遠山サイドと言うか原作本編の話もちょくちょく挟みますよ?
って言うか、3週間以上空いてしもうたがな……orz
44:巡り合わせ
雨がよく降る梅雨と呼ばれる時期に入った。
どうやら理子が武偵高に帰ってきたらしい。
今頃は女子寮だろうけど……はてさて、何しに帰ってきたんだろうね~。
別にここに戻ってくるメリットは理子にはあまりないはずなんだけどね。
最近の理子の行動は怪しいと思いつつも、私は詮索しては来なかった。
だけど、それももうすぐ分かる。
と確信めいた風に言ってるけど、これはあくまでも勘。
以前にジャンヌが私に「理子の異変に気付いてるのか?」と言ったことを聞かれ、はぐらかして答えたけど。
気付いてるからこそ、嗅ぎまわってないんだよね~。
まあそう言う訳で、私は私の仕事をさせて貰うつもり。
6月の月明かりが空に見える時刻、私は以前にジャンヌや夾竹桃が『オルクス』で来た沿岸へと来ている。
もうそろそろかな?
そう思った時に海面が少し持ち上がり、オルクスの黒い船体が浮き上がる。
どうやら無事にイ・ウーから拝借出来たらしい。
こちらへとゆっくり近づき接岸し、ハッチが開く。
「……誰?」
立ち上がり出てきたリリヤは私を見て小さく呟いた。
そう言えば白野 霧での格好は知らないんだった。
それはともかく、リリヤの格好が"メイド服"姿なのは……理子のせいだろうね~。
リリヤと理子が出会って約1年。
随分と彼女は理子に対して心を開いていると思う。
大きく笑う事はないが、小さく微笑む時はあったような気がする。
まあ、私はリリヤと一緒にいる時間は短いからね~。微笑むところを見たかどうか確証がないんだよ。
と、思考が脱線するところだった。
私は軽く変装を解き、素顔を見せる。
「私だよ」
「……リコお姉ちゃんじゃない」
変化は少ないけど残念そうに目尻を垂らす。
落胆してるって言うのは分かるけど、あからさま過ぎる……
「私で悪かったね。と言うか、お姉ちゃんから話は聞いてるでしょ?」
「……リコお姉ちゃんに会える。……あと、仕事」
どうやらリリヤの中での優先順位は『理子>仕事』らしい。
しかし、さすがは
どうやら既に日本語はちゃんと喋れるみたい。
ただ、喋り方は英語の時と何ら変わりはなさそうだけどね。
このままだと話が進まなそうなので、私から本題を切り出す。
「それで、仕事なんだけど……ここにやって欲しい事が書いてあるよ。頼めるかな?」
私はそう言って、任務の概要を纏めてある資料を渡す。
指令書みたいなものなんだけどね。
ま、特に意味はないけど念には念を置いて言葉ではなく文字で説明する。
リリヤはその資料に目を落とす。
「それじゃ、よろしく――」
お願いね、と続けようとしたら、
「……分かった」
リリヤは短くそう答えた。
それから資料を私に返してくる。
「もしかして、覚えたの?」
「……ん」
彼女は1文字で答えた。
どうやら全部覚えたらしい。
なら、これはもういらないか……
私は資料を空中に放り投げナイフで細かく切り裂く。
そのまま潮風に流されて、証拠は海の藻屑となった。
「出来れば怪しい所は全部調べて欲しいんだけど、大丈夫だよね?」
「……ん」
「ならいいや。ところで、住む場所はある?」
「……ん」
私はナイフを片手に遊びながら聞いてるけど、大丈夫らしい。
ま、お姉ちゃんの事だしそこら辺は大丈夫か。
「それじゃあ、ある程度調べたら連絡お願いね。私の方で『品定め』するから」
「……ん」
「仕事が終われば理子に会えると思うよ? 向こうも少し忙しいみたいだけど」
「……うん」
理子に関しては若干反応が変わるんだね。
返事が1文字から2文字に増えた。
声音もどこか嬉しそうだね。表情の変化は少ないけど。
さーて、どんな面白い子が見つかるか……
――楽しみだね。
翌日。
教室でいつも通りに席に座っていれば、神崎とキンジが一緒に入って来た。
ナチュラルに一緒にいるけれど……
「やっぱりあの2人ってデキてるんじゃ――」
「でも、白野さんが本命っぽい気もするよね。神崎さんって暴力的だし」
とまあ普通の人なら聞き取れない距離と声量かもしれないけど、私にはそんな教室の片隅で固まってる女子たちの会話が耳に入ってくる。
視線と違って、耳は動かす必要がないからね。
意識を集中すれば自然に入ってくる。
それはともかく、神崎の表情がどこか不機嫌そうでキンジはそんな神崎のトゲトゲしい雰囲気から少し引くように若干だが腰が遠ざかっている。視線も神崎の方へと何度も動かしていた。
向けられてる当の本人は気づいてないっぽい。
結局2人が席に着いた後、時間が経っても神崎の機嫌はあまり治らないまま。
周りも神崎の雰囲気を察してるような感じだ。
そんな中、このクラスの担任である高天原が入ってきてゆったりとした口調で、
「えー、今日はお知らせがあります」
と切り出した。
「峰 理子さんがアメリカでの捜査依頼で長らく空けていましたが――」
「ただいま帰ってきましたー♪ みんな大好き、りっこりんだよー!」
ガラリと扉が開かれて、高天原の話を遮りながら理子が入ってきた。
教卓へと立ち、その存在をアピールするかのようにくるりと回る。
それから一部の男子が「うおおおおお!」と歓喜の声を上げて教卓の傍へと駆け寄り、『りこりん! りこりん!』と熱烈なコールをしながら、確かヲタ芸と呼ばれるダンスを披露している。
そして話を無視される先生。
流石の私も哀れだと思わざるを得ない。
先生なのにクラスの中心にいないと言う非常事態だね。「話を聞いてください……」なんて言いながら存在も隅の方に追いやられてるし。
「やっほー、キーちゃんも久しぶり!」
「うん、久しぶりだね~」
『イエーイ!』
理子から声を掛けられ、席を立って近付き、アメリカ帰りと言う事でアメリカンなノリでハイファイブをする。
日本ではハイタッチなんだっけ?
ともかく、両手を叩き合わせて小気味良く音を響かせる。
久しぶりだなんて言ってるけど、割と連絡は取ってるから久しぶりに会ったと言う感覚はあまりない。
「それじゃ今はこれくらいで、またあとでね」
「あいっ!」
理子は両手で敬礼して、答えた。
それからも理子の周りにクラスの人達が何人か寄ってきて談笑し始める。
「くふっ、キーくんもおいでよ」
輪に誘うように理子はキンジに手招きするけど、キンジはそっぽを向いた。
次の瞬間にはバキと、神崎がシャーペンを折った。片手で。
怒りでプルプルと震えながら顔を伏せている。
私がいない間にどんなイベントがあった事やら……
訓練のノルマをこなして放課後――お姉ちゃんからの仕事でスカウト的な事をやる訳なんだけど、ある程度は私の方で調べて欲しい人物をリリヤに送っとかないとね~。
大雑把にリリヤに調べてくれって言ったけど、やっぱり範囲は狭めておかないと。
なので私は、ひそかにさり気なく色々と見て回っている。
1年生から3年生。
学校にくる関係者や、見学に来た人。
教師は……さすがにレベルが高いと言うか、そう簡単に引き込める訳じゃないしね。
でもどうせなら面白くて伸び代がある子がいいな~。
使い物になるならないとか、私はあまり気にしないんだけど。
それでもやっぱり、質は高い方がいいよね。
特に後暗い過去があれば、なお良しだよ。
「あ、霧先輩」
そして、廊下でバッタリとライカと出会った。
この子は……まあ、保留だね。
見ていて面白いし、伸び代もあるんだけど……もっと惹きつけるものがないんだよね。
魅力がないとかじゃなくて。
「なんだ、今日は彼女と一緒じゃないの?」
「えっと……彼女ってどう言う意味ですか? て言うか、彼氏じゃなくて彼女って……」
「
と私は肘で軽くライカを小突く。
すると、ライカは少し顔を赤くして壁まで
「な、ななななに言ってんスか!?」
「え? 麒麟ちゃんからメールが来て、ライカと付き合うことになったって」
「麒麟ーーーっ!!」
頭を抱えて、ライカは叫ぶ。
「とか言っておきながら実は嬉しいとか」
「違いますから! あたしはそんなんじゃ――」
ライカが否定しようとしてる最中に人差し指で、口を封じる。
それからそっと耳打ちする。
「とか言って、満更でもないんでしょ? 見てたら分かるよ」
「いや、あたしは麒麟をそんな風には……」
「それは本音かな~? あんまり周りの目を気にして本心を隠すと、辛いよ~」
「うっ……」
「素直に言っちゃいなよ。別に私は否定したりも引いたりもしないからさ。そ・れ・と・も、実は私が本命とか?」
「は、はいっ!? いきなりなに言ってんスか!」
素早い動きで私から遠ざかるライカ。
その顔は困惑と羞恥が入り混じった感じだった。
彼女の反応に私は「クスクス」と笑みが深まる。
「ライカお姉さまは渡しませんの!」
「うわっと!?」
突然にどこからともなく飛び出して、ライカは自分の腰にしがみつく麒麟を受け止める。
私は驚いた声を上げてるけど、途中から見てるのは気付いてたけどね。
それから麒麟は子犬みたいに私に睨みを
そう言えば麒麟とキリンって別の生き物なんだっけ?
なんてどうでもいい事を考えながらも麒麟に対して私は笑顔で答える。
「イヤだな~麒麟ちゃん。別にライカを盗ったりはしないよ……ライカが私の方に自ら来るなら話は別だけどね」
言いながらスッと、目を細めてライカに向かって言う。
「いやいやいや、先輩も麒麟も何の話ですか!?」
随分と困惑してるね~。
ライカが
まあ、前から気付いてたけど。
「大丈夫ですの。お姉さまはきっと麒麟を選んでくださいます。ね? お姉さま♪」
「お熱いことだね~」
麒麟の発言に思わず半目になりながら私は、片手で顔を仰ぐ。
「霧先輩! あたしはそう言うのじゃ……」
「だってさ麒麟ちゃん」
「そんな、お姉さま……麒麟の事がキライですの?」
上目遣いの涙目でライカを見上げる麒麟。
効果は抜群のようだ。
見るからに混乱してる。
「可哀想に麒麟ちゃん。こっちにおいで」
「霧お姉さま~」
なんて言いながら、麒麟は私の胸に飛び込んでくる。
こらこら飛び込んでる最中にニヤつかない。
それにしてもこの子も理子と同じような感じだから、何となく気が合うのかもね。
その場のノリで合わせることが出来る。
しかし、三文芝居とは露知らず約1名は
「ライカなんか放っておいて、私に鞍替えでもする? そうすれば色々と
「あっ……」
麒麟はライカの気を惹きつけるつもりで私のノリに合わせたんだろうけど。
私は少し本気で魅了するつもりで麒麟にネットリと息遣いを含んで囁く。
麒麟にとっても予想外だろうね。
私の言葉に一瞬だけトロンとした
それからハッとなって何かを振り払うようにブンブンと首を振る。
チラリとライカを見れば呆然と口が半開き。
ま、いい反応が見れたしイタズラはここまでにしておこう。
「なんちゃってね」
「な、なんだ冗談か……」
私が麒麟から離れておどけると、ライカは安心したように息を吐く。
「彼女が大事なら少しでも本音は言っておきなよ~」
「むむむ……」
「何が、むむむなんだか。それじゃあね、ライカお姉ちゃん♪」
「んなっ!?」
ライカの横を通り過ぎながらの一言。
最後に驚き顔を頂いたところで私はそのまま背中を向けながら軽く手を振る。
取り敢えず右に左に散歩気分でブラブラする。
これでも探してるんだけどね。
望むものはよく手に入るのに探し物は探してる時になかなか見つからないんだから……ジンクスって言うのかな?
でも、そう焦ることもない。
出会いはどこでもあるんだからね。
「あ、白野さん」
「ん? ああ、佐々木さんか……」
後ろから声をかけて来たのは、佐々木 志乃――白雪の
彼女は私を一度見て何かを躊躇うように視線を落とす。
「どうかしたの? 何か頼みたいことでもあった?」
こちらから尋ねたところで、彼女は顔を上げた。
「少し、
「ちょうど今は暇を持て余してたから別に構わないけど、もうちょっとフランクに誘ってくれてもいいのに……白雪さんの
「そう言う訳には行きませんから」
佐々木は困ったように苦笑する。
この子も……保留だね。
あんまり私の周りにいる子ばかり見てても仕方ないし。
なんて思いながらも私は話を続ける。
「それで、どう言った感じの
「万引き犯の調査及び捕縛です」
「うん? こう言うのはどうかと思うけど、私がついて行く意味あるの?」
1年生がやる実戦の初期段階の任務だからね。
私の助けを必要とする理由が分からないね。
おそらく難度はDランク相当だろうし。
「いえ、実は私じゃなくて――」
「志乃……話、終わった?」
佐々木が否定しようとしたところを割り込むように物静かな声が聞こえてくる。
佐々木の背後から微妙に見えた人影。声の主かな?
そう思って、佐々木の肩から顔を出すように私は確認する。
「………………」
黙って私を見て、静かに会釈したのは綺麗に横に揃えた前髪。少し目が隠れる程度の長さ。
会釈した時に揺れる後ろ髪は真ん中だけをポニーテールのように結わえている。あとはストレートだね。
目は少し伏し目がち。
肌は佐々木に比べれば白くはない。簡単に言えば日本人らしい肌と言えばいいかな?
腰には黒い鞘に収まった一本の日本刀を
女サムライって言葉が似合いそうなんだけど、なんだかね~。随分と後暗い雰囲気がするよ。
「
私はまだ何も言ってないんだけどね。
勝手に話を進められた。
まあ、いいか……。
「そう言う事だから、よろしくね。私は白野 霧だよ」
「岡田……以織。私はこれで」
そう言って彼女は少し頭を下げて、投げやりな感じで私に背中を向けて去って行った。
「以織さんっ!!」
咎め止めるように佐々木は言い放つけど彼女は意にも介さず廊下を真っ直ぐに歩く。
振り返りもしないし、反応もしなかったね。
彼女のことは置いておいてその前に。
「さーて、佐々木さん。勝手に話を進めてくれちゃってどう言うつもりかな~?」
ちゃんと理由を知りたいからね。
笑顔で佐々木に差し迫る。
「す、すみません。怒ってます……よね?」
「うん? 別に怒ってはないよ。ただ色々と聞かせて欲しいとは思ってるけどね。まあ、詮索するなって言うならしないけど」
「そ、そうですか……笑顔なのに怖い」
こらこら、聞こえないように言ったつもりだろうけど聞こえてるよ。
そこまで威圧的な笑みは浮かべてないはずなんだけどね。
まあ、人それぞれで感じ方は違うってことにしておこう。
取りあえず私から話題を切り出す。
「あの子、何だか雰囲気が暗かったけど……何か関係あるの?」
キョトンとした顔で佐々木は聞き返す。
「分かるんですか?」
「何となくね。あの雰囲気はそう……誰か親しい人を亡くしたとか?」
少しだけ佐々木は同情するような表情をして顔を伏せる。
どうやら当たりみたいだね。
それから彼女は顔を上げて、
「少し、お時間いいですか?」
そう提案してきた。
と言う訳で、場所を移して喫茶店『Wildschut』にやってきた。
ここに来た理由としては、木を隠すなら森の中って言うヤツだね。
2人用のテーブルに向かい合う形で座り、互いの手元には紅茶。
ここのは割とおいしいんだよね。
「さてと、わざわざ時間を取らせたって事は話してくれるんでしょ? ああ、ちなみに紅茶は私の奢りね」
「いえ、先輩に奢らせるのは気が引けますから自分で払います」
「そう? そう言えばお金には困ってないんだっけ? キンジと違って」
「遠山 キンジ先輩、ですか……確か白野さんのパートナーの方ですよね?」
「元パートナーね。今はその話は横に置いて、本題なんだけど――あの子って佐々木さんの元カノみたいな感じかな?」
「――けほっ!?」
私の一言に佐々木は
「な、何でそうなるんですか!?」
それから小声で器用に怒鳴ってくる。
何でって言われてもね~。
「妙に親しそうだったし」
あと、間宮の子の事もあるしそっちの気があると思われても仕方ない気もするけど。
今回に関してはそうじゃないのは分かってるよ。
分かってて聞いたんだから。
「って言うのは冗談で……中学の時の同級生とか、昔組んでたとか?」
私が真剣に聞くと佐々木は「もう」と言った感じ呆れながらも話してくれた。
「正解です。中学の時の同級生で、たまに剣術の訓練に付き合ってくれる時もありました。最近は学科が違うこともあって疎遠でしたけど」
ここからは本題とばかりに佐々木は顔を伏せる。
「以織さん、最近父親を亡くしたそうです。あの子は父子家庭で……母親の事は知らないと昔に話してくれました」
どうやら、それなりに仲は良かったと見えるね。
問題はそれが今回の事とどう関係してくるかが問題なんだけどね。
まあ、ここは話の腰を折らずに黙って聞いておこう。
「それで、引き込もりがちで何だか見ていられなくて」
「助けになりたい、と?」
「ええ……」
なかなかに面白そうな話。
佐々木の提案じゃなくて、もちろん岡田 以織と言う人物について面白そうって言う話だけどね。
後暗いと言うか、ありふれてる事かもしれないけど……その裏にはどんなストーリーがあるのか考えるだけでワクワクする。
在り来たりかどうかは分からないけど、それは"中身"を覗いて見てのお楽しみ。
そのまま引き込むかどうかは中身を見てからでも遅くはない。
候補に入れてもいいかな?
それに来る者をあまり拒まない私の答えは最初から決まってる。
「うん。私でよければ協力するよ」
「本当ですか?」
「もちろん。私は基本的に何でもやるからね……それと、岡田さんを
「は、はい。調査で一緒に少しでも話ができたらと」
「なるほどなるほど。いい案だね、それじゃあ私が上手く機会を作るよ」
「ありがとうございます!」
嬉しそうな顔で佐々木は少し頭を下げる。
こっちこそ感謝だよ。
こんな巡り合わせをありがとう。
と言う事で新キャラ登場。
そしてリリヤちゃんが来日。
空港からの登場でも良かったんですがさすがに目立つ……と言う訳で却下。
それと今回の時点で勘のいい人は色々と気付いてそうで怖い。
今回の章のタイトルで刺客を意味するstabberにしようかなと思ったけど、何か人斬りとニュアンスが違う気がするんですよね……
誰か、人斬りと言う英語でいいニュアンスがあれば教えてください。