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出来る
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いい感じかな?
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冷静に読み返してみる
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うわぁ……(展開的な意味で)
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でも投稿する
ここはどこだ……?
何もない無の空間。
存在するのは私1人。
周りを見回しても、ただ白い空間が広がるのみ。
私は立っている
これは夢……なのだろう。
だが夢なのに自分の意思で動けるあたり、妙な現実感がある。
1人……いや、独りか。
この状況。まるで私の心境を表しているようだ。
と、自嘲じみた言葉が思い浮かぶ。
父も母もいない。親戚に関しては父は両親から
母がいない理由は、父と色々あって揉めたらしい。
何でも私に剣を教える事を母は反対していたようだった。
折り合いがつけられず、そのまま母は去った。当然、母方の親戚と交流がある訳もない。
何故、母が私に剣を教える事に反対していたのかは知らないし分からない。
だが今となっては、剣が私の
そして、剣があるおかげで……私は武偵として生きていけている。
『だがそれも終わりだ』
誰だ……?!
そう心の中で叫びながら、どこからともなく聞こえた声の主を辺りを見回して探す。
そうして見つけたのは1人の人影。
あれは……
――私?
両眼が少し掛かるように横に揃えられた前髪。そして、一部だけ結わえてポニーテールにした後ろ髪。
腰に差さる黒い鞘の日本刀。
少し長めの顔に、伏し目がちの眼。
どう見ても私だ。
『自分の夢だ。自分が出てきてもおかしくはない』
確かにそうだが、なぜこんな鏡のような夢なんだ。
そして夢とは言え、私がもう1人いる。
鏡に映っている自分が喋っているようで、変な感覚だ。
そして、終わりとはどう言う事だ……?
『自分のした事だ。覚えているだろう』
もう1人の私がそう言った瞬間、私の後ろで何かを斬る音がする。
勢いよく振り向けば私が、うつ伏せに倒れる誰かの後ろ首を斬っている。
白の空間の一部に赤の斑点が彩る。
その光景を見て、私の何かが引いていく。
――そうだ、私は……!
何をやったのか思い出す前に、もう1人の私が両手で刀を持ち、首に刃を突き立てようとしている。
――待て、よせ……!!
手を伸ばして走ろうとするが、その瞬間に肉を断つ音がする。
青年の指先がピクリと痙攣し……すぐに動かなくなった。
赤が広がって、小さな水たまりができる。
バクバクバクと、大袈裟に自分の耳に聞こえる心音。
激しい動揺。
それからもう1人の私がゆっくりと振り向く。
瞳が揺れ動く。
――見てはいけない。
直感で感じながらも目を逸らせない。何かに縛られているように釘付けになる。
見えてきた私の顔は、
微笑していた。
待て、私は何で
その冷たい瞳は何だ。
これが、私……?
こんなおぞましいモノが、私?
『復讐が出来たんだ。気が晴れて当然、笑みの1つも浮かぶ』
喋りながら血を滴らせた刀を持って私に近付く私のような何か。
――止せ、近付くな!
思わず拒む言葉を放つ。
『私は私なんだ。どうあっても逃げられない。復讐が出来たのに、どうして否定するんだ?』
――望まなかった復讐だ! ただ、私は真実を知りたかっただけだ!
『その真実を拒絶しながらも手に掛けたのに、自分のやった事さえも否定し拒絶するのか?』
――それは……
『どちらにせよ一線は越えてしまった。後戻りはできない。そもそも
――だが、私は武偵で……剣は守るためにあった筈だ。
『何を勘違いしてる。父は最初に教えてくれただろう』
――父が、何を……?
思わず伏せていた顔を上げた瞬間、目の前にいたもう1人の私が消えた。
それからグシュ、と鈍い音がして……私の胸から刀が伸びる。
――ぐ……あっ……あ、あッ!?
激しい痛みと目の前の光景の異様さに言葉にならない声を上げる。
胸の内が熱く、血が垂れていく。
いつの間にか背後に、私のような何かがいた。
それから耳元で何かを囁く。
『忘れたのか? 父から私が教わったのは、活人剣じゃない――殺人剣だ』
抉られる胸の内。
最後にそいつは言った。
『さようなら、私』
「――ッ!? はッ……はぁッ! あ……ハァ、ハァ……」
覚醒する意識。
息が、荒い。
ベッドの上で静かに息を整えながらも、周りを見回す。
ここは……アパートにある私の部屋?
周りの家具を見ても、私の部屋だと分かる。
やはり、夢。
だが、目覚めの悪すぎる夢だった。
……夢……だったのか?
どこからが夢でどこからが現実だったのかが分からない。
それぐらいに現実味があった。
胸を貫かれた違和感も覚えている。
窓を見れば外は暗く、夜の街の光が差し込む。
寝汗も酷い。
何にしても、
ベッドから降りて、リビングへと向かおうとして違和感。
扉から漏れ出る光。
電気が点いている。
……誰かいるのか?
ベッドの傍に立てかけてあった刀を手に取り、扉を半開きにして隙間から中の様子を伺いながら静かに扉を開く。
リビングへと足を踏み入れるが、誰もいない。
思い違い……
そう思った時、視界の左端に誰かいるのに気付く。
どうやら扉の影になって気付かなかったようだ。
「――誰だ」
私は素早く、ソファーに座っている人物の背後へと回り込みながら問い掛けた。
「数時間前にも会ったと言うのに、もうお忘れとは」
この声、公安0課のあの人か。
彼はそう言って私の方へと振り向く。
「不法侵入ですよ、どう言うつもりですか?」
抜刀の構えで私は間合いを取る。
どうして私の家に侵入してきてるんだ。
「気絶した君をわざわざ運んだというのに実に心外、心外な話だな」
「何の話をしてるんですか? 私は気絶なんてしてません」
私が答えると、彼は少しキョトンとした顔をする。
「ふむ、ショックが大きすぎた上に気絶したせいか記憶が飛んでいるのか? ま、大いにありえる話だが……君は何も覚えていないと?」
「覚えています。私は学校から帰り、それから――」
それから……?
おかしい、どうしてか学校を出てからの記憶が曖昧だ。
何も覚えていない。
いや、思い出そうと思ってもモヤが掛かったようだ。
それに思い出してはいけないような……思い出そうとすると何故か、頭が痛む。
「やれやれ、せっかくの事を忘れるとね。少し手伝いをしよう」
そう言って彼は、
「廃工場」
単語を、
「色金」
1つ、
「父の死」
1つ、
「真実」
抜き出す。
「――復讐」
最後の言葉にドクン、と心臓が跳ね上がる。
頭が……痛いっ。
彼の言葉がカギだったかのように、私は何かを思い出そうとしている。
だけど、まるで頭をこじ開けられたようだっ。
頭が、とてつもなく……痛む……ッ。
今まで生きてきて体験した事のない痛み。
思わず片手で頭を抑え込む。
痛みと同時に、記憶がだんだんと明瞭になってくる。
そうだ……私は、父の真実を知りたくて彼が待っている廃工場に行った。
そこで私は……
私は……?
――自分のした事だ。覚えているだろう。
夢の中での私の言葉が映像と共に呼び起こされる。
「ハッ……ハッ……ハッ」
いつの間にか息が荒くなる。
私の何かが思い出すなと告げる。
「そう恐れることはない。君にとって復讐は当然の権利だ。――した事を否定する必要もない」
彼の言葉が私の記憶を浮き彫りにする。
だが、彼の言葉の一部に雑音が入る。
拒絶している。
私がした何かを思い出す事を拒もうとしている。
「言葉だけで足りないのなら……」
そう言って彼の手が私の刀へと伸びる。
――抜かせてはいけない。
「触れないで下さい!」
手を払い、叫んで、すぐに距離を取る。
彼は弾かれた手をさすりながらもどこか呆れた顔だ。
「何を拒む必要がある」
「抜かせてはいけない思った、それだけだ」
「随分と強気なのにどこか弱々しい口調だ。だが、抜かせるのは容易、容易なこと」
そう言って彼は、1つナイフを抜き出す。
そして、床を滑るように差し迫った来た。
(速いッ!?)
斜め上から迫る刃。
殺気を乗せたそれに、体が条件反射する。
金属音が響くと同時に彼に笑みが浮かぶ。
すぐに彼は後退し、私は切っ先を彼に向けた所で見てしまった。
刀の先に塗られた血糊。
それを見た瞬間、
「あ、あッ……あ……!?」
全て、全てを思い出した。
私は――私は……!
――人を殺めたんだ。
自覚した途端に震え始める手。
罪悪感が雪崩込んでくる。
私は覚えている。
肉を裂く感触も、骨を抉る感触も全て――
◆ ◆ ◆
「そんな、ウソだ……私が……」
以織は揺れ動く瞳でそう言いながら、冷や汗が溢れ出ている。
ガランと刀を取り落としてすぐに両膝を突き、自分の体を抱き留める。
これ以上までに無い程に動揺してる。
完全にフラッシュバックだね~
「何も
そう言葉を私は掛けるけど、
「ふっ……ふぅッ!」
漏れ出る息と、冷や汗の垂れる音しか返ってこない。
完全な興奮状態。
右に左にと揺れる振り子みたいな感じで感情が揺れてる。
揺れてる同時に色々と入り混じってるだろうね。
葛藤だとか、罪悪感だとか。
その感情の波紋を止めながら心に入り込み、あとは私の言葉を刻めばいい。
うん、それで行こう。
私は以織に静かに近付き、片膝を突いた後に彼女を素早く胸の内に抱き締める。
「落ち着いて、落ち着いて……私の言葉を聞きなさい」
耳元で
声のトーンも優しげに、彼女を労わるように。
どんな声調が落ち着くのかも私には分かってる。
変装してる今の人物の声は変えずに、ただ音の高低や息遣いで調整する。
「何も心配はいらない。ただ単に君は人の誰もが持ちえる感情を表に出しただけだ、否定する事はない」
「……私は――」
「君の父を殺した相手なんだ。殺してもいい道理はなくても殺さなくていい理由にはならないだろう? それとも、君の父の命を吸って得た金で彼が生きていたら君はそれを許せるか?」
「………………」
「許せないだろう? 世の中にはそう言う連中が多くいる。そして、君が復讐を成し遂げた事はとても幸運なんだ」
彼女の息遣いが正常に戻る。
徐々に早くも落ち着きを取り戻しつつあるらしい。
「君は何も負い目を感じなくていいんだ」
「……私は、どうすれば……」
「そう今すぐに決めなくてもいい。だが、もし君が良ければ――」
――私と一緒に来ないか?
その言葉に、彼女は息を呑む。
これでもう十分だね。
あとは、少し時間を掛ければいいだけ。
「今日は色々あったんだ。気持ちの整理も必要だろう。返答は今すぐじゃなくてもいい、1週間後に東京武偵高にある女子寮前の温室で待っている」
最後に私はそう言って彼女から離れる。
そして、そのまま玄関へと向かう。
「……待って下さい」
呼び止める声。
足を止めて、未だに両膝をついている彼女の背中へと目を向ける。
「どうかしたか?」
私が声を掛けると、彼女はこちらを静かに顔だけを向けて、
「名前を、聞いてません」
そう言えばそうだった。
今更ながら一度も名乗ったりしてなかったね。
だけど――、
「秘密さ」
このままにしておく方が面白い。
私は笑って、そう言う。
でも学校で会う姿の事を考えれば少しだけ教えてあげないと。
「だが、そうだな……。教えられる事があるとすれば……白野 霧として君に会うだろう」
「……え?」
「それでは1週間後に君と出会った時間に。また、また会おう」
私はそれだけ告げて、呆気に取られてる彼女の前から去る。
我ながらキザな去り方かな?
でも、これぐらいミステリアスな方が彼女も気になるだろう。
きっと私を追い求めて来る。
きっとね。
◆ ◆ ◆
あの日の出来事から、しばらく時間が経った。
その間……学校には行けなかった。
自分のやった事を知られるのが怖くて、友人に合わせる顔もない。
私を探してるんじゃないかとも思った。
けれども公安0課が死んだと言うのに、何も報道などはない。
武偵高からの連絡もなしだ。
普通ならすぐに露見されて、今頃は捕まっている筈なのだ。
なのに何の変化もない。
本当に、自分のやってしまった事が夢だったかのようだ。
しかし、夢じゃない。
私の手が覚えてる。
今でも夢に出るが……それでもうなされる程ではない。
彼の言葉のおかげ、なのだろうか?
たった少しの言葉で、私の心に大きな動揺はなくなった。
何故だろうか、会ってそんなに日も経っていない上に言葉もそんなに交わした訳でもないのに。
彼の言葉でこんなにも心が安らぐのは……
だが、私は肝心の『彼』について何も知らない。
突然に私に話を持ち掛けて、真実を教えてくれた彼について何も。
それに去り際の言葉も気に掛かる。
――白野 霧として君に会うだろう。
まるで意味が分からない。
白野 霧……以前に
そんな彼女と『彼』に一体、どんな関係があると言うのだろうか?
……分からない。
胸の内に石のように重いモノが残る。
父が死んだ時と同じようなもどかしさ。
だけど、今度は父の時と違い知る
彼は言った『私と初めて出会った時間に、温室で待っている』と。
そして、今日はその"約束の日"だ。
放課後の帰り道に彼と出会った夕方の時間。
私は一応武偵高の制服姿で温室へと足を踏み入れ、そのまま奥へと進んで行く。
「よく来てくれたね」
響くのは『彼』の声。
周りを探すが、声はしても姿が見えない。
「そのまま奥に来るといい」
声に導かれるまま、私は歩みを進める。
そうして辿り着いた先に。
『彼』はいた。
私に対して背を向けている。
声を掛けようと思った瞬間、彼は服を掴み……投げながら私の方へと振り向く。
「また会ったね」
彼の声が変わって、スーツ姿の彼ではなく制服を着た彼女――白野 霧が私に笑顔を向けていた。
「一体、どう言う事……」
思わず声を漏らす。
理解が、追いつかない。
彼が彼女になって、彼女は私に……なんて言えば良いのか分からない。
が、まるでつい最近会ったような言い方をする。
「言ったでしょ? 白野 霧として君に会うって」
それは彼が私に去り際に言った事。
私と『彼』しか知りえない事だ。
つまり――
「貴女が『彼』、だったんですか……?」
「そう言う事だよ」
と、彼女は言うが私は混乱している。
まるで別人。
私には変身したとしか思えない。
言葉に出してみたもののさっきの『彼』が彼女だとは
「まあ、混乱しても仕方ないよね」
そう言って彼女は苦笑しながら近付き。
私の両肩を持って、両膝を突かせる。
何故か分からないが、すんなりとそうさせられた。
それから胸の内に抱きしめられる。
「あの時と同じ、でしょ?」
そうだ。
この状況。
『彼』に抱き締められた時と同じ。
それから、その時と同じように囁き始める。
「何の負い目を感じなくてもいい、何も苛む必要はない」
言葉と共に安らぐこの感覚。
確かに『彼』と同じ……
見た目は違っても、この安らぎに間違いはない。
「中身は一緒だよ、安心して」
そう言って彼女は離れて行く。
私は少し呆然とする。
よく分からないが心地よくて、
「さて、あの時の話の続きだけど……答えは決まった?」
――答え。
そうだ、返事をしないと。
「私、は……」
だけど、私は答えを未だに用意していなかった。
声を出そうとしても、言葉が出てこない。
――私と一緒に来ないか?
目の前の
だけど、このまま私は付いて行っていいのか?
そんな疑問が生まれる。
「あの時には言わなかったけど、君には色々と選択肢がある」
私の迷いを察したかのように、彼女は話し掛けてくる。
「1つ、あの時の事を全て正直に話して自首する。2つ、何も話さず私の事も忘れていつも通りの日常に戻る。3つ、私と一緒にいる事を選ぶ。復讐をしたけど君には、まだ引き返せる道がある」
引き返せる道。
あの時の事に、罪悪感を全く感じなくなった訳じゃない。
軽く矛盾しているような気もする。
でも……見逃していた方が後悔していたんじゃないかと思う。
夢の中で私は望まない復讐だと言ったが、それは間違いだった。
けれども今なら
そして2つ目のいつも通りの日常。
このまま話さずにいる事も、私には出来るのだろうか……?
いや、そもそも日常に戻ったところで私は――
「最初の2つの選択は君を孤独にする。孤独はきっと、辛いと思うよ?」
そう、孤独だ。
私が時に追い掛け、時に隣に立ってくれた父はもういない。
独りはもう嫌だ。
「孤独が辛いなら、私は君の隣に立ってあげるよ。見返りなんて何もいらない」
――私と家族になろう。
手を差し伸べて告げた、たった一言。
それだけで私は
返事は決まっていた。
「はい……はいっ! 私を、連れて行って下さい! 一緒にいて下さい!」
自分でも驚くくらいに素直に、懇願するように言っていた。
ただ、誰かと一緒にいたい。
この心地よさを手放したくはない。
私が望んでいたのはそれだけだったんだ。
孤独な日々は終わりを告げた。
さようなら、孤独な私。
その、なんだ……彼女は救われたんだ。
それに彼女なら悪いようにはしない。フラグとかじゃなくて!
だから喜ぼう。
私が鬼畜なんじゃない、彼女が鬼畜なんだ。
『僕は悪くない』