もちろん、原作とは若干違うところもあります。
戦闘描写が少しばかり心配ですが。
数時間の移動の後、間宮の一族が住まう場所にやって来た訳なんだけど……
「もう、始まってるじゃねえか」
私が男の声でそう呟くと――
ドオオオオオオォォンッッッ!!
と轟音が響く。
家一軒が派手に爆発して窓から炎が噴き出る。
家の形は崩れてはいないけど、中は無茶苦茶だろうね。
お父さんから聞いたメンバーで爆発物の扱いに長けてると言えば……
「よう。派手にやってるな」
「誰ネ」
私が声を掛けて近づくとガシャンと、ガトリングガン(M134ミニガン)を構えて威嚇する小柄な少女。
中国の民族衣装を纏って、髪はツインテールにしている少女の名前はココ――まあ、お父さんの国の発音ではツァオツァオだけど。
「なんだ?
「ム……と言う事は、切り裂き魔の登場カ」
「そうだよ。相変わらず、誰も俺だって気づいてくれねえよな」
と、私は悲しそうにやれやれと首を振る。
そして、ココはガトリングガンを下ろす。
「きひっ、初見で変装を見破れる奴が十人いれば上々ネ」
「お褒めの言葉として預かるよ。
私がそう言うと、猛妹は目を見開く。
「相変わらず、不気味ネ。どして
「口癖にそれから戦い方。爆発物を扱うための薬品、油の臭い……判断材料はいくらでもある。お前の場合だと、他の4人より笑い癖があるな」
「きひっ、怖い奴ネ。パトラが来てる事を知たら、腰抜かすに違いないネ」
「ああ、そりゃいいな。是非とも怯えた顔を見てみたいね」
「……仕事に戻るヨ」
猛妹は呆れるようにして、私に背を向ける。
「ほんの冗談だろ?」
「そうには聞こえないネ」
再びガトリングガンを構えると、モータの駆動音が鳴る。
そして――
ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!
くぐもった音を出しながら、一軒の家をハチの巣にする。
まあ、炙り出しってとこかな?
さあて、私も遊びに行こうっと。
と、意気込んで獲物を探したは良いけど……まるで、気配を感じない。
さすがは公儀隠密の役職に就いてた一族の末裔ってことかな? 戦闘技術の秘密を保持するためにいち早く逃げたか……
あれだけ派手に破壊してるんだから、多少はパニックに陥って逃げ遅れた人もいそうなもんだけどね。
「……っ! ……りっ!!」
と、あたりを散策してると誰かの声が聞こえる。
なんだ、いるんじゃん。
いや~どんな人かな? 誰かの名前を叫んでるように聞こえてるあたり、間宮の関係者かそれともその子孫か。
どちらにせよ楽しみだね。
ルンルン気分で声がする方へと向かってみれば……
「あかり! ののかっ!!」
道路に居るのは妙齢の女性。
叫んでるのはあの人の子供か、それとも友人か……どちらにせよ私にとっては当たり。
町をもうじき出ようとする手前、引き返して来たんだろうね~。
取りあえず吹き矢で様子でも見よう。もし、それなりの実力があるならこの程度防げるだろうし。
ちなみに矢には即効性の麻痺毒が仕込んである。
これを喰らえば、例え大型動物でもすぐに倒れ込む。
毒に抗体を持つ人でもイチコロだね。
建物の影に隠れてから、吹き矢に口を付けて――フッ!
「あか――ッ!!」
お~、名前を呼んでる途中だったのに見事に矢を左手で掴んだよあの人。
と言う事は……結構な実力を持ってるね。
などと観察してると、向こうから何か飛んでくる。
ああ、クナイか……ニンジャとかこの国の隠密達が昔よく使ってた飛び道具だね。
なんて思いながらも左手で難なく持ち手の部分をつかみ取る。
「そこにいるのは分かってるのよ」
言われなくても出ていきますよ。
そのためにわざわざ自分の位置を知らせるような真似をした訳だし。
「どうもこんにちは……いや、ちげえか。こんばんは」
「…………」
姿を見せながら挨拶をするけど、反応はナシ。
私の実力を見極めるような視線を感じる。
「おいおい、自分で呼び出しといてだんまりはねえぜ」
「……あなた、さっきここを襲った人たちの仲間ね」
「人じゃない奴も紛れてるが……まあ、ご名答だ。それがどうかしたか?」
「間宮の技を奪ってどうするつもり?」
何を目的に襲撃したかは分かってるみたいだね。しかし、技を奪ってどうするかは分からないと。
お父さんとしては襲撃自体が目的みたいだから、もう達成されてるんだよね~。
「単純な話さ。俺らの組織じゃ、技術は教え教わりと言う事は既に聞いてるんじゃねえのか?」
「ええ、以前にそう言う交渉が来たのは知ってる。だけど交渉が決裂したからって……こんな、酷い」
と言いながら、女性は周りの景色に目を向ける。
所々から火の手が上がり、夜の空を明るく彩っている。
「技術を秘したからこそ奪われたんだよ。まあ、どっちにしろもう遅いがな。お前が叫んでた名前は大方、娘か友人ってとこだろう」
「…………」
「その様子だと逃げ遅れてるみてえだから、あの町の中にいるかもな。なんなら探すの手伝ってやろうか?」
「遠慮するわ。襲撃した仲間に手を貸してもらう義理は無い」
「そうかよ。じゃあ、勝手に探すさ。見つけたら、そうだな~……適当にバラしてから箱詰めにして送っといてやるよ。
いくつものクナイが突然飛来してきた。
いや~、あっさり挑発にノってくれたね。
「娘たちにそんな事はさせない!!」
「娘ね……家族ならなおさら早く送ってやらないとな。はははっ!」
私は笑いながら彼女の攻撃を避ける。
遠距離攻撃で様子見してるんだろうな~。
とか思いつつも、彼女が投げてきたクナイをキャッチしては返すと言う動作を私も繰り返す。
そして、彼女がクナイとは違う物を地面へと投げた。
――ボンッ! と言う音とともに白い煙があたりを包み込む。
ん? スモーク?
この国じゃ煙玉とか言ったっけ?
まあ、五感が鋭敏な私に目潰しなんてあんまり意味無いけど。
聴覚だけでも十分に場所は分かる。
バシッ!
と、私が目の前の
そのままカウンターで左の拳を目の前の煙に叩き込む。
「ぐうっ!!」
呻き声が聞こえると次の瞬間には左手から触れていた感覚が消える。
――ガツンッ!!
そして何かに衝突する音が聞こえる。
お~、痛そうな音だね。
今ので結構なダメージは与えたんじゃない?
音のした方に行って見ると――
「なんだ、今ので沈んでねえのか」
そこには誰もいない。
あるのは若干変形した道路標識。
仕方ないからこの道路標識を武器にしよう。
「ふん!!」
ガラガラガラッ!
そんな音とともに掴んだ道路標識をアスファルトから引き剥がす。
「で? 早く俺を倒さなくていいのか? じゃないとお前の娘が俺の仲間に見つかったりしちまうぜ」
標識を肩に担いで挑発の言葉を煙の中にいるであろう人物に投げかける。
彼女にとってはこのまま逃げて娘を早く探すのも一つの手だろうけど、私をここで仕留めない方がリスクが大きいと踏んでるんだろうね。
聴覚で知る限り彼女が近くにいるのは間違いないし。
風切り音が迫るのが聞こえ、そちらの方に標識を振るう。
「何だ、クナイか」
ガキンと、金属音と共に弾かれていく。
場所を割らせないためにいくつもの方向から時間差で飛んでくるね。
時間稼ぎ?
と、思ったけど今度は大きな物体が飛来してくるのを感じる。
「後ろか!!」
振り向き様に標識を構える。
が、白い煙の中から現れたのは回転しながら飛来する彼女だった。
アレを受けたらヤバいかな?
とっさにそう思って、標識を彼女に向かって槍投げのように投げつける。
だけど――
バチバチ――バチン!!
標識が粉々になっちゃったよ。
しかも、勢いはそのままに迫ってくる。
普通なら避けられる位置でもないし、間に合わない。
そう……私が
私がやる事は単純明快、避けるでもなく、防ぐのでもなく。
――迎え撃つ。
恐らくアレは振動による破壊。
そして、あの指先にその振動が集まってると考えられる。
なら、タイミングを合わせて側面を叩けばいいだけのことだ、よ!!
私に指先が届く直前、そのギリギリの所で私の力の入った回し蹴りが腹部を直撃する。
声も出ないまま女性は歩道の方に飛んで行き、壁にぶち当たる。
「がはっ!!」
吐血しながら倒れ込み、何故と言う表情を此方に向ける。
「随分とエグい技を使うんだな? 最初に煙玉を使って奇襲した時、俺の目玉を抉り取ろうとしただろ?」
多分、技の一つだったんだろうね。
イ・ウーの下級生ぐらいなら簡単にやられてただろうね。
それぐらいのスピードとキレがあったよ。
「さっきの技は、振動による内部破壊ってところか? じゃなきゃ金属がああも粉々になるとは思えねえな」
「ごふっ……貴方は一体……」
おお、そう言えば名乗ってなかったね。
「俺はジャック、ジャック・ザ・リッパーさ。ニュースぐらい見てんだろ?」
「……貴方が、殺人鬼の……っけほ!」
さて、ろくに立ち上がれなさそうだし内臓系に結構なダメージを与えたから戦闘は不能だろうけど……
保険を使っておこうっと。
「自己紹介も済んだところで、お前の娘を探してやるとするよ。と言う訳で、同行して貰うぜ」
フッ――とさっき使った吹き矢に息を吹き込む。
もちろん矢は先程と同じ即効性の麻痺毒。
今度は防げるはずも無くすんなりと足に矢を受けた。
「くっ! これは……」
早速違和感を覚えてるあたり、足に刺さった矢に何が塗られてたのか分かったんじゃないかな?
最初は意識を奪って、後でじっくり楽しもうかと思ってたけど良い事を思いついたんだよね。
だからあえて気絶させなかった。
お父さんからもう一つの任務の事もあるし、あと一人ぐらい逃げ遅れてる人がいれば良いな~。
と、思いながら私はその女性を肩に担ぐ。
それからぶらりと、燃える町の中を探索してると逃げ遅れてる人――じゃなくて火事場泥棒みたいな人がいた。
なので取りあえずその人を速攻で気絶させて、仕込みをさせて貰った。
肩に担いでた女性は麻痺毒が回り切ったのか指先一つ動かす事が出来ないっぽいけど、何とか喋る事は出来るみたい。
しばらく燃え盛る町の中を歩いてると――大型犬ぐらいの動物の影を確認した。
ん? あれはコーカサスハクギンオオカミ……ってことは近くにブラドがいるのか。
その銀の狼たちが行った方向とは逆に行ってみよう。
「お~いるじゃねえか」
しばらく移動すると全員集合してるのが視認出来た。
そして、私が近づくと向こうも気づいたのか視線が集まる。
「なんぢゃ、お主は?」
と、おかっぱ頭の少女が私に問いかけてくる。
「おいおい、パトラですら俺のこと分かんねえのか?」
「男の顔なんぞいちいち覚えたくもない。さては新人か? だとしたらいきなりファラオである
それは私の質問の答えにはなってないけどね。
相変わらず高飛車だなあ……理子が残念な人だって言ってたけど、あれってどう言う意味だったんだろ?
「きひっ、命知らずにも程があるネ」
「全くもって同感だわ。前に痛い目にあったばかりじゃない」
猛妹の言う事に同意するように
「なんぢゃ? お主らはこ奴が誰か分かっておるのか?」
「ジャック、でしょ? ココから聞いたわ」
「夾竹桃、正解~。正解者にはプレゼントを差し上げま~すってな」
そう言って肩に担いでいた女性を地面に転がす。
その女性を見て夾竹桃や巨大な狼のような姿をしているブラドは興味深そうな視線を向ける。
パトラはなんか顔が青ざめてるけど。
「じゃ、ジャック、ぢゃと……?」
「おう、天下に名高きジャック・ザ・リッパーだが何か問題でも」
「い、いや、すまぬ!! じゃから、あの時のような事は勘弁して欲しいのぢゃ!」
「ただ単にエジプトっぽくサソリの大群の中に放り込もうとしただけじゃねえか」
アレはパトラが随分と調子に乗ってた時だったかな?
お父さんが彼女をお仕置きして欲しいって言ったから、
開始5秒くらいで改心したじゃなかったっけ?
それ以来、何か私の事を避けるようになったけど。
「随分と恐い事をするのね」
「そうか? 痛くない分マシだと思うが」
「……貴方の基準はおかしいわ」
夾竹桃が今度は私に呆れるように言ってる。
何でかよく分かんないけど。
「それで? 間宮の一族はどうしたんだよ」
「間宮一族なら散り散りに逃げたネ。逃げ足は随分と速かたヨ」
ふ~ん……猛妹の言う通りだとすると、残ったのは私が担いできたこの人だけって事になるんだよね。
「おとなしく軍門に下っていればこうならずに済んだのに……哀れな一族ね。それに、もう奪った。あとは燃やすだけよ」
夾竹桃は燃やすだけって言ってるけどもう既に随分と燃えてる。
辺りは火の海と言っても過言じゃない。
「それより、この女性は誰かしら?」
「間宮の関係者か一族の直系だろう。戦った時に技を使ってきたからな」
私がそう言うと、夾竹桃は「そう」と短く返事をした。
ああ、そう言えば。
「ほらよブラド」
私はブラドに向けて一つの蓋付きの試験管を投げ渡す。
「あん? こりゃ誰の血液だ」
「その女の血液さ。もし、間宮の直系ならお前にとっては良い手土産だろ?」
それにギブアンドテイクでブラドはいい取引相手だしね。恩を売っておいて損はない。
ただ、理子を利用しようとしたりお父さんを裏切ったりしたら四肢を切断して聖水に漬け込むけど。
「確かに俺様にとっては良い手土産だぜ。ゲハハハハ!」
上機嫌だなあ。
――ガウガウ!!
と、ブラドの手下である狼たちが吠えてるのが聞こえる。
狼たちとは違う声も交じってる。
その方向に目をやると、陽炎でよく見えないけど……あれは少女かな?
狼たちに追い立てられてるんだろうね。
って言うか、後ろの狼たちばかり気にしてこっちの方は見向きもしない。
だから、どんどん近づいてくる。
あっ……あれは転ぶな、と思ってる内に転んだ。
「キャッ!!」
「ののか!」
こけた黒髪の少女を心配するように明るい栗色の髪の少女が叫んだ名前を私は聞き逃さなかった。
――ののか。
今、私の足元にいる女性が探していた人の名前はあかりとののか。
しかも彼女は娘と言った。
目の前で転んだ少女二人は目算で10代前半。
つまり――ビンゴ。
「「……ひっ!?」」
顔を上げてようやくこちらに気づいたのか怯えた声を二人の少女は上げる。
「お姉ちゃんっ!!」
「さ、下がって、ののか!」
黒髪の少女、ののかを守るようにして震えながら前に立ってるのが十中八九、あかりだね。
包丁なんか持っててもそんなに震えてる手じゃあ……ねえ。
膝もガクガクしてるし。
「ほほっ。他にも逃げ遅れがいたようぢゃの」
「もう復活したの……」
「ファラオである妾がいつまでも怯え取る訳がないのぢゃっ!!」
夾竹桃とパトラが何か言い合いしてるけど、こっちはこっちで確認させてもらおうかな。
「ほら……アレがお前の言ってた娘じゃねえのか?」
そう言って、私が女性の首を持ち上げて見えるようにしてあげる。
すると分かりやすいぐらいに反応があった。
「ッ……!!あかり、ののか……」
「「お母さん!!」」
二人の少女は叫びつつも全くこっちに来れてない。
恐怖で行きたくても行けないんだろうね。
「家族の感動の再会って奴か?」
「きひひひっ、趣味が悪いネ」
「何言ってんだよ、ココ。逢わせてやっただけ良心的だろ? それに、これから感動の再会が悲劇の別れになるかもしれないんだからな。別れの顔ぐらい見せておかねえと」
「殺しはルール違反じゃなかったのかしら?」
今までこの場で一度も言葉を発しなかった人物からようやくお声が掛かったよ。
さすがに殺しをするような発言をすれば返してくれると思った。
街灯に腰掛けるのは鎌を持った三つ編みの美少女――だけど、本当は男のカナが私にそう言いながら殺気を向ける。
本当の名前は遠山 金一で、キンジのお兄さんだけど。
そんなカナに向かって私はヘラヘラとした感じで反論する。
「俺は殺人鬼だぜ? 人を殺すなと言われてもなあ……それに、今回は
「なっ!? なんでぢゃ!! 妾は贄を作ってはならぬと言うのに何でお主は許可されとるんぢゃ!!」
「パトラは俺と違って、誰か人を殺そうが殺すまいが生きていけるだろ? 逆に俺は人を喰うようにしていかなきゃ生きていけない。言わば食事みたいなもんさ。全く、難儀なモンだぜ」
一度も思った事はないけどね。
「で、パトラよ。何か異論は?」
「くっ……納得いかんのぢゃ」
悪いけどそう言う体質なのは事実なんだよね。
一度試しに我慢して見たけど、結果として反動でカツェさん半殺しにしちゃったからね。
「だけど、今回は特別にカナ……お前に選択権が委ねられる」
「……どう言うこと?」
私の言葉の意味が分からないと言った風にカナは声を上げる。
「なに、簡単な事さ」
私が懐から右手でスイッチを取り出して押す。
すると、1台の車が私達の向かい側の道路に見えるようにして停まる。
ちなみにその車の後ろの道路の上ではさっきの火事場泥棒さんが仰向けになって足を縛られてます。
と、同時に私は左手でS&W M500の銃口をあかりとののかの母親の頭に向ける。
「向こうの車の後ろで寝そべってる男かそこにいる女か……どっちかを見捨てろ」
「見捨てろ、ですって?」
私の一言にカナは大きく目を見開く。
HSSでも状況から予想できなかったのかな?
疑問は後に置いといて話を続けよっと。
「ああ、そうだ。どちらかを見捨てろ。お前にその選択権をやる」
「どう言うつもり!?」
さすがに生死の選択権をやるなんて言われて、冷静じゃいられなくなったのかな?
座っていた街灯から飛び降りてくる。
その顔には焦りか怒りかはよく分かんないけど取りあえずは動揺してる。
「なに、お前は武偵と言う事もあってかイマイチ甘い考えを持ってるみたいだからな。少しばかり矯正してやろうかと」
武偵うんぬんと言うより、お父さんからの任務の一つでもあるけど。
カナ、と言うより遠山 金一の信念を折る。
それがお父さんから言い渡された間宮一族襲撃と同時に言い渡された任務。
なんでも、いきなり折らなくていいから徐々に崩して欲しいって言ってたけど、どうなることやら。
まあ、任務を抜きにしても楽しいけどね。
「それで、だ。いざ、こうして強大な敵を前にして人質を取られた場合に、お前は切り捨てる事が出来るのかというテストだよ」
私が言葉を紡ぐ度にカナの鎌を握る拳に力が入ってるのが分かる。
なかなか良い感じだよ。
「ルールは簡単さ。俺の右手に持ってるスイッチを弾くか、左手に持ってる銃を弾くかだ。選ばないのは無しだ。ちなみに他の奴らは手出し無用で頼むぞ」
「ゲバババババァッ! こんな愉快なショーが見られるんだ。俺様としてもそこのガキがどうするのかを見届けさせて貰うぜ」
ブラドはよく私の話が分かってくれるよ。
やっぱり、理子の事が絡まなかったら一番気が合うんだよね。
「元より手を出す気も無いネ」
「私は最初から不干渉よ」
パトラは微妙そうだけど、手は出さないでしょ。
さっきの言葉の意味はさすがに理解したのかカナの表情は静かに沈んでいく。
つまりは、助ける方の手に持っている物を弾く。
そして、弾かれなかった方の物を使って殺す。
右手のスイッチが弾かれたなら、左手で女性をバーン。左の銃を弾かれたなら右手のスイッチをポチッと押す。
とまあ、そんな感じで
本当は銃なんて好きじゃないんだけどな~。
単純だけど良い選択肢だと我ながら思うよ。
あ、そうだ。
「ああ、言い忘れてたぜ。もし俺を狙ったりしたり、妙な真似をしたら両方とも殺した上でお前の家族の誰かが死ぬ事になるから注意してくれよ」
「……っ!!」
お父さんから殺していいのは一人だけって言われてるから、脅しなんだけどね。
でも、そんな事をカナは知らないから本当にすると思ってるのか声にならない声を上げる。
「おいおい、まさか家族が狙われないと思ってたか? ちょいと失礼……あ~、あー」
ボイスチェンジャ―と変声術を駆使して声を変えてと。
「こちら遠山 キンジ、メッセージをどうぞ」
適当にキンジの声真似をして喋ってみたけど……うん、ちゃんと真似できてる。
声調も問題なし。
ただ、外見は別の日本人男性だから合わないんだけどね。
だけど、カナの動揺を誘うには十分だよね。
案の定さっきよりもさらに目を見開きカナは驚きを
「アナタ……まさか!?」
「そうさ。俺、遠山 キンジはジャックにもう会ってるんだ」
「………………」
呆然と言った感じで、衝撃の真実にカナは――いや、金一は立ち尽くす。
いや~、今の表情はさらに良かったよ。
まさに絶望って感じだったね。
私が本人の声真似が出来るってことは、居場所なんて既に知ってるってことだからね。
ああ、声を元に戻しておかないと。
「なに、お前がどちらかを今この場で選べば犠牲は最小限に抑えられる。ただそれだけの話じゃねえか。それに実際に殺すのは俺なんだ。お前は自身は手を汚す事はない。そうだろ? そう思えば楽な選択肢じゃねえか」
バカにするでもなく、労わる様な声音で私は問いかける。
その言葉にカナは――
「……ふざけ…なっ」
ん?
「――ふざけるなっ!!」
おお、カナじゃなくて金一の声の方が飛び出して来たよ。
心が不安定のあまりにHSSが解けちゃったか。
そして、不安定であるが故か金一は声高にして叫ぶ。
「自身の手を汚す訳じゃないから楽な選択肢だとっ!? ふざけるのも大概にしろ! 人の生死がどれだけ重大な選択肢なのか分かってるのか!?」
私に説教されても困るんだけどね~。
大体、殺人鬼だよ? 私。
日本だと人を殺す鬼って書くんだし、鬼が人を殺すのに何か疑問がいるのかな?
ほら、吸血鬼のブラドも不思議そうな顔してるし。
「はいはい、人の生死がどうこうとか……話を逸らすんじゃねえよ。今ある選択肢に目を向けろや」
そう私が言っても、未だに決めかねずにいるのか黙っちゃったみたい。
どうせ、両方を救うにはどうすればいいのかとか悩んでるんだろうね~。
金一の信念からして、そう言う思考に辿り着くって言うのは調査して分かり切ってるし。 でも、時間は与えない。
「10秒……10、9、8」
私がカウントを刻み始めるとようやく金一は愛銃であるコルト SAA (ピースメーカー)と言うリボルバーをゆっくりと抜く。
ただ、その銃身はぶれまくってるけど。
「7、6、5、4、3」
顔を背けながらも銃は降ろさない。
「2」
そして――
「1」
――ダァンッ!!
金一の銃からマズルフラッシュが見えた時に弾かれたのは……左手の銃。
それが『答え』ね。
なので、右手のスイッチを押す。
「な、なんだ?」
車が突然動きだした事で、火事場泥棒の男性は意識を取り戻したっぽい。
あの車はそこら辺に置いてあったモノで、少し改造して手元のスイッチで操縦できるようにした。
いや~、ココ達から教わった自動操縦システムが役に立ったよ。
他にも色々、手先が器用なおかげで機械関係は一通り
ちなみに彼は両足にロープが巻かれており、そのロープは車の後部と繋がってる。
両手の方も同様にロープでぐるぐる巻きにしといた。
西部劇の映画とかで人が馬に引きずられるシーンがあるけど、多分あんな感じになる。
だけど引きずるのは馬じゃなくて車で、地面は土じゃなくてアスファルトで舗装された道だから数分後の結果としては――
「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」
加速した車のエンジン音に負けないくらいの悲鳴が
わ~お、研磨機で背中全体を擦ってるみたいに肉が抉れてるよ。
アスファルトの上に小さい肉片が転がってるし、まるで赤い絵の具のような線を引いてるところがまた良い。
目の前の道路を目に見える範囲で3往復はしてる。
「串刺しより魅力を感じねえな」
「そうか? これはこれでなかなかに良い味を出してると思うが」
ブラドとその様子を見ながら評価する。
しばらく見ててある程度は満足したから、今は殺人衝動を抑えられる程度にまで鎮静化した。
もちろん、『ある程度』だから完全には満足してないけどね。
あの人はそのまま死ぬまで引き摺られて貰おう。
「いや~、良い選択だったぜカナ? いや、今は金一か」
この答えを出した本人に話しかけるけど、反応がない。
……と言うより、罪悪感に苛まれてるって感じ。
普通に考えて何を気にする必要があるんだか……実行したのは私で、金一は選んだだけ。
選んだって言うのは言い間違いかな? 選ばせたって言うのが正しいんだろうけど、どっちにしたって気にする要素はあんまり無いよね。
「気にする必要は無いだろ? 大体、あいつは火事場泥棒だったんだぜ。そこにいる母親が死んで、娘二人が悲しみに暮れると言う事態をたった一人の犠牲で回避できたんだ。安いもんだろ」
既にあかりとののかの母親は解放してる。
まさに家族の再会を味わってるところなんだよね。
「…………クソ野郎が」
対する金一は憎々しげに一言、そう呟いた。
「ははっ!! 良い返答だ。まあ、何にしろテストは合格だから安心しろ。それよりも少しばかり長居し過ぎたな」
私がそう言うと、サイレンの音が遠くから聞こえてくる。
多分、消防団や地元警察のサイレンだろうけど……武偵が混じってる可能性はある。
「今日はこの辺で解散だ。先に失礼」
と言って、私は一足先に離脱して山の森へと移動する。
あ~明日が学校は休みでよかったよ。
そうだ……ボストーク号に帰って理子に会っとかないと。
最近は全然会ってないし。
と――その前に。
「どうしたんだ? 夾竹桃」
「あら……気づいてたの」
「いや~、普通に気づくと思うぞ」
暗い林の奥からガサガサと音を立てながら夾竹桃が現れる。
別に最初から隠れる気も無い尾行しといてよく言うよ。
そう言えば一つだけ聞いておきたい事があったんだ。
「そう言えばお前、間宮の秘術をあの母親から聞かなかったのか?」
「確かに気になるけど……自分で手に入れなくちゃ面白くないでしょ?」
ああ、成程ね。
毒にこだわりを持つ夾竹桃らしい答えだね。
と言う事は、さっきの娘のどちらかに毒でも仕込んで行ったんだろうね。
「そうかよ。そいじゃあ俺は一度、イ・ウーに帰るわ」
報告とかいろいろ兼ねて。
「そう……ならついでに、私も帰るわ。さっそく間宮のこの秘伝書を読まなきゃならないし」
夾竹桃は一冊の本を私に見せながら言う。
それが夾竹桃の今回の狙いだったんだろうね。
「そう言えば、何で俺の後をつけにきたんだ?」
「私の麻痺毒を使ったでしょ? 感想を聞きに来たのよ」
ああ、そうだった……「使ったら感想を頂戴」とか言ってたね。
「じゃあ、一緒に帰ろうぜ。感想ならその道中でも良いだろ?」
「そうね」
そう言って、私と夾竹桃は林の奥の闇へと消えて行った。
火事場泥棒は犠牲になったのだ……
M134ミニガン――銃本体の重量と4000発の弾の重量を合わせると50kg以上になるので携帯するには向きません。ココが使用してる物は……何か改造がされてるのでしょう、多分。
ちなみに襲撃したココが猛妹と言う確証はありませんよ?私の予想なだけで。
S&W M500――蘭豹も使ってる銃ですね。リボルバーで市販品の中では最強の拳銃と謳われております。バイオハザード6で『エレファントキラー』と言う名前で出てたと思います。ジルが使用する理由は単純に仕留めやすいから。切り裂きジャックである彼女にとっては銃はお遊びで本当は刃物が使いたいと言う感じです。
引き続き、感想をお待ちしております。