きっと好きな人には好きな話。
なんでこんなシリアス場面は容易に思いつくのかと小一時間――
喜劇と悲劇はいつでもどこでも起こる。
些細な出来事で何かが変わったりもする。
悲劇が起きる時は何かの手違いだったりする事もあるけど……それでも、人の運命を変えるのは人が原因。
それはいつの時代も同じ。
今日は1人の人物が運命の
彼女はどっちを選ぶんだろうね~
実に楽しみだよ。
◆ ◆ ◆
公安0課の者が私に真実を教えると言ってきた3日後。
胡散臭い青年は私に連絡を寄越してきた。
なぜ私の番号を知っているのか少し気掛かりだったが、その事について尋ねると父を通して私を知ったと彼は教えてくれた。
父と同じ職場にいたのだ。やり手なのは違いないだろう。
私の事を調べるなど造作もない事だと思い、特に疑問に思うことはなかった。
場所は東京湾にある廃工場。
いかにも長年に渡って放置されている事を
私の心を映し出すかのように、虚しい空間だ。
上を見上げればトタンと鉄骨に支えられた天井。
周りには古びた機材に無造作に地面に積み上げられた鉄パイプ。
建設系の工場だったのだろう。
日は暮れて、夕焼けが錆びれた壁の穴から
「よくぞ、よくぞ来てくれました」
声を掛けながら近づいて来る足音。
この声は、私に真実を教えくれると言った青年のものだ。
振り返り姿を改めてみるが……どこか得体の知れない雰囲気がする。
「さて、ここに来たという事は真実を知りたいと言うことだ。そして特別に君にはチャンス、そう別のチャンスをあげよう」
チャンス……どう言う意味だ?
どこか鋭い口調で彼は、そう言う。
「ちなみにそれは後のお楽しみと言う事で」
一転して朗らかに微笑む。
表情がいちいち変わる人だ。
彼はようやく、私の知りたい事を話し始める。
「早速だが回りくどいのは無しで本題、本題に入ろう。君もきっと早く知りたいだろうからな」
それから彼はうろうろと歩きながら、淡々と説明して行く。
「本題に入ると言っても順を追って説明しよう。いきなり答えを言われても実感がなくては意味がない。まず、色金と言う物が君と父を結びつけるキーワードだ」
「イロカネ……?」
「そう色金だ。これは特別な金属で、レアメタルみたいな物だと思っていい。しかし、しかし……ただの稀少な金属ではない。
私の学校でもその力を研究している学科がある。
だがそんな金属と父に何の関係があるのだろうか……
「色金と言う金属に関しての情報は国家機密でね。核に代わるパワーを秘めていると言う事でどこの国家も血眼になって探し、研究している……そんな代物だ」
「私にそんな重要な事を教えて良いのですか?」
国家機密だぞ。
父の事が知りたいとは言え、そんな情報をここで知る必要があるのだろうか……
何やらとんでもない方向に話が進みそうな予感だ。
話の行く先が不安になる。
「いやいやいや、君には知る権利がある。そしてその色金が、君の父が死ぬ事になった原因だ」
――ッ!?
「どう言う……事ですか?」
「まあ、落ち着いてくれ。ゲストが来たようだ」
彼の言葉と同時に扉のない出入口から、同じスーツを着た30前後の青年が現れる。
そのまま彼はその青年へと近付き、何かを喋っている。
それから入れ替わるように青年が私へと近付き、
「岡田
威圧的な雰囲気で尋ねてきた。
思わず腰に差している刀に手を掛けたくなる衝動に駆られる。
私に話を持ち掛けて来た彼と同じ公安0課……当然に纏う雰囲気が違う。
何もしないだろうと分かっていても油断すれば何かを持って行かれそうだ。
「そうです。父について、何かご存知ですか?」
意識を保って、問いかけた言葉。
「父親を追い掛けて、こんな所まで来たか。予想外だ」
何とも要領を得ない返答。
何が予想外だと言うのだ……
そう思った刹那――
発砲音。
気付けば、私の目の前に『彼』がいた。
話を持ち掛けて来た彼の拳が、額の前に何故かある。
「これは驚いた。まさか、彼女の父だけじゃなく娘まで消そうとはね」
彼はそう言って拳を開くと、銃弾が1つ零れ落ちる。
……待て、一体何が起こっている。
目の前にいる彼はあの青年の後ろにいたはずだ。
それが瞬きをする間に目の前にいて、しかも発砲音が聞こえた。
理解が追いつかない。
「どう言うつもりだ? いや、質問が違うな……お前は誰だ?」
「君と同じ職場の同僚だが?」
「いいや、違うな。確かに俺の知ってる顔だが、そいつはそこまで人間やめてなかった」
「ふむ、腐ってもエリート。この程度では動揺もなし、か……実に、実に面白くない」
青年の質問に彼は答えながら、私の理解が及ばない会話をする。
やれやれとばかりに首を振った彼が、またしても私の目の前から消えて――
「――な、に……!?」
声を上げて、突然に前のめりに倒れた青年の背後に私の方を向いて現れた。
よく見れば青年の膝裏とアキレス腱あたりが斬られて、血が滴っている。
それも防弾・防刃服であろう上からだ。
「誠に、誠に残念だが少々相手をする暇がないのでね」
片手でナイフを弄びながら、彼がそう言う。
「な、何をしているんだっ!?」
思わずハッとなって私は叫んだ。
こんな事はおかしい! なぜ同じ公安0課同士が……!?
「はてさて、君がこの状況を怪しむのも理解するがまずは私の話を聞いてくれ」
しかし、彼は何でもないとばかりに話の続きをし出した。
それから
「私の尻の下にいる人物。彼は君の父の元同僚だ。そして――」
――君の父を殺した張本人だ。
全てが、たった一言で暗転する。
声が、出ない。
地面が傾いているような感覚。
足が、フラつき……立っていられない。足が崩れ落ちる。
私は何を言われたんだ……? いや、彼は今何を言ったんだ?
「少しばかりショックが大き過ぎたか……まさか、まさか自分の父が同僚に殺されたとは予想外だっただろう。いや、そもそも知る
気の毒そうに言う彼の言葉が、私の心を抉る。
父が死んだのは、事故死。それだけだった。それしか知らなかった。
だが、真実は……そもそも死因から違った。事故死ではなく、他殺――それも父の同僚に……
――なぜ?
「それでは全てが
私の胸の内に生まれた疑問を汲み取ったように、彼は話し出す。
「つい先程に色金について話しただろう? 色金はどこ国家も血眼になって求めているとも話した。それはこの国でも例外ではない。そして、裏社会でも色金の存在は認知されている。そんな国さえも求める金属だ。買い手が多いと思わないか? そして公安0課も武装検事もこの国では公務員扱い、おまけに不景気なんだから割と薄給なんだろう。金に困る訳だ。
君の父はふとした事で色金の存在を知ってしまい。幾人かの同僚に話してしまう。そんな矢先に……とある裏社会組織の捜査で微量ながら色金を見つけてしまった訳だ。もちろん、色金の事を知った私の下にいる彼と他のお仲間も一緒に捜査にいた。君の父は色金を捨てるか、国に渡すと言う判断をしたんだろう。金に困っている彼らにとっては君の父が色金を持つことは宝の持ち腐れと映った。結果……君の父は殺され事故死と片付けられた」
……これが、真実だと言うのか……
そんな事で、私の父は死んだ。
嘘だ……こんなにも残酷で、つまらない事が真実である筈がない。
――あっていい訳がない。
「しょう、こ……証拠はないだろう」
苦悶の表情を浮かべながらも青年は口を開いた。
「証拠ねえ? 私がさっき彼女が
そう言って彼は1つのボイスレコーダーを取り出し再生し始める。
『
最初に喋ったのは、彼だ。
『喋ってどうする?』
続いて私の父を殺した青年。
『罪悪感、ありません?』
『この業界にいるとそんなものはとっくに置いてきた。だが1つ言わせて貰うと――殺せて
ほんの少しの会話。
それだけで、何も疑いようがなかった。
再生が止まり、私の息も止まりそうになる。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずとはよく言ったものだ。おかげさまで虎子以上のものが手に入った訳だが。おっと動かないでくれ」
「ぐぅ……きさ、ま……!」
彼が2本のナイフを青年の両手に突き刺す。地面に縫い付けるように。
それから、私の所へとゆっくり近付いて来る。
私は――
「ハッ……ハッ……」
動悸が、止まらない。
どうして……? 私は真実を知りたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったんだ……
視界が揺れる中で彼が目の前に映り、告げる。
「ここで君に特別なチャンスをあげよう――『復讐』の、チャンスだ」
……ドクン!
胸が高鳴り、早まっていた動悸が不思議なくらいに突然に治まる。
――復讐。
驚く程すんなりと脳内をその単語が支配した。
「君の父の命はお金に変えられてしまった。それを許容し、見逃すと言うのならそれもいいだろう」
許容……?
何を許容すると言うのだ。
何も受け入れる必要なんてない。
「そう、何も許容する必要なんてない。立ち上がるんだ」
ユラリと、彼の言葉に引っ張られるように立つ。
彼は横へと移動し、私の視界からは外れる。
目の前に映るのは復讐の対象。
「前へと進み」
――歩ける。
「復讐の刃を抜き」
――出来る。
「
――殺れる。
◆ ◆ ◆
私の言葉が糸になり、彼女はその糸に従って進む。
一応、見逃すと言う道も以織に提示したが……選択肢から除外したようだ。
これも因果応報と言うヤツだね。
色々とすんなりと行って良かったよ。
何事もそうだ。何かに成る事は簡単。だけど、そのままあり続けることは難しい。
例えば、今目の前に無様に倒れてる公安0課の人に関してもそうだ。
彼はエリートではあった。だけど、エリートであり続けられなかった。
キンジの兄である金一もそうだ。大層な志を持っていた。だが、彼は持ち続けられなかった。
まあ、金一の場合は私が折ったんだけどね。
倒れてる青年は違う。これも保身に走った結果だよ。
ちなみにこの間脅した中年の公安0課の人は、彼と以織のお父さんの上司。
つまりはグルだった訳だ……
彼女が道を踏み外したのは、君らがつまらない考えを持って実行してしまった。
ただそれだけだよ。
いや、道を踏み外したんじゃない。残酷な世界との決別だね。
私としては大助かりだよ。
君等みたいな人間がいるから、簡単に勧誘できる。
今まさに彼女は復讐の刃を
右手で刀を持ち、左肩まで振り上げ、
――
上から下へと鉄色の弧を描き、振り抜く。
「がっ……ふ……」
だけど、後ろ首から斬っても首の骨でそうキレイには斬れないだろうね。
中途半端に虫の息だ。
彼女が両手で刀を持つと、今度は真っ直ぐに首の真上から刃を落とした。
肉と骨を
躊躇いなんて何もない。
初めてにしては上出来だね。
「――――」
既に事切れた青年。
血が広がり、彼女の足元を穢す。
首から刀を抜き、私の方へと振り向く。
その
思わず拍手をして、おめでとうと賞賛を送りたくなる。
だけど次の瞬間、彼女は脱力したように膝から崩れ落ち、前のめりに倒れる。
「おっと」
すかさず抱き留める。
どうやら、意識が保てなかったらしく気絶している。
精神的なショックが大きすぎたんだから、無理もない話。
だけど、ここまでは余興。
私にとって本番はこれから。
ああ――楽しみだね。
載せてみたら4700字と意外と短かった。
うん……まあ物足りなかったら教えて下さい。
金一の時みたいに修正しますので。