緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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今回の注意事項。

・視点移動多め
・以織ちゃん視点登場
・アイエエ!?

以上。



47:前途多難

 

 ついに来てしまった6月13日。

 何の日かって?

 理子の言葉を借りるなら『大泥棒大作戦』の決行日だ。

 フォーメーションとしては事前の打ち合わせ通りに俺とアリアが潜入で理子は連絡や物資の調達をする後方支援。

 そして、俺にとっては霧がいない久々の仕事になる。

 ダメだな……隣にいる事が当たり前なせいか、どうも違和感がある。

 これまでにも1人で任務(クエスト)をやって来た事や霧以外の連中と組むことはあったが、大概そう言う時は断りをいれてからやってたしな~

 特に言う必要もないが……俺も霧も一緒に色々とするのが当たり前だからそうやって事前に断りをいれてからやるのが当然になっていた。

 なので、今回は霧に何も言わず来たのは妙な違和感を抱えてる。

 代わりに隣にいるのはアリアだ。

 正直に言おう……不安だ。

 アリアはどちらかと言うと戦闘面でかなり頼りになる存在だ。逆に霧はジャンヌや理子みたいな頭脳派のタイプ。そして、2人の仲裁と言うか緩衝材が俺。

 アリアと霧が一緒にいるのはある意味としてバランスが取れてるんだよな。

 理子の話では荷が重いと言う事で今回の潜入の件は伝えていないのだが、今更ながら人選ミスのような気がしてきた。

「遅い! 作戦の立案者が遅れるなんてどう言う事よッ!!」

 そして、俺の隣のアリアは携帯の時間を見て憤慨する。

 朝早くも学園島にあるモノレールの駅前へ集合と言う事になった訳だが、約束の時間から10分を過ぎてる。

 作戦会議の時と言い、遅れてくるのが当たり前なのか……

 それと、日本人は謙虚であることが美徳なのだがイギリス育ちのアリアに説いても無駄だろうな。

 なんてたって当たり前のように自分のトランクを俺に持たせてるんだから……

 特訓で少しは慎ましくなってるかと思ったが、そんな事はなかった。

 頼むからもうちょっとその胸ぐらい慎ましくいられないだろうか。

「ふんッ!!」

「――いてえッ!?」

 いきなりアリアに右足の甲を思い切り踏まれた。

 踏まれた足の甲をさすりながらアリアに訴える。

「いきなりなんだよ?!」

「あんた、何か失礼なこと考えてたでしょ?」

「してねえよ」

 してたけど。

「なんでそう思うんだよ?」

 一応理由を聞いてみる。

「勘よ」

 プイッと顔を逸らしてアリアは自信満々に答えた。

 それだけかよ……

 だが、当たってるあたり相変わらず良い直感してやがる。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! おまたせー」

 ようやく主役のご登場らしい。

 まったく、普段から集合時間を守ってるのか心配したく――

「ふふ、どう? キーくん」

 ………………。

 時間が、静止する。

 思わずアリアのトランクから手を離し、ガランと音を立てて倒れる音が呆気に取られてる俺の耳に響く。

 兄さん、いや……カナ……

 ――待て、落ち着け。これは理子の変装だ。

 身長も声も雰囲気も、何もかもが違う。

 ただの似姿だ。

 クソ、(たち)の悪いイタズラをしやがって……!

「なんでその格好で来るんだよ!?」

「りこりんはブラドに顔を覚えられてるし? 管理人とかも、もしかしたらブラドのお仲間さんで理子の事を話に聞いてるかもしれないじゃん? だから変装したの」

「お前、だからってなんでカナの顔で……!」

「カナちゃんは理子の知る限りだと、2番目くらいには美人だからね。それに大切な人に応援された方が嬉しいかなっと思って」

 それはただ単に皮肉だろう。

 生きてるかも知れないとは言え、兄さんを"やった"のは理子。

 その本人が倒した相手の顔で来たって言うんだからな。

 バカにしてるとしか思えない。

 だが――、

「お前の茶番に付き合うつもりはない。早く行くぞ」

 理子の事だ。そうやってまた色々と主導権を握ろうとしてるんだろう。

 悪いが、素直に反応はしないぞ。

 それに……ジャンヌからの話を聞いて、いつもみたいに理子を見ることが出来なくなった。

 なんだろうな、悲痛さが最近は見えるようになった感じだ。

 俺は吐き捨てるように言いながらも、どこか見逃してやるみたいにトランクを持って背を向け先に行く。

「……え? キンジ、ちょっと!? 待ちなさいよ!!」

 アリアが俺を引き止める言葉を投げ掛けてくる。

 だが俺はそれを無視する。

 ……悪いな。

 こればっかりは、カナ――兄さんについては話す訳にはいかないんだ。

 いや、話さないんじゃなくて……上手く伝えられないんだ。

 荒唐無稽な話で、色々と込み入った事情がある上にこれは俺の問題なんだ。

 アリア、お前と同じだよ。お前がかなえさんの話を最初にしなかったようにな。

「キンジ!」

 俺を呼ぶ声が虚しく響く。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 おっかしいな~、カナちゃん大好きなキーくんの事だからもうちょっと反応してくるかと思ったけど。

 思ったよりも淡白だったね。

 おまけになーんか、あたしを哀れむ感じがする。

 まあ、気のせいだと思うけど。

 ともかく今から2週間が勝負どころ。

 その間に"全て"を終わらせる。

 ブラドとの約束が果たせれば晴れてあたしは自由の身だ。お姉ちゃんの手間もなくなるし、堂々と隣にいられるんだ。

 今まで影に守られてきた数年間が終わる。

 きっとお姉ちゃん、あたしの異変に気付きながらも見逃してるんだろう。

 だってそう言う人だし、敵でもない限りはあまり深く事情とか詮索しない。

 じゃなかったら今頃、言葉巧みに色々と吐かせられてる。

 考えてる内に見えてきた。

 タクシーの窓から見えた1つの洋館が段々と近づいて来る。

 そして――ようやく着いた。

 『紅鳴館』……ヒルダが言った横浜郊外にある別荘。

 ここにあたしの盗られた物がある。

 今こそ、盗まれた物を取り戻す時だ。

「薄気味悪いところね……」

 タクシーから降り、鬱蒼とした森と薄い雨霧の中に建っている洋館を見て開口一番にそう呟くオルメス。

 薄気味悪いのは同意するけど、ルーマニアの本拠地の方がもっと趣味が悪いよ。

 あそこに比べればまだマシ。

 タクシーが去って、いざ入ろうかという時に、

「さて、今更ながら取り戻して欲しい物を言いまーす♪」

 あたしはそう言って2人の注目を集める。

「本当に今更だな……」

「りこりんだって余裕がない時はあるんだよ。説明だの準備だので忙しかったし」

 キンジに対してあたしは少し答える。

 これは一応、本音だ。

 前もって計画してたとは言え、少し余裕がない。

 例えば、この間現れたコーカサスハクギンオオカミ。

 こんな島国な上に武偵高に現れたって事は少なくとも、自然に流れ着いた訳ではない筈だ。

 ブラドの指示だと――あたしは睨んでる。

 何が目的かは分からないが……もしかしたら、近日中に帰ってくる可能性もある。

 それまでに母様の形見を取り戻してこいつらを倒さないと、面倒な事になる。

「取り戻して欲しいのは母の形見である十字架(ロザリオ)ね。間違っても、他の財宝なんか盗っちゃダメだよ?」

「しねーよ」

 キンジは面倒そうに頭を掻いて答える。

「財宝なんて興味ないわ、せ……説明は終わり? 早いとこ入ってしまいたいんだけど……」

「むふふ♪ さては、ビビってる?」

「うるさいわねっ。早く行くわよ!」

 あたしの言葉を振り払うかのようにオルメスは先へと進んでいく。

 きっと幼少期は夜のトイレが怖くて誰かに付き添って貰ってたタイプだろうね。

 まあ、そんな事はどうでもいいや。

 早いとこ紹介してあたしもバックアップの準備をしなくちゃ。

 石で舗装された、森の中の道を歩いて行く。

 両開きの木造ドアの玄関へと辿り着き、付いているドアノッカーを4回鳴らす。

 そしてガチャリとドアが開いたところで、あたしは頭を下げて、

「初めまして。本日、正午からの面会をご予定しておりました派遣会社の者です。こちらでお手伝いをさせて頂くハウスキーパーを連れて参り――」

 そう挨拶を言う。

 その終わりに顔を上げた瞬間、言葉が詰まりそうになった。

「――ました……」

 だけど何とか言い切った。

 ………………。

 このパターンは読めなかった。

「おや……これはまた、意外な事になりましたねー……あはは」

 そう苦笑いをしながら返すのは、小夜鳴(さよなき) (とおる)

 救護科(アンビュランス)の非常勤講師。細身で長髪のイケメンメガネ。

 この間、(くだん)の銀狼に襲われたせいか右腕にはギプスをはめてる。

 少し先行きが不安になる展開だな。

 考えても仕方ない。

 それにここまで来た以上は引き返せない。

 

 

 館のホールへと入って、1人につき1つのソファーに腰掛ける。

 あたし達が座った後に小夜鳴が最後にソファーへと座る。

「本当に意外ですね。誰でもいいとはいえ、まさか同じ武偵高の生徒さんがここに来られるとは思いませんでしたよ。何と言うか、先生なのに家庭訪問されたような心境です」

 そして、はにかむ様に小夜鳴は笑顔を浮かべる。

 話を途切れさせないようにあたしは話題を振る。

「まさか、学校の先生と生徒と言う関係だなんてわたくしも驚きです」

「ええ、こんな偶然もあるものですね……おっと、そうです。少し、お断りしておくことがありまして」

「はい、なんでしょう?」

「実はですね、ついこの間にハウスキーパーが1人入ってきたばかりなんですよ。私もこの通り、片腕が使えない状況ですので急遽(きゅうきょ)雇ったところでして。ああ、もちろんお2人もちゃんと雇いますよ? 何せこの屋敷は広いですからね、1人では手が足りなくて」

 小夜鳴はギプスをしてる腕を見せながらスラスラと説明する。

 だが、あたしは内心少し眉を寄せる。

 またイレギュラーか……上手くいかないな~

 ちょっとその人物を見て、色々と対策を立てないとマズイかな。

「あ、すみません。お客さんが来たと言うのにお茶を出すのを忘れていましたね。紹介ついでにそのハウスキーパーにお茶を淹れてもらいましょう」

 あたしからその人について聞こうと思ったけど、小夜鳴から呼んでくれるみたいだね。

「シェースチさん」

 …………ん? シェースチ?

 それからコツコツと靴音を鳴らして、小夜鳴の後ろから現れたのは――

 

 リリヤだった。

 

 え……うええええええええええええッ!?

 アイエエエエ! イモウト!? イモウトナンデ!?

 ちょ、おまッ!?

 いやいやいや、ネタに走ってるけどそれどころじゃないよ!!

 素数数えてる余裕もないよ!

 イレギュラーにもほどがあんだろ!?

「おや、どうかしましたか?」

 どうかしましたじゃねえよ、キザもやしメガネ。

 どうかしまくってるよ。

 だけど、表には出さない。と言うか出してたまるか。

「い、いえ……何でもありませんよ。キレイなメイドさんだと思いまして」

 なんて言って茶を濁すけど……ダメだ、上手く愛想良く笑えてる気がしない。

 絶対に苦笑いだ。

 思わず口を押さえて、ちょっと美しさに絶句してるように魅せる。

「そうですね。私もそう思います。あ、シェースチさんお客様に紅茶のご用意をお願いします」

 小夜鳴がそうリリヤに指示を出すと、リリヤは少し会釈するだけで引き返して行った。

「いや、すみませんね。どうやら愛想はあまりよくないみたいで、口数も少ないんですよ。気を悪くしないで下さい」

 リリヤの態度に小夜鳴がフォローの言葉をいれる。

 あの子、身内以外にはあんまり喋らないからそれも当然だ。

「なかなか取っ付きにくいでしょうが、仲良くして下さいね」

「あ、ああ……」

 小夜鳴に言われてキンジは生返事をしてるけど、お前はやめろ。

 どっかの漫画の主人公みたいにラッキースケベな体質なんだから。

 お姉ちゃんだけじゃなくて妹にまで手を出されたら、あたしの何かがキレる……多分。

「ところでこのお屋敷は小夜鳴先生の物なんですか?」

「いいえ、違いますよ。私はここの研究施設をお借りすることがあるので……そうですね。居候(いそうろう)と言ったところです。ですが、そうやって研究施設を頻繁に借りてる内にこうして管理人のような形に収まってしまったと言う訳です」

 オルメスに聞かれて、小夜鳴はそう説明する。

 その間にリリヤが紅茶を人数分の運んできて、さりげなくテーブルへと並べて去っていく。

 ……逆に言えば研究以外で帰ってくる事はあまりないって事だね。

 通りで不在が多いと思ったよ。

「では、家の本来の持ち主は別にいらっしゃると言う事ですね?」

「ええ、そうです。ですが、ご主人様はなかなか帰ってこられませんので、お2人がいる間に会う事はないでしょう」

 こちらが聞くまでもなく小夜鳴はあたしの疑問に答えた上に残念そうに言う。

「そうですか。残念ですね」

「本当に残念です、せっかく話のタネが出来たと言うのに」

「……それでは、私はこれで失礼します。お2人をよろしくお願いします」

 あたしは紅茶を飲んでからそう言って席を立つ。

「ええ、お気をつけて。シェースチさん、お見送りをお願いします」

「いえ大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

 小夜鳴の言葉にあたしはそう断りを入れる。

 あの子は人工天才(ジニオン)だし、お姉ちゃんの変装を何度も見てる。

 あの人の変装はそう簡単に見破られることはないだろうけど……私は違う。

 一応、バレないと思うけど……あまり下手に見られるとどこか気付かれるかもしれない。

 だから念の為に接触は控えるに限る。

 あたしは素早く、だけど走らずに屋敷を離れる。

 ある程度、『紅鳴館』から離れたところで段々と自然に駆け足になる。

 マズイよ……とんでもなくマズイ。

 素人ならまだしもよりによってリリヤ。

 色々とやりにくい。

 …………待てよ、お姉ちゃんはこの事を知ってるんじゃ。

 と言うか、何か仕事云々(うんぬん)を言ってたような気がする。

 あたしは適当な物陰で変装を解いて、近場の予約してたホテルへと直行する。

 到着した頃には日は落ちてきている。

 ロビーで鍵を貰って、部屋へと辿り着き、入った後にやる事は決まってる。

 素早く"あの人"に連絡を入れる。

『ただ今電話に出られません。ピーとなったら伝言を――』

「お姉ちゃん、そう言うおふざけは今はいいから」

『はいはい、今日はちょっと不機嫌そうだね。なにかあった?』

「何かあったじゃないよ!? どうしてリリヤがこっちに来てるの?!」

『知ってるって事は……紅鳴館に行ったんだね~』

 …………。

 ………………あ。

 墓穴、掘った……

 携帯を持ったまま思わず膝を突いて項垂れる。

 リアルにorzをやるとは思わなかった。

『さ~て、何しに紅鳴館へ行ったのか……私は優しいから聞かないであげるよ』

 うぐぐぐぐぐッ……

 自分で墓穴を掘ったとは言え、罪悪感が募るー!

 頭を抱えて床を転げ回り悶絶する。

『紅鳴館で何するかは分からないけど、1人でやる訳じゃないんでしょ? どうせキンジ達が十中八九、協力してるだろうからね』

 はい、その通りです。

 バレないように裏でやってるつもりでも、お姉ちゃんの耳が良すぎるせいでなんの意味もない。

 しかも、あたしはあたしで余計な情報を喋っちゃうしさ。

 せっかく詮索しないでくれているのに意味ないじゃんっ!

 うぅ……理子ってこんなにマヌケだったかな? 少し悲しくなってくる。

『こっちで内密にリリヤに連絡しておくよ。キンジ達の邪魔をしないようにね。コソコソしてるって事は、ブラドに知られたら困るんだろうし』

 もうこれ、完全にフォローされてる。

 まさかこんな事になるとは……思わなかった。

 作戦が本格的に始まる前に色々とボロボロなんだけど。

『全部終わったら、聞かせてくれるよね?』

 あ……これ詰んだクサイ。

 だってもう、

「……うん」

 こう答えるしかない。

 選択肢が『イエスorはい』だよ。

『楽しみにしてるね~……クスクス』

 カラカラと言った感じの笑い声。

 お姉ちゃんのイタズラっぽい笑顔が目に浮かぶ。

『それじゃ、私は理子が帰ってくるのを信じて待ってるからね』

 そう言って切れた。

 …………。

 ………………。

 ズルいよ。

 最後にそう言うの……

 

 ◆       ◆       ◆

 

 やれやれ、世話の焼ける妹だこと。

 ま、手間が掛かる方が面白いからいいんだけどね。

 キンジと言い理子と言い、割と世話好きなのかもね~……私。

 理子が動いた事だし、こっちも本格的に始めようか。

 と言っても、色々と変な予感がするから理子が終わるより先に私の仕事を終わらせるとしよう。

 日が落ちてきて、街灯が灯り始める。

 私の待ち人は寮ではなく、父と2人でアパート暮らしだったので先回りしている。

 帰りにこの道を通る事も把握済み。

 ふむ、時間も大体バッチリ。

 岡田 以織が私へと向かってくる。

 『It's show time』ってね。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 今日も何もない日の帰り道。

 私の日々は父が死んでから、どこか色褪せたようだ。

 孤独と言うのは()くも寂しいものだと……1ヶ月経った今頃、その事を実感した。

 喪失感があるのに、まだ失ったことが分からないような気味の悪い感覚。

 父を失ったと言う理解も実感もあるのに、どこか拒んでいる。

 ふとした時に考えるのは何故、私の父は死んだのかと言う事ばかり。

 武偵は常在戦場。常に死と隣り合わせ。

 そんな事は分かっている。

 だが、父の死んだ理由を詳しく聞かされない事が……理解に苦しむ。

 公安0課だからと言う事だけではない筈だ。

 真実が分からない。

 だから、私はこんなにも――苦しいんだ。

「やあ、お嬢さん」

 突然に掛けられる声。

 不意に俯きがちだった顔を上げれば薄暗い街灯の下に1人のスーツを着た青年男性がいた。

 特に前を意識はしていなかったせいか、まるで突然現れたようだ。

 雰囲気が一般人とは違う。歴戦の、父のような張り詰めた猛者(もさ)の空気だ。

 ナンパ、ではないだろう。

 おそらく……

「何でしょう?」

 答えながらも少し警戒する。

「岡田 以織、で間違いないか?」

「そうですが、貴方は?」

「君の個人的なファンさ」

 ナンパじゃなく、ストーカーだったようだ。

 相手をしないに限る。

「失礼します」

 そう言って足早に彼の隣を通り過ぎる。

「あー、ちょっと待った。冗談だ……君の父親について知ってる者だよ」

 私の足を止めるには充分な一言だった。

 思わず振り返る。

「どう言う事ですか?」

「食いついたな。君の父親、その死について私は知っている。それを君に教えたくて私はここに来た」

 彼は少し笑顔で、胡散臭い感じに語り始める。

 よく見れば彼の胸には父と同じ、公安0課の紋章があった。

「それは公安0課の……」

「なんだ、気付いてなかったのか。そう、君の父と同じ職場だよ」

 その紋章を見せるように手で示し、彼は言った。

「君の父親の死から1ヶ月。君自身、色々とあっただろう。だけど、聞く所によると……君は父親の死について事故死としか聞かされていないと知ってね。さすがに不審に思ったんだ」

「………………」

「それで、私は個人的に調べて真実へと辿り着いた。だけど、直接的な関係者である君に知らせないのは忍びなくてね」

 彼はそこで胡散臭い笑みを浮かべるのをやめて、真剣な顔で聞いてきた。

 

 ――真実を知りたくないか?

 

 真実……父が、死んでしまった理由。

 それをこの男が知っている。

 まさに渡りに船のような話だ。

 知ることが出来る……ようやく本当の事を。

 佐々木、すまない。

 私にはこの話を断る理由がない。

「お願い、する」

 私の答えに彼は満足そうな笑みを浮かべる。

「そうか。なら、3日後に全てを話そう。君に全てを話すには色々と足りないんだ」

 彼は私へと近付き、1つの紙を渡してくる。

「これが連絡先だ。だけどこちらから追って連絡するよ」

 電話番号を示す数字が書かれていた。

 そう言って彼は、背を向けて歩き出す。

 突然に巡って来た機会。

 理解が追いつかないが、それでも父についてようやく分かるんだ。

 それだけで充分だ。

 

 私は、疑問を持つことはなかった……何一つ。

 

 




多分、薄々感じてる人もいそうですけど。
ウチの理子さんはもうダメです色々な意味で。

そして、来るーきっと来るー♪季節は白くー♪(霧ちゃん的な意味で)

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