うん、なんだろう。
自分はとんでもなくブラックな話を書こうとしてるんではなかろうか……
さて、候補が決まったところでその日の晩にリリヤに連絡を入れた。
岡田 以織とその父親、または母親とか分かってることは全部調べるようにね。
あの子のことだからある程度のデータベースセキュリティを破る事は、フィッシュアンドチップスを作るぐらいに簡単に出来るだろう。
それぐらいのスペックはある。
と言うか機械関係に強い子だよ。
汎用性が高い殲滅兵器的な感じで
アメリカは要人暗殺の方に重点を置いてるみたいだから、随分と毛色が違う。
そもそも何でヘリに搭載するガトリングガンを持てるようにしたのか……どこの世界にも変態はいるもんだね。技術的な意味で。
ともかく、今は佐々木に協力するのが目下の任務と言うか目的だね。
同時に家族探しも継続中。
キンジ達は……今頃はメイド喫茶かな。
◆ ◆ ◆
まず最初に言っておこう。
これは理子の取引のために仕方なく来たんだ。俺の隣にいるアリアもそうだ。
俺は兄さんの情報のため、そしてアリアは自身の母親の冤罪を証明する証人として理子に協力するんだ。
なので俺は、いや俺達は自身の意思でここに、
「おかえりなさいませ、ご主人様ー♪」
「お待たせしました♪」
この――『メイド喫茶』に来た訳じゃない!
理子曰く『大泥棒大作戦』の指定場所が何故か知らんが秋葉原のメイド喫茶。
こんな中で理子が作戦会議をしようと思った理由は……理解出来るわけがない。
右に左にきゃいきゃい言いながら接客するメイド達。
目のやり場に困る。
もういいだろう……十分に俺はよくやったんだ。だから1つだけ俺の願望を誰か聞いてくれ。
今すぐにレジの傍にある扉の外に出させてくれ。
だがそんな心の叫びを聞いてくれるのは、おそらく俺の携帯ストラップのレオポンぐらいだろう。
「実家と同じ挨拶をこんな所で聞く事になるんて……」
アリアにとってはメイドがいる事が日常らしい。
貴族の娘だから想像に難くはないだろうけどな。
その瞬間、出入り口から歓声が沸く。
「理子さまー、お帰りなさいませー!」
「理子さまがデザインした衣装、かなり好評ですよ!」
どうやら主役のご登場らしい。
しかも、メイド達が理子の名前を呼んでるあたり常連なんだろう。
なるほど……俺達をここに呼んだもとい作戦会議の場所に指定したのは話の主導権を握るためか。
特に我の強いアリアだと勢い任せに色々と言ってくるからな。
それでこのホームグラウンドを指定して出鼻を挫いたと……相変わらず狡猾なヤツだ。
霧あたり呼んでおけばよかった。
あいつならこんな中でもマイペースにしていそうだからな。
「やはは、遅刻しちゃった~」
それから理子は両手を広げて「ブーン」とか言いながら来た。
飛行機のマネらしいがその前に、その広げた両手に垂れ下がってる紙袋はなんだ?
まさかとは思うが、その中に入ってるフィギュアやらゲームやらコスプレ衣装やら買うので遅れたんじゃねえよな?
思わず理子に睨みを利かせる。
そして俺の視線に気付いたのか、理子はこっちを向いて
「いやん、ダーリンてば理子に熱視線を送ってくるなんて……理子に惚れたらヤケドしちゃうぞー♪」
バーン、なんて言いながら指鉄砲をこっちに向けてくる。
1厘の可能性もねえよ。
いちいち行動にイラッとするな。
どうやらアリア様も同じらしく、銃に手が伸び掛けてる。
しかし
アリア、今回は俺も同じ気持ちだ。
だが今は堪えろ。
じゃないと色々とおしゃかになる。
お互いに一旦席に着いたが、反応と言うか機嫌は対照的だ。
俺の隣のホームズの4世は不機嫌、対してリュパンの4世はご機嫌だ。
そして一方は皿いっぱいの桃まんを頬張り、もう一方はタワーみたいな特大パフェを食っている。ちなみにどちらも既に半分まで食い尽くしてる。
と、食べているものに関しての下りは関係ない。
問題は話が一向に進まないことだ。
「まさか、因縁の一族と同じテーブルに着くことになるとはね。ご先祖様もさぞ嘆いておられるわ」
埓があかないと思ったのか、アリアが嫌味から切り出す。
だがそんな事は気にせずに理子は食べ進める。
俺もアリアに続いて念押しする形で続く。
「理子、俺達は食事しに来たわけじゃない。それと確認だが……俺とアリアとの取引、お前は守れるのか?」
「もっちろんだよ、キーくん♪ 約束はちゃんと守れって"言われてる"から信じてもいいよ」
なんて朗らかな笑顔で言いやがる。
一応、信じてもいいんだろう。
「そ・れ・に、キーくんはりこりんのダーリンだからね」
「誰がダーリンだ。お前とそんな甘い関係になった覚えはないぞ」
「――!? ま、まさかキーくんが普通に返してくるなんて……」
「誰かさんに普段から
もちろん、霧のことなんだが。
つーか何をそんなに驚くことがあるんだ。
そう呆れながら見ていると、アリア裁判長が銃のグリップでテーブルを2回叩く。
「はいはい、静粛に。早いところ本題に入って貰えるかしら。次は2発の銃弾に変わるわよ」
ここ民間施設。
それやったらお前が母親と同じ檻に入る事になるぞ……
なんて事は突っ込まなくても、アリア自身分かってるだろう。
本気じゃない、はず……
「せっかちだね~。短気は損気、鈍器は便利なんだぞー」
理子は意味が分からん上に聞いたことない慣用句を言う。
言いながら、紙袋からノートパソコンを1台取り出して俺達に見えるようにディスプレイを開ける。
「入るのは横浜郊外にある『紅鳴館』……一見すればただの広い洋館だけど、中身は別物。これがなかなかに手強くてね~、さすがの理子もクソゲーと言わざるを得ないんだよ~」
見せられたのはその屋敷の見取り図だが、おいおい……色々とプランが細かく書いてあるぞ。
逃走経路、連絡手段、潜入経路、おまけにある部屋からある部屋に移動するまでに掛かる推定所要時間まで書いてやがる。
最初の3つの経路や手段は何通りも考えられてる。
どうやらこの見取り図を見る限り、屋敷は地上3階と地下1階で構成されてるらしい。
「それで、この地下金庫にあんたが盗み出して欲しい物があるのね」
「そうなんだよ~アリアん」
「誰がアリアんよ。その割には肝心の地下金庫の詳細が分からないみたいだけど?」
確かにアリアの言う通り、彼女がディスプレイで指し示した地下金庫の詳細は不明瞭だ。
他の部屋は家具の配置まで調べてある徹底ぶりだと言うのに。
「それはね~、金庫の奥深くまでは単純に分からないんだよね~。セキュリティまでしょっちゅう変えててさ、だから仮に調べられたとしても参考にあまりならないんだよ~」
なるほど、何日かすれば全く別の物に変わってる可能性がある訳か。
だからあえて詳細な情報はないんだろう。
「それと、この作戦立案は誰が?」
「わ・た・し♪」
「いつからやったのよ……それと次そんな答え方したら風穴」
「先週ぐらいかな~。計画はその前からしてたけど」
なんて事ないという風に理子は答えてるが、かなり凄いぞこれ。
俺もアリアも目が点になる。
「ジャンヌから教わったんだけどね~。結構使えるよ? アリアもどう?」
「あんたに教わるのは御免こうむるわ……末代までの恥よ」
理子の提案をアリアは普通に蹴った。
対する理子は断られると分かっていたのか、やれやれと首を振る。
こう言っちゃあなんだが、俺は覚えて欲しいと思った。
だが、俺が言っても素直にアリアが聞き入れるかどうか……怪しいところだ。
霧と違ってアリアは基本的にノープランだからな。
突撃、戦闘、捕縛の三拍子しかない。
「ところで、理子。ここにブラドは住んでるの? 見つけたら捕まえてもいいわよね? あいつはあたしのママに冤罪を着せてる1人だしそれと――」
少しアリアが溜める。
「"ジャック"とも繋がってるって話よ、イギリスの貴族としてヤツを捕まえなきゃならないわ」
――ピクリ。
理子の反応が少しだけ、変わった。
ジャック――現代に復活したなんて噂されてる名高きジャック・ザ・リッパーか。
実際そんな事はないと思うが、それでも名前負けしない犯人には違いないだろう。
理子は特大のパフェを平らげると、スプーンをグラスに軽く投げるように入れて横にやる。
理子の様子がいつもと違う。
ウラ理子とかじゃない。
もっと別の、針のような尖った雰囲気だ。
「どこで聞いた?」
男口調で理子は聞いてきた。
獣みたいな鋭い目。
ハイジャックで見せた雰囲気とは違う理子の顔に、アリアも少し気圧されそうになってる。
だが、気丈にもアリアは返した。
「ブカレスト武偵高でよ」
「……最初に忠告しておいてやる。やめておけ」
「な、なにをよ……?」
「ジャックを追うのをだ。お前には"ムリ"だ」
その単語はマズイ。
と思ったが、もう遅いらしくアリアが机を叩いて勢いよく立ち上がる。
「ムリってどう言う事よ!」
やはり噛み付いた。
アリアに『ムリ』『疲れた』『メンドくさい』は禁句だからな。
だが理子は呆れ、アリアよりも視線は下なのに見下した眼をする。
「勝てないって言ってるんだ。あの人を逮捕なんてお前には夢のまた夢だ」
「なんですって!?」
がー、と言いながらアリアはまだまだ噛み付く。
これ以上吠えられたら店に迷惑が掛かるぞ……仕方ないので俺が話に割って入って少し事態を沈静化させる。
「ジャックについて知ってるような口調だな」
「当たり前だ。ジャックもイ・ウーの一員だし、存在は誰でも知ってる」
おいおい、そんなヤバイ奴までいるのか。
イ・ウーは一体どんな魔窟なんだよ。
理子は続いて忠告してくる。
「別に追いかけるなら止めはしない。だが、オルメス。その代わり母親を失う事になるぞ、それでもいいのか?」
「……え?」
「あの人は敵対する奴には容赦しない。そいつの大事なモノを色々と目の前で奪っていく」
理子はテーブルから身を乗り出して、アリアに顔を近付ける。
どうやら本気みたいだな。
さすがのアリアも母親を殺されると言われれば強く出れない。
それからアリアは静かに席に着くと同時に理子も自分の席に座る。
「あたしと違って肉親がいるんだ……わざわざ失うようなバカな真似はするな」
不意に顔を横に向けて窓を見る理子の顔は、どこか儚げだった。
いつも武偵高でバカやってる理子からは想像できないような一面だ。
本気でアリアの事を気遣っているかのような言葉も意外と言えば意外だ。
そして、少し遅れて俺は理子の発言に違和感を覚えた。
「違って? 理子……お前の家族は――」
「とっくに死んでるよ。父様も母様も、理子が8つになった時に亡くなった」
それから肘をついて理子は俺に顔を向ける。
「血の繋がった人は理子にはもういない……でも、あたしには帰る場所がある……帰らなきゃダメなんだ」
最後だけは小声でよく聞こえなかった。
とっさの事で読唇術でも読み取れなかったが、どうやら並々ならぬ事情があるようだ。
それからなぜかは分からないが、突然に理子は少し両手で頬を叩く。
「はい! 暗い話はおーしまい、マゾゲー攻略に戻っちゃうぞ♪」
一転してきゃるんとした笑顔を振り撒きながら表理子に戻った。
どうやらさっきのは切り替えのつもりらしい。
だけどな理子……さっきの話をした後なら、今はお前のその笑顔が俺には強がりに見えちまう。
「さっきの質問の答えとして、ブラドはここ最近……10年単位でこの屋敷には戻ってきてない。管理人とハウスキーパーしかいない上に、管理人の方もほとんど不在で正体が分からない」
「そう。ジャックがブラドと繋がってるのはあんたの反応で分かったわ。この屋敷に手を出したらジャックが出てくる可能性はあるの?」
「それは、ない。ジャックはブラドとは単に取引してるってだけで、ガードマンみたいな真似はしてない。理子達が手を出したところで管轄違いって事でジャックは出てこない」
と、理子はアリアに説明するが……逆に出てこられたら終わりってことじゃねえのか。
無意識に俺はジャックの事を考える。
そう考えるのは、俺にはある1つの事が引っ掛かっていたからだ。
それはこの間の事だ。
白雪が理子に絡まれて足をくじいたかなんかで応急室に運んだ時のことだ。
そこで俺の事を占ったらしい白雪は俺に占いの結果を伝えてきた。
――狼と鬼と幽霊に会う――
らしい。
最初は狼が理子、鬼がアリア、幽霊が白雪の事かと思った……当たってる気もするが取り敢えず別の事として考える。
狼と幽霊が何かはともかく……鬼と言われればさっきのジャックの事だ。
何と言っても殺人"鬼"だからな。
可能性としてもなくはない。
この間のジャンヌでの一件の反省もあり悲観論で考えているが、出来れば考えたくはない事例だ。
白雪と応急室でその後に何があったかは、どう語ればいいのか……今にして思っても何だったのかさっぱり分からん。
まあ、簡単に言えばいつもの暴走だ。いつものと言ってるが、暴走する幼馴染と言うのは普通じゃない気がするが……今更だな。
「とは言え、問題はこの場所なんだけどね~。詳細が分からない上に定期的にパターンを変えられる以上は、リアルタイムで情報を掴む必要があるんだよね~。じゃないと普通に侵入しても失敗しそうだし――」
それから理子はパソコンのディスプレイに表示されている金庫の場所を示しながら口角を上げる。
これまた嫌な予感がするぞ。
「と言う訳で、アリアとキーくんは紅鳴館のメイドと執事くんになって潜入してもらいま~す♪」
予感、的中。
それから理子はパァーンとクラッカーを鳴らす。
店の中でそんなもん使っていいのかと思いながらも俺はクラッカーから出た紙吹雪を浴びる。
隣にいたアリアは呆然。
それから彼女は静かに近くにいたメイドにゆっくりと顔を向ける。
そこには小首を傾げたメイドが、なんだろうと言った感じに笑顔を向けていた。
こ、これ? まさにそんな感じでアリアはメイドさんを指して、すぐに反論する。
「冗談じゃないわよッ!? 何であたしが使用人の格好なんか――」
「くっふっふ~、そんなこと言っていいのかな? 欲しいモノを持ってるのはりこりんなんだよ?」
「む……だ、だからってあたしよりもそう言うのは霧の方が合ってるわよ」
と言ったところで、アリアは気付く。
「そう言えば、霧は呼んでないの?」
「呼んでないよ。キーちゃんの方が適任ではあるけれど、相手はブラド……さすがに荷が重すぎるし巻き込めないよ」
理子は少しだけ顔に影を落とす。
どうやら霧が不参加なのはそう言う理由のようだ。
今にして思えばさり気なく関わってるが、霧はイ・ウーについて知らないだろう。
聞いたとしてもアリアの母親であるかなえさんと面会した時ぐらいだ。
それに俺にはヒステリアモードがあるがアイツは、成績が良くて少し変わってるだけの一般人だ。
俺も一般人のはずなんだがともかく、確かに荷が重いと言う理子の発言には心の中で同意する。
だが、なんつーか……霧に対しては妙に労わるよな、理子のヤツ。
ハイジャックの時に利用したみたいな発言をしてたが、意外と友達思いなんだろう。
普段でも結構仲が良いしな。
しかし、霧がいないのはどことなく不安だ。
イタズラ気質ではあるが、それでもアイツは自重するところは自重する。
理子やアリアの抑え役もよくやってくれてるし……霧がいないとなると、俺が2人を抑えないといけないのか。
そう思うと憂鬱な息が漏れる。
同時にアリアは理子の言う事に納得したのか、何も言わない。
けれども、どことなく不信感を抱いてるような視線を理子に向けているような気がする。
「それじゃあ大泥棒大作戦会議はしゅうりょ~! 分からない事があったら逐次聞いてね~」
理子はそんな視線に気付かず、解散を宣言するのだった。
◆ ◆ ◆
候補を見つけて2日くらい。
あれから他の候補も探してはいるけど、なかなかに見つからないもんだよね~。
だけど、岡田 以織についてこっちはこっちで調べている。
どうやら佐々木の言うとおり彼女は父子家庭で父親は1ヶ月ほど前に亡くなってる。
それから彼女は、人斬りをしていた事で歴史上有名なある人物の子孫らしい。
母親に関しては不明。
と言うか、そこまで詳しい事は調べてない。
佐々木からさり気なく色々と聞いてるだけだし、情報収集に関してはリリヤに一任してるからね。
本格的に私が調べるのは佐々木から頼まれた
その時に勧誘するかどうか判断する。
特に期限とかお姉ちゃんは決めなかったけど……もしかして、すぐに現れると分かってるから連絡したのかな?
まあ、普通に考えられる話だからね。
あの人に解けない事象なんてあんまりない。
机の上で震える携帯。
どうやら連絡らしい。
腰掛けてた背もたれ付きのイスを座り直してプライベート用の携帯を見る。
そして、そのまま電話に出る。
「
『……ロシア語じゃなくても、いい』
「その人の国の言語で返すのが癖でね。どうかしたの? リリヤ」
『……調べ終わった』
早い事で。
私の中では
う~ん、ちょっと過小評価してたかな?
だけど情報が早いのは良い事だよ。
「うん、ありがとう。今更だけど、研究所での事は悪かったよ」
『……悪い物、食べた?』
酷い言いがかりだ。
私ってそんなに常識がない風に思われてたのかな?
世間的な評価を考えたら妥当なのかもしれないけど……
「別に変な物は食べてないよ。ただ、普段はあんまり会えないからね。連絡が付く内に言っておこうと思って」
『……やっぱり、あなた、変。……情報、送った』
「はいはい、確認したよ。それじゃ、引き続きよろしくね。それと理子に会えるよう取り計らって見るから」
『……ん』
小さく、嬉しそうな鈴のような声がして電話が切れた。
さーてと、プレゼントの中身を確認してみようかな。
当たりかハズレか楽しみだね。
さて、岡田 以織について知った翌日。
今日は佐々木の
別々で集合地点に向かう事になってる。
そして私は一番最初に集合場所に到着した。
場所は東京都内のとある化粧品店前の通り。
人の往来が激しい中、静かに私は待つ。
今の私は武偵の制服ではなく私服。今時な感じのカジュアルなファッション姿にショルダーバックを下げてる。客を装って店内を徘徊するのが私の役回り。
そんな中で私はつい人間観察をする。
電話をしながら歩くサラリーマンに、何をしてるか分からない数人のグループで歩く若者。待ち合わせをしてるのか、相手が遅れて苛立ってる様子の女性。
「あー、すみません。ここら辺でおいしいお茶が飲める店を知りませんか?」
そして、ナンパをしてくる男。
声を掛けられたのは私。
人の良さそうな顔をして店を尋ねて来たけど、集団グループで遠巻きからチラチラ見てたのは気付いてたよ。
そのグループの他のメンバーは、私とナンパの男を見て談笑したりひそひそと話をしてる。
大方、ゲームのつもりだろう。
私を誑かすことが出来るかどうかみたいな感じで賭けてる感じ。
お金を見せ合ってるあたりそんな感じがするよ。
アレだね……こう言うのは、適当に銃をチラつかせれば去るだろう。
神経が図太かったら、効果は無いだろうけど。
なんて思いながらも私は銃が見えるように上着を少し広げようとする。
「武偵だ。この人は任務協力者なのでお引き取り願う」
その瞬間、私の肩を抱き寄せて以織が割って入ってきた。
もう片方の手には武偵手帳。
ナンパの男に突き付けるように見せている。
いきなりの展開に男は怯み、焦るがどうやらしぶとい部類らしいね。
怯みはしても引き下がる様子はない。
「店を尋ねてるだけだから、そう怖い顔しないでくれよ」
頬を引きつらせながらも言葉が出るあたり場数は踏んでるみたいだね。
対して以織は、
「そこの通りの左に流行りのカフェがある。フランス語で書かれた看板だ」
普通に教えた後に、鋭い眼光を向ける。
いかにも失せろって言う目だね。
視線は下にも関わらず、睨まれた本人はたじろいだ様子で「あ、ありがとう」と引きつりながら退散する。
それから以織は疲れたような一息。
「失礼しました」
それからお堅い感じで、私から離れる。
「いや~、助かったよ。まさか後輩に助けられるなんてね」
一先ずお礼を言う。
だけども彼女は少し申し訳なさそうに言う。
「いえ、別に……余計なお世話でした。白野さんなら何とかしたでしょう」
「なんだ私の事を知ってるの?」
「私も
どうやら、言い方からして私の噂は聞いてる人らしい。
それから会話はなく、通行人の雑踏以外に私と以織の間には何もない。
この待ち時間にも私は視線を動かさずに周りを見ている。
そんな時だった――
「あなたはなぜ武偵に?」
唐突に以織が切り出してきた。
だけど、私はそれについて聞き返すことはせずに素直に答える。
「お父さんに頼まれてね。頼まれただけじゃなくて、お父さんが探偵で……興味が少しあったし、楽しそうだったから」
「そうですか……」
「そう言う岡田さんは?」
「私は、父に憧れて――」
なるほど、キンジと似たようなものか。
キンジもお兄さんに憧れて目指してたけど、背中を追う人を失った。
生きてるけど。
彼女もそんな感じだろう。
そして、今は追うべき人も目標も見失って塞ぎ込んでる感じだね。
「だけど父は……ッ」
彼女はそこで言葉を止めた。
お父さんに何かがあったのかな?
さすがに面識の少ない私にそこまで話してくれそうにはないけど、聞くだけ聞いてみる。
「岡田さんのお父さん、どうかしたの?」
「いえ、何でもありません……」
やっぱり無理みたいだね。
だけどもう少し踏み込んでみるか。
「何か悩んでるなら聞くだけ聞いてあげるよ。吐いちゃえば楽になるだろうし」
「…………いえ、いいんです」
少し話そうとした素振りを見せたけど、彼女は堪えた。
これ以上はダメだね。
あとは佐々木に期待しよう。
と思っていたら、ちょうど佐々木が遅れて登場。
「あのバラは誰が……もしや、彼女が――」
そして、神妙な面持ちでブツブツ呟いてる。
「佐々木さん?」
「あ、はい!? 遅れてすみません!」
近くに来たところで私が声を掛けると、今頃気付いたのか驚いた声を上げて私に謝る。
私は「はは……」と苦笑いを返すけど、以織は静かに
「それじゃあ私は店の人に話を聞いてくるから」
そう言って私は佐々木の横を通り過ぎる瞬間、
「……あとはよろしくね」
小声で言う。
事前に私が店で、佐々木と以織が2人で万引き犯と思われる人物に関連する事を調査することになってる。
私は店に入る前に後ろを確認。
佐々木と以織が離れたところで盗聴器のスイッチをオン。
さっきのナンパ男から守るように抱き寄せられた時にさり気なく以織に仕掛けていた。
インカムから周りの雑音が入るのが聞こえる。
私はそのまま店の中に入り、一応調査というか店の中を確認する。
監視カメラの位置とか見ておかないとね。
それと店の人には客に交じって調査することは言ってある。
よく盗まれる物あたりを調べて、それから店の人の話を聞くと言う段取り。
その調査の途中で早くも向こうに動きがあったみたい。
周りの雑踏も少し小さくなっている。どうやら人気の少ない方へ向かっているらしい。
『あの、以織さん――』
『……志乃、君の父は武装検事だったな』
『は、はい……それが?』
佐々木が話し掛けようとしたところで以織から話を切り出した。
いきなりの事に佐々木は戸惑いながらも返したようだ。
『………………』
話すべきか、話すまいかと言った感じの息遣いが以織から聞こえる。
『お父さんの事で、何かあったんですか?』
佐々木はかなり深く切り込むように聞いた。
『――ッ』
明らかに動揺した。
以織は、言葉に詰まっている様子だ。
盗聴器の音だけで判断するのは結構難しいんだけど……出来なくはない。
『志乃、私の父は――誰かに殺されたかも、しれないッ』
悲痛そうに以織は打ち明けた。
『以織さんのお父さんは、確か――』
『公安0課だ。父は、任務中に事故死したことに、なってる』
なるほどなるほど。
それからも以織は息巻いて、絞り出すように佐々木に伝える。
『だが、父は……任務の前日に妙なことを言っていた。知りすぎたか、とたった一言だがそう言っていた! 父が何を知ったのか私には分からない! だが、その矢先に父は死んだ!! 何かが、おかしいんだ……』
段々と以織は涙声になっている。
私を守った凛とした声からは想像もできない、弱々しいものだ。
『志乃、協力してくれ。武装検事の管轄外かもしれない、無理を言ってるのは承知だ……だが私は、真実を知りたいんだ……』
その以織の懇願に佐々木は、
『――分かりました。父様に言うだけ言ってみます』
力強く答えた。
『本当、か?』
『もちろんです。武偵憲章1条:仲間を信じ、仲間を助けよですからね』
『すまない……ありがとう』
どうやら、話は終わったらしい。
最後は以織の感謝で締めくくられた。
いや~、実にいい話だよ。
これで佐々木のお父さんが調べて、真実に辿り着ければ一件落着。
――だと面白くないんだよね。
良かったよ、私好みの話だ。
あの気丈な感じの性格も気に入ったよ。
佐々木のお父さんがもし調べることになったら、それよりも早く真実に辿り着かないとね。
思わず口の端が釣り上がる。
化粧品が並ぶ棚に据え置かれている鏡。
悪い顔してるのが映ってるよ、私。
でも仕方ないよ、
――楽しいんだから。
もし、アリアとジル(霧)が敵対した場合のそれぞれの勝利条件。
ジル(霧)勝利条件→逃走すればおk(変装で機会を窺える)。アリアの関係者の殺害。
アリア勝利条件→ジルを逃がさずに捕縛。誰一人欠けてはいけない。
多分、こんな感じ。