緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

43 / 114
どうも、毎度おなじみ作者です。
感想欄を見ていたのですが、フォローのコメントがたくさんあり嬉しい限りです。
私は良い読者に恵まれていると感じるばかりです。

ちょいと最近は別の小説を書こうにもメインであるこれ以外に時間を取ることが難しくなってきています。
ブラック・ブレット……ちょっと書いてみてーなー、でも天人様も話進ませたいな~。
そんな感じです。
オリジナルも書いてみたいとかも思ってるんですが、時間を作っても別の私情で消えていくと言う……

今回の注意事項

・これまたほぼ再構成
・いじられジャンヌさん
・シリアスになりきれない
・2万文字突破

以上です。


42:銀幕の劇場

「おい、しっかりしろ! 霧!」

 駆け寄って肩を軽く揺するが、反応がない。

 頭が無造作に揺れるだけ。

 目立った外傷はない。

 首の動脈に指を当ててみる。

 脈は……ある。

 どうやら気絶してるだけらしい。

 一安心すると同時に、後悔の念が生まれてくる。

 俺が、バカだったばかりに……こんな事態を招いちまった。そもそも霧は俺に注意してくれてたんだ。

 アリアと喧嘩したあの日に……

 なのに俺は話半分で聞いてた。

「悪い」

 顔を伏せて、聞こえてないかもしれないがそう言うしかなかった。

 そんな時だった。

 

「謝罪するくらいなら人の忠告はちゃんと聞くことだね」

 

 いつもの陽気な声が聞こえた。

 伏せていた顔を上げれば、いつもみたいに霧が微笑んでいた。

「お前……大丈夫なのか?!」

「気絶のフリをしてただけだからね」

「ならさっさと反応しろよ……」

「ごめんごめん。それよりも、氷を何とかして欲しいかなーなんて」

「あ、ああ」

 俺は慌ててバタフライ・ナイフを出して、ガシガシと霧の足首にある氷を削る。

 間違って肌を傷つけないように少し集中する。

 が……そのおかげで否が応でも霧の、女の子特有の柔肌の脚が目に入る。

 クソ――さっきの反省から一転して不謹慎な感情を持つなよ、俺!

「キンジ、変なところ見てない?」

「……見てねえよ」

 とっさに俺は返したが、アリア程じゃないにしてもそこそこに鋭い霧は気付いてるようだ。

「まあ、別に見るのも触るのも構わないんだけどね。やりにくかったら、脚を掴んでもいいんだけど?」

「おい、やめろ。こんな時に限って変な事を言うな」

 少し顔を見れば霧はいつもの調子の笑顔だ。

 こんな非常時に余裕な事だ。

 さっきの俺の心配を返せ。

 なんて思ってる内にも両方の足首の氷が剥がれた。

 そこから会話はなく、すぐに両手の氷も剥がし終える。

「やっと窮屈な体勢から解放されたよ」

 霧はそう言って立ち上がると、大きく腕を上げて背伸びするが……右腕だけおかしい。

 ぶらぶらと垂れ下がってる。

 本人も違和感があるのか、自分の右腕を見て溜息を一つ吐く。

「はぁ……外れちゃってるか」

「脱臼、してるのか?」

「みたいだね。ヒビも入ってるかも、ただ外れてるだけならいいんだけど……」

 それから霧は左手で自分の右腕を掴んだかと思うと、

「んっ……」

 ゴキ! と言う音がした。

 こいつ……自分で肩を治しやがった。

 さすがの俺も若干引いた。

 霧は治した肩の調子を確かめるように、少し肩を回してる。

「やっぱり違和感が残るね」

「当たり前だろ。それよりも――」

 改めて、俺は霧に謝りたかった。

 だけど……何て言っていいのか分からない。

 真っ直ぐに霧の顔を見れない。

「ま、言いたい事は分かるよ。だけど、そう言うのは全部終わってからにしてね。まだ"何も解決してない"んだから」

 ズバリと、霧に正論を言われる。

 そうだ。

 何も解決してない。

 犯人を捕まえた訳でも、白雪を解放出来た訳でもないんだ。

「そう、だな……その通りだ。霧、協力してくれるか?」

「友達を救うのは、当たり前の事なんじゃないの?」

 俺の背中を押す言葉をこいつは掛けてくれた。

 謝罪を求める訳でもなく、責任を追及する訳でもなく、許してくれたのとは違うが……少なくとも気にしてない。

 そんな風に聞こえた気がした。

 俺と霧はすぐに白雪の所へと向かう。

 辿り着けば、どうやら白雪はまだ解放出来てないらしい。

 アリアはこちらに気付くと、

「あんた……よかった。無事だったのね」

 そのまん丸の赤い瞳を開けてから、優しそうな声音で霧を心配していた。

 霧は相変わらずのからかうような調子で、

「なに? 心配してくれてるの?」

 と言う。

「別に……あんたの事だからどうせ何食わぬ顔して戻って来ると思ったわよ」

 ツンとした口調で返した。

 短期間で霧の事がよく分かってるな、アリア。

「よかった……霧さん、無事で」

 一番心配してた白雪も、目の端に涙を浮かべながらも笑顔で答える。

「無事って言っても、さっきまで右肩が外れてたんだけどね。あと、私の靴知らない?」

 なんて言いつつも、霧は白雪の拘束されている鎖に手を掛ける。

 氷を剥がす時に気付いていたが、霧は何故か靴を履いていない。

 今は探してる暇もないのは分かってるからか、靴の事はそれ以上気にせずに霧は俺の拳より少し大きめのドラム錠を見る。このドラム錠は3つもカギがあるかなりの難物だ。

 俺が霧を探してる間にもアリアは解錠(パンプ)キーで解除しようとしていたようだが、未だに1つも開いていない。

 かなり複雑らしい。

 鎖も、工業で使いそうな分厚いものだ。アセチレンバーナーとかの道具がないと切れそうにもない。

 銃で粉砕する? バカな事を考えるな。ここは火薬庫だ……跳弾して引火したらどうする。

 パイプは塩化ビニルじゃない。普通に鋼鉄だ。

 ドラム錠を外すしか白雪を解放する手段はなさそうだ。

「ごめんなさい。皆に黙って……特に、アリアにはヒドイことばっかりしてたのに……助けに来てくれて、ありがとう」

 突然の白雪の謝罪と感謝に、アリアは照れくさそうに顔を赤くする。

「ふ、ふんっ。あたしはただ単に魔剣(デュランダル)を捕まえたいだけよ。それに、これは依頼だからあんたを守ってるだけ……だから感謝されるような事はしてないっ」

 言いながらもアリアは、ドラム錠の解除の手は休めない。

 いまいち言動と行動が噛み合ってない気もするが、それは置いておこう。

 それよりも、1つ気になる事があった。

「そう言えば霧、お前。白雪の事に気付いてたみたいじゃないか……どうして俺達に前もって知らせてくれなかったんだ?」

 自分の事を棚に上げるみたいで聞きづらかったが、何で1人で突っ込むような真似をしたのかが分からない。

「そうよ! あんたから伝言を預かった子から話を聞いたら、まるで前から知ってたみたいじゃない」

 アリアも納得がいかない様子だったのか、手は動かしながらも少し霧を睨む。

 対して霧はどうしたものかと言った感じに少し腕を組んで、話し始める。

「まあ、確かに知ってはいたよ? でもさ、あの時2人に知らせても足並みが揃わないと思ったんだよね。キンジなんて、脅迫メール見せた所で誰かの性質(たち)の悪いイタズラだって言いそうだし――」

「うっ……」

「神崎さんに関しては、待ち伏せして魔剣(デュランダル)を捕まえるなんて言い出しそうだし」

「うっ……」

「だから、知らせるのは魔剣(デュランダル)の姿がちゃんと確認出来た時にするつもりだったんだよ。先に向こうに見つけられたけどね」

 霧の言う事には一理あった。

 確かに、白雪が脅迫された事を霧が言ったとしても……俺は信じなかったかもしれない。

 性質の悪いイタズラ……そう判断しただろう。

 そう思われたって言う事はつまり、霧は俺の事を信用出来なかったって事だ。

 相手はやり手の犯罪者。

 アリアと足並みが揃わなければ、それこそ取り返しのつかない事になる。

 そう考えて、あえて俺達に言わなかったと言う事だろう。

 アリアは1つ気付いたとばかりに霧に尋ねた。

「あんた、もしかして魔剣(デュランダル)の姿を見たの?」

「見たと言えば見たけど……見てないと言えば見てない」

「ハッキリしなさいよ!」

 アリアの問い詰めに対して霧は、白雪を指差す。

 白雪がどうしたって言うんだ?

 どう言う意味か分からず、霧以外の俺達3人は顔を見合わせる。

魔剣(デュランダル)は、白雪に変装してた。だから、本当の姿は見てない」

「私……に?」

「そう。見ただけじゃ分からない、高度な変装だったよ。カマ掛けなかったら分からなかったし」

 霧から聞かされた事に、俺とアリアは驚く。

 それから霧は続ける。

「それで、こんな事言いたくないんだけどね。目の前の白雪は本当に白雪なのかなって、疑ってもいるんだよね」

「……え?」

「拘束された白雪を装って、本物は別の所にいるとかね。だから白雪かどうかを確認するために質問させて欲しいんだ。例えば、キンジの誕生月」

「えっと、7月」

「身長は?」

「170センチ」

「体重」

「63キロ」

「血液型」

「A型」

「おい……」

 血液型と誕生日はいいにしても、何で身長と体重まで知ってる……

 霧は俺の反応を見て、にこやかに言う。

「どうやら本物みたいだね」

「しかし、白雪に化けるなんてね……」

「私達が追ってくる事を考慮して、変装してたのかもね。油断は誘えそうだし」

魔剣(デュランダル)は姿を見せないらしいし……本当の姿を見てないって言うなら、想定内よ」

 どうやら、アリアは俺のいない間に随分と魔剣(デュランダル)について詳しくなったらしい。

 霧の言う事に1人納得している。

 もしやと思い、俺は気になっている事を尋ねる。

「なあ、アリア……さっきの氷なんだが」

 何もない所から突然に現れた氷。

 霧も俺と同様に氷に拘束されていた。

 床に何かある訳でもないし、液体窒素などの冷却性のあるものでやられた訳でもない。

 本当に突然に氷が現れたのだ。

 その正体をアリアはあっさりと言った。

「あれは"超能力"よ。超能力(ステルス)って呼ばれてるわ」

 ……ああ、分かってはいたよ。

 だけど、聞きたくはなかった。

「多分、だけど……あれは『Ⅲ種超能力(クラスⅢステルス)』で、魔法使い(マツギ)の部類だよ」

 白雪はそう言うが、いつからファンタジーな単語は普通に使われるようになったんだ……

「よりによって魔法使いね……その割には、物理的にも強いって言うから驚きだけどね」

「当たり前よ。魔剣(デュランダル)は剣の名手でもあるんだから、ゲームみたいに物理に弱いって訳じゃないわ」

 霧とアリアはなんともなさそうに言い、普通に会話してる。

 俺としては頭を抑えてこう言わざるを得ない。

「ありえねえ……」

「受け入れなよ。これが現実なんだし、目を背けたところでどうあっても付きまとってくるよ?」

 相変わらず手痛い事を言ってくれる。

 頭では理解していたつもりだ。武偵高にだって超能力捜査研究科(S S R)がある事から、超能力の存在はまことしやかに囁かれてもいるし……事実、解決した事例もある。

 だが、あそこは一種のブラックボックスだ。俺に従順な白雪だってあまり話そうとしないし秘匿性が高い。

 だから胡散臭がられてもいる。

 特に、俺みたいに一般人希望の奴はそんな胡散臭い場所を避けて来たんだ。本当の所なら白雪を連れて逃げたいところだ。

 だけど……今回は俺の鈍臭さが霧や白雪を危険な目に合わせてしまったんだ。

 さすがに自分の尻拭いはしないといけない。

 本音を言うと、霧にまた貸しにされたくない。

 いや、もう遅いかも知れんがこれ以上大きくしたくない。

 俺が溜息1つを吐くと同時にアリアが話しかけてくる。

超能力(ステルス)なんて大したことないわ。あたしの経験上で言えば大道芸や手品みたいなモノよ」

「そうかよ……。それよりもまずは白雪の拘束を何とかしないといけないんだが、霧……何か持ってないか?」

「そこまで私は万能じゃないんだけどね。何かあったかな?」

 何かあるのかよ……

 と思えば突然に霧はスカートの端を持ち上げ、広げ出す。

「お、おい!?」

 思わず視線をあさっての方向へ。

 危ねえ……一歩間違えてたらヒスるところだ。

 ギリギリ中身は見えてない。

「霧さん!?」

「あ、あんたねえ! 突然に何してんのよ!?」

 突然の霧の行動に白雪とアリアが順番に驚く。

「大丈夫、中はスパッツだから」

「そう言う問題じゃなーい!」

 アリアに怒鳴られている霧の顔を見ると、にやりと言った感じの顔をしてる。

 霧のヤツ、俺をヒステリアモードにさせるつもりだったな。

 今の俺が役に立つにはそれしかないだろうが、もう少し周りを見ろ。そう言う意味を籠めてアリアに視線を向けた後に霧に戻す。

「閃光手瑠弾くらいしかないね」

 それだけ言って霧はスカートを元に戻す。

 それから肩を竦めた。

 どうやら、俺の視線の意図が分かったらしい。

 対してアリアは呆れるような顔をした後に真剣な顔で言った。

「全く……それよりも、あんたと霧は白雪を解放したらとっとと逃げなさい。ここからはあたし1人でやるわ」

「いきなり何だよ? アリア」

 俺は思わず尋ねた。

「そのままの意味よ。霧とキンジは超能力(ステルス)持ちのヤツとの戦闘経験がないでしょ? 霧はどうかは分からないけど、負傷してるし……キンジに関しても『覚醒』の訓練も仕上がってないじゃない。だから、あたし1人でやる」

 アリアがそう言うと同時に、ズゥン……と言うくぐもった音と共に倉庫が少し揺れた瞬間、排水穴から水が逆流し始める。

 アリアの決意に文字通り水を差すようにして溢れてくる。

「海水、か。どこか排水管でも壊したのかな……それに戦力を分断しに掛かってきたりしてる事から、結構な策士っぽいね。誰かさんの弱点もリサーチ済みみたいだし」

「ち、違うわよ! 弱点じゃなくて苦手なだけ! それに浮き輪さえあれば――」

 冷静に分析するように言う霧に対して、アリアは慌てる。

「そんな都合よくある訳ないけどね」

 そして、霧はバッサリだ。

 そんな短いやりとりをするだけでも、みるみる倉庫内の水位が上がってきやがる。

 さっきまで足首までしか海水がなかったのに今では、膝まで上がってきている。

 このペースだと、もって10分って所だろう。

 今俺にやれる事は――

「アリア、霧。先に上に行け」

「何を言ってるのよ……あんた達を見捨てて行けって言うの!?」

「違う、見捨てろとは言ってない。ここは俺が何とかする。だから、お前ら2人で魔剣(デュランダル)を探して鍵を奪ってきてくれ。今ここでヤツにとんずらされたら、それこそ終わりだ」

 俺の言葉にアリアは、躊躇うように目を伏せる。

 だが、霧なら今の俺の目を見れば分かってくれるはずだ。

 不意に、視線が霧と交わる。

 たったそれだけで霧はコクリと頷いた。

「ほら、神崎さん。とっとと行くよ」

 それだけ言って霧は天井の穴――上の階へと続くハシゴの方へと向かう。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 アリアの抑止の声も聞かずに霧は先へと進む。

 一度、霧を追い掛けようと前に進むがすぐにアリアは心配そうにこちらを向いた。

 俺はアリアの背中を押すように叫ぶ。

「行け! お前と霧なら魔剣(デュランダル)を早くブチのめせるはずだ! 霧は俺と同じで超能力者との戦闘経験は少なくても、実戦経験は豊富だ。立ち回り方を間違えたりしねえ!! だから早く行け!!」

 ケンカ以外でアリアが俺に怒鳴る事はよくあったが、逆に俺が怒鳴る事はあまりない。

 俺の顔を見て、真剣な表情なのが分かったのかアリアは自分の手に持ってる物に目を落とす。

 それから、俺の手へと解錠(パンプ)キーを渡した。

「……分かったわ。でも、もし危なくなったらあたし達を呼ぶのよ! いいわね!」

 最後に水の高さを見て、アリアは悔しそうな顔をしながらも霧の後を追った。

 悪いな、アリア。

 一応この場で覚悟を決めたとは言え、あまり知られたくないんだ。

 魔剣(デュランダル)は……白雪と話している時に言った、俺は兄さんと違って臆病だと。

 ああ、そうだ。

 俺は兄さんと違って臆病だ。

 兄さんが死んでからこの力を使う事に迷いもあったし、逃げてきた。

 一般人になろうとして面倒なことからも逃げてきた。

 だけどな……ここで何もかも投げ出したらそれこそ本当の臆病者になっちまう。

 俺の家族に、友人に、アリアに、体を張って白雪を守ろうとしたアイツにも顔向けできねえ。

「キンちゃん……私の事は、もういいの……」

 白雪は俺にそう切り出す。

「なんだよ突然」

「私のせいでこんな事に、なったの……これ以上、キンちゃんに迷惑掛けたくない」

 段々と差し迫る水の上に流れる涙。

 俺思いの白雪らしい言葉だ。

 こんな事になったのがお前のせい? そんな訳ねえだろ。

 お前が狙われた事には、何の罪もない。向こうが勝手に狙ってきただけの話だ。

 むしろこんな事になったのは……俺のせいだ。

 狙われてる事に気付かず、いないなんて決めつけて、魔剣(デュランダル)の目論見通りにアリアを遠ざけて……事態を悪化させただけだ。

 これ以上、迷惑を掛けたくないのは俺の方だ。

「白雪、昨日花火大会に行く途中でお前が自分から外に出るなら……一緒に買い物にでも何でも付き合ってやるって言っただろ?」

「それは、もういいの……昨日の花火大会のおかげで、思い残す事なんてもうないよ」

 俺は霧みたいに嘘を見破るのが得意じゃない。

 だけど、そんな俺でも分かる。

 今の白雪は嘘をついてる。

 思い残す事がないなら何でそんな悲しそうな顔をする? 何で涙を流してる?

 お前にだってまだやりたい事もあるし、知りたい事もあるんじゃねえのか!

 遅いかもしれないが、今から勝手に色々と"果たさせて"貰う。

 もう既に水は俺達の胸にまで迫ってる。

 時間はない。

「なあ、白雪。昨日、人工なぎさでお前は俺に1つお願いしたよな」

 そう……俺に滅多にお願いや頼みを事をしない白雪が望んだ1つのこと。

「キン、ちゃん?」

 白雪は俺の真剣な雰囲気を感じ取ったのか、不思議そうに俺を見ている。

 俺は自分の意志で"あの力"を使う。

 もちろん、今回の事に責任を感じていない訳じゃない。だけど、責任感からじゃない。

 それ以上に俺は今ここで逃げたくないんだ。

 こんな形で悪いが、白雪。

 

「今から昨日の約束を"果たさせて"貰う」

 

 そう伝えてから白雪の肩を掴み俺は――白雪と唇を重ねた。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 キンジ達を置いて、私は一足先に上の階である6階で神崎と一緒にジャンヌを探している。

 この階は、どうやらスーパーコンピューターが立ち並ぶ場所みたいだね。

 集積回路とシリコンの壁、そしてLEDが点滅しているのが見える。

 それにしても、我ながらいい感じに演出できたんじゃないかな?

 どうやらあの様子を見るに上手くキンジを焚きつける事にも成功したみたいだし。

 それはそうと、私の靴は今頃水の中か……別にいいんだけどね。

 だけど靴下だから床の冷たさが直に伝わってくる。

「あんた、本当に大丈夫なの?」

 歩いている途中で神崎が突然に声を掛けて来た。

「なにが?」

「さっきまで、右肩が外れてたとか言ったじゃない」

「ああ、あれね……無理矢理ハメ直したよ。動かすと違和感があるけど、使えない訳じゃないからね」

 手足も凍ってたけど、凍傷にはなってないみたいだし。

 そう言えばジャンヌは私を白雪みたいに拘束しなかったけど……気絶してると思ってたから、そのまま海水で溺れさせるつもりだったのかな?

 多分、そうなんだろう。

「そう……それと、どうしてキンジ達をあんたはすぐに置いて行ったの?」

 まだ置いて行った事に未練を感じてる様子だね。

 まあ、普通に考えても今のキンジ達があの状況を打開できない。

 ドラム錠を解錠する前に、2人とも水の中だろうね。

 だけど、あの時のキンジの目は決意を固めたやる気の目だったから問題ないとも判断したんだけど……神崎は見てなかったみたい。

「私はキンジが何とかするって言ったから信じただけだよ」

「そんなの、詭弁(きべん)よ……」

「そうかもね。白雪が狙われてる事を知った時に教えなかったのはキンジが信じられなかったけど……今のキンジは信頼できる」

 そもそも教えなかったのはワザとだけど。

 実際、頼りなかったからね……あの時のキンジは。

「どうして?」

 神崎は不思議そうに聞いてくる。

 キンジの口調とか顔を見てたら分かると思うけど、さすがのSランク武偵さんもそこまで気が回らなかったみたいだね。

「さあ? どうしてだろうね」

 私ははぐらかすようにワザとらしく(とぼ)ける、笑顔を交えて。

「………………」

 それから少しばかり冷たい視線を浴びる。

 おかしいな、てっきり神崎の事だから私に突っ掛かってくると思ったんだけど。

 そう考えていると、神崎は少し溜息を吐く。

「はぁ……まあいいわ。あんたがそう言うんなら、キンジを信じるわよ」

 ん~? 何か、心境の変化でもあったのかな?

 もしかしたら、パートナーが何たるかって言うのがちょっとは分かったのかもね。

 

 

 大分、奥まで進んでエレベーターホールまで来た。

 あまり神崎と離れないようにして周囲を調べる。

 私はさらに上の階へと続く天井の扉を確認するけど、どうやら鍵は壊れてるみたいだね。

「そっちはどう?」

「ああ、どこの扉の鍵も壊されてるし使った様子もないよ」

「こっちもよ。エレベーターは全部内側から鉄板で塞がれてるわ」

 私が調べた事を言うと、神崎も見に行ったエレベーターの様子を伝えてきた。

 ふ~む、自らの退路を断ったのか……はたまた私達を逃がさないためか……

 意味合いとしてはどちらもありそうだね。

 そう考えていた時、

 ――……ぉぉぉぉっ!

 向こうから気合いの入った声が聞こえた。

 神崎も聞こえたらしい。

「今のは……キンジ?」

「多分ね。反響して場所が分かりづらいけど、確かなら……私達がこの階に上がって来た時に使ったハシゴの方向だと思う」

 私がそう言うと、神崎の答えは早かった。

「もしそうなら早く行きましょう」

「キンジが心配?」

「ええ……って違うわよ! あたしが心配してるのは、白雪の方よ!」

 今、本音が少し出たよね。

 録音しておけばよかったかな?

 なんて思ってる内に神崎は、先へと進んで――

「早く合流するわよ!」

 と急かす。

 ほんと、言動と行動が一致しないよね。

 私もハシゴから降りて、神崎の後を追う。

 

 

 サーバーの通路を足音を殺しながら、迅速に移動していると角から突然に人影が見える。

 私と神崎はそれぞれ銃を抜いて突き付ける。

 向こうも、私達に銃を向ける。

 鉢合わせした瞬間、

「――キンジ」「霧とアリアか……」

 神崎とキンジがお互いに会った人物の名前を呼ぶ。

 それから私達もキンジも銃を静かに下ろす。

 そして、私は気付いていた。

 この雰囲気……HSSになってるね。

「無事だったのね……」

「ああ、か弱い2人を置いて逃げるほど――臆病者じゃないからね」

 神崎の言葉に、キンジは息を含んだ囁き声で返してきた。

 う~ん、相変わらず何と言うか……扇情的な声だね。

 まあ、変声術が使える私からしたらそれぐらいの事はお手の物だから特に驚く事でもないんだけど……

 そして、キンジに似て初心(うぶ)な誰かさんは――

「か弱いだなんて、な、何よ突然っ!」

 銃を持ったまま両手を胸の前で交差させて、赤くなる。

 それからキンジに向かって私は少し皮肉の言葉を贈る。

「遅かったね」

「ああ、悪かったよ。今度、埋め合わせをさせて欲しい」

「ほんとに?」

「もちろんだよ」

 よし、言質は取った。

 私は即座に話を切り替える。

「ところで、白雪は?」

「そう、そうよ! あんた、白雪はどうしたの!?」

 私に続いて、神崎も(まく)し立てるように聞いた。

「白雪なら無事に救出したよ、特にケガもない。ただ、下の階の溢れた水に押し流されてここで見失ってしまったんだ。一応、補助刀剣(サブエッジ)は出しておくように指示は出しておいたが……早く合流した方が――」

 キンジの話の途中で、「けほっ」と言う誰かが咳き込む声。

 この場の全員が聞こえたのか、首をそちらに向ける。

 そして、アリアが呟く。

「白雪だわ……」

「みたいだな……だが、どこにヤツ(デュランダル)が潜んでるか分からない。俺が先頭に立ってクリアリングをする。アリアと霧は後に続いてくれ。それと霧、白雪に近付いたら念のために伏兵(アンブッシュ)を頼む」

 さすがはHSS、状況判断と指示が早い事だね。

 この状況――つまりは私が既に白雪に変装してる魔剣(デュランダル)の事を教えてるからね。

 次に会った白雪が本物とは限らない。

 それに、私は軽く右肩を負傷してる。

 もし、今から会う白雪が変装で戦闘になった場合……負傷してる私が正面から闘うのは危険だと判断したんだろう。

 だからキンジは3人で一緒に行くんじゃなくて、私を伏兵にした――って所かな。

「分かったよ」

 私が笑顔で答えた横目で、神崎は紅い目をキンジに向けていた。

 多少の驚きを含んだその視線は、"何かに気付きかけている"様子だった。

 

 

 それからすぐに白雪は見つかった。

 見つかったけども……私は指示通りに白雪の死角へと回り込み、サーバーの影へと潜む。

 それから少し遠目に白雪を監視するように見る。

 アレは……『偽物』だね。

 巫女装束、と言うか全体的に濡れてるあたりから本物臭く見えるかもしれないけど、体のラインが妙にくっきりしてる。

 甲冑(かっちゅう)ぐらい外しなよ……変装してる事がバレてる可能性を考慮してるのは分かるけどさ。

 だったら「本物か? 偽物か?」って疑わせるくらいには完成度を高めて油断を誘った方がいいと思うんだよね。

 まあ、慎重な策を用いるジャンヌらしい判断だと言う感じはするよ。

 だけど、ちょっとした大胆さは欲しい所だね。

 なんて心の中でダメ出しをしてる間にも、キンジと神崎は白雪(ジャンヌ)に近付いて行く。

 そして、私は聴覚に意識を……鋭敏になるように集中させる。

「白雪っ」

 声を出して神崎は白雪に大きく近づこうとするけど、キンジが後ろから彼女の制服を掴みそれを止める。

 白雪(ジャンヌ)に見えないようにしてるあたり、巧妙だね。

 気付いたのかな?

 と思いきや、神崎の前に少し出てから一緒に足並みを揃えて周りと警戒しながら白雪(ジャンヌ)に近付いて行く。

 まあ、その警戒する対象に白雪(ジャンヌ)も含まれてる訳だけど……

 それから一定の距離を置いて、止まった。

「白雪、唇……大丈夫か?」

 キンジが、そう確かめるように聞いた。

 それに対して白雪(ジャンヌ)は、

「う、うん。大丈夫だよ……口の中を少し切っただけだよ」

 そう答えた。

 引っ掛けにまんまと掛かったね。

 キンジの目付きが確証を得たとばかりに細められた瞬間、ベレッタを白雪(ジャンヌ)に向ける。

 対してジャンヌも、「ちっ」と唇を歪めるとキンジに銃を向けられる前に巫女装束の白小袖を振るう。

 水に濡れたそれは鞭のように(しな)って、キンジの腕を弾き、初弾を外させた。

 見当違いの方向に放たれた銃弾は近くのコンピューターサーバーへと直撃する。

 神崎も魔剣(デュランダル)が白雪に変装してる事を私を通じて知っている。

 だから、キンジが銃を向けた瞬間に偽物だと神崎は気付きキンジの背中の影から飛び出そうとする。

 が――

 パキパキと言う音と共に、私と同じで足を氷で捕らえられた。

 動けない事に神崎は驚きを隠せないでいる。

 キンジも気付いたみたいだけど、神崎とまとめて足を凍らせられたらしい。神崎と同じように動けない。

 その間に白雪の姿をしたジャンヌはコンピューターラックの下に隠してあったのだろう日本刀を取り出し、(あか)い鞘を投げ捨て、狙いを定められる前に動いた。

 ジャンヌは、彼女から見て左に存在する神崎に向かって走る。

 キンジはすぐに神崎の足の氷を撃ち抜き、続いて自分の足の氷も粉砕してから再びジャンヌに銃口を向けるけど――もう撃てない。

 神崎は既に盾にされている。

 頸動脈に刃を置かれて――

 どうやら神崎もジャンヌが向かって来た時に迎撃しようとしたのか、両手にガバメントが握られているが……対象を見失ったようにぶらりと宙に浮いている。

 見失ったと言うよりは、遅かったと言う方が正しいかな?

「――只の人間ごときが、この私に抗おうとはな」

 声だけが元のジャンヌのものへと戻り、キンジと距離を取る。

「やっぱり、魔剣(デュランダル)……!」

「あまり私をその名で呼ぶな、ホームズの4世」

「だったら、あんたもあたしの事をちゃんと呼びなさいよ! どうせ、あたしの事も知ってるんでしょ!? あんたがママに着せた107年分の冤罪……忘れたとは言わせないわよ!!」

 噛みつくのはいいけど、状況を見なよ……

 私と同じ事を思ったのかジャンヌは一笑する。

「フッ……自分の状況を(かえり)みるのだな。威勢がいいのは褒めてやるが、今の私は貴様を好きに出来るのだぞ?」

 そう言って、ジャンヌが日本刀を持ってない左手で神崎の手に触れる。

「ひあっ!?」

 短い悲鳴を上げたかと思うと、神崎は白銀のガバメントを床に落とす。

 そして、落としたガバメントは床と一緒に凍っていった。

 反射的に跳ねあがった銃が握られているもう片方の手に、ジャンヌは息を吹きかける。

「くぅ……!」

 また神崎は声を上げながらのけぞって、漆黒のガバメントも落とす。

 おーおー、見事に無力化してるね~。

「敵の手の中で、こうも簡単に無力化されてしまうとは……無様な姿だな」

 白雪の顔で目を鋭く細め、表情を歪める。

 普段がちょっとアレだから……私としては今のジャンヌの姿に少し感動を覚える。

「――ッ! キンジ……撃ちなさい!!」

「無駄だ。確かに私の変装を見破ったお前は"普段"とは違うのだろう。だが、"今のお前"は人質に手出しが出来ない……違うか?」

 計算高いことで……

 神崎はジャンヌを引き剥がす事を第一に考えてるみたいだけど、キンジが日本刀を持ってる手を撃てば……反動で神崎の首が斬れる。

 キンジはその事をジャンヌの手の位置から分かってるだろう。

 それに今のキンジは女性に対して砂糖菓子みたいに甘い。

 ジャンヌを撃つにしても、傷が残るような場所は撃たないだろう。

 だから余計に選択肢は(せば)まる。

 さすがのHSSの状態のキンジでも、この状況の打開策は見つからないらしいね。

 汗を1つ流して、言葉を紡ぐ。

魔剣(デュランダル)――なぜ、白雪を狙う?」

「遠山、2度も言わせるな。私は他人に付けられた名前――と言うより通称は好きではない。私の名前はジャンヌ、ジャンヌ・ダルクだ」

「……面白い冗談だ」

「貴様が信じようと信じまいとどうでもいい事だ。だが、それが真実だ」

 その事に神崎が噛みつく。

「なに? あんた、もしかしてその生まれ変わりだなんて言うんじゃないでしょうね!?」

「そんな事は言わん。私がその血を引く者と言うだけだ……」

「ウソよ! ジャンヌ・ダルクは異端審問で火刑に処された! 子供を産んでたなんて話は聞いた事もないわ、子孫なんているはずない!」

「真実は違う……火刑に処されたのは影武者だ。貴様らが知っている話など、所詮はでっちあげの伝承に過ぎない。世の中にはそう言う(うず)もれた真実が多いと言う事を覚えておくといい」

 そうだね。

 お父さんとか理子とか私とかいるからね。

 って言っても……私は自分のルーツを知らないんだけど。

 ふむ……それにしても、この様子だと私に気付いてる感じはないみたいだね。

 キンジ達が来るまでは神崎と一緒に結構動き回ってたんだけど……見られていなかったらしい。

「そして、遠山。私が星伽を欲しがる理由を貴様は聞いているはずだ。あの時に盗み聞きをしていたのだからな」

「違う。俺が聞きたいのは、イ・ウーとやらが白雪を欲しているのかって事だ」

 ジャンヌの言葉に対してキンジはそう返す。

 う~ん、膠着状態。

 私に合図でも送って来るのかと思えば、そんな様子はない。

 さては……私を気に掛けてる?

 それとも情報を引き出そうとしてるのかな?

「それを知ってどうする? 貴様には関係のない事だろう」

 ジャンヌははぐらかすための常套句(じょうとうく)を言う。

 しかし、汎用性の高いセリフだよね。

 ただあんまり多用し過ぎると芸がないと言うか、演出がしょぼく見えるのがネック――ダメダメ、あんまり考えると私の悪い所が出ちゃいそう。

 今はこの舞台に集中しないと。

「そうだ……貴様も私に続け、アリア。リュパン4世が取りこぼしたお前も(さら)わせて貰おう」

 刃を首に置いたまま、ジャンヌは神崎の顔を覗き込むように見ながら言う。

「冗談は、よしなさいよ……あたしのママに冤罪を着せた連中の所になんて、行かないわ!」

「ほう、そうか――」

 不敵に笑いながら言って、ジャンヌは左手で神崎の太ももに触れた瞬間――凍りつく。

「うあっ――!!」

 苦痛に歪んだ神崎が声を上げて反応する。

 ………………。

 切り裂くのもいいけど、たまには違う()り方も――って違う。

 あんまり私の衝動を刺激しないでよね、ジャンヌ。

 って文句を言おうにも言えないんだよね。

「ならば――このまま死ぬか? そう言う展開でも、私は構わないのだぞ」

 ジャンヌはそう言うけど、残念ながらお父さんとお姉ちゃんの脚本(シナリオ)にそう言う展開はないんだよね。

 ある意味、お父さんと出会うまでは神崎とキンジの安全は保障されてるようなものなんだよ。

「誰、が……あんたなんかに……」

「随分とよく吠える事だ、そのうるさい口を封じるため――肺を凍らせる事にしよう」

 ジャンヌは神崎に極度の冷気を吹き込んで、肺を凍傷させるつもりだろう。

 顎を抑え、口を近づけて行く。

 最後まで気高かったよ神崎さん、お別れだね。

「霧ッ!」

 なんて事にはならないんだよね――!

 私はキンジに言われてすぐにM500を抜いてジャンヌの横っ腹に向けて発砲する。

 ジャンヌは銃声がした私の方を見るけど、気付いた時には既に大口径のゴム弾が直撃している。

 ああ、その表情いいね……

 素顔じゃないのが悔やまれるけど、いい驚愕の顔だよ。

「――アリア!」

 銃声に続いて響く、力強い白雪の声。

 その後に鎖分銅が飛んできて、ジャンヌの持っていた日本刀の柄に巻き付く。

 私の銃撃で完全に(ひる)んだジャンヌはいとも簡単に刀を吊り上げられた。

 その隙に神崎も、ジャンヌの拘束を振り払い無事だった片方の脚でドロップキックを喰らわせ、後退した。

 まさしく踏んだり蹴ったりだね。

 それからジャンヌはサーバーの影に立つ私と、自分の背後にある一際大きいコンピューターサーバーの上から、日本刀を持って見下ろしている本物の白雪を順番に見る。

「――くッ……」

 (わずら)わしそうに顔を歪めると、、緋袴(ひはかま)(すそ)から発煙筒を落とす。

 私はすぐに発砲するけど、すぐに白い煙に包まれたジャンヌには当たらなかった。

 いや、まあ適当だったから当たり前なんだけど。

 それから火災の煙と勘違いしたスプリンクラーが作動する。

 白雪は煙の中に飛び込む事はせず、それを避けてサーバーから降り立ち、キンジの(もと)へと退いて行く。

 私も白雪に合わせて、キンジ達と合流する。 

「いやはや、逃げられちゃったよ」

「上出来だよ、霧。白雪もよくやってくれた」

 キンジに褒められて嬉しいのか白雪は「う、うん……」ともじもじした様子で返す。

 それからキンジはアリアへと目を向ける。

「アリア、大丈夫か?」

「まんまとやられたわ……霧に言われて、分かってたのに」

 そう悔しそうに言いながら、神崎は両手を結んで開いてを繰り返してる。

 目に見えてその握力は低下してる。

 冬場で手が冷え過ぎると、血管が収縮して筋肉への血流が悪くなる。

 つまりは酸素が届かなくなって、筋肉が酸欠になるんだよね。

 だから冷え過ぎると動かなくなる。

 今の神崎はまさしくそれ。

 この様子だと、何も握られないだろう。

 神崎の銃だって氷に覆われてるし、寒冷地仕様でもない限りは使い物にならない可能性が高い。

 片足も凍らせられたせいで思うように動かないんだろう。戦闘能力どころか、機動力まで奪われた訳だ。

 加えて、私は右肩に違和感を抱えてる。

 逆に言えば違和感を抱えてるってだけなんだけどね。

 だけど、戦力としては若干低下してるって感じ。

 ジャンヌからして見れば、私の事は完全に戦闘不能にしたと思ってる。

 そこは誤算の1つだね。

 あの時は攻撃がクリーンヒットしたしかなり手応えも感じてたはずだし……頭も打ってたけど、残念ながらそこまで私は(やわ)じゃない。

「さて、お互いにインターバルみたいだし答え合わせでもする?」

「そうだな、霧。俺もちょうど考えていた所だ」

 私とキンジの会話に残りの2人は『どう言う事?』と疑問を持った表情をする。

 キンジは白雪に問い掛けの視線を向ける。

「白雪、いくつか質問させて欲しい」

「え? は、はい」

「温室にいる時に不知火に見られたかい? 花占いをしてた時だ」

「う、うん」

 白雪は恥ずかしそうに答えるけど、安心しなよ。

 キンジは白雪の思い人が自分だなんて夢にも思ってないから……

 何も恥ずかしがる必要なんてないんだよね。

 と、心の中でフォローしておく。

 続いて、私も質問する。

「あとね、白雪さん。アリアのロッカーにピアノ線って仕掛けた事ある?」

「確かにアリアに色々とイタズラはしたけど……そんな事はしてないよ……」

 今度はしおらしく白雪は答えた。

 キンジは私に視線を送り、それに応えるように両手を上げて首を(すく)める。

 その私の反応にキンジは1つ舌打ち、ようやく真実に辿り着いた訳だね。

「俺と霧も、白雪が温室にいた時刻に一般校区の廊下で白雪を見ている。ヤツが白雪に変装してたのはこの地下倉庫(ジャンクション)だけじゃなかった。あいつは白雪に変装していて、俺達を監視してたんだ。だから分断する事が出来た」

「それと、アリアのロッカーのピアノ線を仕掛けたのは魔剣(デュランダル)もといジャンヌだったって訳だね。嫌がらせの中に殺意のある罠を仕掛けて、白雪に対してのアリアの嫌悪感を増長させるためだった……と言う訳だね」

「そう言う事だ」

 私の補足するように言った説明に、キンジは同意する。

 いつもと違うキンジの雰囲気に神崎はようやく気付いたのか、紅い瞳を見開く。

「あんた……まさか、"なれた"のねキンジ!」

 その神崎の確認にキンジは静かに頷く。

「しかし、ジャンヌ・ダルクね~。アレじゃないの? いわゆる電波少女的な感じの――」

「誰が電波だ。勝手に私を痛い人みたいに言うな」

 私の大きめに呟いた声がジャンヌの耳に入ったらしく、声が返ってきた。

 方向からしてエレベーターホールのあたりだろうね。

「じゃあ、アレかな? クローン培養された感じの――」

「遺伝子解析で生まれた訳でもない! 正真正銘の子孫だと言ってるだろう!」

 今度は強めに返ってきた。

 さすがは残念聖女だ、こんな時でも反応してくれる。

 軽く雰囲気がぶち壊しな気もするけどね。

 まあいいや、コメディも大事だよ。

 と思っていると向こうから話し掛けてきた。

「白野 霧、私は貴様のような奴が嫌いだ。のらりくらりと掴みどころがなく、私の策を崩して行く貴様のような奴は特に……」

「お褒めに預かり光栄だね」

「気絶したまま、水の中で溺れていればいいものを――」

「自分の策に溺れそうな人がよく言うよ」

 私がそう言った瞬間に返ってきたのは冷気の波。

 私たちの周りをその波が包み込む。

 スプリンクラーの水が空中で凍ってることから、かなりの温度の低さだろう。

 ダイヤモンドダストが起きてる。

「霧、あまり刺激するものじゃないぞ。彼女が可哀想だ」

 HSS状態のキンジは哀れみや皮肉ではなく、ジャンヌを本気でいたわってるようだった。

 だけど、それを本人が知るところではない。

 さらに冷気が強くなる。

 神崎を一瞥(いちべつ)した白雪は日本刀を置き、神崎の傍に片膝立ちで座る。

 そして、霜ついて血色の悪くなった神崎の手を握る。

「今から治療するから……ちょっと、我慢しててね」

 両の手で白雪が神崎の手を包み込み、何か(まじな)いのような言葉を紡ぐ。

 すると、白雪の手から何か淡い光が神崎の手へと伝わっていく。

 その間にキンジは白雪達を守るようにジャンヌがいる方向へと一歩前に出る。

「――ッ!! ……く、ぅ……」

 どうやらしみるのか、神崎は声を押し殺して痛みに耐えてるようだ。

 それから超能力(ステルス)式の治療は終わったのか、白雪が話す。

「ひとまず治癒(ちゆ)はしたけど……この氷は(グレード)6から8の強い、毒みたいな氷。だからあと5分くらいは自由に手を使えないと思う」

 そう告げてから彼女は立ち上がり、置いていた日本刀を持って私とキンジの前に、背中を向けて立つ。

「キンちゃん、霧さん。ここからは……私が1人でやります。だから、アリアを守ってあげて」

 え~、ここまで来てお預けなんてやだな~。

 今までとは違う力強い白雪の言葉に対して、私はそう思った。

 だってさ、せっかくここまで来てオーディエンスになるだなんて……そんなの楽しくない。

 やるなら最後までやった方が楽しい。

 だから――

「さすがにそう言う訳には行かないね」

 私は彼女の隣に並び立つ。

「霧、さん……負傷してるんじゃ……」

「足は動くし片腕も問題なく使える。負傷してた腕は……あまり動かさなかったらいいだけの話だよ。それに、神崎さんの守りはキンジで充分だからね」

「でも……」

「足を引っ張ったりはしないよ。白雪さんが前衛(フロント)で私が後衛(バック)って言うだけだから」

 私はキンジに視線を送ると彼は言った。

「白雪、霧の言う通りアリアの守りは俺で充分だ。女性を前線に送るのは忍びないけど、これが現状としては最善だと思う。だから、俺からもお願いするよ……白雪」

 最後に名前を呼ぶと同時にキンジは微笑む。

 優しげで、見る人が見れば見惚れてしまいそうな魅力を持った笑みだ。

 キンジに好意を持ってる白雪にとっては――

「う、うん……は、はふぅ」

 効果抜群(ばつぐん)みたいだ。

 顔を赤く染めて、息を漏らして卒倒しそうになってる。

 だけどすぐに意識を戻した。

 それから、さっき白雪が乗っていたサーバーの壁に何かの札を貼り付ける。

 すると札を中心にして円が広がるように冷気が消えていく。

 それどころか、暖かい。

 なるほど、いわゆる結界みたいなものか。

 貼り終えた白雪は、

「ジャンヌ」

 そう言って声のした方へと一歩前に出る。

「もうやめよう……あなたはもう逃げられない」

「私を追い込んだつもりか? 笑わせるな、負傷者1人に戦闘不能が1人……的が増えただけに過ぎない。それに実質は2対1だ、少しできる程度のヤツと原石が組んだところで私を傷つけることはできん」

 私はジャンヌの言葉を小馬鹿にして返す。

「へ~、その割には手こずってるみたいだけど? それに、私たちを閉じ込めたつもりなんだろうけど自分の退路を断っただけじゃないのかな?」

「――黙れ。私に一度敗北した分際が何を言う」

「いいんだよ。最後に勝てば……何度負けようと何度退こうと――ここ一番で負けなければそれで良い」

 それと、最後まで楽しめればね。

「フン、余裕なことだ。星伽の取り巻きは殺さずに脅しの材料にすれば、自ら身を差し出すと思ったが……上手く行ったのは途中までらしい」

 スプリンクラーの水が止まり、冷気の煙の向こうから人影が1つ現れる。

 体の前面と関節を守るように着けられた西洋の甲冑。

 ルミちゃんみたいな銀髪、だけど癖っ毛がなく輝く髪。

 片手に握られた大剣であるクレイモアを持ちながら、薄い皮のような特殊メイクのマスクを彼女は破り捨てた。

 

「どうやら、失わねば分からんらしいな――星伽の巫女」

 

 へえ、ジャンヌ……()る気みたいだね。

 綺麗なサファイアの瞳の奥に、黒いものが見えそうだよ。

「私は何も失わない……ううん、私が失わせない」

 そう言って白雪は、ゆっくりと自分の頭にある白いリボンに手を伸ばす。

 が――持ったところで手が止まる。

 それを見て、ジャンヌは少し嘲笑(ちょうしょう)した。

「ふっ、やはりな。その布が何を意味するかは分からないがおおよその見当はつく。だがそれを解いた時、お前は星伽を裏切る事になる……違うか?」

 クレイモアで、白雪を指す。

 いつも白雪が着けてる白のリボン……一種のリミッターなんだろうね。

 状況から察するに。

 だけど、ジャンヌ。

 今の白雪は、星伽を裏切ることに躊躇(ちゅうちょ)を抱いてるわけじゃない。

 確かにそれもあるだろうけど、今の白雪が恐れてることは――

「みんな、私をしばらく見ないで……特にキンちゃんは、私のことを……キライになるかもしれない、私から離れるかもしれない」

 不安を乗せた白雪の言葉。

 だけど、キンジは後ろから自信を持って語りかける。

「安心しろ、白雪。誰もお前をキライになったり、離れたりはしない。そうだろ?」

 確認するように掛けられた言葉。

「ここで離れたら依頼放棄と一緒でしょ! そんな事、したりしないわ!」

 神崎さんはやっぱり素直に言わないね。

 私は、何も言わずにいつもの笑顔で返しておく。

 それを見て、聞いた白雪は少し微笑んで、

「――ありがとう」

 布を(ほど)いた。

 それから片手で刀を頭上に、腹を見せるように掲げる。

 布を解いた時のジャンヌはさっきの嘲笑から一転して真剣な目付きになってる。

「ジャンヌ、霧さんの言う通り策に溺れたね」

 白雪もいつもとは違う目付きで刀に力を入れた瞬間、

 ――ゴウッ!

 そんな音を立てて刀身が燃えだした。

 へえ、まるで神話に出てくる炎の剣を具現化したみたいだね。

 西洋の剣と東洋の剣って言う違いは出てくるだろうけど。

「炎、だと……!」

 ジャンヌの顔色が変わった。

 動揺と、恐怖心が顔に少し出てる。

「ジャンヌ……あなたにも本当の名前があるように、私にも本当の名前がある。『白雪』は本当の名前を隠すための伏せ名、私の(いみな)は――『緋巫女(ひみこ)』」

 言うと同時に白雪は駆けた。

 ジャンヌも正眼に構え、斬り掛かった白雪の炎の刀を受け止める。

 けど、どこか腰が引けている。

 少し切り結んだかと思うと、刀身を擦り、ジャンヌは後退した。

 そのまま白雪は振り切り、サーバーを斜めに両断する。

 私は白雪の後ろで、後退したジャンヌに向かってグロックで追撃する。

 難なくゴムの弾丸を剣の腹で防ぐが、どこか鬱陶しそうな表情をしている。

 その間に白雪はさらに踏み込み、再び斬りかかる。

 いや~、実にイヤラシイ戦い方だよね。

 白雪から離れれば遠慮なく私に追撃されて、私を相手しようにも白雪に斬り掛かられる。

 まあ、これもある程度お互いを分かってないとできないやり方だよ。

 この状況が続けば、ジリ貧になるのはジャンヌ自身分かってるはず。

「……フッ!」

「くぅッ!?」

 一声とともに白雪を押し返したジャンヌは、明確な敵意を私に向けてきた。

 あれ? なんか、すごく怒ってらっしゃる。

 おっかしいな~、挑発しすぎた? 

 いや、その割には尋常じゃないんだよね。

 ジャンヌは私に手の平を向けるとその手の中が青く、淡く光りだし、氷の飛礫(つぶて)がかなりの速度で飛んでくる。

 そんな攻撃もできたんだ……なんてちょっとビックリしつつも、私は足元に転がってるサッカーボールくらいの大きさに斬られたサーバーを蹴り飛ばす。

 いくつか氷が障害物であるサーバーにぶつかるけど、すぐに撃ち落とされ、解体された。

 避けるのは……間に合わないか。

 すぐに途切れることなく氷が列をなして飛来する。

 私はナイフを2本出して、迎撃の構えを取る。

 多少当たっても死にはしないし、問題ないよね。

 頭さえ守っとけば大丈夫大丈夫。

「霧さんっ!」

 声と共に白雪が盾になるように私の前に立ち、刀を一閃。

「――緋焔(ひほむら)焦壁(こぎかべ)!」

 炎の壁が白雪の前に現れる。

 そして、氷の破片は白雪に到達する前に液体どころか気体となって蒸発し、消えた。

 思わず手を顔の前にするほどに熱い。

 かなり高熱の炎なんだろう。

「くっ……」

 炎の壁の向こうで、ジャンヌは怯んでる。

 そもそも相性が悪い。

 だけど、向こうは諦めていないようだ。

「ふ、ふふ……本当に誤算だよ、白野 霧。貴様があの時に気づいていなければ、ここまで策が崩れることはなかった」

責任転嫁(せきにんてんか)はやめて欲しいね。それに、友達を救うことはいけないことかな?」

「悪いとは言わんし、責任から逃れるつもりもない。だが――」

 ジャンヌはそう言いながら、冷気をその身に纏わせる。

 次の瞬間、炎の壁に向かって突進してきた。

 それからジャンヌは飛び上がり、炎の壁を突破してきた。

 どうやら冷気を纏うことで、高熱を防いだらしい。

 体重の乗った、鋭い突きを繰り出してくる。

「――きゃあッ!?」

 白雪はそれを日本刀で防ぐけど、力負けして後ろに飛ばされてしまう。

「貴様だけは亡き者にさせて貰う! オルレアンの氷花!」

 宣言しながら、既にジャンヌは剣を振りかざしている。

 その剣に力が何やら集まっているようで、青白い光が見える。

 こんな時に炎の恐怖を克服しないでよ。

 防ぐ……のは無理。

 手持ちのナイフじゃ、刃物ごと斬られるし……あれはきっとジャンヌの大技。

 ここで銃を撃ったところで振り下ろされる刃までは止められない。

 力を解放する瞬間が近いのか、光が一際大きく輝き、氷点下のような寒さに襲われる。

 白雪が張った炎の壁も小さくなってる、それほどの冷気。

 どう考えても殺す気だ。

 ………………。

 こんなところで"ちょっと本気"を出すのは不本意だけど、

 

 ――仕方ないよね。

 

 死ぬのは別にいいんだけど、タイミング悪いし。

 守ってない約束もある。

 せめて死ぬなら、約束を果たしてから死にたいものだね。

 そうすれば……自分の死をゆっくり楽しめる。

 今まで理性でやってきたけど、少し自制をやめて本能を、衝動を呼び覚ます。

 この状況下で、ニタァと笑みが浮かぶ。

「……ッ!?」

 私と視線が交わった時、ジャンヌの振り下ろす刃が一瞬だけ鈍った。

 ――その時だった。

「キンジ! あたしの3秒後に続いて!」

 そう叫んだ神崎が、こっちに向かってくる。

 おや、ナイスタイミング。

 私はすぐに色々と引っ込める。

 背中から日本刀を2本抜きつつ弾丸のように真っ直ぐ駆けてくる。

 だけど、振り下ろされる刃は止まりはしない。

 そのまま私を狙ってくるかと思いきや、方向転換。

「た、だの……武偵如きが――!」

 そう言ってジャンヌの意識が神崎に逸れた。

 その瞬間を狙って私はグロックを発砲する。

 胴体に当たり、怯む。

 それに続くように神崎が滑り込むように肉薄し、ジャンヌの剣を下から上へと弾いた。

 青白い光は剣から放たれて天井へと着弾。氷の花が咲いた。

「今よ、キンジ! ジャンヌはもうさっきみたいに技を使えない――ぐぅッ!」

 神崎が呼びかけてる途中でジャンヌは彼女の日本刀を縫うようにして蹴り飛ばす。

 その間にも、私は後退してグロックを撃つけどこれまた素早い反応でジャンヌは剣で銃弾を防ぐ。

 そして、弾が切れた。

 排莢口(エジェクションポート)が開きっぱなしになる。

 その間にも、ジャンヌは私に向かってくる。

 執拗に狙ってくるね~。

 どうやら、余程嫌われたらしい。

 そもそもの誤算は私の行動にある訳だから、狙ってくる理由は納得できる。

 だけど策士を(うた)ってる割には感情的だよね。

 なんて考えてる内にも相手の間合い――刃が迫り来る。

 横薙ぎの一閃。

 風を切る音が迫る前に私とジャンヌの間に人影が割り込む。

 ジャンヌは"それ"ごと斬ろうとするけど、人影から伸びたたった2本の指が大剣を止めた。

「――おいしい所を持っていくね」

「はは、ヒーローは遅れて登場するものだからね」

 私が声を掛けると、キンジは私に横顔が見える程度にして笑顔を振り撒く。

 頼もしくも遅刻グセのあるヒーロー様だね。

 本人も、ちょっとした冗談のつもりだろう。あるいは軽い自虐を含んでるかもしれない。

 それから右手のベレッタをジャンヌに向け、

「年貢の納め時と言うやつだよ。いい子にしておくといい」

 敗北を突きつけた。

 私もキンジの隣に立ってM500をジャンヌに向ける。

 対してジャンヌは、キンジに受け止められた剣をただ驚いた様子で見ていた。

 ああ、そう言えば私も今のキンジと似たような事したね……いつかのイ・ウーで。

「武偵法9条――忘れたわけではあるまいな? 私をどうこうする事は出来ないはずだ」

「だけど、傷つけられないわけじゃないんだよね……要は死ななきゃいいんだから。まあ……するつもりはないけど」

「霧、たまに過激な発言をするよな……そんな危険な所も君の魅力ではあるけど、目の前のお嬢さんが困ってるぞ」

「だ、誰が、お嬢さんだッ! 私をバカにしてるのか!?」

 言われ慣れてないのか、ジャンヌは白い頬に少し火がついた。

 それから剣を押しやろうと両手に力を込めてる。

 だけどキンジは、ビクともしない。

 さすがはHSSと言うべきか。

 往生際が悪いというか、何というか。

 もうチェックメイトだよ。

 

「2人に、手を出すなあああっ!」

 

 叫びながら下駄を鳴らして走ってくる白雪。

 どうやら、吹っ飛ばされてから今まで何かしらの力を溜めていたらしい。

 朱鞘に納められた刀から、何かの力を感じる。

 ジャンヌが気づいたときにはもう遅く――

「――緋緋星伽神(ヒヒノホトギガミ)――!!」

 下から上へと居合抜きが走り、同時に火柱が現れた。

 ジャンヌの大剣を斬り、そのまま天井をも砕いた。

 爆薬でも使ったかのようにいくつかの破片が降り注ぐ。

 落ちてきた小さい破片を軽く手で払っていると、ジャンヌが呆然とした表情で自身が持っていた剣を見ている。

 その刀身は2分の1以下になってる。

「ば、かな……私の聖剣・デュランダルが――」

 だが、その間にジャンヌの腕に掛けられた対超能力者(ステルス)用の銀手錠が掛けられる。

魔剣(デュランダル)、現行犯逮捕よ!」

 神崎にそう言われ、さらにジャンヌは彼女に拘束されていく。

 どうやらこれにて閉幕らしい。

 ま、いい感じに引き立て役を演じれたし……踊れもしたから満足。

 楽しかった。

 あとは――

「もう……俺の目の前からいなくなるんじゃないぞ、白雪」

 あそこで白雪を慰めてるヒーローを弄るしかないよね~。

 




はい、これにてジャンヌ・ダルクとの対決は終了です。
あとは……最後にちょろちょろっと書いてブラド編に入ろうと思います。

今更ですが、私の小説は本格的です。
本格的といっても自称ですけどね。そもそも小説に定石はあっても明確な形なんてありませんしおすし。

ニコニコのMMDドラマ、面白いよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。