつの間にやら霧と白雪は仲良くなっていた。
まあ、その方が俺としても助かるし、パートナーであった霧と幼馴染みの白雪の仲が悪かったら居た
今のアリアと白雪のように。
と思っていると、突然に背中から軽く蹴られた。
何気に痛いし、この遠慮しなさ加減はアリアだろう。
と言うか日常茶飯事に俺を蹴るのはアイツしかいない。
「ちょっと、何してんのよ! 荷物を運び終えたなら、何か仕掛けられてないかチェックしなさいよね!」
「あのなぁー……ここから女子寮までの短い距離で何を仕掛けるんだよ」
「念のためって言う言葉があるでしょ!」
と言う家事が出来ないアリア様は、何やら張り切ってるご様子。
白雪を狙ってる
今、世間を騒がせてる切り裂きジャックと同じだ。
存在してるようで存在していない。
ある意味、気味の悪い話だ。
こう言うのは、大体は情報に踊らされてたりするのだが……今のアリアがいい例だ。
「よーしっ、終わった!」
「お疲れ様だね」
高らかに終了を宣言する霧と、何やら労いの言葉を掛けてる白雪の方を見れば、あら不思議。
いつの間にやら戦場跡だった部屋が新築みたいにキレイになってやがる。
白雪ほどではないが、霧の家事スキルもかなりの腕だよな。
少しイタズラっぽいところはあるが……白雪みたいな暴走する感じもないし、アリアみたいに暴力的でもない。
しかも、俺と違って人間関係も円滑だ。
……あれ? 今にして考えてみれば、この中で一番まともなのは霧じゃねえか?
「聞いてるー! 耳が付いてるなら聞こえてるわよね!」
俺が考え事をしてるとアリア様は俺の耳を引っ張って、耳元でキンキンのアニメ声で叫ぶ。
「ちょ、耳を引っ張るな! 耳元で叫ばなくても聞こえてるっつうの!」
「ちゃんとタンスとかチェックしておきなさいよ! 私が警戒線を張り終わるまでにしなかったら風穴大盤振る舞いだからね!!」
そんなもん振る舞うな。
と、思いつつも工具箱を持ってベランダへと向かって行ったアリアを見る。
後ろから見てもどこかやる気がある感じに見えるアリアの背中をそのまま見送り、傍にあったタンスへと目を向ける。
「なに、神崎さんから荷物検査でも頼まれたの?」
聞いてたらしい霧が、俺の見てたタンスにもたれかかってそう言ってきた。
「そうだよ。全くアリアのヤツ、少し疑心暗鬼にでも陥ってるんじゃないか?」
「だけど、チェックしないと怒られるよー」
だろうな。
霧の言う通り、やってなかったらやってなかったで面倒な事になる。
「仕方ない。私も手伝うか……割と荷物も多いし」
そう言って霧も持って来た白雪の他の荷物をチェックし始める。
だが、チェックした所で何も出るはずもないだろうから徒労に終わるだけだと思うが。
実際、タンスの周りを見たが……特に怪しい所も不審な物もない。
中身のチェックもして置くか。
「そう言えば、キンジ」
俺がタンスの引き出しを開けた所で、霧が背後から話しかけてくる。
手を止めず、振り返らずに返事をする。
「なんだ?」
「今調べてるタンスは後で私が適当に調べておくから、他の荷物を調べてきてよ」
「何でだ?」
引き出しの中には布。
しかも、
『勝負』は黒、『普通』は白で固められてる。
なんだこりゃ……通常装備とかの意味での『普通』か?
そう思って黒い布を持ち上げて見る。
「だってそれ、衣類を入れるタンスでしょ? タンスの周りをチェックするのはいいけど、入ってるのはどうせ衣類とか下着類だけだよ?」
――ピタッ。
俺はその黒い布を持ちあげて広げた所で、固まった。
霧、なんでもっと早く忠告してくれなかった!?
俺はすぐさま自分でも驚くくらいに静かにかつ速く、黒い布を元の場所に戻し、タンスの引き出しを閉じた。
………………。
……やっちまったー!
思いっきり、下着を直視ししちまった!
などと、軽く自己嫌悪してると――
「タンスの引き出しに手を掛けたまま何で止まってるの?」
後ろを見れば霧が俺を見下ろしてる。
どうやら、俺が下着を見たのはバレてないらしい。
取りあえず平静を装う。
「いや、何でもない」
「そう。もしかして危ない所だった?」
「あ、ああ……そうだな」
完全に手遅れだったがな。
察しがいい霧の前では喋ってる間に誘導されたりする。
俺は色々と話をされるその前にタンスと霧から離れる。
「見た事は黙っててあげるよ」
「なっ――!?」
霧の発言に思わず振り返った俺は悪くない。
俺が見た霧の表情は、イタズラが成功したようなニヤニヤとした表情だった。
こ、コイツ……鎌を掛けやがった……
「ん~、気持ちいいくらいに簡単に引っ掛かった♪」
「お前……」
「大丈夫だって、言いふらしたりはしないから。脅しに使えるなんて思ってないから」
「マジでやめてくれ」
いつもいつも表情が笑顔ばかりなせいで、本当にやるかやらないか分からない時がある。
と言うか、いつにもまして顔が近い。
――クソ。アリアといい白雪といいコイツといい、俺の周りには美人が多過ぎる。
霧は……白雪みたいに胸が大きくてグラビアアイドルみたいなプロポーションじゃないにしても、アリアよりも女性らしい曲線をしてやがるから充分にヒステリア要因になり得る。
……い、いかん。
さっき見た黒い下着を着けてるのを霧で想像しちまいそうだ。
「あ、白雪さん。ゴミ出し任せてゴメンね」
「ううん……いいんだよ。それよりも、2人して何してるの?」
霧の発言に玄関に通じる廊下を見れば、何やら首を傾げてエプロンを手に持ってる白雪が立っていた。
さっき見ちまった下着を持ってる人だと思うと、余計に鮮明にイメージしちまう!
このままだとヒスりかねない!
「荷物のチェックだよ。もう忘れてる物とか特にないよね」
「これで一通りだよ」
「そっか。そうだ、キンジ。ちょっと買い出しに行ってくれる?」
白雪から俺へと霧は話し相手を変えた。
どうやら、俺の今の状態を察したらしい。
相変わらず気の利いたタイミングだ。
「メモに書いてある物を買ってきてくれる? お金も渡しておくから」
そう言っていつもの笑顔で1枚の紙きれとお金を渡して来た。
もしかしたら霧が行くつもりだったのだろうが……俺にその役目を譲って外に出る口実を作ってくれたらしい。
察しが悪いなどと言われてる俺だが、それぐらいの気遣いは分かる。
「分かったよ」
「買い出しなら私が行くのに……」
「いいんだよ、白雪。それに護衛対象があんまり外出するのはよくないからな」
と、俺は申し訳なさそうな顔をした白雪に対してもっともらしい事を言いつつ、煩悩を振り払うためにそそくさと玄関に向かう。
「夕飯までには戻ってねー」
「お前は俺の母親か」
最後に後ろから声を掛けて来た霧に呆れながらそう返して、俺は外に出た。
◆ ◆ ◆
女子寮の空き部屋の一室からホームズ達がいる部屋を監視していたが……
あんなに警戒を固めればそこにむざむざ突っ込む訳がないだろう。
警戒網を敷くと言う事は、その範囲からあまり出ないと言う事だ。
昔で言うなら
それなりの攻め方と言うものがある。
理子も夾竹桃も失敗し、武偵高に残っているのは私だけ。
しかも夾竹桃に関しては捕まっていると言う。
だが、そうなった場合の立ち回り方くらい夾竹桃は分かっているだろう。
法に通じているからこそ無法者になり得るのだからな。
そちらの方は心配はしていない。
――問題は私の方だ。
「こんの、バカキンジ!」
神崎の声が正面から響く。
情報を得られるやも知れんと思って、部屋を出た遠山を追い掛けて来たが……まさか、こんな所で間近に見る事になろうとはな。
今いるところはファミレス。
こう言う場所に来たのはいつ振りだろうか。
それぐらいに久しいのであまり慣れてない。
しかし、怪しまれないように普通に振る舞いながら視線を余り彼らに向けず、会話を盗み聞く。
「霧が買い物に行かせたって言うから探してみれば……こんな所でサボってるなんて、信じられない!」
「ぐっ……そう言うお前こそ、何でこんな所にいるんだよ」
「あたしは買い物ついでにあんたを探しに来ただけよ。こんな風にサボってるかもしれないって思ったからねっ!」
どうやら、神崎は大層怒っているようだ。
それから彼女はスカートから買い物した証拠を見せるようにして、1つの手錠を取り出した。
アレは……対超能力者用の純銀の手錠。
やはり私の行動は少し勘付かれているらしい。
そもそも
そして、教師陣は放任主義とは言え腕の立つ連中ばかり。
完全に気付かれないように行動するのは無理があったようだ。
「お前な、何でそんなに白雪のボディーガードにやる気なんだよ?」
「当たり前よ。一応は正式な任務なんだし、それに――」
遠山の質問に神崎は答えようとした途中で言葉を止めて、周りを見まわしだす。
それから席に着いたかと思うと会話が聞こえなくなった。
(チッ――)
内心で舌打ち。
直感が良いと言うのは、本当のようだ。
私に気付いている様子はないが、人が多い場所と言う事を警戒して盗聴の可能性を察したらしい。
2人はしばらく何かを小声で話している。
ここからではよく聞こえん。
話してる間に遠山の方から携帯が鳴り、彼は電話に出る。
今度は話し相手を神崎から電話の向こう側の人物に変えたようだ。
それから神崎も何か言い始めると、何やら会話時間が経つ度に不穏な空気になっている。
「分かったから! すぐに帰るよ!」
最後に大声で遠山が怒鳴って携帯を閉じたかと思うと、神崎のツインテールの片方を引っ張った。
すぐ神崎に背中を蹴られて反撃された。
そして、そのまま彼らはファミレスを出て行った。
大した情報は得られなかったが、どうやら遠山の様子を見るにあいつはやる気がないようだ。
私の行動も少し勘付かれている事も分かった。
しかし、やる事は大して変わらん……が、私1人では少しばかり情報が心許ない。
(……ヤツの手を借りるか)
私が失敗する訳にはいかない。
星伽は
今後の戦力としても期待できるが、彼女の心は遠山へと向いている。
ならばそれを利用するのが最善だろう。
それに……私程度に
イ・ウーの無法者達を束ねる事など出来はしない。
今回はそれを確かめるためでもある。
そんな考え事をしていると、人影が突然に私の近くに来る。
「ご注文を承ります」
ウェイトレスか。
そう言えば途中で呼んだのだったな。
人目を盗み、仮拠点としている女子寮の空き部屋に戻って来た。
連絡を取ろうと携帯に手を掛けるが……少しばかり
手を貸すと、武偵高に来たあの日の夜にヤツは言った。
私個人の任務であるために大っぴらに協力すると言う訳ではなく、本当に少し手を貸すだけ……それこそ情報を渡すぐらいだろう。
だが、私がヤツに連絡を躊躇う理由は断られるかどうかを危惧してるのではない。
………………。
私にも時間は迫っている。
意を決して、連絡を取る。
数回のコール音の後に、陽気な声が電話の向こうから聞こえてくる。
『やっほー、どうしたのジャンヌ?』
「……他人に成り済ましてふざけるのはやめろ」
よりによって理子に成り済ますな。
『やれやれ、分かったよ』
ジャックは途端に凛とした女性の声に変わり、口調もその雰囲気に似合うような鋭いものに変わった。
いつ聞いても慣れない。
まるで他人……とても同一人物とは未だに思えない。
そもそも、だ。同一人物も何も本当の正体などリーダーであるシャーロックや理子ぐらいしか知らないのだから当たり前の話だろう。
判断材料である元の人物が分からないのだから見破るも何もあった話ではない。
変装だと見破る困難な理由の一つだ。
『私に連絡をしたと言う事は……差し当たって情報提供を頼みたいのだろう?』
確信しているような口ぶりで、ジャックは私の言わんとしている事を当ててきた。
実際そうなのだから何も言えない。
「そうだ。お前は自分の言った事や約束は律儀に守るタイプだからな。早速手を借りたい」
『いいだろう。何を知りたい?』
「まずは神崎・H・アリアについてだ。性格や経歴などは私の方で個人的に調べて大まかに理解している。武偵高での人間関係などについてまでは手が回らなかったから教えて欲しい」
『そうだな……彼女にも親しい人はそこそこいる。まず、遠山 キンジと白野 霧。この2人は彼女に"それなり"に協力的だ』
それなり? つまりは積極的ではないと言う事か。
もしくは、親しいと言ってもまだまだ浅い関係と言う事だろう。
『あとは、
「ウルスだと?」
『そうだ。5年前に父上――シャーロックがイロカネで交渉に行ったモンゴルの少数民族。彼女は神崎と一緒に時々行動しているみたいだが……友人と言うよりはどちらかと言うと仕事仲間だ』
ジャックは言外にあまり警戒しなくていいと言うニュアンスを含めてそう言った。
『そして、彼女の
電話の向こう側で楽しそうな声を弾ませるジャック。
まるで、秘密を話すのを楽しみにしてる子供のようだ。
『遠山 キンジは……兄とは違って臆病者。自分の才能と向き合う事をしない臆病者。いつまでも死んだと思ってる兄の事を引き摺りながら、今を見ようとしない臆病者。そんな彼を見ているのがそれなりに愉しいんだがな。クスクス』
声だけでも狂気が見え隠れする。
『兄を引き合いに出せば揺さぶるのは簡単。神崎に関しても同様で母親の事を出せば、理性を失うほど取り乱しはしないだろうが容易に火が付きそうだ』
「白野 霧と言う人物に関しては?」
『彼女は、そうだな。2人とは違って冷静沈着のマイペースで、それなりに実戦経験も豊富だ。神崎ほどではないけど勘も良い。
そして、相も変わらず分析力は高い。
私の欲しい情報を色々と話してくれる。
情報と言うのは武器だ。
特に、私のように策を張り巡らす者にとってその鮮度や精確さは重要なものになってくる。
人に近づき、本人から情報を得たり実際に見たり聞いたりするアナログ的なやり方だが……だからこそジャックの情報は精確でもあり、信用できる。
味方であれば頼もしいが、だからこそ敵に回したくはない。
『最後に星伽 白雪。彼女はそれなりに優秀で、周りから浮いている。他の生徒も彼女を一歩引いたような形で見てるおかげで友達と呼べるような人物は数少ない。特に、遠山 キンジに関しては昔馴染みと言う事もあって心をかなり許している。利用しない手はない』
「そうか」
『もっと詳しい事を言おうか? 遠山は
「……なるほど」
狙い目と言う事だろう。
それに、ファミレスで見た様子からしても積極的ではなさそうだったからな。
「話は変わるが、夾竹桃に関してなのだが」
『ああ、あの子か? 彼女なら夏コミに出る事を条件に司法取引を済ませた』
夾竹桃、それでいいのか……
いや、彼女ならばやりかねん。
「分かっていた事か……」
それが彼女の趣味だ。理子と同じようなオタク趣味。
そして、何故かは分からないが彼女の本はよく売れる。
しかし思うのだ。
サークル名を『イ・ウー屋』とするのはどうかと思う。
今までよくバレないものだ。
灯台下暗しと言うやつだろうか?
『彼女に関しては心配しなくていい。自分の事に集中することだ』
「言われなくても分かってる」
『制服がカワイイからと
「……まま、待て。何の話だ!?」
『反応が遅いな。なぜ間が空く?』
いや、それよりも――まさか。
「貴様、見たな……?」
『何の話だ?』
「ここに来てとぼけるな! わわ、私が1人で愛らしい服に憧れを持っているのを貴様は知ってるのだろう!?」
『おや、そうだったのか。てっきりモデルにでもなりたいのかとそれなりに思っていたよ』
いつものようにのらりくらりと……!
だからこそ、ジャックは苦手なのだ。
だが、ここで反応しては余計な揚げ足を取られるだけ――
『ふふ、存外にもこの服もいけるな。私もまだまだ捨てたものではない』
反応しては……
『なぜ私はこんなにも長身なのか、せめてもう少し身長が低ければ……』
「ええいっ! 私の声で再現するな!!」
さすがに自分の声を真似されて事実を繰り返されると腹が立つ。
それに、どれも言った覚えのある言葉だ。
イ・ウーで任務に出払った者が多かった時期を狙って1人、普段は着ない服に着替えていたがそこを見られたか!
『失礼。聖女の着替えを見るなど紳士として忍びなかったが、存外よかったぞ』
「お前は今、女性だろう! せめて淑女と言え!」
『指摘する場所がずれているが、まあいい。これだけ情報を与えればそれなりに充分だろう。私はこれで失礼させて貰う』
「待て」
『何だ?』
思わず呼び止めてしまった。
私がジャックに連絡するのを躊躇した理由。
それは、理子のことだ。
余計な詮索をすると危ないのは承知の上だが……友としてどうしても放っておけない。
こいつが理子についてどう思ってるのか、止めた以上聞かなければならない。
「最後に聞きたい事がある。理子についてだ」
『あの子がどうかしたか?』
「理子はお前のお気に入りなはず。お前は理子の異変に気付いてるのではないか?」
『それを知ってどうする? 貴様には関係ないこと、と悪役の
やはりそう簡単には真意を掴ませないか。
分かってはいたが、それでも妙にイラつく。
「実際、お前は理子をどう見てるんだ。仲間か? それともカナと同じように観察対象か?」
『後者だ』
「――ッ!!」
その即答に思わず怒鳴りそうになる。
が、唇を噛んで耐える。
『冗談だ。そう怖そうな息遣いをするな』
「………………」
『心配するな。あの子はそれなりに大事だからな。ヒルダやブラドのような扱いをするつもりは毛頭ない』
「それは本当か?」
『さて、どうだろう。なにせ私は気まぐれだからな』
そんな意味深な言葉を残してヤツは電話を切った。
結局……何も分からなかった。
いつも通りに何も掴ませないままだ。
なんだ……このもどかしさは。
なぜこんなにも苛立つ。
言葉に出来ない何かが心の底から込み上げてくるようだ。
(理子、私にはお前があいつを慕う意味が分からない)
静かにそう思い、窓の外に映る景色に目を向けながらも、私は遠山達の監視を続ける。
何かを振り払うように。
はてさて、シリアスはともかく……ユーモア溢れるギャグシーンが欲しい所。
人のを見ては取り込んで行こうと思ってはいますが自分流にするにはなかなかに難しい。
そして、着実にジャンヌさんにフラグが立ってる気が……